入場券の飛んで行った方を見る。 わ。ようやくこの頃忘れかけて、誰かほか なとこまで引っぱり出して : : : 」 後から来た女の客が金を出す。 の人と結婚しようかって気持になってるの徹「エイプリル・フールはまだ明日 : : : 明 客「二枚頂戴、 後日だな」 次郎、ようやく足元を見回して、落ちて次郎「あの子と結婚すればいいじゃないか」夏子「やつばり私たちをかついだのね」 いる入場券を拾う。 夏子「馬鹿ね : : : どんな人だかわかりもしな次郎「ちがうったら : : : 変だなあ」 また光代の方を振り返る。 夏子「帰ろ」 次の客に入場券を売っている光代。 次郎「人場券を売ってるんだから、頭の悪い次郎「ちょっと待ってよ : : : 今日は休んだの 次郎、のろのろと入口の方へ行く。 子じゃないよ : : : 金を扱ってるんだから信かなあ」 用されてるんだと思うんだ」 夏子「こういうとこの人はね、日曜日は忙し 夏子のアバート ( 夜 ) 徹「恋人がいるかも知れないな」 いから、ウィークデーに休むの」 次郎と夏子と徹 次郎「いないかも知れないさ : : いたってか次郎「ふーん : : : じゃあ、きっとこの中にい 次郎「美千ちゃんにそっくり・ : ・ : 俺、夢見て まわないよ : : : とにかく一度見てごらんよ るよ : : : 俺、聞いてみる」 るんかなと思ったり・ : ・ : それとも幽霊かな ・ : 兄貴に見せる前に三人で行ってみよう徹「え ? 」 と思って、ぞっとしたんだから : : : 」 次郎「あの、入口にいる女の子に : : : 」 徹「ヘッ」 徹「映画見るんじゃないんだから、金はい夏子「馬鹿ね、およしなさい」 夏子「神様はこの世の中に三人までは同じ顔らないんだな・ : ・ : じゃあ行こうよ」 次郎「だって : ・ をお造りになるそうだから、そういう人が 徹「何て聞くの ? 」 いても不思議じゃないわね」 映画館の表 次郎「入場券を売る人がもう一人いるでしょ 徹「じゃあ、僕と同じ顔の収が地球上にも 次郎と夏子と徹が来る。 う一一人いるの ? 」 入場券売場の方を見る。 夏子「その人に会わして下さいって ? 」 夏子「そうね、アフリカあたりにいるんじゃ次郎「あれ : 次郎「うん : : : 」 光代の顔は見えす、別の出札係が入場券夏子「どんな用だって云われたら、何て答え 徹「ヘッ」 を売っている るの ? 向うの名前もわからないのに、そ 次郎「兄貴にも見せてやんなきや : : : びつく徹「あれが美千ちゃんに似てるの ? 」 んなこと言ったって、不良だと思われるだ りするだろ、つなあ」 次郎「いや : ・・ : ちがうよ」 けよ」 夏子「兄さんに見せたってしようがないじゃ夏子「何よ、あんた : : : せつかくの日曜日に徹「まあ、そんなとこだな」 ない。却って美千子さんを思い出すだけだ のんびりしようと思ったら、わざわざこん夏子「もともと他人の空似でしよう : : : 美千 104 ー
良平「まさか嫌いじゃないんだろ ? お互い 次郎と徹と早苗が目くばせをして、さり 向うから徹と早苗が走って来る。 に好意を持ってるんだろ ? 」 げなく、悠一と光代のそばから離れて行徹「おー 夏子「ええ、嫌いだなんてことは絶対に 早苗「待ってえ : : : 」 ただ悠一さんのことですから、まだ何とな ゲームに熱中している悠一。 息を切らしながら駆け寄る くとまどってるんだと思いますわー 光代がふっと気がつくと、次郎と徹と早次郎「腹へったあ」 良平「まあ、無理もないと思うがね」 苗の姿は見えない。 徹「僕も・ : ・ : 」 夏子「この間の晩、次郎君や徹たちと一緒に光代「あら : : : ? 早苗「私もおなかべッコペコ : ポーリングへ行ったそうですけど、お互い悠一「どうしたの ? 6 にあんまり口もきかないんですって : : : 」光代「いないわ」 中華料理店 ( 夜 ) 良平「みんなと一緒じゃ駄目だよ。遊びに誘悠一「え ? 」 悠一と光代が食事をしている。 い出したら、そっといつのまにか二人きり キョロキョロとあたりを見回す。 光代「馬鹿だわ、あの人達 : : : 今頃、きっと にして、ほかの者は消えてしまわなくちゃ おなかべコペコよ」 ビルの谷間 ( 夜 ) 悠一「そうか : ・・ : 」 夏子「ホホホ : : : 手のかかる恋人同士だこ 次郎と徹と早苗が歩いて来る 光代「大勢で一緒に食べた方がおいしいのに と 徹「今頃、二人でまごまごしてるよ」 次郎「ざまあ見ろ」 早苗「これから二人、どうするかしら ? 光代「 ( ふっと微笑んで ) 早苗ちゃん、こん 次郎「そこまで面倒見きれねえや」 なお店でおなか一ばい食べてみたいって パッと駆け出す。 言ってたのよー 徹「おー 悠一「そ、つ : ・ 追っかけよ、つとする 光代「おいしいわ : : : ほんとにあの人達、ど 早苗「あら : : : 待ってよ」 こへ行ったのかしら : : : 」 若い二人連れの男女が入って来る 走って来た次郎が立ち止まる 男「やあ・ : : ・」 息を切らしながら、キックボクシングの悠一「やあ : : : 」 真似をしたりする 男「どうも : : : 」 何となく不機嫌になっている 光代の方をチラと見て、二人は向うの グループ・サウンズ 狂熱的な演奏ーー 観客席 楽しそうな次郎、徹、早苗、光代。 何となくついて行けない悠一。 ゲーム・センター ( 夜 ) 悠一、次郎、徹、光代、早苗が射的や x xx ポールなど色々なゲームを楽しんで いる ー 1 12 ー
次郎「いや : ポーツとなっちゃ、つな」 デルっていい商売だなあ」 光代「まあ : ・ 夏子「だから、ちょっと待ってよ」 光代「よしてよ、ファッションモデルだなん 夏子「こっちはね、私の弟の : 次郎「どうして ? 」 徹「青木 : : : 徹です , 夏子「光代さん、感じのいい人だったけど早苗「だってまた頼むって言ってたじゃない 夏子「あんたなんか今日は関係ないと言って : 一度会っただけじゃ、まだよくわかん : ね、どっちが好き ? ェクレアとモン も、どうしてもあなたの顔が見たいって プラン ないし・ : ・ : 」 徹「点が辛いんだなあ」 光代「エクレア」 徹「ヘッ : 次郎「あれだけ感じがよけりや大丈夫だよ」早苗「じゃ、私はモンプラン」 夏子「こちらがね、坂本光代さんとお友達の夏子「でもね、悠一さんの気持って、あんた 二人、ケーキを食べる。 たちみたいに単純じゃないのよ : : : 美千子早苗「徹さんってさ、ちょっと可愛いじゃな 早苗「村川早苗です : : : 私も今日は関係ない さんとそっくりの人なんて、もしかしたら 男のくせに睫毛がこーんなに長い んですけど、光ちゃんがどうしても : 会いたくないかも知れないでしょ ? 」 次郎「ミッちゃん ? 徹「そうかなあ」 光代「そ、つ ? 早苗「ええ、光ちゃんが付いて来てくれって夏子「反対に、そっくりだからってだけで早苗「ね、あんた、どっちが好き ? 」 カッとなっても困るでしよう ? 私は二人光代「だから、エクレア : : : おいしいわ」 ポーイがメニューを持って入って来る。 をなるべく自然に会わせたいのよ。周囲で早苗「馬鹿ね。徹さんと次郎さんとどっちが ポーイ「どうぞ」 あんまり騒がないで、自然なっきあいをさ好き ? 」 せたいのよ : : : 」 光代「別に : : : どっちでも : : : 」 夏子のアバート ( 夜 ) 4 徹「自然に : : : 自然につて : : : 」 早苗「そう : : : じゃ、次郎さんにしときなさ 夏子と徹と次郎 次郎「何だかじれったいなあ [ 夏子「坂本光代だから、ミッちゃんなのよ」夏子「とにかくもうちょっと私にまかしとい光代「え ? 」 徹「美千子さんもミッちゃんだからな : てよ」 早苗「次郎さんだって、あんたを好きなのよ でもさ、両方とも同じミッちゃんだなんて、 ・ : あんたの顔ばかり見てたもん : : : おい 何だか : : : 」 しいわ : : : これ、一個八十円するのよ : 光代のアパート ( 夜 ) 夏子「単なる偶然よ」 光代と早苗がケーキの函をあける。 ウッ : : : ウ : ・ : ・ ( のどにつかえる ) 」 次郎「ね、兄貴にはいつ紹介する ? 」 早苗「お金もらって、御馳走になって、こん光代「どうしたの ? 馬鹿ね : : : 」 徹「あれだったら、悠一さん、一ペんで なお土産までもらって : : : ファッションモ 早苗の背中を叩いてやる。 ー 108 ー
良平「僕も実はいやだと思いながら、見たく良平「ハ ・ : 君たち、大学の試験の発表きょ「そんな恐ろしい病気が、何も選りに なるんだ」 は ? 」 選って、うちのお嬢さんを : : : 」 夏子「それじやきよさんと同じじゃありませ次郎「話題を変えよう」 涙を抑えながら、椅子につますき、キチン ん ? 」 良平「駄目だったのか ? 」 と直して、また涙を抑えながら出て行く。 良平「そうなんだよ : : : 婆やを笑えた義理徹「ええ」 夏子「やつばり話題を変えましよう」 じゃないんだよ、 良平「君も ? 」 良平「君、あの話、どうしたの ? 」 悠一「僕も同じだな ( ウイスキーを飲む ) 」夏子「そうなんです」 夏子「どうしましよう ? 良平「話題を変えようか : : : 」 悠一「徹君ははじめて浪人になるんだけど、良平「僕が聞いてるんだよ」 夏子「でも、今夜は美千子さんのことを思い 次郎は三年目だからな」 夏子「迷ってるんです」 出すために集まったんですもの」 良平「そうか : : : 一一人ともどうやら不肖の弟悠一「あなたでも迷うことあるのかな ? 次郎「美千ちゃんの顔には小さなホクロが、 たちらしいな」 次郎「何を迷ってるの ? 」 いくつあったか知ってる ? 兄さん、知っ きよが料理を運んで来る 夏子「結婚しようか、どうしようかと思って てる ? 」 良平「もっともこの兄さんと姉さんは少し立 派過ぎるからな」 次郎「今から ? 」 夏子「悠一さんの眼には、美千子さんのホク次郎・徹「 ( 同時に ) そうなんだ」 夏子「・・ : : でも遅くはないでしよう ? 」 ロなんか見えなかったのよ」 , 良平「なんだ : : : 不肖の弟を自認してるの次郎「全然 : : : 」 次郎「そうだな : : : 僕は数えたんだ : : : 三つ か」 徹「遅いよ」 あったんだ」 次郎「やつばり話題を変えようよ」 次郎「遅くないよ」 徹「ほんと ? 」 きょ「お嬢さんが生きてらしたら : : : ( 悠一徹「結婚するんなら、もっと早くすりやい 悠一「四つだよ」 を見て ) こんな立派な旦那様の : : : 奥さん いじゃないか」 次郎「え ? 」 になって : : : 今頃はきっと可愛い赤ちゃん夏子「あんたみたいな足手まといがいるから 悠一「左の耳の後にも : : : 一つあったんだ」 結婚出来なかったんじゃない」 次郎「そんなとこ知らねえや」 徹「今どき病気で亡くなっちゃうなんて徹「全部、僕のせい ? 」 夏子「次郎君の負け」 夏子「でもないけど : : : 」 次郎「耳の後なんて、顔じゃないもん」 良平「今だって、病気で死ぬ人間はいくらも次郎「どんな人 ? 」 夏子「口惜しがっても駄目」 いるさ : : : 美千子の場合は何万人に一人と徹「アメリカ人だってさ」 次郎「話題を変えようよ」 言う珍らしい病気だったんだ」 次郎「へえ」 9 ・
子さんとは何の関係もないのよ」 徹「日曜なんだぜ」 夏子「受験生に日曜なんかないわ」 加藤家・庭 悠一が草をむしったり掃いたりしている。 映画館・従業員控室 表の方からフラッと次郎が来る 光代と同僚の早苗がラーメンを食べてい夏子「次郎君も今日は自分の家へお帰んなさ る。 次郎「兄さん、映画見に行かない ? 早苗「今夜、お花見に行かない ? 」 次郎「ヘッー 悠一「映画 ? 光代「はねてからじゃ遅くなっちゃうわ」 夏子「お兄さんにそう言われたのよ。あんた次郎「行こうよ : : : 兄さんに見せたいものが 早苗「じゃあ、明日 : : : 早番だから : ・ をうちへ泊めないでくれって : : : だから、 あるんだ」 光代「まだ桜の花、少し早いんじゃない ? 」 さあ、一一人ともお帰んなさい」 悠一「どんな映画だい ? 」 早苗「七分咲きがいいのよ」 徹「姉さんはどうするの ? 」 次郎「映画じゃないよ」 光代「満開の方がいいわー 夏子「せつかく出て来たんだから、ぶらぶら悠一「え ? 」 早苗「花なんかどうだっていいのよ」 して帰るわ」 次郎「いや : : : 映画を見に行くんだけど : 光代「何を見に行くの ? 」 次郎「じゃあ俺たちも : : : 」 そこの・ : ・ : 」 早苗「ポーイハント」 徹「もうちょっとぶらぶら : : : 」 悠一「今日はうちでゆっくりしようよ : せつかくお前が帰って来たんだ」 光代「キョロキョロしてたら、酔っぱらいに夏子「駄目」 からまれるわよ」 徹「帰ろ帰ろ」 次郎「でも : 早苗「あんたって、どうしてそう私の言うこ 次郎はちらと入場券売場の方を見ながら、悠一「お母さんももうすぐ帰って来るよ」 とにいちいちさから、つの ? 」 徹と一緒に立ち去る 次郎「どこへ行ったの ? 」 光代「いちいち賛成してたら、お金とひまと 夏子、笑いながら見送って、ぶらぶら歩悠一「その辺まで買物に行ったよ」 き出す。 身体と : : いくつあっても足りないもん」 次郎「・ : 早苗「意地悪婆さん」 ふっと入場券売場の方を振り返る 悠一「お前、アルバイトなんかやめて、予備 ・ : この味噌ラー夏子「 校へ行ったらどうだ ? 」 光代「ああ、おいしかった : メンたつぶりあるわね」 光代の顔が見える。 次郎「行く必要がないよー 人 恋 引きつけられるように近づく。 悠一「もう一年頑張ってみたらどうだ ? の 人 映画館の表 入場券を売っている光代ーーー 次郎「無駄だよ」 3 次郎と夏子と徹 悠一「もう一年頑張って、それでも駄目だっ 夏子「・ : たら : : : 働くのはそれからでいいじゃない 茫然と見つめる。 夏子「徹はうちへ帰って勉強 : : : 」 いね」 ー 105 ー
この人、うちでテレビ見てた方がいいって 徹「じゃあ、その人と : : : 絶対に結婚しちゃ フォト・スタジオ 言うし : : : じゃあ、お花見に行こうって言 いけないってことはないだろ ? 光代のカメラテストが行われている 、つと、も、つ散っちゃったって一言、つし : : : も ポーズをつけて、パチ : ハチ : : : と 夏子「そりゃあそうだけど : めてるうちに日が暮れちゃうんです シャッターを切るカメラマン。 徹「どんな人だか、調べりやすぐわかるん 夏子「それでよく一緒に暮せるわねえ」 そばで見ている記者 < と夏子と早苗。 光代「喧嘩してた方が退屈しなくていいんで 夏子「そりゃあそうね : : : 」 徹「とにかく一一人を会わしたらどう ? 」 高速道路をバックに ポーイに案内されて、次郎と徹が入って カメラマンが光代を写している 夏子「ちょっと待ってよ : : : 私も何だか混乱 来る。 して来ちゃった」 夏子「遅いじゃない」 徹「へえ、クールな姉さんが混乱しちゃい 貶高層ビルをバックに 徹「だってさ、出かける時になって、やた 光代の写真。 けないな」 らとカッコつけちゃってさ」 夏子「ほんとね : : : 申しわけない 次郎「お前 : : : 君だってタートルネックにし一 xx 庭園 よ、つか、亠小いセーターにしよ、つか : ・・ : 」 光代。 甲野書房・編集部 夏子「いいわよ ( ポーイに ) じゃ、これで揃一 夏子と記者 < いましたから : 夏子「写真のモデルに、一人あたってもらい 埠頭ー ポーイ「承知いたしました」 光代。 たいのがあるんだ」 と出て行く。 記者 < 「今度はどこの子です ? 」 夏子「紹介するわ : : : こちらが加藤次郎君 , 夏子「映画館の切符売場 : : : 窓口で見ただけ レストラン・個室 光代「・ : 夏子、光代、早苗ーーー だから全身のシルエットはわからないけど 夏子「疲れたでしよう ? せつかくのお休み夏子「あなたをはじめて切符売り場で・ : ・ : 大丈夫だと思うんだ」 光代「あ : : : あの時の : ・ : ・」 を無理に引っぱり出して : 記者 < 「プロのモデルや女優さんじゃなくて 次郎「え : : : ? 素人っほい子を探してたんです : : : 早速あ光代「いいえ」 人 恋 早苗「どうせ今日はどっこにも行くつもり夏子「あら、覚えてたの ? 」 たってみますわ」 の 光代「入場券が飛んでって : : : 」 じゃなかったし : : : 」 人夏子「まじめそうな子だけど : : : 」 夏子「でも、それを拾おうともしないで : 夏子「お休みに出かけないの ? 」 記者 < 「大丈夫ですわ。まかしといて」 あなたの顔をポカンと見てたのね ? 」 早苗「私が映画を見に行こうって言っても、 107
早苗「大丈夫よ」 夏子のアバート ( 夜 ) 次郎「送るよ : : : さあ、行こう」 夏子「雑誌のモデルに頼んだのよ : : : この写 夏子と悠一 徹「うん : : : 行こ、つ」 真が今日出来たもんだから、遊びに来たの」夏子「ほんとうは今みたいに出し抜けでなく、 光代「じゃあ、この写真、いただいてって : : : 」悠一「そう : : : 」 あなたに、或る程度、彼女の予備知識を与 えておいて、そしてさりげなく紹介するつ 夏子「ああ、どうぞ ( 大きな封筒を渡す ) 」夏子「コーヒ 1 いれるわ」 もりだったんだけど : : : 私がぐずぐずして 光代「ありがとうございました」 、ん、こちらこそ : たもんだから : ・ 夏子「いし 地下鉄ホーム ( 夜 ) 早苗「じゃ、おやすみなさい」 光代、早苗、次郎、徹が歩いて来る 悠一「いや、別に : 光代「さようなら」 早苗「素敵なお兄さんね」 夏子「実はうちの社長も一度会いたいって 光代「でも、何だか怒ってるみたいだったわ おっしやってるから : : : その時、一緒に食 ね : : : 私、恐かった」 事でもしない ? 」 早苗「そうね、ちょっと無愛想ね」 悠一「え ? 」 入口 ( 夜 ) 光代、早苗、次郎、徹が出て行く。 夏子「軽い気持でね・ : 夏子「じゃ、気をつけてね」 次郎「兄貴には恋人がいたんだけど : 光代「さよなら」 早苗「さよなら」 次郎「いいんだよ : : : 兄貴の恋人、三年前に 光代のアバート ( 夜 ) 夏子「さよなら」 死んじゃったんだ」 光代と早苗が布団を敷いて寝支度をして いる 光代「まあ : ・ 次郎「その恋人、君にそっくりだったんだ」早苗「あんた、この頃、急について来たみた 居間 ( 夜 ) 悠一が立っている 光代「え ? いね」 夏子が来る 徹「名前もミッちゃんって言ったんだ」 光代「そうかしら : ・・ : 」 夏子「どうぞ : : : お坐りになって : : : 」 早苗「え ? 」 早苗「だってそうじゃない : : : ファッション モデルになったり、素敵な恋人が現れたり 悠一「ええ : : : ( 椅子にかける ) 」 徹「美千子って一言うんだけど、僕たち、ミッ 夏子「この写真 : ・ ちゃんて呼んでたんだ」 残っている光代の写真を見せる 光代「素敵な恋人って : 早苗「まあ : : : 」 電車が来る 早苗「次郎さんの兄さんよ」 夏子「 ( さりげなく ) どっか、ちょっと美千 光代「だって、あの人の恋人が私に似てたっ 子さんに似てない ? 」 : いいでしょ ? 」 ー 110 ー
加藤家・茶の間 ( 夜 ) 悠一と民子がタ飯を食べている。 悠一「次郎は、また二、三日帰らないな」 民子「そうなのよ : ・・ : ほんとにどういうつも りなんだか・ : : ・」 悠一「僕、今夜、行ってみるよ」 人 恋民子「今から ? 夏子さんとこへ ? 」 人悠一「うん」 民子「いいわよ、疲れてるのに : 悠一「大丈夫だよ : : : 僕、連れて帰って来る よ : : : お父さんのつもりで、少し次郎にき 入口 ( 夜 ) びしくしろって、お母さん、そう言ったじゃ 甲野書房・社長室 悠一と夏子ーー 洋服、和服、いろいろなコスチュ 1 ムの ないか」 悠一「お客様だったら、僕、ここで : : : 次郎 光代の写真ーー 民子「そりゃあ、そう言ったけど : : : あ、御を連れに来ただけですから : : : 」 良平と夏子が見ている 飯は ? 」 夏子「いえ・・・・ : あの・・・・ : ど、つぞお上りになっ 良平「うーん、これは驚いたなあ」 悠一「もういい : ・ : 御馳走さまー て : : : あなたに紹介したい方があるのよ 夏子「社長にはショックが強過ぎるんじゃな : さあ、どうぞ」 いかと思いましたので、まず写真をお見せ 夏子のアバート・入口 ( 夜 ) 悠一「僕に : して、それから、もし本人に会いたいとお 悠一が来て、扉を叩く。 思いになるんでしたら : : : 」 扉が開いて、徹が顔を出す。 居間 ( 夜 ) 良平「会いたいような : : : 会いたくないよう徹「あ : 夏子と悠一が来る。 な : : : 妙な気持だなあ : : : 悠一君にはもう悠一「今晩は」 夏子「御紹介します : ・・ : こちらはね、次郎さ 会わせたの ? 」 徹「今晩は : : : ( 振り返って ) 姉さん」 んのお兄さんで、加藤悠一さん : : : こちら一 夏子「いえ、まだ : : : 悠一さんもきっと社長 夏子が来る は坂本光代さんと村川早苗さん」 と同じように複雑な気持だと思いますから夏子「あ : いらっしゃい」 光代「はじめまして : : : 」 悠一「どうもこんなに遅くお邪魔して : 早苗「どうぞよろしくー 夏子「いん 悠一「は・ : ( 茫然と光代の顔を見ている ) 」 次郎「 : ・ 引居間 ( 夜 ) 徹が来る。 光代「あの : : : 私達、失礼します」 次郎と光代と早苗が写真を見ている。 夏子「まだいいでしょ ? もうちょっと : : : 」 早苗「お客様 ? 」 光代「いえ、もう、今、帰ろうとしてたとこ 徹「うん ? うん ですから 次郎「 早苗「明日、早番なんです」 光代「私達、帰りましよう」 夏子「そ、つ : ・ 早苗「ええ : ・ 次郎「送ってくよ」 光代「あら、いいわ」 ー 109
二人の恋人 八ミリの画面 箱根あたりーーー。 甲野良平と娘の美千子と加藤次郎が歩い て来る 次郎が美千子にいたずらをする。 美千子が追っかける。 次郎がからかうような身振りで逃げる つまずいて転ぶ。 喜んで手を打っ美千子。 笑う良平。 富士山が見える 美千子と加藤悠一が歩いて来る カメラの方を向いて微笑む二人。 美千子、パッと駆け出す。 カメラは美千子の後姿を追う。 ポカンと立っている悠一。 ホテルのテラスで 美千子と次郎と良平が休んでいる。 ポ 1 イが飲物を四つ持って来る。 次郎、ひと息に飲んでしまう 笑う美千子。 美千子と悠一と良平が飲物を飲んでいる 美千子の顔。 悠一の顔。 笑う美千子 指先で涙を抑えるきょ 良平の眼も、つるんでくる。 じっと画面をみつめる悠一。 微笑む美千子ーーー フィルムが終る。 次郎が映写機を止める 徹が壁のスイッチを押す。 2 甲野家・リビング ( 夜 ) 明るくなる室内。 八ミリの画面を見ている良平、悠一、次 郎、老女中のきよ、青木夏子と弟の徹。きょ「いやでございます、私 : : : こんなお嬢 さんを見るの : : : もう一一度と、こんなもの一 画面ーー 美千子の顔。 涙を抑えながら部屋を出て行く。 髪をかき上げる。 良平「見るのはいやだ、いやだと言いながら、 時々見たくなるのは婆ゃなんだよ」 微笑む 次郎「僕たちだって、見たいって気持と、見 たくないって気持と半分半分だな」 笑わない良平、悠一、次郎、夏子、徹、 きょ 夏子「私は見たいんだけど : : : 私がもし死ん だら、後でこんな風に、みんなから見られ 笑う美千子 るの、辛いわ」 徹「僕、見たいな。何度でも見たいな」 良平、悠一のグラスにウイスキーをつぎ 悲しそうな良平、悠一、次郎、夏子、徹、 きょ ながら 美千子ーー 美千子ーーー 悠一と次郎と良平。 次郎がカメラに向って口を尖らす。 悠一が次郎の頭をこずく。 首をすくめる次郎 笑う良平。 ( 以上の画面にタイトルが出る )
夏子のアバート・徹の部屋 ( 夜 ) 次郎と徹がジャンケンをする。 次郎が勝っ 次郎「すまん」 人 べッドに寝る の 人徹「チェッ あかりを消して、ソフアに寝る ラジオだけポッと明るい。 民子が見えている 隣室から 民子「ちょっと向う向いて」 夏子の声「ラジオ消して寝るのよ」 < 家の表 悠一、向、つを向く。 徹、音を小さくする 悠一が大を連れて来る 民子「いいわね ( 悠一の肩の糸屑を取る ) 」夏子の声「いつもつけたま、寝ちゃうんだか 若い娘 < がポストから新聞を取っている。 ら : 悠一「 ( こっちを向いて ) 次郎にも作ってやっ 娘 < 「お早ようございます たの ? 」 扉が開いて、パジャマ姿の夏子が現れる。悠一「 ( ぶつきら棒に ) ゃあ : : : 」 民子「あの子には着物なんか似合わないの夏子「臭い よ ラジオのそばへ来て消す。 朽家の表 悠一「駄目だよ : : : だから次郎がひがむんだ夏子「寝る前に窓をあけて空気を入れ換えな 玄関から小学生 ( 男の子 ) が飛び出して よ ( と坐る ) ー 来る。 くちゃ : : : 」 民子「大丈夫よ : : : あの子は女親の私をなめ 椅子の上に脱ぎ捨ててある靴下を指でつ 若い娘が見送る てるのよ : ・ : だから、あなたがお父さんの まみあげる。 男の子「行って参りまあすー つもりでもっときびしく叱ってくれなく 夏子「臭い : : : ああ臭い」 娘「行ってらっしゃい ちゃ : : : 」 靴下をぶら下げたまま出て行く。 悠一と大がやって来る。 悠一「この上、僕まできびしくしたら可哀そ次郎「ああ、いい匂い」 娘「あ : : : お早よう ) 」ざいます」 、つだよ」 徹、またラジオをつける。 悠一「やあ : 民子「可哀そうだなんて : : : あんな憎たらし次郎「シャネルの五番だな」 祐加藤家・座敷 洗面所 ( 夜 ) 民子と若い娘たちが生花の準備をしてい る。 夏子が靴下を洗濯機に入れる 娘 < 「うちの前は毎朝七時かっきりなのよー 貶居間兼夏子の部屋 ( 夜 ) 娘「あら、うちの前は七時十五分よ」 夏子が来て、三面鏡の前に坐る。 民子「じゃあ、悠一が時計代りなのね」 静かに髪をとかす。 娘 0 「あんたたち、毎朝、その時間を狙って 表へ出るの ? 」 住宅街 娘「あら : : : 丁度、その時間に弟が学校へ 悠一が大を連れて朝の散歩をしている。 出かけるのよ」