上映作品『少年』『鬼畜』 [ 聞き手 ] 井土紀州佐伯俊道 犯罪とセックスの関係 [ ゲスト ] 井土『鬼畜』についてお話すると、これ原作のすごさって何かと言うと、セックス も体験的にしか語れないですけども、小学レスの夫婦がいる。旦那には愛人との間に 生のときにテレビで放映されたのを観たん作った子が三人いて、愛人は子供を家に置 いて出て行った。意図的かどうか分からな です。母親がそういうものが好きで。今ふ いんだけども、ビービー泣く赤ん坊に毛布 うに言うとトラウマ映画の一つです。もの すごく陰惨な気持ちになって、緒形拳が饅がかぶさって死んじゃった。そしたら、そ の夜、久しぶりに燃えた。つまりセックス 頭か何かを「喰えーツ」って言う。「喰え」っ レスの夫婦が赤ん坊が死んだことで異様に ていうのが「けえーツ」って聞こえるんで 昂奮して久々にセックスが甦ったと。そう すけど、子供のロに押し込むところが恐ろ しくて、すさまじいトラウマの記憶ですよするとカミさんのほうが、「あと二人いる でしよ。もう一人やんなさいよ」。旦那の ね。なんて映画って素晴らしいんだと思う ほうは東京タワーに連れてって、今度は殺 んですよ。つまりお茶の間で何気なく親と せない。子供を置いて来て戻ってくる。そ 一緒に観てる少年にとって、ぞっとするよ うすると、またその夜も燃えるわけですよ うな陰惨な、しばらく恐ろしくて、自分の ね。子供を殺したことでセックスが復活し 親が自分に毒を喰わせるんじゃないかと、 た夫婦が、今度はセックスのために殺人を そういうことを思わせるだけの 目的化する。だから、快楽のためにいたい 佐伯テレビだと、今ならカットされるか けな子供たちを殺す夫婦の話に読めるんで もしれませんね 井土ですね。体験を強いるわけですよす、原作は。「だから鬼畜か , と。つまり ね。だから、映画って素晴らしいなと思、つ子殺しの事件なんて今も腐るほどある。育 んですけど。そういうことがあって僕は後児放棄とかでね。それを鬼畜と言ってしま うと、あたり前過ぎるなあと僕は思う。た に松本清張を読むようになった。「鬼畜』 は非常に短い短編です。ただ、僕はこの原だ清張の原作には、「そうか、だから鬼畜 と なんだ」と納得させる非情さがある。だか 作を読んだときに、「これはすごいー 思ったんですよ。で、その後、映画を観ら、このシナリオに関しては、清張が掴ん だ何か、さっき言った「文学のふるさと て、「あっ、物足りないーと思ったんです。 0 8
なム 1 ドがあって、ああ、きっと物足りな たと記されていますが、それはどういうと ( g 年 ) 以来、自分で書いたのはやってい いんだなあ、と。まあ、海に至るシーンと ころか ? なかったんで、自分のオリジナルシナリオ かは、頭の中では、あったんですけれど、 で撮りたいと思ったんですね。それで何本渡辺やつばり漫才のネタを文字で読むと、 どう組み込もうかなと。シナリオの流れを、 か書いて、プロデューサーに渡したんです面白味が伝わり辛いというのがあると思う んですよ。だから、シナリオを読んだプロ どうしようかなというのを悩んでて、本腰 けど、「フレフレ少女」の興行成績が今ひ デューサーの中には、漫才の部分は、お笑を入れたのは、俳優部の 3 人と打ち合わせ とつだったんで、オリジナルは、なかなか をしてからで、その後からですね。ちゃん い芸人の人にお願いした方がいいんじゃな 難しいし、かと言って、原作物ではなあと いか、みたいなことを言ってきた人もいま と直そ、つとい、つことになって。 いう思いがあったんです。そうこうして 他には、ど、ついう直しを いつる、つナ ) 一い ~ 、リ・ . 、ー マン・ショック、震災した。 それは具体的に細かくネタを書かれて渡辺まあ、あとは細かいところだけで、 で、企画がバンバン流れて、知り合いのプ 漫才のネタに関してだけは一寸別ですけれ いたんですか ロデューサーも夜逃げ同然になったりして、 2010 年の暮れから、映画界は、シンド渡辺今とは全然ちがうネタですが、漫才ども。 漫才のネタは、ある程度、俳優さんに も一人芸のネタも全部書きました。 かった時期だと思うんですけどね。 おおよそ 大凡の骨格としては、今と同じような任せたりは、したんですか この「エミアビのはじまりとはじまり 渡辺いや、ネタは全て僕が書いて、ただ は、どの位の時期から考えていらしたんで形でしたか。 渡辺今よりも少し縮小していましたね。 稽古している最中に、ここはもう一寸こう すか 黒沢 ( 新井浩文 ) と実道 ( 森岡龍 ) の二人した方がいいみたいなアイデアが出てきた 渡辺 2011 年には、初稿を書きあげて ら、そこは貰ったという感じですね。 が、海に向かう件りとか、最初はなかった いました。その前から、アイデアとしては です。感じとしては、ハリセンで、 現場で変わったりとかは。 自分の中にあったんだと思いますが ーンとやって、もうコンビを組んだ形に渡辺そんなに変わってないんじゃないか ーー実現するまでに、結構時間がかかった なって、シーンのボリュームのひとつひと わけですね。 監督が実際に体験した身近な人の死と、 渡辺そうですね。そうしているうちに「舟つが大きかったですね。 笑いを絡めて描こうと思われたのは、どう を編む」のお話を戴いたりしたので、中断ーー今のような形になったのは ? い、つところから しつつ。 渡辺俳優部が決まってからじゃないです かね。やつばり新井君とか、一寸これだと、渡辺死を乗り越える時に、例えば、お葬 プレスシートでは、最初に書かれたも 式とかで控室に入って、お寿司をつまんだ 黒沢の役が、なかなか理解できないみたい のは、周りの評判が、ど、つにも芳しくなかっ -4
加藤家・茶の間 ( 夜 ) 悠一と民子がタ飯を食べている。 悠一「次郎は、また二、三日帰らないな」 民子「そうなのよ : ・・ : ほんとにどういうつも りなんだか・ : : ・」 悠一「僕、今夜、行ってみるよ」 人 恋民子「今から ? 夏子さんとこへ ? 」 人悠一「うん」 民子「いいわよ、疲れてるのに : 悠一「大丈夫だよ : : : 僕、連れて帰って来る よ : : : お父さんのつもりで、少し次郎にき 入口 ( 夜 ) びしくしろって、お母さん、そう言ったじゃ 甲野書房・社長室 悠一と夏子ーー 洋服、和服、いろいろなコスチュ 1 ムの ないか」 悠一「お客様だったら、僕、ここで : : : 次郎 光代の写真ーー 民子「そりゃあ、そう言ったけど : : : あ、御を連れに来ただけですから : : : 」 良平と夏子が見ている 飯は ? 」 夏子「いえ・・・・ : あの・・・・ : ど、つぞお上りになっ 良平「うーん、これは驚いたなあ」 悠一「もういい : ・ : 御馳走さまー て : : : あなたに紹介したい方があるのよ 夏子「社長にはショックが強過ぎるんじゃな : さあ、どうぞ」 いかと思いましたので、まず写真をお見せ 夏子のアバート・入口 ( 夜 ) 悠一「僕に : して、それから、もし本人に会いたいとお 悠一が来て、扉を叩く。 思いになるんでしたら : : : 」 扉が開いて、徹が顔を出す。 居間 ( 夜 ) 良平「会いたいような : : : 会いたくないよう徹「あ : 夏子と悠一が来る。 な : : : 妙な気持だなあ : : : 悠一君にはもう悠一「今晩は」 夏子「御紹介します : ・・ : こちらはね、次郎さ 会わせたの ? 」 徹「今晩は : : : ( 振り返って ) 姉さん」 んのお兄さんで、加藤悠一さん : : : こちら一 夏子「いえ、まだ : : : 悠一さんもきっと社長 夏子が来る は坂本光代さんと村川早苗さん」 と同じように複雑な気持だと思いますから夏子「あ : いらっしゃい」 光代「はじめまして : : : 」 悠一「どうもこんなに遅くお邪魔して : 早苗「どうぞよろしくー 夏子「いん 悠一「は・ : ( 茫然と光代の顔を見ている ) 」 次郎「 : ・ 引居間 ( 夜 ) 徹が来る。 光代「あの : : : 私達、失礼します」 次郎と光代と早苗が写真を見ている。 夏子「まだいいでしょ ? もうちょっと : : : 」 早苗「お客様 ? 」 光代「いえ、もう、今、帰ろうとしてたとこ 徹「うん ? うん ですから 次郎「 早苗「明日、早番なんです」 光代「私達、帰りましよう」 夏子「そ、つ : ・ 早苗「ええ : ・ 次郎「送ってくよ」 光代「あら、いいわ」 ー 109
海野「運転手さんがプラダだからな : : : すっ乗った ? 」 実道「この度は何と言って良いか : ごい高いんじゃない 海野「こういう事」 黒沢「階段上って一番上。右の部屋で待って 実道「 ( 右に ) おう、それで良いの ? 買っ 一本を裏返すと、タクシーにエマが乗っ て」 てやるよ。ュニクロだろ」 ている絵。 実道「あ、はい」 海野「ユニクロ僕も穿いてる。エマとお実道「 ( 右に ) お礼は良いよ ( 左に ) わかっ 奥に消える黒沢。 そろ」 てるって ( 右に ) 一緒に温泉行くか ? 」 階段を上がっていく実道。 実道「 ( 左に ) 会いたい ? ( 右に ) ジャパン海野「 ( 妄想 ) って事は : : : こういう事」 にいるの ? 」 もう一本の裏には温泉に入っているエ 6 同・雛子の部屋 海野「僕も会いたい」 マ・ワトソン。 畳敷きにカーベットの六畳間。 実道「 ( 左に ) 俺も会いたいよ ( 右に ) 俺の実道「 ( 左に ) あ ? そんな事言えるかよ ( 右 べッドとデスクが壁際に置かれ、デスク お薦めの温泉かあ」 に ) 今 ? 今、聞きたいの ? ( 左に ) ちょっ の上に骨壺と黒沢雛子 ( 享年 ) の遺影 海野「 ( 混乱して ) どっちがどっちだ ? えー と待てよ ( 左右に ) ・ ・ : 愛してるぜ」 部屋中央の座卓の上にはビール缶やグラ と」 スが置いてある 海野「 ( 天を見上げ ) 同時に言ったー ! 」 と、タクシーとエマ・ワトソンの絵が描 一瞬、戸惑った実道だったが、香炉の前 いてある二本のペープサート用の棒を実 4 黒沢家・外観ー夜 に立ち、線香に火をつけ、合掌瞑目する。一 道の後ろに出し、 雨は止み、雨だれが軒先から垂れている 実道の頭の中で、事故を起こす車の音が 海野「こういう事 ? 実道が玄関のチャイムを鳴らすと、中の 聞こえる 実道「 ( 右に ) 浅草でタクシーがっかまらな 灯りがついた。 缶ビールとコップ、ツマミを持って、黒 い ? ちょっと待って。ウェイウェイウェ実道「実道ですけど」 沢が入ってくる イ 黒沢拓馬 ( 肪 ) が玄関ドアを開けた。 遺影から黒沢に向き直り、 両方の電話を互い違いに重ねて、 実道「ご無沙汰してま : : : 」 実道「 ( 頭を下げ ) ご愁傷様です」 黒沢「入れよ」 しかし黒沢は何事も無いように座卓に 海野「何してんの ? 」 中に引っ込む黒沢。 持ってきた物を置き、奥の襖を開ける。 棒を互いに重ねて、 実道「 : : : お邪魔します」 海野「こういう事 ? 襖を開けると二間続きになっていて、そ やがて二つの携帯を左右の耳に当て、 5 同・玄関ー夜 ちらは各種グッズでエミアビ一色に飾ら 実道「 ( 左に ) どう ? 話ついた ( 右に ) 今、 玄関を閉める実道。 れていた。 実道「」
係で言うと、要するに現場で孤立するとい 渡辺稽古とかを見ていると、やつばり森す。 丿ーダーシップをとって引っ 岡君の方が、 クエミアビというコンビの命名の理 、つか、もう役に没頭するしか、なくなっちゃ 由も、比較的後半に出てきますね。 うわけですね。それで、たぶん精神的にス張っていきますね。アイデアとかも、森岡 渡辺あれは、シナリオの段階では、もう トレスを相当感じて、いい芝居になったん君の方が、どんどん出てきますし。まあ、 一寸早かったのかな。確かシーンの位置と じゃないかと思うんですけどね 漫才に関しては、準備の初期段階では、僕 ・ーー今までの映画でも、同じようなやり方も稽古の様子をできるだけ見に行って、彼しては、早目に入れていたんですが、編集 をされたことは ? でつないでいて、あそこが一番いいねとい らの漫才を見て、ネタを直して、また投げ 、つことで、こ、つい、つふ、つになったんです てというのをやっていたんですけど、基本 渡辺「ラブドガンーの時の、宮﨑 ( あおい ) タイトルは、最初から決めていたんで さんや、新井君には、そういう感じはあり的に二人でやりとりしていることの方が多 ましたけどね。 いし、ロケハンとか撮影の方が忙しくなるすか 前野さんの方は、どうだったんですと、それはもう、お任せにしてやりました。渡辺最初は「死んだら泣いて笑え」って、 海野と雛子の二人が死ぬ件りが、劇中 ストレートなやつで、次は「 0 渡辺いや、これは面白いんですけど、基で出てこないのは、あえて意図したことで -< 」 ( 笑 ) 。それで、タイトルを変 えてくれと、プロデューサーに言われたん 本的に、撮影前、どの俳優さんに聞いても、すか みんな、漫才は難しいですよ、絶対滑りま渡辺すいぶん前の稿だと、車に乗って死ですよ 監督としては、どのタイトルにした んでしまうみたいなところも書いていたん す、みたいなことを一一一口うんですよ。だけど、 かったんですか 前野君と森岡君の二人は、そういうことは ですが、まあ、予算的に撮れないというこ 一切言わなかったんです。最初に会った時ともありましたし、何か説明しなくても分渡辺いや、僕はタイトルに、そんなに拘 かるんじゃないかなと思ったんですね。 りはないんで、分かりましたと言って。コ に、すごく乗り気で、楽しみです、どう ンビ名は、エミアビに決まっていて、エミ やって面白くしましようか、みたいなこと 二人が幽霊になって出てくる場面もあ アビだけにするか、それに、はじまりとは を言って、それがすごく嬉しかったですね。 るので、流れとしては分かりますが それだけ自信があったということで渡辺だけど、仮に ( 死ぬシーンを ) 撮っ じまりを付けるか、まあ、一長いような 1 ) よ、つ、か ? ・ ても使わなかったかもしれないですよ。何気はしますけど、一番説明しているという か、そこだけ異質な説明カットじゃないで か、匂わせているところもありつつ、見終 渡辺自信があったのか、何なのか、ある すか。そういうのが、あまりない映画なの わった後に、納得してもらえるかなあと いはバカなのか ( 笑 ) 。 ーーー実際には、どうだったんですか 思って。 で、今でも入れなくて良かったなと思いま
悠一と民子が来る。 悠一「次郎 : : : 」 民子「どこへ行くのよ」 5 家の表 ( 夜 ) 次郎が走り去る 悠一が出て来る 悠一「次郎 : 6 玄関 ( 夜 ) 民子が立っている 悠一が入って来る。 悠一「どうせまた徹君のとこだよ」 民子「ほんとにしようがない」 悠一「今夜は帰りたくないなんて言ってたか ら : 扉の鍵をかける 民子「痛い : : : 」 右手の小指を左手で抑えている 悠一「どうしたの ? 」 民子「ん 悠一「あ・ : : ・血が : 民子「どこでひっかけたのかしら : : : あ : ・ 小さいトゲが : ・ : ・ ( 指先をなめる ) 」 悠一「どれ : ・・ : ああ、こいつあ : ・・ : 痛そ、つだ な・ : : ・ ( 民子の指を吸う ) 」 夏子と徹と次郎がコーヒーを飲んでいる。 7 茶の間 ( 夜 ) 悠一が民子の小指に伴創膏を貼ってやっ次郎「兄貴の方が、おふくろのほんとの子で ている。 さ、俺の方がままっ子だったら、どんなに 悠一「今日、試験の発表があったばかりなん気が楽だろうと思うな」 だから : : いきなり今夜、ガミガミ言っ夏子「そう言えば、次郎君、ままっ子の方が 似合ってるみたい : ちゃ可哀そうだよ」 民子「そうは思ったんだけど : : : 三度目で次郎「チェッ」 夏子「そう言われると、やつばりいい気持 しよ、つ・ : ・ : 」 じゃないでしょ ? だから贅沢なこと言わ 悠一「手を出しちゃいけないよ」 ないで、お母さんの気持を考えてごらんな 民子「そうねえ・・・・ : でもあの態度 : ・・ : ど、つだ さい : : : 随分気を使ってらっしやるのよ」 ろう・ : : ・ ( 指をひっこめて ) コーヒーでも 徹「気を使い過ぎるんだな」 いれようか」 悠一「お茶でいいよ」 次郎「ままっ子の兄貴を大事にしとけば、世一 民子「徹さんも一緒に落ちたからいいーと 間から立派なお母さんだと言われるだろ。 % その方がカッコイイのさ。おふくろの虚栄一 : いいなんて言っちゃ悪いけど : ・ : ・ ( お 心なんだよ。女のエゴイズムだな。おかげ 茶をいれながら ) もしも徹さんだけ入って でこっちはコンプレックスの塊りみたいに たら、下級生に追い越されてしまうのよ なっちゃってさ : : : 」 : そんなこと何とも感じないのかしら ・ : まるで同い年の友達みたいに仲がいい 夏子「馬鹿ね : : : お母さん、あんたには遠慮 かないから、きびしいのよ」 んだから : : : やつばり頭が少し弱いんだ 次郎「きびし過ぎるよ」 わー 悠一「そんなこと : : : 運動部の先輩後輩って、夏子「大きな身体をして、お母さんに甘えた 気が合うとあんなもんだよ」 次郎「よせやい 民子「それにしたって : お茶を出す。 9 加藤家・居間 ( 夜 ) 悠一が和服を着ている 8 夏子のアバート・居間 ( 夜 )
次郎「いや : ポーツとなっちゃ、つな」 デルっていい商売だなあ」 光代「まあ : ・ 夏子「だから、ちょっと待ってよ」 光代「よしてよ、ファッションモデルだなん 夏子「こっちはね、私の弟の : 次郎「どうして ? 」 徹「青木 : : : 徹です , 夏子「光代さん、感じのいい人だったけど早苗「だってまた頼むって言ってたじゃない 夏子「あんたなんか今日は関係ないと言って : 一度会っただけじゃ、まだよくわかん : ね、どっちが好き ? ェクレアとモン も、どうしてもあなたの顔が見たいって プラン ないし・ : ・ : 」 徹「点が辛いんだなあ」 光代「エクレア」 徹「ヘッ : 次郎「あれだけ感じがよけりや大丈夫だよ」早苗「じゃ、私はモンプラン」 夏子「こちらがね、坂本光代さんとお友達の夏子「でもね、悠一さんの気持って、あんた 二人、ケーキを食べる。 たちみたいに単純じゃないのよ : : : 美千子早苗「徹さんってさ、ちょっと可愛いじゃな 早苗「村川早苗です : : : 私も今日は関係ない さんとそっくりの人なんて、もしかしたら 男のくせに睫毛がこーんなに長い んですけど、光ちゃんがどうしても : 会いたくないかも知れないでしょ ? 」 次郎「ミッちゃん ? 徹「そうかなあ」 光代「そ、つ ? 早苗「ええ、光ちゃんが付いて来てくれって夏子「反対に、そっくりだからってだけで早苗「ね、あんた、どっちが好き ? 」 カッとなっても困るでしよう ? 私は二人光代「だから、エクレア : : : おいしいわ」 ポーイがメニューを持って入って来る。 をなるべく自然に会わせたいのよ。周囲で早苗「馬鹿ね。徹さんと次郎さんとどっちが ポーイ「どうぞ」 あんまり騒がないで、自然なっきあいをさ好き ? 」 せたいのよ : : : 」 光代「別に : : : どっちでも : : : 」 夏子のアバート ( 夜 ) 4 徹「自然に : : : 自然につて : : : 」 早苗「そう : : : じゃ、次郎さんにしときなさ 夏子と徹と次郎 次郎「何だかじれったいなあ [ 夏子「坂本光代だから、ミッちゃんなのよ」夏子「とにかくもうちょっと私にまかしとい光代「え ? 」 徹「美千子さんもミッちゃんだからな : てよ」 早苗「次郎さんだって、あんたを好きなのよ でもさ、両方とも同じミッちゃんだなんて、 ・ : あんたの顔ばかり見てたもん : : : おい 何だか : : : 」 しいわ : : : これ、一個八十円するのよ : 光代のアパート ( 夜 ) 夏子「単なる偶然よ」 光代と早苗がケーキの函をあける。 ウッ : : : ウ : ・ : ・ ( のどにつかえる ) 」 次郎「ね、兄貴にはいつ紹介する ? 」 早苗「お金もらって、御馳走になって、こん光代「どうしたの ? 馬鹿ね : : : 」 徹「あれだったら、悠一さん、一ペんで なお土産までもらって : : : ファッションモ 早苗の背中を叩いてやる。 ー 108 ー
子さんとは何の関係もないのよ」 徹「日曜なんだぜ」 夏子「受験生に日曜なんかないわ」 加藤家・庭 悠一が草をむしったり掃いたりしている。 映画館・従業員控室 表の方からフラッと次郎が来る 光代と同僚の早苗がラーメンを食べてい夏子「次郎君も今日は自分の家へお帰んなさ る。 次郎「兄さん、映画見に行かない ? 早苗「今夜、お花見に行かない ? 」 次郎「ヘッー 悠一「映画 ? 光代「はねてからじゃ遅くなっちゃうわ」 夏子「お兄さんにそう言われたのよ。あんた次郎「行こうよ : : : 兄さんに見せたいものが 早苗「じゃあ、明日 : : : 早番だから : ・ をうちへ泊めないでくれって : : : だから、 あるんだ」 光代「まだ桜の花、少し早いんじゃない ? 」 さあ、一一人ともお帰んなさい」 悠一「どんな映画だい ? 」 早苗「七分咲きがいいのよ」 徹「姉さんはどうするの ? 」 次郎「映画じゃないよ」 光代「満開の方がいいわー 夏子「せつかく出て来たんだから、ぶらぶら悠一「え ? 」 早苗「花なんかどうだっていいのよ」 して帰るわ」 次郎「いや : : : 映画を見に行くんだけど : 光代「何を見に行くの ? 」 次郎「じゃあ俺たちも : : : 」 そこの・ : ・ : 」 早苗「ポーイハント」 徹「もうちょっとぶらぶら : : : 」 悠一「今日はうちでゆっくりしようよ : せつかくお前が帰って来たんだ」 光代「キョロキョロしてたら、酔っぱらいに夏子「駄目」 からまれるわよ」 徹「帰ろ帰ろ」 次郎「でも : 早苗「あんたって、どうしてそう私の言うこ 次郎はちらと入場券売場の方を見ながら、悠一「お母さんももうすぐ帰って来るよ」 とにいちいちさから、つの ? 」 徹と一緒に立ち去る 次郎「どこへ行ったの ? 」 光代「いちいち賛成してたら、お金とひまと 夏子、笑いながら見送って、ぶらぶら歩悠一「その辺まで買物に行ったよ」 き出す。 身体と : : いくつあっても足りないもん」 次郎「・ : 早苗「意地悪婆さん」 ふっと入場券売場の方を振り返る 悠一「お前、アルバイトなんかやめて、予備 ・ : この味噌ラー夏子「 校へ行ったらどうだ ? 」 光代「ああ、おいしかった : メンたつぶりあるわね」 光代の顔が見える。 次郎「行く必要がないよー 人 恋 引きつけられるように近づく。 悠一「もう一年頑張ってみたらどうだ ? の 人 映画館の表 入場券を売っている光代ーーー 次郎「無駄だよ」 3 次郎と夏子と徹 悠一「もう一年頑張って、それでも駄目だっ 夏子「・ : たら : : : 働くのはそれからでいいじゃない 茫然と見つめる。 夏子「徹はうちへ帰って勉強 : : : 」 いね」 ー 105 ー
入場券の飛んで行った方を見る。 わ。ようやくこの頃忘れかけて、誰かほか なとこまで引っぱり出して : : : 」 後から来た女の客が金を出す。 の人と結婚しようかって気持になってるの徹「エイプリル・フールはまだ明日 : : : 明 客「二枚頂戴、 後日だな」 次郎、ようやく足元を見回して、落ちて次郎「あの子と結婚すればいいじゃないか」夏子「やつばり私たちをかついだのね」 いる入場券を拾う。 夏子「馬鹿ね : : : どんな人だかわかりもしな次郎「ちがうったら : : : 変だなあ」 また光代の方を振り返る。 夏子「帰ろ」 次の客に入場券を売っている光代。 次郎「人場券を売ってるんだから、頭の悪い次郎「ちょっと待ってよ : : : 今日は休んだの 次郎、のろのろと入口の方へ行く。 子じゃないよ : : : 金を扱ってるんだから信かなあ」 用されてるんだと思うんだ」 夏子「こういうとこの人はね、日曜日は忙し 夏子のアバート ( 夜 ) 徹「恋人がいるかも知れないな」 いから、ウィークデーに休むの」 次郎と夏子と徹 次郎「いないかも知れないさ : : いたってか次郎「ふーん : : : じゃあ、きっとこの中にい 次郎「美千ちゃんにそっくり・ : ・ : 俺、夢見て まわないよ : : : とにかく一度見てごらんよ るよ : : : 俺、聞いてみる」 るんかなと思ったり・ : ・ : それとも幽霊かな ・ : 兄貴に見せる前に三人で行ってみよう徹「え ? 」 と思って、ぞっとしたんだから : : : 」 次郎「あの、入口にいる女の子に : : : 」 徹「ヘッ」 徹「映画見るんじゃないんだから、金はい夏子「馬鹿ね、およしなさい」 夏子「神様はこの世の中に三人までは同じ顔らないんだな・ : ・ : じゃあ行こうよ」 次郎「だって : ・ をお造りになるそうだから、そういう人が 徹「何て聞くの ? 」 いても不思議じゃないわね」 映画館の表 次郎「入場券を売る人がもう一人いるでしょ 徹「じゃあ、僕と同じ顔の収が地球上にも 次郎と夏子と徹が来る。 う一一人いるの ? 」 入場券売場の方を見る。 夏子「その人に会わして下さいって ? 」 夏子「そうね、アフリカあたりにいるんじゃ次郎「あれ : 次郎「うん : : : 」 光代の顔は見えす、別の出札係が入場券夏子「どんな用だって云われたら、何て答え 徹「ヘッ」 を売っている るの ? 向うの名前もわからないのに、そ 次郎「兄貴にも見せてやんなきや : : : びつく徹「あれが美千ちゃんに似てるの ? 」 んなこと言ったって、不良だと思われるだ りするだろ、つなあ」 次郎「いや : ・・ : ちがうよ」 けよ」 夏子「兄さんに見せたってしようがないじゃ夏子「何よ、あんた : : : せつかくの日曜日に徹「まあ、そんなとこだな」 ない。却って美千子さんを思い出すだけだ のんびりしようと思ったら、わざわざこん夏子「もともと他人の空似でしよう : : : 美千 104 ー
光代「私、あなたや青木さんたちの気持もよ光代「皆さんがどんなに悠一さんと私のことマダム「映画の題名にそんなのがあったん くわかるし : : : 正直のところ、はじめのう をそんな風に考えて下さっても : : : 私の気じゃない ? 」 ちは美千子さんの代りに、悠一さんを慰め持を動かすことは出来ないのよ」 良平「あれは、わが青春に悔なし」 てあげられたら : : : と思ったのよ : : : でも、次郎「 : ・ 夏子「葉桜や : : : 」 そのうちにだんだん : : : 」 光代「そんなこと出来やしないわよ : バ 1 テン「わが青春に悔多し : 次郎「美千ちゃんが : : : 美千子さんが今でも次郎「 : ・ 良平「え ? 君なんか悔なしだろう ( チラと 兄貴の心の中にいると言うのは : : : それ 噴水ーー マダムを見る ) 」 は君の思い過ごしだよ : : : そんなことは 1 テン「いやあ : ・ 酒場 ( 夜 ) マダム「この人、全学連なのよ」 光代「ううん : : : それだけじゃないの : 良平と夏子が飲んでいる 夏子「あら、そ、つ・ : ・ : 」 私がほんとうに悠一さんを好きになれた カウンターの中にマダムとバーテンがい マダム「この前の、アンポハンタイの時の る。 ら、美千子さんのことだって気にならない : なるほどねえ : 良平「そうか : と思うの : : : 見たこともない美千子さんの夏子「もう一つ、これ」 ことが気になるのは、私がどうしても悠一 ーテン「はい」 夏子「私 : : : やつばり : : : も、つしばらく見送 さんを好きになれないってことだと思うのマダム「どうなすったの ? 今夜は : : : 」 るわ」 良平「どうも少し荒れ気味なんだよ」 良平「え ? 次郎「そんな馬鹿な : : : 」 マダム「季候のせいね : : : 葉桜の頃ってみん夏子「結婚」 光代「どうして馬鹿なの ? 」 なそうなのよ」 マダム「え ? 」 次郎「兄貴は : : : 今はもう君に夢中だし : 良平「葉桜か : 夏子「ほんとに好きな人がみつかるまで そのうちに結婚の申し込みをするだろうし ーテン「はい」 ・ : 僕たちだって、おふくろだって、みん とグラスを出す。 良平「・ : マダム「そりゃあそう : : : どうせ結婚するん なそれを喜んでるんだよ」 夏子「どうも : : ほんとに喜んでるの ? だったら・ : ・ : わが結婚に悔なし : : : でなく 光代「あなたも : ・ 良平「葉桜や : : : わが青春に悔多し」 人 ちゃねん 恋次郎「え ? : : : 喜んでるさ」 マダム「なあに ? それ : : : 」 人光代「嘘ー 良平「俳句だよ : : : 僕は一生にたった一つ、 俳句を作ったことがあるんだ : : : 葉桜やわ 6 ロ 次郎「え ? 」 7 カ藤家・居間 ( 夜 ) 噴水ーー が青春に悔多し」 悠一と民子 しいですね」 ー 1 15 ー