悠一と民子が来る。 悠一「次郎 : : : 」 民子「どこへ行くのよ」 5 家の表 ( 夜 ) 次郎が走り去る 悠一が出て来る 悠一「次郎 : 6 玄関 ( 夜 ) 民子が立っている 悠一が入って来る。 悠一「どうせまた徹君のとこだよ」 民子「ほんとにしようがない」 悠一「今夜は帰りたくないなんて言ってたか ら : 扉の鍵をかける 民子「痛い : : : 」 右手の小指を左手で抑えている 悠一「どうしたの ? 」 民子「ん 悠一「あ・ : : ・血が : 民子「どこでひっかけたのかしら : : : あ : ・ 小さいトゲが : ・ : ・ ( 指先をなめる ) 」 悠一「どれ : ・・ : ああ、こいつあ : ・・ : 痛そ、つだ な・ : : ・ ( 民子の指を吸う ) 」 夏子と徹と次郎がコーヒーを飲んでいる。 7 茶の間 ( 夜 ) 悠一が民子の小指に伴創膏を貼ってやっ次郎「兄貴の方が、おふくろのほんとの子で ている。 さ、俺の方がままっ子だったら、どんなに 悠一「今日、試験の発表があったばかりなん気が楽だろうと思うな」 だから : : いきなり今夜、ガミガミ言っ夏子「そう言えば、次郎君、ままっ子の方が 似合ってるみたい : ちゃ可哀そうだよ」 民子「そうは思ったんだけど : : : 三度目で次郎「チェッ」 夏子「そう言われると、やつばりいい気持 しよ、つ・ : ・ : 」 じゃないでしょ ? だから贅沢なこと言わ 悠一「手を出しちゃいけないよ」 ないで、お母さんの気持を考えてごらんな 民子「そうねえ・・・・ : でもあの態度 : ・・ : ど、つだ さい : : : 随分気を使ってらっしやるのよ」 ろう・ : : ・ ( 指をひっこめて ) コーヒーでも 徹「気を使い過ぎるんだな」 いれようか」 悠一「お茶でいいよ」 次郎「ままっ子の兄貴を大事にしとけば、世一 民子「徹さんも一緒に落ちたからいいーと 間から立派なお母さんだと言われるだろ。 % その方がカッコイイのさ。おふくろの虚栄一 : いいなんて言っちゃ悪いけど : ・ : ・ ( お 心なんだよ。女のエゴイズムだな。おかげ 茶をいれながら ) もしも徹さんだけ入って でこっちはコンプレックスの塊りみたいに たら、下級生に追い越されてしまうのよ なっちゃってさ : : : 」 : そんなこと何とも感じないのかしら ・ : まるで同い年の友達みたいに仲がいい 夏子「馬鹿ね : : : お母さん、あんたには遠慮 かないから、きびしいのよ」 んだから : : : やつばり頭が少し弱いんだ 次郎「きびし過ぎるよ」 わー 悠一「そんなこと : : : 運動部の先輩後輩って、夏子「大きな身体をして、お母さんに甘えた 気が合うとあんなもんだよ」 次郎「よせやい 民子「それにしたって : お茶を出す。 9 加藤家・居間 ( 夜 ) 悠一が和服を着ている 8 夏子のアバート・居間 ( 夜 )
民子「私はね : : : あんたたちが学校へ行こう夏子「私、やつばりやめますわ」 盟夏子のア。ハート・入口 と、そのまま働こうと・ : ・ : 元気に : : : 生き良平「え ? 」 悠一が来て、扉を叩く。 ててさえくれればいいんだよ」 夏子「アメリカへ行くの : : : はっきりやめま 扉が開いて、夏子が顔を出す。 次郎「もう一杯」 すわ」 夏子「まあ : : : 」 お椀をつき出す。 良平「あ、そ、つ : ・ 悠一「今度は僕が家出をして来たんだ」 夏子「何もアメリカへ逃げて行くことなんか 夏子「え ? 」 ないんですもの」 夏子のアバート・ 悠一「ああ、眠い」 夏子がコーヒーをいれる 良平「そりやそう・・・・ : そうだよ」 大きなあくびをする 夏子「どうぞ」 居間 夏子のアバート 夏子がコーヒーを持って来る ぐっすり眠っている悠一 悠一の姿が見えない。 居間 夏子と悠一が来る 夏子「あら 映画館の表 徹が眼をこすりながら出て来る カーテンの蔭から大きないびきが聞える 次郎が入場券売場の方を見ている。 夏子がのぞくと、悠一が夏子のべッドの 入場券を売っている光代ーー次郎に気が一 悠一「お早う」 上に寝ている ついて微笑む。 徹「え ? ・ : お早う」 夏子「まあ : : : 」 悠一「どうぞよろしく」 加藤家・座敷 徹「ん 民子が若い娘たちに生花を教えている 甲野書房・社長室 夏子「今、コーヒーをいれるわ」 夏子が新しい雑誌を良平に見せる ハチン : : : と花の 光代の写真ーー・ 枝を切る民子。 良平「ほ、つ : ・ ・ : なかなかいいじゃないか」 加藤家・茶の間 次郎と民子が朝飯を食べている 夏子「ええ」 夏子のアバート 次郎「熱ッ : ・・ : 豆腐の味噌汁か・・・・・・久し振り良平「ふーん : ・・・・こうやって見ると : ・・ : やっ 夏子が悠一の寝顔をのぞきこむ。 だなあ・・ : : 」 ばり美千子とは別人だな」 悠一の無邪気な寝顔ーー 民子「働きロは見つかりそうなの ? 」 夏子「あたり前ですわ」 夏子の顔が近づく 次良「え ? : ・・ : 働いていいの力い ? 」 良平「ハ 終 124 ー -
この人、うちでテレビ見てた方がいいって 徹「じゃあ、その人と : : : 絶対に結婚しちゃ フォト・スタジオ 言うし : : : じゃあ、お花見に行こうって言 いけないってことはないだろ ? 光代のカメラテストが行われている 、つと、も、つ散っちゃったって一言、つし : : : も ポーズをつけて、パチ : ハチ : : : と 夏子「そりゃあそうだけど : めてるうちに日が暮れちゃうんです シャッターを切るカメラマン。 徹「どんな人だか、調べりやすぐわかるん 夏子「それでよく一緒に暮せるわねえ」 そばで見ている記者 < と夏子と早苗。 光代「喧嘩してた方が退屈しなくていいんで 夏子「そりゃあそうね : : : 」 徹「とにかく一一人を会わしたらどう ? 」 高速道路をバックに ポーイに案内されて、次郎と徹が入って カメラマンが光代を写している 夏子「ちょっと待ってよ : : : 私も何だか混乱 来る。 して来ちゃった」 夏子「遅いじゃない」 徹「へえ、クールな姉さんが混乱しちゃい 貶高層ビルをバックに 徹「だってさ、出かける時になって、やた 光代の写真。 けないな」 らとカッコつけちゃってさ」 夏子「ほんとね : : : 申しわけない 次郎「お前 : : : 君だってタートルネックにし一 xx 庭園 よ、つか、亠小いセーターにしよ、つか : ・・ : 」 光代。 甲野書房・編集部 夏子「いいわよ ( ポーイに ) じゃ、これで揃一 夏子と記者 < いましたから : 夏子「写真のモデルに、一人あたってもらい 埠頭ー ポーイ「承知いたしました」 光代。 たいのがあるんだ」 と出て行く。 記者 < 「今度はどこの子です ? 」 夏子「紹介するわ : : : こちらが加藤次郎君 , 夏子「映画館の切符売場 : : : 窓口で見ただけ レストラン・個室 光代「・ : 夏子、光代、早苗ーーー だから全身のシルエットはわからないけど 夏子「疲れたでしよう ? せつかくのお休み夏子「あなたをはじめて切符売り場で・ : ・ : 大丈夫だと思うんだ」 光代「あ : : : あの時の : ・ : ・」 を無理に引っぱり出して : 記者 < 「プロのモデルや女優さんじゃなくて 次郎「え : : : ? 素人っほい子を探してたんです : : : 早速あ光代「いいえ」 人 恋 早苗「どうせ今日はどっこにも行くつもり夏子「あら、覚えてたの ? 」 たってみますわ」 の 光代「入場券が飛んでって : : : 」 じゃなかったし : : : 」 人夏子「まじめそうな子だけど : : : 」 夏子「でも、それを拾おうともしないで : 夏子「お休みに出かけないの ? 」 記者 < 「大丈夫ですわ。まかしといて」 あなたの顔をポカンと見てたのね ? 」 早苗「私が映画を見に行こうって言っても、 107
のよ」 夏子「どういうこと ? 悠一「ふーん」 悠一「 悠一「考えてみると、僕は : : : 自分で言っ夏子「もしも奥さんにばれたら : : : その時は 民子「私達を心配させようと思ってるんだか ちゃ変だけど : : : 今までずーっと優等生で きれいさつばり別れる約東だったの : : : 二 一一枚目で通して来たんだな」 年八カ月目にばれたわ : : : 約東通りに別れ 夏子「その通りよ」 たわ、 ・ : その後、ばったり会ったら : 民子「さあ、どうぞ : : : 今夜は何にもなくて悠一「ところがこの間、突如として、三枚目 ゃあしばらく・ : : ・お元気 ? : : : って挨拶を に転落したもんだから、カッとなって、次することにしたの : : : だから、さっき、や 悠一「いやあ・ : 郎に当ったんだ : : : 次郎はちっとも悪くな あ、しばらく : : : お元気って挨拶したのよ」 何となくぎこちなく坐る いのに : : : 悪いのは多分あなたなんだ」 夏子「え ? 私が ? どうして悪いの ? 夏子「でもねえ、後で考えると、どうも、あ 喫茶店 悠一「勿論、あなただけのせいでもないけど の人、自分から奥さんにばらしたんじゃな 夏子と悠一がコ 1 ヒーを飲んでいる。 いかと思、つのよ」 悠一「次郎がいなくなってから、あのガラン夏子「一体どういうことなのよ : : : あ : とした家に、おふくろさんと二人っきりて 奥の席から立って来た二人連れの男の一夏子「それくらいのことやりかねない人なの のがどうにもやりきれないんだ」 人が夏子の方に近づく。 よ : : : でも、どっちだっていいの : : : 私は一 夏子「わかるわ : : : お母さんの方だって同じ男「やあ : : : しばらく・ : ・ : 」 あの人の家庭を破壊するつもりはなかった 夏子「しばらく : ・ んだから : : : でも奥さん、苦しんだでしょ 悠一「そりやそうだけど : : : 今度飛び出した男「その後、お元気 ? 」 、つね : ・・ : その代り、私もとうとう今まで結 のは全部僕の責任だからな」 男「じゃあ : : : ( 悠一の方に ) どうも : : : 」婚しなかった : : : 出来なかったわ : : : あら、 夏子「あなたの ? と会釈して出て行く。 うつかり喋ってしまった : : : あなたの話、 悠一「いけない : : : 黙っとくつもりだったの夏子「今の人、誰だと思う ? どうなったのよ」 悠一「さあ : ・ 悠一「ん 夏子「次郎さん : ・ : いつもの通りフラッと飛夏子「私の恋人 : : : だった人」 夏子「二枚目が三枚目になったって話 : : : そ び出したんじゃないの ? 悠一「え ? 」 れがどうして私のせいなのよ : 悠一「全然三枚目なんだ」 夏子「はじめつから奥さんのある人だったの 夏子「誰が ? 」 : でも奥さんに全然わからないように、 晴海埠頭 悠一「勿論、僕ですよ」 完全犯罪のまま : : : 続いたのよ」 次郎がばんやりと海を見ている
早苗「大丈夫よ」 夏子のアバート ( 夜 ) 次郎「送るよ : : : さあ、行こう」 夏子「雑誌のモデルに頼んだのよ : : : この写 夏子と悠一 徹「うん : : : 行こ、つ」 真が今日出来たもんだから、遊びに来たの」夏子「ほんとうは今みたいに出し抜けでなく、 光代「じゃあ、この写真、いただいてって : : : 」悠一「そう : : : 」 あなたに、或る程度、彼女の予備知識を与 えておいて、そしてさりげなく紹介するつ 夏子「ああ、どうぞ ( 大きな封筒を渡す ) 」夏子「コーヒ 1 いれるわ」 もりだったんだけど : : : 私がぐずぐずして 光代「ありがとうございました」 、ん、こちらこそ : たもんだから : ・ 夏子「いし 地下鉄ホーム ( 夜 ) 早苗「じゃ、おやすみなさい」 光代、早苗、次郎、徹が歩いて来る 悠一「いや、別に : 光代「さようなら」 早苗「素敵なお兄さんね」 夏子「実はうちの社長も一度会いたいって 光代「でも、何だか怒ってるみたいだったわ おっしやってるから : : : その時、一緒に食 ね : : : 私、恐かった」 事でもしない ? 」 早苗「そうね、ちょっと無愛想ね」 悠一「え ? 」 入口 ( 夜 ) 光代、早苗、次郎、徹が出て行く。 夏子「軽い気持でね・ : 夏子「じゃ、気をつけてね」 次郎「兄貴には恋人がいたんだけど : 光代「さよなら」 早苗「さよなら」 次郎「いいんだよ : : : 兄貴の恋人、三年前に 光代のアバート ( 夜 ) 夏子「さよなら」 死んじゃったんだ」 光代と早苗が布団を敷いて寝支度をして いる 光代「まあ : ・ 次郎「その恋人、君にそっくりだったんだ」早苗「あんた、この頃、急について来たみた 居間 ( 夜 ) 悠一が立っている 光代「え ? いね」 夏子が来る 徹「名前もミッちゃんって言ったんだ」 光代「そうかしら : ・・ : 」 夏子「どうぞ : : : お坐りになって : : : 」 早苗「え ? 」 早苗「だってそうじゃない : : : ファッション モデルになったり、素敵な恋人が現れたり 悠一「ええ : : : ( 椅子にかける ) 」 徹「美千子って一言うんだけど、僕たち、ミッ 夏子「この写真 : ・ ちゃんて呼んでたんだ」 残っている光代の写真を見せる 光代「素敵な恋人って : 早苗「まあ : : : 」 電車が来る 早苗「次郎さんの兄さんよ」 夏子「 ( さりげなく ) どっか、ちょっと美千 光代「だって、あの人の恋人が私に似てたっ 子さんに似てない ? 」 : いいでしょ ? 」 ー 110 ー
記者 ro 「はい 良平「僕はもっと早く、いつでも結婚しても夏子「社長は、決して無理にはすすめないっ らいたかったんだが : : : 持ち込まれる縁談て : : : でも、あなたのこと、とても気にし てらっしやるのよ を振り向きもしないらしいんでね : ・ : ・ここ 社長室 良平と夏子ーー・ いらで、僕からもすすめてみようと思うん悠一「 : 良平「次郎君はまだ君のところにいるの ? 夏子「とにかくこの写真、お母さんにも見せ 夏子「いえ、あの晩から二日ぐらいいて一度夏子「わかりました : : : 私も賛成ですわ : てね : : : お喜びになると思うわ 帰ったんですけど、またフラッとやって来社長からのお話だったら悠一さんもはっき悠一「ええ : : : 母もそういう話をしてたから り眼がさめると思いますわ」 良平「いい気なもんだねえ」 良平「実はそういう狙いもあるんだ」 夏子「そりゃあ、お母さんだって早く御安心 なさりたいのよ : : : でもあなたにはどんな 夏子「お母さんには意地になって反抗して夏子「私、これから日本橋の方へ参りますけ るみたいだし・・ : : 悠一さんとはお互いに ど、何でしたらこの写真を : : : 」 人がいいかしら : ・ : ・ ( 写真を手に取って ) やつばり何かこだわりがあるんでしよ、つか良平「、つん : : : そうしてもらえるとありがた こんなタイプは駄目ねえ : : : あら、悪いわ いな」 社長さんに、フフフ : 良平「まあね : : : 顔つきは悠一君が死んだお 悠一「ハ やじにだんだん似て来るなと思ってたけど 太陽パルプ・応接室 夏子「でも、あなたの心の中から美千子さん一 : 時々カッとなって喧嘩っ早いところは をはっきり追っぱらってしまえる人なんて 夏子が悠一に写真を見せている 次郎君もおやじにそっくりだよ : : : ところ夏子「名古屋の方ですって : : : お父さんは製 いるかしら : : : 私は商売柄、いろんなお嬢 で、ど、つ ? これは : : : 」 薬会社の重役で、女ばかり三人姉妹の末っ さんを知ってるけど : : : さて、この人って 一枚の写真を出して見せる 子 : : : 短大卒業で、趣味はピアノ、乗馬 のいないなあ : : : あんまりいいとこのお嬢 夏子「 ・ : 馬に乗るんですって : : : 元気そうな可 さんでございってのも頼りないでしよう 良平「悠一君のお嫁さんに・ ・ : だからってチャカチャカした・も 愛いお嬢さんじゃない ? 」 夏子「え ? ねえ・ : 悠一「ふーん」 や、仕事持ってる 良平「悠一君の心の中にいつまでも美千子が夏子「年は二十二 : : : もっと若く見えるけど悠一「・だって : : : い 生きててくれるのはほんとに嬉しいんだが ・ : 前に撮った写真かも知れないわね : 人の方がいいんですよ」 ・ : もうそろそろ解放してあげないと、本とにかくお見合をしてみたら ? 写真だけ夏子「仕事をしてて、生意気でない人 : : : そ 人は勿論、お母さんにも悪くてね , じゃよくわからないんだもの」 して美千子さんに負けないくらい奇麗な人 夏子「・ : ・ : むつかしいなあ : : : ああ、お仕事中、 102 ー
加藤家・茶の間 ( 夜 ) 悠一と民子がタ飯を食べている。 悠一「次郎は、また二、三日帰らないな」 民子「そうなのよ : ・・ : ほんとにどういうつも りなんだか・ : : ・」 悠一「僕、今夜、行ってみるよ」 人 恋民子「今から ? 夏子さんとこへ ? 」 人悠一「うん」 民子「いいわよ、疲れてるのに : 悠一「大丈夫だよ : : : 僕、連れて帰って来る よ : : : お父さんのつもりで、少し次郎にき 入口 ( 夜 ) びしくしろって、お母さん、そう言ったじゃ 甲野書房・社長室 悠一と夏子ーー 洋服、和服、いろいろなコスチュ 1 ムの ないか」 悠一「お客様だったら、僕、ここで : : : 次郎 光代の写真ーー 民子「そりゃあ、そう言ったけど : : : あ、御を連れに来ただけですから : : : 」 良平と夏子が見ている 飯は ? 」 夏子「いえ・・・・ : あの・・・・ : ど、つぞお上りになっ 良平「うーん、これは驚いたなあ」 悠一「もういい : ・ : 御馳走さまー て : : : あなたに紹介したい方があるのよ 夏子「社長にはショックが強過ぎるんじゃな : さあ、どうぞ」 いかと思いましたので、まず写真をお見せ 夏子のアバート・入口 ( 夜 ) 悠一「僕に : して、それから、もし本人に会いたいとお 悠一が来て、扉を叩く。 思いになるんでしたら : : : 」 扉が開いて、徹が顔を出す。 居間 ( 夜 ) 良平「会いたいような : : : 会いたくないよう徹「あ : 夏子と悠一が来る。 な : : : 妙な気持だなあ : : : 悠一君にはもう悠一「今晩は」 夏子「御紹介します : ・・ : こちらはね、次郎さ 会わせたの ? 」 徹「今晩は : : : ( 振り返って ) 姉さん」 んのお兄さんで、加藤悠一さん : : : こちら一 夏子「いえ、まだ : : : 悠一さんもきっと社長 夏子が来る は坂本光代さんと村川早苗さん」 と同じように複雑な気持だと思いますから夏子「あ : いらっしゃい」 光代「はじめまして : : : 」 悠一「どうもこんなに遅くお邪魔して : 早苗「どうぞよろしくー 夏子「いん 悠一「は・ : ( 茫然と光代の顔を見ている ) 」 次郎「 : ・ 引居間 ( 夜 ) 徹が来る。 光代「あの : : : 私達、失礼します」 次郎と光代と早苗が写真を見ている。 夏子「まだいいでしょ ? もうちょっと : : : 」 早苗「お客様 ? 」 光代「いえ、もう、今、帰ろうとしてたとこ 徹「うん ? うん ですから 次郎「 早苗「明日、早番なんです」 光代「私達、帰りましよう」 夏子「そ、つ : ・ 早苗「ええ : ・ 次郎「送ってくよ」 光代「あら、いいわ」 ー 109
入場券の飛んで行った方を見る。 わ。ようやくこの頃忘れかけて、誰かほか なとこまで引っぱり出して : : : 」 後から来た女の客が金を出す。 の人と結婚しようかって気持になってるの徹「エイプリル・フールはまだ明日 : : : 明 客「二枚頂戴、 後日だな」 次郎、ようやく足元を見回して、落ちて次郎「あの子と結婚すればいいじゃないか」夏子「やつばり私たちをかついだのね」 いる入場券を拾う。 夏子「馬鹿ね : : : どんな人だかわかりもしな次郎「ちがうったら : : : 変だなあ」 また光代の方を振り返る。 夏子「帰ろ」 次の客に入場券を売っている光代。 次郎「人場券を売ってるんだから、頭の悪い次郎「ちょっと待ってよ : : : 今日は休んだの 次郎、のろのろと入口の方へ行く。 子じゃないよ : : : 金を扱ってるんだから信かなあ」 用されてるんだと思うんだ」 夏子「こういうとこの人はね、日曜日は忙し 夏子のアバート ( 夜 ) 徹「恋人がいるかも知れないな」 いから、ウィークデーに休むの」 次郎と夏子と徹 次郎「いないかも知れないさ : : いたってか次郎「ふーん : : : じゃあ、きっとこの中にい 次郎「美千ちゃんにそっくり・ : ・ : 俺、夢見て まわないよ : : : とにかく一度見てごらんよ るよ : : : 俺、聞いてみる」 るんかなと思ったり・ : ・ : それとも幽霊かな ・ : 兄貴に見せる前に三人で行ってみよう徹「え ? 」 と思って、ぞっとしたんだから : : : 」 次郎「あの、入口にいる女の子に : : : 」 徹「ヘッ」 徹「映画見るんじゃないんだから、金はい夏子「馬鹿ね、およしなさい」 夏子「神様はこの世の中に三人までは同じ顔らないんだな・ : ・ : じゃあ行こうよ」 次郎「だって : ・ をお造りになるそうだから、そういう人が 徹「何て聞くの ? 」 いても不思議じゃないわね」 映画館の表 次郎「入場券を売る人がもう一人いるでしょ 徹「じゃあ、僕と同じ顔の収が地球上にも 次郎と夏子と徹が来る。 う一一人いるの ? 」 入場券売場の方を見る。 夏子「その人に会わして下さいって ? 」 夏子「そうね、アフリカあたりにいるんじゃ次郎「あれ : 次郎「うん : : : 」 光代の顔は見えす、別の出札係が入場券夏子「どんな用だって云われたら、何て答え 徹「ヘッ」 を売っている るの ? 向うの名前もわからないのに、そ 次郎「兄貴にも見せてやんなきや : : : びつく徹「あれが美千ちゃんに似てるの ? 」 んなこと言ったって、不良だと思われるだ りするだろ、つなあ」 次郎「いや : ・・ : ちがうよ」 けよ」 夏子「兄さんに見せたってしようがないじゃ夏子「何よ、あんた : : : せつかくの日曜日に徹「まあ、そんなとこだな」 ない。却って美千子さんを思い出すだけだ のんびりしようと思ったら、わざわざこん夏子「もともと他人の空似でしよう : : : 美千 104 ー
良平「僕も実はいやだと思いながら、見たく良平「ハ ・ : 君たち、大学の試験の発表きょ「そんな恐ろしい病気が、何も選りに なるんだ」 は ? 」 選って、うちのお嬢さんを : : : 」 夏子「それじやきよさんと同じじゃありませ次郎「話題を変えよう」 涙を抑えながら、椅子につますき、キチン ん ? 」 良平「駄目だったのか ? 」 と直して、また涙を抑えながら出て行く。 良平「そうなんだよ : : : 婆やを笑えた義理徹「ええ」 夏子「やつばり話題を変えましよう」 じゃないんだよ、 良平「君も ? 」 良平「君、あの話、どうしたの ? 」 悠一「僕も同じだな ( ウイスキーを飲む ) 」夏子「そうなんです」 夏子「どうしましよう ? 良平「話題を変えようか : : : 」 悠一「徹君ははじめて浪人になるんだけど、良平「僕が聞いてるんだよ」 夏子「でも、今夜は美千子さんのことを思い 次郎は三年目だからな」 夏子「迷ってるんです」 出すために集まったんですもの」 良平「そうか : : : 一一人ともどうやら不肖の弟悠一「あなたでも迷うことあるのかな ? 次郎「美千ちゃんの顔には小さなホクロが、 たちらしいな」 次郎「何を迷ってるの ? 」 いくつあったか知ってる ? 兄さん、知っ きよが料理を運んで来る 夏子「結婚しようか、どうしようかと思って てる ? 」 良平「もっともこの兄さんと姉さんは少し立 派過ぎるからな」 次郎「今から ? 」 夏子「悠一さんの眼には、美千子さんのホク次郎・徹「 ( 同時に ) そうなんだ」 夏子「・・ : : でも遅くはないでしよう ? 」 ロなんか見えなかったのよ」 , 良平「なんだ : : : 不肖の弟を自認してるの次郎「全然 : : : 」 次郎「そうだな : : : 僕は数えたんだ : : : 三つ か」 徹「遅いよ」 あったんだ」 次郎「やつばり話題を変えようよ」 次郎「遅くないよ」 徹「ほんと ? 」 きょ「お嬢さんが生きてらしたら : : : ( 悠一徹「結婚するんなら、もっと早くすりやい 悠一「四つだよ」 を見て ) こんな立派な旦那様の : : : 奥さん いじゃないか」 次郎「え ? 」 になって : : : 今頃はきっと可愛い赤ちゃん夏子「あんたみたいな足手まといがいるから 悠一「左の耳の後にも : : : 一つあったんだ」 結婚出来なかったんじゃない」 次郎「そんなとこ知らねえや」 徹「今どき病気で亡くなっちゃうなんて徹「全部、僕のせい ? 」 夏子「次郎君の負け」 夏子「でもないけど : : : 」 次郎「耳の後なんて、顔じゃないもん」 良平「今だって、病気で死ぬ人間はいくらも次郎「どんな人 ? 」 夏子「口惜しがっても駄目」 いるさ : : : 美千子の場合は何万人に一人と徹「アメリカ人だってさ」 次郎「話題を変えようよ」 言う珍らしい病気だったんだ」 次郎「へえ」 9 ・
次郎「いや : ポーツとなっちゃ、つな」 デルっていい商売だなあ」 光代「まあ : ・ 夏子「だから、ちょっと待ってよ」 光代「よしてよ、ファッションモデルだなん 夏子「こっちはね、私の弟の : 次郎「どうして ? 」 徹「青木 : : : 徹です , 夏子「光代さん、感じのいい人だったけど早苗「だってまた頼むって言ってたじゃない 夏子「あんたなんか今日は関係ないと言って : 一度会っただけじゃ、まだよくわかん : ね、どっちが好き ? ェクレアとモン も、どうしてもあなたの顔が見たいって プラン ないし・ : ・ : 」 徹「点が辛いんだなあ」 光代「エクレア」 徹「ヘッ : 次郎「あれだけ感じがよけりや大丈夫だよ」早苗「じゃ、私はモンプラン」 夏子「こちらがね、坂本光代さんとお友達の夏子「でもね、悠一さんの気持って、あんた 二人、ケーキを食べる。 たちみたいに単純じゃないのよ : : : 美千子早苗「徹さんってさ、ちょっと可愛いじゃな 早苗「村川早苗です : : : 私も今日は関係ない さんとそっくりの人なんて、もしかしたら 男のくせに睫毛がこーんなに長い んですけど、光ちゃんがどうしても : 会いたくないかも知れないでしょ ? 」 次郎「ミッちゃん ? 徹「そうかなあ」 光代「そ、つ ? 早苗「ええ、光ちゃんが付いて来てくれって夏子「反対に、そっくりだからってだけで早苗「ね、あんた、どっちが好き ? 」 カッとなっても困るでしよう ? 私は二人光代「だから、エクレア : : : おいしいわ」 ポーイがメニューを持って入って来る。 をなるべく自然に会わせたいのよ。周囲で早苗「馬鹿ね。徹さんと次郎さんとどっちが ポーイ「どうぞ」 あんまり騒がないで、自然なっきあいをさ好き ? 」 せたいのよ : : : 」 光代「別に : : : どっちでも : : : 」 夏子のアバート ( 夜 ) 4 徹「自然に : : : 自然につて : : : 」 早苗「そう : : : じゃ、次郎さんにしときなさ 夏子と徹と次郎 次郎「何だかじれったいなあ [ 夏子「坂本光代だから、ミッちゃんなのよ」夏子「とにかくもうちょっと私にまかしとい光代「え ? 」 徹「美千子さんもミッちゃんだからな : てよ」 早苗「次郎さんだって、あんたを好きなのよ でもさ、両方とも同じミッちゃんだなんて、 ・ : あんたの顔ばかり見てたもん : : : おい 何だか : : : 」 しいわ : : : これ、一個八十円するのよ : 光代のアパート ( 夜 ) 夏子「単なる偶然よ」 光代と早苗がケーキの函をあける。 ウッ : : : ウ : ・ : ・ ( のどにつかえる ) 」 次郎「ね、兄貴にはいつ紹介する ? 」 早苗「お金もらって、御馳走になって、こん光代「どうしたの ? 馬鹿ね : : : 」 徹「あれだったら、悠一さん、一ペんで なお土産までもらって : : : ファッションモ 早苗の背中を叩いてやる。 ー 108 ー