「お付き合いしませんか 二人は見つめ合う。ろくろ首は首まで赤くなっている。 「でも : 「ならお友達から。メールアドレスを教えてください。 「 : ・・ : 全部小文字で、 rokuro@nagomi•• 素敵な出会いだ。そうではないだろうか。 のつべら坊も、要するに顔がないだけだから、害はないと 思う。でも彼らが出てくる物語では、大抵、まずお人好しの 江戸っ子が夜道でのつべら坊に会い、慌ててどこかの店に逃 げ込む。そして「とんでもない顔を見た ! ーと助けを求める と、そこの店主が「こんな顔 ? 」と言ってまたのつべら坊だ ったというのが多い。 つまり彼らは「二度驚かす」癖があるので、ちょっとたち が悪い。でもやはり愛嬌がある。 「長いだけじゃないですか。それに伸縮自在でしよう ? ラジオについてるアンテナみたいなものだ」 「そうですけど : : : 」 「なら普段は普通の女性じゃないですか。それに押し人れ の上の段を見たりする時便利ですー
和とかなんとか 3 日本の妖怪は愛嬌がある 夏が近づいてきた。怪談の季節である。 でもたとえば、日本の妖怪は、外国のそれよりどこか愛嬌 がある。たとえば「ろくろ首」。 基本的に、首が長いだけで害はない気がする。出会っても、 「うわっ、びつくりした」で終わるような気がするがどう だろうか。たとえばこんな風に。 「なんですかいきなり ! 「びつくりしたでしよう ? 首が長いの」 「でも何だかずっと見てると、 ・ : 慣れてきますね」 「それに、あなたは綺麗だ」。美人の妖怪もいるはずである。 「でも、わたし首が : ・ : 」 ろくろ首はどんどん首を伸ばしていく。 中村文則 作家 イラスト = 村田善子 42
典籍を書写する良質の料紙として早くから使用されました。 なります。また、流し漉きの技術を応用、発展させ、着色し うすよう らんし くもがみとびくも 雁皮紙を薄く漉いた薄様は、まさに和歌文学が育んだ紙であた繊維を雁皮紙の上に漉きかける藍紙・雲紙・飛雲・羅文紙 かな 集紙切 詠文筋 り、仮名の優美な線を表現するのにふさわしい典雅な紙でしなど、日本特有の料紙装飾の技法が完成しました ( 写真 1 ) 。 朗羅 和左断 た。鎌倉時代以降、雁皮紙は鶏卵に似た色合いから「鳥の子 十一世紀後半—十二世紀には、舶載の唐紙に、大和絵風の 紙」と呼ばれ、武士なども用いるようになります。 下絵を施した「太田切」 ( 頁 ) などの遺品や、型文様を両 雲田和 右 ( 古 面摺りした和製唐紙が登場します。なかでも、 「本願寺本三十六人家集ー笳頁 ) は、多彩な 和様の書と料紙 料紙と装飾加工による独自の空間構成にあわぎ、 3 る、、 平安時代になると和歌文学が盛んになり、日本独自の仮名せて、二十人の能書が文字の大小や墨色の濃 さんせき みちかぜ が成立します。十 5 十一世紀前半に三蹟とよばれた小野道風淡に変化をつけるなど、和様の書と料紙が融 ゆきなり すけまさ ( 八九四—九六六 ) ・藤原佐理 ( 九四四—九八 ) ・藤原行成合した見事な姿をみせています。まさに全盛 ( 九七二 5 一〇二七 ) が活躍し、和様の書が展開するのにと期の料紙装飾の粋を集めた、和様の書の特質、 ) 40 , もない、それまでの中国の料紙とは異なる、日本人の感性やを考える上での貴重な資料です。 美意識にあった料紙が発展を遂げます。雁皮の繊維を用いた 各種の染紙や、下絵を描いた料紙にいたるまで、和様の書に 茶の湯と掛物 ふさわしい上質な料紙への模索がはじまります。すでにこの 頃、行成筆「屏風詩歌切」に藍繊維を漉きかけた料紙がみら わび茶で最も尊重される掛物は、禅僧の筆 れ、『古今和歌集』の最古の写本で美しい仮名の最高峰であ跡である墨蹟です。中国に渡って修行し、そ いんかじよう きらすなど る「高野切」では、雲母砂子を撒いた料紙が文字の美しさをの修了の証として与えられた印可状や、師と せきとく 引き立てる装飾のあり方を示しています。 のやり取りを伝える尺牘 ( 漢字で書いた書状 ) ン さらに、十一世紀後半以降、鳳凰文などの型文様を摺り出など、さまざまですが、日中の禅僧らの交流 につそう からかみ ろうせん した舶載の唐紙 ( 雲母摺りや鑞箋 ) が、調度手本 ( 贈り物用が盛んになるにつれて、入宋僧による唐紙の の美麗な装飾本 ) の料紙として王朝貴族に珍重されるように使用例が増加します。たとえば日本に茶を伝 しいかぎれ らもんし
とか「墨をはじいた」は絶対許されません。 木村料紙制作では、「装飾よりも、紙を どのように仕上げるかという「加工ーが重要 ですよね。最終的にどのくらい書き心地がい いものを作れるかが大切で、装飾はその次。 小室料紙を理解して継続的に使ってくださ る書家がこの仕事を支えてくれているので、 やつばりその方々に喜んでもらえるのが大前 提ですから。 料紙以外に、どんなものを 作られていますか ? 木村私は金箔を切って材料として卸す仕 事もしています。箔を貼る職人さんはいらっ しゃいますが、箔を細かく切ったり細工がで きる職人は意外と少なくて。ほかにも商業施 設や神社仏閣の壁紙を金箔で装飾したり、砂 子や箔で加工した家具を作ったりもしてい ます。 小室私は料紙制作の仕事が大半ですが、料紙 を一般の人にも知ってもらうために、手に取り やすいものがあったほうがよいと思い、料紙の 装飾技法を生かした小物も作っています。 左・中 / 小室さん作のポストカード、ペーバーウェイト右 / 小室かな料紙工小室かな料紙工房茨城県常陸太田市大菅町 211-2 ◎ 0294-82-2451 ー http //kana 「yoshi.com/ 房では小室さん自らが楢の木の皮を煮出して作った自然染料を使う 左 / 木村さん作の料紙中 / かば桜花台。淡い 2 色のごく細かい砂子で装飾して装飾料紙鑑屋埼玉県北本市本町 3-155-2 いる右 / 金箔パーティション。料紙の箔装飾を生かしつつも現代的なデザイン◎ 048-598-4516 ー http://www kagamiya. co/ ( 中・右写真提供 = 装飾料紙鑑屋 ) 36
す。でも、料紙の職人については記録がなくてほしいなどと言われることもありますね。木村たとえば、使っている和紙や染料も違 どう かつらぼんまんようしゅう て本当に謎。職人の間には、よそに技術を見木村これも『桂本万葉集』という古筆の料いますし、墨のにじみをとめるために引く礬 せてはいけない、という風潮もあったんで紙です ( 左写真・上中 ) 。 砂の濃度すら違います。 しようね。祖父は古筆を複製する工房で働い 小室私は版木で摺っているところを、木村 小室木村さんの礬砂は私のものより、かな り薄いんですよね。 ていましたが、やはり分業で、それぞれの職さんは本金と本銀の絵の具で手描きしていま 人が話し合いながら作業を進めていたそうです。原本の古筆は手描きですから、それを忠木村濃くすると和紙がもろくなってしまう す。祖父はそこで話を聞いて、いろいろな技実に再現していますね。 ので、極力薄くして一工程ごとに引いては干 法を覚えたんです。 木村なるべく原本に近いものを作りたいと し、を繰り返しています。にじみどめを強く 木村大正から昭和の初め頃は、複製がさか いう思いは強いです。「ここはどんな筆遣いしすぎると表面にしか墨がのりません。紙の んでしたもんね。 繊維の隙間に墨がくい込むくらいに仕上げる かな」と実物や資料を見て研究しています。 のが私の理想です。 おニ人の制作工程は違いますか ? 古筆の料紙を再現することが 小室作り方はどうあれ、とにかく料紙は墨 主なお仕事なんですか ? がきちんとのることが第一。「墨がのらない」 小室だいぶ違いますね。 そうですね。書家の先生が古筆を臨書 した作品を作られることが多いんです。だか ら私たちも、古筆を手本に料紙を作る仕事が 一番多いです。 木村書道の展覧会や社中展で使ってくださ る書家が主なお客様ですね。だからお客様か ら質問を受けたときに答えられるよう、古筆 についても勉強しています。 小室「春の歌だから春のイメージで料紙を 選んでほしい」とか「この紙に合う歌を教え 口お 木村さんの作業風景。上 / 本金銀泥を用い、面 相筆などで下絵を描く中 / 木村さんが描いた 「桂本万葉集」の下絵下 / 約 0.2mm 幅に裁断し た野毛 ( 写真提供 = 装飾料紙鑑屋 )
のではないかと思います。 木村「料紙作家ーとして作品を作ってらっ しやる方はいると思いますが、商品として量 産している工房はめずらしいでしようね。 過去には料紙職人は たくさんいたんでしようか ? もともとそんなにいなかったと思いま すよ。たとえば、金を扱う技術は金を扱う職 人の間で平安時代から今までずっと伝わって 私と違い、彼女は本当に料紙が好きでこの 木村 小室さんは木版がお好きなんですよ いるはずです。染色や唐紙の技術はさらに昔 世界に人っているので、意欲が違いますね。 ね。ご自分で彫った版木もお持ちですし。 から。そうやって脈々と受け継がれている 私は初めからある程度の設備や道具が揃っ 小室基本は彫り師さんにお願いした版木を個々の技術とは別に、料紙制作をトータルプ ていましたし。 使いますが、自分で彫ることもあります。木ロデュースしていた人はきっといたはずです。 木村確かに、資料がなければ古筆の料紙は版画の工房にいたこともあって、料紙制作の木村江戸時代なら、たとえば光悦みたいな。 作れませんから、私の場合まず資料本を買いなかで版木を使う作業が一番好きですね。 ただ平安時代はどうだったのか : 集めるところから始めました。道具も少しず木村どの職人でも、得意な作業や好きな作 小室もちろん、ほかの技術に興味を持って、 っ揃えている途中です。古筆料紙の文様の版業はあるんじゃないでしようか。 自分でひと通りの工程をできた職人もいたと 木を一度に全部揃えるのは難しいので、今の もともと料紙制作は分業でしたから 思います。 ところ、得意な下絵や箔装飾を売りにしていね。染める人は染める作業、木版を摺る人は木村ただ、誰がやっていたのかがわからな すなど ます ( 笑 ) 。 いんですよね。 摺る作業、砂子を撒く人は撒く作業と、加工 えんぎしき 小室木村さんは日本画を勉強していたか技術によって分担されていたんです。私たち 小室『延喜式』には、当時、染色に使って ら、下絵装飾が本当に素晴らしいんですよ。 のように全工程を一人で担う職人は、少ない いた染料の分量や割合の記録が残っていま 小室かな料紙工房の道具類。上 / さまざまな種 類の版木。小室さんが彫ったものも中 / 祖父の 代から受け継いだ刷毛は、今は作られていない ものもある下 / 小室さんが使用する天然染料
九見か
同じ光でも、当て方次で見え方が変化 全体を照らすと・ 検証② 正面から照らすと・ 雲 下から照らすと・
朝日のよにフ = な 白い光 。をみタし当をー 白く強い光は、掛物全体をすが すがしく見せる。まるでたった 今書かれたかのような生々し さで、文字が浮かびあがる。 、歩角渡を変。えをと , ? 。、 い夛一、 夕日 ( 一のよ ) ? な 黄色い ( " 光 駄ぐあたたかな光を表、 . 含 めた全 # 当てるしやわらか な印象にな。ををとも唐紙っ ( 文様がぐ ? ぎリと見える。 さ、 ( 7. ) 豸クイ 1 、 2 わの一 52 明」 - ち , ッて】 0 いの 。イを ( 4 い」 / 第・わ
自然の光 検証 0 光の種類で、これだけ変わる 障子を通して入るやわらかな光、 庭の木々や茶室の壁の色を映す光。 さまざまな光が集まって、ほの暗 い床の掛物を静かに輝かせる。 立日がりを灯す かすかな光 とも きらきら輝くのではなく、静か ににじみ出るような文様が、重 厚感を醸す。灯したあかりの揺 らめきが見せる、幻想的な一面。