宇佐見の話はロ伝され続けた。その度に出てったらだめですねー うのか、嬉しくなっちゃうなあ 来るのが蔭で囁かれていた不満た。 ひてはいるが、潮崎に悪びれた様子はど急に喜び出した理由が判らずに武本はわず 言っていることは正しい、けれど、言い負こにもない。 かに首を捻る。 かされた気がして腹が立っ 「この際、はっきりお伝えしておきます。捜「ああ、先輩には判らないですよね。ご説明 おそらく今、目にしているのがその状況だ査本部にとって、あなたは文字通り猫の手でします。宇佐見君は僕のことを猫呼ばわりし ろうと武本は思った。ちらりと潮崎を見る。す . ました。そして僕は彼を鈴に喩え返した。先 ぽかんと宇佐見を見つめていた潮崎は、と急に出て来た猫の手という一言葉の意味を武に自分が相手を下に見た言動をしたのに、同 っぜん両手をぼんと音を立てて合わせた。 本は考える。すぐさま潮崎が「ああ、猫の手じ事を返されると腹を立てる人っているんで 「確かに。その通りだとしか言えません。僕も借りたいの猫の手ですねと言った。そうすよ。それも少なからず。でも宇佐見君はそ が間違っていました。大変申し訳ない。いやいうことかと納得している横で潮崎が続けうではなかった。それが嬉しくって あ、それにしても無駄のない、かっ丁寧な説る。 自分がされて嫌なことは人にもしない。そ 明でした。すごいなあ 「でも、そうなると宇佐見君は鈴になりませれは当然のことだろうと武本は思う。ごく当 自分の非を認めてひたあと、潮崎は嬉しんか ? 」 たり前のことを喜ぶ潮崎を不可解な目で見て そうに続ける。 " 猫の手も借りたいのことわざの猫が潮崎いると、さらに潮崎が話し出す。 「宇佐見君みたいに、自分の考えていることならば、そのお目付役である宇佐見は " 猫の「つまりそれって、神社の鈴緒に着ける鈴 を簡潔に、しかも相手に伝わるように話した首に鈴つける″の鈴だということだろう。 と、キーホルダーに付ける鈴の違いというこ いと常々僕も思っているんですよ。でも、ダ「そ , つです。ですが、猫がいなければ鈴は必とですね。 ーーーうん、確かに宇佐見君は見た メなんですよねえ。なぜか、話があっちこっ要ない。物には適材適所があるんです , 目に反して鈴緒の方だしなあ。そうなると、 ちに脱線してしまって。先輩にもそれで随分探るような目で見つめる潮崎に、真面目な僕は自分の身体と同じくらい大きな鈴を着け とご迷惑をお掛けして。横浜の一件でも」顔で宇佐見が言い返す。一度瞬きをした潮崎た猫になるわけですね。そっか、がんばらな 「今、まさに脱線していますー が、晴れやかな笑顔に変わる。 くちゃなあ」 宇佐見が遮る。 「宇佐見君も武本先輩と同じでぶれない人な潮崎はなぜか心底嬉しそうだ。視線を感じ 「ーーー本当だ。すみません。もう、本当に僕んだ。いや、これはすごい。ありがたいといて見ると、物言いたげな目で宇佐見が武本を 162
なく彩香は続ける。 なると、さすがにそうも一言えない様子だ。 宮野は気色ばむが、彩香は軽く受け流す。 4 「あのときはただの警告だったのかもしれま「だったら、僕らはなるべく外出しないほう 「べつにお金が欲しくてタスクフォースに加 せんけど、いまは状況が違ってきてるからー がいいかもしれませんね。買い物とか外へ出わってるわけじゃないですから。ただ溝ロと 「村田には金があるからね。依願退職なら退る用事は宮野さんに任せて」 いう男の動きはチェックしたほうがいいと思 職金もきちんと出るし、それに加えてたんま井上が真面目な顔で言っ。宮野は滅相もないます。住所は聞いていますの り手切れ金を渡す。そうすれば、溝口を警察いと首を振る。 「電話番号はわからないのか」 組織とは無縁の鉄砲玉として野に放てる。連「おれだって狙われかねないよ。浮田社長が鷺沼が訊くと、彩香は首を振った。 中ならやりかねないな」 逮捕されて、もうおれと福富の正体はばれて「固定と携帯と両方にかけたんですが、出な 三好が物騒なことを言っ。鷺沼も背筋を薄るかもしれないし。現に鷺沼さんの身代わりいんです。知らない番号の電話には出ないよ ら寒いものが走るのを覚えた。 に殺されかけたんだしね」 うにしてるんじゃないかと思いますー 「こっちも追い詰められてはいますが、向こ「そこは宮野さんの悪運が頼りです」 「チェックするといっても、どうやって ? うは我々以上の危機感をもっているでしよう 「これだけ悪いことが立て続けに起こってる「課長は捜査を打ち切りにすると言っていま からね」 んだから、そんなのもう底をついてるよ。どすが、私の上司にあたる主任がまだ納得でき 犯罪の発覚をいちばん惧れるのは失うものうしても出かけなきゃいけないときは、彩香ないようで、上に黙ってもう少し動こうと言 がある連中だ。そういう意味では柿沢などまちゃんに警護を頼むしかないかもね」 うんです。それであす、千葉市内の自宅に出 だ小者だが、杉内次長を筆頭に、村田を取り急にちゃん付けで呼ばれても、彩香は少し向いてみようと」 巻くお歴々には大いにそれがある。 も嬉しそうではない。 「君も一緒に ? 「たしかに、連中にとっていちばん安心なの「私も日常業務があるので付きっきりという 「もちろんです。もし顔を見せれば気配が察 は、鷺沼さんたちがこの世からいなくなるこわけにはいきません。それに村田一派からす知できるかもしれないし、家を空けているよ とだからね。まさかとは思いたいが、その手れば、宮野さんは目じゃないと思います」 うなら、それ自体が危険信号と見なせるかも を最終兵器と考えていないとも限らないよー 「おれが目じゃないって、どういう意味よ。 しれませんので」 宮野は深刻な顔だ。いつもなら鷺沼の不幸そういうロを利くんなら、おまえにやれる分「しかし溝口がそういう危険な人物たとする は自分の幸福と決めてかかるが、この状況とけ前はないよー と、君たちも十分気をつけないとな」
いうくらいにぼかしておいた。 とになりますからー 最後の切り札は、けつきよく警察官として 「その通りだよ。鷺沼さんもビジネス感覚がここまで捜査を進めてきた鷺沼たちなのだ。 プログの主は、その事件の継続捜査をして 冴えてきたじゃない。そのときはまたおれとその身分が今後どうなるかはわからない。し いる警察関係者であるとだけ匂わせておいた 福富の出番になるわけだ」 かし鷺沼たちが把握している事実こそ、彼らが、村田たちがプログの存在に気づけば、そ 宮野が張り切り出す。鷺沼は問いかけた。 にとっては恐怖の根源なのだ。 れが鷺沼たちだということはすぐにわかる。 「こうなると、『月刊スク 1 プ』の偽名刺は「おれたちと心中する覚悟があるんだな」 いまさら正体を隠しても始まらない。先ほど 使えないぞ。どういう立場で接触するんだ」 念を押すと、宮野は胸を張る。 の宮野の言葉のように、刺し違える覚悟でプ 「もうばれてるんだろうから、しようがない「そりやそうだよ。おれと福富は安全なとこレッシャ 1 をかけるしかない。 じゃない。鷺沼さんたちとグルだという立場ろにいて、金だけ懐に入れるなんて、そんなその日の深夜にはプログは完成し、それを をはっきりさせて交渉するほうが、むしろ村ふざけたことできるはずないじゃない。そうネット上にアップロードした。井上はさっそ 田たちは嫌がるはずだよ」 いう信義があってこそのタスクフォースなんくそのプログを紹介するいかにも気を引くメ 「作戦が裏目に出て、恐喝罪で摘発してくるだから」 ッセージをツィッターで発信した。 ようなことになったら、あんたや福富もその言うことは立派だが、出番がなくなって分福富にプログのアドレスをメールで伝える 対象になるぞ」 け前が減るのを心配してのことだろう。だとと、さっそくチェックしたようで、すぐに向 「そこはもう福富とも話をしてるよ。もちろしてもそこまでの覚悟があればよしとするべこうから電話を寄越した。 んそのときは刺し違える覚悟だけど、おれたきだろう。 「なかなかいい出来だよ。おれもいますぐ続 ちがそう腹を括って攻めていったら、逆に向雑誌掲載を前提にして資料を整理していたきが読みたくなった」 こうは慌てるんじゃないの。村田なんて、どので、記事は鷺沼が書くことにした。初回の「せつかく逃げたつもりでいたのが、また新 うせそこまで腹が据わっちゃいないからね . 内容は、六年前の事件の概要と当時の捜査の手が飛ひ出して、連中も対応に苦慮するはず 宮野は舐めきったロを利く。落ち込んだり杜撰さ、存在したはずの巨額の現金の行方、だよ。上手く火が付けばだけどねー 舞い上がったり、忙しいことこのうえない村田を巡る不審な金の動きまでに留め、あと「心配ないよ。あんたたちには心外だろう が、言っていることはそれほど間違ってはい は乞うご期待としておいた。村田の名前はイが、世の中の人間の半分以上は、警察を胡散 ガし ニシャルだけで、役職も警視庁の大物官僚と臭い組織だと思ってるからね。その内幕をさ 402
れしたせいで劇団内がやばいことになってるいですか ? 」というメールが来て、即、「今それはあまりに冷たくないか。とはいえ、後 と深刻そうに告げ、詳しいことは帰ってから日は無理です」と返す。 田中は前からイアーゴーを演じたかったのだ 話すと電話を切った。 稽古場に行くとすでにみんな揃っていて、し、稽古をサポタージュした岩清水に対して すると真由からのメール。絵文字無しの一僕はまず大曽根さんの様子をうかがう。こちプロとして厳しい態度で臨もうとするのも理 文のみ。 らに何か一一 = ロうでもなく、いつも通りそっけな解できないことはない。 「佐藤さんにとって、私はどういう存在なんい態度で、とりあえずほっとする。 「今から台詞覚えんの、大丈夫なのか ? ー ですか」 岩清水の件に関しては、岩清水に電話で謝松井はすぐに賛成するかと思いきや、心配 うわ、たぶん怒ってる。こ , ついうときは直るという約束を松井から取り付けた後、「劇そうな顔つきだ。 接話さないといつまでもメールのやり取りが団員全員がシミを待っているのだからそれで「おれ、意外と得意なのよ。しばらくは大曽 続くので、すぐに電話して平謝りし、今は劇譲歩してほしい」と岩清水を説得しようと思根さんにプロンプやってもらうことになるだ 団内がやばいことになっているとさっきと同っていた。岩清水の本心は公演に出たいに違ろうけど、これで稽古は続けられる。ほら、 じことを繰り返し、落ち着いたらゆっくり会 いなく、岩清水が戻ってくるのを全員が待ちこないだ来てた『熱風大陸』のプロデューサ むらやま うから少し待ってほしいとなだめだ。 望んでいるという状況を伝えれば、たとえ松ーの村山さんが、シミと連絡取れないから、 井がみんなの前で頭を下げなくても、岩清水おれのほうにいっ稽古の撮影できるかって聞 次の日の稽古は午前十時からで、芝居の後が稽古に復帰しやすいのではないかと思ったいてきててさ。公演が中止になるのも、稽古 半部分を重点的に稽古することになってい のだ。 が中断するのも、おれとしては何としてでも 一」 0 ところが、後田中がいきなり宣言した。 避けたいわけ 今日は僕が演じるエミリアの出番が多く、 「おれがデズデモーナとイアーゴーの一一役を後田中としては、自分のドキュメンタリー 役者として真剣にやらなければいけないのだ演じる。デズデモーナとイアーゴーが同時に番組をドラマティックに盛り上げてイメージ が、目が覚めたときから、大曽根さんにどう舞台にいる場面は少ないから、その場面は代アップを図りたいということなのか。純粋で こうかっ 釈明したらいいか、岩清水に対して今後どう役を後ろ向きに立たせたり、セリフを工夫す高貴な乙女であるデズデモーナと、狡猾で身 いう対応をすべきか、そっちにばかり気を取れば、出来ないことはない」 分の低い旗手であるイアーゴーを演じ分ける られていた。朝八時に真由から「今日会えな 後田中は岩清水を見捨てるつもりなのか ? というのは、役者としては腕が鳴るところな
の誤解で、彼女は真剣に思ってくれているの音楽堂前にはすでに麗子が来ていて、私にウチの所長も野心には無頓着ですよ。小判の 入った菓子折りより、おいしい饅頭だけの菓 かもしれない。いや、そう思わせる罠の可能気付くと顔を上げた。 子折りの方が有効かもしれない。ウインドミ 性も : : : 迷っていたとき、電話がかかって来「黒崎さん」 ル探偵事務所は、何もやましいところはあり た。表示は麗子だ。 その顔はどこか悲しげだった。 「こんな時間にすみません。実はどうしてもません。誓ってもいいですー 「沢木です。これから会えませんか」 思いつめたような声だった。麗子も仕事を話しておきたいことがあって」 麗子はロを開け、目を瞬かせた。 「あの、黒崎さん : : : 言っている意味がよく 終えたばかりだという。どうしたのだろう。 「何ですか」 ここ新橋と検察庁は近い 私が問いかけると、麗子は白く大きな息をわからないんですけどー 吐き出した。 きよとんとした麗子の顔が目の前にある。 「ええ、わかりました」 三十分後に日比谷公園で会うことになっ 「初めてお会いしてから、黒崎さんのことを私はそれが演技には見えなかった。 素晴らしい人だって思ってきました。思い切「ウチの事務所の内部情報を探るため、近づ いて来たんじゃないんですか , って婚活を始めてよかったって」 日比谷公園にも多くのカップルの姿があっ 私はごくりとつばを飲み込んだ。 私の問いに麗子は噴き出した。 た。約束した音楽堂前にゆっくりと向かう。 「ただずっと悩んできました。このことを一一 = ロ「ああ、今噂の : : : まさか。そんなことする わけないじゃないですか。だいたい東京だけ 麗子は心から私を思ってくれている。あるいうべきか否かって はあくまで仕事として、悪事を暴こうと近づ言いづらそうにしている麗子を見ながら私でいくっ探偵事務所があると思っているんで いて来た。真実はどっちだ ? は思った。やはり彼女は・ : ・ : 先んずるようにす ? それに汚職問題は私の担当じゃありま いや、どちらも正解かもしれない。 せんし , 私が口を開いた。 つまり贈収賄事件を暴くために私に近づい「沢木さん、あなたはそこまでして、汚職をそうだったのか。では今日の用件はなんだ 偵 ろう。急に不安になって来た。 て来たのも正しく、私を気に入ったのも正し追及したかったんですか。 探 「こういうことは本来、相談所に伝えればい妤 いということだ。もしかすると、これまでの憐れむ目で私は麗子を見つめた。 と言われたんですが、それでは自分の気持 ことをすべて打ち明けるつもりなのかもしれ「正直に言ってくれれば、協力したんですがい ない。私はその時、どう応じればいいのか。ね。私は何も怪しいことはしていませんし、ちに納得がいかなくて。さっき言いかけたん 」 0
こ 0 い総務部長が、笹子を呼び出し、きびしく通て、月一ペースの下版も担当した。 「いっか記事にされちゃうんじゃないの ? 告をしたのに、本人は屁理屈ばかり並べて、 もちろせつかちで無駄の嫌いな西田編 そういう社員がいるとー 言 , っことを聞く気配がない 集長の体制下、自慢げに言っほど、忙しくは そう訊かれた時点で、青雲社の社長が、肝無試験の、紹介で採用したのに、なんたるなかったけれども。 心の週刊誌の記事を読んでいたかどうかは知恩知らずめ ( と言いたかっただろう、実際に ここでなにか大きなヒット作を自力で出せ らない。 はロにしなかったが ) 。 れば、以降も会社に居やすくはなるだろうな 普段からちやきちやき、話し好きな女主人っづく第一一回の面談では、総務に異動になとは思ったりもしたけれど、思っていきなり の言葉のニュアンスも ( 笹子もそのお店にはった一兀漫画編集部の強面、どーんと体の大きヒットを生み出せるなら苦労はしない。そし よく通っていた ) 、冗談なのか忠告なのか、 な六川さんも、ネクタイ姿で同席して、 てそれ以外、もめ事を回避するためにできる そもそも本当にそんな台詞だったかもわから「あのさ、君。男と女は違うものだよ。そうことを、笹子はほとんど思いっかなかった。 ないのだけれど、まず常識的に考えて、そういうふうにできてるんだよ」 その時点でもう一回、ささばんに戻る、と いった話題が週刊誌にわざわざ取り上げられと謎のレクチャーまでしてくれた。もちろ いう選択肢はあったのか。なかったのか。 たのは、その記者が大手新聞社に勤務していん、向こうもそんな話をしたくはなかっただそれまで長い時間をかけて、こっこっ、こ るから、というのが大きなポイントだったのろうけれども。 っこっと女性化し、えい、と踏み出した一歩 は間違いないだろう。 そうやって夏までに、あと一、一一度ほど呼が、 ( たまたま週刊誌の記事とタイミングが さすがにそれくらいは、青雲社の社長も理ばれただろうか。 合ったとはいえ ) やはり会社側から問題視さ 解していたと信じたいのだけれど、それでただ、そこで揉めているからといって、笹れたのだから、とりあえず表立って文句を一一一一口 も、やはり行きつけのレストランの女主人に子は特に仕事から外されるわけでもなく、相われなかった位置まで下がって、また様子を いじられ、いよいよ笹子のことは、放置して変わらず「週刊大人漫画クラブ」の編集をし窺う、という方法を取ることはできたのかも おけない案件になったと感じたのかもしれなていた。 しれない。 連載を何本か抱え、ゲストの枠も担当したべつにスカートをはかなくたって女。 ことが大きくならないうちに、きちんと処週には、案外多くのページ数 ( 八十ページほ実際、年若い友、まうじ子などは、系列の 置をするように、とでも命じられたに違いなどだったか ) をひとりで入稿し、班長としフロに入社した年に一度、ちょうど退職し 2
と、十津月力、吉川警部にいった。 「このなかの千石亜細亜は、只裁判に呼ば「千石ファンドを手に入れようとした人間 「千石商会が戦時中、いちばん大量にアヘンれたそうです。、もし出頭していたら、たぶに、誘拐されたんだと思いますね , を扱っていた時は、どのくらいの量だったのん、文明に対する罪で、有罪になっていたで「その犯人は、小西大介と思いますか、それ かをきいてみたら、現在の金額で、五十兆円しよう。それを、小西大介と彼の家族が、必とも、例の五人と思いますか ?. くらいとい , っことでした」 至になって匿まったので、千石亜細亜は、助「たぶん、五人のほうでしよう。小西大介な ら、子供時代に、小西果樹園に一緒にいたわ かっています」 「そんなに儲かるんですか ? ー けですから、千石典子を拷問したりはしない ・「とにかく、アヘンほど、儲かるものはない 「そうなると、千石亜細亜が、そのお礼に、 そうです。それを動かすだけで、利益が増え千石ファンドのことを、小西家の誰かに、話と思います。それに、小西大介は、何者か に、殺されてしまっています る。アヘン三十グラムが、当時の金で、天津したのかもしれませんね , で四十円、上海で八十円、シンガポールで百「それですが、小西家が、自分の果樹園を拡と、十津川はいった。 六十円と、倍々になったそうです。したがつ大しようとした時、千石亜細亜が、資金を出「小西大介を殺したのも、五人の男たちだと て、千石商会は、それぞれの町に支店を設しています。しかし、それ以上のことは、し思いますかを け、その支店間でアヘンを動かすだけで、儲ていません。しかし、そのまま、千石亜細亜「断言はできませんが、その可能性は強い と、思います」 けが倍になっていったのですー が、何も残さずに亡くなったとは、思えない 「それなら、千石ファンドが、百兆円あってのです。自分の息子、あるいは孫の千石典子「これから、五人の男たちは、どう動くと思 に、何か残していったと思うのです。例えいますか ? 、 も、不思議ではないということですね」 「だから、例の五人は、血まなこで探していば、千石ファンドは、どんな形で、どこに残「清心院に入院している、千石典子が治った るんでしよう」 してある。それを手に入れるには、どうすれら、もう一度、誘拐しようとするでしよう件 事 しいいかといったことを告げてから、亡くなね。今のところ、ほかに、千石ファンドを手 「殺人も平気でやるわけですね」 と、士ロ月力、いった。 ったと思うのです」 石 仙 十津川は、アルバムにある写真のなかから「大いに、あり得る話ですね。しかし、千石 文 千石亜細亜、太平洋、そして典子の一一一枚を、典子は、現在、精神を病み、記憶を失ってい 葉 定価 本体 676 円 + 税双 2 テープルの上に置いた。 ます」 十津川警部捜査行 殺意を運ぶリゾート特急 西村京太郎
豊作ですよ , 一一ャける風見を横目に、私も事務所を出と逃げていた。これは過去に向き合うちょう「すごいー どいい機会かもしれない。無理にそう思うこ初めて入ったが、普通のアパートの一室く 電車に乗って、いつものように巣鴨で降りとにした。 らいのスペースに、猫が一一十匹ほどもいる。 る。コートの襟を立てて、公園のべンチに座 「ここでは引き取り手のなかった子たちが頑 り、真っ白い息を吐き出した。 一一日後、待ち合わせ場所には、私の方が先張っているんですよ。里親も募集中です」 にいた。 店の人が説明してくれた。いかにも血統書 新菜については子供の頃から知っている。 あまり家にいなかった父親に代わって、祖父クリスマスを直前に控え、渋谷のハチ公前付きという上品そうな猫はおらず、いつも公 にお嬢様として育てられたからだろう。わがもいつにもまして華やいだ雰囲気だ。お蔵入園にいるさび猫を少しだけ綺麗にしたような ままで、こうと決めたら意地でも譲らないとりになっていたオシャレ中年変身セットがよはかりだった。しかし、麗子は目を大きく 見開いた。 ころがあった。彼女が事件の調査を依頼してうやく日の目を見た。 すこいー きた理由は、本当は真相を知ることなどでは麗子は赤いコートに茶色のロングプーツと「かわいいー いういでたちで現れた。リボンの付いたウー ほとんどが人懐っこいが、ふてくされてい あるまい。私を尊敬する八神の前で、過去の ルハット。精いつばいのおしゃれという感じる猫もいた。私は三毛猫を撫でようとした 失態を暴くためだろう。 が、麗子にすり寄っている。ゴロゴロとのど そう思ったときにが入った。交際一だった。化粧はあまりうまくない。 「待ちましたか」 を鳴らすのを見ながら苦笑した。 中の検事、沢木麗子からだ。 「初めて来たんですけど、なんかもうパラダ こんばんは。沢木です。久しぶりに休「いえ、行きましよう」 みが取れました。明後日ですけど、渋谷にあ私はスマホのナビで、目的地を探すふりをイスですね、ここ」 した。約束した通り、猫カフェに向かう。実麗子は光の『パラダイス銀河』 る猫カフェに行きませんか。 ( > 0 > ) そういえば麗子は前に会った時、猫カフェ際にはかなり前に渋谷に来て、場所はチェッの冒頭を口ずさみつつ、猫の楽園を満喫して に行きたいと言っていた。渋谷か : : : ちょ , っク済みだ 9 しばらく歩いて、雑居ビルに肉球いた。客は若いカップルや子供連ればかり。 仕事に疲れた中年男性は彼らにどう映ってい ど渋谷署の事件を考えていた時に、皮肉なものような看板を認めた。 るだろう。パラダイスというか拷間た。 のだと思いつつ、早速の返事を出した。 「あ、ここみたいですよ。 一一階にある猫カフェに足を踏み入れる。 「うわあ。幸せー 考えてみれば、私は一一年前の事件からずつ こ 0 326
て、あれ、大曽根さんって小柳のことが好きるかと思って待つが、人生そんなにうまくは 「ええ、わかりました」 「ありがとう。それから、昨日の夜、僕と一なはずなのに、どうして岩清水のことをこんいかない。歩きながら、小学生の息子と楽し なに心配してんだろうなと思った。 そうに話している男とすれちがう。ああ、今 緒に歩いていた女性のことなんだけど : スマホをチェックして、岩清水から連絡が日は久しぶりに下の子と一緒に風呂に入るか 「ああ、私、見なかったことにしますから」 大曽根さんは、そんなことどうでもいいとないことにため息をつく。そして真由からまな、と思って足を速めた。 たしつこくメール。三十分でもいいから会っ いう感じでさえぎり、さばさばと一一 = ロう。 翌日になると、岩清水からは、連絡がない 「今は岩清水君や公演のことで頭が一杯なんてほしいという。 です。別に佐藤さんがプライベートで何して僕は若い女性から男として求められているどころか、携帯さえつながらなくなってしま ても芝居とは関係ないですしい『不倫はダメ』んだぞー・そう思う一方で、大曽根さんのどった。不安になって小柳に電話する。 「携帯の充電が切れたんじゃないの。たいし って決めつけるような頭の固い人が芝居やっこかあきれていたような表情が頭に浮かび、 ても、人の心は動かせないと思ってます」 今までひそかに大事にしていた真由との関係た理由じゃないよ」 「シミ、大丈夫だよな」 そう一一 = ロって立ち上がり、佐藤さん、エミリが、急につまらないもののように思えてくる。 アってすつごくいい役です、裏方のことは私今日は会えません、とメールしようとし僕は事故とか自殺とか、悪いことばかり考 がやりますからもっと役者としてがんばってて、それすらもう面倒になってやめる。岩清えてしまう。 ください、じゃあお疲れ様でした ! と、言水に電話して、留守電に向かって訴える。 「大丈夫だよ。それより、シミって今どこに うだけ言ってさつばりしたような顔で行って「ゴタナカがイアーゴーをやるって言ってるいるんだろな」 しまった。 けど、どうすんだよ、それでいいのか。シ、「そんなの、わかってたらとっくに捜しに行 ・シャーやってるよ」 苅こ言ったよな。アントニー 僕は拍子抜けした。大曽根さんに糾弾されミ、目ー たかはしよう なかったことを安堵すべきなのに、いざそうケネス・プラナーや高橋洋でもない、岩清水「変なこと思い出したんだけど、シミが前 に、おれは稽古場で起きたどんなことでも見 なってみると、何だか軽んじられたようで面ィアーゴーを見せてやるって。それ、見たい 白くなかった。要するに、大曽根さんは男と、よ、見せてくれよ。早く一 , 緒に稽古やろう。逃したくないから、稽古の途中でどんなにオ シッコしたくなっても我慢して、絶対席をは しての僕に何の興味もないから、僕の不倫に待ってるからな ! も関心がないということなのだ。そこで初め電話を切って、すぐに折り返しかかってくずさないって言ったんだよ。それくらい稽古 388
浮田の口から漏れたのかどうか知らない 「どういうおもてなしをしてもらえるのか知よ。腹を割って話して損なことはない」 が、やはり宮野と福富のことはばれているよりませんが、できれば別の場所でというわけ「忌憚のない話ができるのならやむを得ない にはいきませんか」 でしよう。あす何時に伺えばいいんですか」 「交渉とおっしゃいますと、金でけりを付け警戒心を隠さない鷺沼に、柿沢は笑って応「午後七時でどうかね。君はいま休暇中のよ じる。 ようというお話ですか」 うだから、とくに差し障りはないと思うが 「君たちの本音がそこにあるのは百も承知だ「まさか警視庁の首席監察官ともあろう人休暇を取るしかない状況に追い込んだ連中 よ。あすの夜にでも、村田さんの自宅に足をが、自宅で君に危害を加えるようなことをすに言われるのも腹立たしいが、それも含めて 運んでもらえないかね」 るはずがないだろう。それじや犯行の前に、 しつかり落とし則を付けるには、ここは話を 「村田さんのご自宅へ ? 」 自分が犯人だと名乗るようなものじゃない 合わせるしかない。 予想もしない話に鷺沼は身構えた。さりげか」 「ええ。お陰で暇をもて余してますから」 ない調子で柿沢は言う。 言っていることは筋が通っているが、危害「いやいや、べつの仕事でなかなか忙しいと 「村田さんは落ちついて話したいとおっしやを加えるというような話を向こうから持ち出お見受けするがね」 るんだよ。人に聞かれたくない話でもある。すことがそもそも不審だ。ここで柿沢が登場「柿沢さんも同席するんですか . 条件は君一人で来てもらうことだ。神奈川県したこと自体も、やはり気にくわない。 「私は使い走りをしているだけで、立場とし 警の不良刑事や一兀やくざのレスト一フン経営者「そうは言っても、交渉ごとというのは場所ては部外者だよ。村田さんがあくまで差しで などという物騒な連中にはご遠慮願いたいんも重要です。そちらはホームでこちらはアウ話をしたいということだよ でね」 ェイというのは公平じゃないですから」 「わかりました。くれぐれも小細工はなしで 浮田は思っていた以上にロが軽かったよう渋る鷺沼に三好が受けろというように目配お願いします」 で、柿沢はこちらの手の内はすべて承知だとせする。むろん千載一遇のチャンスではあ最後に嫌みを一つ言ってやったが、柿沢は いうロぶりだ。かといっていま起きている事る。ここで断ってふいにするのも馬鹿な話愛想よく受け流した。 軍 態までは想像していなかっただろう。慌ててだ。こちらの気をそそるように柿沢は続け「心配は要らないよ。奧さんが美味しい手料孤 いるのは間違いないが、これまでのことを考る。 理を用意するそうだから、多少の息抜きにも えれば、なにか画策しているに違いない ( つづく ) 「村田さんも大きな決断をしているはずだなるんじゃないのかねー