なム 1 ドがあって、ああ、きっと物足りな たと記されていますが、それはどういうと ( g 年 ) 以来、自分で書いたのはやってい いんだなあ、と。まあ、海に至るシーンと ころか ? なかったんで、自分のオリジナルシナリオ かは、頭の中では、あったんですけれど、 で撮りたいと思ったんですね。それで何本渡辺やつばり漫才のネタを文字で読むと、 どう組み込もうかなと。シナリオの流れを、 か書いて、プロデューサーに渡したんです面白味が伝わり辛いというのがあると思う んですよ。だから、シナリオを読んだプロ どうしようかなというのを悩んでて、本腰 けど、「フレフレ少女」の興行成績が今ひ デューサーの中には、漫才の部分は、お笑を入れたのは、俳優部の 3 人と打ち合わせ とつだったんで、オリジナルは、なかなか をしてからで、その後からですね。ちゃん い芸人の人にお願いした方がいいんじゃな 難しいし、かと言って、原作物ではなあと いか、みたいなことを言ってきた人もいま と直そ、つとい、つことになって。 いう思いがあったんです。そうこうして 他には、ど、ついう直しを いつる、つナ ) 一い ~ 、リ・ . 、ー マン・ショック、震災した。 それは具体的に細かくネタを書かれて渡辺まあ、あとは細かいところだけで、 で、企画がバンバン流れて、知り合いのプ 漫才のネタに関してだけは一寸別ですけれ いたんですか ロデューサーも夜逃げ同然になったりして、 2010 年の暮れから、映画界は、シンド渡辺今とは全然ちがうネタですが、漫才ども。 漫才のネタは、ある程度、俳優さんに も一人芸のネタも全部書きました。 かった時期だと思うんですけどね。 おおよそ 大凡の骨格としては、今と同じような任せたりは、したんですか この「エミアビのはじまりとはじまり 渡辺いや、ネタは全て僕が書いて、ただ は、どの位の時期から考えていらしたんで形でしたか。 渡辺今よりも少し縮小していましたね。 稽古している最中に、ここはもう一寸こう すか 黒沢 ( 新井浩文 ) と実道 ( 森岡龍 ) の二人した方がいいみたいなアイデアが出てきた 渡辺 2011 年には、初稿を書きあげて ら、そこは貰ったという感じですね。 が、海に向かう件りとか、最初はなかった いました。その前から、アイデアとしては です。感じとしては、ハリセンで、 現場で変わったりとかは。 自分の中にあったんだと思いますが ーンとやって、もうコンビを組んだ形に渡辺そんなに変わってないんじゃないか ーー実現するまでに、結構時間がかかった なって、シーンのボリュームのひとつひと わけですね。 監督が実際に体験した身近な人の死と、 渡辺そうですね。そうしているうちに「舟つが大きかったですね。 笑いを絡めて描こうと思われたのは、どう を編む」のお話を戴いたりしたので、中断ーー今のような形になったのは ? い、つところから しつつ。 渡辺俳優部が決まってからじゃないです かね。やつばり新井君とか、一寸これだと、渡辺死を乗り越える時に、例えば、お葬 プレスシートでは、最初に書かれたも 式とかで控室に入って、お寿司をつまんだ 黒沢の役が、なかなか理解できないみたい のは、周りの評判が、ど、つにも芳しくなかっ -4
入場券の飛んで行った方を見る。 わ。ようやくこの頃忘れかけて、誰かほか なとこまで引っぱり出して : : : 」 後から来た女の客が金を出す。 の人と結婚しようかって気持になってるの徹「エイプリル・フールはまだ明日 : : : 明 客「二枚頂戴、 後日だな」 次郎、ようやく足元を見回して、落ちて次郎「あの子と結婚すればいいじゃないか」夏子「やつばり私たちをかついだのね」 いる入場券を拾う。 夏子「馬鹿ね : : : どんな人だかわかりもしな次郎「ちがうったら : : : 変だなあ」 また光代の方を振り返る。 夏子「帰ろ」 次の客に入場券を売っている光代。 次郎「人場券を売ってるんだから、頭の悪い次郎「ちょっと待ってよ : : : 今日は休んだの 次郎、のろのろと入口の方へ行く。 子じゃないよ : : : 金を扱ってるんだから信かなあ」 用されてるんだと思うんだ」 夏子「こういうとこの人はね、日曜日は忙し 夏子のアバート ( 夜 ) 徹「恋人がいるかも知れないな」 いから、ウィークデーに休むの」 次郎と夏子と徹 次郎「いないかも知れないさ : : いたってか次郎「ふーん : : : じゃあ、きっとこの中にい 次郎「美千ちゃんにそっくり・ : ・ : 俺、夢見て まわないよ : : : とにかく一度見てごらんよ るよ : : : 俺、聞いてみる」 るんかなと思ったり・ : ・ : それとも幽霊かな ・ : 兄貴に見せる前に三人で行ってみよう徹「え ? 」 と思って、ぞっとしたんだから : : : 」 次郎「あの、入口にいる女の子に : : : 」 徹「ヘッ」 徹「映画見るんじゃないんだから、金はい夏子「馬鹿ね、およしなさい」 夏子「神様はこの世の中に三人までは同じ顔らないんだな・ : ・ : じゃあ行こうよ」 次郎「だって : ・ をお造りになるそうだから、そういう人が 徹「何て聞くの ? 」 いても不思議じゃないわね」 映画館の表 次郎「入場券を売る人がもう一人いるでしょ 徹「じゃあ、僕と同じ顔の収が地球上にも 次郎と夏子と徹が来る。 う一一人いるの ? 」 入場券売場の方を見る。 夏子「その人に会わして下さいって ? 」 夏子「そうね、アフリカあたりにいるんじゃ次郎「あれ : 次郎「うん : : : 」 光代の顔は見えす、別の出札係が入場券夏子「どんな用だって云われたら、何て答え 徹「ヘッ」 を売っている るの ? 向うの名前もわからないのに、そ 次郎「兄貴にも見せてやんなきや : : : びつく徹「あれが美千ちゃんに似てるの ? 」 んなこと言ったって、不良だと思われるだ りするだろ、つなあ」 次郎「いや : ・・ : ちがうよ」 けよ」 夏子「兄さんに見せたってしようがないじゃ夏子「何よ、あんた : : : せつかくの日曜日に徹「まあ、そんなとこだな」 ない。却って美千子さんを思い出すだけだ のんびりしようと思ったら、わざわざこん夏子「もともと他人の空似でしよう : : : 美千 104 ー
上映作品『少年』『鬼畜』 [ 聞き手 ] 井土紀州佐伯俊道 犯罪とセックスの関係 [ ゲスト ] 井土『鬼畜』についてお話すると、これ原作のすごさって何かと言うと、セックス も体験的にしか語れないですけども、小学レスの夫婦がいる。旦那には愛人との間に 生のときにテレビで放映されたのを観たん作った子が三人いて、愛人は子供を家に置 いて出て行った。意図的かどうか分からな です。母親がそういうものが好きで。今ふ いんだけども、ビービー泣く赤ん坊に毛布 うに言うとトラウマ映画の一つです。もの すごく陰惨な気持ちになって、緒形拳が饅がかぶさって死んじゃった。そしたら、そ の夜、久しぶりに燃えた。つまりセックス 頭か何かを「喰えーツ」って言う。「喰え」っ レスの夫婦が赤ん坊が死んだことで異様に ていうのが「けえーツ」って聞こえるんで 昂奮して久々にセックスが甦ったと。そう すけど、子供のロに押し込むところが恐ろ しくて、すさまじいトラウマの記憶ですよするとカミさんのほうが、「あと二人いる でしよ。もう一人やんなさいよ」。旦那の ね。なんて映画って素晴らしいんだと思う ほうは東京タワーに連れてって、今度は殺 んですよ。つまりお茶の間で何気なく親と せない。子供を置いて来て戻ってくる。そ 一緒に観てる少年にとって、ぞっとするよ うすると、またその夜も燃えるわけですよ うな陰惨な、しばらく恐ろしくて、自分の ね。子供を殺したことでセックスが復活し 親が自分に毒を喰わせるんじゃないかと、 た夫婦が、今度はセックスのために殺人を そういうことを思わせるだけの 目的化する。だから、快楽のためにいたい 佐伯テレビだと、今ならカットされるか けな子供たちを殺す夫婦の話に読めるんで もしれませんね 井土ですね。体験を強いるわけですよす、原作は。「だから鬼畜か , と。つまり ね。だから、映画って素晴らしいなと思、つ子殺しの事件なんて今も腐るほどある。育 んですけど。そういうことがあって僕は後児放棄とかでね。それを鬼畜と言ってしま うと、あたり前過ぎるなあと僕は思う。た に松本清張を読むようになった。「鬼畜』 は非常に短い短編です。ただ、僕はこの原だ清張の原作には、「そうか、だから鬼畜 と なんだ」と納得させる非情さがある。だか 作を読んだときに、「これはすごいー 思ったんですよ。で、その後、映画を観ら、このシナリオに関しては、清張が掴ん だ何か、さっき言った「文学のふるさと て、「あっ、物足りないーと思ったんです。 0 8
光代「私、あなたや青木さんたちの気持もよ光代「皆さんがどんなに悠一さんと私のことマダム「映画の題名にそんなのがあったん くわかるし : : : 正直のところ、はじめのう をそんな風に考えて下さっても : : : 私の気じゃない ? 」 ちは美千子さんの代りに、悠一さんを慰め持を動かすことは出来ないのよ」 良平「あれは、わが青春に悔なし」 てあげられたら : : : と思ったのよ : : : でも、次郎「 : ・ 夏子「葉桜や : : : 」 そのうちにだんだん : : : 」 光代「そんなこと出来やしないわよ : バ 1 テン「わが青春に悔多し : 次郎「美千ちゃんが : : : 美千子さんが今でも次郎「 : ・ 良平「え ? 君なんか悔なしだろう ( チラと 兄貴の心の中にいると言うのは : : : それ 噴水ーー マダムを見る ) 」 は君の思い過ごしだよ : : : そんなことは 1 テン「いやあ : ・ 酒場 ( 夜 ) マダム「この人、全学連なのよ」 光代「ううん : : : それだけじゃないの : 良平と夏子が飲んでいる 夏子「あら、そ、つ・ : ・ : 」 私がほんとうに悠一さんを好きになれた カウンターの中にマダムとバーテンがい マダム「この前の、アンポハンタイの時の る。 ら、美千子さんのことだって気にならない : なるほどねえ : 良平「そうか : と思うの : : : 見たこともない美千子さんの夏子「もう一つ、これ」 ことが気になるのは、私がどうしても悠一 ーテン「はい」 夏子「私 : : : やつばり : : : も、つしばらく見送 さんを好きになれないってことだと思うのマダム「どうなすったの ? 今夜は : : : 」 るわ」 良平「どうも少し荒れ気味なんだよ」 良平「え ? 次郎「そんな馬鹿な : : : 」 マダム「季候のせいね : : : 葉桜の頃ってみん夏子「結婚」 光代「どうして馬鹿なの ? 」 なそうなのよ」 マダム「え ? 」 次郎「兄貴は : : : 今はもう君に夢中だし : 良平「葉桜か : 夏子「ほんとに好きな人がみつかるまで そのうちに結婚の申し込みをするだろうし ーテン「はい」 ・ : 僕たちだって、おふくろだって、みん とグラスを出す。 良平「・ : マダム「そりゃあそう : : : どうせ結婚するん なそれを喜んでるんだよ」 夏子「どうも : : ほんとに喜んでるの ? だったら・ : ・ : わが結婚に悔なし : : : でなく 光代「あなたも : ・ 良平「葉桜や : : : わが青春に悔多し」 人 ちゃねん 恋次郎「え ? : : : 喜んでるさ」 マダム「なあに ? それ : : : 」 人光代「嘘ー 良平「俳句だよ : : : 僕は一生にたった一つ、 俳句を作ったことがあるんだ : : : 葉桜やわ 6 ロ 次郎「え ? 」 7 カ藤家・居間 ( 夜 ) 噴水ーー が青春に悔多し」 悠一と民子 しいですね」 ー 1 15 ー
加藤家・茶の間 ( 夜 ) 悠一と民子がタ飯を食べている。 悠一「次郎は、また二、三日帰らないな」 民子「そうなのよ : ・・ : ほんとにどういうつも りなんだか・ : : ・」 悠一「僕、今夜、行ってみるよ」 人 恋民子「今から ? 夏子さんとこへ ? 」 人悠一「うん」 民子「いいわよ、疲れてるのに : 悠一「大丈夫だよ : : : 僕、連れて帰って来る よ : : : お父さんのつもりで、少し次郎にき 入口 ( 夜 ) びしくしろって、お母さん、そう言ったじゃ 甲野書房・社長室 悠一と夏子ーー 洋服、和服、いろいろなコスチュ 1 ムの ないか」 悠一「お客様だったら、僕、ここで : : : 次郎 光代の写真ーー 民子「そりゃあ、そう言ったけど : : : あ、御を連れに来ただけですから : : : 」 良平と夏子が見ている 飯は ? 」 夏子「いえ・・・・ : あの・・・・ : ど、つぞお上りになっ 良平「うーん、これは驚いたなあ」 悠一「もういい : ・ : 御馳走さまー て : : : あなたに紹介したい方があるのよ 夏子「社長にはショックが強過ぎるんじゃな : さあ、どうぞ」 いかと思いましたので、まず写真をお見せ 夏子のアバート・入口 ( 夜 ) 悠一「僕に : して、それから、もし本人に会いたいとお 悠一が来て、扉を叩く。 思いになるんでしたら : : : 」 扉が開いて、徹が顔を出す。 居間 ( 夜 ) 良平「会いたいような : : : 会いたくないよう徹「あ : 夏子と悠一が来る。 な : : : 妙な気持だなあ : : : 悠一君にはもう悠一「今晩は」 夏子「御紹介します : ・・ : こちらはね、次郎さ 会わせたの ? 」 徹「今晩は : : : ( 振り返って ) 姉さん」 んのお兄さんで、加藤悠一さん : : : こちら一 夏子「いえ、まだ : : : 悠一さんもきっと社長 夏子が来る は坂本光代さんと村川早苗さん」 と同じように複雑な気持だと思いますから夏子「あ : いらっしゃい」 光代「はじめまして : : : 」 悠一「どうもこんなに遅くお邪魔して : 早苗「どうぞよろしくー 夏子「いん 悠一「は・ : ( 茫然と光代の顔を見ている ) 」 次郎「 : ・ 引居間 ( 夜 ) 徹が来る。 光代「あの : : : 私達、失礼します」 次郎と光代と早苗が写真を見ている。 夏子「まだいいでしょ ? もうちょっと : : : 」 早苗「お客様 ? 」 光代「いえ、もう、今、帰ろうとしてたとこ 徹「うん ? うん ですから 次郎「 早苗「明日、早番なんです」 光代「私達、帰りましよう」 夏子「そ、つ : ・ 早苗「ええ : ・ 次郎「送ってくよ」 光代「あら、いいわ」 ー 109
黒沢さんは原作ものの脚色のお仕事が書いてないんですよ。それって、半世紀前黒沢これは女の半生を描きたいなと思っ 多いですが、原作へのアプローチの仕方と に今の女性と同じことを思い、感じていた たんですよ。それが果たしてどれだけやり いいますか、脚色するにあたってまずどん瀬戸内さんって凄いという証拠だと思うん切れてるかというのは若干ありますけど なことを始めるのでしようか ですけど、時代が完璧に瀬戸内さんにつ 彼女が初めて性に目覚める瞬間、初 黒沢やつばりキモを見つける、みたいな いて来ちゃった。その分だけ、じゃあなん めて欲望を覚える瞬間というのは絶対押 ことなのかな。何か「これだ ! 」という核で 2016 年の今、この作品をやらなきや さえておきたいなと思って。そこを中心に を見つけて、その核に沿って再構築してい いけないの ? というのが本当に分からな学生時代のエピソードを入れていったので、 くというかたちか多いですね かった。だから打ち合わせで「分からな あんまり取捨選択で苦労するというのはな 原作によっては、その核が見つからな いーって作品の批評を延々としてたら、安 かったですね。予算の関係で撮られてない いとい、つこともあるのでしよ、つか 藤さんが「そういうところを含めて書いて シ 1 ンがあるのが残念なんですけど。 黒沢『花芯』は見つかりませんでしたねみて」と言い出したんです。「黒沢の批評 原作だと最後の方は主人公がさらにす ( 笑 ) 。有名な一節「自分が死んだあと子宮を交えて書いてみてよ」と。そこでちょっ ごい状況に陥ったりもしますが だけが残るのではないか」。たぶんここな と展開が開けた感じがあったんですよね 黒沢あそこまで描くかどうかは話し合い んだろうとは思ったんですけど、そこから そ、つか、と をしました。描き切れないと思ったし、そ 7 先がこの作品は全く分からなかったですね。 原作は回想のようなかたちで描かれて の必要もないんじゃないかと 成田さんと安藤監督と三人で打ち合わせ いるから、主人公が自分がしてきたことを、 をしたんですが、「何をどうしたらいいか現在から省みて理知的に論証を加えている荒井晴彦氏の助手を経て 私は分かりません , と延々と ( 笑 ) 。一応みたいで、最初は、全く主人公に共感が出 分からないままにプロットを上げたんです。来なかったんですよ。自分のやったことに 黒沢さんは師匠である荒井晴彦さんの 分からないから外から攻めようというか、 対して全てを正当化しようとしているよ、つ助手として「神聖喜劇のシナリオ化 ( 「シ これは形式で見せるしかないな、みたいな な印象があったので。それも描き進められ ナリオ神聖喜劇 , 原作【大西巨人脚本【 プロットを。そしたら、成田さんから、「ダ なかった原因ではあったんですけど、現在荒井晴彦太田出版刊 ) をお手伝いされた メですよ、ちゃんとストレートに不倫話と 進行形のかたちで捉え直してみると、そう そうですが して描きましようよ」と。でもそうなると 力、とい、つのがありました。 黒沢やりましたねえ。思い出すとジン 益々分かんなくなっちゃうんですよ原作 原作では学生時代の話も多く描かれて マシンが出そうなくらいッラかったですね は発表当時はセンセーショナルだったんで いますが、そのエピソードの取捨選択は苦 ( 笑 ) 。 しようが、今読むと、当たり前のことしか労はされましたか。 今回の「花芯』は、戦争が直接のテー
係で言うと、要するに現場で孤立するとい 渡辺稽古とかを見ていると、やつばり森す。 丿ーダーシップをとって引っ 岡君の方が、 クエミアビというコンビの命名の理 、つか、もう役に没頭するしか、なくなっちゃ 由も、比較的後半に出てきますね。 うわけですね。それで、たぶん精神的にス張っていきますね。アイデアとかも、森岡 渡辺あれは、シナリオの段階では、もう トレスを相当感じて、いい芝居になったん君の方が、どんどん出てきますし。まあ、 一寸早かったのかな。確かシーンの位置と じゃないかと思うんですけどね 漫才に関しては、準備の初期段階では、僕 ・ーー今までの映画でも、同じようなやり方も稽古の様子をできるだけ見に行って、彼しては、早目に入れていたんですが、編集 をされたことは ? でつないでいて、あそこが一番いいねとい らの漫才を見て、ネタを直して、また投げ 、つことで、こ、つい、つふ、つになったんです てというのをやっていたんですけど、基本 渡辺「ラブドガンーの時の、宮﨑 ( あおい ) タイトルは、最初から決めていたんで さんや、新井君には、そういう感じはあり的に二人でやりとりしていることの方が多 ましたけどね。 いし、ロケハンとか撮影の方が忙しくなるすか 前野さんの方は、どうだったんですと、それはもう、お任せにしてやりました。渡辺最初は「死んだら泣いて笑え」って、 海野と雛子の二人が死ぬ件りが、劇中 ストレートなやつで、次は「 0 渡辺いや、これは面白いんですけど、基で出てこないのは、あえて意図したことで -< 」 ( 笑 ) 。それで、タイトルを変 えてくれと、プロデューサーに言われたん 本的に、撮影前、どの俳優さんに聞いても、すか みんな、漫才は難しいですよ、絶対滑りま渡辺すいぶん前の稿だと、車に乗って死ですよ 監督としては、どのタイトルにした んでしまうみたいなところも書いていたん す、みたいなことを一一一口うんですよ。だけど、 かったんですか 前野君と森岡君の二人は、そういうことは ですが、まあ、予算的に撮れないというこ 一切言わなかったんです。最初に会った時ともありましたし、何か説明しなくても分渡辺いや、僕はタイトルに、そんなに拘 かるんじゃないかなと思ったんですね。 りはないんで、分かりましたと言って。コ に、すごく乗り気で、楽しみです、どう ンビ名は、エミアビに決まっていて、エミ やって面白くしましようか、みたいなこと 二人が幽霊になって出てくる場面もあ アビだけにするか、それに、はじまりとは を言って、それがすごく嬉しかったですね。 るので、流れとしては分かりますが それだけ自信があったということで渡辺だけど、仮に ( 死ぬシーンを ) 撮っ じまりを付けるか、まあ、一長いような 1 ) よ、つ、か ? ・ ても使わなかったかもしれないですよ。何気はしますけど、一番説明しているという か、そこだけ異質な説明カットじゃないで か、匂わせているところもありつつ、見終 渡辺自信があったのか、何なのか、ある すか。そういうのが、あまりない映画なの わった後に、納得してもらえるかなあと いはバカなのか ( 笑 ) 。 ーーー実際には、どうだったんですか 思って。 で、今でも入れなくて良かったなと思いま
か」 のあたりでガサゴソと音を立てるんだ : ・ 次郎「どれ ( と横からのぞいて ) こんなの駄 次郎「兄さん、そんなに気にしなくてもいい 僕がパッと飛び出すと、お前は今と同じよ 目だよ」 んだよ」 うに、ふてくされたような恰好でノッソリ民子「まあ、あんたのお嫁さんじゃないのよ」 悠一「え ? と出て来るんだ : ・ 次郎「だって、ちっとも美千ちゃんに似てな 次郎「母さんは俺のことなんか、もうあきら次郎「ふん : いじゃないか」 めちゃってんだから : : : 学校なんか行かな悠一「今だってお母さんは、お前とどんなに悠一「え : : : ? いで働いた方がいいと思ってんだよ」 喧嘩したって : : : お前がどんなにふてくさ民子「何を言うのよ : : : 美千子さんに似てな 悠一「そんなこと : : : 」 れて、家を飛び出したって : : : 必らず帰っ くたって : : : そんなこと : : : 似てない方が 次郎「そうなんだよ て来ることを知ってるんだよ」 いいのよ 悠一「そうじゃない : 次郎「・ : 次郎「似てた方がいいよ」 次郎「そ、つだよ」 悠一「だから安心してるんだよ : 民子「そんな馬鹿なこと : 自分も草をむしりはじめる 裏口から民子が帰って来る たって人は : : : 」 悠一「お前、こんな小さい時から、お母さん民子「なんだ、帰ってたの ? そんならも、つ次郎「 : に叱られると 、パッと飛び出したっきり、 少し何か買って来るんだった : : : まあ、何民子「変なことばかり言い出すんだから : : : 」 夕方、暗くなっても帰って来ないことがよ とか間に合、つだろう・ : ・ : あんたが悪いのよ 台所の方へ行く。 くあったな」 ・ : プイと飛び出したっきり、いっ帰って 次郎「ふーん」 来るかさつばりわかりやしないんだもん」 夏子のア。ハート・ ( 夜 ) 悠一「僕と、亡くなったお父さんは心配して次郎「 : ・ 夏子と徹がタ飯を食べている。 近所を探し回るんだが、お母さんはちっと民子「すっかり遅くなってしまって : : : そこ夏子「あれじゃ次郎君が興奮しちゃうのも無 もあわてないんだ」 で渡辺さんに会ったら、ちょっと寄って 理ないわ [ 次郎「冷たいんだよ」 らっしゃいってきかないのよ : : : 見せたい徹「やつばり幽霊みたいだった ? 」 悠一「違うんだ : : : お母さんはお前が必らずものがあるからって : : : 何だと思う ? 」 夏子「私も胸がドキンとしたわ : : : 悠一さん 帰って来ることをちゃんと知ってたんだよ悠一「どうせまた : : : 」 に見せたら混乱しちゃうだろうなあ」 ・ : 信じてたんだよ」 民子「そう : : : あなたにどうかしらって : : : 」徹「見せない方がいいんだろう ? 」 次郎「・ : 一枚の写真を渡す 夏子「そうね : : : あんな人を見たら、また、 悠一「その通り、お前はいつのまにかこっそ悠一「ふーん : : : ( と写真を見る ) 」 しばらくはほかの人と結婚する気なんかな りこの庭へ帰って来るんだ : : : その木の下民子「なかなか奇麗なお嬢さんでしょ ? くなっちゃうわね : ほんとにあん ー 106 ー
さんの「話芸」を記録しておこう。暇になっ 井川耕一郎 た私はそう思ったのだ。 「渡辺さん、さっき言ってましたね。『⑩ けれども、撮っている、っちに、欲とい、つ 湯の街夜のひとで』を撮っているとき、 か悪意というか、想定外の何かが私の中に いっか映画が撮れなくなる日が来る : : : と芽生えてきた。どうしてなのかは分からな 思っていたって。売り出し中のこれからっ て監督が何でそんなことを考えるんです か ? 」 二〇一〇年、私は「ピンク映画の巨匠」 と呼ばれた男、渡辺護のドキュメンタリー を撮っていた。撮ろうと思った経緯は実に いいかげんなものだった。私の脚本で渡辺 さんが監督することになっていたピンク映 画が製作延期になってしまったのだ。 渡辺さんの家にはよく遊びに行ったのだ けれども、そのたび、渡辺さんは息つぎな しで自分の人生と映画についてしゃべりま くった。脱線また脱線の圧倒的な語り。し かし、聞いていてとても楽しい。この渡辺 SCENARIO MAIL BOX 作家通信 7 「渡辺護自伝的ドキュメンタリー」 ラピュタ阿佐ヶ谷第 1 部 8 月 9 日 ~ 第 2 部 9 月 5 日 ~ いとう菜のは 『津軽海峡と日本海、ふたつの海の風がプ レンドされて、ひんやり透明な空気感をつ くっている』 森田芳光監督が愛した函館は、どこを 撮っても画になる、まち全体が大きなオー プンセットだ。 映画『函館珈琲』の舞台となる翡翠館は、 古民家を改装した、アーティストたちのた めの共同アパートメントである クランクインが迫る中、小澤秀高美術監 渡辺さんの語りを止めるような質問を したら、ど、つなるんだろ、つ : そんなこ とを思いながら、冒頭の質問を発したの だった。 私の質問に渡辺さんは一瞬かたまった。 けれども、渡辺さんはじいっと考えてから、 はぐらかすことなく誠実に答えてくれたの だった。その答を聞いて、私は負けたと思っ そんなふうにして撮った渡辺護自伝的ド キュメンタリーが、この夏、ラピュタ阿佐ケ 谷の渡辺護特集で上映されます。ぜひご覧 ください こ 0
りする時に、故人のバカ話で盛り上がっ すよ。僕は泣けなかったけど、いい映画じゃ たりすることがあるじゃないですか ( 笑 ) 。 ないのみたいな感じで終わるんだけど、笑 それまで泣いてたのに、急にそうなった いの映画で笑えないとなると、本当にクソ りする。それは案外普通のことなんだな つまんないって言われる ( 笑 ) 。もう、 と思って。人の死に立ち会ったりする時 ィリスク、ノーリターン。映画の人は全員、 に、悲しみはあるんだけど、笑いで浄化し 笑いは難しい、泣かせるのは技術だからっ て、悲しみと笑いが相殺されていく。だん て一言いますけど、確かにそ、つい、つところは だん忘れるわけじゃなくて、そういうもの あるんで、そんなに無理に笑いを入れなく の繰り返しによって、故人のことが、いい ても、 しいんじゃないかというのが、あり 思い出になっていくのかなあという気がし ましたね。 て、そういう映画って、物語として、あん 手つ取り早く一言うと、本職のお笑いの まり見てないなあと思って、それからです 人を主人公にするという選択肢も、あった かね のでは。 そこで主人公を漫才コンビにしたのは、 渡辺それはイヤだったんです。映画の人 職業として、お笑いをやっている人たちだ が、お笑いをやるというのを、ちゃんと からとい、つことで つばいある やってみたかった。逆は、い 渡辺その前に、映画に笑いか必要かどう じゃないですか。役者は勿論、監督も、み か悩んでる時期があったんです。笑いをと なさん上手にされていますが、その逆をや るって難しいし、全然笑えない映画だって、笑いをメインにする映画を作らなきゃいか りたかった。それで、あるプロデュ 1 サー いつばいあるわけじゃないですか。それま んと。それじゃ、も、つ漫才コンピにしよ、つと。 から、本当の話かどうか分かりませんが、 で、映画の中に無理に笑いを入れようとし 必要ないんじゃないかというのは、ど高倉健さんとビートたけしさんが共演した ていたんですが、必要ないんじゃないかと うしてですか 時に、たけしさんが「健さん、お笑いの人 思う一方で、こういうテーマの話を思いっ渡辺ます、リスクが高い笑いって滑っ 間は俳優をやれますけど、映画俳優は漫才 いた時に、本格的に笑いをやらないとダメ たら、ものすごく引かれるわけですよ。だ をできませんよ」って言ったらしいんです。 だなと思ったんです。今までのように、ア けど、泣かせる映画って、泣けなくても、 それを聞いた健さんが、ムカッとして、田 クセントとして笑いを入れるんじゃなくて、 そんなに怒って出ていく人よ、、 ( しないんで 中邦衛さんに電話をして「邦ちゃん、俺と 02016 「エミアビのはじまりとはじまり」製作委員会 一わ