モヒカン故郷に帰る 義男「来た来た来た来た来た ! 」 きまして」 千葉「じゃと」 車、到着すると、皆でとり囲む 苑子「あ、いや、いんですよ、話は永吉くん 皆が、期待の目で永吉を見る トランクを開けると、ストレッチャーに から聞いてたがら」 永吉「・・・見んなや」 寝た治と、浩二。 ( 会沢家は、全員、茨城訛り ) 由佳もじっと、見ている 浩一一「お願いします ! 」 春子「はあ」 永吉「おまえも、見んなや」 一同、治を下ろしにかかる 苑子「私はねー、嬉しいんですよ、これでやっ かだ うまくいかず、治の顔面に雨が直撃 と三人片づきましだがら」 8 高速船・客室 といって、ゲラゲラと笑う 一同「あーあ 1 あーあ ! 」 会沢苑子 (ä) と五人の子が、占拠して 苑子「ほら、この子、ちょっと細いでしょ ? 座っている があ だから心配してたんですよ、お母ちゃんに 同・病室の空き部屋 ( 朝 ) マタニテイウェディングドレス姿の由佳 なんかホントになれんのかなつつって」 田村家・客間と仏間 が、地元の美容師のおばちゃんに、メイ 正座して並ぶ田村一家 ( 浩一一も ) 、全員、春子「はあ」 クをされている。 苑子「いい結婚式にしましよう、お義父さん」 目が泳いでいる 部屋中をドタドタと暴れ回る一番下弟、治「やかましいわあ ! 」 春子「はいはい」 同・式場 ( リハビリルーム ) ( 朝 ) 洋 ( 8 ) 。 他の患者が、物珍しさに野次馬で覗いて 由佳「おお ! 静かにしでろつってんべよ ! 」浩二「すいません」 いる 由佳の、兄弟にしか見せない一面に、田苑子「・・・明日も晴れでぐれるといいです 浩二と由佳の兄弟たちが、赤い画用紙で ね」 村一家がビビる。 一同、窓の外を見る ージンロードを作っている 義男が、携帯片手に、慌ててやってくる 同・台所 義男「船、欠航だそうです」 冷蔵庫を開けた洋が、勝手にヤクルトを 4 9 豪雨が地面を叩いている ( 朝 ) 浩二「ですよねー」 飲んでいる 義男「牧師さんと、歌い手さん、来られない 病院・前 ( 朝 ) らしくて」 待っている、由佳の兄弟たち。 田村家・客間と仏間 やがて、向こうから、一台の車がやって浩一一「あちゃー、どうしましよ」 会沢家の人々、正座して田村家を前にし くる ている と、そこへ野次馬の患者の一人、望月 ( が手を挙げる 長男、義男 ( ) が、 春子「このたびは、遠くまで、お越しいただ どう 123 ・一
永吉、何もできず、ニャニヤ笑うばかり。 竹原「そんなん、呑みながらすりやーえーじゃ 由佳「てか、えーちゃんってさ、どのくらい 8 海沿いの道 ろーがあ」 「・ < N < <J のロゴが入った軽帰ってないわけ ? 」 治「お前バカか、仕事中じやろおが ! 」 永吉、考える。指折り数えては首を傾げ ハン、走っていく 部員たち、コソコソ笑っている る。 6 と 7 で迷う その向こうを、一台の高速船がやってき 竹原たち、強引に治を連れていこうとす ている ・マジで ? 」 る。 由佳「・ 永吉「いや、金なかったしさ」 治「ワシ、今日、車じやけえ ! 」 由佳の不安気な顔。 9 高速船・客室 竹原「ええけ、ええけ」 由佳が辛そうに、横になっている 治「ええことあるか ! 」 フェリー乗場 永吉、音楽を聴きながら、海を眺めている 治、結局、連れていかれ、 船が到着。降りてくる地元客の中に、永 由佳、永吉を小突く 治「解散 ! 」 吉と由佳の姿がある。 ヘッドフォンをわずかに外す永吉。 部員たち、ぐったり。 歩くのもやっとの由佳、見まわす。 由佳、瀕死の声で、 海と山ばかりで何もない。 ・なんか話して」 由佳「・ 7 車内 永吉「は ? 」 助手席の治、酔い潰れている。 ・明るい話」 数人の釣り人や、黄昏る老人たちが、ジ 田村春子 ( ) 、運転しながら、カーラ由佳「なんか・ ロジロと、由佳を見ている ジオから流れる、広島カープ戦に耳を傾永吉「無理」 けている 由佳「 : ・ちわー」 由佳「は ? なんで ? 二人、歩いていく 永吉「そ、ついう気分じゃない」 バッターポックスに菊池。 由佳「・・じや名前会議」 春子「行け、菊池 ! 」 漁港 永吉「またかよ」 菊池、初球打って、ピッチャーゴロ る 寂れた漁港を、永吉と由佳、歩いてくる。 帰 春子、ハンドルを叩き、ラジオに罵声を由佳「いいじゃん、別に」 永吉「つーか、まだ男か女かも、わかんねー 浴びせる。 郷 田村商店・表 しさー」 ン春子「なんしょんなら菊池 ! おどりゃあプ カ ヒ 由佳、また、おえっとなる。 古い「田村商店」の看板。 チ回すどリ」 モ 永吉と由佳が、中を覗いている 永吉、とりあえず腹をさする 治、隣で笑う。 レジにはもいないらしい呼び鈴だけ 由佳「さすんのやめて、気持ち悪い」 春子「うるさい ! 」 由佳「・ 103 ー
ここにある 【下巻】巻頭の言葉 " 加藤正人巻末解説 " 西岡琢也 【上巻】巻頭の言葉 " 加藤正人巻末解説 " 西岡琢也 解説 " 古田求 9 橋本忍 解説】田中陽造『切腹 山中貞雄 『盤嶽の一生』 解説【池端俊策 ( 『にっぽん昆虫記』長谷部慶次今村昌平解説 " 荒井晴彦 伊丹万作 『無法松の一生』 解説 " 那須真知子 鈴木尚之 解説【柏原寛司 ( 『飢餓海峡』 菊島隆三黒澤明 『野良大』 解説 " 武藤将吾 笠原和夫 解説【井上由美子『総長賭博』 黒澤明橋本忍 『羅生門』 解説 " 井土紀州 田村孟 解説 " 加藤正人 『少年』 斎藤良輔 『本日休診』 橋本忍山田洋次解説 " 輿水泰弘 『砂の器』 野田高梧小津安一一郎解説 " 山田太一 『東京物語』 小野竜之介佐藤純彌解説 " 山田耕大 解説】大津一瑯 ( 『新幹線大爆破』 依田義賢 『近松物語』 解説 " 小嶋健作 中島丈博 解説 " 真辺克彦 ( 『祭りの準備』 八住利雄 『夫婦善哉』 解説 " 奥寺佐渡子】『幸福の黄色いハンカチ』山田洋次朝間義隆解説 " 石井克人 水木洋子 『浮雲』 解説 " 篠崎絵里子 井手雅人 解説】青木研次 ~ 『鬼畜』 橋本忍 『真昼の暗黒』 解説 " 向井康介 山内久 『豚と軍艦』 日本名作 日本シナリオ作家協会編纂 のヾ も好評発売中 上 幻定価上下巻各 2160 円 ( 税込 ) 鈴 丁 * 「日本名作シナリオ選」は、全国書店、 ネット、日本シナリオ協会窓口・ホー 啓 ムページにて注文受付中です。 藤 佐 ホームページでご注文の際、上下巻 字 セット購入は送料無料です。 題
追いっき、追い越せ 永吉、廊下へ消える。 治「最高じゃ ! 」 なぜか、デッドヒートする三台。 見送った治と春子。 治、永吉にだけ笑顔、もう無理して食べ 春子「お父さん」 ている。オ工っとなるたび、春子が背中 田村家・客間と仏間 治「ん ? 」 を摩る テープルに並んだ、大量のピザ 春子、次のピザを指差し、 一人満足気な永吉、戻ってきた由佳と 永吉が、次々に開けていく。 春子「これってことで」 がっちり握手。 永吉「ウインナーが入っとるやつは、一通り治「・ 頼んだけえ 田村商店・待機部屋 治が、唖然としている 同・玄関 永吉、デス声のポイストレーニングをし ている ピザ屋 3 人と、ハグしている永吉。 同・玄関 ピザ屋 1 「お大事に」 ふと、物音に気付いて、思わずビクっと ピザ屋三人と清算している由佳。 なる。 ピザ屋 2 「がんばって ! 」 請求書を見て、唖然としている ピザ屋 3 「感動しました」 永吉「 ! 」 由佳「・ ・お義父さん、癌なんですよー」永吉「お前ら、最高だよ」 吹奏楽部員たちが、勢ぞろいして、外か そこへ春子、興奮気味に顔を出す。 ら店の様子を覗いている。 同・客間と仏問 春子「永吉、あったわあ ! 」 大量のピザを前にした治、一枚食べては、永吉「おお ! 」 花田村家・仏間 首を傾げる。 べッドの治を取り囲むように、部員が勢 永吉「どう ? 」 同・客間と仏間 ぞろい。女部員たち、鼻をすすり泣いて 治「うーん」 やってくる永吉。 治、もう春子に聞く。 治が、一枚のピザに、むしゃぶりついて治「最後におまえらに、言いたいのは、たっ 治「これじゃった ? 」 いる た一つ・ 春子「知らんわいねえ ! 」 治「これじゃ ! これよ ! このピザが食部員たち「・ 永吉「これだ ! みたいなん、ねーのかよ」 べたかったんよお ! 」 治「成り上がれ」 由佳が顔を出す。 春子「お父さん、えかったねえ ! 」 部員たち「・ 由佳「えーちゃん、ピザ屋さん帰るって」 永吉、嬉しそうに見ている 治「てめえの人生なんだ、てめえで走れ ! 」 永吉「おお」 永吉「うまい ? 」 部員たち「・ 1 18 ーー
が置いてある 同・店内 永吉、入っていくと、由佳が店内をキョ ロキョロしながらついてくる。 飾られた矢沢永吉のポスターやら、広島 カ 1 プのグッズやら。 田村家・居問 永吉と由佳、やってくる。 居間で一人、草刈りの恰好をした田村浩 二 ( が、遅い昼飯を食べている 永吉、戸を開けると、 永吉「ただいま」 ビクっとなる浩二。 浩二「・ 永吉「あれ、お前、なんでいんの ? 」 浩二、驚きのあまり、固まっている 浩二「・ ・お母さん」 浩一一、台所に叫ぶ。 浩一一「なんか、兄ちゃんがおるー ! 」 永吉・由佳「・ そこへ、玄関の戸が開く音。 春子の声「浩一一 ! おるー引」 同・玄関 もはや一人で歩けない治を、春子が必死 4 で介抱している 同・庭 浩二がやってくる。 草刈りをしている浩二が、チラチラと、 居間を気にしている 春子「ちょっと、あんた、手伝ってやあ ! 」 浩二「あ、いや・・」 同・仏間 浩二が、手伝う。 永吉が、遅れて顔を出す。 正座した由佳、二人を気にしている 少し落ち着いた治、白湯を飲みつつ足の 永吉「ただいまー」 ・あんた、なんでおんの ? 爪をいじっている。 春子「えリ 永吉、治と同じ恰好で、足の爪をいじっ 永吉「なんでって、電話したろ」 ている 春子「お父さん、聞いとる ? 」 治、それどころではない。 治「おまえ、なんや、生きとったんか」 治「白湯 ! 白湯 ! 」 永吉「・ ・ええ、生きてますよ」 春子「吐くちょっと、ここで吐かんとっ治「おまえ、なんか、老けたのお 永吉「・ 由佳も顔を出すと、軽い挨拶 治、堅苦しい由佳に気付き、 由佳「あ、どうも」 治「あ、お嬢さん、どうぞ、足崩して」 みんな、それどころではない。 由佳「あっ」 由佳、どう崩していいか、わからず、結 春子「・ 永吉「あ、電話で言ってた、会沢さん」 局、変なおねえさん座り。 由佳「会沢です、こんにちはー」 永吉、煙草を吸おうとする 春子「・ ( い、こんにちは」 由佳が、奪い取る 浩二「 : ・誰 ? 」 永吉、灰皿がない事に気付き、 由佳「・ 永吉「あれ、煙草は ? 」 春子「あんたあ、ほんまに電話したん ? 」 治「ああ、やめた」 永吉、ヘラへラ笑って由佳を見る。 永吉「え、 由佳が、永吉を睨んでいる 治「もう 2 年になるか」 永吉「・・・あそう」 6 → / 104 ーー
モヒカン故郷に帰る 治「やれ、行くか」 治が、とばとばと一人で歩いてくる。 引き返す一一人。 やがて、後ろから、永吉が杖を持って追 治、ふと足を止める いかけてくる 眼下に、島の風景が拡がっている 永吉「おい、どこ行く ! どこ行く ! 」 治、じっと見下ろしている 治、舌打ちを一つ。 ・ピザ食いたいのお」 永吉を嫌がりながら、歩いていってしま治「・ 先をゆく永吉、振り返る 永吉、追いかける 一定の距離を保ち、トボトボと歩いてい 8 田村商店・店内 酒買いがてら遊びにきた、登、金ャン、 く二人。 重ちゃん。 春子が酒を新聞紙でくるんでいる 長い階段 ( 朝 ) 春子「あー、食べた食べた、還暦のお祝いで、 先の長い階段を見据える治と永吉。 赤いちゃんちゃんこ着て」 治・永吉「・ 聞き込みをしている永吉と由佳。 杖を差し出す永吉。 登「あれ、なんでピザ食ったんや ? 」 治、受け取らず、階段を登っていく。 金ャン「赤いけえじやろ ? 」 永吉、杖をついて登っていく。 重ちゃん「ピザ、赤いかいのお ? 」 春子「冗談半分じやろお」 墓 ( 朝 ) 切り崩した山の斜面にある『田村家』の永吉「なんか、ウインナーが入っとったとは 言っとるんよ」 墓の前。 治が、杖によりかかり、汗だくで座り込春子「え、何、そのピザじゃないと、ダメな んでいる んね ? 」 汗だくの永吉、墓石に水をかけ、線香の永吉「そん時のが、食いたいんと」 春子「覚えてるわけないじゃないねえ」 灯を燃す。 永吉「それ、どこで買ったん ? 春子「安川の方じゃったと思うけど」 手を合わせる二人。 6 由佳が、早速、携帯で検索。 由佳「安川って、ピザ屋 3 つもあるよ」 困ったと笑う登たち。 永吉「・ 由佳「どうする ? 」 永吉「・ : 全部頼むか」 一同「え」 永吉「どれか当たりじやろ」 携帯をスピーカーにして電話している永 吉。見守る一同。 ・、っちはそ ピザ屋の声「島はちょっとー ういうの、やっとらんのんですよー」 永吉「親父が癌なんですよー」 ・あの、冷めちゃい ピザ屋の声「えーと・ ますしー」 永吉「親父が癌なんですよー」 ピザ屋の声「・ 永吉「親父が癌なんですよー」 高速船・客室 甲板に、ピザの原付が乗っている 三人のピザ屋、お互いを意識しあって 座っている 海沿いの道 ピザの原付が、三台走ってくる。 1 17 ー
病院・病室 ( タ ) 一一人、煙草を吸いながら、中学校を眺め永吉「おい、どした ? 」 ている 治、咳が止まらない。悶え苦しむように、 放心状態で座っている治。 その場に倒れ込む 隣で野呂、サメの軟骨を食べている 治「お前がおった頃、吹奏楽部、何人じゃっ 慌てた永吉、煙草をもみ消し、 治「のお、野呂よ」 た ? 」 永吉「おい、どした ! 何があった ! 」 野呂「はい」 永吉「あー、人くらい ? 」 治、苦しそうに、悶えている 治「おまえ、吹奏楽、好きか ? 」 治「ほうか」 野呂「・ 永吉「何があった」 永吉「まだ矢沢やりよるんじゃの」 永吉、助けを求 0 、治を置き去り」し治「あ〈ま」好きじ ~ な〔じ ~ 」 治「まあ、ワシにや、楽しみが、これくら 走っていく 野呂、コクリと頷く いしかねーけえーのお 治「じゃあ、なんでやっとるんや」 永吉「俺、中学ん時、吹奏楽部って、みんな 野呂「お父さんが、やれって言うけえ」 矢沢やりよるんかと思っとった」 車内 ( タ ) 何食わぬ顔で運転している永吉。 治「・・・ほうか、それは困っちゃうのお」 治「おまえさー、もう、東京帰れや」 後部座席の春子、怒りがこみ上げ、運転 いつもと違う治を、野呂が不思議そうに 永吉「あ ? 」 見ている している永吉の頭を、狂ったようにハタ 治「いちいち、付き合、つことないんじゃ きだす。 治「 : ・野呂よ」 けえーのお」 春子「あんた、ホンマのバカなん ! 」 野呂「はい 永吉「・ 浩二が、春子を止める 治「おまえ、これから、ちよくちよく遊び 治「ちゃんと働け」 ・わかっとるよ」 浩二「危ないって ! 」 永吉「・ 野呂、コクリと頷いた 治「由佳さんだって、仕事あんじやろー春子「二年も禁煙しとったんよ ! 」 由佳が、思わす笑う。 が ? 」 春子「何がおかしい ! 」 永吉「ああ、あいっ仕事辞めた」 田村家・永吉の部屋 ( 夜 ) 帰治「ほうか、何しよったんや ? 」 由佳「あ、すいません」 永吉、何やら押し入れを漁っている 永吉、何も言えず、運転している 中から、埃を被った箱を取り出してくる。 永吉「なんか、ネイルの 故 マジックで子供の文字『田村永吉』。 開けると、中に古いトランペット。 ヒ永吉「爪のや ? 校庭 ( タ ) モ 全速力で走ってくる野呂が見える 永吉、取りだしてみる。だいぶ錆びつい 治、急にむせだす。咳き込む。 ている 永吉、どうしたものか
治が追いかけまわす。永吉が逃げる 治、次々、電話をかけている。 治「おどりや ! ぶち回すど ! 」 春子「・ 永吉「われ、なにしょんなら ! 」 春子が、唖然とする由佳を連れ、壁際へ。四 春子、それでも蜜柑は食う。 永吉、逃げ足が速い 治が、蜜柑など投げつけてくる。 何事かと、鎌を持った浩二が、慌ててやっ てくる。 浩二「喧嘩、よおないよ ! 」 永吉、浩一一を盾にしようとするが、鎌が 危ない。 永吉「鎌 ! 鎌置け ! 鎌 ! 」 ふと見ると治、腰が痛くて動けず。 永吉「・・・あ、なんか大丈夫 ? 」 治、そのまま、腰を押さえながら、どこ かへ行ってしまう。 春子「お父さん」 春子、仕方なく、追いかける。 永吉「・ 同・階段脇 春子、やってくる 治が、家の電話をかけている 治「あ、もしもしワシよ、おお、宴会やる でえ、おお、ええけえ、はよ来いや、みん なにも声かけれ、おお」 同・廊下 ( 夜 ) トイレから、永吉の吐く音が聴こえてい る 島の海 ( タ ) 出てきた永吉、店のお茶場で顔を洗った 漁船でやってくる男たち。 永吉「誰なんだ・・あいつら」 島の路地 ( タ ) そこへ、店の方から、呻き声が聞こえて くる 御馳走を運ぶ女たち 永吉「 ? 」 幻漁港沿いの道 ( タ ) ゾロゾロ集まる島民たちを、漁船が追い 5 2 田村商店 ( 夜 ) 越していく。 やってきた永吉、店内へ。 店の床に、転がる一升瓶から、酒がこば一 れている 貶田村家・客間と仏間 ( 夜 ) もはや、大宴会になっている場。 永吉「 ? 」 知らないおっさんとおばさんが、大勢い 棚の隙間から、誰かの足が見える て、酔っぱらい、騒いでいる 永吉、恐る恐る、近づいていく。 永吉、次から次へ、知らないおっさんた 治が、、つつ伏せのまま倒れ、呻きもがい ている ち ( 登、金ャン、重ちゃん ) に、酒を注 がれ、呑まされている 永吉、どうしたものか 四同・永吉の部屋 ( 夜 ) とりあえず、治の元へ来るが、うかつに 矢沢永吉のグッズ部屋と化した、永吉の 手が出せない。 部屋。 治「 : ・きゅ、きゅ 5 」 由佳、布団で横になっているが、下の騒永吉「きゅ 5 、え、何」 ぎがうるさくて眠れない。 治「きゅ 5 、きゅ 5 」 永吉「きゅ 5 ? きゅ 5 ? 」 永吉「 ! 」 106
モヒカン故郷に帰る 提げている 由佳は若干、恥すかしそう。 ・あんたら、なんでおるん ? 」 春子「え・ 永吉、荷をおろすと、もはやくつろぎだ す。勝手に漬物をつまむ。 永吉「俺ら、もうちょっと居てみるわ」 春子「・ 由佳、買い物袋から何やら取り出す。 由佳「お母さん、お土産」 手渡された、でかいしやもじ。 春子「・ 由佳「鹿がふつうに歩いてた」 春子「・・・ああそう」 永吉「なんか、食べるもんない ? 」 春子、条件反射で、台所へ 急に怒りがこみあげ、踵を返す。 春子「なんで、あんた電話せんのんー 永吉、聞かずに、テレビを見ている 菊池、打った。 永吉「お ! 」 春子「え ! 」 春子が、慌てて戻ってくる。 菊池の打球、ぐんぐん伸びていく。 そのままスタンドに入った。 湧き上がる大歓声。 ・やったリ」 春子「やった ! 春子、思わず、永吉に抱きつく。 永吉「そんな嬉しい ? 」 わんわん泣き出した。 ながら、店の様子を覗いている。 レジに、「田村商店」の前かけをしたモ ヒカン ( 永吉 ) がいる 店内、爆音で流れる永吉の曲 永吉、急に襲いかかるフリ、子供たち、 斎藤産科医院・前 ( 朝 ) キャッキャと逃げていく 日傘を差した由佳、古い建物を見上げて いる 永吉、レジに戻ると、絵葉書を書きだす。 永吉「メンバ 1 のみんな、元気ですか俺 は今、周りから、若旦那と呼ばれていま 同・居間 ( 朝 ) す。しばらく親父の面倒を見ようと思いま 由佳、やりにくそうに座っている 斎藤しげ ( ) 、由佳の顔を、まじまじす。だから少し待っていてほしい。なぜな しし曲が書けそうだ と見ている ら、いい事をしたら、、、 からです しげ「あんた、島んもんじゃないねえ」 由佳「はい」 しげ「どっからきたんねえ ? 」 車内 ( 朝 ) 運転している春子。傍らに治の荷物 由佳「東京です」 永吉「俺、わかったことがあります。今後 しげ「こっちで産むんねえ ? 」 の俺たちにとって、一番大事なもの。それ 由佳「いやいやいやいや、検診だけ」 はたぶん、健康です , しげ「 : ・検診 ? 助手席の窓から、外を眺めている私服姿 由佳「・・・検診、超音波とか」 の治、風に吹かれている しげ「・ しげ、その辺の昆布を由佳に渡す。 ロすさむ「止まらない』。 しげ「すわぶっときいんせえ、落ち着くけえ」治「のってくれー ) 」 春子「はーはー ) 」 由佳「あ ? 治「ロックンロールナイト ) 」 春子「はーはー ) 」 田村商店・表 ( 朝 ) ランドセルの子供たちが、ケラケラ笑い 1 15 ー
永吉「・ ・うん、そうじゃね」 永吉、握手を求める。 永吉、砂を握る 治、わけもわからず。矢沢が治の手を取 治「したらよ、おまえ、東京行けや」 り、握手する 永吉「は ? 永吉「吹奏楽の演奏、聴かせてもらいました」 治「東京行って、ビッグになって帰ってこ治「・ ・お、お恥ずかしい」 永吉「グレイト」 永吉「・ ・うん、ビッグになって帰ってく治「・ るわ」 永吉「じゃあ、私、ライプがあるんで、これで」 治「そしたら、宴会開いてやるけえ、島の そそくさと帰ろうとする永吉を、引き留 田村家・仏間 みんな集めてからのお、大宴会よ」 める治。 竹原と千葉が、治のバイタルチェックを 永吉「うん、そうじゃね」 している。 治「ま、ま、待って」 治「だってのお、そういう名前にしたんじゃ永吉「 ? 」 永吉、春子、由佳が見守っている。 けえ」 治「な、な・・行年、に・・武道館ー 治、由佳の腹を、じっと見ている 永吉「うん、そうじゃね」 永吉「 ? 」 竹原「なんか、由佳ちゃん見よるのお」 天むすをがつつく、永吉の背中が、小刻治「・・目が、合いましたよね」 由佳「 ( お腹を指さし ) 初孫ですよ」 みに揺れている 永吉「・ 矢沢永吉が、はっきりと頷く。 治の目が涙でにじむ。鼻をすする 同・仏間 ( 夜 ) 治、顔をしわくちゃにして、泣き出した。春子「あー、また泣いてしもうた」 眠っている治、何者かに小突かれ、ふと 永吉、びつくりして、逃げ出す。 笑う一同に、子供のようにあやされる治。 目を覚ます。 何事かと、春子が起きてくる。 治「・ ・でかしたのお、永吉」 目の前に、矢沢永吉 ( 永吉 ) がいる 階段をドタドタ降りてきて、 といって、千葉の肩を叩く。 春子「お父さん、どしたんー 千葉「うんうん」 永吉「矢沢です」 治、ひたすら泣いている ・式は ? 治「・ 慌てる春子、由佳まで起きてくる。 そ、ついえばと皆、永吉と由佳を見る 永吉「矢沢です」 春子「ちょっと、由佳ちゃん、あったかいタ永吉「あ、いや・・・金ないし」 治、びつくりしすぎて言葉が出ない ォルかなんか」 治が、千葉の手を握り、 永吉「矢沢、会いにきましたよ」 由佳「どしたん ! どしたん ! 」 治「・ ・見たいのお , 春子「もう、わからんよ、何んなんこれ ! 」 治、ひたすら泣いている 同・庭 ( 夜 ) 物陰から、騒動を覗いている永吉。 戻れない・ 122 ー -