顔 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年5月号
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1. シナリオ 2016年5月号

しま、つ 曲、最高潮の盛り上がりを見せる。 永吉が止まると、演奏が終わる 間。 部員たち、一斉にドッと笑い出す。 野呂も、清水も笑う。 永吉も笑う。 田田村家・仏間 ( タ ) リクライニングで上がってくる治の怒顔。 ビンタしよ、つとするが、届かない 永吉、自分から近づいてやると、頬を差 し出す。 ビンタする治。 治「おどりや ! ぶち回すど ! 」 永吉「・ 治、鼻息も荒く、リクライニングで戻る 永吉が手伝う。 永吉、携帯とヘッドホンを取り出し、 永吉「今日の演奏、録音したんじやけど、聴 治、永吉をじっと見る 永吉「ん ? 」 治「おまえのお、もう帰れや」 永吉「・ 治「気持ちはよーわかったけえ」 永吉「・ 治「おまえに優しくされると、明日にでも、永吉「 ? 死ぬような気がするんじゃー 傍らに転がった、日本酒の一升瓶 永吉「・ 永吉「・ 治、永吉に背を向け、横になってしまう。 4 永吉「・ 同・仏間 ( 夜 ) 永吉、ものすごく嫌そうな顔で、治のオ ムツを替、んている 同・永吉の部屋 ( 夜 ) 治、ものすごく嫌そうな顔で、オムツを 眠っている由佳の横で、珍しく眠れない 替えられている 永吉。 お互い、顔を見ようとしない。 治「おまえ、これ、母ちゃんに言うなよ」 同・廊下 ( 夜 ) 降りてくる永吉。 永吉「は ? 一言うよお ・言わんとってくれえやー、また一 うつ伏せになって、倒れている治の姿を治「・ 見つける。 心配すんじやけーさあ」 永吉「おいおいおい ! 」 永吉「・ : 横向け」 治、永吉に背を向ける形。 慌てた永吉、治のもとへ。 治、這いつくばったまま失禁し、全身を オムツを滑り込ませるが、思、つよ、つにい かないもう力すく。 濡らして、泣いている 治「こんくそが・ ・こんくそが」 永吉「あのさ、俺、やつば帰るわ」 口元には、吐き出た血 治「あ ? 」 永吉「・・・おい、マジか、血」 永吉「バイトもしとらんし、このままだと、 ハンドもやべーし、金もねーし、ほら、由 治「・・・鼻血じゃ」 佳もそろそろさ」 永吉「ロからでとんよ」 治、背中ごしに話す。 治「こんくそが・ ・こんくそが」 永吉、どうしていいものか、春子を呼ば治「・・・居ってくれえや」 、つとして、 永吉「・ 治「・・・頼むけえ、居ってくれえや」 治「呼ぶな ! 」 3 120

2. シナリオ 2016年5月号

見ている二人 鰺は、たたきと化している。 浩二「なんか、いい治療法が見つかるかもし 永吉「えさ ? 」 れんし、違う結果になることだって、ある 由佳「は ? かもしれんじゃん」 春子「ええじゃないね、せつかく由佳ちゃん、 春子「せめて、通える所の方がええんじゃな 作ってくれたんじやけえ」 いん ? 」 浩二「うん、食べよ」 いただきますして、食べ始める永吉、春浩一一「兄ちゃんは、どう思う ? 永吉「・ 子、由佳、浩二。 永吉、由佳を一瞥し、いつになく真剣な 浩一一「うん」 顔つきで、 春子「うん」 永吉「・・・俺は・・俺なりに、色々考えた うんしか言わない二人。 んじやけど・ ・やつばなんだかんだあっ 由佳、自分も食べてみるが、微妙 て、なんだかんだ、浩二の言う通りじゃと 浩二、タブレットを取り出し、 思う」 浩一一「あのさ、こんな時になんじやけど」 「頼れる病院ランキング」的なページを春子「・ 由佳「・ 開き、春子たちに見せる 浩二「 春子「なんね ? 」 なんか変な空気になる。 浩一一「肺がんの権威なんと」 春子「食べよ」 先生の顔写真と、綺麗な外観写真。 浩二「うん、なんかごめん」 春子「えらい、若いんじゃね」 由佳が白々しい顔で永吉を見る 永吉と由佳が、横から覗き込む。 帰浩二「俺も、よおわかんのんじやけどさ、も永吉「・ 、つ一回、こういう先生に診てもらうべきな 郷 故 んじゃないん ? 」 ン ヒ春子「え、関西まで出るん ? 」 モ 浩一一「今時、おかしくないじやろ」 春子、タブレットを永吉たちに渡す。 病院・屋上 誰もいない屋上の窓が開く 点滴を持った治が、乗り越えてくる その真向いに見える、中学校の屋上。 プラバン部員たちが、楽器のチューニン グしている 治、ラジオのアンテナで、指揮をはじめる。 中学校・屋上 部員たち、演奏をはじめる 曲は「アイ・ラヴ・ユー ' 隣り合う学校と病院 屋上の演奏に、何事かと、患者や生徒た ちが、窓から顔を出す。 とび 戸鼻島の情景 演奏が聴こえている 漁港で働く漁師たち。 軒先で手仕事をするお婆ちゃんたち。 配達途中の、バイクの郵便局員。 任天堂で遊ぶ、子供たち。 黄昏れるお爺ちゃんたちと釣り人 皆、なんとなく聴いている 中学校と病院・屋上 演奏が終わると、治、ゆっくりと目を開 ける。 治「野呂 ! 」 大声を出し、咳き込む治。 3 109 ・一

3. シナリオ 2016年5月号

駆け寄ってゆく渉。 その場に崩れる響子。 中から出てきた祐之介と鉢合わせする。 渉「どこに行ってたんだ。連絡もしないで。 : エマが : : : エマが・ : : ・」 響子「・ : 渉「どうしたの、こんな時間に」 心配したじゃないか : 愛子「どうしたの」 祐之介の手にはポストンバッグ。 祐之介、渉の髪にそっと触れる 響子「エマが殺された。エマが、殺された ! 」 渉「どこに行くの ? 祐之介「この世の最後と思って、岩手の田舎 泣き喚く響子を、抱きかかえる愛子。 祐之介、渉を抱きしめるとキスをする をさまよってた。素晴らしかったよ。あれ 立ち去る、祐之介 ほどの自由を感じたことはなかった」 輪王寺・境内 渉「祐之介」 大きな木の根元。 渉、口元に手をやると、指に血がついて まるで美しい人形のようなエマの亡骸。祐之介「たった二日間の自由ために、僕は犯 いる 罪者になったんだ」 立ち尽くす渉。 渉「 ( 首を横に振る ) ー 茶室・前 髪に触れる祐之介の手を、握る渉。 響子が走って来る 千葉家・居間 ( 朝 ) お互いに触れ合い、見つめあう二人。 憔悴しきった渉が座っている テレビのニュースを見ながら、朝食を食 響子「渉さん、エマが : べている響子と愛子。 力なく後ずさる響子。 渉の身体に抱きつく響子。 電話のベルが鳴る と、母屋の方から刑事たちが現れる。 渉「 : : : 帰ってこないんだ : : : 」 愛子が受話器を取る 刑事「関祐之介だな」 響子「えっ ? ( 顔をあげる ) 」 愛子「もしもし千葉でございます : : : はい、 逮捕令状を見せる刑事。 ちょっとお待ちください ( 受話器を押さえ ) 渉「 : : : どうしよう、響子 : : : 祐之介が 祐之介、両手を差し出す。 ・ : 帰ってこない : 堂本さんていう女性から」 その手に手錠をかける刑事、連行する。 響子、電話を代わる。 渉「ちがいます。彼じゃありません。殺し 響子の髪に顔を埋めてふるえる、渉。 響子「もしもし、勢津子さん ? 」 たのは僕ですー 遠くでかすかに、孟宗竹のしなる音。 勢津子の声「もしもし ? いま警察から連絡 追いかけようとする渉。 ハッと顔をあげる渉、ふらふら歩きだす。 があって、高宮さん、エマちゃんが殺され 別の刑事が渉の前に立ちはだかる 響子「渉さん ? 」 たんですって」 奏 渉「ちがう。いやだ、祐之介 ! 」 後を追う響子。 んつ」 伴響子「 振り返った祐之介と目が合う、響子。 物影から、現れる祐之介。 固まる、響子。 笑ったような視線。 渉「祐之介 ! 」 勢津子の声「もしもし ? 響子ちゃん ? 」

4. シナリオ 2016年5月号

無伴奏 さんをかばった、って : : : どうしてかしら」 響子、渉の自画像を見る 響子「 : : : わかりません」 勢津子「もし何か分かったら教えてね」 小さく、つなずく響子。 響子の声「渉さんは三通の遺書を残した。勢 津子さんと祐之介さん、そして私。どの遺 書も同じ文面だった」 千葉家・前 玄関から出てくる響子と愛子。 コレ」 愛子「はい、 と、のし袋を響子に渡す愛子。 愛子「少ないけど電車でお弁当でも買ってね」 響子「ありがとう」 愛子「東京でも頑張るのよ。時々連絡ちょう だいね」 うなずく響子、家を仰ぎ見る。 響子「お世話になりました」 愛子に頭を下げてお辞儀する響子。 涙目でうなずく愛子。 歩き出す響子。 手を振って見送る愛子。そしてモグ。 102 ク無伴奏前 響子が歩いて来る。 店の入り口で立ち止まる 鴈。無伴奏。・中 店に入る響子。 店内には女性客がひとり、煙草をくゆら せている。 なんとなく目があう響子と女性。 響子、空いた席に座り、コーヒーを注文 する。 デッサンノートに挟んだ遺書を広げる響 子。 便箋に書かれた、渉の文字ーーー。 デッサンノートをパラバラと開き見る響 子。 数年間の感情の血が、言葉が、思いが、 どくどくと脈打ち溢れる 響子、最後の白紙のページに辿りつく ふと顔をあげる響子。 響子の隣に渉が座っている。 その隣には、祐之介とエマ やがて一人ずつ席を立っと消えてゆく。 最後に渉が席を立つ。 響子「渉さん」 渉、微笑むと消えてゆく デッサンノートを閉じると、顔をあげる 「これでゆっくり眠れる渉』。 響子。 真っ直ぐな眼差し。 やがてひとり店を出てゆく、響子。 紫煙の向こう、閉まるドアを見つめる女 性。 店内に音楽は止まない ( 了 ) 8

5. シナリオ 2016年5月号

追いっき、追い越せ 永吉、廊下へ消える。 治「最高じゃ ! 」 なぜか、デッドヒートする三台。 見送った治と春子。 治、永吉にだけ笑顔、もう無理して食べ 春子「お父さん」 ている。オ工っとなるたび、春子が背中 田村家・客間と仏間 治「ん ? 」 を摩る テープルに並んだ、大量のピザ 春子、次のピザを指差し、 一人満足気な永吉、戻ってきた由佳と 永吉が、次々に開けていく。 春子「これってことで」 がっちり握手。 永吉「ウインナーが入っとるやつは、一通り治「・ 頼んだけえ 田村商店・待機部屋 治が、唖然としている 同・玄関 永吉、デス声のポイストレーニングをし ている ピザ屋 3 人と、ハグしている永吉。 同・玄関 ピザ屋 1 「お大事に」 ふと、物音に気付いて、思わずビクっと ピザ屋三人と清算している由佳。 なる。 ピザ屋 2 「がんばって ! 」 請求書を見て、唖然としている ピザ屋 3 「感動しました」 永吉「 ! 」 由佳「・ ・お義父さん、癌なんですよー」永吉「お前ら、最高だよ」 吹奏楽部員たちが、勢ぞろいして、外か そこへ春子、興奮気味に顔を出す。 ら店の様子を覗いている。 同・客間と仏問 春子「永吉、あったわあ ! 」 大量のピザを前にした治、一枚食べては、永吉「おお ! 」 花田村家・仏間 首を傾げる。 べッドの治を取り囲むように、部員が勢 永吉「どう ? 」 同・客間と仏間 ぞろい。女部員たち、鼻をすすり泣いて 治「うーん」 やってくる永吉。 治、もう春子に聞く。 治が、一枚のピザに、むしゃぶりついて治「最後におまえらに、言いたいのは、たっ 治「これじゃった ? 」 いる た一つ・ 春子「知らんわいねえ ! 」 治「これじゃ ! これよ ! このピザが食部員たち「・ 永吉「これだ ! みたいなん、ねーのかよ」 べたかったんよお ! 」 治「成り上がれ」 由佳が顔を出す。 春子「お父さん、えかったねえ ! 」 部員たち「・ 由佳「えーちゃん、ピザ屋さん帰るって」 永吉、嬉しそうに見ている 治「てめえの人生なんだ、てめえで走れ ! 」 永吉「おお」 永吉「うまい ? 」 部員たち「・ 1 18 ーー

6. シナリオ 2016年5月号

じゃん、でもアレ、ただの雑草だからね」 しよ、つかと」 治「なんか、あんま美味うなくてのお」 春子が治を見る 春子「・ それきり会話は続かない 治、永吉をじっと見ている。 そこへ、春子が何やらお盆に乗せて持っ治「・ 、ンドは ? 」 永吉「まあなんていうか、その・・要するに、治「お前 てくる 永吉「ああ」 お茶と、夏蜜柑の砂糖漬けが、皿に盛ら子供が」 永吉、バッグから何やらを取り出す。 春子・治「え ! 」 れている。 永吉「これ、お土産、ニューアルバム」 永吉「できたとか・・できないとか」 春子「今、こんなのしかないけど」 渡された治、をじっと見ている 春子「どっちね ! 」 治、永吉、早速食べる。 「断末魔』というバンドらしい 永吉「できた、できた、できました」 春子「砂糖で漬けてんの、食べてみて」 死神がたくさんの小動物たちを、血みど ヘラへラ笑う永吉を、情けないような顔 由佳「あ、はい」 ろにしているジャケット。 で見ている由佳。 春子「たまに、種あるから」 治「 : ・儲かるんか ? 」 春子、心配そうに、治を窺う。 由佳、食べる。 永吉「あ、儲かるとかでやってないから」 春子「お父さん ? 永吉「なんで、浩二がおるん ? 治「・・・じゃ、お前、どうやって食べよ 2 春子「知らんよーね、あの子、何かあると、すー治「・ んなあ」 治、黙々と、蜜柑を食べはじめる。 ぐ帰ってくるんじやけえ」 永吉、困ったように、由佳を見る 治「おまえ、今、東京で何しょんなら」 お茶を出すと、春子も座る 由佳、小さく手を挙げる。 永吉「あ ? 春子「で ? 由佳「あ、主に私が」 治「仕事は」 永吉「え」 治、イラっときて、夏蜜柑の種を永吉の 永吉「ああ、まあ、ポチボチやってるよ」 春子「ほら」 顔に飛ばした。 治「ポチボチ、何しょんなら」 永吉「は ? 」 永吉「・ : まあ、栽培とか」 春子「は ? じゃのーて」 由佳が、驚きのあまり、固まる。 ・え、何 ? いやじゃ、怖い 春子「・ 帰永吉「・・・ああ」 永吉「あー違う、パクチー、合法」 永吉、改まって、座り直す。 郷 故 永吉、蜜柑の種を探す。 春子「は ? 」 由佳も、座りなおす。 ン ない。もう果肉ごと、治に投げた。 ・このたびは、あ、いや」 永吉「ああいや、パクチーって、実際儲かる ヒ永吉「・ モ ーとかだ カッとなった治、永吉をビンタしようと と思うんだよね、だって、スー 由佳「・ とこんなちょっとで、 2 0 0 円とかすん するが、永吉がかわす。 ・このたびは、その・・結婚を 永吉「えー・ 永吉「 ! 」 永吉「・

7. シナリオ 2016年5月号

が置いてある 同・店内 永吉、入っていくと、由佳が店内をキョ ロキョロしながらついてくる。 飾られた矢沢永吉のポスターやら、広島 カ 1 プのグッズやら。 田村家・居問 永吉と由佳、やってくる。 居間で一人、草刈りの恰好をした田村浩 二 ( が、遅い昼飯を食べている 永吉、戸を開けると、 永吉「ただいま」 ビクっとなる浩二。 浩二「・ 永吉「あれ、お前、なんでいんの ? 」 浩二、驚きのあまり、固まっている 浩二「・ ・お母さん」 浩一一、台所に叫ぶ。 浩一一「なんか、兄ちゃんがおるー ! 」 永吉・由佳「・ そこへ、玄関の戸が開く音。 春子の声「浩一一 ! おるー引」 同・玄関 もはや一人で歩けない治を、春子が必死 4 で介抱している 同・庭 浩二がやってくる。 草刈りをしている浩二が、チラチラと、 居間を気にしている 春子「ちょっと、あんた、手伝ってやあ ! 」 浩二「あ、いや・・」 同・仏間 浩二が、手伝う。 永吉が、遅れて顔を出す。 正座した由佳、二人を気にしている 少し落ち着いた治、白湯を飲みつつ足の 永吉「ただいまー」 ・あんた、なんでおんの ? 爪をいじっている。 春子「えリ 永吉、治と同じ恰好で、足の爪をいじっ 永吉「なんでって、電話したろ」 ている 春子「お父さん、聞いとる ? 」 治、それどころではない。 治「おまえ、なんや、生きとったんか」 治「白湯 ! 白湯 ! 」 永吉「・ ・ええ、生きてますよ」 春子「吐くちょっと、ここで吐かんとっ治「おまえ、なんか、老けたのお 永吉「・ 由佳も顔を出すと、軽い挨拶 治、堅苦しい由佳に気付き、 由佳「あ、どうも」 治「あ、お嬢さん、どうぞ、足崩して」 みんな、それどころではない。 由佳「あっ」 由佳、どう崩していいか、わからず、結 春子「・ 永吉「あ、電話で言ってた、会沢さん」 局、変なおねえさん座り。 由佳「会沢です、こんにちはー」 永吉、煙草を吸おうとする 春子「・ ( い、こんにちは」 由佳が、奪い取る 浩二「 : ・誰 ? 」 永吉、灰皿がない事に気付き、 由佳「・ 永吉「あれ、煙草は ? 」 春子「あんたあ、ほんまに電話したん ? 」 治「ああ、やめた」 永吉、ヘラへラ笑って由佳を見る。 永吉「え、 由佳が、永吉を睨んでいる 治「もう 2 年になるか」 永吉「・・・あそう」 6 → / 104 ーー

8. シナリオ 2016年5月号

チューリップのアップリケ にはね : : : あーっ、忘れてた」 聖子、屈んでトースターの扉を開ける。 食パンが焦げている。 舞「ほらあ、やりなれないことするから」 聖子「ごめん。すぐに別の焼くから」 舞「いいよ、それで」 舞、冷蔵庫から牛乳とバター、ジャムを 取り出して居間のローテープルの上へ置 聖子が皿に盛った目玉焼きとトーストを 持って来る。 舞、牛乳をグラスに注ぐ。 舞「いただきます」 聖子「ねえ、舞」 舞、パンの焦げをスプーンでこそげ落と し、ジャムを塗る 聖子を見ていない。 聖子「 : : : 他所に、引っ越そうか ? 舞「だってお母さん、何も悪いことしてな〇 いんでしょ 聖子「 : ・・ : そうね」 舞、ロの中に入っていたトーストを牛乳 で流し込むように飲み込むと、 舞「いってきま 5 す」 鞄を持って立ち上がる トーストはほとんど残っている 聖子「もういいの ? 〇 〇 車の中 聖子、立ち上がり、舞を追う。 いつま 舞、出て行ってしまう。 朱里「 : : : 何だか、疲れちゃって : で続くのかなって : : : 何か、キリがない 聖子「いってらっしゃい なって」 呟く聖子。 朱里「やめても、続けても、ここにいる限り 石巻 x x 中学校教室 始業前、生徒たちが集まって、おしゃべずっと、こういう気持ちを引きずって生き りをしている 続けるのかなって思ったら、何だか遣り切 舞がやって来ると、話すのをやめ、舞の れなくって」 堀内「大阪に来たらええやん」 席を見る 朱里、堀内の顔を見て、 舞の机、「卑怯者』『人でなし』『仲間を 見殺しにした」「アンタが死ねばよかっ朱里「えっ ? 堀内、朱里にキスする たのに』「呪われろ』等、落書きだらけ。 驚く朱里。 舞、消しゴムで落書きを消す。 油性マーカーで書かれた落書きは消えな堀内「俺が大阪に帰る時に、一緒に来たらえ えやん」 消しゴムで消し続ける舞。 朱里「何、言ってるの」 堀内「来年、卒業やろ。大阪の病院に就職し たらええやん」 お好み焼き屋 堀内と朱里が鉄板を挟んで座っている。朱里「お父さんが許してくれるわけない」 朱里、浮かない顔でお好み焼きを半分残堀内「俺、言ったろか ? 」 している。 朱里「何を ? 堀内「どうしたん ? 今日は元気ないやん」堀内「俺がちゃんと責任持って面倒みますっ 朱里「 ( ぎごちなく笑って ) ちょっとね」 朱里「 : : : 何か、結婚の報告みたいー 堀内「もう出よか ? 」 堀内「そう思われんの、嫌 ? 」 朱里、頷く。 朱里、照れて俯く。

9. シナリオ 2016年5月号

堀内、瑞穂に謝るように手を合わせて、〇 がスライドショーのよ、つに流れている 神戸小学校 ( 一九九五年 ) 堀内「悪いけど、これ俺のモットーやねん。 避難してきた人々でごった返す校内 カメラマンや友人がケーキの前まで来て すまんな」 菓子バンとミネラルウォーターの配布の 写真を撮っている 堀内、上着を取るとフロントへ電話する フラッシュの嵐。 列に田之倉俊明 ( ) の姿がある 堀内「一人、先に帰るから」 ボランティア「すみませ 5 ん、菓子バンはあ 受話器を置くと、瑞穂を見もしないで出 と十個で終わりで、す」 〇カフェ て行ってしま、つ 列の後ろの方に並んでいた人々が帰って 事務服姿の朱里が浮かない顔で座ってい る。 瑞穂、ソフアに座り込む 俊明、チョココロネを受け取る 目の前にあるべペロンチーノをフォーク 〇バン屋 に巻き付けるだけで、食べようとしない。 トレイとトングを持った田之倉がパンを〇同グランド 朱里の携帯が鳴る。 物色している 人混みから離れて、校舎の外へ出る俊明。 着信画面には堀内慎吾の名前。 携帯が鳴る。 校舎を背に座り込んで水を飲む 慌てて出る朱里。 田之倉「もしもし」 グランドで自衛隊員が仮設のトイレ等を朱里「もしもしつ、もしもしつ 朱里の声「慎吾と全然連絡が取れなくて・ : 設置しているのを、ばんやりと眺める 朱里の顔が見る見る輝きだす。 メールもないし、何かあったのかなって、 少し離れたところで、堀内慎吾 ( 6 ) が 心配で : : : でも誰に聞ナま、、 。ーししのか分から 俊明の持っているチョココロネを見つめ〇 朱里のマンション なくて」 ている べッドに横たわる堀内と朱里。 田之倉「 : : : わかった。俺の方からも連絡し 視線に気づいた俊明、チョココロネを差 堀内、朱里の髪を撫でている てみるから : : : 」 し出す。 朱里「もう別れちゃおうかって思っちゃった」 電話を切った田之倉。ため息をつきなが 慎吾、チョココロネを受け取ると、ロや堀内「別れる ? なんで ? 」 ら。 手が汚れるのも構わす、ガッガッ食べる。朱里「だって全然連絡もっかないし、不安だ 田之倉「アイツ、何やってんねん」 し、寂しいし」 トングで総菜パンを掴んでトレイに乗せ〇 大阪結婚式場三 0 一四年 ) 堀内「何でそんな事、言うん。朱里は俺のこ る田之倉。 タキシードにウェディングドレス姿の堀と好きやから、別れられへんやろ」 隣に並ぶチョココロネに目を留める 内と江梨香がケーキカットしている 朱里「うん」 バックのプロジェクターでは二人の写真堀内「もうそんなん考えたらアカンー 4-

10. シナリオ 2016年5月号

堀内「府の職員 ? まあ、ウソゃないな」 一軒の居酒屋の前で立ち止まる。 小杉「お、ここやここや」 店内へ入っていく。 〇 居酒屋店内 小杉「あ、おったおった」 月杉がリサやレイコたちに手を振る 小杉、瑞穂を見て、 小杉「一人ピミョウな子がおるな。あの子の 向かい誰が行く ? ジャンケン ? 堀内、瑞穂を見て、 堀内「俺、行ったるわ。 小杉「ええんか ? 残り少ない独身の日々な んやろ」 堀内「まあ美人ちゃうけど、そんな悪ないや ん」 堀内、俯いて座っている瑞穂の前に立つ。 堀内「ここ、ええ ? 瑞穂、驚いて顔を上げる。 ケ 堀内、返事も待たすにさっさと座る プ 瑞穂、不審そうに堀内を見る ア の 堀内、余裕のある笑みを浮かべている ュ〇同外 チ 合コンメンバーたちが店から出てくる 小杉「カラオケ行く人、この指と 5 まれ ! 」 シャワー音が消えて、下半身にタオルを 皆、競うように小杉の指を握る 巻いた堀内が出てくる その場から離れていく瑞穂を、堀内が追 堀内「自分も入って来いや」 瑞穂、タリウム入りのミネラルウォー 堀内「送るわ」 ターをグラスに注ぐ。 瑞穂「結構です」 堀内「自意識過剰ゃなあ。どうせ処女やろ」瑞穂「これ」 堀内にグラスを差し出す瑞穂 瑞穂、堀内を睨み付ける 堀内、瑞穂を見ている 堀内、ニャニヤ笑っている 堀内「さっさと捨てた方がええで。俺、手伝っ瑞穂「 : : : どうしたの ? 」 堀内「いや : : : 何か意外ゃなって思って」 たろか」 瑞穂、笑顔を作って、 瑞穂、再び歩き始める 堀内「アホゃな。見栄やらプライドやら気に瑞穂「飲んで」 堀内、不審そうに瑞穂を見ている しとったら、自分なんか、一生処女のまま 瑞穂の顔に、わずかに焦りの色が見える。 やで」 堀内「やめとこ」 瑞穂、立ち止まる 瑞穂の前を素通りして、ソフアにたたん 堀内、瑞穂の隣に立って肩を抱く で置いてある服を着始める 堀内「行こか」 瑞穂「・・・・ : ど、つして」 瑞穂、堀内を強い視線で見る。 堀内「お金置いていくから。電車なかったら 泊まってったらええやん」 〇ラプホテル室内 シャワー音が聞こえる 瑞穂「どうして ! 」 堀内、瑞穂を見て、 ソフアに座っている瑞穂。 かたわらにはキチンとたたまれた堀内の堀内「俺、意外性って信じへんねん」 瑞穂「意外性 ? 」 衣類が置いてある カバンの中から粉末の硫酸タリウムを取堀内「人が意外な事してると、何か企んでる ような気がして落ち着かへん」 り出すと、ミネラルウォーターのポトル に入れて振る