夜 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年8月号
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1. シナリオ 2016年8月号

カフェ「ダダ」のフロア・ショウ 勘造「まア、え、、わいはあんたにいっぺん雪江「かめへんの ? 」 露子「かめへん」 惚れしたんや。今日、待ってるで」 露子「あんまり、しつつこうにすると、上六 四ポックス・シート ( 夜 ) 露子たちが客に酌をしている のお家へ云いつけますよ」 「ダダ」のフロア・ショウ ( 夜 ) 雪江が来る。 勘造「どうぞ」 露子「かめへんのか ? 」 雪江「露ちゃん、来てるでエ」 トイレット ( 夜 ) 雪江と露子が、化粧を直している。 とさ、やいて露子と入れ替る。 勘造「かめへん、上六ゃなんて関係あらへん」 露子「又、来てるわ、あいつ」 露子、眉をしかめて立って行く。 露子「え : ・ 勘造「キャパレーへ来て、自分の家のことペ雪江「今日は、えろう早いねエー ラベラしゃべるやつがあるかいな」 露子「傘さして、雨ん中待ってんやで」 ロマンス・シート ( 夜 ) 汽車の座席のようなシートに、勘造がひ露子「ほな、あんた河内の人間云うんのも雪江「そない想われたら、本望ゃないの」 とりでいる 露子「はじめはそうも思たけど、この頃何や 勘造「あんたほんまにしとったんかいな・ : ・ : 」気持悪うなって来た」 露子「いらっしゃいませ」 とそっけなく坐る。 雪江「この頃は、中に入って来んようになっ たねエー 勘造「こないだは、どうも : : : ( とニャニヤ勘造「わいかてなア、あんたがほんまに河内 の採れたてやろうとどうやろうと、そんな露子「お金がないようになったんやろ」 している ) ー ことはどうでもえ、んや。わいはなア、あ雪江「あの人、何やってはる人 ? 露子「どうぞ : ・ んたの、そのまんま : : : そのまんまの姿に露子「信用金庫に勤めてんやて」 とビールをす、める 惚れてもたんや : : : ほんまやで、これはほ雪江「そんなら、お金なんばでもあるやない 勘造「どや、今晩」 の ( と笑って ) そやけど、男っちゅうもん んまや」 露子「 : ・ は、女がいっぺん体貸してやったら、すぐ 勘造「 ( ニャニヤしながら ) あんた、採れた 自分のもんになったみたいに思いよるから てやなかったねェ」 「ダダ」の表 ( 夜 ) ね工。しようのないやっちゃねン : 女給たちが帰って行く。 ン露子「 : : : 」 勘造「だれかにかじられた後やった」 雪江と露子も出て来る カ 勘造が待っている。 内露子「そうでんねン。悪かったね」 勘造「河内に恋人でもいたんか」 勘造「あんた : : : 」 露子、無視して行く 四「ダダ」の表 ( 夜 ) 激しくなった雨の中で、勘造が傘をさし てじっと立っている

2. シナリオ 2016年8月号

こで待っててあげます」 三崎「お待ちどう・ : ・ : 部屋へ行こう」 三崎「君はさっき僕を汚いと言ったな」 三崎「うん ( と立ち上る ) ー 李枝「もうおすみになった ? ご用事は」 李枝「言いましたわ」 李枝「十分よ。時計見てますから、十分でそ三崎「うん」 三崎「そう言う君だって、僕以外に男の関係 の若い方返して下さい。きっちり十分経っ李枝「よくおとなしくお帰りになったのね」 はないと言ってたが、嘘じゃないか。僕は たら、私、お部屋へ行きますー 三崎はいきなり李枝の首を捻じ曲げて接ちゃんと名前も知ってるんだ」 三崎、黙ってソフアの傍を離れる 吻する 李枝「誰です」 一人になった李枝の顔に怒りがこみ上げ三崎「 ( 顔を離して ) 憤った ? 」 三崎「大阪の角井某 : : : 会ったこともある」 て来る。 李枝「今は何でもありません」 李枝の声「あの人の部屋に若い女がいる ! 」 三崎「部屋へ行こう」 三崎「前は何があったのか ? 」 サッと立ち上ってソフアの傍を離れる。李枝「いやですー 李枝「だから多少の引懸りのある人はあると 三崎「どうして ? 言ったでしよう。そうした関係は必らすき 廊下 ( 夜 ) 李枝「汚いから」 れいにすると言ったじゃありませんか」 李枝が三崎の室の方へ歩いて行く。 三崎「汚い ? 」 三崎「しかしきれいにしてないじゃないか」 室の前まで来ていきなり扉のノブに手を李枝「汚いわ。汚い、汚い」 李枝「何でもありません、今は」 かけ・よ、つと、す・るカノ ゞ、、ツとその手を止め三崎「先に行ってるから、来なさい」 三崎「君と角井との関係が現在どうなってい て、また逃げるように立去る つかっかと歩き出す。 るか僕は知らない。今は何でもないという その後姿をじっと見送る李枝。 しか 君の言葉を一応信じておいてもいい ロビイ ( 夜 ) しそうなるまでに僕に匿れて角井に会って 李枝が来て、ソフアの傍に立ち、窓から三崎の部屋 ( 夜 ) いた時期もあると思う」 夜の海を眺める 部屋着姿になった三崎が大きな椅子にか李枝「それはありますわ」 けて煙草をすっている。 三崎「君ばかりでなく僕だってそういうこと 港 ( 夜 ) 扉のノブがコトリと廻って、李枝が入っ はある。過去の引懸りを断ち切るにはある 赤や青の標識灯や汽船の灯が美しい て来る。 時間が要る」 三崎「馬鹿だな、君は。どうしたというんだ。李枝「それをおっしやりたかったのね。でも 8 ロビイ ( 夜 ) 僕がいけなかったら謝まる。昔、関係のあっ何時の頃の過去か知りませんけど、そんな 李枝の背後へ足音が近づく。 た女で、困って金の無心に来たんだ」 に時間が要るものでしようか私だったら 李枝は振り向かない。 李枝は椅子にかけずに窓際に立っている 一度切れたとなったら、あとはさつばりき -6 8 一

3. シナリオ 2016年8月号

と両手で露子の指をはさむようにする 階段を、洋子がこわい顔で降りて来る。 洋子の眼が鏡の中で笑っている。 露子、思わず手をひこうとする 誠一一「今晩は」 意外と強く洋子は、露子の手をつかんで洋子「別に、 今日いらっしゃいって云わな 離さない。 かったわよ」 洋子の家・露子の部屋 ( 夜 ) ハッとする露子。 露子がネグリジェに着換えて、べッドに 入ろ、つとしている 洋子の熱つほい眼が露子の眼をみつめて 家の表 ( 朝 ) いる 洋子がワーゲンで出かけようとしている ドアをノックする亠日。 露子「はい 露子と誠二が見送っている。 ドアが開いて、まっ白い豪華なナイトガ 洋子「誠ちゃん、用意しなさいよ、乗せてつ 部屋の外 ( 夜 ) てあげるから」 ウンを着た洋子がマニキュアセットを手 乱暴にドアが開いて、露子が飛び出して にして入って来る 来る 誠二「ばくは、今頃出かけてもしようないね 洋子「あら、もうおネンネ ? 」 階段を駈け下りる露子。 洋子「露ちゃん、お掃除とお片付けがすんだ 露子「ん ( と不安そうな顔 )- 洋子「マニキュアの仕方を教えてあげるの忘 洗面所 ( 夜 ) ら、すぐクラプへ来るのよ。その人、ほっ れたでしょ : 露子、飛びこんで来てドアを締める。 といてい、から」 とソフアに坐る ふうーツと一息つくと、思い出したよう露子「はい に、ガラガラと、つかいをする 洋子、一一人を気にしながら出て行く。 洋子「そこに、お坐りなさい」 玄関のブザーが鳴る 露子「行ってらっしゃいませ」 とべッドを示す。 露子、仕方なく浅く腰掛ける 食堂 ( 夜 ) 玄関 ( 夜 ) ドアが開いて、誠二が入って来る 露子と誠一一、入って来る 洋子「手を出してごらんなさい」 露子、洗面所から出て来る 誠二「 ( ニャニヤして ) ばくの云うたこと、 露子の恐る恐る出した手をそっと握って、 ほんまやったやろ ? ン洋子「いくらうまくマニキュアしても、指そ露子「 ( ほっとした顔で ) いらっしゃいませ」 メ レ のものが美しくないと、どうしようもない誠二「 ( ネグリジェ姿の露子見て ) どうした露子「うち、困ってしまうわ」 カ 内 んや ? 誠一一「そやけど、あの先生、女を見る目だけ のよ」 ともう一方の手で露子の指を撫でる。 は肥えてるわ。ばくも、あんた見てると何 と露子の乱れた髪を、チョッチョッと直 してやる やムズムズして来るよ」 洋子「可愛い、爪だこと : : : 」 4

4. シナリオ 2016年8月号

河内カルメン キニ姿の露子のすらりとした体が行く。 悲しそうに露子を見つめている 露子「 ( さらに大きな溜息 ) アホゃなア : 眼をとめる洋子。 露子、勘造の前に行く。 お入り」 露子のしなやかな肢体ーー稲代ともつれ露子「い、かげんにしとき」 と傘をさしかけてやる るように泳いで行く。 勘造「お、きに : ( 嬉しそうに ) どこ行こ 露子「い、かげんにせんと、警察へでもどこ 「ダダ」のホール ( 夜 ) でも云いつけるで」 露子「うちのアパートや」 露子が客の間をぬって歩いている 勘造「云いつけてもえ、わ 勘造「え : : : æ: ほんまか」 露子「信用金庫、クビになるかも知れんよ」露子「しようないやないの : : : うちのために 「ダダ」の表 ( 夜 ) 勘造「もうクビになってもた」 金費うてクビになったひとを、雨に濡らし 勘造が、うらぶれた格好で露子を待って露子「え ? てほっとくわけにもいかんわ」 いる 勘造「金、費いこんだのが、バレてもたんや。 と歩き出す。 運わる、つ : 勘造「バック持ちましよか ? 」 ロマンス・シート ( 夜 ) 露子「運がえ、もわるいも、あれへんやない露子「 ( 渡して ) アホゃなア : 露子が客に酌をしている 客の手が、露子のスソを割って伸びて来勘造「そやから、わい行くとこないのや。す る。 ることもない : 露子「おててが汚れまっせ」 露子「そいで、今何してるの ? 」 と艷然と笑いながら、手を押しかえす。勘造「道路掘ってる」 露子「・ : 「ダダ」の表 ( 夜 ) 勘造「そこの百円ハウスでとまってるのや。 雨が降り始めている 近うてえ、わ 勘造、濡れて立っている。 露子「いったい何ば費い込んだの」 女給たちが出て来る。 勘造「十万円」 露子が出て来る。 露子「十万・ : ・ ( 溜息ついて ) どうせ費い 折りた、みの傘をひろげて、勘造に気付込むなら、なんで一千万か一一千万か、費い 込まんの」 勘造「クビになってから、わいもそう思た」 露子のアバート ( 夜 ) 六畳間と二畳位の台所 ドアがあいて露子と勘造が入って来る 露子「自分の部屋に男入れたの、あんたが始 めてやで」 勘造「そら光栄や」 露子「あんたみたいな男が始めてやなんて、 悲しゅうなるわ」 勘造、部屋の真中でヒクヒクと鼻を動か して、 勘造「あまアい匂いがするわ : 露子の胸元に鼻を寄せて来る ・ほんまに 133 ー

5. シナリオ 2016年8月号

誠二「初恋の人って、そんなにえゝもんかなア 彰「あの位の金はどないでもなる : : : 久し 電話ポックス ( 夜 ) 露子が電話している。 露子「そらア : ・ ( とイソイソと立っ ) ほな、 ぶりに露ちゃんに逢えたんやもの : ぼん 露子「坊 : : : 」 露子「あんたやから、ほんまのこと云うわ御機嫌よろしゅう : ・ と嬉しそ、つにすかりつく ・ ( 嬉しそうに ) うちね、今日、初恋の誠二「たっしやでな、困ったことになったら いつでも帰って来いや」 露子「お金やったら、うちが作ります。また 人に逢いましたん : : : 」 「ダダ』へ働きに出てもえ、んやもの : : : 」 アバート街 彰「え、よ、露ちゃんに働いてもらわんか 誠ニのアバート ( 夜 ) : 、つん 誠二「そうか : : : そらよかったな : オンポロアパートばかり軒をつらねてい て : : : わいは、もっと大きな金が欲しいん るゴミゴミした街。 や : ・・ : 計画があるねン : ・ : ま、せいぜい楽しんで来いや : : : え、 : いまに大儲けす ほな : : : 気いつけて : 露子が彰と連れ立って歩いている るでエ : : : わいな、生駒で温泉掘ろ思てん、 ねン : : : 」 と電話を切って、小型計算器で帳簿の計彰「驚くで工、汚いとこやから : : : 」 算を始める。 露子「温泉 ? 」 露子「驚かしません : : : 」 彰「そや、昔からな生駒山の山襞は、八百 八襞いわれて、その襞からは例外なしにこ アパート・廊下 ( タ ) ハイウェイ ( 夜 ) 彰と露子、階段を上って来て、彰の部屋 んこんと水が湧き出てんのや」 水銀灯の下を大型ハイヤーが走る の前へ来る。 露子「そう云いますなア」 彰「こ、や : : : 」 彰「そやろ、それに生駒山は葛城火山系に ハイヤー ( 夜 ) とドアを開ける 属している : : : 温泉が出んのがおかしい位 彰、運転手にかまわず露子に接吻する。 や : : : 露ちゃんの家の近くに不動の滝いう 乱暴に散らかりつばなしの、狭い四畳半。 誠ニのアバート のがあるやろ ? 」 彰「驚いたやろ : : : 」 露子が自分の荷物をまとめている。 露子「え、、あります」 露子「ちょっとの間やったけど、お世話にな 彰「わいは、あそこらへんを狙うてやねン。 まず、地質検査してボーリングせなならん、 りました」 花彰の部屋 ( タ ) 彰と露子が入って来る わいは今その資金を集めてんのや・ : 誠二「やつばり行くか ? 」 ぽん 露子「え、。坊が来てもえ、云うたさかい彰「わいは、一文なしなんや : : : 」 露子「どの位。集まりましたの ? 露子「そやかて、昨日はあないあちこち行っ彰「まだこれからやねン : : : 大事業や、発 ひた

6. シナリオ 2016年8月号

河口 李枝「変ね、今お客様だとおっしやったわ」 三崎「階下のロピイへ行こう」 電車の中 ( タ ) 三崎「客さ、客と言っていいだろう、訪問者 李枝「お部屋ではいけません ? 」 李枝が乗っている だから : : : 仕事で訪ねて来たんだ。病気で 李枝の声「退院した三崎から横浜の x x ホテ三崎「いや、ロビイへ行こう」 さっさと歩き出した三崎の後から、李枝休んでたんで、物凄く忙しいんだ。全くや ルに泊っているという連絡があった。三崎 りきれん」 は明日か明後日来いと云ったが、私はすぐ も仕方なく歩き出す。 李枝「さっき、私が来ないと思ったので、引っ 李枝「お客さま ? 」 にも会いたかった」 ばって来たとおっしやったわ」 三崎「いや : : : そう、客だ」 三崎「そんなこと言ったかな。明日の仕事の 李枝「どなた ? 」 横浜港 ( タ ) 打合せに向うからやって来たんだ」 船が浮んでいる 三崎「誰でもない。仕事の関係の人だよ」 李枝「その打合せとい、つの長くかかります ? 」 李枝「今 ) 」ろ ? 」 三崎「いや、すぐ終る」 三崎「君が来ないと思ったので、食事が終っ xx ホテル ( 夜 ) 李枝「どのくらい ? 」 てから引っぱって来たんだ」 タクシーが着いて、李枝が降りる 三崎「そうだな : : : 」 李枝「早く終るなら、私ここで待ってますわ。 ロビイ ( 夜 ) エレベーターが 6 階で停って 三崎と李枝が来て、窓際のソフアに腰を早くお返しになったら ? あなたのお部屋一 へ行って待ってもいいけど、ここで待って 下す。 廊下 ( 夜 ) エレベーターから降りた李枝が、三崎の三崎「夜だから判らないが、昼はここから海た方がいいでしよう ? 」 三崎「うん」 が見える」 室の前に立ち、軽くノックする。 李枝「ここ、暗いので倖せでしたわね」 李枝「男の方 ? 女の方 ? 返事がない。 三崎「どうして ? 」 三崎「何が : : : ああ、客か : : : 女だ」 もう一度ノックする。 李枝「明るいところだったらお困りでしょ 内部に足音がして扉が細目に開けられる。李枝「二十代 ? 三十代 ? 」 ズボンにセーターの三崎が姿を現わすと、三崎「二十代だ」 三崎「何が」 すぐに廊下へ出て、後手に扉を閉める。李枝「私より若いのね」 三崎「随分早かったんだね。明日来るかと三崎「若いも若くないもない。仕事で使って李枝「顔色見られて」 三崎「君は何か誤解してるな」 る女だ」 思った」 李枝「またそんなこと。素直でない人、私嫌 李枝「でも、少しでも早く会いたかったんで李枝「あら、お客様じゃありませんの ? 」 いだわ : : : さ、早く行ってらっしゃい 三崎「客じゃない」 すもの」 5 9

7. シナリオ 2016年8月号

・ : あのことか・ : ・ : われ、見 きくの声「あ、 とふりおろす。 家の中は、ガランとしている とったんかそりや、ちいと気まり悪いな」 露子、上って行く。 源七がかわって、のしかかって来る 奥の部屋に入ろうとした、露子の足が思露子「気まり悪いの、ちいっとばかりか阿 露子「源ゃん ! 」 わずとまる 源七「露ちゃん、頼むわ ! 」 奥の部屋から、女の泣いているような声 と顔を押しつけて来る。 昭廊下 ( 夜 ) が聞えて来る 露子「イヤアッ ! 誰か : きく「何や親に向って阿呆て : : : 」 露子、襖のすきまから覗く その顔に、佐一が体ごとのしかかって唇 と云いながら、手洗いから出て来る。 をふさぐ 露子「あ・ : : ・」 奥の部屋の不動さんの掛け軸をかけてあ露子の声「阿呆ゃんか。あないなよそのおっ 佐一「源ゃん、帯とけ ! 」 る下で、母親のおきくが不動院の良厳坊さんと 源七「よっしや」 きく「不動院はんはな、ちゃんと毎月お金く と抱き合っている姿が見える 源七、露子の帯をとく。 れはるねんど」 佐一、細帯を露子のロに押しこむ。 露子の声「・ : 息を荒くして、立ちつくす。 露子「う・ : ・ : イヤ : : : う : : : 」 きく「そんなこと、われ等に聞かしともない 源七と佐一と露子、三つ巴になってもみ よって黙ってたけど、われに問い詰められ一 脱衣場 ( 夜 ) 合う たら云わなならん。不動院はんはな、この 露子が怒った顔で乱暴に着物を脱いでい る。 お母んの体を買うてはるんや」 林の中の路 ( 夜 ) 帯をといた拍子に、小石や土や草等がザ露子の声「・ : 向うに露子の家の灯が見えている きく「そうやがな。お父うが、会社の人員整 ラザラとおちる 露子が、歩いて来る。 理の槍玉にあがってから、親子四人なんで 露子、足で蹴とばす。 路から少し離れた所にある川の、岩の上 食いつないでたと思てんのや」 廊下を誰かが、手洗いに入る音がする で、父親の勇吉が酒を飲んで、ちょうしつ 露子の声「うちかて仙子かて働いてるやんか」 露子「お母さんか ? 」 ばづれの歌をうたっている。 きく「われ等の金なんぞ、なんばにもなれへ ン勇吉「八グンカン、ミカサノマストノウェニきくの声「うん : : : 」 メ ん。不動院はんはな、見るに見かねて、お イ : : : ターカクカカゲタシンゴウキ : 露子「うち、見たよ」 カ 内 金を貸してくれはった。そんなお金返せる きくの声「ふうん。何を : : : 」 露子「何をて、娘の口から云わせんならんの見込みあるか」 露子の家・勝手口 ( 夜 ) 露子の声「 : : : 」 露子、入って行く。 露子「・ : 127 ー -

8. シナリオ 2016年8月号

八畳位の畳敷きの部屋。 露子、矢絣の御殿女中風の着物を着せら れて不安そうに、立っている 豪華な緋色の蒲団がしいてある 金色の屏風が枕許に置いてある。 天井に大きな鏡が斜に張りつけてある。 寝室 ( 朝 ) マンションの一室 ( 夜 ) べッドサイドの電話が鳴る。 長兵衛の声がどこからか聞えて来る 誠二と露子が話している 誠二「そやけど、今こ、から出たら、あんた 豪華なべッドから、露子が手を伸して受 長兵衛の声「しつかりやってや・ : 露子、不安そうな顔で鏡を見上げる。 話器を取る。 に何にも残らへんで : : : せつかく、坊いう ひとのために、あないなことまでして、何露子「 ( 眠そうな声で ) もしもし : : : 」 にもならんやないか」 鏡の裏 ( 夜 ) 誠二の声「 ( せきこんだ声で ) 露ちゃん ! ・ : 飛行機が落ちたんや」 マジックミラーになっていて、鏡の裏で露子「かめへん、もう、うち何にもいらん は、長兵衛が十六ミリカメラをかまえて坊とも別れます 露子「え」 誠二「そうか : ・ 誠二の声「おっさんの乗った飛行機が落ちた 露子「又、あんたとこ行ってもい、 ? 」 んや」 誠一一「ほな、そうするか : : : 今、おっさん香露子「え : : : それで : : : 」 一室 ( 夜 ) ドアが開く 港行ってるから、帰ったら話つけたるわ」誠二の声「勿論、全員即死や」 露子、ますます不安な顔。 露子「うち : : : 何もかもいやになってもた露子「 : : : 」 着物のスソをはしよって、泥棒風にほう 誠二の声「もしもし : : : 」 かむりした若い男が入って来る 誠二「 : ・ 露子「はい」 露子、それが彰であることが分るまで少露子「うちの勝手かも知れんけど、うちは誠二の声「露ちゃんは喜んでえ、のや : : : 」 しか、る 坊を、昔のま、の坊や思てたかったんや露子「どうして ? 」 誠二の声「そのマンション、永久に露ちゃん 露子「 ( 彰であることを知って ) ・ : ・ : 坊 ! 」 のもんや」 部屋をぐるりと取りまいていた数十のス誠二「 : ポットライトが一斉につく。 露子「それになア、誠ちゃん」 彰がものも云わずに、露子に飛びかかっ誠一一「何や・ : マンションの一室 て来る 誠二と露子が話している 露子「うち、恥しけど : : : あないなところで、 ぽん いやや ! 露子「いややッ ! ややッ ! 」 と絶叫するが、着物をはがされていく ぼん ばん ばん いやや ! ぽん 初めて女になってもたんや : : : 」 誠二「え : ・ 露子「けったいなもんやね工、人間ちゅうの 146 ー

9. シナリオ 2016年8月号

仙子「大切にしてます。そやから、どこへも きく「それやから、お母はん、こうして体で露子「どこ行ってた ? 」 払うてるんやないか」 仙子「よっちゃんとこで、勉強教えてもろた行かんとここに居るんや。逃げ出すなんて、 扉があいて、裸身に手ぬぐい一枚の露子ん」 卑怯や」 が出て来る 露子「ちょっと、燃してんか」 露子「卑怯でもなんでもえ、。うちは、行く 露子「 : : : お父うが知ったらどない云うと思仙子「うん : : : 」 とたき口にしやがみ込む。 てんねん」 仙子「行きいな」 きく「お父うも知らいでか」 露子「仙子は、感心やね工 : : : よう勉強して露子「 ( 空を見て ) あ、降ってきた : : : 仙子、 ちょっと傘とって」 露子「えっ : ・・ : 知ってんのか、お父、つ : ・・ : 」 きく「知らいでか仙子かて知ってるわ」 仙子「そやけど : : : うち高校行けなんだんや 仙子、風呂桶に立てかけてあった番傘を とってやる もん : : : それだけ勉強せんと、人に負けて 露子「仙子も : ・・ : 」 露子、湯につかったまま番傘をさす。 しまうわ」 きく「わてに云わしたら、いっちお父うがい ハラバラと雨が降りかかる けんね。あん人が甲斐性なしで、怠けもの露子「姉ちゃんね、仙子ー で、ぐうたらやから、こんなややこしいこ仙子「何や ? 」 露子「大阪へ出るわ」 ネオン・サイン ( 夜 ) とになってしもたんや」 勇吉の間の抜けた歌が聞えて来る 仙子「そうか : アルバイト・サロン「ダダ」のネオンが一 激しい雨にうたれている きく「戸籍の上では夫やの亭主やのと云うて露子「仙子も、姉ちゃんと一緒に大阪へ行く も、それにわれ等を生ませたと云うだけの か ? 」 仙子「いやや」 こっちゃ。何の権利もあらへんよ」 「ダダ」のホール ( 夜 ) まだ時間の早いせいで、客は全然居ず、 露子「どうして ? ガランとしたホールで女給たちは、お 仙子「姉ちゃんは、この家がいやになったん 図風呂 ( 夜 ) しゃべりをしたり、なかには子供を遊ば 家の外に、風呂桶だけがほっんとある なら、どこへでも行ってええわ。うちは、 せているのまでいる 裸電球がひとつ、ついている 行けへん。、っちらおらんよ、つになったら、 お父ちゃん、淋しうなって死んでしまうかマネージャー「あんた、それは困るで : : : 」 露子が湯につかっている も分らんわ」 女給「そやかてエ : 誰かが繁みを踏んで歩いて来る。 露子「誰や」 露子「ひとの心配なんかせんでもええの。あマネージャー「いくら、ヒマでもなア、こん な所へ子供連れて来ることないやろ ? 」 妹の仙子が、姿を現す。 んたは、あんただけを大切にしてればい、 女給 < 「そんなこと云うたって、こんな不 んやないの」 仙子「、っち : : : 」 128 - ー

10. シナリオ 2016年8月号

から出て行かんかぎり、こ、はあんたのも彰「そやから、あんたに出してもらお思て 彰のアバート ( 夜 ) んや。おっさん、あんたのことえろう気に ますんや。ばくとあんたは、云うて見れば 露子が、自分の小さな荷物を下げている。入ってるからね工 : 義兄弟ってことになりますやろ ? 」 露子「ほな、うち行きます」 露子「そやけど、けったいな人やねン、うち長兵衛「君は、ばくを脅かす気なのか ? 彰「、つん : : : 」 を歩かすだけで、触ろうともせえへん」 彰「そういうことになるかも知れません」 露子「ちょっとの間やったけど、ばんと一緒誠二「まあ、そのうちに分るよ」 長兵衛「 ( 立ち上って ) そういうつまらん話 に暮せて、うち楽しかったわ」 をきいているひまはない。君の恋人をばく 露子「分るって : ・ がどないしたとでも世間に云うてもろて ぽん 露子「 ( 笑って ) 坊、そんな顔せんかってえ、 え、。ばくは、一向に平気や」 斉藤長兵衛事務所 ぽん ビルの一劃 うちいまでも、坊に逢えてよかったと思て るもん : : : 」 彰が入って行く。 長兵衛「君、スキャンダルに負けるようじゃ、 人間だめだよ、 彰「露ちゃん ! 」 ノ、ノ、ノ・ と立って来て、露子に激しい接吻をする 秘書室 彰が待っている 長兵衛「ま、若いうちは金というもんを簡単凵 美人の秘書が、長兵衛の部屋から出て来 四マンション・べランダ に手に入るもんと思いがちゃが、そうは、一 る 露子が、豪華なガウンを着てべランダに いかんよ、君。なんにもせんといて千金を 出て来る。 秘書「あの、先生は、今お仕事中ですからお握れる思たら大まちがいや。金をもらお思 誠二も出て来る 会い出来ないそうです。申し訳ありません」 たらそれだけのことは、せなあかん」 誠二「これが、このアパートの権利書や」 彰「そうですか : : ほな、露子云う女のこ彰「何云うてけつかんねン ! わいはお説 露子「そこ、置いといて」 とで話があると云うてくれませんか : : : 」 教聞きにきたんやないわ ! 」 誠二「あのおっさん、仲々食わせもんやから 長兵衛「働かざるものは、食うべからずや ね工 : : いつも、女にキイだけ渡しといて、 : 君は、仲々え、体しとるね工 : 応接室 と彰の体に眼をとめる。 ン女にあきた時は、又そのキイを取り上げる 彰と長兵衛が話している メ んや。そやから、今度はばくがちゃあんと長兵衛「 ( 落ち着きはらって ) いくら云っても、 カ 内 君に出資する訳にはいかんよ。そういうあ しといたげたよ」 山の中の別荘 ( 夜 ) 河 やふやな計画に、いったい誰が金を出す思 露子「お、きに」 誠二「露ちゃんが、あんたの自由意志でこ、 てるのや」 別荘の一室 ( 夜 )