日本シナリオ作家 協会ニュース JAPAN WRITERS GUILD BULLETIN VOLUME 436 平成年度一 ・平穏血 ~ 事平成年度通常総会報告 黒川美絵 6 月片日、平成年度通常総会が行われた。 会場は昨年と同じ学士会館。国の有形文化財に 指定されている昭和初期の建物。内装にも歴史 が感じられ、思わず姿勢を正す 昨年初めて総会に出席した。新入会員の挨拶 を済ませたのち、これは会社の決算報告みたい な会議なのだ、おとなしく聞いていればいいの だと解した。興味深い話も多いが、数字の話は 瞼が重くなる。今年は睡眠十分で来た。 昨年と変わったのは、協同組合日本シナリ オ作家協会単独の総会になったことだ。開始 が一時間遅くなり、四時間から三時間に短縮さ れ、コーヒーサービスが二回から一回になった。 一度休憩を挟んでの三時間なら、どうにか集中 力が保てる。コーヒーは一杯で充分だ。 ( 昨年、 一杯目は美味しいコーヒーだったが、二杯目は 寝ないためのコーヒーだった。 ) 社団法人より 事業を移管して経営合理化を図るとのことだが、 脚本家にとっても協同組合に一本化されること は合理的だろう。関連組織となった一般社団法 人シナリオ作家協会、株式会社シナリオ会館の 活動状況についても簡易な報告があった。 加藤正人理事長の挨拶ではじまり、各委員会 からの報告があった。日本シナリオ作家協会で 協同組合日本シナリオ作家協会通常総会一 は、新しい作家を育成するシナリオ講座、テレ ピ脚本を文化遺産として国会図書館などで公開 する活動、優れたシナリオを表彰したり出版す るなど、様々な文化事業を行っている。 なかでも、「日本名作シナリオ選』 ( 上下巻 ) の出版は、待ち望んでいた人も多いだろう。昭 和の名作シナリオは市町村や学校図書館にほと んど置いてない。人から借りたり、古本屋で 手に入れた本は年季が入っており、ちょっとし た負荷で綻んでしまいそうだった。これからは 新品が買える。誰の手垢もついていない、角の とがった真っ白な紙に印刷された名作シナリオ。 はじめて手にした時はなんだか不思議な気分に なった。今後、多くの人に大切に読まれる本に なるだろう。三月には橫浜シネマリンで掲載作 の特集上映も行われた。 脚本アーカイプスの件では、人工知能で面白 - いっ , ト .1 ー冂 , ーを作る試みをしている人たちがい て、成功すれば脚本家の仕事がなくなる危惧が あるという話があった。起承転結や三幕構成 に、ヒット乍・名作のストーリー を寄せ集めた ら、オリジナルストーリー が作れる。それを人 工知能がやったらどんな作品ができるのか興味 日々 もある。しかし、人工知能は作家ではない。
りする時に、故人のバカ話で盛り上がっ すよ。僕は泣けなかったけど、いい映画じゃ たりすることがあるじゃないですか ( 笑 ) 。 ないのみたいな感じで終わるんだけど、笑 それまで泣いてたのに、急にそうなった いの映画で笑えないとなると、本当にクソ りする。それは案外普通のことなんだな つまんないって言われる ( 笑 ) 。もう、 と思って。人の死に立ち会ったりする時 ィリスク、ノーリターン。映画の人は全員、 に、悲しみはあるんだけど、笑いで浄化し 笑いは難しい、泣かせるのは技術だからっ て、悲しみと笑いが相殺されていく。だん て一言いますけど、確かにそ、つい、つところは だん忘れるわけじゃなくて、そういうもの あるんで、そんなに無理に笑いを入れなく の繰り返しによって、故人のことが、いい ても、 しいんじゃないかというのが、あり 思い出になっていくのかなあという気がし ましたね。 て、そういう映画って、物語として、あん 手つ取り早く一言うと、本職のお笑いの まり見てないなあと思って、それからです 人を主人公にするという選択肢も、あった かね のでは。 そこで主人公を漫才コンビにしたのは、 渡辺それはイヤだったんです。映画の人 職業として、お笑いをやっている人たちだ が、お笑いをやるというのを、ちゃんと からとい、つことで つばいある やってみたかった。逆は、い 渡辺その前に、映画に笑いか必要かどう じゃないですか。役者は勿論、監督も、み か悩んでる時期があったんです。笑いをと なさん上手にされていますが、その逆をや るって難しいし、全然笑えない映画だって、笑いをメインにする映画を作らなきゃいか りたかった。それで、あるプロデュ 1 サー いつばいあるわけじゃないですか。それま んと。それじゃ、も、つ漫才コンピにしよ、つと。 から、本当の話かどうか分かりませんが、 で、映画の中に無理に笑いを入れようとし 必要ないんじゃないかというのは、ど高倉健さんとビートたけしさんが共演した ていたんですが、必要ないんじゃないかと うしてですか 時に、たけしさんが「健さん、お笑いの人 思う一方で、こういうテーマの話を思いっ渡辺ます、リスクが高い笑いって滑っ 間は俳優をやれますけど、映画俳優は漫才 いた時に、本格的に笑いをやらないとダメ たら、ものすごく引かれるわけですよ。だ をできませんよ」って言ったらしいんです。 だなと思ったんです。今までのように、ア けど、泣かせる映画って、泣けなくても、 それを聞いた健さんが、ムカッとして、田 クセントとして笑いを入れるんじゃなくて、 そんなに怒って出ていく人よ、、 ( しないんで 中邦衛さんに電話をして「邦ちゃん、俺と 02016 「エミアビのはじまりとはじまり」製作委員会 一わ
園子「 ! 」 園子か話す しさで描かれている 「私が死んで焼かれたあと、白いかばそい 頬が紅潮し、ロで呼吸し始めている 骨のかげに、私の子宮だけが焼け残るん じゃないかしら」 園子、次々と見ていく 「おねえさま」 タイトル「花芯」 と、声がする。妹、蓉子の声。 園子、枕絵をしまいかけて、手を止める 2 古川家・父母の部屋昭和絽年・秋園子「蓉子さん。ちょっと来てごらんなさい 園子 ( ) 、桐箪笥の引き出しを開ける 一番上の引き出し。小さな桐の箱が一一つ と、再び、枕絵を畳に広げる 「園子大正年 6 月日誕生」 襖が開いて、蓉子が顔を出す 「蓉子大正年肥月 3 日誕生」 畳の上の枕絵に、ハッと息を飲み、背を 向ける。 と、墨字で書かれている 園子、「園子」と書かれた桐の箱を開ける 園子、笑う 真綿に包まれて乾涸びたへその緒。園子、蓉子「早く仕舞って : : : 叱られるわ」 抓んでみる 園子「お母様ったら、一人で見ているのかし 元に戻し、更に引き出しを探る らね」 古い成績表が出てくる。全甲である と、また笑、つ 園子、元に戻して、更に探る 蓉子「 : : : もうすぐ雨宮さんたちがお見え と、一東の和紙 と、襖を閉める その手から、東が滑り落ち、バラバラに園子「ねえ、蓉子さん、知ってる ? 雨宮さ 畳の上を滑って行く んのお母様ってね : : : 」 それはまぐあう男女の錦絵。 蓉子、襖を開ける 園子、座り込み、見入る 蓉子「雨宮さんのお母様が、何 ? 」 すました顔をした姫と殿の絵姿の中、互園子「昔、お父様の恋人だったのよ」 いの性器だけがグロテスクなまでの生々 3 同・座敷 園子の母と雨宮の母 ( しげ ) 、かって一 人の男を争った女二人が声をあげて笑っ ている。一一人を両側に置き、床の間を背 にして座る園子の父もご満悦の様子であ る。一列に並んだ箱膳の二人の母の隣り には、それぞれ園子と雨宮が向かい合う ように座っている。雨宮は美しい顔をし た青年で、澄ました顔で食事を続ける園 子の一挙手を見つめている 園子の隣りに座った蓉子は、そんな雨宮 を見つめているが、雨宮が蓉子に目を向 けることはない。 おしげ「奥様には本当甘えつばなしで : : : 」凵 園子の母「そんな水臭いこと。もっと気軽に一 出て来てくださればいいのに」 おしげ「まあ、嬉しい。田舎じゃ楽しみが少 ないんですよ。今度お芝居に連れて行って いただきたいわ」 園子の母「お芝居でも何でも、いすれは本当 の家族になるんですからね」 と、夭、つ おしげも声を合わせて、笑、つ 父も微笑む 園子、食欲を失い、箸を置く。 おしげ「そうそう。今日はご報告があって 参ったんですよ」
のよ」 夏子「どういうこと ? 悠一「ふーん」 悠一「 悠一「考えてみると、僕は : : : 自分で言っ夏子「もしも奥さんにばれたら : : : その時は 民子「私達を心配させようと思ってるんだか ちゃ変だけど : : : 今までずーっと優等生で きれいさつばり別れる約東だったの : : : 二 一一枚目で通して来たんだな」 年八カ月目にばれたわ : : : 約東通りに別れ 夏子「その通りよ」 たわ、 ・ : その後、ばったり会ったら : 民子「さあ、どうぞ : : : 今夜は何にもなくて悠一「ところがこの間、突如として、三枚目 ゃあしばらく・ : : ・お元気 ? : : : って挨拶を に転落したもんだから、カッとなって、次することにしたの : : : だから、さっき、や 悠一「いやあ・ : 郎に当ったんだ : : : 次郎はちっとも悪くな あ、しばらく : : : お元気って挨拶したのよ」 何となくぎこちなく坐る いのに : : : 悪いのは多分あなたなんだ」 夏子「え ? 私が ? どうして悪いの ? 夏子「でもねえ、後で考えると、どうも、あ 喫茶店 悠一「勿論、あなただけのせいでもないけど の人、自分から奥さんにばらしたんじゃな 夏子と悠一がコ 1 ヒーを飲んでいる。 いかと思、つのよ」 悠一「次郎がいなくなってから、あのガラン夏子「一体どういうことなのよ : : : あ : とした家に、おふくろさんと二人っきりて 奥の席から立って来た二人連れの男の一夏子「それくらいのことやりかねない人なの のがどうにもやりきれないんだ」 人が夏子の方に近づく。 よ : : : でも、どっちだっていいの : : : 私は一 夏子「わかるわ : : : お母さんの方だって同じ男「やあ : : : しばらく・ : ・ : 」 あの人の家庭を破壊するつもりはなかった 夏子「しばらく : ・ んだから : : : でも奥さん、苦しんだでしょ 悠一「そりやそうだけど : : : 今度飛び出した男「その後、お元気 ? 」 、つね : ・・ : その代り、私もとうとう今まで結 のは全部僕の責任だからな」 男「じゃあ : : : ( 悠一の方に ) どうも : : : 」婚しなかった : : : 出来なかったわ : : : あら、 夏子「あなたの ? と会釈して出て行く。 うつかり喋ってしまった : : : あなたの話、 悠一「いけない : : : 黙っとくつもりだったの夏子「今の人、誰だと思う ? どうなったのよ」 悠一「さあ : ・ 悠一「ん 夏子「次郎さん : ・ : いつもの通りフラッと飛夏子「私の恋人 : : : だった人」 夏子「二枚目が三枚目になったって話 : : : そ び出したんじゃないの ? 悠一「え ? 」 れがどうして私のせいなのよ : 悠一「全然三枚目なんだ」 夏子「はじめつから奥さんのある人だったの 夏子「誰が ? 」 : でも奥さんに全然わからないように、 晴海埠頭 悠一「勿論、僕ですよ」 完全犯罪のまま : : : 続いたのよ」 次郎がばんやりと海を見ている
この人、うちでテレビ見てた方がいいって 徹「じゃあ、その人と : : : 絶対に結婚しちゃ フォト・スタジオ 言うし : : : じゃあ、お花見に行こうって言 いけないってことはないだろ ? 光代のカメラテストが行われている 、つと、も、つ散っちゃったって一言、つし : : : も ポーズをつけて、パチ : ハチ : : : と 夏子「そりゃあそうだけど : めてるうちに日が暮れちゃうんです シャッターを切るカメラマン。 徹「どんな人だか、調べりやすぐわかるん 夏子「それでよく一緒に暮せるわねえ」 そばで見ている記者 < と夏子と早苗。 光代「喧嘩してた方が退屈しなくていいんで 夏子「そりゃあそうね : : : 」 徹「とにかく一一人を会わしたらどう ? 」 高速道路をバックに ポーイに案内されて、次郎と徹が入って カメラマンが光代を写している 夏子「ちょっと待ってよ : : : 私も何だか混乱 来る。 して来ちゃった」 夏子「遅いじゃない」 徹「へえ、クールな姉さんが混乱しちゃい 貶高層ビルをバックに 徹「だってさ、出かける時になって、やた 光代の写真。 けないな」 らとカッコつけちゃってさ」 夏子「ほんとね : : : 申しわけない 次郎「お前 : : : 君だってタートルネックにし一 xx 庭園 よ、つか、亠小いセーターにしよ、つか : ・・ : 」 光代。 甲野書房・編集部 夏子「いいわよ ( ポーイに ) じゃ、これで揃一 夏子と記者 < いましたから : 夏子「写真のモデルに、一人あたってもらい 埠頭ー ポーイ「承知いたしました」 光代。 たいのがあるんだ」 と出て行く。 記者 < 「今度はどこの子です ? 」 夏子「紹介するわ : : : こちらが加藤次郎君 , 夏子「映画館の切符売場 : : : 窓口で見ただけ レストラン・個室 光代「・ : 夏子、光代、早苗ーーー だから全身のシルエットはわからないけど 夏子「疲れたでしよう ? せつかくのお休み夏子「あなたをはじめて切符売り場で・ : ・ : 大丈夫だと思うんだ」 光代「あ : : : あの時の : ・ : ・」 を無理に引っぱり出して : 記者 < 「プロのモデルや女優さんじゃなくて 次郎「え : : : ? 素人っほい子を探してたんです : : : 早速あ光代「いいえ」 人 恋 早苗「どうせ今日はどっこにも行くつもり夏子「あら、覚えてたの ? 」 たってみますわ」 の 光代「入場券が飛んでって : : : 」 じゃなかったし : : : 」 人夏子「まじめそうな子だけど : : : 」 夏子「でも、それを拾おうともしないで : 夏子「お休みに出かけないの ? 」 記者 < 「大丈夫ですわ。まかしといて」 あなたの顔をポカンと見てたのね ? 」 早苗「私が映画を見に行こうって言っても、 107
千枝「十五の年から家を飛び出して : : : そ と酌をする 貨物船が通る れつきり梨のつぶて : : : かと思ってると、 悠一「さっきからチラチラと目障りな、この フラッと帰って来る : : : しばらく落ちつく 美人は一体誰 ? 」 加藤家・縁側 ( 夜 ) のかなと思ってると、またプイと飛び出す 瑞枝「さあ、私は誰でしよう ? 」 民子が雨戸を閉めている。 ・ : 十年間、そんなことばかり繰り返して 悠一「おばさんの娘 : : : じゃないな」 庭の大小舎で大が吠える。 るんだから : : : 日本一の親不孝娘だよ」 千枝「あら、どうして ? 私の娘なのよ」 民子、ふっと植込みの方を見る。 悠一「いいねえ : : : 日本一の親不孝娘のため 別に、何事もないので、そのまま雨戸を悠一「へえ : : : 」 に乾杯」 閉める。 瑞枝「信じられないでしょ ? こんな母さん 瑞枝「ありがと」 からこんな美人が生れるなんてねえ」 ・この親不孝娘悠一「さあ、帰ろ帰ろ」 千枝「何を言ってるんだい 小料理屋 ( 夜 ) 芳子「あら、雨だわ」 二、三人の客が出て行く。 いいねえ悠一「え ? ほんとうかなあ」 悠一「ふ 1 ん、あんた、親不孝 ? 芳子「毎度ありがとうございました」 芳子「天気予報が当ったわ」 ・ : 羨ましいなあ」 千枝「またどうぞ」 千枝「やらずの雨だよ : : : やむまでゆっくり 瑞枝「あら、どうして羨ましいの ? 」 悠一が一人で飲んでいる。 しといでよ」 悠一「僕も一ペん親不孝っての、してみたい 悠一「さて、僕もそろそろ : : : 」 悠一「こんな雨、やみやしないよ」 んだよ」 千枝「あら、まだいいじゃないの : : : 誰もい なくなったから、ゆっくりなさいよ」 瑞枝「わけないじゃない、親を心配させりや瑞枝「ちょっと傘貸して : : : 車、拾ってあげ るわ」 いいんだもん」 悠一「僕が来ると、この店はからつほになっ 悠一「ところが僕は小さい時から、親に心千枝「そうだね。通りまで出て : : : でも、降 ちまうんだな」 り出したから、なかなかっかまらないかも 配ってものをさせたことがないんだ」 芳子「フフフ : : : 」 瑞枝「あきれた : : : そんな子供ってあるかし知れないよ」 千枝「いいのよ、気にしなくたって : : : 」 瑞枝「さあ、参りましよ」 悠一「僕もまだ帰りたくないんだ」 千枝「加藤さんはそうなんだよ : : : お前なん 芳子「あら、奥さんと喧嘩したの ? 」 人 かこの人の爪の垢でも煎じて飲んだらいい 恋千枝「奥さんなんかないったら : : : 」 街の通り ( 夜 ) 横町から悠一と瑞枝が相合傘で出て来る 人 んだよ」 奥から瑞枝が出て来る 雨がだんだんはげしくなる 瑞枝「そうね、こちら、奥さんのある顔じゃ芳子「フフフ : : : 」 瑞枝がタクシ 1 をとめる。 ないわね : : : おひとつ、どうぞ」 瑞枝「何がおかしいのよ」 121
二人の恋人 29 民子が一人でタ飯を食べている。 千枝「何が、あらいやだなのよー すっかりお邪魔しちゃって : ・ : ・ ( 立とうと 芳子「加藤さんって、ほんとに奥さんいない する ) 」 悠一「あ : : : 次郎がいつも御世話になって 3 小料理屋 ( 夜 ) 悠一が入って来る。 千枝「そんなものいないったら : 夏子「どういたしまして : 五十年配のおかみの千枝と小女の芳子芳子「だって、加藤さん、毎日ワイシャッ取っ かえてるでしょ ? ハンカチだって、いっ 悠一「でも、もうこれからはお宅へ泊めない 地味で小さな店。 も真白だし : ・・ : 」 で下さい」 芳子「いらっしゃい」 千枝「そこがこの人の偉いところさ : : : はい 夏子「私の方はちっともかまわないのよ。徹悠一「なんだ、またからつほか」 どうぞ」 と二人っきりよりも、次郎君、いてくれた千枝「誰もいない方が落ちついていいじゃな お銚子を取って酌をする。 方が賑やかで : : : あら、お宅だってお母さ んと二人きりじゃ淋しいわね : : : でも次郎悠一「だって商売にならんだろ」 君がアルバイトやってるとこ、うちからの千枝「心配御無用 : : : お酒 ? 」 映画館の表 次郎が来る 方が近いのよ」 入場券売場へ行って千円札を出す。 千枝「新しいうにがあるのよ。解禁になった 悠一「アルバイト ? 」 ばかりでね。それこそしゅんのものだから 出札係の坂本光代が入場券とお釣りを差一 夏子「あら、御存じじゃなかったの ? 」 出す。 ・ : 今夜あたり、あんたが来ないかなあと 思ってたのよ 夏子「目黒の玩具を作ってる工場で、荷造り ポカンと硝子の向うの光代の顔を見てい 芳子「フフフ : : : 」 か何からしいけど : : : 」 るーー美千子によく似た顔。 悠一「とにかく家へ帰るように言って下さい」悠一「何がおかしいんだい ? 夏子「ええ : : : でも、夜、割と遅く帰って来芳子「だっておかみさんたら、加藤さんが来光代「どうぞ」 ると、そわそわしちゃって、サ 1 ピスがよ 入場券から手を離すと、風でパッと入場 るのよ : : : 徹の勉強を邪魔しちゃ悪いと思 券が飛んで行く すぎるんだもん」 うのね」 千枝「あたり前だよ、私やこの人に惚れてる光代「あツ、ごめんなさいー んだから : : : 」 次郎「・ : 地下道 ( 夜 ) のろのろとお釣りを取りながら、まだ光 芳子「ハ 次郎がばんやり歩いて来る。 代の顔を見ている。 悠一「僕もおばさん、大好きだよー 光代「あの : ・ 芳子「あら、いやだ」 加藤家・茶の間 ( 夜 ) 次 103 ー
車内ー夜ー あれになろうかと思って」 夏海「あー、その憑依」 雨が降っている 実道「勝手になれや」 実道「相方の祥平さんはいつつも同じなんだ 運転しているのはマネージャーの高橋夏 赤信号で止まると、後部座席に顔を向け、 けど、黒沢さんは色んなキャラ演じて、漫 じつどう 海 ( % ) で、後部座席には実道憲次 ( 。夏海「 ( 泣き女の真似 ) ウワーン ! ワー ! 」才すんだよ。その役作りが半端無いんだ」 サングラスを掛けた実道は、長い茶髪を 夏海「本当にボクシングやってる人かと思い 弄びながら電話中。 再び車は走行をしている。 ました」 実道「 : ・ : ええ。でも、このままって訳には実道「何で黒沢さん、一人で来いって言って実道「黒沢さん、当時、お笑い界のデニーロっ いかないじゃないですか ? 実際、仕事な んだ ? 」 て呼ばれてたからな」 んだから : : : ま、そりや、そうですけど夏海「わかりませんけど : : : 大丈夫ですか ? 」夏海「でにいろ ? でにいろ ? 」 : それはオンエアいつなんですか ? : : : 実道「何が ? 実道「二回一言うなよ、うるせえな。お前、デ だったらもういいんじゃないかな ? 別に夏海「黒沢さん、怖いって聞いたんですけど」 ニーロも知らねえの ? 」 俺も犯罪者って訳じゃないし : ・ : ・ええ。そ実道「 : : : 怖いつつーか。厳しいって感じだ夏海「えー、どんな色ですか ? れでいいと思いますよ : : : はい、よろしく よな。うちらみたいな若手にズバッとダメ実道「色じゃねーよ。デニ色なんて無えだろ。一 お願いします」 出ししてくれて : : : やつばまあ、怖かった デニーロ。伸ばすの。ロバート・デ ! こ 電話を切り、溜息をつく。 かな : : コロンバスは見た事ある ? 」 こで止めて。ニーロ。ロバート・デ・ニーロ」 実道「四十九日過ぎるまで無職だな」 夏海「ネットで。一つだけですけど」 夏海「ロバート・一 デ : : : 外人ですか ? 」 煙草に火をつける実道。 実道「何のネタ ? 」 実道「俳優だよ ! ハリウッド俳優」 夏海「 ( 窓を少し開け ) そんな。すぐですよ」夏海「減量中のボクサ 1 の : : : 」 夏海「へー、私、映画全然知らなくて」 実道「飲み歩いたら、あっと言う間か」 実道「あのネタな。どうだった ? 」 実道「常識だよ、お前オスカーだよ」 夏海「私、つきあいますしー 夏海「えー、面白かったですう」 夏海「オスカー ? オス : : : 」 実道「 ( 笑い ) : : : あーあ、悲しいんだけど実道「 ( 失笑 ) どこが面白かったんだよ ? 」実道「二回聞くな ! お前、それ悪い癖」 なあ。十年も付き合ってたのに涙出ねえん夏海「んー : : : 全体的 ? 」 夏海「 ( 反省 ) すみません。映画も勉強します。 だよ」 実道「 ( 嘲笑 ) お前、黒沢さんに殺されつぞ」 それでその人に似てたんですか ? 」 夏海「私は昨日も泣きましたけどね」 夏海「えー」 実道「デニーロも役作りがすげーんだよ。デ 実道「夏海はナイアガラみたいに泣いてたな」実道「あの人、憑依系だから」 ニーロアプローチとか : : : 言っててアホら ひょー 夏海「泣き女っているでしょ ? 中国とか韓夏海「ひょー しくなってきたわ」 国の。他人のお葬式で派手に泣く人。私、実道「乗り移っちゃうんだよ」 夏海「実道さーん」 、ナい ? 」
悠一「アメリカ人 : ・・ : ? 」 民子の前に次郎が坐っている。 民子「まじめに答えなさい 夏子「自動車事故で、奥さんとお嬢さんを一民子「次郎、ここへお坐りなさい」 次郎「どうだっていいじゃんか、年なんて、 度に亡くしたんだって」 次郎「坐ってるじゃないか」 一一十だろうと三十だろうと : : : 」 良平「じゃあ、僕と同じようなもんだ」 民子「もっとお行儀よく」 ふてくされて煙草をくわえる。 夏子「ええ、年も社長と同じぐらい」 次郎「しびれちゃうよ、足が : : : 」 民子「次郎 : 良平「へえ、図々しい奴だな」 民子「あんた、どうするつもり ? 」 いきなり次郎の頬を打っ 夏子「図々しいとは思いませんけど : 次郎「どうもしないよ」 次郎「あッ : : : 」 良平「そうかな・ : ・ : じゃあ、僕も今から未婚民子「少しは兄さんを見習ったら ? 」 悠一「お母さん、いけないよ」 の女性にプロポーズしても、変じゃないか次郎「 : 民子「いいのよ : : : 」 な ? 民子「兄さんは中学から高校へ行く時も、高次郎「どうせ兄貴は優等生で、俺は出来そこ 夏子「ちっとも 校から大学へ行く時も、一度だって、試験ないだよ : : : それにしたって差別待遇がひ 次郎「三十才以上の女性だったらね」 のことで心配したことないのよー どすぎるじゃんか : : : ふた言目には兄さん 良平「まさか君たちの縄張りまでは荒さん次郎「 ・ : 兄さん : : : 兄さんを見習いなさい : 民子「大学を出た時だって : : : 就職は一年前 兄さんはああだった こうだった : ・・ : お 夏子「ホホホ : : : 話題を変えましよう」 からちゃんと決ってたし : : : 」 前は駄目だ : ・・ : 駄目だ いいかげんに頭一 良平「 ( ウイスキーを飲んで ) お母さん、元次郎「お嫁さんだって決ってたし : : : ( あぐ に来ちゃうよ : : : 兄さんがそんなに大事 らをかく ) 」 だったら、兄さんと二人きりで暮せばいし 悠一「え セーターに着換えた悠一が入って来る。 じゃんか ! 」 次郎「帰りたくねえな、今夜」 民子「次郎・ : ・ : ちゃんとお坐りなさいー 立ち上って玄関の方へ行く。 徹「うちへお出よ」 次郎「もういいじゃないか : : : 勘弁してくれ悠一「おい 悠一「今日は駄目だ」 民子「次郎 : : : 」 夏子「そうよ。今夜は泊めないわ。お母さん民子「駄目よ : : : あんたは、一体、上の学校悠一「待てよ」 が待ってらっしやるでしょ ? 」 へ行く気があるの ? ないの ? 」 立って、次郎の後を追う。 人 恋次郎「だからいやなんだ : : : 次郎、ここへお次郎「どうもないみたいだな」 民子「今頃から : : : 」 人坐りなさい ! 」 民子「まあ、あんたは一体いくつになった 4 玄関 ( 夜 ) 3 加藤家・茶の間 ( 夜 ) 次郎「自分の子供の年を知らないの ? 次郎が外へ飛び出す。
なム 1 ドがあって、ああ、きっと物足りな たと記されていますが、それはどういうと ( g 年 ) 以来、自分で書いたのはやってい いんだなあ、と。まあ、海に至るシーンと ころか ? なかったんで、自分のオリジナルシナリオ かは、頭の中では、あったんですけれど、 で撮りたいと思ったんですね。それで何本渡辺やつばり漫才のネタを文字で読むと、 どう組み込もうかなと。シナリオの流れを、 か書いて、プロデューサーに渡したんです面白味が伝わり辛いというのがあると思う んですよ。だから、シナリオを読んだプロ どうしようかなというのを悩んでて、本腰 けど、「フレフレ少女」の興行成績が今ひ デューサーの中には、漫才の部分は、お笑を入れたのは、俳優部の 3 人と打ち合わせ とつだったんで、オリジナルは、なかなか をしてからで、その後からですね。ちゃん い芸人の人にお願いした方がいいんじゃな 難しいし、かと言って、原作物ではなあと いか、みたいなことを言ってきた人もいま と直そ、つとい、つことになって。 いう思いがあったんです。そうこうして 他には、ど、ついう直しを いつる、つナ ) 一い ~ 、リ・ . 、ー マン・ショック、震災した。 それは具体的に細かくネタを書かれて渡辺まあ、あとは細かいところだけで、 で、企画がバンバン流れて、知り合いのプ 漫才のネタに関してだけは一寸別ですけれ いたんですか ロデューサーも夜逃げ同然になったりして、 2010 年の暮れから、映画界は、シンド渡辺今とは全然ちがうネタですが、漫才ども。 漫才のネタは、ある程度、俳優さんに も一人芸のネタも全部書きました。 かった時期だと思うんですけどね。 おおよそ 大凡の骨格としては、今と同じような任せたりは、したんですか この「エミアビのはじまりとはじまり 渡辺いや、ネタは全て僕が書いて、ただ は、どの位の時期から考えていらしたんで形でしたか。 渡辺今よりも少し縮小していましたね。 稽古している最中に、ここはもう一寸こう すか 黒沢 ( 新井浩文 ) と実道 ( 森岡龍 ) の二人した方がいいみたいなアイデアが出てきた 渡辺 2011 年には、初稿を書きあげて ら、そこは貰ったという感じですね。 が、海に向かう件りとか、最初はなかった いました。その前から、アイデアとしては です。感じとしては、ハリセンで、 現場で変わったりとかは。 自分の中にあったんだと思いますが ーンとやって、もうコンビを組んだ形に渡辺そんなに変わってないんじゃないか ーー実現するまでに、結構時間がかかった なって、シーンのボリュームのひとつひと わけですね。 監督が実際に体験した身近な人の死と、 渡辺そうですね。そうしているうちに「舟つが大きかったですね。 笑いを絡めて描こうと思われたのは、どう を編む」のお話を戴いたりしたので、中断ーー今のような形になったのは ? い、つところから しつつ。 渡辺俳優部が決まってからじゃないです かね。やつばり新井君とか、一寸これだと、渡辺死を乗り越える時に、例えば、お葬 プレスシートでは、最初に書かれたも 式とかで控室に入って、お寿司をつまんだ 黒沢の役が、なかなか理解できないみたい のは、周りの評判が、ど、つにも芳しくなかっ -4