バイク - みる会図書館


検索対象: ハヤカワ ミステリマガジン 2015年11月号
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1. ハヤカワ ミステリマガジン 2015年11月号

た。画面表一小は十月一一十三日、七回目の犯行ります」 供を受けました」 の日だった。 「面白そうだな。おれも立ち合う」 背後に八幡が控えているのが、渡瀬には、い 「午前四時七分す」 強かった。 古崎が言った。道路側に向いているカメラ 会議後、捜査員たちが残る会議室を避け、「偶然の一致と済ませたくないと思い、今日 の映像だ。時刻を合わせると、所沢街道から署長室を借りた。 は捜査地域を埼玉方面に伸ばし、結果、お手 路地に入る一台の・ハイクが映っていた。ヘル応接セットのテープルを挟んで堀部、谷川もとの資料にある成果が得られました」 メットのタイプと柄は、玉城が所有する三種と向かい合った。署長が奥にある自身のデス渡瀬がさいたま市桜区田島で、古崎が東村 類のヘルメットのひとっと合致し、バイクもクに着き、渡瀬の背後には八幡が控えてい山市で得た玉城らしい男の画像をプリントア 玉城所有のバイクと同車種だった ウトし、コピーしたものだ。 社名は『リサイクル』。住所は東村山「改まってなんだ」 「精査は必要ですが、これが玉城なら、少な 市久米川五丁目だった。小平方面からの帰谷川が言った。 くとも五件目の八月十四日、七件目の十月二 途、新青梅街道から府中街道を北に迂回し、「捜査会議で持ち出すと、著しく士気を下十三日の午前三時半前後までは埼玉にいたこ 帰宅したとも解釈できるが、埼玉で見つけたげる話です」 とになります」 玉城の影を考えれば、埼玉方面から帰ってき二人の前に資料を置いた。堀部が無言で手渡瀬は、犯行後埼玉へ行き、午前四時から たことを補強する材料になり得た。 に取り、興味薄げにパラバラと中を見た。 午前五時頃までに自宅に戻ることは時間的に 「とりあえす今日は蔵田自動車販売の映像の「お前から士気の話が出るとはな」 困難か不可能であると説明した。 あらた 鑑定結果と、リサイクル社の動画を成果谷川も手に取り、中身を検めた。 「十月二十三日に関しては、さいたま市田島 としよう。埼玉の件は、原島の成果を見てか「著しく、ですので捜査への影響を考えましと東村山市久米川双方で姿が提えられてお らでいいだろう」 り、埼玉から明け方に帰ってきたと考える方 資料に目を落とす一一人の表情が渋くなってが自然だと思われます」 渡瀬は首を横に振った。「もう後手に回り いくのがわかった。 「確かに似ているな」 たくはありません」 「勝手に埼玉遠征か」 谷川が資料から目を上げた。困惑と猜疑が 「その意気込みは、 : 、、 しし力会議長引かせない 谷川は言った。堀部は疲労が蓄積している入り交じった視線だ でくれよ」 のか、資料をテ 1 プルに置き、目頭を揉ん「資料にある二台のバイクに関しては、埼玉 ヾ、」 0 八幡が小声で言った。 で発生している連続強盗致死傷事件で使用さ 「大丈夫です。少し思うところがあるので、 「埼玉県警管内で発生したバイク窃盗の資料れたことが、埼玉県警の捜査でわかっていま 会議終わりで直接堀部さんと谷川さんに当たに関しては、知り合いの報道局記者に情報提す。もし玉城が埼玉のバイク窃盗犯なら、こ いちじる 275 マイナス・ワン

2. ハヤカワ ミステリマガジン 2015年11月号

クロにするには決定打がない」 かな」 があり、 バイク窃盗がその一部なら、連続事 「でしたら、行確しつつ次の犯行を待ち、現原島はナプキンでロ許を拭いながら言っ件の密着取材映像に変貌するのだ。土方にし 行犯で押さえる ? ても悪い話ではない。土方と原島は、初対面 土方が首を小さく傾げる 「ひったくりに使われたバイクを全て割り出ながら阿吽の呼吸で落とし所をつくったの 「現実的にはそうなるな、今取りうる手段とし、そのパイクがいっ盗まれたのか確認し、だ「バイク窃盗犯がわかれば、本件の容疑 しては」 その結果を東京の連続放火の発生日と対比す者にも肉薄できますね。窃盗犯逮捕の瞬間 「小金井の捜査本部と同じですね。受け身でればいいんです。もしかしたら、バイクが盗は、絶対に撮らせて下さい」 主導権はいまだ容疑者の側にある」 まれた地域を仕事場としていた窃盗犯が浮か「土方は有能で、実績も出しています。今回 土方の言葉に、原島はロ許だけで笑い視線び上がるかもしれないですね」 の解散総選挙も、土方のお陰で東都がいち早 をそらした。肯定だ。原島はフォークを手に「対比か、新しい着眼点だが、結果次第ではく速報を打っことができたんです。ただ、私 とり、スパゲティを突く。白々しい空気が漂空恐ろしい気もするな」 同様、社内での風当たりが強くて、結果を出 う三文芝居だが、とてつもなく大きな意味を同一犯に引き起こされている、二つの連続し続けないとなかなか真っ直ぐ歩けない状況 持った駆け引きでもあった。 事件 でして。つまり腕一本の渡世です」 「東京と埼玉、両捜査本部が抱える共通の弱 「バイク窃盗は身近な犯罪ですし、地道にバ 春日井はすかさす土方をフォローしたが、 点は、このまま事件が終息すること。お互いイク窃盗犯を追う捜査員の姿は画になりますさり気なく自分も有能な人材であるとアピー 狙っている獲物は存在するが、決定打がないよね、取材する側としては」 ルしていた。さすが土方が選ぶ人物・ ままの状態で」 羽生は気づく。土方はこちらの要求を伝え土方から笑みが消えた。 「それは困るな」 つつ、微妙に論点をずらし、取材交渉をして「もしかしたら、未曾有の大事件に直面して いる 原島は言い、スパゲティを口にした。 いるかもしれませんね」 「ただ、春日井さんを通じて先日お伝えした「そうかバイク窃盗を取材したいか。上に聞今のところ確率は微々たるものだが。 遺棄されていた二台のバイクの件、突破口にいてしてみよう」 「渡瀬という分析官の見解は、非常に興味深 なる可能性ありません ? わたし、その件に原島も論点のズレを利用して、取材許可をいね」 ついて渡瀬の前でうつかり口を滑らせたの出そうとしている。二人の間にある共通認識原島はナプキンを置く。そろそろこのク偶 で、聞かれたかもしれません。東京と埼玉、は、ギブアンドティクだった。いきなり連続然の会見も終わりだ。 両方の取材に関わっていると、いろいろ情報強盗致死傷事件の密着は難しいが、それに伴「渡瀬の方から接触してくるかもしれませ が入ってくるので混乱してしまうんですよね」うバイク窃盗の捜査なら、県警も許可を出すん。早ければ一両日中に」 「大変な仕事ですね。どう対処すればいいの可能性が高い。しかも二つの連続事件に関連「それは好都合だが、なぜ ? 」 264 マイナス・ワン

3. ハヤカワ ミステリマガジン 2015年11月号

は、昔ながらの低い倍率の所にまとまった金をつかみ取らなければいけません」 像の収集を再開したが、玉城の影をつかむこ を賭けるやり方だ」 「それはお互いに 、だな」 とは出来なかった。 元々マークする前歴者リストの中にあった原島はうなすく 人物だったという「細かな裏取りはこれか「特に六月一一十八日と八月十四日について、 らになる。ただ、犯罪系のライターだけに Z バイク窃盗の現場に玉城の陰があれば、二つ羽生と土方は、帰社の予定を変更して、新 システムや主立った防犯カメラの位置を知っの事件はつながります。田島で見つけた玉城宿から西武新宿線に乗り換え田無に向かっ ていて、足取りはどうにもっかみにくいといの動画もそちらに送ります。ヘルメットと服た。池袋と新宿を経由して、田無警察署前に うのが、現場の感触だ」 装のパターン、乗っているバイクを参考にし到着したのは、午後五時過ぎだった。青梅街 出来すぎるほどーーー玉城の印象と重なってて下さい」 道は渋滞気味で、ヘッドライトが折り重なっ 「その玉城が自分のバイクで帰宅しているとていた。 「バイクが盗まれたのは、駐車場や路駐のバなると、 バイク窃盗の現場近くに、協力者が正面玄関前に、呼び出した張本人、龍田が イクではなく、一般住宅のガレージの中か、 いる可能性が高いか」 玄関前や庭など、わりと住宅内部に近いとこ侵入窃盗の場合、現場への接近は基本、徒「わたしたちがここに来る価値があるの ? 」 ろからじゃないですか ? 」 歩だ。「やることが増えたな」 前を歩いていた土方が龍田に詰め寄り、 渡瀬の指摘に、原島は黙って渡瀬を見据え「判明している、同一手口のバイク窃盗のデ刺々しい視線で見上げた。「選挙違反の取材 た後、「そうだ」と応えた。 ータを送っていただけますか拠点を特定しじゃなかったの ? 」 「外に停めるのなら、 ハンドルロックやチェます」 「それはほら、もっと選挙活動がたけなわに なってからで」 ーンロックをすることが多いと思います。ガ「わかった、専門家に任せるよ」 龍田はのけぞるふりをして言った。相変わ レージの中に置くならそこまでセキュリティ原島と極秘のク共犯ッ関係が結ばれた。 ーに気遣ったりはしないケースが多々ある 「あと、お互い玉城と名執のをつなぐ線を探らず人を食った態度だ。「キャップに行けと だから、配線の付け替えだけで盗み出すことるってのもありなんじゃないか ? 」 言われたら、現場に行くのが仕事だからね」 が出来ます。それに、玉城は侵入窃盗のプロ八幡の提案に、二人がうなすいた。 「元警官が溺れ死んだのが何か ? です。バイクが盗まれている地域は、彼の元「お互い大っぴらには出来ないだろうが」 呼び出しを受けた段階で、西東京市内で元 仕事場です。土地鑑はあります」 公にするのは、確たる証拠が見つかったと警官の防犯アドバイザ 1 、草間光一が、自宅 土方が切っ掛けを作った、新たな道筋だ。 きだ。「玉城についてはおれの班で徹底的にの浴室で溺死したとしか聞かされていなかっ たニュースサイトにも、元警官のテレビコ 「主導権は、いまだ犯人の側にあります。こ調べる。明日には最初の報告をする」 のま事件が終息しても捜査を維持できる何か原島と別れた後、田島付近で防犯カメラ映メンテ 1 タが自宅で溺死としか書かれていな たった 271 マイナス・ワン

4. ハヤカワ ミステリマガジン 2015年11月号

用に使われるらしい形も四角いポックスタ太い。部屋の中央で石油スト 1 プが赤く燃限り稼働しないため、道路側カメラのデ 1 タ イプで、電気やガスの検針器か配電盤にしかえ、上に置かれたヤカンから湯気が上がっても長期間分残っていると語った。 「運転席までばっちり見えたんだ」 見えなかった。 「この辺りで導入した会社はわかりますか」「梶山モータースさんから紹介を受けましその経験から、道路側カメラは車の運転席 とほば同じ高さまで取り付け位置を下げたと 「確かね : : : 橋のたもとの : ・『西浦和建て」 渡瀬は身分と用件を告げた。 いう。「さすがに三人目が捕まってから、少 材』さんだった」 渡瀬は礼を言うと、梶山モ 1 タースを出「おう、そのカメラのお陰でこれまで三人警なくなったけどな。捨てる奴は横のつながり でもあるのか ? 」 た。西浦和建材はさくらそう橋のたもとにあ察に突き出してやった ! 」 「三人目が捕まったのはいつですか ? 」 った。道路が大宮方面に分岐している場所大山は豪快に笑いながら、「見せてやる」 「確か、夏前だったな。そこでカメラの点検 で、車は自然と減速している。玉城が大宮方と渡瀬を資材置き場に連れ出した。 があって一度リセットしたが、そっからあと 面に行くことはないだろう。周囲の工場や住「トレイル・カメラは三台だ」 日にはデ 1 タは一切消してねえ。だがそれ以降、 宅からは道路を挟んで離れているような立地大山は車輛が停められている付近と、 」 0 近い側、道路側の三箇所を指さした。「赤外追いかけ甲斐のある捨て屋が来なくて、ちょ / 物 モルタルらしい二階建ての社屋の前には、線の威力はすごくてな、どんなに暗くても不いと寂しいのさ。たまに捨ててく奴は、ト 空き地や荒れ地と言われても否定できないよ届き者の顔がばっちり映ってた。しかも一度だ」 うなク資材置き場クがあった。ダンプが二台標的をとらえると、首を振ってそいつを追尾大山は、また呵々と笑った。外のバイクや 冷蔵庫は、小物が捨てたのだろう。廃品も溜 と、ショベルカ 1 が一台。側溝の形をしたコする」 まったら市に引き取ってもら、つとい、つ ンクリートプロックや棒鋼が積まれ、片隅に予想以上の高性能力メラだった。 トレイル・カメラなら玉城もカメラと気づ は砂利の山があった。資材置き場の周辺には「道路側のカメラを見せていただけますか」 枯れ色の雑草が生い茂っていて、冷蔵庫やイ「そうだな、そっちは切れ間なく車の通りがかないかもしれない。 ス、主要部品が外されたバイクが草の中に埋あるから、ほほ二十四時間稼働しつばなし「もしかしたら、連続・ハイク窃盜犯が網にか もれていた。渡瀬は資材置き場を回り込み、だだが道路が映っていたお陰で、不法投棄かっているかもしれませんね」 古崎に倣い、軽口を叩いたつもりだった した奴がどっちに逃げたかわかるんだ」 事務所を訪ねた。 サッシの引き戸を開けると、六十年配の作二つのカメラで不法投棄者の姿を確認し、が、自分でも堅いと思った。 業着にダウンコートを着た男性が、デスクで道路に向けられたカメラでその人物が乗った事務所に戻り、カメラを管理しているパソ おおやま お茶を飲んでいた。それが社長の大山だっと思われる車のナンバーを確認できたといコンの前に座った。大山のデスクからは離れ ーティションが大山の不躾 た無精髭で胸板が厚く、首が丸太のようにう。しかも二箇所のカメラは、侵入者がないていて、小さなパ かか 260 マイナス・ワン

5. ハヤカワ ミステリマガジン 2015年11月号

こっちの放火があった日に玉城が盜んだバイないこといくつかの現場で、その姿が防犯 渡瀬が即答すると、原島は顔を上げた。 クが、そっちの事件に使われているという前カメラに捉えられていたが、事件に使われた 「このこと、上司には ? バイクには乗っておらず、決定的な証拠は得 「何も言っていません。然るべき手掛かりが提だ現場付近に奴がいなかったか」 ていないこと。行確しながら、次の犯行を待 得られたら、所定の手続きを取るつもりで八幡はディスプレイの玉城を指さした。 っていること 「どんな男だ」 「跳ねっ返りなのか、真面目なのかよくわか「バイク窃盗が重点的に起こっている地域で「バイク窃盗犯が現行犯でパクられたとき、 かって七十八件のノビをやった男だ。ウチの一緒にいて逮捕されたことがある。本人は取 らんお嬢さんだな」 班長さんがホシと睨んだ男で、ウチの帳場も材と言い張り、物証もなくその時は不起訴に 原島は八幡に苦笑してみせた。 「合理主義で真面目な跳ねっ返りなんだよ、その線で動き始めたが、動いたそばからやつなっている」 ばりこいつじゃないと言いだした」 「ひったくりに使われたバイクが盗まれた手 うちの班長さんは」 ロは」 「こっちも真面目に聞くが、土方という東都「あくまでも可能性の問題です」 八幡が訊く 渡瀬は玉城について、分析、捜査の結果と の記者とはどれくらい連携している ? 」 原島の視線は刺すようで、渡瀬は内面を探もに本ポシの臭いを感じさせるが、アリバイ「名執が取材していたバイク窃盗団の手口と られていると自覚した。 と決定的な物証がなく、行確はしているが逮同じだ。カウルを取って、配線を付け替えて エンジンを掛け、乗り逃げする。本格的に身 捕に至っていないと説明した 「連携はしていません」 「ウチと同じだな。玉城とやらと同じ状況の辺を洗うのはこれからだ。昨日、春日井とい 渡瀬は原島の視線を受け止め、応えた。 う記者を通じて渡瀬さん、あなたの分析を聞 「元同級生であることをいいことに、強引な男がいる」 なとりりようたろう 原島は渡瀬を見据えてきた。「名執遼太郎いてから、名執に絞り込む方向に仕向けたん 取材を受け、多少迷惑ではありますが」 だ。何か出てくれば、本格的に名執を調べる 「埼玉県警も東都放送に取材の申請を受けという四十七歳のフリ 1 ライターだ」 た連続強盗致死傷のな。今頃県警記者クラ週刊誌や雑誌、自身のホ 1 ムペ 1 ジに犯罪ことになる」 プのキャップが、ウチの上司と相談してい実録系のルポを書いているという「必要な「では名執はオ 1 トレ 1 スを ? 」 渡瀬は聞いた る。密着させるかどうかは五分五分ってとこら画像を送ろう」 「ああ、本が売れて羽振りがいい時期は、グ 「犯罪系なら、いわゆる実話系か」 ろか」 いくレ 1 ド関係なく大金をつぎ込んでいた実際 玲衣のことだ、正面からの交渉だけのはす八幡が言うと、原島はうなすいた。「 がないーー今こうして原島と会っていることっかの反社組織や愚連隊と接点がある。県警会場まで足を運んでな。だが最近は仕事もろ くになく金欠で、金を賭けるのは地元か関東 自体、玲衣が画策し、流れを作ったものだ。や警視庁のマル暴、生安にも知己がいる」 玉城との共通点は、事件当日にアリバイが近県の大きなレ 1 スだけのようだ。遊び方 「原島、この玉城の影を追ってくれねえか 270 マイナス・ワン

6. ハヤカワ ミステリマガジン 2015年11月号

八幡が途中買ってきた差し入れを、テ 1 プ盗を行っていますよね。仕事場はどの辺かわた。「少なくとも東京都に入ってからは、防 犯カメラを避ける道を選ぶはずです」 ルに置いた。渡瀬はパッグからタブレット端かりますか」 末を取りだして東大和市を中心としたマップ『八割方川口、蕨、戸田の辺りの、わりと渡瀬は倍率を下げ、マップを広域にした。 を表示した。玉城のアパ 1 トが赤くマ 1 キンの線路に近い地域だったな』 玉城が選ぶのは、都心方面ではなく、必然的 グされている 符合する。二台のバイクが盗まれた場所に新青梅街道以北のルートになるだろう 缶コーヒーを手にした八幡がディスプレイは、玉城にとって庭同然と考えていいだろ「カメラを避け遠回りするにしても、現地に を見下ろした。 バイクを盗み、朝までに帰ってくる必 「さあ班長さん、どうする」 「ありがとうございます。助かりました」要があります。極端な遠回りはしません。そ 口調は楽しげではあったが、わすかに挑発渡瀬は電話を切った。 う考えると、ます取り得るルートは二つ」 的だった。 渡瀬の玉城に対する分析は、社会復帰の中渡瀬が指をさしたのは、東大和市に隣接す じんべえ 「小平の『甚平』から埼玉に向かうルートでどうしても剥がれ落ちない犯罪欲求を満たる東村山市を通過するルート、そして所沢市 は、諦めます」 すための犯行だ呼吸や、渇いたのどを潤すを経由し、多摩湖と狭山湖を隔てる村山上ダ ムを通るルートだった。玉城のク北回りクの 荒川を渡る橋の数も、考え得るル 1 トも数ような が多すぎた。 窃盗と放火は違いすぎないかーー、そのギャルートとも違和感なくつながる ップを埋めるために、放火そのものではな「村山上ダムを使う場合、志木街道か国道 4 「焦点を絞るのは、現場からの帰りです」 「盗んだバイクは向こうに置いてくる前提だく、『侵入』こそ渇きを癒す行為と、訝る八 63 号線から所沢を抜けて、西武ド 1 ム付近 幡と牛島に説明した。 を通ることになります」 な」 八幡も理解していた 説得力は、やはり窃盗にある。たとえ、ハイ渡瀬はストリ】トビューで西武ドームから 「そうですね。では説明の前にひとっ確認さクであろうと。玉城がバイク窃盗犯なら、慎村山上ダムにかけての風景を呼び出した。森 せて下さい」 重な性格上、土地鑑のない場所で仕事はしなに囲まれた、東京近郊とは思えない緑に囲ま ・つしじま 渡瀬はスマホを取りだし、牛島へと電話を れた道路だった。やがて、橋の上に出るが、 。これを新たな仮定とする 入れた。嵯峨野班の中堅と組んで、目撃証言「玉城は全ての放火の時、埼玉へバイクを盗橋でなく、村山上ダムだった。右手が狭山 と防犯カメラ映像を得るために既に動いていみに行っていたと仮定します。ですから、少湖、左手が多摩湖だ。狭山湖周辺には原生林 るはずだ。 し範囲を広げて、埼玉方面から帰ってくるルが広がっていた。 「郊外とはいえ、リゾ】ト系の場所は防犯カ 『なんだい、渡瀬さん』 ートをピンポイントで押さえます」 牛島はのんびりとした口調だ ポイントの割り出しは、効率的に防犯カメメラが多そうですね」 「玉城ですが、埼玉方面で七十八件の侵入窃ラの映像を収集するためには重要な仕事だっ西武ド 1 ムのほかにゴルフ場や狭山スキー さがの 256 マイナス・ワン

7. ハヤカワ ミステリマガジン 2015年11月号

べく、散っていった。 「埼玉とつながれば面白いがな」 「谷川に知られたらコトだな」 八幡は含み笑いを浮かべた。「玉城は、放「防犯カメラの捜査に関しては、フリ 1 不法投棄対策 火より泥棒の方が似合う。ノビでなくてもドです」 十二月二日火曜 な」 「埼玉方面で、捜査は道路沿いになるな。車 「確かに二例じゃな」 その通りだが、 渡瀬は素直にうなすけなか輛がいる。谷川に掛け合うか、ウチのを持ち 八幡は苦笑気味に、手にしたメモから顔をつた。玉城を放火の被疑者に絞ったのは自分込むか ? 上げた。 だ玉城を標的にしてから、ようやく周囲の分析捜査係も車輛を保有しているが、本部 ひじかたれ 昨夜、土方玲衣から提供された、埼玉のバ信頼を得る兆しが見えてきた中、また、事件に置いてる イク窃盗のメモだった。連続強盗致死傷事件を覆すかもしれない 「レンタカ 1 にしておきましよ、つ」 に使われたとみられるパイクだ。 ます、分析捜査三係を、独自に動かすしか 朝の捜査会議が終わり、大半の捜査員がそなかった。そして、杞憂であることを確認す車が、東大和市奈良橋にある建設会社の駐 れぞれの担務の準備をし、早い者は本部を出るか、そうでなかった場合、谷川と堀部を動車場に入ったのは、午前九時半だった。 ていた。渡瀬は横目で雛壇の幹部席を見遣っかすだけの材料を得なければならないでき「ちゃっちゃと当たり先を決めようや、十時 たにがわ た谷川と一課の配置班長、署長が何か話しることなら今日一日で勝負をつけたかった。 には出るぞ」 ほりべ ていた。管理官の堀部は別件で不在だった。 玉城が自身のバイクで帰宅しているのな運転席の八幡に続いて、助手席の渡瀬も車 たましろ 「埼玉のバイク窃盗と玉城がつながらなくとら、盗んだバイクはどこか別の場所に置き、 から降り、敷地の片隅にある玉城の監視小屋 も、それは成果です」 連続強盗致死傷事件の被疑者もしくは共犯者に入った。佐倉と交替したばかりの日野がい 六月二十八日、三件目の放火の時、玉城がに渡る 埼玉県蕨市でバイク窃盗を行った可能性 「佐倉の班には ? 」 「おはようございます。佐倉主任からの報 ふるさきひの 八月十四日、五件目の放火の時、玉城が埼佐倉、古崎、日野は今日も交替で玉城の行告。玉城の帰宅は午前二時二十三分。新青梅 玉県川口市でバイク窃盗を行った可能性。確を続けている 街道側から。帰宅後の外出はなし。明かりが わすか二例だが、びたりと符合するよう「ますは二人でやりましよう」 消えたのは四時二分。今朝はまだ動いていな に、玉城はいつもより数時間遅く、 北回配置班長が告げた渡瀬と八幡の担務は、昨い」 りのル 1 トから帰宅している。捜査本部は日に引き続き防犯カメラによる、犯行時の玉日野は振り返ることもなく、窓から玉城の 現在、各放火の現場から現場から大回りして城の移動ル 1 トの割り出しだ。多くの捜査員アパートを見ながら言った。 帰宅したという線をつなごうとしているのだたちも、玉城の自宅と放火の各現場をつなぐ「朝から愛想ないな」 やはた さくら 255 マイナス・ワン

8. ハヤカワ ミステリマガジン 2015年11月号

な視線から守ってくれた。 か精査が必要だ 一番古いデータは七月八日だった。映像は六件目があった九月二十六日も、玉城の姿日中の京浜東北線の車内は空いていた 鮮明で、夜間の撮影状況も問題なく、行き交は見つけられなかった。 土方は昨夜、渡瀬警部に夜討ちをかけたあ う車のナンバ ーも読み取れた。午前三時からしかし、七件目の十月二十三日は、午前三と、そのまま泊まりシフトに入った。そして 午前四時と時間を区切り、ますは八月十四日時四十一一分に、玉城らしい姿を認めた。現場朝九時過ぎに帰宅、午後一時現在、既に羽生 のデ 1 タを呼び出した。玉城のバイク、ヘルは小平市栄町二丁目出火時刻は午前二時半とともに埼玉に向かっていた メットは脳裏に焼き付けてあった。交通量も頃。こちらも移動可能だった。 鋼の精神力をもっているようだ。羽生は精 さほど多くないだろう 放火直後に、埼玉に移動したといわれれば いつばい手を伸ばして吊革を擱んで外を見て ほとんどがトラックだった。バイクが通るそれで筋は通る。しかし、明らかに不自然ないる土方の横顔を見て思っていた 度、コマ送りにした。 動きだった。 時々白目を剥いて頭がカクリと落ちかけるの 埼玉県警に問い 合わせ、この日バイク窃盗で、やはり普通に眠いのだと思い直した。 表示の時刻は『邸 見つけた の被害があったのか、その現場付近に玉城の解散総選挙は年明け、という観測の中調整 黒のフルフェイスへルメット。シールの位影はあったのか、必要なら捜査協力を要請すされていた選挙報道の各種プリ 1 フィング この日、 置が同じだった。乗り方のクセは、これまでるしかない バイク窃盗の現場付近が、今週中に立て続けに行われることにな に撮影した玉城の映像と比べるしかないそから玉城の影が見いだせたなら、少なくともり、報道局全体が慌ただしかったが、土方は れは科捜研の仕事だが、渡瀬には十分だっ二件の放火に関しては、玉城のアリバイが成我関せすと羽生を連れ出していた。 立する可能性が高い 浦和駅のホームに電車が滑り込み、羽生と 八月十四日、五件目。東京都小金井市東町その説得材料に、この二件の映像は十分な土方は降り立った。 一丁目。二名が死んだ放火。出火推定時刻は説得力を持っていると思えた。 「春日井さんと合流する浦和中央署の原島 午前二時五十分頃。そのわすか五十分後に、 渡瀬は立ちあがった。 さんを紹介してもらう」 埼玉県さいたま市桜区に存在できるのか ? 「大山さん、ここのカメラは大物を釣り上げ羽生は機材バッグを担ぎ直し、西口に向か 小金井市とさいたま市の車輛移動の時間を調たかもしれません」 う土方の小さな背中を追った。 べると、東京外環道を使って五十分。移動可今度は上手く言えたような気がした。 土方が探ろうとしているのは、連続ひった 能か くり事件 = 正式にはさいたま市及び川口市、 四件目の放火があった七月二十五日には映 蕨市における連続強盗致死傷事件と、東京西 っていなかった。別のルートを使ったのかも 部で起こっている連続放火事件を、重層的に 橋を渡る しれない或いは時間帯が大幅に違ったの 取材、比較すること 十二月二日火曜 かす力い はらしま 261 マイナス・ワン

9. ハヤカワ ミステリマガジン 2015年11月号

ちらの連続放火と、向こうの連続強盗致死傷査を進めることが出来ると。渡瀬は思う、堅「確かに、士気が著しく下がりそうな話だ」 実に成果を上げてきた人間なら、方向転換も堀部はため息混じりに言った。「ただし会 が連動していることになります」 議で発表して君を吊し上げたら士気は上がっ 「自分が言っていることの意味を理解してい堅実に出来るはすだ。 「科捜研の鑑定で、蔵田自動車販売前を通っただろうな」 るか」 たのが玉城であることが明らかになりまし「思慮が足りませんでした。では明朝の会議 谷川は無表情で切り返してきた。 た。同じ日、埼玉でバイク窃盗が起こっていでこの話を : 「当然です」 ました。確認できたものは二件だけですが、「冗談だよ」 渡瀬は即答した。 「お前は、連続放火の被疑者は侵入窃盗の前二件とも玉城がかって仕事場にしていた地域堀部が手を振った。「君はユニークだな、 科がある玉城であると主張して、強引にこので起こっていました。しかも玉城が得意とし相変わらず」 帳場全体を玉城に向かせた。それで成果が出ていた侵入窃盗です。確率の低い小さな憂い「なせそうなった」と谷川が話を促した。 始めて、俺もお前を信用しかけていたよ。だです。それを消すため、今日、八幡主任の理「犯人の誤導に乗せられたのだと分析してい がその舌の根も乾かぬうちに、玉城が事件当解を得て、埼玉に行ってきました。古崎君にます」 日に埼玉にバイクを盜みに行っていた ? 」東村山周辺を調べさせました。それで、玉城統計上の傾向と現場の状況の多くが、玉城 「連続強盗致死傷事件に使われたバイクでが放火当日の当該時間に、埼玉にいた形跡をであることを示していた。しかし玉城と特定 見つけました。捜査員としてすべきことをしする決定的な証拠はなかった。しかし、八件 たまでです」 目の犯行で、統計上あり得ない場所で放火が 「じゃあ玉城は被疑者ではないのかほかに 起こり、別人が事件を引き起こした可能性が 火をつけた者がいるというのかそれは誰「言い訳はい、 谷川は怒りを抑え込むようにネクタイを緩浮上した。共犯者の存在だ めた 「誤導に乗せられた、ね。自分を分析か」 「わかりません」 堀部は息を吐き、首を横に振った。 無言でいた堀部が失笑を漏らした。 「言い訳ではありません」 「お前は間違えた方針で、五十人からの人員「玉城を被疑者と定めたのは、君なんだが「わたしは根本から事件をとらえ直し、この 事件を計画した真犯人 < が、玉城を利用、或 に無駄足を踏ませたのか」 な」 いは使役していると仮定しました」 「無駄足ではありません。被疑者に一歩近づ堀部が静かに口を開いた。 くために必要なステップだと思っています」「堀部管理官に意見を採用していただき光栄埼玉からの帰途、そして会議中にすっと考 ほんの一瞬、谷川にこれまでより生々しくです。ただ、わたしの分析が間違いである可えていたことだった。 憎悪に満ちた表情が浮かび、消えた。八幡は能性が高くなりましたので、ここでご報告さ「ではその本ボシの意図はどこにある」 「玉城をダミーの被疑者に仕立て、捜査の目 言っていた。谷川は凡庸であるが、堅実に捜せていただいています」 276 マイナス、ワン

10. ハヤカワ ミステリマガジン 2015年11月号

を向けさせることです。そのための見せ餌に「わたしはその佐倉主任の見立てを信じまも用意した罠にすら近づいてこなかったんだ わたしはまんまと食い付きました」 す。玉城は放火のことなど知りません」 からな」 「だったら本ポシは被疑者が玉城であるとい「我々は真犯人とやらの掌の上で右往左往し「堀部さん自虐に走っちゃいかんよ」 う物証をなせ残さない同一オイルだけでていただけだというのか」 背後から八幡の声がした。 は、同一犯という事実だけで、玉城と特定で堀部の眉間に、初めて皺が寄った。 「お前に言われたくはないな、風来坊が」と きないだろう」 「その通りです。このまま真犯人が犯行を止堀部もすぐさま言い返した。 谷川の口調が徐々に熱を帯びてくる めれば、我々は捜査の攻め手を失います」 「本ポシは、埼玉の連続強盗致死傷にも関わ 「真犯人の目的は、玉城を本件の被疑者と今できることは、玉城の行確。玉城が動きっているのか」 して逮捕させることではありません。玉城がを止めたら、能動的な捜査は出来なくなる 谷川はお茶を一口飲み、続ける 被疑者であると思わせながらも、逮捕にいた防犯カメラ映像も、現場と玉城がつながって「わたしはその可能性が高いと思っていま る決定的な証拠を与えないことです。つま いないのなら、出てきはしないその先にあす」 り、この現状が、真犯人が望んでいた状況でるのは捜査の停滞、捜査本部の縮小、申し訳「ならば、ヾ ノイク窃盗の現場に玉城の影がな あると、わたしは思っています」 程度の継続捜査、そして迷宮入りだ。 いか、確認してもらう必要があるな」 堀部が呻き、谷川はテープルで両拳を握り「君は自分の分析ミスで、この帳場全体が引「現場で、先方の帳場で防犯カメラ担当主任 しめた。 つかかったと自覚はあるんだな」 官補佐をしている方に接触できましたので、 「玉城に容疑が向くよう状況を作り、同時に堀部が思わせぶりな口調で言った。ただ、非公式ですが、この旨を伝えて、協力を要請 事件当日にバイク窃盗をさせ、帰宅を遅くさ悪意はなさそうだ。 してきました」 せることで玉城からアリバイを奪いました。「責任は感じています。申し訳ありませんでダンー と音がした。谷川がテープルに拳 警察が放火の現場と玉城の行動を結びつけよした」 を振り下ろした音だった。 うと躍起になるのは計算通りです。でも、つ渡瀬は深々と頭を下げ、顔を上げた。「た「勝手なことをするな、と怒鳴りたいが我慢 ながるわけがありません。玉城の足取りは正だ、罠の存在に気づいたのは、大きな前進だしておこう」 反対の埼玉に伸びていたんです。恐らく玉城と思います」 渡瀬も谷川の自制心と配慮には、何度も救 は自分が放火の被疑者とされていることを知渡瀬が言い切ると、堀部が苦笑し、「前向われていると自覚していた。ただ、それより りません。限られた情報だけで報道されていきでいいな」と小声で言った。 も優先したいのが被疑者の検挙だった。 る本連続放火も、他人事かもしれません」 「我々は渡瀬の加勢でようやく真犯人が設定「先方も被疑者を絞り込んでいます。ただ、 渡瀬は変則的な八件目の放火のあとも、玉した難易度に到達したということだな ? 本玉城と同様動機があり、アリ・ハイがないにも 城に一切の変化がないことを説明した。 ポシも呆れているだろうな、いつまで経ってかかわらず、逮捕の決め手となる証拠を欠い 277 マイナス、ワン