園子 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年9月号
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1. シナリオ 2016年9月号

花心 雨宮、園子の蒲団へ入ってゆく 園子、背を向け、拒絶する。 雨宮、構わす、園子の体に手を回す。 園子「お願い。やめて」 雨宮、ムキになり、園子を強引に向き直 らせる 園子、抵抗する。 雨宮「いい加減にしろ ! 」 園子「 ! 」 雨宮「夫婦だろ」 園子、抵抗を止める。 雨宮、園子をまさぐり始める。 園子、天井を睨みつけ、堪える。 雨宮、園子に伸しかかる 園子、唇を噛み締める が、吐息が漏れてくる。その様子に動き を激しくする 園子、目を瞑る。と、頬に涙が伝う 園子、官能に身を委ねてゆく。 園子、ぐったりと身を横たえている 雨宮、園子を見下ろし、微笑む。 雨宮「僕にもう愛情がないなんて、嘘じゃな いか」 雨宮、園子をかき抱く 0 4 園子「 ! 」 園子「・ : 園子、雨宮の寝顔を見ている。 雨宮、規則正しい寝息を立てている。 真っ白なスケッチブック 園子、蒲団を抜け出す。 園子、窓枠に凭れるように座っている スケッチブックを広げた正田が見ている 窓外にばんやりとした灯りが見える。 北林家の窓である 園子「描かないのね」 園子、目を凝らす。 正田「ええ。本当は絵なんてどうでもいいん 部屋を横切る越智の姿が見える。 です」 園子「・ : 園子「本当は音楽をやりたかったって聞いた けど」 園子、部屋を抜け出していく 正田「そっちもどうでもいいんです」 と、スケッチブックを放り出す。 北林家・窓外 園子、中を覗く。 正田「僕はただ死ぬのも面倒だから生きてる四 居間のソフアに越智が横たわっている だけなんですよ」 園子「投げやりなのね」 その足下に、北林が踞り、頭を動かして正田「今のあなたも投げやりに見えますよ」 いる 越智の顔に愉悦が浮かぶ。 正田「初めて見た時はそうじゃなかった。河 原で、覚えてますか ? 」 と、北林、立ち上がる 園子「え ? ああ。私、紅を買いに行ったのよ」 薄いネグリジェを着た体を越智へと押し正田「紅を買うだけで、あんなに幸せそうに 見えたわけじゃないですよね ? 」 園子、窓辺を離れ、駆け出す。 園子「 : : : もう帰って」 正田「 ! 」 園子「絵を描く訳じゃないんでしょ 園子、窓外を見ている と、正田、園子に抱きついてくる 北林家の前、雨宮が北林に何やら頼んで 一 4 いる様子。

2. シナリオ 2016年9月号

園子「だって、おかしいじゃないの。自分の 夫に似ているっていうのが、お母様にとっ て最高の悪口だなんて」 箱根辺りの駅の前 小さな旅行鞄を提げた園子が立っている 越智が来るのが見える 園子、笑顔を向ける。 越智も微笑みを浮かべ、近づいてくる。 園子を見つめながら、手の届く距離まで 来て、立ち止まる どちらともなく、頷き合う 越智、園子の旅行鞄を持ち、歩き出す。 園子も歩き出す。 二人並んで、歩いて行く。 渓谷 園子と越智が並んで歩いている。 と、越智が、園子の手を取る 園子、越智を見る 越智、しつかりと園子の手を握る 園子もしつかりと握り返す。 一一人、手を繋いで、歩き続ける。 鳥の鳴き声に空を見上げ、風のそよぎに 木々を見上げながら、ゆっくりと歩く。 握り合った手の感触を味わって 旅館・一室 最後に大きく息をつく。 湯上がりの園子、三面鏡の前に座り込ん と、一切の音が消える でいる 園子の顔から表情が消えてゆく 鏡の中に、越智がいる 目が合って、園子、上気した顔を綻ばせる。越智「どうかした ? 越智、園子の背後に来る。 渓谷の音が戻ってくる 鏡越しに見つめながら、園子のうなじに 園子、蒲団を出て、浴衣を羽織る 指先で触れる 窓ガラスが園子を映している。 振り返る園子、越智の目を覗き込む 園子、窓辺へ行く。 越智も園子の目を覗き込む。 越智も蒲団を出て、園子を後ろから抱き 園子の目、越智を求めている。 しめる 越智、園子にのしかかる 窓ガラスには二人の顔。 園子、目を閉じる。 園子、窓を開ける。 渓谷の音が高くなる 二人の姿は消え、目の前には闇が広がる 園子、越智の動きに合わせ、昇り詰めて 渓谷の音が高くなる ゆく。 園子「私たち、一緒に暮らせないわね」 園子、目を開ける。 越智「 : : : 北林とは別れるよ」 間近に息を荒げる越智の顔。 園子「違うのよ。そんなことじゃないの」 園子、その首をかき抱くと、糸を引くよ越智「じゃあ、何 ? うな声と共に、体を弓のように反らせる 園子、闇の渓谷を見つめている 越智、園子を強く抱きしめながら、精を越智「園子 ? 」 放つ。 園子「 : : : 覗いちゃいけない深淵を覗い 弛緩する二人、抱き合ったまま、息を整ちゃったんだわ、私 : ・ える。 越智「私 ? 二人で一緒に覗いたんだよ」 二人の顔には歓びの微笑みがある 振り向いた園子の顔には哀しげな微笑み 越智、半身を起こして、園子を見つめる が張り付いている 見つめ返す園子、息を整え終えるように、越智「園子 : : : 」 0 っ 4

3. シナリオ 2016年9月号

と、玄関のベルが鳴り、 にもなって」 雨宮「どうした ? 雨宮の声「園子、もう遅いから失礼しなさい 園子、愕然と動けない。 園子、自らを抱くように、両腕を自分の 越智「雨宮くん、まあ上がれよ」 雨宮「園子 ? 大丈夫か ? 」 肩に回す。 雨宮の声「おい、園子 ! 」 園子「・ : 雨宮「具合でも悪いのか ? 」 その甲走った声に、園子、驚く 雨宮、園子の傍らに行き、座布団を枕に園子「 : ・ 北林「今夜は、少しお冠らしいわね、もうい 寝かせる。 雨宮「園子、大丈夫かい ? ー らっしゃい」 雨宮「こんなにショックを受けるなんて、園 園子、両手で顔を覆い、泣き出す。 園子、頷き、立ち上がる 子はまだまだ世間知らずなんだな」 雨宮「どうしたの ? と、嬉しそ、つだ。 園子、首を横に振って泣き続ける。 離れ 雨宮、その背を撫で、 園子の腕を掴み、雨宮が入ってくる。 雨宮「いいかいこれからは、北林とも越智雨宮「言ってくれなきやわからないじゃない 園子「いったい、どうしたっていうのよ」 ともっきあうんじゃないよ」 か ? 」 雨宮「もうあんなところへ行くな」 と、呆然とする園子の髪を撫でる 園子、泣き続けるばかりである 園子「何だって急にそんなこと言い出すの ? 雨宮「 : : : 寂しいのかい ? 誠が恋しんだ 今まで自分だって伺ってたじゃないの」 ね 引蒲団の中、園子、うなされている 雨宮「今日、はじめて教えられたんだ。俺た 一筋の髪が、汗で首筋に張り付いている。園子「 : : : 」 ちみたいなお人好しは、ざらにいないとさ」 雨宮、園子の肩に手をかけ、抱き寄せる 泣き止む。 園子、目を開ける 園子「だから、何なんですか ? 」 雨宮「誠が元気になったら、すぐに連れて来 雨宮「あの北林って婆は、学生時代から越智雨宮「うなされていたよ」 てもらおう。明日、電話で様子を聞いてみ をたらしこんでたんだ」 と、汗が滲む園子の肌を手のひらで拭う。 るよ」 園子「え ? 」 園子、ぐったりと身を任せている 園子「・ : 雨宮「二十も年下だぞ。越智の縁談を片っ端 雨宮の手の動きが愛撫に変わる 雨宮「さ、もう寝よう」 からぶちこわしてきたっていうんだから、 園子、目を閉じる と、園子を横たえ、丁寧に蒲団をかけて やる 異常だよ」 雨宮、浴衣の中に手を差し入れる 芯園子「 : : : 」 と、園子、雨宮を突き退ける。 雨宮、園子の髪を撫でる 雨宮「いいかあんな不潔な家には行くな。雨宮「 ! 」 お前が汚れる。越智も越智だよ、四十近く 園子、されるがままになっている 園子、口元を押さえ、蒲団に起き直る 園子「・ :

4. シナリオ 2016年9月号

園子「何するの ! 」 園子「愛があるから感じるわけじゃないのよ」園子、そうしよう」 と、正田を突き飛ばす。 雨宮「え」 と、すがりついていく。 正田「好きなんです。ずっとずっと好きだっ園子「試してみたんだから、本当よ」 園子「・ : たんだ」 雨宮「試したって、お前 : : : 越智とか ? 越 と、園子の足にすがりつく。 智と寝たのか ? 」 京紅の貝袷 正田「一度だけ。一度だけでいいから。頼み園子「違うわよ」 蒲団袋の上に、猫のように身を丸めた園 ます。拝みますから : ・・ : 」 雨宮「じゃあ、誰と、誰と寝たっていうん 子の手が弄んでいる と、スカートの中に手を入れてゆく。 雨宮、園子の着物や洋服を荷造りしてい る。 園子「・ : ・ : 好きな人に抱かれたら、どんなに なっちゃうんだろう」 雨宮「東京駅まで、蓉子ちゃんが迎えに来て 園子と正田、服の乱れも直さずに、畳に雨宮「 : くれるからね」 横たわっている と、わーっと叫びながら、園子の首に手園子「 : : : 」 と、園子、笑い出す。 を回す。馬乗りになって、園子の首を締雨宮「僕も出来るだけ早く東京へ戻れるよ、つ一 正田、ぎよっと園子を見る め上げる にするから、それまではお母さんのところ 園子、さもおかしそうに笑い続ける。 動かない。 園子「・ : 雨宮の指がじりじりと絞め上げてくる。 蒲団の中、園子、雨宮と抱き合っている 雨宮「大丈夫。誠の顔を見れば、ここでのこ 園子、積極的に動いている 園子、目を見開き、ロを大きく開ける となんて、すっかり忘れてしまうよ」 雨宮、その様子に驚きながらも、受け入 と、雨宮、ハッと手を離す。 園子、雨宮を見る。 れている。 雨宮、園子から離れ、背を向ける。 雨宮「ん ? どうした ? 」 園子、雨宮にまたがる 園子「 : ・ : ・殺せばいいのに : ・ 園子「へその緒 : : : なくしちゃったみたいな 蠢く白い背中が汗で光る 雨宮、嗚咽しはじめる。 園子、しつかりと目を閉じて、昇り詰め雨宮「東京へ帰ろう。ね、園子、東京へ一緒雨宮「誠のか ? 」 て行く。 に帰ってしまおう」 園子「ええ。こっちへ引っ越すときに、ちゃ 崩れ落ちる園子。 園子「・ : んと持ってきたはずなのに : 雨宮、しつかりと抱きとめる 雨宮「誠と三人で、また元のように暮らすん雨宮「じゃあ、どっかにあるんだ。ひょっこ 雨宮「園子 : : : 」 だここでのことは何もかも忘れて、ね、 り出てくるよ」

5. シナリオ 2016年9月号

園子「違うわ」 越智「じゃあ、どうして : : : どうして、愛し園子「 : : : 」 てもいない男とそんなこと : : : 」 園子「愛 ? そんなもの、あなたにもないわ」 越智「園子 : : : 」 園子「私、あなたに恋をしたの。たぶん、そ園子「 : : : 」 れは本当。でも、箱根の夜で終わってしまっ たの」 越智「待てよ、俺たちは、あの夜から始まっ たんじゃないか」 園子「 : 越智「何年もこうして肌を合わせてるんだ。 愛してるって言ってくれればいいじゃない か」 園子「いいわよ。私たちのことを、そういう 言葉で言いたいんなら」 園子「愛してるわ」 越智、べッドを出て、着替え始める。 園子「怒ったの ? 」 応えず、着替えている 園子「もうお終い ? 私に会わないつもり ? 」 越智、財布を出して、札を放り投げる。 園子「 ! 」 芯越智「愛がないんなら、金を払わないとな」 園子「・ : 越智「またくるよ」 と、部屋を出て行く。 蓉子、園子を見る。 園子、襦袢を羽織り、べッドを出る。 園子、微笑んで、立ち去る 床に散らばった札を見る。 べッドに腰掛ける。 火葬場・外 園子、空を見上げる。 蓉子が追いかけてくる。 足下の札を、足指で掴み上げようとする。 てこすりながら、札に手を伸ばす。 蓉子「姉さん : : : 」 園子、空を見たまま、 が、園子、取らずに、立ち上がる。 着物を着始める。 園子「お母様も灰になっちゃうのね」 裸足の足で札を踏んでいるが、構わず、 蓉子も空を見上げる。 園子「早く籍を入れなさい 着物を着付けていく。 蓉子「本当にいいの ? 」 身支度を整えた園子、鏡に向かって棒紅園子「しあわせなんでしょ を塗る 蓉子「姉さんは ? これからどうするつもり一 なの ? 一人で不安じゃないの ? 」 鏡には艶然と微笑む女が映っている。 園子、歩き出す。 蓉子「姉さん ! 」 棺に横たわる母 園子、振り返り、蓉子に手を振る 棺の蓋が閉められる 笑顔だ。 見ている喪服姿の園子。 園子、また前を向き、歩きだす。 雨宮、蓉子、誠の姿もある 誠が泣き出す。 歩いていく。 園子、誠を抱き寄せようとする 園子の声「私が死んで焼かれたあと、白いか 誠、園子の手を払い、蓉子の腰にしがみ ばそい骨のかげに、私の子宮だけが焼け残 つく。 るんじゃないかしら」 園子、歩き続けていく。 誠を抱き上げ、なだめる蓉子。 その傍らに、雨宮が寄り添う。 了

6. シナリオ 2016年9月号

てるなんて : : : あの二人が一切、僕に隠し 古川家・茶の間 園子「・ : : ・ ( 呟いて ) そうかしら」 4 片隅で、園子が誠と遊んでいる。 雨宮「ん ? 」 ていたんだ」 園子「ねえ、ちょっとそこの文殊様まで行っ 園子、頬を越智の胸に押し付ける 雨宮の声「反省してみると、僕が悪かったの です。僕はあらゆる迫害を精神的に、園子 越智、園子の顎に指をあて、上向かせる てきてくださらない ? 」 唇を寄せて行く。 に加えていたのかもしれません」 雨宮「文殊様 ? が、園子、顔を背ける。 園子の母が畳に突っ伏して泣いている 園子「誠にお守りを買ってあげたいの」 その傍らで、蓉子が雨宮からの手紙を読 雨宮「そんな特別な寺じゃないだろ、あそこ」園子「今は : : : 」 んでいる 越智「ああ : : : 出来るだけ早く会いに行く 園子「ね、お願い 雨宮の声「格子なき牢獄に押し込め、その目 雨宮、ため息をついて立ち上がると、 にみえぬ枠を一寸せばめ一一寸せばめしてい 雨宮「じゃあ、ついでに引越し屋さんを呼ん園子「本当 ? 本当に来てくださる ? なかったとは言えません。園子の如き、人 越智「きっと行くよ」 でくるよ」 一倍自由な精神を持っ女が、この圧迫に堪 園子「 ( 頷き ) もう行かなくちゃ」 と、部屋を出て行く。 えきれないことは当然です : : : 」 越智、もう一度、強く園子を抱きしめる 園子、玄関が閉まる音を聞くと、立ち上 母「こんなもったいない旦那さんがあるつ カる 園子「あの人が帰ってくるわ」 ていうのに・ と、言いながらも、動けない。 と、蓉子が手紙をびりびりひきさき、 園子、北林家へと駆けていく 蓉子「お兄様も意気地がなさすぎるから、お と、越智の姿。煙草をふかしながら、こ離れ 姉様になめられちゃうのよ」 園子、駆け込んでくる。 ちらを窺っていた。園子、足を速める 園子、聴こえぬ振りで、誠と遊んでいる。 雨宮の姿はない。 越智、煙草を投げ捨て、園子の方へ。辺 母「お父様の血が、園子に流れたのよ」 園子、ほっと座り込む りを気にして、園子の手を取り、植え込 園子「引」 畳の上、投げ出された京紅。 みの陰に隠れる。園子、越智の胸に抱き 母を見る 園子、拾い上げ、鏡に向かう つく。 母、園子を睨みつけている 小指を咥えて湿らせると、唇を紅く染め 越智、園子を抱きとめる。 てゆく 園子「・ : 園子「逢いたかった」 ふっと笑みが浮かんで来る 雨宮の声「どうか園子を責めないでくださ 芯越智「ああ」 母「何を笑っているの。何を笑うことがあ 園子「もっと早く・ : : ・私 : : : 」 るっていうの ! 」 越智「知らなかったんだ。こんなことになっ 4

7. シナリオ 2016年9月号

と、人参を口元に運ぶ。 でしよう」 誠、手で払う。 蓉子、雨宮を窺う。 雨宮、顔を背け、両の拳を握りしめ堪え 傍で見ていた母、 ている 「貸しなさい」 蓉子、園子の手を払う。 と、園子から箸を取り、人参を小さくす園子「 ! 」 ると、 「誠ちゃん、おロ開けて。はーい」 その冷たい視線ーーー と、食べさせる。 園子、わーっと泣き出す。 「一体、何ごとよ ? 」 目を転じると、台所で、雨宮が蓉子に何 と、母が来る やら話しているのが見える 蓉子「なんでもないわ」 母「なんでもないって : : : 」 と、蓉子、愕然と園子を見る。 泣き続ける園子を見る。 蓉子、園子と目が合うと、さっと目を逸蓉子「神経衰弱なのよ、お姉様」 らし、園子の死角へと雨宮を促す。 8 園子、立ち上がり、台所へ。 川べりの道 5 河原 母と蓉子、誠を連れて帰っていく。 離れ・台所 その後ろを園子、母の荷物を持ってつい 園子、入ってきて、 ていく 園子「蓉ちゃん。蓉ちゃんなら、わかってく母「もうここでいいわよ」 れるわよね。私の気持ち : : : 」 と、園子の手から荷物を取る 蓉子「・ : 園子「私、苦しいの。こんな気持ち初めてな母「ほんとう、しつかりしてちょうだいよ」 のよ」 と、園子の手を握る と、蓉子の手にすがりつき、 蓉子、見ている 園子「ねえ、蓉ちゃん。あなたなら、わかる 園子も蓉子を見る。 園子「 : ・ 園子「 ! 」 蓉子「 ( 目を逸らし ) 母さん、汽車の時間」 母「じゃあね」 背を向け歩き出す母、蓉子、誠。 誠が振り返る。 が、蓉子に手を引かれ、行ってしまう。 と、アコーディオンの音が聴こえてくる 切なくも滑稽な音色である。 園子、その音色の方を見る 河原に、正田が一人、アコーディオンを 奏でている 園子、歩いていく 正田、弾く手を止めす、園子に笑顔を向一 ける。 園子、正田の隣に座り込む 正田、旋律を奏で続ける。 園子「 : : : ねえ、私を描きたいって言ったわ よね」 正田「え ? 離れ 園子、窓辺に座り、北林の家の方を眺め ている 正田、スケッチブックを広げ、園子を、畳 の上に投げだした素足を、見つめている 見つめるばかりで、ペンは動かない。 園子「・ : ええ」 8

8. シナリオ 2016年9月号

越智さんも。上司に先に出社されちやかな 園子、会釈し、 から、包みを出す。 わないよ」 園子「正田さん、ですよね」 金地に鮮やかな花が描かれた貝袷に入っ 園子、手が震えてうまく結べない。 正田「え。ええ : : : 」 た京紅。 雨宮「ねえ、急いでよ」 園子「私、雨宮です。雨宮園子。北林さんの 園子、紅筆を咥えて湿らせると、紅を掬 園子、ネクタイを離して、背を向ける。 離れに」 、塗り始める 肩で息をしてる 正田「ああ」 雨宮「園子 ? 園子「ねえ、弾いて」 北林家・座敷 園子「ごめんなさい。急に息苦しくなっ と、アコ 1 ディオンをこなす。 麻雀をしている園子、越智、北林、麻雀 ちゃって」 正田、和音を一つ二つ奏でながら、 仲間の男。 雨宮「大丈夫かい ? 」 正田「うるさくないですか ? 」 唇を紅で染めた園子、うつむきがちに牌 園子「ええ」 園子「 ? を打っている と、またネクタイに手を伸ばすが、 正田「近所から総スカン食ってるんですよ」 チラリと目をあげ、越智を見る 雨宮「いいよ、自分でやるから」 園子「あら、私は好きよ」 越智、煙草を咥え、園子を見ていた。 と、ネクタイを結び始める。 と、正田の隣に腰を下ろす。 園子、窓辺へ行き、大きな溜め息をつく。 正田、旋律を奏で始める と、北林の視線に気づく。 聴き入る園子、遠くを見ている。 園子、唇を見られているようで、こっそ 2 月縁 正田、園子を見つめながら、切なげな旋 り、左のひとさし指先で唇を拭う。 を園子が歩いている 律を奏で続ける。 指先に写る紅。 川面を撥ねる陽光。 思い出し笑いなのか、園子の顔に笑みが 北林「あなた、男の人に親切にされるでしょ そぞろ歩く園子。 浮かぶ。 園子「え」 と、アコーディオンの音色が聴こえてく 正田「今度、あなたを描かせてもらえません北林「男の目には何だか頼りなげで、気にか る。 か ? 」 かって仕方がないんじゃないかしら」 越智に会った時に鳴っていた旋律である。園子「ええ ? 」 見ると、若い男 ( 正田 ) が奏でている。 と、笑っている 北林「越智さん、あなただって、気になって 園子、近づいていく。 仕方がないんじゃないの」 気づいた正田、園子を見て、弾く手を止 離れ 越智、応えす、牌を積もり、切る める。 園子、三面鏡の前に座ると 園子、越智を見つめてしまう。 、バッグの中 一 4

9. シナリオ 2016年9月号

来週ぐらいまで待った方がいいだろうって。園子「わからないのよ。そんな話、してない 出社していく越智 子供には長旅だからね」 の」 園子、カーテンの隙間から見ている 園子「そう」 雨宮、詰めていた息を吐く 越智、窓を見る 雨宮「会社から電話したら、たまたま蓉子 呆れたような笑みが浮かぶ。 園子、カーテンから姿を出す。 ちゃんが出てね、お義母さん一人じや心許雨宮「会社の事務員にも、越智のファンが何 越智、園子に微笑みかける。 ないから、一緒に来てくれるってさ」 人もいるらしいよ。あんな男のどこがいい 越智を見つめる園子の目から、涙がこば園子「・ : んだろう。女ったらしってああいうのをい れる。 雨宮「園子 ? 聞いてるのか」 うのかな」 園子「ごめんなさい」 と、取り繕って、ご飯を食べようとする雨宮「園子。あなたは勘違いしてるだけなん 越智、窓辺に近づいてくる。 が、溜め息をついて、箸を下ろす。 だよ。誠がいなくて、僕も残業が続いて家 園子、カーテンの陰に隠れる。 雨宮「何だよ、魂が抜けちゃったみたいじゃ にいないから、寂しくて、それに暇なんだ。 ないか」 だから、そんなバカげた考えに取り憑かれ一 越智が立ち去る気配がする。 園子「そんな風に見えるの ? るんだ。有閑マダムのよろめきってやっさ」 % 園子、外を覗く。 雨宮「ああ。どうしちゃったんだよ」 園子「 : ・ 去って行く越智の背中。 雨宮「誠の顔を見れば、越智のことなんか、 雨宮「なに ? どうしたの ? きれいさつばり忘れるよ」 座り込む。胸が大きく上下している 園子「・ : ・ : 越智さんが好きになってしまった園子「 : 園子、指を噛む 一 4 雨宮「へ ? 」 離れ 園子「恋、なんだと思う」 夕飯の席。煮くずれた南瓜。焦げためざし。雨宮「ええ ? 雨宮、顔をしかめながらも、何も言わす 冗談かと笑おうとするが、切なげな園子 に食べている の顔を見て、 園子、食事に手をつけず、ほうっと箸先雨宮「越智は ? 越智はどうなんだ ? 」 を眺めている 園子「 ( 首振り ) 知らないー 雨宮「誠、だいぶよくなったそうだよ。でも、雨宮「知らないって」 園子「 : 越智「卩 同・寝室 蒲団の中、雨宮、園子に手を伸ばす。 園子、その手を押しのける。 雨宮、構わず、園子を抱き寄せようとする 園子「いや : : : 」 と、身を捩り逃れる。 雨宮「越智のせいか」 園子「ごめんなさい」

10. シナリオ 2016年9月号

園子「・ : 園子、倒れ、襖にぶつかる 蓉子も自分がしたことに驚いている 園子、取り繕って、起き上がる 蓉子、園子から目を逸らす。 誠も驚いている 蓉子「ごめんね。びつくりしちゃった ? 大 丈夫よ」 と、抱き上げ、 蓉子「そろそろ、おばあちゃんちに行きま しようね」 と、風呂敷包みを持つ。 園子「蓉ちゃん : : : 」 蓉子「大丈夫よ。お姉様たちが落ち着いたら、 ちゃんと誠ちゃんを送り届けますから」 と、部屋を出て行く。 園子「・ : 誠の無邪気な笑い声が聴こえて来て、ド アの開閉の音とともに、消える。 と、襖に目を留める 和紙の花を張った襖が小さく破れている 京都・町家の並ぶ通り春 狭い路地で、若い女が学生服の男とロづ けを交わしている 財布を手に歩いて来た園子、気がっき、園子「 : : : 」 足を止める。 京都・とある一軒家 へ、財布を手にした園子が戻っていく。 門の前に、男がいる 園子「 ! 」 さっきの男だ。 男、園子を見ている 男に向かって歩いて行く。 園子「・ : 学生、ロづけながら、女の尻に手を伸ばす。 男も園子を迎えるように微笑みかける。 女、ロづけを続けながらも、その手を叩く。園子「・ : ・ : 待ち伏せしてらしたの ? 」 園子、その可愛らしい無言の攻防に、く 男、おかしそうに園子を見つめる すっと笑う 園子も男から目が離せない。 と、向こう側で二人を見ていた男がいる と、アコーディオンの旋律が聴こえてく る。 園子と目が合うと、男も、いたずらつほ く笑ってみせる 物悲しくも、どこか滑稽な旋律である 男を見つめてしまう。 男「園子さん、でしよう」 と、ロづけを交わしていた二人、園子の園子「え。どうして ? 」 方へ。 男「越智です。速水電線の」 園子、道を開ける。 園子「あ。支店長さん ? 」 一一人を見送ると、路地を覗く 越智「やつばり、あなただった」 暗い路地の向こう側、陽光に輝いている。園子「 ? 」 男はすでに立ち去っている 越智「雨宮君が、あなたが電話をかけに行っ 園子、路地を入って、向こう側へ たきり戻ってこないというんで : : : 」 辺りを見回すが、男の姿はない。 園子「 : 越智「あなただったんだ」 園子「・ : 同・離れ 荷解き中の荷物で埋まっている。 雨宮、荷解きをしている 雨宮を間に、園子と越智。 雨宮、荷解きの手を止めす、 雨宮「電話をかけ忘れたって、そのために 行ったんだろう」