〇 誠治「ちゃうんかい ! 」 田之倉、舞を抱きしめる。 けど」 田之倉、キッチンを出る。 舞「もう、こんなとこいたくないっ 田之倉「もう、変な意地、張らんでええやんか」 美恵子「俊ちゃん ! 」 舞、子供のようにワーンと声を上げて泣聖子「意地なんか : : : 」 階段を駆け上がる音が聞こえる 舞「私、もうここにはいたくない」 聖子、舞を見る。 石巻空き地三 0 一四年 ) 仮設外 舞「お母さんも、本当はそうなんでしよう」 田之倉が舞を見ている 舞と一緒にドアをノックする田之倉。 舞はスコップで穴を掘っている 聖子がドアを開ける 田之倉「ちょっとええか ? 」 土の上には中学の制服姿のマスコット。 田之倉を見た聖子、驚く。 聖子、目で頷く 田之倉の声「死んだ子のお墓か ? 聖子「なぜ : : : 」 田之倉と聖子、外へ出る。 舞が顔を上げると田之倉がいる 田之倉「あがるで」 〇 空き地 田之倉、靴を脱いで中へ入る 田之倉「中学校、行かれへんかったから、制 聖子、思わず道を空ける 聖子「何、話って ? 」 服着せたってんのか」 舞も後をついて上がる 田之倉「 : : : 高校ん時、つき合ってた女の子 舞「 : : : 七十二人の子が死んで、十二人が がおってん」 行方不明。全員で八十四人。今でお墓は〇 同室内 田之倉、俯き加減に話し続ける 五十二個あるから、あと三十一個作ったら」田之倉「 ( 舞に ) 旅行カバンどこや ? 田之倉「 : : : 」 舞、押入れを開ける。 田之倉「初めて出来た彼女やってん。すごい 舞「最後は、自分のお墓を作る」 田之倉、舞と一緒に押入れからスーツ気がおうて、ウチの親とも仲良うて : 田之倉「アカン」 ケースを取り出す。 聖子「可愛かった ? 」 田之倉、舞の隣にしやがむ。 舞、洋服をスーツケースに詰め始める 田之倉、照れくさそうに頷く 舞「だって皆、私が死ねばよかったって思っ聖子「一体何なの」 田之倉「 : : : 地震の前の日、その子が親とケ てんだよ」 田之倉「聖子も早く用意しい。今日中に帰ら ンカしたっていうねんな。俺が部落の家の 田之倉「 : : : 」 なアカン」 子やから、つき合うなって言われたって」 舞「死んだ子の家族は皆そう思ってる。自聖子「帰るってどこへ」 聖子「部落 ? 」 分の子供の代わりに、私が死ねばよかった田之倉「大阪ゃ。一緒に行くで」 田之倉「被差別部落や」 のにつて。皆、皆、そう思ってる」 聖子「 : : : 私はここから逃げるつもりはない 聖子「こっちではあまり聞かないから」 〇
チューリップのアップリケ にはね : : : あーっ、忘れてた」 聖子、屈んでトースターの扉を開ける。 食パンが焦げている。 舞「ほらあ、やりなれないことするから」 聖子「ごめん。すぐに別の焼くから」 舞「いいよ、それで」 舞、冷蔵庫から牛乳とバター、ジャムを 取り出して居間のローテープルの上へ置 聖子が皿に盛った目玉焼きとトーストを 持って来る。 舞、牛乳をグラスに注ぐ。 舞「いただきます」 聖子「ねえ、舞」 舞、パンの焦げをスプーンでこそげ落と し、ジャムを塗る 聖子を見ていない。 聖子「 : : : 他所に、引っ越そうか ? 舞「だってお母さん、何も悪いことしてな〇 いんでしょ 聖子「 : ・・ : そうね」 舞、ロの中に入っていたトーストを牛乳 で流し込むように飲み込むと、 舞「いってきま 5 す」 鞄を持って立ち上がる トーストはほとんど残っている 聖子「もういいの ? 〇 〇 車の中 聖子、立ち上がり、舞を追う。 いつま 舞、出て行ってしまう。 朱里「 : : : 何だか、疲れちゃって : で続くのかなって : : : 何か、キリがない 聖子「いってらっしゃい なって」 呟く聖子。 朱里「やめても、続けても、ここにいる限り 石巻 x x 中学校教室 始業前、生徒たちが集まって、おしゃべずっと、こういう気持ちを引きずって生き りをしている 続けるのかなって思ったら、何だか遣り切 舞がやって来ると、話すのをやめ、舞の れなくって」 堀内「大阪に来たらええやん」 席を見る 朱里、堀内の顔を見て、 舞の机、「卑怯者』『人でなし』『仲間を 見殺しにした」「アンタが死ねばよかっ朱里「えっ ? 堀内、朱里にキスする たのに』「呪われろ』等、落書きだらけ。 驚く朱里。 舞、消しゴムで落書きを消す。 油性マーカーで書かれた落書きは消えな堀内「俺が大阪に帰る時に、一緒に来たらえ えやん」 消しゴムで消し続ける舞。 朱里「何、言ってるの」 堀内「来年、卒業やろ。大阪の病院に就職し たらええやん」 お好み焼き屋 堀内と朱里が鉄板を挟んで座っている。朱里「お父さんが許してくれるわけない」 朱里、浮かない顔でお好み焼きを半分残堀内「俺、言ったろか ? 」 している。 朱里「何を ? 堀内「どうしたん ? 今日は元気ないやん」堀内「俺がちゃんと責任持って面倒みますっ 朱里「 ( ぎごちなく笑って ) ちょっとね」 朱里「 : : : 何か、結婚の報告みたいー 堀内「もう出よか ? 」 堀内「そう思われんの、嫌 ? 」 朱里、頷く。 朱里、照れて俯く。
祐輔の手の平に乗せる 祐輔「お前ら、母娘そろって頭おかしいぞ ! 」 のか」 金をポケットに入れると踵を返す祐輔 舞「ほんとはお金なんて欲しくないくせに」 舞「帰ったよ」 祐輔の後ろ姿を見ている聖子。 祐輔「帰った ? 」 ポンっと花火が打ち上げられる音がする 舞、起き上がって、再び消しゴムで落書 舞「大阪。元々一年の予定だったから」 客たちは空を見ながら歓声を上げている。 きを消し始める。 祐輔「何だ、捨てられたのかよ」 祐輔、黙ってそれを見ている 祐輔、舞の机の落書きを指でなぞる。 花火会場内海橋 「アンタが死ねばよかったのに ! 」の文字。 人が行きかう橋の上で祐輔が立っている 石巻川開き祭り ( タ ) 舞「 : : : 妹さんの代わりに私が死ねばよ〇 背後では花火が次から次へと打ち上げら 花火見物へ訪れる人々が旧北上川にかか かったね」 れている る内海橋を続々と渡っていく 祐輔「ああ ? 」 中瀬 ( 中洲 ) には石ノ森萬画館も見える。子供の声「お兄ちゃん、綿菓子欲しい ! 」 舞「殺していいよ」 声がする方を振り向くと、小学校高学年 祐輔「何言ってんだよ」 ビアホール 舞、開いている窓を指して、 と思われる兄と低学年の妹が、橋の真ん一 ・ヒールジョッキを両手に持って、店の中 中で立ち尽くしている 舞「あそこから突き落せばいいよ。それか 兄「お金ないから無理」 を行きかう聖子。 カッターで首切る ? 私持ってるよ」 妹「嫌だ ! 買って ! 」 同僚に呼び止められる 舞、カッターをポケットから取り出して 兄「ほら、行くぞ」 同僚「相澤さん、息子さんが来てるけど」 祐輔に手渡す。 妹「買ってくれないと、行かない」 舞「殺していいよ。殺しなよ。そもそも私聖子「息子 ? 指された方を見ると、祐輔が隅に立って兄「じゃあすっとそこにいろ」 が生き残ってることがおかしいんだから」 いる 置いていかれた妹が声を上げて泣き出す。 祐輔「何だ、お前・ : ケ 兄が妹の手を取り、無理やり連れていこ 祐輔は手の平を出す。 舞、祐輔に迫る。 、つとするが、妹は動こ、つとしない 舞「殺してよ。そしたらウチのお母さんも、聖子「どうしてここが」 の 祐輔「あのお巡りさん、帰っちゃったんだっ妹「嫌だあ ! お母さん ! お母さあんー ここで胸張って生きていけるし」 プ ッ 兄「お母さんはもういないだろ ! 」 祐輔「やめろよっ , 妹「じゃあ、お父さん ! 」 ュ 祐輔、舞を突き飛ばす。 チ 祐輔、催促するように手を前に突き出す。兄「いない ! 」 突き飛ばされた舞の体が後ろの机にガタ 妹、ワーン ! と泣きわめく。 聖子、財布から一万円札を取り出して、 ガタとぶつかる 〇 〇
〇 いる 大きな鉄板を取り囲むように置かれたカ 田之倉、席を立つ。 見出し「大阪府警察官、交際相手を絞殺』 ウンター席に座る田之倉。 舞「お好み焼き、食べるんじゃないの ? 」 堀内の写真が載っている。 聖子と舞が入ってくる。 聖子と舞もガタガタと席を立つ。 瑞穂、身を乗り出す。 田之倉「 ( メニューを見ながら ) 何にする ? 「殺害後、スポーツジムにいたところを ほっかけが美味しいで」 〇アーケード街 舞「ばっかけって何 ? 」 店を出て、アーケード街を歩く田之倉。 瑞穂「チッ」 聖子「ご両親のところに、行くんじゃないの」 聖子と舞が小走りに追いかける。 瑞穂、微笑んでいる。 田之倉「今さら行ったって : : : 」 聖子「ちょっと : ・・ : 」 有線放送で「チュ ーリップのアップリケ」田之倉「親に会いに行く 神戸市長田区再開発地区 が流れる 聖子、笑みを浮かべ、田之倉についていく。 下層階がテナント、上層階が賃貸マン曲「八うちのお父ちゃん、暗いうちから遅 ションになった大きな商業ビルが数棟立 うまで、毎日靴を、トントンたたいてはる」 完 ち並ぶアーケードを、田之倉と聖子、舞 田之倉、顔を上げる。 が歩いている 店主、歌を口すさみながら、水を田之倉 聖子「ここ火事のあったところでしよう。すっ の前へ置く。 かり復興してるのね」 店主「八あんな一生懸命、働いてはるのに、 田之倉「復興なんかしてへんよ。空店舗ばっ なんでうちの家、いつも金がないんやろ かしで、張りばてみたいな商店街や」 みんな貧乏が、貧乏が悪いんや」 聖子「 : : : 何だか、苛立ってるみたいー 田之倉「これ、誰の歌 ? 」 田之倉、立ち止まる。 店主「岡林信康。フォークの神様って言われ 聖子「どうしたの ? 」 とったわ」 田之倉「 : : : お好み、食べよか」 聖子「ここまで来たのに : 聖子「え ? 」 田之倉「 : : : チューリップのアップリケ、つ 田之倉、足早に一件のお好み焼き屋へ いたスカート持って来て」 入っていく。 聖子、田之倉を見ている 店主「何しましょ お好み焼き屋 田之倉「 : : : ごめん、また後で来るわ」 〇 引用及び参考文献 「傷ついた人に寄り添って 5 黒田裕子さん 5 」 Z スペシャル 「クリスチャントウディ」後藤健二 「チュ ーリップのアップリケ」岡林信康 「人を殺してみたかった名古屋大学女子学 生・殺人事件の真相」一橋文哉
宅配業者が小さなダンポールの荷物を ソと話している 田之倉「何でそんなこと : : : 」 持って立っている。 田之倉が振り返ると話すのをやめる 少女、顔を上げ、田之倉を見ると、ニコッ 宅配便の受け取りのハンコを押す政美。 と笑って。 宛先は瑞穂になっている。 同居間 舞「お墓っー こたつの上にすき焼きの用意が出来てい 田之倉「お墓 : ・ る。 〇同リビング 少女、立ち上がると、仮設住宅の方へ走 政美が荷物を手に入って来る 田之倉「おいしそうやな」 り去っていく リピングでは瑞穂の父、忠義 ( 礙 ) がソ 少女がいなくなった後を見ると、マス聖子「食べてから言って」 フアに座って新聞を読んでいる 部屋の隅に学生鞄と補助バッグが置いて コットを埋めたところに木で作った十字 ある 忠義「何だ、その荷物」 架が刺してある ーリップのアップリ 政美「さあ。瑞穂宛てですって」 補助バッグにはチュ 同じような十字架が他にも何本もある 忠義、政美から荷物を奪うと開ける。 ケと、空き地で見たのとよく似たフェル 政美「あなたっ」 トのマスコットがついている 仮設住宅 緩衝材の中から薬液の入った瓶 ( 水酸化 聖子が缶ビールを持ってくる 夕刻で帰宅する人や、近所の人同士で立 ナトリウムや硫酸銅、硫酸ナトリウム ) 田之倉「それ、手作りか ? 上手やなあ」 ち話している人など、人通りが多い と粉末の硫酸タリウムが出てくる。 聖子の仮設の部屋を見つけ、ノックする聖子「この子、アップリケが好きなの。あん 驚きで声が出ない政美。 なにたくさんつけちゃって、子供みたいで 田之倉。 薬品を凝視する忠義 しよ、つ」 舞の声「はーい ドアが開き、先ほどの少女が顔を覗かせ田之倉「あれがアップリケ言うんか : : : 」 瑞穂と忠義、政美がソフアに向かい合っ る。 聖子「さつ、はじめましようか」 ケ て座っている。 聖子、鍋に牛脂をひく 田之倉「あれ : : : 」 プ ローテープルの上には先ほどの薬品が置 舞、卵の殻を持って台所へ立つ。 舞「あ : ・ ア の かれている 田之倉、舞の後ろ姿を見ている 立ち尽くす田之倉と舞。 ッ 瑞穂「実験してみたかっただけだよ」 聖子が手を拭きながらやってくる。 忠義、粉末の硫酸タリウムの瓶を掴んで。 山際家玄関 ュ聖子「どうしたの ? 」 チ インターホンが鳴る 忠義「タリウム中毒の特徴、言ってみろ」 田之倉「田之倉です。お邪魔します , 瑞穂の母、政美 ( 浦 ) がドアを開ける。瑞穂「 : : : 」 やり取りを見ていた近所の人が、ヒソヒ 〇 〇 〇
〇 忠義「言ってみろ ! 」 田之倉が、ソフアで煙草を吸っている 田之倉「行こか」 政美「あなたっー 洗面所から身支度を整えた聖子が出てく 田之倉、先に部屋を出ていく。 る。 瑞穂「 : : : 脱毛、視力低下、呼吸麻痺 : : : 」 聖子「・ : 忠義「お前のクラスの松本君と、同じ症状じゃ聖子「お待たせ」 ないか」 田之倉「ちょっと気になることがあるんやけ〇 空き地 ( 深夜 ) ど 車に乗っている田之倉と聖子。 忠義「どうなんだ ! 」 聖子「何 ? 聖子「ここで、いいわ 瑞穂「 : : : 私、受験勉強があるから」 田之倉「舞ちゃんの事やねんけど 田之倉「仮設の前まで、行くわ」 忠義、荷物を抱えて部屋を出ようとする 聖子、表情が曇る 聖子「いいの」 瑞穂に向かって、 聖子「 : ・ : 心配しなくても、父親になってな田之倉「・ : ・ : 」 忠義「警察に行く んて言わないから」 田之倉、車を停める 瑞穂「どうして ? 田之倉「 ( 苦笑して ) そうじゃなくて、あの 聖子が降りる ひとがた 忠義「お前の事を相談しに行くんだ」 鞄についてた人形の : : : アップリケ ? 」 空き地へ足を踏み入れる聖子。 瑞穂「別こ、 ( いいけど」 聖子「あれが、どうかしたの ? 」 辺りを見渡して、足を止める 忠義「いいのか」 田之倉「埋めてた」 木で作った幾つもの小さな十字架が地面一 政美「そんな、警察だなんて、あなた、何、言っ聖子「埋めてた ? 」 に刺さっている 田之倉「こないだ、来る途中の空き地で見か聖子「 : ・ 瑞穂「私、家、出るよ。東京の大学へ行く けたんや。聖子の子供やって知らすに : 少し離れたところに田之倉の車が停まっ お金、出してくれるよね」 ている 人形、土に埋めてて : : : 」 政美「そうよ、それがいいわよ環境を変え聖子「 : : : 」 れば、ねえ」 田之倉「十字架がいつばい、あった」 聖子の仮設 ( 朝 ) 忠義「待て、瑞穂。話はまだ : : : 」 背中を向けて靴を履く聖子。 狭い台所で朝食の支度をする聖子。 瑞穂を追いかけようとする忠義を、政美 立ち上がった聖子を背後から抱き寄せ、 電子レンジやトースターは床に置かれて が押しとどめる。 いる 髪に顔を埋める 瑞穂、部屋を出る。 聖子「どうしたの ? 」 中学の制服を着た舞がやってくる 田之倉、ゆっくりと聖子から離れると靴舞「どうしたの、お母さん。めずらしい」 石巻ラプホテル を履く。 聖子「いつもまかせつきりで悪いから、たま 〇
〇 堀内、頭を抱えたままの直美に挿入を続レイコ「ガッツいてんなあ」 ける。 〇同廊下 アヤ「何関係なん ? 」 堀内、男を廊下へ放り投げるとドアを閉 リサ「公務員 ? よう分からんけど、府の職 め、鍵をかける 阪急・北千里駅前 員って言ってたわ」 裸の男は慌てて、ドアノブをガチャガ 商業施設と隣接した大きな駅。 始業のベルが鳴る チャと回す。 駅前のロータリーをポストンバッグをミカ「ヤハ もう行かな ! 」 持った瑞穂が歩いている。 ミカ、スポーッドリンクを一口飲むとべ 同室内 ンチに置き、友人と更衣室を出ていく。 部屋へ戻った堀内 〇 不動産屋店内 瑞穂、。 ヘンチに残されたペットボトルの 直美、恐れて後すさっている。 不動産屋が瑞穂に部屋を紹介している 蓋を開け、粉末のタリウムを入れて振る 直美「何よ ! 連絡もくれんと ! いつまで不動産屋「ここなんか、お勧めですよ。内装 も一人でおるわけないやろ ! 」 もリニューアルしたばかりだし、大学へも〇 石巻 x x 中学校校門 堀内、直美の髪を掴んで、べッドに投げる。 自転車ならすぐだし」 セミの鳴き声。 直美「痛い ! やめて ! 髪、引っ張らんと 日焼けした生徒たちが下校してくる 〇アバート室内 校舎の一階にはゴーヤの緑のカーテン。 直美、頭を両腕で抱え込む。 真新しいキッチンと畳の部屋の 1 堀内、直美の部屋着を下着ごと引き下ろ 段ボールで溢れかえっている 同教室 す。 本棚に本を並べていく瑞穂 教室に一人残った舞、消しゴムで落書き 下半身が無防備に晒されるも、直美、頭 薬学の専門書の下に、『グレアム・ヤン をゴシゴシと消している を抱えたままでいる グ毒殺日記』を置く 油性ペンで書かれた落書きが、大分薄く 堀内、自分のズボンを下ろして、直美の なっている 中へ入っていく。 大阪府吹田市 x x 大学更衣室 机の上には大量の消しゴムのカス 堀内「さっきまで、あの男とヤっとったんか」 瑞穂が体操着に着替えている横で、女子 祐輔が教室に入ってくる 直美「 : 大生たち ( ミカ、リサ、レイコ、アヤ ) 祐輔「汕性ペンって消しゴムで消せんだ」 堀内「あの男とヤっとったんかって聞いとる が話している 舞「何の用 ? んや ! 」 リサ「来月コンパあるねんけど」 祐輔「お前の母親、今、どこで働いてんだよ 直美「ごめんなさい、ごめんなさいっ , ミカ「行く行く 5 」 それともあれか、男に食わせてもらってん 〇 〇 〇 -6 っ 0
チューリップの アップリケ 特別賞大伴昌司賞 五藤さや香 登場人物 たのくらとしあき 田之倉俊明 ( ) " 大阪府警 x x 署の巡査長 なりうちしんご 堀内慎吾 ( % ) 】大阪府警 C ) Q ) 署、巡査長 あいぎわせいこ 相澤聖子 ( ) 】元教師のシングルマザー あいざわまい 相澤舞 ( リ【聖子の娘 まきたあかり 牧田朱里 ( 幻 ) " 石巻の学生ボランティア やまぎわみほ 山際瑞穂 ( 四 ) 】宮城県出身の大学生 やまぎわただよし 山際忠義 ( ) " 瑞穂の父 やまぎわまさみ 山際政美 ( 浦 : 瑞穂の母 はまだゅうすけ 濱田祐輔 ( 新 ) 】聖子に金をせびる中学生 まえじまえりか 前島江梨香 ( ) " 堀内の婚約者 こすを 小杉 ( % ) 】大阪府警 x x 署、巡査 いまいなおみ 今井直美 ( ) 】堀内の元交際相手 はやしだ 林田トモ子 ( 肥 ) " 新興宗教の信者 ひとみ 仁美 ( ) " 田之倉の高校時代の交際相手 みさこ 美佐子 ( 芻 ) " 田之倉の元同棲相手 こうの 河野 ( ) " 宮城県警、巡査部長 かわとうりようじ 川藤遼二 ( 町 ) 】ジャーナリスト たのくらせいし 田之倉誠治 ( ) 】田之倉俊明の父 たのくらみえこ 田之倉美恵子 ( ) " 田之倉俊明の母
チューリップのアップリケ 田之倉、祐輔に向かって、 田之倉「 ? 」 海岸 聖子、財布から金を取り出して祐輔に渡田之倉「もう帰れ。二度とこの人に近づくな」〇 缶コーヒーを飲みながら、休憩している す。 祐輔、田之倉を睨みながら立ち去る。 田之倉と堀内。 田之倉、道路を渡って、聖子の下へ行く。田之倉「今度来たら、すぐ言いや」 聖子「四月には帰るんでしよう」 堀内「この景色とも、あと一か月でお別れで 田之倉「何しとうねん」 田之倉「・ : ・ : 大阪に、来たらどうや」 すねえ」 祐輔、田之倉を見る。 聖子「結婚してくれるの ? 」 田之倉「朱里ちゃんはどうするんや ? 」 祐輔「関係ないだろ」 田之倉「・ : ・ : 」 田之倉「補導されたいんか」 堀内「大阪の病院に就職するんですわ」 田之倉、目を逸らす。 田之倉、警察手帳を見せる。 田之倉「へえ : : : 結婚とか考えてんの ? 」 聖子「結婚もしてくれない男を追いかけて、堀内「いやあ、そこまでは : : : まあ、一応、 祐輔、怯む。 大阪へ引っ越すなんて、舞に何て説明する 向うのお父さんに挨拶はしたんですけど」 田之倉「 ( 聖子を見て ) 何でお金なんか」 聖子、俯く。 のよ」 田之倉「順調に行ってるやん」 田之倉「聖子、俺は : : : 」 堀内「おかげ様で。田之倉さんは ? 」 祐輔「賠償金もらって何が悪いんだよ」 聖子「ううん、違う。今のは忘れて。私は、田之倉「俺 ? 田之倉「賠償金 ? 祐輔「妹を見殺しにした賠償金だよ ! 」 ここから離れられない : : : 離れるわけには堀内「あのお店の彼女とデキてるんでしょ ? 」 田之倉、聖子を見る いかないのよ」 田之倉「・ : : ・」 聖子、顔を背ける。 聖子、田之倉を置いて去る 河野がレジ袋を持ってやってくる。 幻冬舎文庫 瀬明僕 尾日ら までの い待ご こつは てん るは 泣いて笑って 優し、恋の物語 2017 年新春 全国ロードショー 【出演】 中島裕翔 新木優子 【監督】 市井昌秀 幻冬舎 G E 、 T 0 S 日 A 〒 151 -0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷 4-9-7 tel:03-541 ト 6222 fax : 03-5411-6233 映画化決定 500 円 ( 税抜き )
す田之倉。 聖子「そうでもないわよ」 聖子、息を漏らす。 聖子、田之倉の上にまたがる 田之倉「親御さん、何しとったん」 聖子「つけてたら、結婚してなかった」 聖子「学校の先生だった。もうとっくに定年田之倉「デキ婚か ? 」 退職してたけど」 聖子、笑いながら腰を動かす。 田之倉「二人とも ? 娘さんはかなわんな。 家に三人も先生がおったら」 〇 同外 ( 朝 ) ふざけた口調の田之倉。 田之倉と聖子が出てくる 聖子、笑わない。 聖子「じゃ」 聖子「ほんと、娘は嫌だったと思うわ。分か 立ち去ろうとする聖子を田之倉が引き留 める。 らないのよ、あの人たち、生徒と孫にかけ る愛情の違いが : : : そういう私も、分から田之倉「明後日、非番ゃねんけど」 ないんだけど」 聖子「 : : : たまには、娘と晩御飯、食べてあ 田之倉、聖子を見る げたいから」 聖子も田之倉を見て、田之倉の下半身に田之倉「そっか」 手を伸ばす。 聖子「 : : : 一緒に食べる ? 」 田之倉「何で旦那と別れたん ? 」 田之倉「え : : : 」 聖子「あなたのことも教えてよ」 聖子「嫌よね」 田之倉「俺 ? 」 聖子、立ち去る。 聖子「奥さんは ? 結婚してないの」 田之倉、逡巡してから、聖子の背中に向 かって、 田之倉「してたら、こんなとこおらへん」 聖子「奥さんいても、する人はいるわよ 田之倉「行くわ。明後日、家へ行くから」 聖子、枕元のコンドームに手を伸ばす。 聖子、振り返って、手でサインを作る。 聖子「これ、嫌い ? 」 田之倉「好き , 宮城県仙台市 x x 高校、教室 聖子「 ( 笑って ) よかった」 瑞穂、ノートに何か書いている 田之倉「 : : : 当たり前のことやろ」 生徒たちが噂話をしている 〇 〇 生徒 1 「え、シンナー中毒じゃないの ? 」 生徒 2 「脱法ハープでしよ。こないださあ、 お母さんと職員室に来てたんだけど、髪の 毛がほとんどなくって : : : 」 瑞穂、チラリと顔を上げる。 瑞穂の隣の席が空いている 担任が入ってくる 担任「はい、 席着けー、席 皆、バタバタと席へ着く 瑞穂が閉じたノートに「観察日記」と書 かれている 担任「松本だが、学校を退学することになっ クラスがざわっく。 瑞穂、笑っている。 空き地夕刻 仮設住宅の周辺、更地のまま放置された 宅地に雑草が生い茂っている ケーキの箱を持った田之倉が、しやがみ こんでいる少女・舞 ( ) を見かける 背後から少女を窺、つ田之倉。 土の上には掌ほどの大きさのフェルトで 作ったマスコット。 中学の制服を着せてある 少女、マスコットに土を被せて埋めてい 8