るーとか何とか言う言葉があったように思うけれど、そんな感 じ。だから自分がうつかり優等生になったりすると、もういけな い。ゾクゾク。落ちつかない人間が小さいんだろうか ? 成績 が落ちるとやつばりいい気持じゃないけれど、ホッとする。その 解放感はほんとにホッとした。そして他の優等生や級長を白眼視 する。半分はやきもちもあるけど、ちょっと悪ぶってのびのびと 振るまえる気楽さ。あれはよかった。だんだん大人になって、そ の感じはそのまま続いて、残って、ちっともなくならない。結局 私はただただ気楽でありたいのかも知れない。気楽でありたいっ てことは自由でありたい。いけない。自由なんて、もう駄目。ゾ クツ。気楽でなくちゃ。気楽でありたいということは、カんだり 努力したり張りきったり、そんなことは全部駄目。いや。つまり 怠け者なんだろうか ? どうもそうらしい。一日中ばんやりして いたい。一生酔生夢死できたら最高。一体僕は何を書こうとして いるんだ ? 弱ったな。だから、つまり、僕は、映画やテレビド ラマの中で、例えばお父さんがいて、お母さんがいて、子供たち 力いて、ハッピ ースデー・ツー・ユー、はい、 お母さんへ プレゼント、まあ素敵 ! なんてことになると、いても立っても いられなくなる。なんて言、つとちょっとオー ハーだけど、じやア スイッチを切ればいいんだけど、誰か他の人と一緒に見てると そうもいかないし、たった一人で見てても、 デー・ツー・ユーなんて場面がホームドラマの中に出て来たっ て、そんなことあたり前で、ちっとも変じゃないし、勿論それを 書いた人だってちっとも変じゃないし、あたり前だし、それをそ の通り演出したんだってちっとも変じゃないし、俳優さんだって 全然あたり前で、正常で、それを見ながら一人でしらけてる老人 の方がおかしくて異常に決まってるんだから、そんな異常さはな るべく直した方がいいし、出来れば僕も正常になりたいと思うか ら、そういう場面が出て来て、一瞬ゾクッとしても、さり気なく そのまま普通に見てるのだ。普通に見てるんだけど、やつばり 時々、ゾクッとする場面は、ついでに書いちゃうと、山登りをし ながら、ヤッホー、そうすると山の向うからもこだまが少し小さ くャッホー。海へ向って、お父さーん、或いはお母さーん。多分 この子のお父さん、或いはお母さんは海で死んだのかな ? それ とも海の向、つのどっかへ行ってしまったんだ。でもこういう場面 はお母さーん、信州味噌もあるのよ、のおかげで、この頃は少く なったようだ。姉さーん、お嫁に行っちゃいやアなんてのもその 1 スデー・ツー うちゃらなくなるかも知れない。ハッピー ューもコマーシャルでやってくれないかな。しかしコマーシャル でももうやらんだろうな。花嫁衣装を着て、お父さん、お母さ ん、長い間お世話になりました。そういう場面を、僕も何度書い たことだろ、つ。も、つ、よそ、つ。こんなくだらんことをいちいち気 にしてたら、ホームドラマなんて書けなくなる。商売にさしつか える。僕はホームドラマのほかは何にも書けないんだから。ほん とに僕は自分の知らないことは何にも書けない。自分が見たり聞 いたりしたことでないと書けない。想像力が極度に駄目なんだと 思う。それこそ作家としては致命的だ。だからきっと作家と言わ れてゾッとするのかな ? テレじゃなくて、弱いところっかれて ゾッとするんだな。見たり聞いたりしたことも、せっせと見学し たり、人に質問して聞き出したりしたことなんかどうも駄目。ふ だんばんやり暮してるうちに、何となくいつのまにか見たり聞い たりしたこと、それも一度や二度じゃなく、何度も何度も、だか
本名作シナリオよ浜シネマリン・トークセッションも 2 上映作品『少年』『鬼畜』 ( 聞き手 ) ( ゲスト ) 井土紀州佐伯俊道 日本映画は犯罪をどう扱ってきたか 佐伯今日のもう一つのテーマは、「日 か、いろいろ救おうとするわけですよ 本映画は犯罪をどう扱ってきたか」。 ね。犯罪の報道とかワイドショーでコ 井土さんも犯罪を素材とした作品が多メントする人たちは、人間というもの いと思うんですが を、どこかモラリスティックに救お、つ 井土犯罪も映画と同じで何か自分が としますよね。たぶん佐伯さんも僕も 突き放される経験というか、頭が真っ そうだと思うけども、何か犯罪をベー 白になる経験、か、あるかどうかですスに書こうとするときに、そこに自分 ね。もちろん報道とかを見てです。そ のモラルみたいなものを投影しようと こに興味を持つかどうか するとか、登場人物や観客を救おうと しますよね。でも、そうではないんだ 坂口安吾が「文学のふるさと』とい うェッセイを書いてます。あれは僕に ろ、つと。そ、つじゃないところから出発 とっては大事なエッセイで、なんどもするのが文学なんだということを、坂 折あるごとに読み返してる。その内容ロ安吾は言ってるわけです。僕はそ を簡単に言えば : : : 例えば「赤頭巾れを読んだときに、「ああそうか、俺 ちゃん」という話がある。少女がお婆がずっと捉われてきてる感覚ってこれ さんに会うため森に行ったら、狼に喰かあ」と思った。それからは今まで意 われて死んだ。それだけの話だと。そ識化していなかったものを、ある程度 こには童話や説話にある教訓とか道徳、意識化するようになった。 モラルみたいなものが一切存在しない。 佐伯文学として創出するために作者 読んだ後、あ然とする。突き放された は狂わねばならない、ということです よね。 ような感じがある。でも、ある透明な 美しさみたいなものを感じる自分がい 井土何か簡単に解釈出来てしまえる る : : : みたいなことだと思うんですけ ようなものは、同じ犯罪でもそれほど ども。でも後の人はそこに赤頭巾ちゃ僕は、掴まれない。思わず言葉を失っ んがオオカミの腹を裂いて出て来ると て、「これってこうだよね」って言え 1 10 - ー
フロアで、露子と勘造、踊りながら、 みい」 勘造「男と女が楽しむところや」 勘造「いっからこ、で働いてるねン ? 勘造「もう、え、わ」 と露子の体に手を伸して来る 露子「二、三日前です」 露子「飲みい 露子、慌てて後に下って、 勘造「ほんまの採れたてやな ( と胸のあたり勘造「え、っちゃ」 露子「何すんねンー に顔を寄せて嗅ぐ真似 ) 」 露子「飲まんと頭からかけるでエ」 勘造「何云うてんのや、あんたとわいは、も 露子「いややわ、採れたてやなんて、いやら勘造「かけてみい」 う他人やあらへんのやで」 し感じゃ」 露子「よっしや」 露子「夢ゃなかったんか : : : 」 おなご 勘造「いやらしことあらへん : : : 採れたては とほんとに頭からビールをあびせる 勘造「あんた、え、女や : : : 」 採れたてや」 勘造「ハッハッハ・ ・ : 雨やア : と又露子を抱こうとする。 とチークダンスをして来る とよろこんでいる 露子「うち、なんでこないなとこへ来てる 露子「うち、河内へ帰りとうなってましたン露子「タ立ちやア : ん ? 」 : おっちゃんに会えてよかった : と、ザーっとあびせる。 勘造「なるべくしてなるようになっただけの 勘造「おいおい、おっちゃんはちょっとひど こっちゃ : : : 」 いで」 連れ込みホテルの鏡の間 ( 夜 ) と露子を抱こうとする ダブル・べッドの上で露子が眼をさます。露子「うち、そないなこと嫌いや ! 」 ポックスで、露子がビールをぐいくし 自分の裸身のいろんな部分が四方八方に勘造「そないなこと云うて、さっきはあない んでいる。 うつっているのに、驚いて起き上る 悦んだやないか」 勘造「もう一杯や ! 」 天井から四方の壁まで、あらゆる場所が露子「それは、うちの知らんときや。うちは、 露子「」 鏡になっている ほんまは嫌いやねン と大分酔っている その鏡に、浴衣をつけた男の姿がいくっ勘造「何云うてんねン : 雪江「え、かげんにしとき」 も入って来る。 と露子を抱こうとする 勘造「かめへん、かめへん」 勘造が風呂から出て来る 露子「いやや ! いや、いや、いやー 露子「かめへん、かめへん : : : 上六の醤油云露子「誰や」 て云うたら、いやや ! 」 うたら、日本一やで、な、おっちゃん ! 」勘造「勘ゃんです」 と猛烈に暴れて、べッドから勘造を蹴り 勘造「おっちゃんとちがう、云うてんのに」 とニャニヤ笑って、べッドに腰を下す。 おとす。 とこれも大分酔っている 勘造「え、湯やで、入って来」 露子「おっちゃんはおっちゃんや : : : ま、飲露子「こ、、どこや」 絽ショウ ( 夜 ) 、飲 130 ー
風にそよぐ木々といった風景、セトとウする演出は好きではないんで、二人がここ ッミがしゃべる後景を人が歩いてたり、車で生きてるっていうか呼吸しているってい う、その在りのままの姿をきっちり撮って やバイクが横切ったり。そ、つい、つところに いけば、もつんじゃないかって思いました」 も映画独特の空気が流れている 大森「あの通りはすごく車が多くて ( 笑 ) 。 俳優二人の息遣いがこちらにも伝わって 芝居場の時は車止めたりしたこともあった くるような演技だった。漫画はクールな印 んですが、まったく通ってないのもおかし象だが、映画は人の温もりがあるというか いんで、片側だけ走らせたりしました。やっ 大森「それはやつばり漫画のもつイメージ ばりすべてをコントロールできなくて、流 れちゃってるところはあるんですけど」 音楽も効果的に人れられている 大森「タンゴ調がひらめいて。明るさと同 時に哀愁のようなものがある。それにあの リズムがいいですね。一話終わるごとにか かるんですが、物語を前に進める推進力み たいなものがある。それが頭で考えていた より、うまくハマって、ああ、ここは上手 くいったなって思ってます」 さてここで演技のことも聞いてみよう 大阪を舞台にして、二人の喋りが掛け合い 漫才風になっていないのはなぜ ? 大森「そう、ポケとツッコミになりがちな んだけど、とにかくそれは止めよう、お芝 居をきっちり見せようと思いましたね。だ から池松、菅田の二人にもちゃんと会話し てくださいと頼んだ。ま、僕は細かく指示 を を彼らに押しつけていないんで。さっきも 一言ったけど、彼らが演じていく、っちに自 然に生まれたもの、それを大事にしよう と。だから息遣いみたいなものが彼らから 出てきたんじゃないのかな。菅田くんは大 阪出身なんですが、大阪人はクなんやね ん ! クみたいな言葉遣いかと思われてるけ ど、けっこ、つボソボソ喋ってるところもあ ります。で、僕は抑えた演技をしてみますっ て最初は言ってた。こっちはそれ、ちょっ と違、つかなと思ってたんだけど、とにかく やらせてみようと。で、現場に入って、 一ざやってみたらクこれ、ちゃいますねみつ て自分で認めた ( 笑 ) 。菅田くんは今まで 自分の ( 演技が ) やりやすいところに身を 置いてやってきたみたいで、ちょっと頭 でつかちで現場をやってきたんじゃないの かな。だけど、自分で気づいてよかったで す。僕は、最終的には注文をつけることも ありますが、基本的には俳優さんの思うと ころを尊重したいというのはありますね ラストシーン、ウッミがセトに無言で缶 ミルク・ティーを渡すところは原作にもシ ナリオにも描かれていない。ちょっとグッ とノるカットだ。 大森「そこは池松君が自発的にやったんで
( 聞き手 ) 北里宇一郎 どこにも属せず、 大森立嗣自分をどう形容していいか わからぬ人間に興味が 映画「セトウッミ』脚本・監督インタビュー 原作漫画 ( 作・此元和津也 ) を読む。 ツンツン髪のツッパリじみた高 2 男子が いて、優等生的メガネ高 2 男子がいて、コ ンクリートで固めた川岸で漫然とおしゃべ りする。ツンツンの名前が瀬戸でメガネの 方が内海で、それでタイトルが「セトウッ ミ」。時は放課後。語っている内容は他愛 のないことばかり。飼っている猫の話とか 好きな彼女のこととかどっちが背が高いか とか。ほとんど動きがなく、セリフばかり のコマ割りを目で追っていく久しぶりに 漫画に接したせいか読みづらいあ、こん な感じの芝居あったなと思う。べケット の「ゴドーを待ちながら」かあれも二人 の男が、だらだら意味のない台詞を喋りま くっていたな 1 話、 2 話、 3 話と読み進む かったるいだけど時としてクスリと笑み がもれる。ちょっとハマる。 4 話、 5 話と 進んで、このなんともいえない倦怠感が心 地よくなってくる。読みはじめの頃は、な んだこれ、半径メートルの範囲で自意識 過剰の高校生がその時その場で思いついた ことをくっちゃべってるだけの、閉ざされ た世界を描いてるだけじゃんとため息を吐 いた。だけど読んでいくうちに、この狭さ、 自分自身すら持て余しているようなどうし
河口 い若い燕でも可愛がったらええがな」 李枝「そりやそうだけど : : : まるで淫売婦み 館林「あなたは日本で最初の女画商になった たい」 んですよ」 お内儀「とんでもない失くなった主人が化 けて出ますわ」 館林「そんなことありませんよ。とことんま 李枝「一人前の画商になれるかしら、私」 で事務的にやることです。あなたにはそれ 館林「五年ですよ。五年間みっちり絵を い角井「そんなにやきもちやきやったんか じっていれば一通りのことは判りますよ が出来る筈だ。世の中の誰にできなくても よっほど惚れ合うてたんやな」 あなたにだけは出来る。どうせ相手なんか その間は男のことは考えないことです」 お内儀「ええもう、一一度とああいう男にはめ ろくな奴じゃないんだ。金を引き出したら ぐり逢えないとあきらめていますの」 いっ棄ててもいいー 角井「あほくさ。そんな殊勝な後家はんには 海岸 渚に打ち寄せる波。 こんな薬は身の毒ゃな」 李枝の声「開店して半年目に私は大阪の製薬お内儀「あら、折角のお土産ですもの、いた館林「これからも男友達と遊ぶのはかまわな しかし : : : 」 会社の社長角井と関係を持った。男の身体だきますわ。ありがとうございます。どう ぞごゆっくり が欲しかったのが半分、あとの半分は金の 李枝「惚れたはれたはいけないんでしよう。 ためだった。店の運転資金が入要だったが、 愛想のいい言葉とは反対に、冷たい意地大丈夫よ。私ね、あなたのおっしやるク日一 本で最初の女画商クというものになってみ もう宮原から引き出すのは厭だった。それ 悪な一瞥を李枝に投げて出て行く。 よ、つかな、とこの頃真剣に考えるよ、つに は館林も同じ気持らしかった」 角井「今度は君へのお土産や ( と小切手を出 なったんですからー して ) 約東の金額、ほれ」 館林「偉い。その気持を忘れないで」 李枝「ありがとう。助かりますわ」 旅館松村屋の一室 お内儀がていねいに挨拶する。 角井「何や、他人行儀に ( と李枝の手を取る ) 」 四ホテルの一室 ( 夜 ) お内儀「ようこそ、いらっしゃいませ」 李枝の肩を抱く三崎洋一。 角井清一郎と李枝が坐っている 1 バリ画廊・事務室 李枝の声「しかし私はまもなく若い貿易商の 李枝が館林に小切手を渡す 角井「 ( 鞄から小函を出して ) お内儀、これ 三崎洋一に身を投げかけて行った。宮原や はな、今度うちの会社で売り出した不老長館林「金はありがたいですが、深入りするの 角井の場合とは違っていた」 寿若返えりの薬や。お土産に一つ、ほれ」 はおよしなさい」 激しい抱擁ーー接吻 お内儀「まあ、ありがとう ) 」ざいます。社長李枝「深入りなんかするものですか」 李枝の声「取引きでない恋愛を、私は生まれ さんはいつもこんなお薬を飲んでらっしゃ館林「期限をつけることですな」 てはじめて持ち、それに自分から酔おうと るから、いつまでもお若いんですのね」 李枝「いやな言い方ね」 した」 角井「あんたも負けすに若返えって、せいぜ館林「だって取引きでしよう」
◇◇ホテル 李枝の部屋 李枝と館林ーーー 李枝「あなたのお部屋はどこ ? 」 館林「五階です。今、司さんのホテルへ電話 したら、明日奈良へ行くそうです。一緒に 連れてって貰いませんか。他の人と行くの と違って勉強になりますよ」 李枝「だって絵を見に行くのは ? 」 のを誰も信用してませんよあの人は芸術館林「明後日ですから、明日一日空いてるん図仏像 o しか信用してない。人間の住む家を造るの です。僕も行きたいんですが、大阪へ行っ が仕事でありながら、その中に住む人間を て一二軒廻わらなくちゃなりません」 円照寺 信用しないんだから、因果なことです」 李枝「じゃ、私だけ ? 誘われたわけじゃな 若い尼僧が司と李枝を案内している し、ご迷惑じゃないかしら」 館林「司さんなら金の問題は抜きにして好き館林「大丈夫ですよ、どうせ暇だから」 円通殿 になってもかまいませんよ」 李枝「そんなこと判るものですか」 李枝「え ? 館林「あの人は忙しいことを軽蔑しているか 宸殿 館林「しかし向うが相手にしないでしよう」 ら、自分を決して忙しい状態には置きませ 李枝「まあ」 んよ」 土蔵 館林「そういう人ですよ。好きだなんて言っ李枝「すぐ軽蔑なさる方ね。私などきっとす てごらんなさい、笑われるから」 ぐ軽蔑されちゃうわ」 奥御殿 李枝「言うもんですか、そんなこと、死んで も言わないわ」 裏庭に面した部屋 奈良 夥しい数の雛人形がぎっしり飾られてあ一 る。 京都 X X 寺 司と李枝が歩いている。 司と李枝が薄茶をいただいている。 司「奈良は何回目です」 李枝「すばらしいお雛様ですわね」 李枝「初めてです」 尼僧「昔から代々のこのお寺の主が、このお 司「初めて ? 寺にお入りになる時持って来られたもので、 李枝「女学校の時、修学旅行で来たことは来 それがいつの間にかこのように沢山になっ たんですけど、殆ど覚えていません」 たのでございます」 李枝「まあ」 仏像 < 尼僧「もう一服いかがでございましよう」 李枝「もう充分でございます」 鴈仏像 寺の表 102 -8
そして、出来上がってきた原稿に朱を入れて数回直させ、 印刷本にする これの繰り返しなのだ。 つまり、『小川工房』なのである。 噂には聞いていたが、 目の前で原稿を破る姿も目撃した。 / 川さんは、出来てきた原稿が朱を入れるまでもない代 物だと読み取ると、読んだ原稿用紙を右と左に振り分けて そしてラストまで読み終わると、右に置いた方を取り上 げ、まとめて破いて捨てる 要するにその枚数が、すべてポッ、書き直しなのだ。 いわば「検品作業 , ですな、これって。 今だったらメールで原稿をやりとり出来るけど、当時は そんなものはないから、急ぎの時だけファクスを使い、た いがいの場合は「弟子」が書き上げた原稿を目の前で読み、 「不良品」を次々に「廃棄処分」にしていく。 破られる枚数が減れば減るほど、「プ卩への道が近づ いてくるとい、つわけだ。 ある女性ライターなど、 120 枚の手書き原稿を 119 枚破られた。 、川さんがトイレに立った隙に、及第点を貰ったたった 一枚は何だろうと覗き込むと、 「おわり , というエンドマークだけが書かれた一枚だった。 その女性ライターは泣きそうな顔をしていたが、「なに くそ ! 」と、翌日、ぜんぶ書き直してきた。 それでも数十枚破られ、毎日毎日書き直しては通ってき 、」 0 たか小川さんの偉いところは、そんな経緯で出来上がっ た原稿を、いつも「弟子」との共同脚本としてクレジット させ、基本、ギャラを折半にしてきたことだ。 「弟子」が大半書いたものを平気で自分の名前だけで発表 し、ギャラもろくろく支払わない「巨匠」が多い中、、ー さんの「弟子の鍛え方 , には愛情があった。 だからこそ、彼の私塾「英塾」や、田波靖男と共同経営 していた製作プロダクション・ジャックから、数多の脚本 家が育っていったのだろう 「薔薇夫人』は難航した。 主役の夏木マリのプロダクションからの注文も多く、間一 に入った山田も朝令暮改に悩まされ、昨日書いた部分を すべて書き直さねばならないことも多々あり、一進一退状 態だったが、なんとか第一稿を仕上げた。 印刷本を読んだ夏木マリサイドの感触も良く、それでは ムマ度は小川さんをメインに直しにかかろ、つとい、つことに相 成った。 福屋ホテルを引き払い、、 川さんの定宿だった渋谷の東 武ホテルに赴くと、、ー 月さんは上機嫌で、僕と山田をねぎ らってくれた。 が、東武ホテルは満員で、一室しか空いていないという スイートルームだとい、つか、ツインではなく、ダブルべ 決定稿の締切日も迫っており、仕方なく、何泊か小川さ
で原作のここをカットしたの ? ここ見たかったのに」と言 われることもあるので、意見を聞きつつ全体のバランスを直 します。 では、脚本家は原作を読んで自分が受けたインスピレー ションを思い切り初稿に込めていいんですか ? 奥寺はい、そこはもうガンガン攻めちゃってください。 吉田シナリオを勉強している段階ではオリジナルを書こう としますが、自分の好きな原作を脚色をしてみるのもいいか もしれませんね。 奥寺短編、中編を脚色するのはすごくいいですね。ゼロか らオリジナルで書いていくと飽きたり嫌になったりします が、好きな原作なら最後まで書けるんじゃないでしようか 吉田短編を忠実にシナリオにしてみたり、中編のエピソー ドを削ったり : 奥寺キャラクターがどんな人物なのかをつかみつつ、原作 にないエピソードを考えてみるとか 質問 ■役者さんのためにあえて台詞を変えるとおっしやっていま したが、台詞をあえて変えたポイントというのは、監督にあ うんの呼吸で伝わるのでしようか ? ・ : 。役者さんの魅力をより 奥寺それは監督によりますが : 引き出せるような台詞を当てていますが、それが監督に伝 わっているかはわかりません。でも映画を観た限りでは伝 わっていると思います。 質問炻 ■苦手なジャンルの依頼があった場合はどうされています か ? ・ 奥寺苦手なジャンルでもなるべくお引き受けしようと思っ ています。依頼のあったものは、時間のある限り断らすに書 くことにしています。ただ得手不得手はあるので、不得手な ものを引き受けて後悔することもありますし : : : 昔は恋愛物 が苦手で興味もなかったのですが、無理矢理書いているうち に苦手意識がなくなってきました。 ・製作資金の回収や売り上げなどビジネス的にはどういった スタンスでシナリオを書かれていますか ? 奥寺ビジネスとしてのシナリオは : : : 一番考えるのは、や はり予算に対してど、つシナリオを作っていくかでしよ、つか 「こんなシーンにしたいんだけどーと提案しても予算がない からできないと言われることは頻繁にあります。そんな時は、 他の案を考えるのも脚本家の仕事の一つだと思います。 吉田その意味では、アニメーションは自由ですね。 奥寺しいですね ( 笑 ) 天候も気にしなくていいし。字宙で 、、 0 ーもしし 吉田では、今後もオファーがあればアニメーションを ? もうなんでも書きます。 奥寺はい、 質問 ■作品として純粋に観てもらいたいのか、ビジネス面として 9 ・ 4-
奥寺直すのが楽しいなぐらいに思ってやらないと。ただ、 一人で直すのは大変ですよ 質問Ⅱ ■細田監督作品は、家族観がとても独特だという印象なんで すが、父親観や母親観など。それは世代によってバラバラ だったり、家庭によって違うと思うので、かなり究極なもの ですよね。ご自身が納得できない価値観の作品を依頼された 場合、徹底的に議論を交わされると思うのですが、それでも 納得できない時はどうされるのでしよう ? 監督の意志を尊 重して寄せるのか、それともご自身なりの解釈をこっそり脚 本に盛り込んだりするのでしようか ? どちらに比重を置く のでしょ一つか ? 奥寺確かに価値観の違いは、細田監督に限らず仕事をして いる上であります。私は最終的には監督のやりたいことを重 視しますが、「お客さんが観てどう思うか ? 」という問いカ けは、必す監督にし続けます。自分の意見を通すというより、 独りよかりになっていないかと、つかとい、つことの方が気にな ります。 質問ロ ・シナリオハンティングは自費ですか ? それとも、このス ケジュールで行くのでと費用をお願いするのでしようか ? 奥寺それは予算によってケースパイケースですね。予算が ない時は自費で行きます。予算がある時は、監督・プロデュー サーとシナハンをかねて行ったりします。 吉田笠原和夫さんも、自費でも行くぐらい重視していたそ うですね 奥寺自費でもシナハンは行った方がいいですね 吉田笠原さんが自著で書かれていましたが、シナハンで 行った先の神社に寄って、玉垣に刻まれた寄進者の名前を見 ると、その土地に多い名前が分かるからメモしていたとか その土地に合った名前を調べるのに合理的ですね 奥寺素晴らしいですよね。私も今度やってみます。 質問 ・作品のインスピレーションは、どういったところから受け ているのでしようか ? 奥寺原作がある時は、自分がこの原作を好きなのは何故か を考えて、その中でインスピレーションを探していきます。 「この話のここがいい ! 」というのを確実につかむことでしょ うか。一度つかむと、それが核になってアイディアが広がっ ていきます 脚色のススメ 質問図 ■原作からインスピレーションを感じるシーン、感じない シーンの取捨選択の基準は脚本家にあるのでしようか ? 奥寺一番初めは脚本家にあると思います。打合せで「なん 4