雛子 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年9月号
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1. シナリオ 2016年9月号

実道、メニューを見る 赤い 2 シーターの車が駐まっている 婚して下さい」 黒沢「で、海野はどうすんだ ? 」 やってきた海野と雛子。 海野「僕は芸人続けたいんですけど : : : 」 海野、助手席側の鍵を開け、雛子を待つが、海野「あ、いや、あの、そういう意味じゃな 店員を呼ぶ実道。 くて、違、つんだけど : ・・ : 」 黒沢「ピンでやるのか ? 」 と、車を観察する。 雛子「どんな意味が ? 他に」 海野「・ : いやあ、まだ何も考えてないんで海野「ポロくてごめんね」 海野「え ? あの : ・ : ・結婚を前提にお付き合 すけど」 雛子「赤くて、可愛い」 い、して下さい」 黒沢「だったら : : : 」 と、助手席に座る と、頭を下げる。 店員「 ( 顔を出し ) お待たせしました」 海野「 ( ドアを閉め ) 初めて貰ったの 雛子の目の前には海野の頭頂部。 実道「激辛口シアン餃子三つ」 ギャラで買ったから愛着があって : ・ 雛子、海野のつむじを押す。 黒沢「何だ、そりや ? 」 と、運転席に乗り込む。 海野「 ( 顔を上げ ) ? 」 実道「適当に頼んでんですけど」 雛子「大事、そういうの」 雛子「 : : : 海野さんに私、言わなきゃいけな 黒沢「 ( 呆れて ) お前なあ」 海野「 ( 嬉しそうに ) うん」 い事、ある」 店員「どうします ? エンジンをかけよ、つとして、雛子の横顔海野「 ? : : : 何 ? 黒沢「 : : : 頼みます」 を盗み見る 雛子「私には : : : 兄がいます」 店員「復唱します。激辛口シアン餃子三つで海野「 ( 手が止まり ) : : : あの ( 言いよどむ ) ー海野「うん」 よろしいですか ? 」 雛子「 ? 」 雛子「その兄は : : : 」 実道「全部同じ皿に盛ってきて」 海野「雛子ちゃんって彼氏とかいるの ? 」 海野「え」 店員「かしこまりました」 雛子「 : : : 唐突ー 雛子「 ( 驚き ) ? 店員が去った後、 海野「ごめん。あの、僕が誘ったらよく付き海野「もしかして : ・ : ・ ( 交互に指差し ) 腹違 黒沢「 : : : お前ら、組め」 合ってくれるけど、そ、ついう人とか好きな いの兄妹とか ? 」 海野「え ? 人とかいるのかなって。まだ聞いてなかっ 思わず吹き出し、笑い出す雛子。 実道、ようやく海野を睨むように見た。 たし」 海野「あー、吃驚した」 黒沢「お前らが組んだら跳べるぞ」 雛子「・ : : いたら、一緒にいない」 雛子の笑いが止まらない。 海野も実道を見た 海野「あ」 海野「ごめん。大丈夫 ? と、照れるも、次第に緊張してきて、 漸く笑いが治まる雛子。 朽広い駐車場ー数日前 海野「 : : : あの実は : : : あの : : : 僕と : : : 結雛子「 ( 自分を示し ) 黒沢雛子」 -6

2. シナリオ 2016年9月号

黒沢「照明さーん」 すると突然助手席のドアを開ける雛子。 海野「 ( 黒沢に深々と頭を下げ ) ありがとう 再び暗くなり、蛍光色の小指状の物が現ございました」 海野「あ ! 」 れた。 しかしその声は聞こえない 下半身を覆っていた上着を押さえる海野 黒沢の声「幸せ度マイナス 100 」 その前を素通りする一一人。 雛子「私、海野さんと、コンピ組む」 海野と雛子はすうっといなくなる。 実道の声「言い過ぎでしよ」 海野「え ? 険しい顔で歩きながら、 黒沢の声「ちょっと跳んでみますか ? 」 雛子「エミアビアイってコンビ名 モノ ( 小 ) が上下動する 実道「黒沢さん、まさか満足してないですよ海野「エミアビ、愛 ? 」 ね ? 黒沢の声「もっと高く ! 」 雛子「 ( 首を振り ) 笑み、浴び合い 更に上下動が激しくなり、 黒沢「する訳ねえだろ」 海野「笑み、浴び合い 実道、ニャリと笑い 黒沢の声「本気出して跳んで ! 」 雛子「それで、エミアビアイは、死んでも解 異常に高く上がるソレ 実道「ダメ出しすげえありますよ」 散しないんだ」 雛子に見つめられ、雛子の台詞が海野の 黒沢「お前もな」 一一人が控室に入ると、笑みを浮かべ夏海 体に滲透する。 同・客席 つい笑ってしま、つ雛子。 は去る。 海野「それって : : : 」 雛子「馬鹿 : : : 男って、ほんと馬鹿」 雛子、黙って上半身を車内に入れる 海野も雛子に近付こうとするが、シート 舞台上では黒沢もソレを出し、ウッポ状時間営業の衣料品店・駐車場ー回 ベルトに邪魔されて、 のと小指状のが競演している。 隣で嬉しそうな海野。 窓を開け放した車内、助手席で海野が海野「あ ! 」 待っている。 雛子、ぐっと身を入れると、海野にキス をした。 ビニル袋を持って店から出てくる雛子。 同・袖ー通路 万雷の拍手を浴びて、下りてくる実道と雛子「はい」 震える唇を離すと、一一人はぎこちなく微 黒沢。 海野「ありがとう」 笑みを浮かべ合った。 拍手で迎えている夏海。 と、ビニル袋から着替えを取り出し、雛 子の方を見る。 夏海「お疲れ様でした」 実道・黒沢「お疲れ」 海野「あの : : : 」 通路では、、 しつの間にか海野と雛子が しかし雛子は動かない。 待っている 海野「雛子ちゃん ? 」 終わり JASRAC 出 1608716-601

3. シナリオ 2016年9月号

雛子「 2007 年、地下鉄劇場」 海野「僕らどうだった ? 」 海野「うん。あのネタ、あの時しかやらなかっ雛子「柔道ラッパは変な間で癒された。しか海野「ええ。宮路が俳優 : た」 し漫才ではなかった」 店員「 ( 現れ ) お飲み物、如何致しますか ? ー 雛子「 ( 急に立ち上がり ) かしこまりました」海野「また出た。辛口雛子」 海野「えーと、緑茶ハイと : : : 黒沢さんは ? 」 雛子「ライオニングは、実道さんと相方の渡黒沢「同じの」 海野「 ( 笑いながら ) お前は座れ」 コロコロと笑いながら座る雛子。 辺さんの息が合ってなかった、全くと言っ店員「緑茶ハイとバーポンロックでよろしい ですね ? 」 海野「あの時、どうだった ? て良い程」 雛子「 ( 素になり ) : : : 許せた」 海野「 ( おかしそうに ) だってあの後、実道海野「はい と渡辺が大喧嘩しちゃって、その場で解散 黒沢が煙草を吸おうとすると、海野が火 海野「辛口 5 。超上から目線だし」 を差し出す。 雛子「あのネタ、もう一回見たい」 したんだから」 ノスタルジーに浸る一一人。 雛子「私も、海野さんと実道さんが組んだら、黒沢「いいよ。そういうの」 海野「最初、僕、実道じゃない奴とコンピ組面白いだろうと思った、あの時」 海野「すみません」 自分で火をつけて、 んでたんだよね」 海野「 : : : も ? 黒沢「宮路、役者目指すんだ ? 」 雛子「 ( 指差し ) 柔道ラッパ」 雛子「え ? 」 海野「みたいです」 海野「それも知ってるんだ ? 海野「今、私も、って」 雛子「ライオニング」 雛子「 : : : 言ってないー 黒沢「まあ、傍から見てても、お前らは無理 あったからな」 海野「 ( 目を丸くし ) 実道のコンビ」 海野「そう ? 頭を下げる海野。 雛子「 2006 年、泪橋文化センター」 雛子「うん。言ってない。どんな耳してん 店員「お待たせしました」 海野「えー、まさかあれも見た ? 」 ま 頷く雛子。 と、飲み物を持ってくる。 海野「 ( 脚を上げ ) こんな耳」 じ 店員「バーポンロックと緑茶ハイになりますー は海野「すげえ ! 柔道ラッパとライオニング、雛子「それ脚だし」 同じイタに立ったの、あれだけだよ。あん 黒沢「じゃ、とりあえず。お疲れさん」 ま じ ー八年前 海野・実道「お疲れ様です」 なとこまで行ってたの ? あれ超レアだ 居酒屋・個室 の 乾杯する三人。 やってきた海野 ( ) が、実道 ( ) の ア 黒沢「少しなら食えんだろ ? 」 雛子「 ( 自分を親指で示し ) 中学生」 隣、黒沢 ( ) の向かいに座る 工 海野「はい」 海野「当時は誰の追っかけだったの ? 海野「お疲れ様でした」 黒沢「お疲れ。柔道ラッパ、 解散すんだっ黒沢「 ( 実道に ) 適当に頼んどけ」 ・ 6

4. シナリオ 2016年9月号

海野「うん」 車内の二人。 海野「何ですか ? ー 雛子「兄、黒沢拓馬」 海野「黒沢さん元気でやってんですか ? 」 バット男「集金」 海野「 : : : 黒沢、拓馬 ? 」 雛子「エミアビも、チェックされてる」 海野「集金って何のですか ? 」 雛子「コロンバスの黒沢」 海野「うわ、怖。黒沢さん、超厳しいんです するとバット男がいきなりドアを蹴る 海野「コロン : : : 黒沢さん」 よね。けど会いたいな」 悲鳴をあげる雛子。 頷く雛子。 雛子「 ( 自分が ) 妹でも、会いたい ? 」 バット男「集金は集金だろ」 海野「 ( 指差し ) 妹 ? 」 海野「えー、雛子ちゃんが妹でも問題ない海野「 ( 雛子に ) 大丈夫」 雛子、頷く じゃない。逆に感動。興奮してる。すごい携帯男「あれ ? こいつ、お笑いの奴じゃ 海野「嘘ー」 暫し呆然としていた海野だったが、 その時、いかつい車がゆっくりやってき バット男「は ? ・ ・ : お前、お笑いか ? 」 海野「 : : : すごいじゃん」 て、一一人が乗った車の前を塞ぐように停海野「い いえ。違います」 まった。 携帯男「で見たせ、俺。漫才グランプリ 海野「すごいよ ! 僕、黒沢さん、めっちゃ雛子「 ( 気づき ) ? 出てた。こいつらクソつまんねえんだよ。一 尊敬してんですよ」 海野もそちらに視線を送る ピリだった」 いかつい車から一一人の男が降りる バット男「ちょっとお前出てこい」 海野「マジですか ? 雛子ちゃん、妹さん ? 一人はバットを持っている 海野「いや、勘弁して下さい」 すげー ! 超すげえ」 もう一人が前方に回り、海野の車のナン バット男「いいから出ろつつってんだよ ! 」 とバットでドアを殴る ーを携帯で撮る 祐居酒屋・個室 八年前 バット男は運転席の窓をノック。 雛子、頭を抱えて悲鳴。 ま ロシアン餃子を同時に頬張る黒沢たち。海野「 ( 雛子に ) 大丈夫」 海野「出ます出ます ! 」 じ 誰も当たらない。 バット男「もしもーし」 雛子「駄目」 と 再び箸を伸ばし、やはり同時に食べる 海野は開けようとしない 海野「大丈夫。任せて」 ま するとバット男はドアノブをガチャガ 雛子を見つめ、 実道・海野「 : : : 」 の 激辛に当たったのは黒沢。 チャさせ、バットの先で強くノックして海野「雛子ちゃん、ロック押さえて」 ア くる 爆笑する実道と海野。 雛子、助手席のロックを押さえる。 工 バット男「開ーけーろーよ」 海野「大丈夫」 広い駐車場ー数日前 海野、仕方なく窓を少し開ける。 車から出ると、素早く口ックする海野。 -6

5. シナリオ 2016年9月号

野は絶望的な表情になり、落下した。 ハンダメイクを落とした二人は酔ってい実道「雛子さんの為って言うけどな、その時、 る。 海野がそいつらを笑わせなかったら、雛子 無様な着地と共に尻を押さえる海野。 さんは死なずに済んだんじゃないのか ? 」 雛子「海野さん」 実道「そんな話ある訳ねえだろ。どうやった ら屁で空跳べんだよ ? 」 夏海「何でですか ? 」 海野「 : : : も、洩れちゃった」 一瞬の静寂。 夏海「実道さんは跳べないでしようね」 実道「だってそうだろ ? そいつらにさらわ れてたら、海野の車に乗らずに済んだんだ そして大爆笑の三人組 実道「何だ、その言い方」 ーを持ち、入ってきた黒沢。 から」 携帯男「クソかよ ! 」 と、雛子を解放し、 夏海「でも死ぬより嫌な目に遭ったでしよう 黒沢「 ( こちらも酔い ) 俺は信じる」 ーヾーを開ける。 座ると新しいノノ ね」 携帯男「パイセン、今は笑ってたぞ」 バット男「しょーがねーだろ」 実道「何言ってんですか ? 屁で空跳ぶなん実道「それもわかんねえよ」 と、海野の財布を返し、 て、今時、映画でも笑われますよ」 黒沢「雛子がレイプされてた方がましだっ 黒沢「だから海野はやったんだろ ? 」 たって言いたいのか ? 」 バット男「これでパンツでも買え」 実道を睨む黒沢。 車に乗り込む。 夏海のグラスに酒を注ぐ黒沢。 運転男、雛子に頭を下げ、運転席に乗る。黒沢「それしかそいつを笑わせる方法が無実道「違います。そんな事言ってません。た かったからやったんだろ ? 」 だそいつらも本気でさらう気なんてなかっ 三人組を乗せていかつい車は去っていっ 真剣な表情の一一人を見て、吹き出す実道。たかもしれないし、少し離れた所で降ろし 雛子「海野さん」 実道「いやいや、おかしいですから。前提条 てた可能性もある訳じゃないですかそれ 件がおかしいから。人間はいくら屁したっ かすぐ警察に捕まって助かるとか、もしそ 蹲ったままの海野に近寄る雛子。 うだったら今頃 : ・・ : 」 海野「来ちゃ駄目ー て跳べないですから。そんな跳ぶ程の屁し 雛子、足を止める たら肛門が破れますよ」 夏海「誰にもわかりませんよ」 黒沢、実道から目を逸らし、酒を呷る 夏海「だから破れて漏れちゃったんじゃない 海野「僕、臭いから」 実道「海野がそいつらを笑わせたから雛子さ それでも雛子、海野に近寄り、 ですか」 んが死んだんだとしたら、あいつは余計な 海野「・ : ・ : 雛子ちゃん」 実道「お前、何言ってんの ? 屁で空跳ぶと か小学生が考えるようなくだらない話をよ事した訳だよ」 く思いついたな」 夏海「私はそうは思いません」 絽黒沢家・雛子の部屋ー夜ー 微妙な空気が漂い、 実道「何だそれ ? 」 夏海「実道さんが信じなくても海野さんは跳 んだんです。雛子さんの為に」 実道「 : : : お笑いって何なんですかね : ・ 座卓に座っている実道と夏海

6. シナリオ 2016年9月号

海野の声「ひとり飲む酒 ) 」 海野「ひとり飲む酒わびしくて ) 映るグラス 口をとがらせ、いじいじする。 マイクを持った海野が店に戻ってきた。 は過去の色 ) あなた恋しい黄昏の ) 横浜ホ 雛子、海野に近付き、ハグする。 海野「悲しくて ) 映るグラスはプルースの色ンキートンクプルース ) あなた恋しい黄昏海野「」 の ) 横浜ホンキートンクプルース ) 」 雛子「とても、良かった」 そしてギターマンとべースマンがアウト 「横浜ホンキートンクプルース』を歌う 海野、ドギマギで雛子の頬にキスしよう 海野を見ている雛子。 口を弾き、曲が終わった。 とするも寸前で、雛子は離れ、席につい てしま、つ 海野「例えばトム・ウェイツなんて聞きたい 雛子、涙を流していたが、客と店員の拍 夜は ) 横浜ホンキートンクプルース ) ヘミ 手に気付き、急いで拍手をする 海野「 ( 悔しそうに ) △◇ x 〇@」 ングウェイなんかにかぶれちゃってさ ) フ 二人のプルースマンとがっちり握手 & ハ ローズンダイキリなんかに酔いしれてた ) グする海野 地下鉄劇場ー八年前 漫才をしている若かりしエミアビ あんた知らないそんな女 ) 横浜ホンキート海野「どうもありがとう ) 」ざいます」 ンクプルース ) 」 ギターマンもニャリと親指を突き出す。海野「来週、人生初めてのデートなんだ。だ 雛子の姿も目に入らない程、熱唱する海 チップを渡すと、ギターマンは涙を拭っ からちょっとだけ予行練習させて」 野。 た雛子に近付く。 実道「わかった」 二人で漫才コントを始める。 海野「飯を食うならオリジナルジョーズなん雛子「 ( 立ち ) 素晴らしかった、でした」 て ) 聞いた風な事ぬかしてた ) 真っ黒い髪 鷹揚に頷き、雛子にハグするギターマン。 店に入ってきた風で、 の雛子って女さ ) 懐かしホンキートンクマ そして雛子の頬にキスするのを見て、 海野「予約してた海野です」 ン ) あなたの影を捜し求めて ) 一人さす海野「あー」 実道「 ( 腰を曲げ ) はいやー、よか店だべ らったこの街角 ) 本牧辺りの昔の話さ ) 嫉妬するがべースマンにハグされていて、 なー」 ま横浜ホンキートンク ) 革ジャン羽 海野は身動きできない 海野「誰、それ ? 」 は織ってホロホロトロトロ ) バーポン片手に べースマンも何事も無いようにハグ & キ実道「お前のデート相手」 千鳥足 ) ニューグランドホテルの灯りがに スを雛子にし、海野、呆れる。 海野「 ( 首を振り ) ルミちゃん、そんなお婆 ま じ じむ ) センチメンタルホンキートンクメ 去っていく二人の背中を恨めし気に見、 ちゃんじゃない」 の ン」 海野「 : : : チップ弾むんじゃなかった」 実道「 ( 自分を指差し ) ルミちゃん ? 俺、 ビ ア 凝視している雛子。 雛子「海野さんも。感動した」 ルミって言、つの ? 」 工 没入の海野 海野「 ( 聞こえてない ) : : : 僕ですらキスし海野「そう。短大生」 ギターマンとべースマンもスイング。 た事無いのに」 実道「トラックの運転手 ?

7. シナリオ 2016年9月号

携帯男「やつばそいつお笑いだよ。この前、 だよ」 携帯男「こっちの方が早くね ? 」 夜中、くだらねえ事やってた。ラーメンばっ携帯男「 ( 助手席側に来て ) 彼女、降りて来 と、助手席のドアを開けると、雛子は転 か食ってんの」 ないとあいっ死ぬぞ」 がり落ちる いかつい車の運転席から三人目の男も降 雛子、携帯を握りしめている 携帯男「はい、立って立って」 りてきた。 携帯男「 ( 笑いながら ) かけてみろよ。 110 と雛子を羽交い絞めにする。 バット男「お前、嘘ついたの ? 番してみ」 叫ばうとする雛子のロを、駆けてきた 海野「いや : : : あんまりそういうの自分から 蛇に睨まれた蛙のように動けないでいる バット男が塞ぐ。 言うの好きじゃないんで」 雛子。 携帯男「 ( 雛子の乳を掴み ) 乳デケー ! 」 バット男「好きじゃなかったら嘘ついて良い と、いきなり運転席側の窓ガラスをバッ と、バット男と一一人で雛子を車に連れ込 む。 トで叩き割るバット男。 海野「いや : : : 本当すみません」 雛子「 ( 携帯を離し ) 」 携帯男「おい、早く乗れ ! 」 携帯男「 ( 雛子を見 ) 女、可愛いじゃん」 バット男が割れた窓から手を差し入れ、 運転男が車に戻ろうとした時、 バット男「俺ら傷ついたから慰謝料寄こせ」 ロックを解除する。 海野「放せ ! 」 海野、悩んだ末に財布を出すと、財布ご 海野がその首を後ろから絞める その腰にしがみついた と奪われてしまう。 携帯男「このガキ ! 」 運転男は戸惑っている 海野「お金だけで勘弁して下さい」 運転男が海野を引き剥がそうと胴に腕を バット男「あの野郎」 回し、引っ張る バット男「やかましい と、戻ってくる と、中身を見、 携帯男も駆け寄り、海野の髪を引っ張る。雛子「海 : : : ! 」 カ及ばず、引き離される海野 バット男「はあ ? ( 札を抜き ) 一人二万にも 携帯男に口を塞がれ、一一人はもみ合う。 ならねえじゃんー バット男「 ( 喉を押さえ ) てめえ ! 」 バット男、バットを構、んる 海野「すみません」 と、海野の顔と腹を殴る 運転男「頭はマジやばいっすよ ! 」 うずくまる海野 携帯男「女さらおうぜ」 バット男「うるせえ ! 」 海野「彼女は関係無いですからー 雛子「海野さん ! 」 バット男は海野の胴を殴る バット男「うるせえ ! 」 それでも海野はしぶとく運転男から離れ バット男が車に戻ってきて、運転席を開 と、海野の腹をバットの先で突く け、身を入れてくる 海野、腹を押さえ、くの字になる。 バット男「来い、こら ! 」 海野「お願いです。雛子ちゃんだけはお願い です。僕は何でもいいです。彼女はお願い バット男「関係あるかどうかは俺らが決めん と、暴れる雛子の足首を掴む 8 -6

8. シナリオ 2016年9月号

実道「マジですか ? ー チャックを下ろす音が聞こえたと思うと、 隣に現れる海野 黒沢「ちょっと読み合わせしてみましよう 蛍光色に光るウッポ状の物が現れた。 海野「どう ? 実道の声「えー」 しかし雛子の耳には届いていないよう。 実道「良いんですか ? 舞台上で見えるのはソレのみ。 海野「 ? : : : 雛子ちゃん ? 少し台本を読んだ後、袖から出てきた風黒沢の声「どうです、コレ」 雛子「下ネタとは」 で、 実道の声「ソレってアレでしょ ? 」 海野「え ? 」 黒沢「どうもー、私、ロジオン・ロマーヌチ黒沢の声「ええ。ビッグマーラ一日一 顎で舞台を示し、 イ・ラスコーリニコフです」 粒で、アレがコレになりました」 雛子「あれだけ下ネタ、嫌っていて : : : 最低 実道「僕はレフ・ニコラエヴィチ・ムイシュ実道の声「マジですか ? 」 だ。復活ステージで、このネタとは : : : 」 キンでーす」 黒沢の声「しかも回せます」 海野「雛子ちゃん、もしかして今までも、そ 実道・黒沢「二人合わせてカラマーゾフの兄 蛍光色のソレが回転する んな顔して僕らのライプ見てたの ? 弟ですー 黒沢の声「扇風機ー 雛子「・ : ・ : どんな顔 ? 」 実道「つてこれ駄目。舌噛んじゃう」 実道の声「やめろって。しまって。早くー 雛子の顔真似をし、 黒沢「ドストエフスキー駄目ですか ? 」 チャックの音が聞こえ、客電がつくとべ海野「こんな顔ー 実道「俺の幸せ、遠いなー」 ルトを填めている途中の黒沢。 雛子「そんな顔、してない」 黒沢「では最後に、これは如何でしよう ? 実道「何やってんの、あんた ? 海野「いやいや、してたよ。リラックスして」 と、薬瓶を取り出した。 黒沢「ビッグマーラ一日一粒で、私、今、 海野、雛子の顔を揉む 黒沢「弊社が開発したピッグマーラ とても幸せでございます」 客席には泰朗や運転男が座っていた。 一日一粒飲むだけでアレがおーきくなりま実道「本当に幸せ ? 邪魔じゃないの ? 大雛子「 ( 気付き ) あ」 ま すー 体、普段どこにあんの ? 今は ? 」 爆笑している泰朗と運転男 じ は実道「アレ ? 」 黒沢「 ( ズボンからシャツへと手を移動 ) こ 海野と雛子、顔を見合わせ、微笑み合う。 黒沢「一度、現物を ) 」覧になりますか ( 突然 ) ま じ 照明さーん ! 」 実道「上ズボンの中じゃないの卩 引同・ステージ の すると舞台が暗転した。 実道が黒沢にズボンを脱がされそうに ア ベルトを外す音が聞こえ、 なっている 同・客席 工 実道の声「ちょっと、何してんの舞台上 雛子が腕を組み、厳しい表情で舞台を凝黒沢「実道様の幸せ度を把握させて下さい」 だよ」 視している 実道「わかったわかった。自分で脱ぐ」 7 ー

9. シナリオ 2016年9月号

黒沢、小銭や乾き物を投げつける。 実道「 : : : あれ ? 海野は ? あれもドッキ 動けない実道。 え ? 妹さんも ? 雛子さんは ? 船上レストランー数日前 それもドッキ 実道「 ( 涙が出て ) : : : 駄目です。海野がい 死んでないの ? ん 流れる夜景の中、窓際のテープルに座っ ないと俺は駄目なんです」 ている海野と雛子 ( ) 。 黒沢「早く笑わせろ」 夏海「 ( 沈鬱な顔で ) ドッキリな訳ないじゃ 雛子、周囲を見回している 号泣し始める実道。 ないですか」 雛子「 : : : 私 : : : ここにいて、良いのかな ? 実道「 ( 首を振りながら ) 海野 ! 海野 ! 」 黒沢、階段の上で鳴咽している。 海野「え、なんで ? 」 その時、チャイム。 実道「え ? 」 雛子「皆さん : : : 流石、こだわりのお洒落」 実道「あれ ! マネージャーです ! マネー夏海「ドッキリな訳ないじゃないですか」 カウンターには蝶ネクタイを結んだ黒尽 ジャー ! 呆然と夏海を見上げる実道。 くめの二人組。 黒沢「うるせえ ! やれ ! 」 黒沢の泣き声だけが聞こえる テープルで食事中の客も気取っている 実道「出来ません ! 」 海野「雛子ちゃんもお洒落だよ」 その時、玄関から入ってきたのは夏海。 緑の公園ー八年前 海野を見る雛子。 実道「夏海 ! 」 自転車に乗って走る実道 ( 幻 ) と海野海野「 ( 眼力に負け ) ・ いや、僕はその、 しかし夏海もパンダメイクで、手にはプ 良いと思います」 ラカードを持っている 実道「コンビ名どうする ? 雛子の視線が蝶ネクタイの一一人組に移る。 実道「 ? 」 海野「 : : : 僕、ずっと思ってんのが一つあん 海野も一一人を意識し、急にそわそわし、 プラカ 1 ドには『ドッキリ ! 』の文字が だけ・ど」 海野「 ( 挙動不審で ) あの、ちょっとトイレ」 実道「 : ・ 実道「何 ? 立ち上がり、出て行った。 夏海「大成功 , 海野「・ : : エミアビっての」 二人組が、おもむろに飾ってあったギ 実道「・ : ・ : トッキリ ? ・ : : ・ ドッキリなの ? 」実道「エミアピ ? 意味あんの ? 」 ターとウッドベースを手にする。 黒沢、思わず吹き出す。 海野「うん : : : 笑みを浴びるって言うさ。笑 そしてギターの男がカウンターに帽子を 嘘だろー 実道「ドッキリなのー ? みってほら、微笑みみたいな。笑いを浴び 置いたのを合図で、唐突にべースの男が カメラあんの ? るっていう、まあ、そんな意味で」 弾き始めた。 笑いが止まらない黒沢 暫く走っていたが、急停車する実道。 店内の照明が暗くなり、 実道「えー ! お前、ふざけんなよ ! えー ! 」 慌てて海野も停まる 涙が出るほど笑えてくる黒沢。 実道「いいじゃん。エミアビ いじゃん」 ギターマンも爪弾き出すと、 雛子「 ? 」

10. シナリオ 2016年9月号

れる実道。 れないですけど、雛子さんは笑ってると思 のを見て、黒沢は本気の一発を実道の顔 顔を上げると、いつの間にかパンダメイ います」 目がけて投げた。 クで、 黒沢「笑ってねえ。号泣だよ」 実道「ひや ! 」 実道「 ( 外人口調で ) アナタハ幸セデスカ ? 実道「申し訳ないですけど、さっきからイ 転がるように避けた実道に、 黒沢「 ( 投げ ) 幸せじゃねえ ! 」 チャモンっけてるだけにしか聞こえないん黒沢「雛子はまだ笑ってねえ」 万策尽きて、正座し、 今度は豚の貯金箱を手にする黒沢。 ですよ」 実道「 ( 荒い息で ) もう本当無理ですー 実道、黒沢の瞳に狂気を見る。 黒沢「はイチャモン」 黒沢「甘えるな」 実道「ええ。黒沢さん、はなっから笑う気無 仁王立ちで、 いじゃないですか。雛子さんならとっくに黒沢「雛子を笑わせろ。それがお前の義務だ」実道「だって雛子さんじゃないじゃないです か ? 黒沢さんが笑わなきや駄目なんじゃ 実道「 笑ってますよ」 ないですか ? 黒沢「笑う訳ねえだろ。雛子は俺の妹だぞ」 棚の上、豚の貯金箱が並んでいる。 実道「それは黒沢さんがそう思ってるだけで、黒沢「雛子が笑ったって、俺がそう思うまで黒沢「やれ」 実道「出来ません ! 」 雛子さんはエミアビのファンでしたから絶お前は帰れねえんだよ」 黒沢「やれ ! 」 対笑ってます」 実道「 ( 恐怖 ) 」 と、投げつけると、 黒沢「それもお前がそう思ってるだけだろ ? 」黒沢「お前の渾身の芸を見せろ」 実道「ひ ! 」 再び貯金箱を投げつけた。 実道「 ( 溜息 ) 兎に角、もう雛子さんの供養 と、避け、廊下に飛び出した。 は果たしたと思いますんで。お疲れ様でし ビール瓶の先が口から出ているように手 階段へ逃げようとする実道に更に貯金箱 た」 を投げつける黒沢。 で押さえ、もう一本を尻に刺し、串刺し と、帰ろうとした時、再び黒沢が投げた ま に見、んるよ、つにし、 実道「 ( 避け ) ああ ! 」 グラスが壁に激突して派手に割れた。 じ 十 6 足を踏み外し、階段を転落していく実道。 実道、黒沢を唖然として見ると、黒沢は実道「串刺し」 と 貯金箱を投げ、 最後のグラスを持って、ゆっくりと立ち ま じ 十 6 9 同・階段 上がった。 黒沢「それが渾身か ! 」 上から顔を出す黒沢。 同じビール瓶二本を胸につけ、 ビ黒沢「まだだ」 ア 下で逆さまになっている実道。 と、グラスを投げるフェイントをする。実道「乳首茶色くなっちゃった 5 」 工 実道「 ( 半べそ ) : : : 痛い」 黒沢「下ネタか ! 」 実道「 ( 頭を庇い ) んふ ! 」 中腰で避けようとした実道が顔を上げた 黒沢が投げた貯金箱から逃げるように倒黒沢「死ぬ気でやれ ! 死ぬ気で笑わせろ ! 」 ・ 6