かね子「もしもし : : : あ、お早ようございま 海岸 す。あの、電報が来ておりますけど」 バリ画廊 ( 朝 ) 海を見つめている李枝 館林「そ、つらしいですね : : : ああ、かまいま 李枝の声「だから私は三崎のことだけは館林 5 2 李枝の家・廊下 ( 朝 ) せんよ : : : ど、つぞごゆっくり・ : : ・ああ : に知られたくなかった。三崎に対する自分 李枝が電話に出ている その後うまく行ってるんですか ? 」 の気持の正体を、誰に知られようと、館林李枝「電報 ? どこから ? : : : 大阪から ? にだけは知られたくなかった」 : そ、つ・ : : ・館林さん、まだ来ない ? : 四李枝の家・廊下 ( 朝 ) そう : : : じゃ、読んで頂戴」 李枝「それがね、何だかたまらなく厭になっ て来ちゃって困ってるの : : : とても各嗇で 幻李枝の家・寝室 ( 朝 ) バリ画廊 ( 朝 ) 威張ってばかりいるでしよう : : : 」 李枝が寝ている かね子「はい、読むんですね ? ( 電報を開い 廊下の方で電話のベルが鳴る。 て ) 八ヒ一二ジギンザシセイドゥニテマッ 釦寝室 ( 朝 ) カドイ」 みつが布団をたたみながら、ふっと電話一 廊下 ( 朝 ) もう一人の事務員武田潔が表の通りを見 の方を気にする。 婆やの坂口みつが電話に出る て、 李枝の声「じゃ、とにかくお昼に逢って、そ一 みつ「もしもし : : : はあ : : : よ、 ( し : : : ちょっ武田「あ、館林さん、来たぜ」 れからお店へ行きますから・ : とお待ち下さい」 かね子「え ? あら、そ、つ・・・・ : もしもし、今、 : ↓まい、十つよっ 館林さん、見えましたけど : 引銀座資生堂 寝室 ( 朝 ) とお待ち下さい」 李枝が入って来る みつが来て、ガラガラと雨戸を開ける 館林が入って来る 一隅の卓に角井がいる 李枝が眼を覚ます 館林「お早う」 李枝「遅くなりました ( 椅子にかける ) ー 李枝「ああ・・・・ : もう何時 ? 」 武田「お早うございます。お電話です」 角井「商売は忙しいか ? 」 みつ「九時過ぎましたよ。お店からお電話で館林「え ? 」 李枝「ええ、まあ : ・ ございますよ」 角井「何食べる ? 」 李枝の家・廊下 ( 朝 ) 李枝「紅茶」 4 バリ画廊 ( 朝 ) 李枝「あ、館林さん ? お早う : : : 大阪から角井「食事は ? 」 女事務員の新藤かね子が電話に出ている。電報が来ちゃったの」 李枝「今あまりいただきたくないんです」
館林「ここの主人の白川さんです」 李枝「買物もあるんで、一一時には出ないと」 バリ画廊の表 李枝「はじめまして」 館林「それまでには僕は帰れないな。じゃ、 司が歩いて来て、画廊の表で立ち止る。 司「いやあ、司です」 行ってらっしゃい。明日は出ますね ? 」 画廊の中から館林が飛び出して来る。 李枝「お名前はかねがね : : : 」 李枝「勿論よ」 館林「やあ、いらっしゃい」 館林「僕が教えるまで知らなかったんだから館林「 ( 司に ) じゃ、出ましようか」 司「ちょっと近くまで来たんでね」 司「どうもお邪魔しました」 ひどいもんです」 館林「どうぞ、さあ」 李枝「まあ」 李枝「ほんとに失礼いたしました。また今度 二人、中へ入る。 司「当然です、僕の名前なんか : : : お仕事どうぞごゆっくりお越し下さいませ」 はどうです、面白いですか ? 」 司「ええ、そのうちまた」 内部 館林と司、出て行く。 李枝「さあ、まださつばり」 館林と司が入って来る 館林「その通り、ちっとも身が入らなくて困 李枝、ホッとしてあたりを見廻わす。 李枝が椅子から立って迎える。 ります」 李枝の声「箱根で同窓会があるなんて嘘だっ 李枝「いらっしゃいませ」 李枝「まあ」 た。今日の午後、三崎と横浜以来はじめて一 会、つことになっていた」 司「やあ ( 軽く会釈して、館林に ) なかな司「いやあ、商売となると、大変ですよね」 李枝「かね子さん」 か立派なお店じゃないか ( と店の中を見廻李枝「はあ」 わす ) 」 館林「折角お出でになったのに、僕はこれか かね子「はい 館林「もう少し広いといいんですが」 ら美術館へ行かなくちゃならないんで」 李枝「出かけますからね、もし電話がかかっ 司「いやあ、これだけあれば結構だよ」 司「あ、僕も・・ : : 」 て来たら、三時半に銀座の資生堂でお待ち 壁の絵を熱心に見る。 していますと、返事しておいて頂戴ー 李枝「あら、どうぞごゆっくり」 司「いや、もう一軒寄るところがあるんでかね子「どなたにですか」 李枝「 ( 小声で ) 館林さん」 館林「え ? 」 李枝「誰でもいいわ。とにかく私を呼び出す す ( 館林に ) 一緒に出よう」 館林「そうですか。じゃあ、追い立てるよう電話があったら、そう言っておいてくれれ ば判るの : : : 男の方よ」 館林「あ、そうか : : : 司さん、ちょっと」 ですが ( 李枝に ) あなたは今夜同窓会だと か言ってましたね」 かね子「はい。そう言えはいいんですね」 司「え ? 」 李枝「ああ忙しいわ。躰が二つぐらいあって ロ館林「この間、八田家で紹介しなかったって李枝「ええ、箱根へ行きますー 怒られたんですが」 館林「箱根 ? そんな処でやるんですか何も足りないくらいー 李枝「まあ」 時に出ます ? 」 9 6 9- 8
李枝「いえ、出かけるのはやめましたの」 司「ちょっと面白いものです。ロートレッ かね子が電話に出る。 司「そうですか。じゃあ、よかったらお茶クが競馬に行って予想表の裏にらくがきしかね子「もしもし : : : はい : でも」 たものです。太った人物の顔ですが、見て さんという方からはお電話はありませんが、 李枝「はあ」 いると、とても面白いものです。ビフテキ 角井さんという方から二度も三度もありま を毎日のように食べている男の顔です。余したわ」 喫茶店 り教養はないでしようが、人はいいと思い 館林が横から受話器を取る 一隅の席に司と李枝がいる ます。油ぎっていて、少しおっちょこちょ館林「まだいるんですか ? ・ : : ・え ? : : : ・ 司「館林君とは実にい、 し人を擱まえました いで、何とも言えず面白い顔です。身長は、 同窓会で箱根へ行くということでしたね ね。あの人なら店をまかせておいて心配あ そうですね、日本流に言えば五尺六、七寸 : さっきから今まで何をしていたんで りませんねー ぐらい、体重は十九貫か二十貫というとこす」 李枝「はあ」 ろでしようか。身分は中流商事会社の幹部 司「絵は恐ろしいほど判ります」 で、専務ぐらいのところまで行ってますね。 喫茶店 李枝「そうでしようか」 人がいいくらいですから、女には惚れつほ李枝「そりや、私だっていろいろと用事があ一 司「僕の知ってる人では、ちょっとありま いです。女の人では一生苦労するタイプで るわ」 せんよ、あれだけの人は : : : 大事にしてあす」 げて下さいー 李枝「あの、それ、絵に描かれている人のこ バリ画廊・事務室 李枝「大事にしますわ。私の方が何も判りま とですか ? 」 館林「一体、そこどこです」 せんもの」 司「そうです。ロートレックのデッサンで 司「そんなことはないでしよう」 喫茶店 李枝「いいえ、本当に何も判りませんわ。館李枝「はあ」 李枝「私のいるところ ? 」 林さんにすすめられて、やみくもに始めた司「やあ、どうも僕ばかりお喋べりをして 仕事ですもの」 : 出ましよ、つか」 7 。ハリ画廊・事務室 司「ロートレックの絵はお好きですか ? 」李枝「私、ちょっと電話を」 館林「そうです」 李枝「はあ」 立って電話のそばへ行き、ダイヤルを廻 司「ロートレックの小さいデッサンがあり す。 喫茶店 ますが、今度差上げましようか」 李枝「銀座 : : : そしてとてもすてきな方と一 李枝「はあ」 バリ画廊・事務室 緒なの ( ガチャリと電話を切って司の方を
李枝「あとでちょっと二階へいらして」 館林「たとえ店主だろうと社長だろうと、店館林「どっちなんです ? 」 そう言って二階へ上って行く の金を費う以上はそのくらいにしておかな李枝「違うわよ」 いと」 館林「 ( 煙草に火をつけながら ) 百万円はい ニ階の部屋 李枝「いいわ、出します」 っ要るんです ? 」 ソフアがあって、李枝の個室になってい かね子が上って来る 李枝「え ? 」 る。 かね子「マダムにお電話です。三崎さんとい館林「さっきの話ですよ」 李枝が入って来てグッタリとソフアに腰う方からです」 李枝「ああ : : : とにかく話をつけてからでい を降ろす。 李枝「そ、つ」 いわ」 館林が入って来る 階下へ降りて行く。 館林「なんです ? 館林も続いて降りる △△ホテル ( 夜 ) 李枝「百万円暫く融通出来るかしら , 館林「店の金ですか ? - 事務室 ロビイ ( 夜 ) 李枝「ええ」 李枝が電話に出る 一隅で角井と李枝が話している 館林「何に費うんです ? 」 李枝「もしもし : ・ 角井「百万円なんてそんな金、受取るわけに 李枝「きれいにしたいんです。あの人とのこ はいかん」 と」 電話をかけている三崎 李枝「でも私はやつばりはっきり別れたいん 館林「角井氏とのことですか ? あれ、貰っ三崎「盲腸が急に化膿して来ちゃったんだ。 です」 たんじゃなかったんですか ? 」 すぐ大に入院する : : : そのことだけ言っ角井「そんな話をこんなとこで : : : とにかく 李枝「あの時は貰ったつもりでも、きれいに ておこうと思ってね」 部屋へ行こう」 する時は返したいわ」 李枝「いやです」 6 館林「まさか、先方だって取らんでしよう」 事務室 角井「何かあったんやな、君、さっきからそ 3 李枝「取っても取らなくても、私は返したい李枝「まあ : : : 」 わそわして」 んですー 電話はガチャリと切れて、李枝も受話器李枝「私、今夜は失礼します」 館林「じゃ、気のすむようになさい。百万円 を置く。 角井「ならぬ」 は出してあげます。三ヶ月だけ。但し利息館林「三崎さんて、貿易商の三崎洋一氏です李枝「ごめんなさい ( 立って歩き出す ) 」 を取りますよ」 か ? 」 角井「おい、待たんか ( 立って追おうとする 李枝「ずいぶんちゃっかりしてるのね」 李枝「ええ : ・ いえ」 はずみに灰皿をひっくり返す ) あっ : : : 」 3 8
河口 脚色権藤利英 監督 " 中村登 原作 " 井上靖「中央公論せ刊 1961 年松竹作品 ( 特集・シナリオ作家井手俊郎 〈スタッフ〉 製作 撮影 美術 音楽 録音 照明 編集 〈キャスト〉 白川李枝 岡田茉莉子 館林吾郎 山村聰 司梶太 田村高廣 角井清一郎 東野英治郎 三崎洋一 杉浦直樹 宮原大三 滝沢修 新藤かね子 町田祥子 川金正直 武田潔 坂口みつ 水上令子 松村屋のお内儀沢村貞子 看護婦 山内幸子 深澤猛 厚田雄春 佐藤公信 黛敏郎 吉田庄太郎 青松明 杉原よ志
館林「散々だな ( 嬉しそうに ) ところで近い かね子が入って来る 角井「ほう ( 階段の方を見上げて ) ここに うちに京都へ行きませんか」 かね子「あの、大阪の角井さんとおっしやる 泊ってるんか ? 李枝「京都 ? 」 方が : : : 」 李枝「 いいえ。でもお二階にも泊れるように 館林「上大路という有名な所蔵家が大きな売李枝「え ? 」 はなっています」 立てをするんです。店を休んで行きますか」館林「角井」 角井「ほう ( ちょっと声を低くして ) 今日、 李枝「一人で行って来たらいいじゃありませ李枝「 ( 小声で ) いやね、お店へ来たりして 出られるか ? 」 んか」 : どうかして頂戴」 李枝「だめ」 館林「めったに見られない売立てだから、あ館林「どうかしろって、僕は駄目ですよ。こ角井「じゃ、 いつ」 なたも見ておくといいと思うんです」 の間の金は返してあるんでしよう」 李枝「私、もうちゃんとしたいんです。いっ 李枝「二人で行くとまた大変なことになる李枝「それがまだ」 かお話したように」 館林「まだ ? 」 角井「じゃ、そのことどこかで相談しよう」 館林「大変って ? 」 李枝「だって、受取らないんですもの」 李枝「相談するもしないもないじゃありませ 李枝「あなた、気が大きくなって、この前み館林「困ったな ( そっと店の方をのぞいて ) んか」 たいに見るものやたらに欲しくなるでしょ僕はああいう人物は弱いんだ」 角井「そんなことは通さん」 、つ」 角井が建物の内部をジロジロ見廻わして李枝「この前のお金 : : : 」 いる 館林「じゃ、僕だけ行きますか司さん、がっ 角井「金の話は聞かん。僕は君の出方次第で、 かりするだろうな」 事務室から李枝が出て来る 君が別れよう言うたらいつでも別れてやる 李枝「あら、司さんもいらっしやるの ? 」 角井「やあ : : : ええ店やないか。たいしたも そやけど、顔を潰されては別れとうても別 館林「行きますよ、勿論。司さんが盛んにあ んや。この絵、ええのか ? 」 れへんで」 なたにも見せておけと言うんです」 李枝「ええ、この頃急に有名になった人の絵李枝「三崎さんのことおっしやってますの ? 」 李枝「そう」 です」 角井「そうや」 館林「めったに見られないものですからね。角井「幾らぐらい ? 」 李枝「私、あの人とは何でもありませんの」 買うとか買わないとか、そんな商売を離れ李枝「さあ、確か三十万円か三十五万円ぐら角井「嘘言え」 ても、絵の仕事に携っている者なら一応見 李枝「ほんとです。嫌いよ。あなたよりもっ ておくべきものでしようね」 角井「高いんやな」 と嫌いなくらい」 李枝「じゃ、仕方がない。私も行くとしよ、つ李枝「この人の新しいのはもっと高いんです。角井「ご挨拶ゃな」 かしら」 それ五、六年前のものですから」 李枝「だって、本当ですもの。私、この頃、 9 ・
かね子「はい」 館林「病院へ入ったんですか」 館林「いいのだけ 館林「これ、速達で頼む ( と手紙を渡す ) 」李枝「ええ、盲腸で : : : 」 李枝「だから、どれ ? 」 かね子「はい ( と出て行く ) 」 館林「 ( 烈しく ) じゃ、やつばり三崎洋一じゃ館林「買うなら 、いい奴、みんなですよ」 館林「今日、八田家の売立てに行って来ますないですか」 李枝「みんな ? みんなって、大変な額にな るでしよう」 李枝「そう、私も行くわ」 館林「そりゃあ、額は張るでしようが : : : し 館林「用事があるんじゃないですか ? 」 八田家・サロン かし交渉次第でまとめて買った方が安くな 李枝「いいえ、どうして ? 三十点ほどの洋画が並べられてあり、十 ると思う。三分の一は直ぐでも捌けるし、 館林「じや一緒に行きましよう」 数人の男たちが見て廻っている あとは寝かせておけばいい。 寝たとしても 玄関の方から館林と李枝が入って来る。 半年ですよ」 走る自動車の中 顔見知りの人に軽く挨拶して、絵を見は李枝「一体どのくらいかしら」 館林「さっきの電話、三崎洋一氏からでしょ じめる 館林「さあ。ほしいのは十点前後、一千万円 館林「ユトリロです。危ないな、これは」 かな」 李枝「違うわ」 李枝「危ないって、偽物ってこと ? 」 李枝「一千万円 ? そんなお金、とっても出 館林「本当に違いますか」 館林「そうですー せないわ」 李枝「くどいわね , 李枝「どうしてわかるの ? 館林「店を抵当に入れられるでしよう」 館林「電話で話している時のあなたの顔、 館林「何となく : : : ねー 李枝「そんな : : : 」 つもと全然違ってましたからね」 李枝「私にはさつばり・ : 館林「あっ : : : 」 李枝「嘘おっしゃい」 館林「駈け出しにわかってたまるもんですか」 一方を見ると、李枝を放ったらかして歩 館林「本当ですよ。あれじゃ誰にだって判る。李枝「駈け出し ? 」 き出す。 あんなところ、なってませんよ。一生懸命館林「これは真物です。デュフィです」 館林「司さん ! 」 匿そうとしている」 プラマンクの風景、プラックの静物、楢 司梶太が振り返る 李枝「何も匿していることなんかないわ。あ 重、劉生、藤田など 司「やあ」 の人同じ三崎さんでも、貿易商の三崎さん館林「いいのは手に入れてみますか」 館林「しばらくでした」 じゃないのよ」 李枝「売れていないかしら」 司「ああ」 館林「いっからなんです ? 」 館林「そう簡単には売れませんよ」 館林「いいものがありますね」 李枝「いや、そんなこと」 李枝「何を買います ? 」 司「うん」
河口 見る ) 」 館林「え ? 一体誰です ? 」 しやくしゃなのよ」 李枝「誰だと思う ? 」 館林「当り前でしよう。男が二人も三人もか 銀座 ( タ ) 館林「知りませんよ」 ち合えば、誰だってくしやくしやになる」 ネオンが明滅しはじめる。 李枝「あててごらんなさい」 李枝「いやだわ、かち合ったなんて」 館林「誰でもいいですよ。全く、あきれて物館林「自分で言ったくせに」 8 パリ画廊 ( タ ) が言えない ! 」 李枝「言ったかしら」 李枝が帰って来る。 足許を見ると、李枝の靴が離れ離れに飛館林「あれだ ! 」 武田「お帰りなさい」 び散っている 李枝「私ね、二人ともきれいさつばりしてし 館林「靴ぐらいちゃんと脱いだらどうです」 まいたいの。厭でしよう、いつまでも」 軽くうなずくと、そのまま一一階へ上って李枝「揃えて頂戴」 館林「ほんとですか ? 」 行く 館林「揃えろ ? 」 李枝「ほんとよ」 顔をくしやくしやにするが、言われたよ館林「それで ? 」 ニ階の部屋 ( タ ) うに靴を揃える 李枝「角井に返すお金を出して頂戴」 李枝が入って来ると、戸棚の中から洋酒李枝「暑いわ、窓を開けて頂戴」 館林「出しますよ、あなたの金だから」 の瓶を出して、コーヒー茶碗にあけて飲館林「なんです、女だてらにウイスキーなど李枝「あるの ? 」 む。 飲んで」 館林「あるか、ないか、自分の店の金を知ら 窓を開ける。 館林が入って来る ないのかな」 館林「一体どうしたんです」 李枝「お冷やがほしいわ。かね子さんを呼ん李枝「知ってるわ」 李枝「だって、かちあっちゃったんですもの」 で頂戴」 館林「いいかげんなこと言ってる。もう少し 館林「何がかちあったんですー 館林「ああ、もうこの店は駄目だ。まるで狂ちゃんとして、たまには店の帳簿ぐらい覗 李枝「判ってるくせに」 人だ」 いてくれないと困る」 館林「・ : 荒々しく出て行こうとする。 李枝「だから、これからちゃんとするために、 李枝「三崎さんと角井がかちあっちゃったの李枝「待って ! 」 、つるさい問題を片付けよ、つとしてるんじゃ よ。とんきようったらありやしないわ。私、館林「え ? ない」 もう厭になっちゃった」 李枝「私、どうしたらいい ? 館林「角井氏の方はそれでいいとして、三崎 館林「すてきな人って、三崎ですか ? 館林「どうしたらいい ? 氏の方も本当にちゃんとするんですか ? 」 李枝「ああ、それはまた別の人」 李枝「一人で考えきれないの。頭の中がく李枝「疑ぐってるの ? 」
角井「早速やが、どうせ画商として立つんやっ へんか」 たら、僕が改めてまとまった金を出すさか 事務室から 大 オ い、ここの三倍ぐらいの店にして、もっとかね子「マダム、お電話ですけど」 汁 人 派手にやってみたらどうや」 李枝「そう」 人 新 映 李枝「私にはもうおこりになってるでしょ角井「じゃあ、乂 : すごすごと表へ出て行く。 角井「ううん、俺は君のために金を費わな 李枝、電話に出る。 筆剏受 かった。それで君の気持がぐらついたんや李枝「もしもし : : : 」 執 と思う。今度は思いきり費、つつもりや」 マ 李枝「お金は今のところ要りません」 電話をかけている 5 ラ 小 角井「では少し儲けさせてやろ。五百万円で三崎「どうしてももう一度会いたいんだ」 坂 も六百万円でもええから、ちゃんとしたも ン 門ョ ビル 町部マ のを手に入れてくれんか」 電話をかけている 合送港 刻マラ作ク男タ一 場お なで都 度ラド原口美ン 李枝「五百万や六百万では、世界的に名の李枝「私、手切金までいただいたんですのよ 便等京 手東 通った画家でしたら、大したもの買えませ リ叮ビ秀 4 どうして、乂、電話なんか下さるんです ? 」 ナ成レ山 6 んわ。ゴッホなんかのもので、一千万円以 求 お 下のものはめったに見当りません」 電話をかけている な で現 角井「一千万円でもええ。買うて来い」 三崎「僕の方は手切金を貰った方じゃない。 すル発 。替 . 回 2 李枝「買えませんわ」 やった方だ。電話をかけてもそんなに怒るざマ日 さ便 5 角井「ないのか」 ことはないだろう」 を 月 9 文を イ 李枝「ありますけど、ちゃんと名の通った人 7 送注額 7 へえ タ ク でないと先方で手離さないと思いますわ。電話をかけている 店加図 やはり収まるべきところというのがありま李枝「じゃ、又、取りますわよ」 ラ はに替 すものね」 6 学 9 を一 ロ角井「ふむ」 電話をかけている 価れ込 定に税 シ脚月 李枝「どうぞお帰りになって」 三崎「勿論、乂、新たに出すよ」 店社 角井「 ( 未練がましく ) 支店の方へ一度来い 創作のヒント満載 ドラマ 大森寿美男シナリ : い、 . 号告 次予
奥寺直すのが楽しいなぐらいに思ってやらないと。ただ、 一人で直すのは大変ですよ 質問Ⅱ ■細田監督作品は、家族観がとても独特だという印象なんで すが、父親観や母親観など。それは世代によってバラバラ だったり、家庭によって違うと思うので、かなり究極なもの ですよね。ご自身が納得できない価値観の作品を依頼された 場合、徹底的に議論を交わされると思うのですが、それでも 納得できない時はどうされるのでしよう ? 監督の意志を尊 重して寄せるのか、それともご自身なりの解釈をこっそり脚 本に盛り込んだりするのでしようか ? どちらに比重を置く のでしょ一つか ? 奥寺確かに価値観の違いは、細田監督に限らず仕事をして いる上であります。私は最終的には監督のやりたいことを重 視しますが、「お客さんが観てどう思うか ? 」という問いカ けは、必す監督にし続けます。自分の意見を通すというより、 独りよかりになっていないかと、つかとい、つことの方が気にな ります。 質問ロ ・シナリオハンティングは自費ですか ? それとも、このス ケジュールで行くのでと費用をお願いするのでしようか ? 奥寺それは予算によってケースパイケースですね。予算が ない時は自費で行きます。予算がある時は、監督・プロデュー サーとシナハンをかねて行ったりします。 吉田笠原和夫さんも、自費でも行くぐらい重視していたそ うですね 奥寺自費でもシナハンは行った方がいいですね 吉田笠原さんが自著で書かれていましたが、シナハンで 行った先の神社に寄って、玉垣に刻まれた寄進者の名前を見 ると、その土地に多い名前が分かるからメモしていたとか その土地に合った名前を調べるのに合理的ですね 奥寺素晴らしいですよね。私も今度やってみます。 質問 ・作品のインスピレーションは、どういったところから受け ているのでしようか ? 奥寺原作がある時は、自分がこの原作を好きなのは何故か を考えて、その中でインスピレーションを探していきます。 「この話のここがいい ! 」というのを確実につかむことでしょ うか。一度つかむと、それが核になってアイディアが広がっ ていきます 脚色のススメ 質問図 ■原作からインスピレーションを感じるシーン、感じない シーンの取捨選択の基準は脚本家にあるのでしようか ? 奥寺一番初めは脚本家にあると思います。打合せで「なん 4