歩い - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年5月号
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1. シナリオ 2016年5月号

モヒカン故郷に帰る 治「やれ、行くか」 治が、とばとばと一人で歩いてくる。 引き返す一一人。 やがて、後ろから、永吉が杖を持って追 治、ふと足を止める いかけてくる 眼下に、島の風景が拡がっている 永吉「おい、どこ行く ! どこ行く ! 」 治、じっと見下ろしている 治、舌打ちを一つ。 ・ピザ食いたいのお」 永吉を嫌がりながら、歩いていってしま治「・ 先をゆく永吉、振り返る 永吉、追いかける 一定の距離を保ち、トボトボと歩いてい 8 田村商店・店内 酒買いがてら遊びにきた、登、金ャン、 く二人。 重ちゃん。 春子が酒を新聞紙でくるんでいる 長い階段 ( 朝 ) 春子「あー、食べた食べた、還暦のお祝いで、 先の長い階段を見据える治と永吉。 赤いちゃんちゃんこ着て」 治・永吉「・ 聞き込みをしている永吉と由佳。 杖を差し出す永吉。 登「あれ、なんでピザ食ったんや ? 」 治、受け取らず、階段を登っていく。 金ャン「赤いけえじやろ ? 」 永吉、杖をついて登っていく。 重ちゃん「ピザ、赤いかいのお ? 」 春子「冗談半分じやろお」 墓 ( 朝 ) 切り崩した山の斜面にある『田村家』の永吉「なんか、ウインナーが入っとったとは 言っとるんよ」 墓の前。 治が、杖によりかかり、汗だくで座り込春子「え、何、そのピザじゃないと、ダメな んでいる んね ? 」 汗だくの永吉、墓石に水をかけ、線香の永吉「そん時のが、食いたいんと」 春子「覚えてるわけないじゃないねえ」 灯を燃す。 永吉「それ、どこで買ったん ? 春子「安川の方じゃったと思うけど」 手を合わせる二人。 6 由佳が、早速、携帯で検索。 由佳「安川って、ピザ屋 3 つもあるよ」 困ったと笑う登たち。 永吉「・ 由佳「どうする ? 」 永吉「・ : 全部頼むか」 一同「え」 永吉「どれか当たりじやろ」 携帯をスピーカーにして電話している永 吉。見守る一同。 ・、っちはそ ピザ屋の声「島はちょっとー ういうの、やっとらんのんですよー」 永吉「親父が癌なんですよー」 ・あの、冷めちゃい ピザ屋の声「えーと・ ますしー」 永吉「親父が癌なんですよー」 ピザ屋の声「・ 永吉「親父が癌なんですよー」 高速船・客室 甲板に、ピザの原付が乗っている 三人のピザ屋、お互いを意識しあって 座っている 海沿いの道 ピザの原付が、三台走ってくる。 1 17 ー

2. シナリオ 2016年5月号

道宏「・ : 1 いわき駅・切符売場 切符販売機の前に、道宏と風子。 風子「上野まででいし 頷く道宏。 ヒ 刈風子「六千三百九十円」 ュ 風子、切符販売機の投入口を指差し、 の風子「ここに入れて」 道宏、札を入れる。 風子「ここ押して」 女、卒業アルバムの幸子と瓜二つ。 道宏、ボタンを押すと、切符が出てくる。 風子「あ : : : 」 道宏、吸い寄せられるように女に近づい 風子「変なの」 道宏、よくわからないまま、擦る ていく 道宏「 ? 風子「指、入れて」 道宏、女の前に立っ 風子「ほんとに乗ったことなかったんだね」 道宏、指を入れ、動かす。 女・片桐葵 ) 。 道宏「 : 風子「痛い 二人、改札へと歩き、改札前で立ち止まる。葵「ドンテンさん ? 道宏、始めはゆっくりと動かし、風子が 感じ始めると、徐々に早く動かしていく。風子「それじゃあ」 道宏、頷く。 葵「行こっか」 風子「ああ ! 」 葵、歩き出す。 風子「初恋の人に悪いことしちゃったかな」 風子、空を見ながら、イク。 訳もわからず、ついていく道宏。 道宏、首を振る 風子の閉じた目から涙があふれ、頬を伝 風子「会えるといいねー 路地 道宏、風子の手を取り、手のひらに人差 歩く葵。 し指で文字を書く。 道宏、愛液で濡れた指を鼻先に近づけ、 少し後ろを歩く道宏。 ニオイを嗅ぐ 風子「 ( 読む ) あ・り・が・と・う : : : 」 葵、ラプホテルに入って行く。 道宏、改札に入ろうとするが、切符の入 道宏、ふと父親の写真を見る。 道宏、立ち止まり、ラプホテルを見上げる。 れ方がわからない。 写真の中の父親、微笑んでいる。 風子が入れてやる 道宏、切符を取り、風子に頭を下げると ラプホテル・一室 葵、バッグをソフアに置くと、 ホームへと歩いて行く 葵「先にお金いいですか ? 」 風子、見送って 道宏「・ : 葵「お金」 上野駅・広小路ロ 道宏、財布から千円出すと、渡す。 雑踏の中、年賀状を手にした道宏が迷い 葵「 : : : ふざけてんの」 子のように辺りを見回している ふと、駅の壁を背に、携帯を見ている女道宏「 : : : 」 を見る。 葵「英世じゃねえよ、諭吉だろ」 道宏、財布から一万円札を取り出す。 道宏「卩 141

3. シナリオ 2016年5月号

無伴奏 さんをかばった、って : : : どうしてかしら」 響子、渉の自画像を見る 響子「 : : : わかりません」 勢津子「もし何か分かったら教えてね」 小さく、つなずく響子。 響子の声「渉さんは三通の遺書を残した。勢 津子さんと祐之介さん、そして私。どの遺 書も同じ文面だった」 千葉家・前 玄関から出てくる響子と愛子。 コレ」 愛子「はい、 と、のし袋を響子に渡す愛子。 愛子「少ないけど電車でお弁当でも買ってね」 響子「ありがとう」 愛子「東京でも頑張るのよ。時々連絡ちょう だいね」 うなずく響子、家を仰ぎ見る。 響子「お世話になりました」 愛子に頭を下げてお辞儀する響子。 涙目でうなずく愛子。 歩き出す響子。 手を振って見送る愛子。そしてモグ。 102 ク無伴奏前 響子が歩いて来る。 店の入り口で立ち止まる 鴈。無伴奏。・中 店に入る響子。 店内には女性客がひとり、煙草をくゆら せている。 なんとなく目があう響子と女性。 響子、空いた席に座り、コーヒーを注文 する。 デッサンノートに挟んだ遺書を広げる響 子。 便箋に書かれた、渉の文字ーーー。 デッサンノートをパラバラと開き見る響 子。 数年間の感情の血が、言葉が、思いが、 どくどくと脈打ち溢れる 響子、最後の白紙のページに辿りつく ふと顔をあげる響子。 響子の隣に渉が座っている。 その隣には、祐之介とエマ やがて一人ずつ席を立っと消えてゆく。 最後に渉が席を立つ。 響子「渉さん」 渉、微笑むと消えてゆく デッサンノートを閉じると、顔をあげる 「これでゆっくり眠れる渉』。 響子。 真っ直ぐな眼差し。 やがてひとり店を出てゆく、響子。 紫煙の向こう、閉まるドアを見つめる女 性。 店内に音楽は止まない ( 了 ) 8

4. シナリオ 2016年5月号

通せるものって、何かしら」 にじり口の前で響子を招く渉。 渉「 : : : 人を愛してゆくってことじゃない 輪王寺・参道 入ってゆく響子。 か」 並んで歩く響子と渉。 響子「え ? 」 同・中 響子「静かでいいところね」 渉「人と人との愛がなくて、革命なんか起 、つなずく渉。 沓ぬぎ石に、男物の靴とパンプス こせるかな」 響子「祐之介さんは ? 」 響子、靴をぬぎそろえて正面を向く。 眩しげに渉を見上げる、響子。 渉「いるよ」 床の間を背に、祐之介とエマがキスして いる 響子「デートじゃなかったのね」 四千葉家・響子の部屋 ( 早朝 ) 渉「エマもいる。部屋でレコードを聴いて ハッとする響子。 デッサンノートの文字ーー。 る」 唇を離す祐之介とエマ。 『愛がなくては、革命なんか起こせない響子「そう : : : 」 正座する響子。 視線を落とす、響子。 祐之介「かしこまらなくていいよ。ここは茶 鏡の前。片肌を脱ぐ響子。背中を映す。 室じゃないから」 赤い擦り傷や、打撲の痕。 安藤家・前 エマ「そう、バケモノ小屋」 響子「 ( 溜息 ) 」 武家屋敷のような土塀に囲まれた家。 渉「 ( 失笑 ) ひどいな」 血の染みたプラウスを鋏で切る響子。 歩いてくる、渉と響子。 響子「わかる。なんだかひんやりしてるもの」 三人の名前を書いたコースターと血のつ響子「立派なお屋敷ね」 響子に微笑むと台所に行く渉。 いたハンカチ。 渉「ああ。僕らの部屋はここじゃないけど響子「でも冬は暖かそう」 窓を開ける響子、鳥かごの鳥を放っ ね」 祐之介「いや、底冷えがするよ。炬燵にもぐっ と渉、小道を入る。後に続く響子。 て冬眠するしかない」 5 バス・中 前方に孟宗竹の一群があらわれる。 エマ「あたしも一緒に冬眠させて。ダメ ? 車窓から初夏の光が流れる。 その隙間に身をいれる渉。 祐之介、答えず笑う。 風になびく響子の髪。 渉「さあ ( 手をさしのべる ) ー 祐之介「にじり口の意味って知ってる ? 」 渉の手をつかんで向こう側へいく響子。 響子、首を横に振る。 輪王寺・バス停 連なる飛び石の先に、古びた茶室。 祐之介「あそこで俗世と訣別するんだ」 バスから降りる響子。迎える渉。 茶室の板戸に目をやる祐之介。 一一人並んで歩き出す。 茶室・前 エマ「つまりここは異界なの。面白いでしょ ? 0 3 -6

5. シナリオ 2016年5月号

無伴奏 歩いてくる響子、立ち止まる。 んにちは」が流れてくる 足にギブスしている浪人生がアジビラを 仙台第三女子高等学校・正門前 ( 朝 ) 炬燵に入って、お粥を食べている響子。引 配っている ク卒業式ツの立て看板 愛子が果物ナイフで林檎を剥いている。 路上のアジビラを一瞥する響子、予備校 「卒業式粉砕』のビラを撒く、響子とジュ 愛子「堂本さんていう方から何度も電話が リーとレイコ に入っていく。 あったわよ」 響子の声「私はどんどん時代から孤立してい 騒然としている正門前。 響子「 : : : そ、つ」 説得しに集まる教師達、遠巻きに応援すく。それが何だというのだろう・ : ・ : 」 愛子「熱を出して寝ている、って言ったら、 る生徒達、眉をひそめる父兄達。 とっても心配してたわ。ポーイフレンドで ビラを撒き終わると互いの腕を組んで学 連れ込み旅館・前 しょ ? 」 渉が手を振っている。 校を後にする三人 黙々と粥を食べる、響子。 駆け寄る響子、渉の手を握る 戻ってきなさい、と声が聞こえる 愛子「お父さんには黙っててあげるから、二 一一人の前をデモ隊が行く。 くすくす笑いながら、やがてはスキップ 度と親子喧嘩したりしないでね」 のように走り去ってゆく三人 響子「もうしないわ。卒業したら四月から予 連れ込み旅館・部屋 備校でみっちり受験勉強するわ」 布団の上に横たわる響子に軽いキスをす一 2 ク無伴奏 : 中 愛子「熱を出したのも、悪くなかったようね。 6 る渉。 ポックス席に響子、レイコ、ジュリー はい、召しあがれ」 渉「じゃあ、好きな作家は ? リー「じゃあね」 ウサギの形に切られた林檎を食べる響子。ジュ 響子「ポリス・ヴィアン、カミュ、倉橋由美子」 、つん、とうなすく響子とレイコ。 店から出てゆく 渉「好きな詩人」 席を立っジュリー、 公衆電話ポックス 響子「金子光晴、ポードレール、それにエリュ レイコも席を立っ 電話している渉 アールも好き」 渉「二、三日したらきっと会おう、約東だレイコ「ごきげんよう」 響子「 ( 微笑 ) レイコのその台詞、好きだった」渉「ミュージシャン よ : : : 響子、愛してるよ」 レイコ、微笑むと軽い足取りで去ってゆ響子「ビージーズ」 渉「マルクスの資本論は ? 」 千葉家・廊下 一人残る響子、壁に頭をもたせかける。響子「本当はよくわからないの。高橋和巳も 電話に出ている響子。 吉本隆明も : ・・ : 」 涙ぐみながらうなすく響子、受話器を置 何度もキスをする渉。笑う響子。 予備校・前 マ /

6. シナリオ 2016年5月号

チューリップのアップリケ 堀内「何でって、放っとかれへんやん。未曾直美「片付いてなくて、ごめん。こんなに早 : このままで」 美佐子「アカン : く来ると思わんかったから」 有の大震災やで。ずっと希望出してて、やっ 美佐子、田之倉の身体にしがみつく。 堀内、背後から直美の胸をまさぐる と出向できることになってんやん」 田之倉、咄嗟に美佐子の頬を叩く。 江梨香「私のこと、置いてまで行くとこなん」直美「いきなり ? 美佐子、手を離す。 堀内「しばらく出来んようになるから、行く 堀内「じゃあ一緒に行くか ? 」 田之倉、美佐子から身体を離す。 前にたくさんしよ」 江梨香「・ : ・ : 」 美佐子の太腿に精子がかかる 直美「アホ」 田之倉、息を整えながらティッシュで自堀内「たった一年やん」 堀内、直美をベッドに押し倒す。 分の性器と、美佐子の太腿についた精子江梨香「もうええ。婚約解消する」 江梨香、椅子に掛けていたコートを手に を拭き取ると、背中を向けて寝る 仙台 x x 高校、教室 立ち上がると出口へ向かって歩いていく。 美佐子、身体を起き上がらせる。 女子生徒たちに混じって、瑞穂が着替え 堀内「おい、江梨香」 美佐子「アホ」 ている 堀内、お義理程度に腰を浮かせるが、す 美佐子、田之倉を叩く。 に椅子に座る 男子生徒が廊下を通り過ぎ様、ふざけて一 美佐子「アホ、アホ、アホ」 ドアを開けて顔を覗かせる 二人分のパスタを運んできたウェイター 叩いていた手をカなく下ろす美佐子。 女子生徒たちが悲鳴を上げる。 の横を通り過ぎる江梨香。 美佐子「 : : : もう、待ちくたびれたわ」 ドししウェイター「あの、カルポナーラのお客様は女子生徒 1 「コラーっ、松本の変態っー 横たわったままの田之倉、目を用、て、 女子生徒 2 「アイツ、最低だよね」 る。 瑞穂、隣の席を見る。机に掛けられた鞄 堀内「両方食べるから置いといて」 からスポーッドリンクのペットボトルが 堀内、パスタを食べながら電話をする。 〇カフェレストラン のぞいている 自然光がふんだんに差し込む明るく開放堀内「もしもし ? 用事終わったから、もう チャイムが鳴る音に生徒たちは急いで教 ちょっとしたら行くわ」 的な店内はカップルや女性客で賑わって 室を出る。 いる 教室に一人残った瑞穂、粉末の硫酸タリ 今井直美のマンション室内 その中に堀内慎吾 ( ) と前島江梨香〇 ウムをベットボトルに入れ、振ってから 単身者向けのワンルームマンション。 ( 幻 ) がいる 元に戻しておく。 ポールハンガーにはクリーニングのビ 江梨香、険しい顔。 ニール袋に入ったままの派手な服。 江梨香「何でなん。何でわざわざそんなとこ 男子生徒 ( 松本 ) が戻ってくる。 カーテンレールにも服が掛かっている に行くん」 〇

7. シナリオ 2016年5月号

無伴奏 早退と欠席の繰り返し。どういう了見だ」愛子「だめよ。仲直りしてちょうだい。お願さんだよ」 響子「お嬢さんなんかじゃないわ。普通よ」 いだから」 響子「 失笑する祐之介、腕時計を見る。 愛子の手を振り切って出てゆく響子。 幸一「お前は大学に行く気があるのか」 響子「帰るの ? 響子「お金を出してくれるんだったら、行っ 祐之介「いや。これからエマと会うんだ」 無伴奏を中 てもかまわないわ」 バッハの『平均律」が流れている店内。響子「渉さん、どうしてる ? 」 幸一「浪人して合格する自信があるなら、払っ コートを着たまま、一番前の席に座る響祐之介「風邪で寝てる。響子ちゃん、見舞い しいただ 1 レーー・ てやっても、 に行ってやれよ」 子。 響子「パパ。私、まだ仙台にいたいの」 コーヒーを注文すると、壁の染みに頭を響子「そうね。行くかもしれないわ」 幸一「また一年、伯母さんに迷惑をかけよ 祐之介、立ち上がってコートを着る つけて目を閉じる響子。 う、っていうのか」 祐之介「それじゃ、お先に」 響子「 ( 呟く ) : : : 馬鹿みたい」 愛子「いいのよ、私のことは」 響子「エマによろしくね」 幸一「受験生だからと気を使わせて、あげく祐之介の声「何が、馬鹿みたい、なの ? 祐之介「わかった。伝えるよ」 響子、目を開ける に伯母さんの顔にまで泥をぬって。恥ずか 祐之介、店を出てゆく。 祐之介が通路に立って見下ろしている しいとは思わないのか」 煙草に火をつける響子。 響子「いつ、私が泥をぬったの ? これは私響子「 ( 照れる ) 聞いてたの ? 」 祐之介、響子の隣に座る。 の問題なのよ」 幸一「お前はどうしようもない不良だ。親を響子「父にひつばたかれた」 輪王寺・参道 だまして、何が面白いんだ。そんなに政治祐之介「いい親父さんじゃないか」 雪が積もっている道。 響子「どうして ? 」 活動が好きなのか」 桃の缶詰を持って、歩いてくる響子。 響子「政治活動なんかした覚えないわよ。本祐之介「僕は親父にひつばたかれたことなん 当の政治活動っていうのは、妻いのよ。命か、一度もないよ」 6 茶室・中 がけなのよ 。パパにはいくら話しても、わ響子「きっと公平で優しいお父さんなのね」 にじり口から顔を出す響子。 かりつこない。ただのサラリーマンで、会祐之介「まさか臆病なだけだ。それに僕は 社におべつか使って、人生を支配されてる親父から愛された経験はない。ただの一度響子「風邪ひいたってきいたから。大丈夫 ? 」 炬燵で読書していた渉、響子に微笑む。 もね : ような人間に、いくら話したってーーーー」 渉「ちょうどきみに会いたいと思ってたん 響子「 : : : そ、つ」 幸一「出て行け。出て行くんだ」 祐之介「響子ちゃんは育ちがいいんだ。お嬢だ」 立ち上がる響子。 「カノン』をリクエストする

8. シナリオ 2016年5月号

の誕生日。大好きな人が死んだ。三島由紀エマ「じゃあね」 エマを背負って歩く、祐之介 夫が、死んだ」 響子「転んだりしちゃだめよ」 祐之介の背中で眠っているようなエマ。 エマ「大丈夫。そばにいるから」 まるで赤ン坊をあやすように揺すって歩 ク無伴奏を前 エマ、祐之介の腕をしつかり掴む いてゆく、祐之介 通りを歩いてくる響子。 祐之介、渉をちらっと見て微笑む 空を見上げる。雪が落ちてくる エマ、無邪気な笑顔で、響子と渉に手を 千葉家・外 ( 夜 ) 立ち止まると、地下への階段を下りる。 振って出てゆく。 すでに雪はあがってる 二人の消えた入口を見つめる渉。 腕を組んで歩いてくる渉と響子。 。無伴奏を中 響子「どうしたの ? 」 響子、雪を集めて門の脇に兎を作る。 店に入る響子。渉を見つける。 : エマに何も話さなかったんだね」 渉も並べて兎を作る。 響子「 : : : あ」 響子「言えないわ。これからも絶対に」 響子、南天の実で目を入れる。 渉の隣に、エマと並んで座る祐之介。 渉「きみは変わった女の子だ」 響子「彼を諦めて」 エマが気付いて手を振る 響子「普通よ」 渉を見上げ、目をそらさない響子。 三人のほうへ歩き出す響子。 笑顔の響子をじっと見る渉 響子「これ以上思っても、何も生まれないわ」 ぎこちなく挨拶を交わすと、渉の隣に座響子「私が何も言わない理由、渉さんならわ渉「わかってるよ」 る響子。 かるでしよ」 響子を強く抱きしめる渉。 エマ「四人そろったのは久しぶりじゃない」渉「 : : : わかるよ」 響子「信じてるわ。忘れないで」 響子「順調なの ? 響子「それにエマは今、幸せなはすよ」 ・ : 忘れない」 エマ「 ( サイン ) バッチリよ」 渉「僕もそ、つ思う : ・・ : 」 雪の兎を眺める二人、キスしようとする。 響子「おめでとう。来年はお父さんね」 が、女子高生が通りがかる 茶室・中 ( 夜 ) 身体を離す一一人 ふふつ、と笑う祐之介、エマに何か囁く エマが顔を輝かせてうなずく。 炬燵に入り、果物ナイフで林檎の皮を剥渉「じゃあまた」 じっと二人を見ている、渉。 く、エマ 去っていく渉の背中を見つめる響子。 祐之介「悪いけど、お先に失礼するよ」 笑顔のエマをみている祐之介。っーっと 涙をこばす。 茶室・前 ( 夜 ) 祐之介は立ち上がり、響子を見る。 渉が飛び石を渡ってやってくる。 エマも席を立つ。 輪王寺・境内 ( 夜 ) にじり口の板戸の前。

9. シナリオ 2016年5月号

永吉「ん ? 洋「 ? 浩二「お父さんがちょっと入っとるけえ」 望月「それではべールをあげてください」 ・おう」 永吉「・ 一番いい所、誰も治に気付かない。 永吉、受け取る。 洋が、治をつつついて、遊ぶ。 永吉と由佳、向き合う。 高速船 永吉がべールをゆっくりとあげる。 高速船に乗り込んだ永吉と由佳。 由佳の泣きべそをかいたような表情。 見送る春子と浩一一。 望月「誓いのキスです」 永吉「になって帰ってくるから」 カメラを持った野次馬が、一斉に身を乗 春子「働け ! 」 り出す。 鴈美しい海、キラキラしている やがて、船が出る。 洋、治をつつついている 手を振る春子と浩一一が、どんどん小さく 治が、もがいている フェリー乗場・待合室 なっていく 永吉と由佳、べンチに座っている。 永吉が由佳の唇に、触れようとしたその 永吉と由佳、手を振っている 足元に、帰りの荷物。そこにトランペッ 時 ! 島が遠ざかっていく トの箱もある 治の断末魔が聴こえる 永吉、由佳、後部べンチに座る。 そこへ、店の軽バンがやってくる ( デス声 ) 」 治「あー 風に吹かれている 中から、前かけをした春子と浩二が、慌 永吉「うお ! 」 てて降りてくる 由佳、疲れてしまったのか、ぐったりと、 治、死ぬ 永吉にもたれかかる 二人の元へ。 洋が、びつくりして固まっている 永吉、由佳の腹をさすってみる 春子「ああ、間におうたわー」 参列者全員が、治を見た。 そっと、耳を当ててみる 春子、めんっゅを数本抱えている 永吉、じっとその音を聴いている 春子「由佳ちゃん、これ、まだ入るじやろ」 帰同・廊下 遠くから、ものすごい勢いで、竹原と千由佳「あ、いや・・」 郷 故 葉たちが、治を乗せたストレッチャーを 春子、由佳のバッグに無理やり、めんっ戸鼻島俯瞰 ン カ 瀬戸内海をフェリーがゆく。 ゅを詰め込もうとする ヒ 運ぶ。 モ 大きなテロップ「完」。 浩二が、永吉に小さな箱を渡す。 タキシードの永吉とウェディングドレス 浩二「兄ちゃん、これ」 の由佳、春子、浩二が追いかける。 カープに差し掛かり、もつれる その拍子に、総崩れ 一同「あーあーあーあ ! 」 勢いのついた、ストレッチャーの治、一 人そのまま、廊下を滑っていく。 一同「あー 遠くの壁に激突した治、ちょっと浮く。 125 ー

10. シナリオ 2016年5月号

〇 いる 大きな鉄板を取り囲むように置かれたカ 田之倉、席を立つ。 見出し「大阪府警察官、交際相手を絞殺』 ウンター席に座る田之倉。 舞「お好み焼き、食べるんじゃないの ? 」 堀内の写真が載っている。 聖子と舞が入ってくる。 聖子と舞もガタガタと席を立つ。 瑞穂、身を乗り出す。 田之倉「 ( メニューを見ながら ) 何にする ? 「殺害後、スポーツジムにいたところを ほっかけが美味しいで」 〇アーケード街 舞「ばっかけって何 ? 」 店を出て、アーケード街を歩く田之倉。 瑞穂「チッ」 聖子「ご両親のところに、行くんじゃないの」 聖子と舞が小走りに追いかける。 瑞穂、微笑んでいる。 田之倉「今さら行ったって : : : 」 聖子「ちょっと : ・・ : 」 有線放送で「チュ ーリップのアップリケ」田之倉「親に会いに行く 神戸市長田区再開発地区 が流れる 聖子、笑みを浮かべ、田之倉についていく。 下層階がテナント、上層階が賃貸マン曲「八うちのお父ちゃん、暗いうちから遅 ションになった大きな商業ビルが数棟立 うまで、毎日靴を、トントンたたいてはる」 完 ち並ぶアーケードを、田之倉と聖子、舞 田之倉、顔を上げる。 が歩いている 店主、歌を口すさみながら、水を田之倉 聖子「ここ火事のあったところでしよう。すっ の前へ置く。 かり復興してるのね」 店主「八あんな一生懸命、働いてはるのに、 田之倉「復興なんかしてへんよ。空店舗ばっ なんでうちの家、いつも金がないんやろ かしで、張りばてみたいな商店街や」 みんな貧乏が、貧乏が悪いんや」 聖子「 : : : 何だか、苛立ってるみたいー 田之倉「これ、誰の歌 ? 」 田之倉、立ち止まる。 店主「岡林信康。フォークの神様って言われ 聖子「どうしたの ? 」 とったわ」 田之倉「 : : : お好み、食べよか」 聖子「ここまで来たのに : 聖子「え ? 」 田之倉「 : : : チューリップのアップリケ、つ 田之倉、足早に一件のお好み焼き屋へ いたスカート持って来て」 入っていく。 聖子、田之倉を見ている 店主「何しましょ お好み焼き屋 田之倉「 : : : ごめん、また後で来るわ」 〇 引用及び参考文献 「傷ついた人に寄り添って 5 黒田裕子さん 5 」 Z スペシャル 「クリスチャントウディ」後藤健二 「チュ ーリップのアップリケ」岡林信康 「人を殺してみたかった名古屋大学女子学 生・殺人事件の真相」一橋文哉