食事に行ったり : : : 」 幸子「ん」 葵「一緒に帰んなくて」 幸子「永野君がプロポーズして、結婚。子供幸子「 : : : 」 が産まれて、永野君は一生懸命、私と子供葵「じゃ、行ってくんね」 の為に働くの」 葵、自転車を走らせる。 道宏「・ : 幸子、遠くなる葵の背中をじっと見送っ 幸子「子供たちも大きくなって、結婚して家 て、 を出て行く。家には、永野君と私だけ : 私たちは縁側でお茶を飲みながら、静かに 庭を眺める : イキそうになる道宏、眉間に皺を寄せる 幸子の擦る手が早くなる 道宏、子供が母親にすがるように、幸子 に抱きつくと、体を震わせ、射精する。 幸子の手がゆっくりととまる。 幸子「ありがとね。会いに来てくれて」 幸子のマンション・近くの道 ( 朝 ) 自転車に乗った葵、駅へと向かっている。 と、前から幸子が歩いてくる。 葵、幸子の前で、自転車を停め、 葵「朝帰り」 幸子「不良になっちゃった」 一一人、微笑む 葵「オジサンは ? 幸子「帰った」 葵「ふーん。、、 クガタンゴトン、ガタンゴトンクと電車 の音が聞こえてきて 走る電車の中 座席に座っている道宏、窓外の流れる景 色を見ている 道宏、激しく咳込む 道宏「 ( 次第に落ち着いてきて ) ・ 道宏、背もたれに深く寄り掛かり、目を 閉じる。 貶道宏の夢 地面に背の高い影と小さい影 影は道宏の父親と母親のようだ。 母親の手が大きなお腹を擦りながら、 母親の声「早く、出ておいで : とお腹の中の道宏に語りかける。 幸子「・ : 4 4 元の走る電車の中 かすかに微笑んでいる道宏、電車に揺ら れながら、眠っている、眠っている : 常磐線・竜田駅前 道宏が改札を出てくる 放射能モニタリング測定・表示装置が 「 0 ・ 17 6 > 』を表示している 道宏、代行バスに乗り込む。 バスの側面には「原ノ町駅行き』と表示 されている バスが動き出す。 歩いて来る道宏、一本の木の前で、立ち 止まる 道宏、木を見上げる。 それは松の木。下の枝に葉は芽吹いてお らす、かろうじて上の枝に葉が残ってい る。 いずれ朽ち果てるであろう松の木を、目 を細め、見上げている道宏、髪には白髪 が交じり、顔には年相応の皺が刻まれて いる 津波が全てを押し流し、荒地となったそ の場所に、松の木と道宏の姿、ただそれ しかなく 終わり
側から人工授精を考える、親子、家族って何だと考えるシナリオだ。 コース卒業の二十五歳女子の「私」は、このシナリオのどこにいる のだろうか日芸でシナリオの何を教わり、学んできたのかとり子供を産むのが女だ、産まなければ女じゃないという考え方、それ を強いている社会を批評しようとしているのだが、主人公の父親は あえず、ビヨーキといい人を書くのはやめよう なぜ妻の人工授精を認めたのか、自分の種じゃなくとも子供が欲し 「カシオペア」は、ラリー・ピアースの「ある戦慄」のニューヨー かったのか、六十六歳の「哲学」「思想」がはっきりしないのが物 クの地下鉄を日本の寝台特急に置き換えたモノ。「ある戦慄」はほ ば五十年前のアメリカの現実を、暴漢に絡まれる客たち、ベトナム足りない 1 リップのアップリケ」は最終審査票で二位だった。しかし、 「チュ 帰りの負傷兵、黒人夫婦、ゲイカップル等を通して切り取った密 一次審査で落とそうとした審査員がいた。「よく書けていると思う 室サスペンス劇だが、「カシオペア」の客たちはステレオタイプで、 のですが、個人的に「タリウム事件』と「イスラム人質事件』がそ 日本のイマを切り取ったと言えないのが惜しい。 「ローカルヒーロー」は、サイタマのチンピラヤクザが脳卒中で倒のまま使われている事に抵抗があって判断がっきません。モチーフ として使う事はよくあるし、史実を扱う事自体は問題ないと思うの れた母親のために、組の金を盗んで、田舎へ帰るが、という話。チ ンピラ生活部分を切って、田舎へ帰るところから始めたらという意ですが、エピソードの一つとして、安易に使い過ぎているのではな 見があった。ラストはねぶた祭りではなく、何かひと工夫欲しかっ いか ? という判断です。繰り返しになりますが、全体にはよく書け一 ているので落とすのは勿体ないので、他の方のご意見も聞きたいで 9 たという意見があった。日本のイマのイナカの話に絞り込めばよ す。お手数ですが再審査をお願いします」この審査員の「そのまま かったのだ。勿体無いことをした。 使われている事に抵抗があって」と「安易に使い過ぎているのでは 「わるくち」、小川智子選考委員に、荒井さんの好きそうなシナリ ないか ? 」が分らない。井上正子委員、川田尚広委員、黒沢久子委 オと言われた。一ⅱ 話らしい話が無く、ディテールと気分だけで勝負し てるようなシナリオ、確かに好きだ。うまいなと思うしかし、切員は x だったけど、実際の事件の扱い方に対しては何も言ってな かったと思う。落とそうとした審査員は倫理を問題にしているのだ り裂き魔は要らなかったのでは。話を作ろうとしたのかも知れない ろうか人間としての倫理 ? シナリオライターとしての倫理 ? が谷川俊太郎の詩は要らないという意見があったが、違う詩がよ 「折り花」でクラブのママを不倫で訴えるが、枕営業は不倫じゃな かったのではと思った。俺も詩は要らなかったと言われたが、あの いと棄却されるエピソードは新聞記事からだ。事件を使う時は、安 詩がなかったら、「この国の空」を支持する客はもっと減っていた 易 " いい加減かどうかではなく、そのシナリオの主題を浮かびあが ろ、つ。詩には気をつけよ、つ ーリップの 智子委員と黒沢久らせる使い方をしているかどうかが問題なのだ。「チュ 「折り花」は審査票では、最高得点だった。小川 アップリケ」で大阪府警の警官が震災支援で出向していた東北で知 子委員が評価しなかった。主人公の弁護士に、あんな弁護士いない というようなことを言っていたが、二人の x は分らない子供を産り合った学生ボランティアを大阪に呼び寄せるが、結婚している のがバレて殺してしまう、これも実際の事件だ。「タリウム事件」 みたい、子供が欲しいという親の勝手で、産まれさせられた子供の
て猫に小判、豚に真珠かもしれない 「父子泥棒」はなぜ最終に残ったのだろう。六年前に妻と息子を樹 海での心中で失った三十六の男が、命日に樹海へ行こうとしていて、 息子に盗みをさせている母子を見かけ、主人公はその子供と逃げる 8 荒井晴彦 ラストで、その子は母親にもう盗みはしたくないと言い、主人公は一 樹海へ行って妻と子の冥福を祈る死んだ子と盗みをさせられてい 先月号の「「日本名作シナリオ選』を読む」座談会を読み始めた る子が、生きていたら同じ歳くらいそれだけで、ダブらせるのは ら、いきなりシナリオ・センターに通っているという大学三年生が 無理、弱い。そんなこと、こういうシナリオでしかあり得ない。こ 「決してハッピーエンドじゃないんだけど、心に残るというか、そ の人には、「日本シナリオ名作選」の「少年」を読むことを勧める ういうシナリオだったなと」と発言していて、昔、シナリオ・セン 「藍の記憶」も、自分が子供を死なせたという自責を人物造型の核 ターはシナリオはハッピ 1 エンドじゃなければいけないと教えてい にしている。児童養護施設で働き、そこの子供との交流も、死なせ ると聞いて、まさかと驚き呆れたことがあったのだが、まだバカな た子の身代りだ。プロットが死んだ子に頼り過ぎだと思う。久留米 事を教えてバカを量産してるのかと驚き呆れた。ふつうの人はハッ絣と男と女がメインの話ではないのかこの人には立原正秋の小説 ピーエンドよりハッピーエンドじゃない方が、いに残るのではないだ を読むことを勧める ろうか「映画みたいなハッピーエンドなんて、あるわけないのよ」 「海へ還る道」は事故で死んだ夫の連れ子が自閉症なので知的障害 とかセリフで書く人間はシナリオ・センターからは出てこないのだ 児の学園へ連れて行く話。ホースで地面とか叩いているだけの障害 ろう。「日本名作シナリオ選」はシナリオ・センターの生徒にとっ 児とステレオタイプな大人たち。読むのがイヤになった。日芸脚本 一三ロ 選評 第回新人シナリオコンクール 特別賞大伴昌司賞 荒井晴彦 ( 審査委員長 ) 井上正子 / 川智子 桂千穂 / 川田尚広 ( 東宝映画 ) 黒沢久子 / 佐伯俊道 丸内敏治
が好きゃねん」 朱里「こんにちは、川本さん。お変わりない〇 お好み焼き屋 ですか ? 」 鉄板を挟んで堀内と朱里が座っている。朱里「好き ? 」 老女「おかげ様で」 朱里「今日はありがとう ) 」ざいました。堀内堀内「うん : : : 何かほら、絆、感じるやん。 だから好きゃねん。おかしいかな、俺 朱里「来週、日和山公園でお花見するんですさんのおかげで、皆、すごく楽しそうで」 よ。川本さんも一緒に行きましよう」 堀内「ボランティアって、何させられるんや朱里「ううん。おかしくない大切だよね、絆っ 老女「きれいでしようねえ : : : でも私は足が ろと思ってたけど」 いいですわ 亜いから、 朱里「震災後、神戸の看護師さんが来られて、堀内「そうやろ」 仮設住宅に住む一人暮らしのお年寄りに声 朱里「私が車椅子、押しますからー 老女「あなたみたいな華奢なお嬢さんにそん かけする活動をしてたんです。神戸の震災〇 神戸市長田区堀内の母のマンショ ン廊下 ( 一九九五年 ) な事、申し訳ないわ」 の時に、孤独死する人がすごく多かったか 六歳の堀内慎吾が開かないドアノブをカ 朱里「大丈夫です。遠慮しないで」 らって」 チャカチャと動かす。 老女「いいのいいの、気持ちだけで十分」 堀内「年寄りが住んどった古いアパートはみ 朱里、少し落胆する。 んな焼けたからな」 諦めて、郵便受けを押し開けて、その隙一 間から覗く 堀内、そんな朱里を見て。 朱里「その方、自分もガンを患ってるのに、 堀内「じゃあ、僕が車椅子、押しますわ」 被災された人達を勇気づけて : : : 私もお母 さんをガンで亡くしちゃったから、他人と〇同室内 老女「いやあ、そんな」 堀内「車椅子が嫌なん ? ほんじゃあ、おん 水商売風の一一〇代半ばの女 ( 慎吾の母 ) は思えなくて : : : 今、社会福祉の勉強して か男とセックスしている ぶしよか ? それともお姫様抱っこの方が るんですけど、将来、終末期のガン患者さ ええ ? 」 んのアドバイザーみたいな仕事がしたい女「ホンマに ? ホンマに一緒に暮らして 老女「 ( 笑って ) 嫌だわ、冗談言って」 くれるんやんね」 なって思ってて」 堀内「冗談やないよ。川本さんの好きな方法堀内「えらいなあ、朱里ちゃんは。尊敬するわ」男「暮らすんはええけど、子供は無理やで」 で連れてったるから。その代り、絶対行か朱里「堀内さんだって、わざわざ宮城まで来女「そんなん言われてもー てくれて : ・ なアカンで」 男「俺がおったら、子供なんかいらんやろ」 男が激しく腰を打ちつけると、女は嬌声 老女「 ( 笑って ) この人ったら、強引ねえ ! 」堀内「俺は朱里ちゃんに出会うために来てん を上げる。 老女と堀内が笑いながら話しているのを、 ゃん」 朱里、嬉しそうに見ている 女「いらん、いらんわ。もう子供なんか、 朱里「また、冗談ばっかし」 堀内「 ( 笑って ) ・ : ・ : 俺、何て言うか、被災地どうでもええ : ・ 4 っ 4
と「イスラエル人質事件」はダメだけど、これはいいのか知らな への懐疑を、まっすぐに問うた作品に仕上っています。産む性であ かったのか自然が人を殺した震災。それを背景に実際にあった三 る女は、誰もが子供を欲しがるものという一般的な社会常識 ( 思い つの殺人事件を並べることで、人は人をなぜ殺すのかと投げかけた こみ ) に反駁したい作者の気持が伝わってくる親たちの都合で一 シナリオではないのか危なかったなあ、「チュ ーリップのアップ方的に生みだされた子供の苦悩は誰が引き受けるのか ? スト 1 丿ーの展開は今一つですが、媚びないシナリオに仕上っています 使っちゃいけない事件Ⅱ新聞記事なんてない使い方のうまい、 秀一が、遺伝上の自分の父親を探しにいくラストは、あれでよかっ へたが問題なだけだ。 たのか、作者にちょっと聞いてみたい気がします 五藤さや香「チュ ーリップのアップリケ」 阪神大震災と東日本大震災。一一十年をはさんで出会った二人の警 官が、石巻で向き合う過去と現在の事件この悲劇の地に、警官堀 寸評 内の殺人、タリウム殺人事件の少女、被差別部落コンプレックス、 井上正子 はては後藤健二を思わせるニュースまでぶちこんで、憎悪と呪詛の一 物語に仕立てている。 ( が、後藤健二のことは安易に物語の「背景」 2 に使ってほしくなかった。というより、してはいけないことでし一 今年は最終選考に 8 本もの作品が残っていて、どれも水準は越え ていて、しかし特に強く推したいと思える決定的な作品はなく。 二人の警官、主人公の田之倉と堀内、自分の娘だけを助けたと非 激論の末に順位がくつがえってしまうということもなく、すんな難される女教師・聖子の造形などは、面白くできています り得票どおりにおさまった。それでいいのだけれど、だったら全員、 奨励賞にしておくべきだったかと、ちょっと悔んでもいる 初見弘貴『わるくち』 以下、寸評です 他の 7 篇にもいえることですが、タイトルがとてもつまらない タイトルは重要です。再考を。さて、東京都心からちょっとはす 近藤希実「折り花』 れた西武線の走る街、大泉学園を舞台に展開する高校生のこの話 新人のシナリオにいちばん求めたい要素はいかに作者の書きたい は、リアルで瑞瑞しい作品です。主人公と恋人未満のガールフレン ものが書けているかどうかという点です。その点、近藤さんのシナ 友達とそのガールフレンド、彼らの、なんだかうまくいかない リオは、主人公の新人弁護士秀一が、国選弁護人として引き受けた なんでもない日常が、なんでもない会話が、しかし、ビビッドには 殺人事件を通して、セルフ受精をしてまでも子供を持っということずみ、この作者は感性とかなりの書く力をもっていると感じさせて
受賞のことば 特別賞大伴昌司賞入選 五藤さや香 このたびは素晴らしい賞をいただき、光栄であると同時 に今でも夢のような気がします 考えてみれば湯布院映画祭が全ての始まりでした。 湯布院は驚くほどゲストと観客の距離が近く、緊張しな がらも映画作りに携わる方々と言葉を交わした興奮を昨日 のことのように覚えています そうした刺激を受けている内に、うかつにも脚本を書い てみようと思い今に至りました 「チューリップのアップリケ」のテーマは「一線を越えて しま、つ」とい、つことだと思っています。 亡き後藤健二さんがおっしやられた「見えない一線」を 人は気づかない内に越えてしまう その結果、人生が狂っていく 良くも悪くも そんな見えない一線を越えた瞬間にドラマが生まれるの ではないか。 書き終えた今になって、そんな事を考えたりしております 【略歴】 大学卒業後、アジアを中心に約 三十カ国放浪後、フランスへ語 学留学。 帰国後、小説家を目指し、 2006 年、すばる文学賞 3 次 審査通過 受賞のことば 新人シナリオコンクール佳作 家族にまつわる物語は昔から数多くあり、また映画もた くさん作られてきました。だけど、まだまだ語られていな いこと、語るべきことはある : : : それが「家族」というも の業の深さだと思います。このたび過分な賞をいただいた 「折り花」は、ある新聞記事から着想を得ました。第三者 による精子提供で生まれ、遺伝上の親を探し求めている男 性の記事です。私は彼の痛みを書きたいと思いました。人 間の知性も理性も置き去りにして発達する生殖医療の影 で、この世に産み落とされた「子供」の痛みをそれはこ れからの家族について考える作業でもありました。「正し いこと」はこの世にいくつもあり、且つ一つもない耳障 りのいいお話ではなく矛盾と不条理を人の情念を揺さぶ るような脚本を、これから書いていきたいと思います。精 進します 近藤希実 【略歴】 徳島県生まれ 会社員を経て日本映画大学映画 学科の脚本コースでシナリオを 学ぶ。 今春、同大を卒業。 -6
〇 誠治「ちゃうんかい ! 」 田之倉、舞を抱きしめる。 けど」 田之倉、キッチンを出る。 舞「もう、こんなとこいたくないっ 田之倉「もう、変な意地、張らんでええやんか」 美恵子「俊ちゃん ! 」 舞、子供のようにワーンと声を上げて泣聖子「意地なんか : : : 」 階段を駆け上がる音が聞こえる 舞「私、もうここにはいたくない」 聖子、舞を見る。 石巻空き地三 0 一四年 ) 仮設外 舞「お母さんも、本当はそうなんでしよう」 田之倉が舞を見ている 舞と一緒にドアをノックする田之倉。 舞はスコップで穴を掘っている 聖子がドアを開ける 田之倉「ちょっとええか ? 」 土の上には中学の制服姿のマスコット。 田之倉を見た聖子、驚く。 聖子、目で頷く 田之倉の声「死んだ子のお墓か ? 聖子「なぜ : : : 」 田之倉と聖子、外へ出る。 舞が顔を上げると田之倉がいる 田之倉「あがるで」 〇 空き地 田之倉、靴を脱いで中へ入る 田之倉「中学校、行かれへんかったから、制 聖子、思わず道を空ける 聖子「何、話って ? 」 服着せたってんのか」 舞も後をついて上がる 田之倉「 : : : 高校ん時、つき合ってた女の子 舞「 : : : 七十二人の子が死んで、十二人が がおってん」 行方不明。全員で八十四人。今でお墓は〇 同室内 田之倉、俯き加減に話し続ける 五十二個あるから、あと三十一個作ったら」田之倉「 ( 舞に ) 旅行カバンどこや ? 田之倉「 : : : 」 舞、押入れを開ける。 田之倉「初めて出来た彼女やってん。すごい 舞「最後は、自分のお墓を作る」 田之倉、舞と一緒に押入れからスーツ気がおうて、ウチの親とも仲良うて : 田之倉「アカン」 ケースを取り出す。 聖子「可愛かった ? 」 田之倉、舞の隣にしやがむ。 舞、洋服をスーツケースに詰め始める 田之倉、照れくさそうに頷く 舞「だって皆、私が死ねばよかったって思っ聖子「一体何なの」 田之倉「 : : : 地震の前の日、その子が親とケ てんだよ」 田之倉「聖子も早く用意しい。今日中に帰ら ンカしたっていうねんな。俺が部落の家の 田之倉「 : : : 」 なアカン」 子やから、つき合うなって言われたって」 舞「死んだ子の家族は皆そう思ってる。自聖子「帰るってどこへ」 聖子「部落 ? 」 分の子供の代わりに、私が死ねばよかった田之倉「大阪ゃ。一緒に行くで」 田之倉「被差別部落や」 のにつて。皆、皆、そう思ってる」 聖子「 : : : 私はここから逃げるつもりはない 聖子「こっちではあまり聞かないから」 〇
モヒカン故郷に帰る 提げている 由佳は若干、恥すかしそう。 ・あんたら、なんでおるん ? 」 春子「え・ 永吉、荷をおろすと、もはやくつろぎだ す。勝手に漬物をつまむ。 永吉「俺ら、もうちょっと居てみるわ」 春子「・ 由佳、買い物袋から何やら取り出す。 由佳「お母さん、お土産」 手渡された、でかいしやもじ。 春子「・ 由佳「鹿がふつうに歩いてた」 春子「・・・ああそう」 永吉「なんか、食べるもんない ? 」 春子、条件反射で、台所へ 急に怒りがこみあげ、踵を返す。 春子「なんで、あんた電話せんのんー 永吉、聞かずに、テレビを見ている 菊池、打った。 永吉「お ! 」 春子「え ! 」 春子が、慌てて戻ってくる。 菊池の打球、ぐんぐん伸びていく。 そのままスタンドに入った。 湧き上がる大歓声。 ・やったリ」 春子「やった ! 春子、思わず、永吉に抱きつく。 永吉「そんな嬉しい ? 」 わんわん泣き出した。 ながら、店の様子を覗いている。 レジに、「田村商店」の前かけをしたモ ヒカン ( 永吉 ) がいる 店内、爆音で流れる永吉の曲 永吉、急に襲いかかるフリ、子供たち、 斎藤産科医院・前 ( 朝 ) キャッキャと逃げていく 日傘を差した由佳、古い建物を見上げて いる 永吉、レジに戻ると、絵葉書を書きだす。 永吉「メンバ 1 のみんな、元気ですか俺 は今、周りから、若旦那と呼ばれていま 同・居間 ( 朝 ) す。しばらく親父の面倒を見ようと思いま 由佳、やりにくそうに座っている 斎藤しげ ( ) 、由佳の顔を、まじまじす。だから少し待っていてほしい。なぜな しし曲が書けそうだ と見ている ら、いい事をしたら、、、 からです しげ「あんた、島んもんじゃないねえ」 由佳「はい」 しげ「どっからきたんねえ ? 」 車内 ( 朝 ) 運転している春子。傍らに治の荷物 由佳「東京です」 永吉「俺、わかったことがあります。今後 しげ「こっちで産むんねえ ? 」 の俺たちにとって、一番大事なもの。それ 由佳「いやいやいやいや、検診だけ」 はたぶん、健康です , しげ「 : ・検診 ? 助手席の窓から、外を眺めている私服姿 由佳「・・・検診、超音波とか」 の治、風に吹かれている しげ「・ しげ、その辺の昆布を由佳に渡す。 ロすさむ「止まらない』。 しげ「すわぶっときいんせえ、落ち着くけえ」治「のってくれー ) 」 春子「はーはー ) 」 由佳「あ ? 治「ロックンロールナイト ) 」 春子「はーはー ) 」 田村商店・表 ( 朝 ) ランドセルの子供たちが、ケラケラ笑い 1 15 ー
心配そうに見ている部員たち。 べッドの上の治、その手にサメの軟骨や、 横で、治がこっそり、永吉に何か合図を 出している。 治、携帯を取り出すとかける。 アガリクスなどを持たされている 清水の携帯に着信。出る 親戚一同 ( 叔父の田村恵介、信子と、そ永吉「 ? 」 清水「はい」 の息子夫婦とその子供と、叔母の三島小 指を二本、煙草の仕草だ・ 治の声「野呂に代われ」 枝夫婦 ) に囲まれている 永吉・由佳「・ 清水、野呂に携帯を渡す。 恵介「サメの軟骨は、とにかくコンドロイチ 治、そのまま、上を指さす。 野呂「野呂です」 ンが豊富なんじゃと」 永吉「・ 治「男のお前が、ちゃんとラッパ吹かにや治「ああほうか」 由佳、永吉の袖を引っ張る あ始まらんじやろおが ! 」 信子「義兄さん、あんまり落ち込んじやダメ、 永吉、立ち上がり、そのまま外へ 野呂「・・・すいません」 今、昔と違って、癌だって治る病気なんだ春子「どこ行くん ? 」 治「お前、今日、練習終わったら、こっち からさ」 永吉「ああ、ちょっと、トイレ」 浩二、タブレット a-,o の病院資料を、治 永吉、病室を出る。 野呂「え」 に見せる のを、見届けた治、急に起き上がり、 治「えってなんや」 治「お前まで、なんや」 治「やれ、ワシも、いっとくか」 野呂「・・あ、いや、でも今日は、家族で、 浩二「・ ・これ、ど、つ思、つ ? 」 春子「一緒に行こうか ? 安川のかつば寿司行くことになっとって」 治、先生の写真を見つめている。 治「いや、一人で行ってみるわ」 治、いそいそといなくなる 治「カバチタレんなや ! ええのお、走っ治「・・・若いのお」 てこいよ、ちゃんと見とるけえの」 そっと浩二に返す。 由佳が、心配そうに見ている 清水が手を挙げ、地声で叫ぶ。 浩二と春子、困り顔で見合う。 清水「コーチ ! 」 永吉と由佳、蚊帳の外。遠巻きに座って 同・屋上 いる 治「はい、 清水 ! 」 永吉、海風を避けながら、治の煙草に火 清水「海風で、楽器が錆びます ! 」 子供がやたらと寄ってくる。一緒になっ をつけてやる。自分も吸う。 治「・ ・解散 ! 」 治、無理くり吸おうとしている て遊んでいると、ふと由佳に小突かれる 楽器を抱え、慌てて逃げていく部員たち。 永吉。 煙を出すのが精いつばい。 永吉「ん ? 治「ダメじゃ、肺に入ってこんわあ」 病院・病室 由佳が、治の方を小さく指す。 永吉が思わず笑、つ 春子、見舞い品の整理をしている。 親戚たちが、べラベラと喋っているその 治もつられて笑う。 6 1 10 ー
渉「三女にも反戦連合ができたわけか」 響子「それほどきちんとしてるわけじゃあり ません。ただ制服廃止を訴えてるんです」 渉「きみが委員長 ? 」 響子「ええ、まあ , 渉「アジ演説もするんだ」 響子「たぶん、これから」 渉「さぞかし毎日楽しいんだろうな」 響子「あなた、子供相手に喋ってるみたいね」 渉「そんなつもりはないよ : : : すまないー 響子、煙草をくわえると、渉がマッチ箱 を差し出す。 響子「ありがとう」 響子、自分のマッチで火をつける。 煙草の煙を天井に吐く響子。 と、「カノン』が始まる。 レイコやジュリー、 祐之介とエマ、そし て渉を見る響子。 渉「この曲、知ってる ? 響子、首を横にふる。 渉「パッヘルベルのカノン。知らない ? 響子「知らないとおかしいですか ? ゆっくり首を振り、微笑む渉。 響子、渉と目が合うと頬が赤くなる 響子「きれいな曲ね」 と渉の横顔を見る響子。 店内に静かに流れる「カノン』。 と、無断欠席しないこと」 野間家・外 ( 夜 ) 愛子「明日からは門限七時ですよ」 帰ってくる響子。制服に着替える。 響子「はい、 忘れ物」 家族の表札を外す響子。 と表札を幸一に渡して自室に向かう響子。 同・居間 ( 夜 ) 同・子供部屋 ( 夜 ) テレビでは学生運動のニュースが流れて 積みあげられた引っ越し用のダンポール 布団に寝転んでいる響子と妹の真琴。 食後の食卓を囲む響子の父の幸一と母の 真琴は、枕元に置いた鳥かごに指を入れ、 秋子と伯母の愛子。 文鳥のピッちゃんを撫ぜている 幸一、苦々しくテレビを見ている。 真琴「お姉ちゃん、ほんとはどこ行ってた 幸一「全員逮捕して、絞殺刑にすればいい」 秋子「せつかく大学まで入れたのにね」 響子「バロック喫茶。煙草吸ってアンボの話一 してたのよ」 幸一「何時だと思ってるんだ ! 」 真琴「アンポフンサイ、トーソーショーリ」 響子を殴る幸一。父を睨みつける響子。 微笑む響子。 真琴「ねえ、お姉ちゃん、ピッちゃんに間違っ 響子「金沢さんたちと勉強してたのよ」 てホウレン草なんかあげないでね。ピッ 秋子「愛子伯母さまも一緒に、晩ご飯待って ちゃんはホウレン草を食べるとお腹こわす たのよ」 んだよ」 響子「伯母さん、明日からよろしくお願いし響子「大丈夫、お姉ちゃんに任せなさい」 ます」 真琴「でも、愛子伯母ちゃんが間違ってあげ 愛子「響子ちゃん、甘やかしませんからね」 ちゃうかも」 幸一「厳しく管理してくれなくちゃ困るよ、響子「伯母さんにはちゃんと言っとくから。 姉さん」 もう寝なさい」 秋子「くれぐれもよろしくお願いします」 響子、窓を開けると、春の雪が舞っている 幸一「響子、決して、デモや集会に出ないこ 「ただいま」と入って来る響子。 「あなた」と止めに入る秋子。 -6