ちゃん - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年9月号
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1. シナリオ 2016年9月号

か」 のあたりでガサゴソと音を立てるんだ : ・ 次郎「どれ ( と横からのぞいて ) こんなの駄 次郎「兄さん、そんなに気にしなくてもいい 僕がパッと飛び出すと、お前は今と同じよ 目だよ」 んだよ」 うに、ふてくされたような恰好でノッソリ民子「まあ、あんたのお嫁さんじゃないのよ」 悠一「え ? と出て来るんだ : ・ 次郎「だって、ちっとも美千ちゃんに似てな 次郎「母さんは俺のことなんか、もうあきら次郎「ふん : いじゃないか」 めちゃってんだから : : : 学校なんか行かな悠一「今だってお母さんは、お前とどんなに悠一「え : : : ? いで働いた方がいいと思ってんだよ」 喧嘩したって : : : お前がどんなにふてくさ民子「何を言うのよ : : : 美千子さんに似てな 悠一「そんなこと : : : 」 れて、家を飛び出したって : : : 必らず帰っ くたって : : : そんなこと : : : 似てない方が 次郎「そうなんだよ て来ることを知ってるんだよ」 いいのよ 悠一「そうじゃない : 次郎「・ : 次郎「似てた方がいいよ」 次郎「そ、つだよ」 悠一「だから安心してるんだよ : 民子「そんな馬鹿なこと : 自分も草をむしりはじめる 裏口から民子が帰って来る たって人は : : : 」 悠一「お前、こんな小さい時から、お母さん民子「なんだ、帰ってたの ? そんならも、つ次郎「 : に叱られると 、パッと飛び出したっきり、 少し何か買って来るんだった : : : まあ、何民子「変なことばかり言い出すんだから : : : 」 夕方、暗くなっても帰って来ないことがよ とか間に合、つだろう・ : ・ : あんたが悪いのよ 台所の方へ行く。 くあったな」 ・ : プイと飛び出したっきり、いっ帰って 次郎「ふーん」 来るかさつばりわかりやしないんだもん」 夏子のア。ハート・ ( 夜 ) 悠一「僕と、亡くなったお父さんは心配して次郎「 : ・ 夏子と徹がタ飯を食べている。 近所を探し回るんだが、お母さんはちっと民子「すっかり遅くなってしまって : : : そこ夏子「あれじゃ次郎君が興奮しちゃうのも無 もあわてないんだ」 で渡辺さんに会ったら、ちょっと寄って 理ないわ [ 次郎「冷たいんだよ」 らっしゃいってきかないのよ : : : 見せたい徹「やつばり幽霊みたいだった ? 」 悠一「違うんだ : : : お母さんはお前が必らずものがあるからって : : : 何だと思う ? 」 夏子「私も胸がドキンとしたわ : : : 悠一さん 帰って来ることをちゃんと知ってたんだよ悠一「どうせまた : : : 」 に見せたら混乱しちゃうだろうなあ」 ・ : 信じてたんだよ」 民子「そう : : : あなたにどうかしらって : : : 」徹「見せない方がいいんだろう ? 」 次郎「・ : 一枚の写真を渡す 夏子「そうね : : : あんな人を見たら、また、 悠一「その通り、お前はいつのまにかこっそ悠一「ふーん : : : ( と写真を見る ) 」 しばらくはほかの人と結婚する気なんかな りこの庭へ帰って来るんだ : : : その木の下民子「なかなか奇麗なお嬢さんでしょ ? くなっちゃうわね : ほんとにあん ー 106 ー

2. シナリオ 2016年9月号

園子「・ : 園子、倒れ、襖にぶつかる 蓉子も自分がしたことに驚いている 園子、取り繕って、起き上がる 蓉子、園子から目を逸らす。 誠も驚いている 蓉子「ごめんね。びつくりしちゃった ? 大 丈夫よ」 と、抱き上げ、 蓉子「そろそろ、おばあちゃんちに行きま しようね」 と、風呂敷包みを持つ。 園子「蓉ちゃん : : : 」 蓉子「大丈夫よ。お姉様たちが落ち着いたら、 ちゃんと誠ちゃんを送り届けますから」 と、部屋を出て行く。 園子「・ : 誠の無邪気な笑い声が聴こえて来て、ド アの開閉の音とともに、消える。 と、襖に目を留める 和紙の花を張った襖が小さく破れている 京都・町家の並ぶ通り春 狭い路地で、若い女が学生服の男とロづ けを交わしている 財布を手に歩いて来た園子、気がっき、園子「 : : : 」 足を止める。 京都・とある一軒家 へ、財布を手にした園子が戻っていく。 門の前に、男がいる 園子「 ! 」 さっきの男だ。 男、園子を見ている 男に向かって歩いて行く。 園子「・ : 学生、ロづけながら、女の尻に手を伸ばす。 男も園子を迎えるように微笑みかける。 女、ロづけを続けながらも、その手を叩く。園子「・ : ・ : 待ち伏せしてらしたの ? 」 園子、その可愛らしい無言の攻防に、く 男、おかしそうに園子を見つめる すっと笑う 園子も男から目が離せない。 と、向こう側で二人を見ていた男がいる と、アコーディオンの旋律が聴こえてく る。 園子と目が合うと、男も、いたずらつほ く笑ってみせる 物悲しくも、どこか滑稽な旋律である 男を見つめてしまう。 男「園子さん、でしよう」 と、ロづけを交わしていた二人、園子の園子「え。どうして ? 」 方へ。 男「越智です。速水電線の」 園子、道を開ける。 園子「あ。支店長さん ? 」 一一人を見送ると、路地を覗く 越智「やつばり、あなただった」 暗い路地の向こう側、陽光に輝いている。園子「 ? 」 男はすでに立ち去っている 越智「雨宮君が、あなたが電話をかけに行っ 園子、路地を入って、向こう側へ たきり戻ってこないというんで : : : 」 辺りを見回すが、男の姿はない。 園子「 : 越智「あなただったんだ」 園子「・ : 同・離れ 荷解き中の荷物で埋まっている。 雨宮、荷解きをしている 雨宮を間に、園子と越智。 雨宮、荷解きの手を止めす、 雨宮「電話をかけ忘れたって、そのために 行ったんだろう」

3. シナリオ 2016年9月号

園子「何するの ! 」 園子「愛があるから感じるわけじゃないのよ」園子、そうしよう」 と、正田を突き飛ばす。 雨宮「え」 と、すがりついていく。 正田「好きなんです。ずっとずっと好きだっ園子「試してみたんだから、本当よ」 園子「・ : たんだ」 雨宮「試したって、お前 : : : 越智とか ? 越 と、園子の足にすがりつく。 智と寝たのか ? 」 京紅の貝袷 正田「一度だけ。一度だけでいいから。頼み園子「違うわよ」 蒲団袋の上に、猫のように身を丸めた園 ます。拝みますから : ・・ : 」 雨宮「じゃあ、誰と、誰と寝たっていうん 子の手が弄んでいる と、スカートの中に手を入れてゆく。 雨宮、園子の着物や洋服を荷造りしてい る。 園子「・ : ・ : 好きな人に抱かれたら、どんなに なっちゃうんだろう」 雨宮「東京駅まで、蓉子ちゃんが迎えに来て 園子と正田、服の乱れも直さずに、畳に雨宮「 : くれるからね」 横たわっている と、わーっと叫びながら、園子の首に手園子「 : : : 」 と、園子、笑い出す。 を回す。馬乗りになって、園子の首を締雨宮「僕も出来るだけ早く東京へ戻れるよ、つ一 正田、ぎよっと園子を見る め上げる にするから、それまではお母さんのところ 園子、さもおかしそうに笑い続ける。 動かない。 園子「・ : 雨宮の指がじりじりと絞め上げてくる。 蒲団の中、園子、雨宮と抱き合っている 雨宮「大丈夫。誠の顔を見れば、ここでのこ 園子、積極的に動いている 園子、目を見開き、ロを大きく開ける となんて、すっかり忘れてしまうよ」 雨宮、その様子に驚きながらも、受け入 と、雨宮、ハッと手を離す。 園子、雨宮を見る。 れている。 雨宮、園子から離れ、背を向ける。 雨宮「ん ? どうした ? 」 園子、雨宮にまたがる 園子「 : ・ : ・殺せばいいのに : ・ 園子「へその緒 : : : なくしちゃったみたいな 蠢く白い背中が汗で光る 雨宮、嗚咽しはじめる。 園子、しつかりと目を閉じて、昇り詰め雨宮「東京へ帰ろう。ね、園子、東京へ一緒雨宮「誠のか ? 」 て行く。 に帰ってしまおう」 園子「ええ。こっちへ引っ越すときに、ちゃ 崩れ落ちる園子。 園子「・ : んと持ってきたはずなのに : 雨宮、しつかりと抱きとめる 雨宮「誠と三人で、また元のように暮らすん雨宮「じゃあ、どっかにあるんだ。ひょっこ 雨宮「園子 : : : 」 だここでのことは何もかも忘れて、ね、 り出てくるよ」

4. シナリオ 2016年9月号

民子が上って来る きな人を : : : 」 悠一の声「おかげで俺はいい三枚目だよ」 次郎「違うよ : ・・・・違、つったら・・・・ : 」 民子「兄さんにあやまりなさい」 次郎の部屋 次郎「俺 : : : 何にも・・ : ・」 悠一と次郎 民子「次郎 : : : 」 悠一「光ちゃんには好きな人があったんだ」次郎「馬鹿 : : : 馬鹿 : : : 馬鹿野郎 : 次郎「・ : パッと飛び出す。 悠一「はじめつから : : : お前が好きだったん民子「次郎 : : : 」 だ」 次郎「違う」 階段 ( 夜 ) 悠一「お前だって : : : 光ちゃんを好きだった 次郎が駆け下りる。 んだ」 民子が入って来る 玄関 ( 夜 ) 加藤家・居間 次郎「違う : : ・・違うよ : ・・ : 俺ははじめて光 次郎が外へ飛び出す。 民子が電話に出ている。 ちゃんを見た時 : : : 」 民子が来る 民子「御無沙汰いたしまして : : : ええ、も、つ一 悠一「その時から好きになったんだ」 民子「次郎 : : : 」 いつもいつも次郎が御厄介になりまし 次郎「違うよ : : : 兄さんがどんなに喜ぶかと : いいえ、もう・ : : ・今度はまた・ : : ・今 思って・ : : ・」 階段 ( 夜 ) 日でもう一二日も : : : お邪魔をしたまま : 悠一「でも光ちゃんはお前を好きなんだ」 悠一がゆっくり下りて来る 相変らず : : : え ? ・ : まあ : : : お宅へ伺っ 次郎「あんな奴・ : : ・俺・・ : : 」 ていないんですって ? 悠一「お前だって好きなんだ」 玄関 ( 夜 ) 次郎「嫌いだよ : : : あんなオカチメンコ : 民子が外を見て、あきらめたように扉の 甲野書房・編集部 大嫌いだよ」 鍵をかける。 夏子「ええ、ここ四、五日 : : : 私の方には 民子「 : : ええ、見えないんですよ : : : まあ : いきなり次郎の頬を打つ。 居間 ( 夜 ) おかしいですねえ : : : まあ、一体どこへ 次郎「あッ : : : 」 民子が来る。 行っちゃったのかしら : : : はい・ 民子「あんたは : : : あんたは : : : 兄さんの好 悠一が立っている ・徹にも聞いて : : : ええ、きっとほかの 民子「あ・ : : ・」 民子「 : : : どうせまた徹さんのとこよ : ・・ : 」 甲野書房・編集部 電話が鳴る 記者「 ( 取って ) もしもし : : : ちょっとお 待ち下さい ( 夏子に ) 加藤さんから : 夏子「 ( 受取って ) もしもし : : : あら : : : ま 1 18 ー

5. シナリオ 2016年9月号

園子、二組の蒲団を並べて敷いている 園子「すみません。今夜は : 笑みが湧いてくる。 その顔には笑みが浮かんでいるように見 雨宮、構わず、園子の胸元を探る と、越智も園子を見つけ、微笑みかける。 える 園子「・ : : いやなの」 園子、つい、間近に歩み寄る。 雨宮、窓辺で煙草をふかしている。 と、雨宮を振り切る。 が、言葉が出ない 雨宮「越智さんってさ、やつばり、ちょっと雨宮「どうしたの ? 越智も言葉がないまま、見つめてしまう。 変わってるな」 園子「 ( 取り繕って ) 落ち着かなくて」 園子「やつばりって ? 」 雨宮「わかったよ。園ちゃんが嫌がることは越智「 : 雨宮「幾度も栄転の話が出たらしいんだが、 したくないからね 園子、俯く。 誰が説彳 しても、京都から動こうとしない と、蒲団に潜り込む。大きく伸びをする。越智「 : : : じゃあ、また」 んだってさ」 と、歩き出す。 園子「京都の方だからでしょ 園子、出社していく越智の背を見送る 雨宮「それが違うんだよ。大学は京都だが、 と、越智、振り返る 生まれも育ちも東京だっていうんだ」 園子の顔に笑みが浮かぶ 園子「ご家族 : : : 奥様がいらっしやるんで 越智、小さく頷きかけると、角を曲がっ しょ ? 」 て消える。 雨宮「いたら、下宿なんてしてないだろ」 園子「下宿って ? じゃあ、北林さんのとこ 雨宮、園子の顔を面白そうに見つめる 園子「何ですか ? 雨宮「すいぶん、気分が良さそうだね」 園子「え ? 」 雨宮「なんだか生き返ったみたいな顔をして るよ」 園子「 : : : 気のせいですよ」 と、蒲団を整えに戻る。 雨宮、煙草を消し、園子を抱き寄せる 離れ・玄関前 スーツ姿の雨宮が出てくる。 その後ろ、園子がプリーフケースを持っ て、見送りに出る。 雨宮「今夜は遅くなるから、先にやすんでて園子「・ : しいからね」 園子「ええ」 四北林家・応接間 雨宮、プリーフケースを受け取ると、笑 園子、受話器を耳に当てている 顔で手を振り、出かけて行く。 北林、紅茶を淹れながら、俯きがちな園 園子、北林家をみやる 子の襟足やワンピースから伸びた素足な 庭木が見えるばかり どを見ている 溜息がついて出る。 園子、受話器を置き、 戻りかけるが、箒を手にする。 「ありがとうございました」 また、北林家を見やる。 と、戻ってくる と、出勤してくる越智の姿 北林「坊ちゃん、いつ、いらっしやるの ? 園子「それが、おたふく風邪にかかっちゃっ

6. シナリオ 2016年9月号

良平「僕も実はいやだと思いながら、見たく良平「ハ ・ : 君たち、大学の試験の発表きょ「そんな恐ろしい病気が、何も選りに なるんだ」 は ? 」 選って、うちのお嬢さんを : : : 」 夏子「それじやきよさんと同じじゃありませ次郎「話題を変えよう」 涙を抑えながら、椅子につますき、キチン ん ? 」 良平「駄目だったのか ? 」 と直して、また涙を抑えながら出て行く。 良平「そうなんだよ : : : 婆やを笑えた義理徹「ええ」 夏子「やつばり話題を変えましよう」 じゃないんだよ、 良平「君も ? 」 良平「君、あの話、どうしたの ? 」 悠一「僕も同じだな ( ウイスキーを飲む ) 」夏子「そうなんです」 夏子「どうしましよう ? 良平「話題を変えようか : : : 」 悠一「徹君ははじめて浪人になるんだけど、良平「僕が聞いてるんだよ」 夏子「でも、今夜は美千子さんのことを思い 次郎は三年目だからな」 夏子「迷ってるんです」 出すために集まったんですもの」 良平「そうか : : : 一一人ともどうやら不肖の弟悠一「あなたでも迷うことあるのかな ? 次郎「美千ちゃんの顔には小さなホクロが、 たちらしいな」 次郎「何を迷ってるの ? 」 いくつあったか知ってる ? 兄さん、知っ きよが料理を運んで来る 夏子「結婚しようか、どうしようかと思って てる ? 」 良平「もっともこの兄さんと姉さんは少し立 派過ぎるからな」 次郎「今から ? 」 夏子「悠一さんの眼には、美千子さんのホク次郎・徹「 ( 同時に ) そうなんだ」 夏子「・・ : : でも遅くはないでしよう ? 」 ロなんか見えなかったのよ」 , 良平「なんだ : : : 不肖の弟を自認してるの次郎「全然 : : : 」 次郎「そうだな : : : 僕は数えたんだ : : : 三つ か」 徹「遅いよ」 あったんだ」 次郎「やつばり話題を変えようよ」 次郎「遅くないよ」 徹「ほんと ? 」 きょ「お嬢さんが生きてらしたら : : : ( 悠一徹「結婚するんなら、もっと早くすりやい 悠一「四つだよ」 を見て ) こんな立派な旦那様の : : : 奥さん いじゃないか」 次郎「え ? 」 になって : : : 今頃はきっと可愛い赤ちゃん夏子「あんたみたいな足手まといがいるから 悠一「左の耳の後にも : : : 一つあったんだ」 結婚出来なかったんじゃない」 次郎「そんなとこ知らねえや」 徹「今どき病気で亡くなっちゃうなんて徹「全部、僕のせい ? 」 夏子「次郎君の負け」 夏子「でもないけど : : : 」 次郎「耳の後なんて、顔じゃないもん」 良平「今だって、病気で死ぬ人間はいくらも次郎「どんな人 ? 」 夏子「口惜しがっても駄目」 いるさ : : : 美千子の場合は何万人に一人と徹「アメリカ人だってさ」 次郎「話題を変えようよ」 言う珍らしい病気だったんだ」 次郎「へえ」 9 ・

7. シナリオ 2016年9月号

テープルの方へ行く。 光代「美千子さんって、どんな方だったのか しら : : : ? 光代「会社の方 ? 」 悠一「うん」 悠一「だから : : : 君とそっくりなんだよ」 光代「亡くなった美千子さんを知ってる方 ? 」光代「だって、私はただちょっと似てるって 悠一「いや : ・ : ・彼は知らないよ」 だけでしょ ? 」 光代「そ、つ・ : : ・ : この光 悠一「ううん : : : 美千ちゃんは : 悠一「どうして ? 」 ちゃんにそっくりなんたよ : : : 何もかも 光代「だって : : : 」 悠一「きっと珍らしかったんだよ」 光代「違うわ」 光代「何が 悠一「ううん、違わない : 悠一「僕が君みたいに若くて奇麗な人と一緒 ポーイが次の料理を運んで来る。 なのが : : : 」 光代「あら、加藤さんってそんなに : 映画館の表 悠一「そんなに : : : 何 ? 次郎が来て入場券売場の方を見る 光代「ううん : 光代の顔は見えす、他の出札係がいる 悠一「言いかけたことは言ってくれた方がい いな」 クラシック音楽 光代「美千子さんが亡くなられてから : : : ほ 典雅な演奏ーー・ んとに一度も : : : 恋愛をなさらないの ? 」 悠一「うん、一度も : ・・ : 」 8 観客席 光代「へえ : ・ 悠一と光代がいる 悠一「そんなに不思議 ? 何となく退屈している光代。 光代「不思議だわ」 人 恋悠一「そうかな」 加映画館の表 人光代「やつばり美千子さんをよっほど深く 次郎が来て、入場券売場の方を見る。 ・ : 愛してらしたのね」 入場券を売っている光代 次郎には気づかない フラット立ち去る次郎 映画館の中 ( 夜 ) 閉館後ーー ガランとした場内を清掃係が掃除してい る。 光代と早苗が入って来て手伝う。 早苗「その後、どうしたの ? 素敵な恋人」 光代「フン : 早苗「あの人、次郎さんと違ってお行儀がい いから、あんたの方から積極的に出なきや 駄目よー 光代「馬鹿ね : : : 」 花喫茶店 良平と夏子がコーヒーを飲んでいる。 良平「その後、悠一君と光ちゃんはどんな具合 かね ? 少しはエスカレートしたかな ? 夏子「ええ、多分 : ・・ : 私もこの頃忙しくなっ て : : : そこまでは面倒見きれませんもの」 良平「そりゃあそうだ : : : 君だって、ほんと 夏子「ん 良平「その後、とうなったの ? 」 夏子「ああ : : : そのまんまなんですけど : ・ 思い切ってアメリカへ行っちゃおかな」 良平「おいおい、そうあっさり行ってしまわ 1 13 ー

8. シナリオ 2016年9月号

民子「私もね、はじめは美千子さんと似て もはじめはちょっと気になったんだけど悠一「違うよ : ・ : ・僕は君を愛してるんだ : るってだけで、結婚ってことまで考えてい ほかの誰でもない : : : 君を愛してるんだ」 いのかしらと思ったんだけど : : : 」 次郎「そんなことどうだっていいんだよ ( と光代「 玄関のあく音 立ち上って ) とにかくさっさと : : : しつか悠一「はじめはたしかに僕の心の中で、美千 民子「今頃、帰って来たわ」 り擱まえるんだよ」 ちゃんと君のイメージがダブってたよ : 次郎が入って来る。 民子「お風呂は ? 」 でも、今ははっきり違う・ : ・ : 美千ちゃんは 民子「お帰り」 次郎「入るんだよ : : : 入りやいいんだろ、入美千ちゃん : : : 君は君 : : : 僕が愛してるの 次郎「ただ今」 りや : : : 」 は生きている君なんだ : : : 手のとどくとこ 民子「お風呂に入んなさい」 : ほんとうなんだ : セーターをパッと脱ぎ捨てて風呂場の方ろにいる君なんだ : 次郎「ああ : : : ( あぐらをかく ) 」 へ行く。 信じてくれよ」 民子「すぐお入んなさいったら : : : 」 民子「まあ : : : 何て子だろう : : : でも、あれ光代「ごめんなさい : 次郎「兄さん : : : 光ちゃんにさっさとプロ であんたのことを気にしてるんだわ」 悠一「どう言ったらわかってもらえるかなあ ポーズしなよ」 ・ : 僕は決して嘘なんか言わない : 悠一「え ? 光代「あなたが嘘をつくなんて思わないわ 公園 次郎「ぐずぐずしてちゃだめだよ」 噴水ーー : ・だから困るのよ : : : 駄目なのよ : : : 」 悠一「ぐずぐずなんかしないよ」 悠一と光代が歩いて来る 悠一「どうして : ・・ : 」 次郎「してるじゃないか : : : 女なんて、フラ光代「結婚 ? 」 光代「ごめんなさい : : : 私、そのことを次郎 さんに : フラっと何を考えるかわかりやしないから悠一「今すぐでなくてもいいんだ : : : 結婚の : 一押し、二押し、何とかって、ガッと約東だけでもしてくれればいいんだ」 悠一「次郎に ? 」 しつかりんでなきや : : : 」 光代「いけません」 光代「次郎さんに話して : : : あなたにわかっ てもら、んるよ、つに : 民子「何を言うのよ。偉そうに : : : あんたみ悠一「え ? いけない ? 」 たいにそんな乱暴な : : : 兄さんには兄さん光代「困るわ : : : 」 悠一「わかってもらえるように ? : : : 何をわ の流儀があるのよ」 悠一「困る ? 」 かればいいんた : : : 僕か : : : え ? 何をわ かるんだ ? 次郎「そんなのんきなこと : : : 」 光代「あなたは今でもやつばり美千子さんを 民子「いいのよ : : : 私もね、光代さんだった愛して : : : 」 光代「私 : : : 私、どうしても・ : : ・」 らきっといい奥さんになれると思、つの : 悠一「え ? 」 悠一「ど、つしても : : : 僕を : : : 」 系累がなくて、たった一人ばっちっての光代「私はただ美千子さんによく似た : : : 」光代「ごめんなさい : 1 16 ーー

9. シナリオ 2016年9月号

海野の声「ひとり飲む酒 ) 」 海野「ひとり飲む酒わびしくて ) 映るグラス 口をとがらせ、いじいじする。 マイクを持った海野が店に戻ってきた。 は過去の色 ) あなた恋しい黄昏の ) 横浜ホ 雛子、海野に近付き、ハグする。 海野「悲しくて ) 映るグラスはプルースの色ンキートンクプルース ) あなた恋しい黄昏海野「」 の ) 横浜ホンキートンクプルース ) 」 雛子「とても、良かった」 そしてギターマンとべースマンがアウト 「横浜ホンキートンクプルース』を歌う 海野、ドギマギで雛子の頬にキスしよう 海野を見ている雛子。 口を弾き、曲が終わった。 とするも寸前で、雛子は離れ、席につい てしま、つ 海野「例えばトム・ウェイツなんて聞きたい 雛子、涙を流していたが、客と店員の拍 夜は ) 横浜ホンキートンクプルース ) ヘミ 手に気付き、急いで拍手をする 海野「 ( 悔しそうに ) △◇ x 〇@」 ングウェイなんかにかぶれちゃってさ ) フ 二人のプルースマンとがっちり握手 & ハ ローズンダイキリなんかに酔いしれてた ) グする海野 地下鉄劇場ー八年前 漫才をしている若かりしエミアビ あんた知らないそんな女 ) 横浜ホンキート海野「どうもありがとう ) 」ざいます」 ンクプルース ) 」 ギターマンもニャリと親指を突き出す。海野「来週、人生初めてのデートなんだ。だ 雛子の姿も目に入らない程、熱唱する海 チップを渡すと、ギターマンは涙を拭っ からちょっとだけ予行練習させて」 野。 た雛子に近付く。 実道「わかった」 二人で漫才コントを始める。 海野「飯を食うならオリジナルジョーズなん雛子「 ( 立ち ) 素晴らしかった、でした」 て ) 聞いた風な事ぬかしてた ) 真っ黒い髪 鷹揚に頷き、雛子にハグするギターマン。 店に入ってきた風で、 の雛子って女さ ) 懐かしホンキートンクマ そして雛子の頬にキスするのを見て、 海野「予約してた海野です」 ン ) あなたの影を捜し求めて ) 一人さす海野「あー」 実道「 ( 腰を曲げ ) はいやー、よか店だべ らったこの街角 ) 本牧辺りの昔の話さ ) 嫉妬するがべースマンにハグされていて、 なー」 ま横浜ホンキートンク ) 革ジャン羽 海野は身動きできない 海野「誰、それ ? 」 は織ってホロホロトロトロ ) バーポン片手に べースマンも何事も無いようにハグ & キ実道「お前のデート相手」 千鳥足 ) ニューグランドホテルの灯りがに スを雛子にし、海野、呆れる。 海野「 ( 首を振り ) ルミちゃん、そんなお婆 ま じ じむ ) センチメンタルホンキートンクメ 去っていく二人の背中を恨めし気に見、 ちゃんじゃない」 の ン」 海野「 : : : チップ弾むんじゃなかった」 実道「 ( 自分を指差し ) ルミちゃん ? 俺、 ビ ア 凝視している雛子。 雛子「海野さんも。感動した」 ルミって言、つの ? 」 工 没入の海野 海野「 ( 聞こえてない ) : : : 僕ですらキスし海野「そう。短大生」 ギターマンとべースマンもスイング。 た事無いのに」 実道「トラックの運転手 ?

10. シナリオ 2016年9月号

来週ぐらいまで待った方がいいだろうって。園子「わからないのよ。そんな話、してない 出社していく越智 子供には長旅だからね」 の」 園子、カーテンの隙間から見ている 園子「そう」 雨宮、詰めていた息を吐く 越智、窓を見る 雨宮「会社から電話したら、たまたま蓉子 呆れたような笑みが浮かぶ。 園子、カーテンから姿を出す。 ちゃんが出てね、お義母さん一人じや心許雨宮「会社の事務員にも、越智のファンが何 越智、園子に微笑みかける。 ないから、一緒に来てくれるってさ」 人もいるらしいよ。あんな男のどこがいい 越智を見つめる園子の目から、涙がこば園子「・ : んだろう。女ったらしってああいうのをい れる。 雨宮「園子 ? 聞いてるのか」 うのかな」 園子「ごめんなさい」 と、取り繕って、ご飯を食べようとする雨宮「園子。あなたは勘違いしてるだけなん 越智、窓辺に近づいてくる。 が、溜め息をついて、箸を下ろす。 だよ。誠がいなくて、僕も残業が続いて家 園子、カーテンの陰に隠れる。 雨宮「何だよ、魂が抜けちゃったみたいじゃ にいないから、寂しくて、それに暇なんだ。 ないか」 だから、そんなバカげた考えに取り憑かれ一 越智が立ち去る気配がする。 園子「そんな風に見えるの ? るんだ。有閑マダムのよろめきってやっさ」 % 園子、外を覗く。 雨宮「ああ。どうしちゃったんだよ」 園子「 : ・ 去って行く越智の背中。 雨宮「誠の顔を見れば、越智のことなんか、 雨宮「なに ? どうしたの ? きれいさつばり忘れるよ」 座り込む。胸が大きく上下している 園子「・ : ・ : 越智さんが好きになってしまった園子「 : 園子、指を噛む 一 4 雨宮「へ ? 」 離れ 園子「恋、なんだと思う」 夕飯の席。煮くずれた南瓜。焦げためざし。雨宮「ええ ? 雨宮、顔をしかめながらも、何も言わす 冗談かと笑おうとするが、切なげな園子 に食べている の顔を見て、 園子、食事に手をつけず、ほうっと箸先雨宮「越智は ? 越智はどうなんだ ? 」 を眺めている 園子「 ( 首振り ) 知らないー 雨宮「誠、だいぶよくなったそうだよ。でも、雨宮「知らないって」 園子「 : 越智「卩 同・寝室 蒲団の中、雨宮、園子に手を伸ばす。 園子、その手を押しのける。 雨宮、構わず、園子を抱き寄せようとする 園子「いや : : : 」 と、身を捩り逃れる。 雨宮「越智のせいか」 園子「ごめんなさい」