検屍 - みる会図書館


検索対象: 痕跡(上)
89件見つかりました。

1. 痕跡(上)

繝「あの女の子の検屍をしたのは、彼ではないと思うわ。前の検屍局ビルで事故死し た、トラクター運転手の検屍もしてないと思う。どっちもやるわけないわよ。彼は監 督だけして、みんなにああしろ、こうしろと ) ししたいんだから」 「『アイズ・ピック』、もっといらない ? 」アイズはほっそりした手で器用にタングス テン針を扱いながらきいた。 彼は憑かれたように、このタングステン針をつくりつづけることがある。その後、 いつのまにか同僚のデスクのうえにそれらがのっているのが見つかる。 「アイス・ピックはいくつあってもいいわ」キットはあいまいにし一つあまりほしく もないようないいかただが、きっと遠慮しているのだろう、とアイズは思う。「やっ ばりやめた。この毛髪を永久マウントするのはよそう」キットはパーマウントのびん のふたをしめた。 「病気の女の子のだな。何本あるんだ ? 」 「三本。運がよければ QZ< 検査室のほうで、この毛を調べるといってくるかもしれ ない。でも先週はやらないようなことをいってたわ。だからこれも、あとの二本も、 固定しないことにする。なんだか最近、みんなの様子が変よ。わたしがきたとき、ジ ェシーがスクレープ室にいたの。あの事件のシーツや枕カバーなんかが部屋にあった

2. 痕跡(上)

後に、彼はトラクターを始動させたにちがいないそして死んだのだ。 「ドクター・フィールディング、トラクター事故の被害者はきみが担当してくれ」 と、ドクター・マーカスがいった。「轢かれる前に、心臓発作をおこしたりしていな かったかどうかを、確かめるんだ。全身のけがをくまなく調べるのは大変だし、時間 かかかるだろう。だが承知していると思うが、こうしたケースでは徹底的に検査する ことが必要だ。今日のゲストのことを考えると、いささか皮肉だな」と、スカーベッ タを見る。「わたしがくる前の話だが、ノース一四番ストリート九番地は、きみがい たころの検屍局ビルだね」 「ええ」過去の亡霊であるスカーベッタは答えた。遠くにいる黒とオリープ色の服を 着たミスター・ホイットビーの姿が目にうかぶ。彼もいまや亡霊だ。「最初はあのビ ルにいたの。あなたがいらっしやる前の話だけど」と、彼のことばをくりかえす。 「それからこっちへ移ったの」彼女もこのビルで仕事をしていたことを思いださせる よ , つにいったが、 やめとけばよかったとすぐに思った。そんなわかりきったことをい 一つのは、ばか、け・ている。 ドクター・ラミーはもちこまれている遺体の説明をつづけている。刑務所内で死亡 した収監者。死因に不審な点はないが、刑務所での死はすべて検屍局にもちこむこと

3. 痕跡(上)

きみたちはコーヒーでも飲みにいったらどうかな ? たばこを吸っていてもいしヒ ルのなかでないかぎりね。スタッフ会議のあいだここにいてもらってもかまわない が、その必要はないよ」 この一時間たらずのあいだに彼がいった、無礼きわまりないことばをきいていない 人たちのために、あえてまたいったのだろう。その声に警告するような調子がまじっ ていることに、スカーベッタは気づいた。強引に参加するからには、恥をかかされる のを覚悟しろ、ということらしい彼はなかなかの策士、それもたちのよくない策士 ぎよ のようだ。ドクター・マーカスを任命したとき、政権をにぎるものたちは彼が御しゃ すくおとなしい人間、つまりスカーベッタと正反対の人間だと思ったのだろう。だ が、それはまちかいかもしれない ドクター・マーカスはすぐ右にすわっている、大柄でぶかっこうな女性のほうを向 いた。馬づらで、白髪まじりの髪を短く刈ったこの女性が、事務主任なのだろう。ド クター・マーカスはうなずいて、はじめるよううながした。 「それでは」と、彼女はいった。みな今日の検査不要のケース、外景検査か検屍をお こなうケースがのった黄色いコピー紙に目をおとす。「ドクター・ラミー、昨晩はあ なたが当直でしたね ? 」と、主任がきいた。

4. 痕跡(上)

があったら、わたしがさがしていたと伝えてね。会議があるから」 : ほら、微物 「ジュニアス・アイズならマリーノのいどころを知ってるかもしれなし 検査室のやつ。アイズはゆうべ、マリーノに会うといってた。いっしょに警察友愛会 のバーへいくかもしれないと」 スカーベッタはすこし前にドクター・マーカスが電話をかけてきたとき、微物のこ とをいっていたのを思いだした。今朝の会議はどうやらそのことについてらしい。そ れなのにマリーノが見つからない。昨晩、昔の仲間がたむろするのバーで、微 物検査官氏と飲んでいたようなのに。何があったのか見当がっかないが、マリーノは 電話にもでない。不透明なガラスドアを押しあけて、検屍局の待合室へはいった。 カウチにミセス・ポールソンがすわっているのを見て、驚いた。彼女はハンドバッ グをひざに抱え、ぼんやり宙を見つめている。「ミセス・ポールソン ? 」スカーベッ タは心配そうに声をかけ、そばへいった。「だれかご用件をうかがっているかしら ? 」 「オフィスがあく時間にくるようにいわれたの」と、ミセス・ポールソンはいった。 跡 「きたら、局長がまだこないので待つようにつて」 痕 ドクター・マーカスとの会議に、ミセス・ポールソンも出席することはきいていな かった。「どうぞいらして」スカーベッタは彼女にいった。「なかへご案内するわ。ド

5. 痕跡(上)

ろう。彼女のおばは検屍報告書を読み、他の法病理学者たちと同じように、ルーシー は酔って自殺したと結論づけるにちがいない。どんな検査も、ルーシーがヴィレッジ のどこかで出会った見知らぬ人の見知らぬアパートで、トイレヘいこうとしてべッド からでただけだという事実をあきらかにすることはできないだがこれはまたべつの 話たし、それについてはあまり考えたくない こうした話はもうなし ) 。ルーシーは自分をさんざんな目にあわせたアルコールを断 っことで、それに仕返しをすることにした。いまは一滴も飲まない。酒のにおいをか ぐと、愛してもいない、しらふなら近づかなかったはずの愛人たちの、不快なにおい を思いだす。隣人の家をながめてからキッチンをでて、二階へいった。ありがたいこ とに、ヘンリとは酔っぱらってこうなったわけではない。それがせめてものなぐさめ オフィスへはいると、ルーシーは明かりをつけて、黒いプリーフケースをあけた。 上 大きさはふつうのプリーフケースと同じだが、外側はざらざらで硬い。なかにはグロ 跡 ーバル・リモート監視コマンドセンターがはいっている。これを使うと、世界中のあ 痕 らゆるところに秘密にしかけてある、リモートコントロールのワイアレスレシー にアクセスできる 。バッテリーが充電されて使えるようになっており、四チャンネル

6. 痕跡(上)

326 安に思ったことをおぼえている。知事は女なので、どっちみち彼を尊敬してはくれな いだろう。彼は女ではないし、スカーベッタでもないからだ。 新しい知事がスカーベッタのファンかどうかはっきりわからないが、たぶんそうだ ろう。局長の職をひきうけてセントルイスからここへきたときには、自分がどんなも のと対峙することになるのか、まるでわかっていなかった。セントルイスの検屍局に は女性の検屍官や変死捜査官がいつよ ) 。ししたみなスカーベッタのことを知ってお り、彼女の後任になれるのはラッキーだと彼にいった。なぜならスカーベッタのおか ノージニアの検屍制度は全国でもっとも整っているからだという。スカーベッ タが当時の知事とうまくいかなくて、やめさせられたのは実に残念だ、スカーベッタ の後任ならぜひ受けるべきだ、と女性たちはロをそろえていった。 検屍局の女性たちは、ドクター・マーカスがいなくなることを望んでいたのだ。彼 にはわかっていた。女性たちは、ヾ ノージニアがなぜ彼を、よりによってこの男に目を つけたのだろうと、ふしぎがった。ドクター・マーカスが御しやすく、政治に関心が なく、影がうすい人間だからとしか思えなかった。彼は女性たちが何といっているか 知っていた。彼がバージニアへいく話は結局だめになり、ドクター・マーカスはいす わることになるのではないか。彼女たちはそうささやきあって、心配した。彼に。 たいじ

7. 痕跡(上)

痕跡 3 9 バトリシア 3 1 コーンウエル バトリシア・コーンウェル 相原真理子 = 訳 パトリシア・コーンウェル マイアミ生まれ。警察記者、検屍局のコンピュ ーター・アナリストを経て、 1990 年「検屍官」 で小説デビュー。 MWA ・ CWA 最優秀処女長 編賞を受賞して、一躍人気作家に。バージニ ア州検屍局長ケイ・スカーベッタが主人公の 検屍官シリーズは DNA 鑑定、コンピュータ 一犯罪など時代の最先端の素材を扱い読者を 魅了、 1990 年代ミステリー界最大のベストセ ラー作品となった。他の作品に正義感あふれ る女性警察署長とその部下たちの活躍を描い た「スズメバチの巣』『サザンクロス』「女性署 長ハマー」など。 公式ウェブサイト \NW\N. pat 「 iciaco 「 nwell.com 工 S B N 4 ー 0 6 ー 2 7 4 9 4 7 ー 5 C 0 1 9 7 \ 71 4 E ( 0 ) 9784062749475 火火 Patricia D. Cornwell TRACE 本の電話が始まりだった。法医学コ ンサルタントのケイ・スカーベッタ は、死囚不明の少女の遺体を調べるため、 五年ぶりにリッチモンドの地を踏んだ。 そこでは事件へのーの関与が明らか になる一方、かってケイが局長として統 カっタ : ′ー こも破壊されつつ 率した検屍局 あった。この町で何が起きているのか ? 検屍官業火 証拠死体警告 ・審問上下 遺留品 くろはえ 真犯人黒蠅上下 死体農場痕跡を下 スズメパチの巣 私刑 ササンクロス 死因 女性署長ハマー上下 1 9 2 01 9 7 0 0 71 41 痕跡 ( 上 ) パトリシア・コーンウェル一相原真理子訳 定価 : 本体 714 円 ( 税別 ) オリジナルデザイン辰巳四郎 カバーレイアウト岩郷重力 、刀ハ , ー号百【◎ RoyaIty ・ F 「 8 ら ORB 一 S ら 0 一こ ap 目 - 三ロ一三 0 火火 一三ロ Y114

8. 痕跡(上)

・主な登場人物〈痕跡〉 ケイ・スカーベッタ法医学コンサルタントフランク・ポールソンギリーの父、医者 ピート・マリーノ元刑事 スザンナ・ポールソンギリーの母 ルーシースカーベッタの姪、元捜査官 シオドア・ホイットビートラクター運転手 べントン・ウェズリー元—心理分析官へンリ・ウォルデンルーシーの同居人 ジョエル ・マーカス ージニア州検屍局長 ーディ・ムージルルーシーの仕事仲間 やしき ジャック・フィールディング検屍局副局長ケイトルーシーの邸の隣人 ブルース検屍局の警備員 ブラウニング刑事 エドガー・アラン・ポーグ白人男性 カレン・ウェーバー —特別捜査官 ミセス・アーネットボーグを知る老女 ジュニアス・アイズ科学捜査官 ・ポールソン十四歳の少女 キット・トンプソンアイズの同僚

9. 痕跡(上)

67 痕跡 ( 上 ) でいたそうです」 「なるほど。じゃ、自分で自分を轢いたわけだ。自殺ってことだな」マリーノが指で ゆっくりたばこをまわしながらい一つ 「皮肉なことに、これがおこったのは検屍局の古いビルのそばなんです。いまとりこ わされている、ノース一四番ストリート 九番地の」ドクター・ラミーが手短にいゝ えた。 マリーノは虚をつかれたようだ。おかしくもない一人漫才をやめて、だまりこん だ。それを見てスカーベッタも思いだした。駐車場の扉近くの舗道にとめた、トラク ターの後部タイヤの前に、オリープ色のズボンに黒っぽいジャケットを着た男性が立 っていた。あのときは生きていたのに。その彼が死んだ。エンジンに何をしようとし ていたのか知らないが、タイヤの前に立つべきではなかった。あのとき、彼女はそう 思った。そしていま、彼は死んでしまった。 「彼には検屍をします」と、ドクター・ラミーがいった。やや落ち着きと自信をとり もどしたよ一つだ。 古い検屍局ビルの周囲を車でまわり、角をまがったときにトラクターとその男性が 見えなくなったことを、スカーベッタは思いだした。彼女が男性を見かけてから数分

10. 痕跡(上)

ー著者レヾトリシア・コーンウェルマイアミ生まれ。警察記者、検屍局 のコンピューター・アナリストを経て、 19 年「検屍官」で小説デピュ 。 MWA ・ CWA 最優秀処女長編賞を受賞して、一躍人気作家に。ノヾ ージニア州検屍局長ケイ・スカーベッタが主人公の検屍官シリーズは DNA 鑑定、コンピューター犯罪など時代の最先端の素材を扱い読者を 魅了、 1990 年代ミステリー界最大のベストセラー作品となった。他の作 品に正義感あふれる女性警察署長とその部下たちの活躍を描いた「スズ メバチの巣」「サザンクロス」「女性署長ハマー」など。 ー訳者一相原真理子東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。フアディ マン「本の愉しみ、書棚の悩み」 ( 草思社 ) 、コデル「本を読むっておも しろい」 ( 白水社 ) 、フィルプリック「復讐する海」 ( 集英社 ) 、コーンウェ ル「検屍官』シリーズ、「スズメバチの巣」「サザンクロス」 ( 以上、講談 テザイン一菊地信義 社文庫 ) など、翻訳書多数。 こんせき 痕跡 ( 上 ) パトリシア・コーンウェル一相原真理子訳 あいはらまり ⑥ Marik0 Aihara 284 2004 年 12 月 1 5 日第 1 刷発行 発行者一一野間佐和子 発行所ーー株式会社講談社 東京都文京区音羽 2 ー 12 ー 21 〒 112 ー 8 開 1 電話出版部 ( 03 ) 5395 ー 3510 販売部 ( 03 ) 5395 ー 5817 業務部 ( 03 ) 5395 ー 3615 Printed in Japan します。なお、この本の内容についてのお問い合わせは 部あてにお送りください。送料は小社負担にてお取替え 落丁本・乱丁本は購入書店名を明記のうえ、小社書籍業務 製版 印刷 製本 講談社文庫 定価はカバー 表示してあります 凸版印刷株式会社 凸版印刷株式会社 株式会社国宝社 文庫出版部あてにお願いいたします。 I S B N 4 ー 0 6 ー 2 7 4 9 4 7 ー 5 本書の無断複写 ( コピー ) は著作権法上での例外を除き、禁じられています。