三崎 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年8月号
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1. シナリオ 2016年8月号

河口 李枝「変ね、今お客様だとおっしやったわ」 三崎「階下のロピイへ行こう」 電車の中 ( タ ) 三崎「客さ、客と言っていいだろう、訪問者 李枝「お部屋ではいけません ? 」 李枝が乗っている だから : : : 仕事で訪ねて来たんだ。病気で 李枝の声「退院した三崎から横浜の x x ホテ三崎「いや、ロビイへ行こう」 さっさと歩き出した三崎の後から、李枝休んでたんで、物凄く忙しいんだ。全くや ルに泊っているという連絡があった。三崎 りきれん」 は明日か明後日来いと云ったが、私はすぐ も仕方なく歩き出す。 李枝「さっき、私が来ないと思ったので、引っ 李枝「お客さま ? 」 にも会いたかった」 ばって来たとおっしやったわ」 三崎「いや : : : そう、客だ」 三崎「そんなこと言ったかな。明日の仕事の 李枝「どなた ? 」 横浜港 ( タ ) 打合せに向うからやって来たんだ」 船が浮んでいる 三崎「誰でもない。仕事の関係の人だよ」 李枝「その打合せとい、つの長くかかります ? 」 李枝「今 ) 」ろ ? 」 三崎「いや、すぐ終る」 三崎「君が来ないと思ったので、食事が終っ xx ホテル ( 夜 ) 李枝「どのくらい ? 」 てから引っぱって来たんだ」 タクシーが着いて、李枝が降りる 三崎「そうだな : : : 」 李枝「早く終るなら、私ここで待ってますわ。 ロビイ ( 夜 ) エレベーターが 6 階で停って 三崎と李枝が来て、窓際のソフアに腰を早くお返しになったら ? あなたのお部屋一 へ行って待ってもいいけど、ここで待って 下す。 廊下 ( 夜 ) エレベーターから降りた李枝が、三崎の三崎「夜だから判らないが、昼はここから海た方がいいでしよう ? 」 三崎「うん」 が見える」 室の前に立ち、軽くノックする。 李枝「ここ、暗いので倖せでしたわね」 李枝「男の方 ? 女の方 ? 返事がない。 三崎「どうして ? 」 三崎「何が : : : ああ、客か : : : 女だ」 もう一度ノックする。 李枝「明るいところだったらお困りでしょ 内部に足音がして扉が細目に開けられる。李枝「二十代 ? 三十代 ? 」 ズボンにセーターの三崎が姿を現わすと、三崎「二十代だ」 三崎「何が」 すぐに廊下へ出て、後手に扉を閉める。李枝「私より若いのね」 三崎「随分早かったんだね。明日来るかと三崎「若いも若くないもない。仕事で使って李枝「顔色見られて」 三崎「君は何か誤解してるな」 る女だ」 思った」 李枝「またそんなこと。素直でない人、私嫌 李枝「でも、少しでも早く会いたかったんで李枝「あら、お客様じゃありませんの ? 」 いだわ : : : さ、早く行ってらっしゃい 三崎「客じゃない」 すもの」 5 9

2. シナリオ 2016年8月号

れいにしますわ」 が惨めで情なかった。おそらく愛情という 三崎「僕は男の側だから、そうしたくても簡三崎「僕だって別れたくないさ。でも君が信ものは今の私達とは無関係な何か違った形 のものであろう」 単に切り離せない場合もある」 じられないと言えば仕方がないー 三崎が寝返りを打って眼を覚ます。 李枝「お気の毒ね」 李枝「私だって信じないとは言ってません。 三崎「君は厭な言い方ばかりするんだね。そ 遊びだとも思ってないわ。それを別れるな三崎「何時だ ? 」 李枝「六時頃でしよう」 ういうことは信じるか、信じないかだ。僕んて」 は少くとも君を信じている。君は僕を信じ三崎「もうつべこべくだらぬことを言うな」 三崎「よく眠ったな」 ることが出来ないというのか ? 」 李枝のそばへ来て荒々しく抱きしめる。李枝「私は眠れませんでしたわ」 三崎が李枝の躰の方へ腕を伸ばす。 李枝「そんなことありません」 李枝「 ( 三崎の胸に顔を埋め ) さっきここへ 来た人、何でもいいから、もう一一度と会わ李枝「お金都合していたゞけます ? 」 三崎「じゃ、なぜごたごた言うんだ。汚いと 三崎の腕が瞬間ピタリと止まる。 は何だ」 ないで。それだけ約東して」 三崎「金が要るのか ? 」 李枝「汚いわ」 三崎「わかったよ」 三崎「過去のことを断ち切ろうとして金を渡 李枝の躰を押すようにして寝台の方へ連李枝「八田家の売立てで十点ほど買いました。一 一千万円ぐらい」 そうとしていることがなぜ汚い れて行く。 三崎「ふうん」 李枝「なんだかうまく言いくるめられてるみ 李枝「銀行で借りたんですけど、少しだけ足 たい」 港ー夜が明ける りませんの。できたら融通していたゞきた 三崎「これほど言って判らなければ仕方がな い。この際僕たちこそきれいになろう」 いんです」 三崎の部屋 ( 朝 ) 三崎「どのくらい ? 」 寝台の上で李枝が眼を覚ます 李枝「きれいになるって ? 」 その横で三崎が背を向けて眠っている。李枝「二百万円ほど」 三崎「僕は君とのことは特別に考えていたん だ。世の中にざらにある情事なら、僕はも李枝の声「私は何かひどく悲しい夢を見て眼三崎「そうだな」 を覚ました筈だったが、眼を覚ました途端、李枝「お困りになる ? 」 う倦き倦きしている。何も君とまで苦労し てそんなことをすることはない。多少の未どんな夢だったかすっかり忘れてしまって、三崎「そうでもないが」 悲しみだけが残っていた」 李枝「何とかしていたヾけます ? 」 練はあるが、君とは別れてもいい」 三崎の健康な寝息が憎らしいほど規則正三崎「できんな」 ロ李枝「別れる ? 」 しく聞える 李枝の声「口先だけの脅しだわ、でも今三崎 と別れるなんて、私にはとても考えられな李枝の声「何か救われない気持だった。自分三崎「それ、仕事の金だろう。仕事の金は男 8

3. シナリオ 2016年8月号

めた」 とお待ち下さい ( 受話器を抑えて、李枝に ) あなたからだけは」 李枝「百年の恋ではあったのね」 電話ですよ、出ますか ? 」 三崎「人の言葉尻を捉えて、自分に都合のい李枝「ただ金額を訊いてみただけのことです李枝「誰から ? 」 わ いところばかり取るな。僕もただで遊んだ 。、いんです」 館林「三崎氏です」 と思われるのは厭だから、一応、これ受取っ 三崎「 ( ふいに口調を柔らげて ) まあ、金の李枝「居ないと言って頂戴」 ておいて貰いたい」 ことは金のこととして、話があるからホテ館林「 ( 受話器に ) お待たせしました。今、 ポケットから白い角封筒を出す。 ちょっと外出中です : : : さあ、何時頃帰る ルへ行こ、つ」 李枝「何ですの、それ」 かわかりません ( 受話器を置く ) 」 李枝「忙しいんです」 三崎「金だ」 三崎「忙しくたって、何だって、とにかくホ李枝「すみません」 館林「いいんですか ? 」 李枝「お金、そう ? ( 三崎の顔を見つめて ) テルへ来てくれ」 幾ら ? 李枝「厭です。今、別れるお話をしていたの李枝「いいも悪いも : : : 別れたいって言い出 したのは向うなのよ。それにあなただって 三崎「え ? : : : 額を知りたいのかー に、お話が違うじゃありませんか」 三崎のこと、あんなに厭がっていたくせに」 李枝「ええ : : : 私の自尊心を傷つけないよう三崎「怒ったのか。こっちだって怒ってる。 な額でしたらいただきます」 館林「そりやそうだが、女って一度気持が離 しかしまだ話はついていない」 れると、そんなに冷たくなるもんですかね一 三崎「三十万円だ」 李枝「では、ここで話して下さい」 三崎「ここじゃ話しにくい ふいに立ち上って二三歩歩き出す。クス李枝「話しにくいことなんか聞きたくありま李枝「きっと三十万円という金額がいけな クスと無性に笑いがこみ上げて来る かったのね」 せんわ。さようなら」 三崎も立ち上る つかっかと歩き出す。 館林「三十万円か」 三崎「まだ話がある」 李枝「それだけの金で、一人の女の心を値踏 三崎「おい みしたのよ。三十万円ってきいた時、私、 李枝「 : : : ( 黙って首を振る ) 」 追おうとするが、立ち止って、李枝の後 姿を見つめる。 三崎「三十万円で怒ったのか。じゃ、五十万 ()æ・ O) 何だかとてもおかしくって、笑いたくなる のをこらえるのに困ったわ。だって、何か 円にしよ、つ」 妙にリアルな感じがあるでしよう、三十万 李枝「いいんです、もう」 ハリ画廊 円という金額には : : 三崎が、つつかりさら 事務室の電話のベルが鳴る ロ三崎「それで不服なら、百万円にしてもいい」 け出した男のずるさって言、つのか : 李枝「お金なんか要りません。もともと、私、 館林が受話器を取る お金なんかいただく気はなかったんです、館林「もしもし : : : はあ、そうです。ちょっ かく滑稽だわ、醜悪だわ」

4. シナリオ 2016年8月号

こで待っててあげます」 三崎「お待ちどう・ : ・ : 部屋へ行こう」 三崎「君はさっき僕を汚いと言ったな」 三崎「うん ( と立ち上る ) ー 李枝「もうおすみになった ? ご用事は」 李枝「言いましたわ」 李枝「十分よ。時計見てますから、十分でそ三崎「うん」 三崎「そう言う君だって、僕以外に男の関係 の若い方返して下さい。きっちり十分経っ李枝「よくおとなしくお帰りになったのね」 はないと言ってたが、嘘じゃないか。僕は たら、私、お部屋へ行きますー 三崎はいきなり李枝の首を捻じ曲げて接ちゃんと名前も知ってるんだ」 三崎、黙ってソフアの傍を離れる 吻する 李枝「誰です」 一人になった李枝の顔に怒りがこみ上げ三崎「 ( 顔を離して ) 憤った ? 」 三崎「大阪の角井某 : : : 会ったこともある」 て来る。 李枝「今は何でもありません」 李枝の声「あの人の部屋に若い女がいる ! 」 三崎「部屋へ行こう」 三崎「前は何があったのか ? 」 サッと立ち上ってソフアの傍を離れる。李枝「いやですー 李枝「だから多少の引懸りのある人はあると 三崎「どうして ? 言ったでしよう。そうした関係は必らすき 廊下 ( 夜 ) 李枝「汚いから」 れいにすると言ったじゃありませんか」 李枝が三崎の室の方へ歩いて行く。 三崎「汚い ? 」 三崎「しかしきれいにしてないじゃないか」 室の前まで来ていきなり扉のノブに手を李枝「汚いわ。汚い、汚い」 李枝「何でもありません、今は」 かけ・よ、つと、す・るカノ ゞ、、ツとその手を止め三崎「先に行ってるから、来なさい」 三崎「君と角井との関係が現在どうなってい て、また逃げるように立去る つかっかと歩き出す。 るか僕は知らない。今は何でもないという その後姿をじっと見送る李枝。 しか 君の言葉を一応信じておいてもいい ロビイ ( 夜 ) しそうなるまでに僕に匿れて角井に会って 李枝が来て、ソフアの傍に立ち、窓から三崎の部屋 ( 夜 ) いた時期もあると思う」 夜の海を眺める 部屋着姿になった三崎が大きな椅子にか李枝「それはありますわ」 けて煙草をすっている。 三崎「君ばかりでなく僕だってそういうこと 港 ( 夜 ) 扉のノブがコトリと廻って、李枝が入っ はある。過去の引懸りを断ち切るにはある 赤や青の標識灯や汽船の灯が美しい て来る。 時間が要る」 三崎「馬鹿だな、君は。どうしたというんだ。李枝「それをおっしやりたかったのね。でも 8 ロビイ ( 夜 ) 僕がいけなかったら謝まる。昔、関係のあっ何時の頃の過去か知りませんけど、そんな 李枝の背後へ足音が近づく。 た女で、困って金の無心に来たんだ」 に時間が要るものでしようか私だったら 李枝は振り向かない。 李枝は椅子にかけずに窓際に立っている 一度切れたとなったら、あとはさつばりき -6 8 一

5. シナリオ 2016年8月号

河口 司と李枝が出て来る 下さいませ。適当な時間を見計って帰らせ三崎「一緒にお寺を歩いたのか」 司「どうでした」 ていただきますから」 李枝「ええ」 李枝「私、とても恥かしい思いをしました」司「では自由になさって下さい。帰りの車三崎「何だ、一体、君の ? 司「なぜです ? はフロントに頼んでおきますから、いつで李枝「何んでもありませんわ」 李枝「私、こんな恰好で行って ( と自分の赤もポーイにおっしやって下さい」 三崎「何んでもないことがあるか」 く塗った爪を見る ) 」 李枝「ありがとう ) 」ざいます」 司「別におかしくないじゃありませんか」司「じゃあ 三崎「君という女は一日でも男がなければ 李枝「尼さんと話しているうちに、たまらな と玄関の方へ去る。 やって行けない女だ。どうも変だと思って く恥かしくなりました。尼さんって何て美 いた。司なんとかに惚れたのか」 しいんでしようと思ったら、自分が情なく という声に李枝が驚いて振り向くと三崎李枝「惚れたなんて、いや、そんな下卑た言 なりました」 が立っている 葉ー 司「それは立場が違いますよ。尼さんも美李枝「あら」 三崎「急に上品になったものだな」 しいが、今日のあなたはとてもきれいです」三崎「とうとう擱まえた」 李枝「あなたの方が下品になったんですわ。一 李枝「こんなところまで」 前にはそんな口のきき方なさらなかった 司「次はどこへ行きましようか」 三崎「僕も関西に用があったんでね、ついで わ」 李枝「私、少し疲れましたので、ホテルで休 に追っかけて来たのさ」 三崎「判った、畜生め」 ませていただきますわ。それに京都へもそ李枝「あきれたわ」 李枝「まあ ( 通りかかったポーイに ) ちょっ ろそろ帰らなければなりませんし 三崎「暫く会わないうちに変ってしまったな。 と」 今、僕が声をかけたら、君はとっさに逃げポーイ「はい」 〇〇ホテル 出そうとした。ひどく嫌われたものだ」 李枝「車お願いしますわ。司さんが頼んで下 さった筈ですけど」 ロビイ 三崎「誰だい ? 今の男は」 ポーイ「ちょっとお待ち下さい ( と去る ) 」 司と李枝が休んでいる 李枝「司さん」 三崎「どうしても君が別れたいと言うのなら 別れるよ。ただそのことをもう一度お互い 司「僕は今夜ここへ泊ります。夕方までま三崎「司っていうのか」 だ少し時間があるから、僕は博物館へ行く李枝「司梶太。知りません ? 有名な建築家 が納得するように話し合いたいね」 ことにしますかな」 よ。とても偉いんじゃありませんかしら、李枝「お話しすることもうありませんわ。本 李枝「どうぞ、私の方はお構いなくいらして その方面では」 当の気持言いますけど、この前あなたが別 112

6. シナリオ 2016年8月号

館林「全く何が何だか信用出来ないからな」 お金を貸して下さっただけ」 三崎が新聞を拡げている 李枝「いいわ、信用出来ないんなら」 角井「貸したんやない。やったんや」 李枝が来る 館林「まあ、今度はあなたの言う通り信用す李枝「どっちでもいいわ。とにかくお返しし李枝「ごめんなさい ( とそばにかける ) 」 ることにしましよ、つ。金は明日の朝渡しま ます ( と小切手を差出す ) 」 三崎「こっちこそ、もうごめんだ」 す ( と階下へ降りて行く ) 」 角井「それ、三崎からの金か ? 」 李枝「ごめんって ? 李枝はグッタリとソフアの上に横になる。李枝「厭なことおっしやるわ。三崎さんとは三崎「今日ははっきりと話をつけよう。僕も 李枝の声「館林が疑がっている通り、私は三 お金の関係じゃありません」 ただ別れようとは思わない。恰好だけはっ 崎と別れる気はなかった。一日も早く角井角井「では、どういう関係や」 ける」 とのことを片付けて、三崎と会い、今日の李枝「知らないわ。これ、ちゃんとお店で儲李枝「・ : ・ : 」 ことを謝まりたかった」 (= ・ 0) けたお金ですー 三崎「お互い好きだとか嫌いだとかいう年齢 角井「まあ、いずれにしても貰うのはやめと じゃないし、まあ、浮気とい、つものは、こ △△ホテル・ロビイ こ。貰わんでおく方が無難や」 の程度だろうね」 角井と李枝が話している 李枝「私、忙しいのよ。では、これ、この次李枝「やつばり浮気だったの ? 」 李枝「私、取りあえずお金お返ししますわ。 のことにしますわ。今、受取って下されば三崎「まさか本気でもあるまい」 おかげでお店の方が少しうまく行くように簡単に済むのに ( 小切手をハンドバッグの李枝「私、本気よ」 なりましたの ( ハンドバッグの蓋をあけ 中へ仕舞い ) じや失礼します」 三崎「本気なら、他の男とごたごたやってる る ) ー 角井「帰るんか ? のはおかしいじゃないか」 角井「あの金は君にやったつもりや。別に今李枝「ええ ( と立ち上る ) ー 李枝「それ、角井さんのこと : ・ : 私、も、つあ 欲しくない」 角井「話があるんや」 の人と何でもないわ」 李枝「でも受取っていただかないと」 李枝「この次にしていただきますわ ( と歩き三崎「勝手なこと言、つな」 角井「その金を受取れということは、どうい 出す ) 」 李枝「やつばり怒ってらっしやるの ? う意味なんや ? 断っておくが、僕は君に角井「こら、待たんか ( 立って追おうとする三崎「怒らないと思ってたのか」 勝手な真似はさせへんで。人を利用するだ はすみに灰皿をひっくり返しそうになる ) 李枝「妬いてらっしやるの ? 」 けしといて、金を返しさえすればそれでえ あっ : : : 」 三崎「なにー えというんでは世間が通らんわ」 李枝はさっさと玄関を出て行く 李枝「今まで世間に通るようなこと、何もし 三崎「妬くもんか角井とどこへでも行け。 て下さったわけじゃないじゃありませんか xx 会館・ロビイ 僕はもうごめん蒙る。百年の恋も一遍にさ 4 9 ・

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李枝「私、今日、お願いがあって伺ったんで さい」 ビルの前 李枝「いいわ。じや今から行って三崎から手す」 李枝が出て来る 三崎「何だね ? 」 切金を取るわ。あなた、ついて来て頂戴」 李枝「お待ち遠さまー 李枝「手切金をいただきたいんですー 館林「いやですよ、そんなこと 角封筒を出して館林に一小す。 李枝「私一人では駄目だと思うの。会社の前三崎「手切金 ? 」 李枝「そうです。額はこちらからは申しませ李枝「どうしましよう : : : 破いてもいいの で待ってて」 ん。適当と思われる額をいただきたいんで 館林「いやですよ」 館林「預かっておきます , 李枝「命令よ。私が主人だから、主人の命令すー はきくものよ。ついてらっしゃい」 三崎「ほう : : : 手切金の要求か。なるほどね」李枝「 ( 封筒を渡し ) 私、しばらく一人で歩 いて来るわ。先に帰ってて頂戴ー さっさと歩き出す。 三崎「よし、出そう。君にとって満足かどう 三崎商事のあるビルの前 か知らないが、この前、君に渡そうと思っ 自動車が停って、李枝と館林が降りる た額の一一倍出そう」 李枝「じゃ、ここで待ってて下さいな」 鋪道 李枝が歩いて来る 李枝「結構ですー さっさと中へ入って行く。 李枝の声「私はひどく疲れていた : : : 不意に一 三崎は憤然と席を立って出て行く。 館林「馬鹿にしてやがる」 私は司を彼の家へ訪ねてみたくなった。突 と煙草をくわえる 然私を襲ったこの気持は、私自身どうする ビルの前 ことも出来ないほど強いものだった」 館林が吸殻を踏みにじる。 三崎商事・応接室 扉が開いて三崎が入って来る。 李枝が立っている。 郊外の道 応接室 司と李枝が歩いている 秘書課員が入って来る 三崎「どう ? 秘書「お待たせいたしました。では、これを司「よく訪ねて下さいました。丁度散歩で 李枝「 : ・ もしよ、つかと思っていたところですよ」 どうぞ」 三崎「まあ、どうぞ」 李枝「突然お邪魔して : : : 」 と角封筒を差出す。 李枝、椅子にかける 李枝「ありがとう ) 」ざいました」 ロ三崎「どう ? その後」 雑木林の中 その封筒の中をあらためもせず、ハンド 李枝「ええ、まあまあというところですー 一一人が歩いて来る ハッグへ入れると、さっさと出て行く。 三崎「そう」 103 ー

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から借りたりするもんじゃない。幾ら困っ李枝「じゃ、お金のことはいいわ。お金より から言ったわけじゃないのに : : : そ、つじゃ ても、仕事は仕事の方面で融通するものだ」本当は私、子供の方がほしいの」 ないですか男で誰が子供なんか欲しいも 李枝「勿論それが出来ればあなたなどにお願 三崎の腕が瞬間硬直する んか。あなただって子供を生みたがらない いしませんわ」 李枝「嘘よ。心配なさらなくてもいいの」 ことを相手はちゃんと知ってて言ったまで 三崎「出来なければ仕方がない。なり行きに 三崎「心配するものか子供なら大賛成だ。 のことだ。相手の方が余程、つわ手だ。それ 任せるんだな」 是非一人生んでくれ」 を手離しで喜んでいる。ああ厭だ」 李枝「邪慳なおっしやり方ね」 李枝「本当 ? 」 李枝「そう厭だ、厭だとおっしやらないで」 三崎「邪慳でも何でもない。仕事というもの 館林「言いますよ、いくらでも。実際に厭で はそういうものだということを言ってるん李枝の家・茶の間 ( 夜 ) すからね。全く情なくなる」 館林と李枝が酒を飲んでいる みつが顔を出す。 腹這いになって煙草をすう。 館林「子供æ: あなたはあの人物の子供を生みつ「お酒の後になってしまいましたけど、 三崎「君が着物がほしいとか、ダイヤがほし みたいんですか ? 」 お風呂が沸きましたから、よろしかったら いとか言うのなら、僕はどんな工面をして李枝「生みたくないけど、とにかくそう言っ どうぞ」 も金を造ろうと思うだろう。自分の好きな てみたの」 李枝「ちょっとお入りになったら ? それと 女がきれいになることは好きだからね。し館林「馬鹿な ! 生みたくないのに、なせそ ももっと後になさる ? 」 かし仕事に金を出すということは、たとえ んなことを言ったんです」 館林「今いたゞきます」 少額でもいやだ」 李枝「あの人の気持をひいてみたんじゃありみつ「じゃ、丹前を持って参りますからー 李枝「お店が潰れても」 ませんか」 館林「丹前なんかいりませんよ 三崎「うん」 館林「驚いたな」 李枝「どうして ? ゆっくりくつろいで、今 李枝「残酷ね」 李枝「そんなに驚かなくてもいいわ」 夜は泊ってらっしゃいよー 三崎「残酷なものか。潰れたらその時は拾っ館林「驚きますよ。そして生んでもいいと言館林「いや、帰ります」 てやる」 われて喜んだんですか」 李枝「どうせアパートに一人なんでしよう ? 李枝「拾うって ? 」 李枝「喜びはしないわ。子供なんか欲しくな うちにだってお客様を泊める部屋ぐらいあ 三崎「文字通り拾いあげて、誰の眼にもっか いんですもの。たゞ生んでもいいと一言うこ りますわよ」 ないところへ匿して、殺そうと生かそうと とは愛情を持ってることじゃないかしら」館林「やつばり帰ります」 僕の思い通りにする」 館林「ああ厭だ。あなたも堕落したものだ。李枝「誰か待ってる人でもあるみたい」 再び李枝の肩へ腕を伸ばす。 子供を生んでいいと言われて、それも本心館林「馬、馬鹿な : : : 」

9. シナリオ 2016年8月号

三崎「僕だ。これからちょっと会いたいんだ館林「行くんですか ? 」 xx 神社 李枝「仕方がないわ。行って来ます」 館林「まあ、いい でしよう」 李枝「まあ、いいとは、それ、ど、ついうこと ? X X 寺 バリ画廊 そぞろ歩く二人 李枝「いつですか ? 館林「ど、ついうことか、そんなこと知りませ 李枝「奈良と京都を司さんに案内していただ んよ」 李枝「あなたがびしゃんとやってしまえと けるなんて、今度の旅行はきっといつまで電話をかけている も忘れられませんわ」 三崎「今日がいい : ・ : 是非、今日都合して貰言ったから、はっきりしに行くんじゃない 司「いやあ、僕にとっても楽しい思い出に いたい。どうしても駄目なら明日」 なりました」 館林「危いもんだな」 バリ画廊 李枝「失礼ね」 バリ画廊 李枝「じゃ、これから行きます」 館林「若し本当に別れる意志があるなら、 館林が電話に出る たった一つしか方法はない」 李枝「どうするの ? 館林「もしもし : : : はあ : : : はあ : ・ : ・ ( 李枝電話をかけている に ) 出ますか ? 三崎「いつものホテルだよ」 館林「金をお取りなさい、手切金を」 李枝「 ( ある期待で ) 誰 ? 」 李枝「手切金引」 館林「三崎氏ですー バリ画廊 館林「そうです。これが昔からの男と女の後 李枝「 ( がっかりして ) なあんだ」 李枝「いやです。そんなとこ : : : あなたの会腐れのない、一番いい別れ方だ。それがあ 館林「昨日もかかって来ましたよ。ちょっと 社へでしたら行きます。ほかでしたら、私なたの場合は反対だ。反対に角井氏の場合 出たらどうですー お断りします などは金をやっている。だから、ごらんな 李枝「いやよ」 さいこの間から頻繁に二人から電話がか 館林「出た上で、もう一一度とかかって来ない かって来る」 電話をかけている ようにびしゃんとやっておしまいなさい」 三崎「会社 ? : : : じや会社でもいい。すぐ来李枝「角井からも ? 」 李枝「 ( しぶしぶ受話器を取って ) もしもし るね。待ってる」 館林「うるさくて仕方がない。さかりのつい た大みたいだ」 バリ画廊 李枝「いやなこと言うのね」 李枝、受話器を置く 館林「いやって、本当ですよ。金をおとんな 電話をかけている三崎 119 四 102 ー

10. シナリオ 2016年8月号

いとるんや」 李枝はつかっかと入口の方へ行く。 銀座資生堂 ポーイがアイスクリームを運んで来る。 壁の時計が三時十五分を指している。 目の前に三崎が現われる。 ポーイが李枝の席へアイスクリームを運 李枝は仕方なく腰を降ろす。 三崎「よお ! 」 んで来る 角井「ここへ呼び出しといて、どうしてここ李枝「お出になって ! ( いきなり三崎の横を アイスクリームにスプーンをつけよ、つと では困るんや ? ( と水を飲む ) ー 擦り抜けて鋪道へ出る ) 」 三崎「どうしたんだ」 した時、店の入口に角井清一郎が現れる。李枝「 ( 気が気でなく ) 早く召し上れ」 李枝「あ・ : 角井「まあ、待ちいな ( 落ちついて ) 誰か来 るんか ? 身を固くしてアイスクリームを口に運ぶ。 丙鋪道 角井「やあ、ここにいたんか 李枝の後から三崎が追いかけて来る。 李枝「会っては具合の悪い人が来るんです」 李枝「私を探しにいらしったの ? 」 角井「ここへか ? 」 李枝「厭な人がいるんです。四丁目の xx 屋 角井「そうや、ここで待ってるちゅうこと李枝「とにかくここ出たいわ、早く。あなた、 の入口で待ってらして ! すぐ行きます。 やったからな」 それ召し上ってて。私、ここ出ます。外で待ってらしてよ」 そのまま三崎から離れる 李枝「 : : : お電話下さったの ? 」 待ってるわ」 店の入口から角井が出て来る 角井「ああ、昨日も掛け、今日も掛けた ( 腰角井「一体誰が来るんや ? 僕の知ってる人 瞬、三崎と視線を合せるが、そのまま一 を降ろしながら ) 少し肥ったようやな」 李枝の方へ来る 李枝「 : 李枝「知っていようといまいと、いいじゃあ りませんかお店の関係の方よ。とにかく角井「暫く歩こう」 角井「 ( そばへ来たポーイに ) 僕もアイスク 丿ームつきあうか」 私、出ます ( とまた立ち上る ) 」 李枝「ええ」 角井「じゃ、僕も出る」 角井「おかげでアイスクリームを食べそこの 壁の時計が三時二十五分になる。 李枝「それ、召し上ったらいいじゃありませ 、ったわ」 李枝「私ね ( と立ち上る ) 」 んか、注文なさったんだから」 角井「どうしたんや ? 角井「いや、僕も出る」 振り返ると、三崎は向うを向いて煙草に 李枝「出ません ? ここ」 火をつけている 角井「なんでや ? 李枝「目立つわ、二人一緒では」 李枝「ここ、ちょっと困るんですの。こんな角井「先に行ったらええやないか。ちょっと李枝「 ( 角井に ) 私、ここで失礼します」 角井「どうも変やと思うてた。あれ、三崎洋 処へいらっしやるんですもの。厭だわ、私」離れて出てやるわ」 一ゃないかなんであの人物がそないに怖 角井「出る言うんやったら出るが、まあ、ア李枝「変な方、逃げたりはしませんわよ」 イスクリームだけ食べさせてくれ。喉が乾角井「どうやら判るもんか」 いんや ? 」 9 ・