わ。 QZ< の連中が、この前見落としたものをさがしてるらしいの。ジェシーにくっ てかかられたわ。どうしたのってきいただけなのに。どうもおかしいわ。リネン類は 一週間以上も前に、もうスクレープ室にもちこまれてたのに。知ってるわよね、その こと。この毛髪はそこからきてるんだから。変ね。体暇のせいかもしれない。クリス マスの買い物のことは、まだ考えてもいないわ」 キットは先のとがったピンセットで、ビニールの小さな証拠品袋のなかから、注意 深くべつの毛をつまみだした。アイズがすわっているところからだと、それは長さが 十四、五センチの黒い巻き毛のように見える。キットがそれをスライドにのせ、キシ レンを一滴たらしてカバーガラスをのせ、ほとんど目にとまらないようなこの軽い 小さな証拠品を、顕微鏡検査用に準備するのを見守った。それは死んだ少女のべッド のシーツから採取されたものだ。ロのなかに塗膜片と、何かわからない灰茶色の粒が ついていたのも、その女の子だ。 上 「まあ、ドクター・マーカスはドクター・スカーベッタとはちがうものね」と、キッ 跡 トはいった。 痕 「あのふたりが同じ人間ではないと気づくのに、五年もかかったっていうのか ? っ まりこういうことなんだな。ドクター・スカーベッタがすっかりイメージチェンジし
囲「自分たちのこうむった精神的苦痛に対して、遺族が補償を求める可能性が大いにあ るわ。職場で、それも悪名高い職場で死亡したわけだから」 「うん。よりによってあそこで死ななきゃならないとはね」 遺体の顔の傷をさわるフィールディングの、ラテックスの手袋をはめた指は赤く染 まっている。とれかけた鼻をいじると、生あたたかい血がぼたぼたたれた。彼はクリ ップポードにつけた紙をめくり、人体図に傷を描きいれはじめた。かがんで顔に身を 近づけ、プラスチックの保護めがねをとおして、仔細にけがを観察する。「サビやグ リースは見えない。でも肉眼じやはっきりわからないけどね」 「いい考えだわ」スカーベッタは彼が考えていることを推測していった。「綿棒でふ いて、それを検査室へもっていって、徹底的に調べてもらったほうがいい。被害者は ほかの人に轢かれたのではとか、トラクターからっきおとされた、トラクターの前に つきたおされた、最初にシャベルで顔をなぐられたのだ、とだれかがいいだしかねな 用心するにこしたことはないわ」 「うん。金、金、金だからな」 「お金だけじゃないわ。弁護士はお金の間題にしてしまうけど。でもそれよりまずシ ョック、悲しみ、喪失感に打ちのめされる。だれかのせいにしたい。家族はこれが無
の足のような綿の繊維がいつばいはいっている。それらはティップスの綿からおち たもので、証拠としての価値がないのはあきらかだ。 こうした汚染の元凶はドクター・マーカスだ。いったいどういうつもりなのだろ う ? アイズは何度となく彼にメモを送り、検査室のスタッフはなるべくテープを使 って微物をとるようにしていることを伝え、綿棒は使わないように訴えた。綿棒には 空気のように軽い無数の繊維がついており、それらが証拠にまじってしまうからだ。 黒いベルべットのズボンに、白いアンゴラネコの毛がつくようなものだ、と彼は数 カ月前にドクター・マーカスに書き送った。マッシュポテトのなかからコショウの粒 をひろいだすようなものとか、コーヒーのなかからクリームをすくいだすようなもの ひゅ といった、下手な比喩や誇張をまじえて訴えた。 「先週、彼にロータックテープを二巻き送ったんだ」と、アイズはいった。「それか らポストイットをもう一バック。そういった粘着力の弱い接着テープは、毛や繊維を 上 採取するのに最適だってことを、思いださせようと思ってね。そういうテープを使え 跡 ば毛や繊維が切れたりまがったりしないし、綿の繊維がそこら中に散らばったりもし 痕 ない。それに >< 線回折ゃなんかの結果にも影響をおよぼさないしね。われわれが日が 四な一日ここにすわって、資料から綿の繊維をつまみだすのは、気むずかしいからって
112 犯人は彼女を窒息させようとしたのかもしれない べントンは写真を思いうかべ た。頭のなかに一枚ずつかかげてヘンリの傷を調べ、彼女がいまいったことと符合す るかどうか考える。鼻から血がしたたり、頬をよごし、べッドにうつぶせになった彼 女の頭のしたの、シーツにしみをつくっている。彼女は裸で、体に何もかけていな 両手はてのひらをしたにして頭のうえにのばし、脚をまげている。片方の脚のほ うが、も一つ一方より深くまがっている。 べントンはまたべつの写真を思いうかべ、頭のなかで検討した。ヘンリが椅子から 立ちあがった。コーヒーがもっとほしいのでとってくるとつぶやく。べントンはピス トルがキッチンの戸棚にはいっていることを考えたが、彼がそれをしまったときへン リは背をむけていたので、どの戸棚にはいっているかは知らないはずだ。べントンは ヘンリが何をしているか気をつけながら、写真に見られる彼女の傷や、体についた妙 あと な痕が何を意味するのかを考えた。両手の甲が赤くなっているのは、犯人に打撲傷を おわされたためだろう。犯人が男か女かは、まだわからない。両手の甲のほか、背中 のうえのほうにも、打撲傷で赤くなった部分がある。数日後には、内出血の赤みは不 吉な紫色にかわった。 べントンはヘンリがコーヒーをつぐのを見つめた。彼女が気を失って横たわってい
274 の中継器がちゃんと再生し、デュアルテープデッキが二重録音することをたしかめ ーをオンにしてヘッドフォンを た。コマンドセンターを電話回線につなぎ、レシー つけ、ケイトがジムか寝室でだれかと話していないか調べた。話し声はきこえない : ルーシーはオフィスのテープルにすわり、太陽が水 し、まだ何も録音されていなし 面にたわむれ、ヤシの葉が風にそよぐのを見ながら、耳をすました。感度レベルを調 節して、待つ。 何もきこえないまま数分がすぎ、ルーシーはヘッドフォンをはずしてテープルにお いた。立ちあがって、クライムサイト・イメージャーがのっている台にコマンドセン ターをもっていった。雲が太陽をおおったと思うととおりすぎ、部屋の明るさが変化 した。さらに雲が太陽のうえを流れ、オフィスはうす暗くなったり明るくなったりす る。ルーシーは白い綿の手袋をはめた。目の絵を封筒からとりだし、汚れていない大 きな黒い紙のうえにのせた。また椅子にすわってヘッドフォンをつけ、指紋検出キッ トからニンヒドリンの缶をとりだす。缶のふたをあけ、絵のうえに薬品をスプレーし た。ぬらしすぎないように注意しながら、紙をしめらせる。このスプレー缶にはフロ ンははいっておらず、環境には害を与えない。だが人間には無害ではないらしく、噴 霧液を吸いこむと肺にしみ、せきがでた。
サント・ライトをとりだす。それをデスクへ運び、サージプロテクターのついたテー プルタップにプラグをさしこむ。ロッカースイッチを押して高輝度短波紫外線ライト をつけてから、クライムサイト・イメージャーを作動させた。 ビニール袋をあけ、なかにはいっている紙の角をつかんでひつばりだした。紙を裏 がえして天井の照明にかざすと、えんびつで描かれた目がこちらを見つめた。白い紙 に光があたる。透かしはなく、安い紙の無数のパルプ繊維が見えるだけだ。紙をおろ すと、眼の絵はうすくなった。紙をデスクの中央におく。ケダモノがこの絵をドアに つけたとき、目がガラスをとおして家のなかをのぞく形になるよう、紙の裏にセロハ ンテープをはった。ルーシーはオレンジ色の防護眼鏡をかけ、イメージャーの軍用レ ベルの接眼レンズのしたに絵をおき、アイピースをのぞきこんだ。アパーチャー を全開にし、ハチの巣状の観察面がはっきり見えるまで、焦点調節バレルと焦点リン グをゆっくり回転させる。左手で紫外線ライトを対象物にあて、ちょうどよい角度に いく。この機械 なるよう調節して、紙を動かしはじめた。指紋がないか入念に調べて 跡 で検出できれば、ニンヒドリンやシアノアクリレートといった、紙を損なう化学薬品 痕 を使わずにすむ。レンズのしたの、紫外線ライトがあたった紙は、気味の悪い緑がか った白色に見える。
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65 痕跡 ( 上 ) ドクター・マーカスは冷ややかな目でマリーノをにらんでいる。 ドクター・ラミーは抑揚のない声でつづけた。「ミスター・フランクリンも外景検 : ファインダー 査のみで、もうすませました。つぎはフィンキー 「やれやれ、フィンキーか」マリーノはあいかわらず割れ鐘のような声で、下手なぼ ファインド け役を演じつづける。「彼女が見つからねえってわけだな。ったく、困ったやつだ な、フィンキーは」 「それは本名なのか ? 」ドクター・マーカスの声はトライアングルのように金属的 で、マリーノの声より数オクタープ高い ドクター・ラミーの顔はいまや深紅に染まっている。苦痛にたえきれず、わっと泣 きだして部屋をとびだしていくのではないかと、スカーベッタは心配になった。「い まいった名前しかきいていません」ドクター・ラミーはこわばった顔で答えた。「二 十二歳の黒人女性。便器にすわって死んでいたそうです。腕に針がささったままで。 ヘロインの過剰摂取と思われます。四日前にもやはりスポツツイルヴァニアで同じよ うなケースがありました。それから、ついさっきわたされたものですが」と、電話メ モの紙をとりだす。「スタッフ会議がはじまる直前に電話があったようです。シオド ア・ホイットビーという四十二歳の白人男性のことで。トラクターの修理中にけがを
たほうがいいっていっただろう。きたとたんにこれだ。ここへきて一時間とたってね えのに、このざまだ。おれたちがなじんでたあの古い建物が、鉄球でぶちこわされて る。よくねえ徴候だよ。時速三キロぐらいで走ってるんじゃねえか。もうちょっとス ピードをだせよ」 「べつに機嫌は悪くないわ。でも大事なことはちゃんといってほしいのよね」スカー ペッタはゆっくり運転しながら、なっかしいビルを見つめた。 「いっとくけどよ、こりやよくねえ徴候だぞ」マリーノはそういって彼女を見てか ら、窓の外に目をやった。 スカーベッタはスピードをあげずに、解体作業を見守った。のろのろとプロックを まわるうちに、車の速度と同じようにゆっくりと事情がのみこめてきた。かっての検 屍局と犯罪科学研究所は、再建されたメイン・ストリート駅のための、駐車場にかわ ろうとしているのだ。スカーベッタやマリーノがこの町で働き、生活していたときに は、駅に列車がくることはなかった。古い血のような色の石でつくられた、ゴシック 様式のこのばかでかい駅は、長いあいだ使われていなかった。その後、断末魔のあが きの末、商店に改造されたが、それらはすぐに立ち行かなくなった。つぎは州政府の 庁舎になったが、それもまもなく閉鎖された。駅のうえの時計塔はつねに地平線にそ