090 法学セミナー 2016 / 10 / n0741 である。 LAW CLASS 第 2 に、生命・身体に対する凶器等による攻撃に 対し、その凶器等を奪って反撃した場合である。 のような場合は、凶器等を奪い取った時点で、通常 は防衛行為者が優越的立場にあると考えられるので 防衛行為の相当性が否定されることが多い。ただし、 侵害者の体力・カ量が防衛行為者のそれを相当程度 上回るとか、防衛行為者が負傷しているなど侵害者 に比べて優越的な立場にあるとはいえないような特 別な事情がある場合は別である。 以上に対し、防衛行為の相当性が肯定されること もあれば否定されることもあるのは、生命・身体に 対する凶器等による攻撃に対し別の凶器等を用いて 反撃した場合である。このような場合は、侵害者と 防衛行為者の優劣関係は事案によってまちまちであ り、当該事案における具体的な諸事情を総合的に判 断するしかない。なお、 1 人による侵害に対し複数 で反撃する場合や、銃を使用して反撃する場合は、 相手の生命・身体に対して重大な危険を及ばす可能 性が高いので相当性が否定されることが多い。 [ 2 ] 防衛行為と代替行為との比較 ( 本審査 ) 予備審査では、侵害行為と防衛行為の危険性を比 較し両者にバランスがとれているか否かを判断し た。これにより、防衛行為の相当性はある程度まで 推測できる。 しかし、それだけで相当性の有無が決定されるわ けではない。当該防衛行為が必要最小限度のものと いえるかは、 ( 現実には行われなかった ) 代替行為と の比較検討を通じてはじめて判断できる。なぜなら、 侵害者に与えるダメージが小さい手段が存在し、そ れをとるべきであったといえれば当該防衛行為は必 要最小限度ではなかったと評価されるからである。 そして、こうした代替行為が存在するか、また、 それをとるべきであるといえるかは、侵害行為、防 衛行為それぞれの危険性を踏まえなければ判断でき ない。そこに予備審査の意味がある。 それでは、防衛行為と代替行為の比較検討の結果、 当該防衛行為が必要最小限度のものとして相当性が 防衛行為の相当性が認められる第 1 の類型は、当 ア危険性の小さい代替行為が存在しない場合 認められるのはどのような場合であろうか。 該防衛行為よりも危険性の小さい代替行為が存在し ない場合である ( 唯一手段性 まず、防衛行為者が、その能力や周囲の具体的状 況を考慮しつつ、侵害現場で選択しえた防衛手段が 当該防衛行為しか存在しないのであれば、たとえ重 大な結果を惹起したとしても当該防衛行為は必要最 小限度のものといえる。 例えば、【間題 12 】の甲は、暴漢の襲撃を免れる ためには投石するしかなかったと考えられるので、 V に重傷を負わせても正当防衛となる。 次に、侵害現場で選択しえた防衛手段が他にも存 在したとしても、その手段では防衛効果が確実に期 待できなければそれは代替行為にはなりえないの で、当該防衛行為は必要最小限度のものといえる。 さらに、侵害現場で選択しえた防衛手段が他にも 存在したとして、その手段か当該防衛行為よりも危 険性が小さいものでなければ代替行為にはなりえな い。したがって、危険性のより小さい代替行為が存 在しなければ、当該防衛行為は必要最小限度のもの といえる。 結局、侵害現場で選択しえた防衛手段のうち、防 衛効果が確実に期待できる防衛手段であって、かっ、 侵害性が最も軽微な手段がまさに必要最小限の手段 であるから、そのような手段をとった行為は「やむ を得ずにした行為」に当たるのである。 【間題 15 】において、甲は刃体の長さ 13.5cm の殺 さがっていた。甲の罪責を述べなさい。 た、唯一の退路である石段の前には V が立ちふ く付近の人家まではかなりの距離があった。ま 亡させた。なお、当時、神社境内には人影もな 刺し、よって V を外傷性失血によりその場で死 V の左胸部、右胸部および左頸部を各 1 回突き たので、甲は無我夢中で抜き取った出刃包丁で 石のような物を手に持って V に殴りかかってき さっている出刃包丁を抜き取ったところ、 V は わされた。甲は、夢中で右大腿部内側に突き刺 を刺され、血管および筋肉損傷を伴う刺傷を負 ていた出刃包丁 ( 刃体の長さ 13.5cm ) で右大腿部 ところで友人 V から因縁をつけられ、隠し持っ 甲は、ある夜、神社の境内の石段を上がった 【間題 15 】神社境内刺殺事件
096 法学セミナー 2016 / 10 / 8741 LAW CLASS 参考になるのは、前記最高裁平成 16 年決定であろう。 この判例は、次のような事案を扱った。 X は、 D 名義のカードを手に入れると、ガソ リンスタンドで D に成り済まして当該カードを 使用し、自動車に給油を受けた。当該カードは 当初は D から E に渡されており、 E の使用が D によって認められていたという事情がある。 E と接点があり、何らかの経緯によって当該カー ドを入手した X は、 D から当該カードの使用が 許され、自らの使用に基づく代金相当額の決済 も D によってなされると信じていたと主張した。 この事例においては、【事例 3 】などとは異なり、 実際は、 X のカード使用は名義人 D によって承諾さ れていない。ここで問題になるのは、 D の承諾があ るという X の誤信が詐欺罪の成立を左右するのか、 具体的には錯誤に基づく故意阻却という効果を生む のか否かである。これに対して、前記最高裁平成 16 年決定は、 X による当該カードの使用がガソリンス タンドに対する関係において詐欺罪を構成すると認 めつつ、「仮に、被告人が、本件クレジットカード の名義人から同カードの使用を許されており、かっ、 自らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に 従い名義人において決済されるものと誤信していた という事情があったとしても、本件詐欺罪の成立は 左右されない」と判示した。この判例の趣旨は、次 のようなものであろう。すなわち、カードの使用が 名義人の意思に反する点は、詐欺罪の構成要件に該 当する事実を基礎づけるものではなく、また、名義 人の承諾がある点もそれだけでは詐欺罪の違法性を 阻却する事由には当たらないということである。 のように解することができなければ、【事例 6 】に おいて x の誤信が詐欺罪の成否を左右しないという 結論を導き出すことができない。 こで、【事例 2 】において、加盟店に対する関 係で詐欺罪の成立を認める立場からすると、名義人 の意思はその詐欺罪の成否に影響を与える事実とは いえず 9 、したがって、名義人の意思に関する誤信 も詐欺罪の故意責任の有無には関係がないように思 われる。しかし、このような判例に内在する論理を そのまま援用すると、【事例 3 】、【事例 4 】、【事例 5 】 【事例 6 】 においても、 X について、加盟店に対する関係にお いて 1 項詐欺罪の構成要件該当性を否定することは できない。これらの事例において、そのまま 1 項詐 欺罪の成立を認めるのであれば、異論が生じると思 われる。ただ、判例があくまでも事例に基づく判断 を示したにすぎないと解するのであれば、【事例 3 】 などにおいて詐欺の成立が否定される余地がないと はいえない圸 学説の中には、判例と同様に、名義の偽りをもっ て加盟店に対する詐欺罪の成立を認めつつ、例外的 にその成立が否定される場合があると認めるものが ある。例えば、【事例 3 】や【事例 4 】のように、 名義人の親族が使用する場合や名義人に依頼されて 第三者が使用する場合には、詐欺罪の実質的違法性 がないと指摘されている幻。これらの事例において 実質的違法性がない、あるいはそもそも詐欺罪の構 成要件に当たらないとするならば、その根拠は、名 義人の個別的な承諾に基づいて、使用する第三者に 対するコントロールが及んでおり、その使用に対す る決済が名義人の口座によって確実になされる見込 みがある場合には、第三者による使用が実質的には 名義人による使用と同一視することができることに 求められるであろう 22 。あるいは、【事例 3 】につ いては、使用者と名義人が同一の消費生活を営んで おり、その生活が名義人によって経済的に支えられ ていることを根拠に、名義人の親族による使用が名 義人による使用と同一視されると考えることもでき る 23 ) 。使用者が名義人と実質的に同一視できるとい う観点からは、【事例 3 】や【事例 4 】においてた だちに詐欺罪の成立を肯定することはできず、判例 もこれらの事例において詐欺罪を否定する余地を残 していると思われる 24 ) それでは、【事例 5 】のように、第三者による使 用が名義人による使用と同一視することができない 場合に、詐欺罪の成立を否定する余地はないのであ ろうか。名義人が被害者としての立場にあると解す るのであれば、名義人が第三者の使用に関する決済 を引き受けていた場合には、たしかに名義人に対す る関係において詐欺罪の成立を否定することができ るであろう。しかし、問題となるのは、【事例 5 】 において、名義人の承諾があることを理由に、加盟 店に対する関係においても詐欺罪の成立を否定する ことができるのかということである。こでは、名
092 法学セミナー 2016 / 10 カ P741 LAW CLASS いうことのほかに、危険性の少ない代替手段をとる ことを期待することが困難であるという事情があっ た。たしかに、右肩を両手で突く行為をやめ、駅員 に助けを求めるという代替手段をとることも不可能 ではなかった。しかし、ホーム上の周囲の乗客に助 けを求めても誰ひとり応じてくれない状況の中で、 終電も近く家路を急ぐ甲に、ホームからわざわざ階 段を上がって駅員事務室まで助けを求めていくこと を要求するのは酷であろう。 【間題 16 】丸椅子反撃事件 甲は、妻と共に小料理屋で飲酒中、 V に絡ま れ、当初はこれを相手にしなかった。 V は、 旦店外に出て洋出刃包丁を携えて戻りこれを甲 に突き出した。甲はとっさにこれを払いのけた 上、自分の座っていた丸椅子を両手に持ち、そ の座席部分を V の胸に押し当てて玄関先に押し 出し、前庭で同人と対峙した。ところが、 V が 前記包丁を振り回してきたため、甲は、包丁を 叩き落とす目的ないし V の身体に強度の打撃を 加えて同人を逃走させる目的で、 V の左腕ない し肩を目がけて丸椅子を振り下したところ、座 席部分が予想外にも V の左側頭部に当たり、そ の場にうつ伏せに倒れた。その後、 V は頭部打 撲に基づく脳挫傷兼急性硬膜外血腫により死亡 した。なお、甲と V の間に大きな体力差はなか った。甲の罪責を論じなさい。 【間題 16 】において、甲の行為は傷害致死罪の構 成要件に該当するが、正当防衛が成立するか否かが 問題となる。そして、甲の行為は急迫不正の侵害に 対し自己の権利を防衛する意思をもってなされた防 衛行為であることは明らかである。そこで、この防 衛行為に相当性が認められるか否かが問題となる。 この点、 V の行為は容易に人を殺傷する凶器とな りうる鋭利な出刃包丁を振り回して甲に向かってく るというはなはだ危険な行為である。これに対し、 甲は、包丁を叩き落とす目的ないし V の身体に強度 の打撃を加えて同人を逃走させる目的で丸椅子を振 り下し V を殴打したのであるから、武器は実質的に みて対等であり、侵害行為と防衛行為の危険性のバ ランスは十分とれているといえる。 もっとも、甲は前庭で v と対峙していたのである から道路に逃げるという危険性の少ない代替手段を とることも不可能ではなかった。しかし、妻を店内 に残したまま逃走することを期待することには無理 がある。 ただ、 V の左後頭部を殴打するのではなく、それ よりも侵害の軽微な手段として、 V の包丁を叩き落 とすことによって V の攻撃を防ぐことも客観的には 可能であった。しかし、包丁を振り回している V に 対し、身の危険を感じて応戦中の甲に左腕ないし肩 を確実に殴打することを求めるのは酷である。 したがって、危険性の小さい代替行為は存在する ものの、それをとることが具体的状況の中で困難で ある以上、甲の防衛行為は必要最小限度のものとい える。したがって、甲には正当防衛が成立し、不可 罰となる。 ウ危険性の小さい代替行為をとることは可能であ ったが、当該防衛行為から生じた結果が侵害者 の侵害結果よりも小さい場合 防衛行為の相当性が認められる第 3 の類型は、当 該防衛行為よりも危険性の小さい代替行為が存在 し、それをとるべきであったが、当該防衛行為から 生じた結果が侵害者の侵害結果よりも小さい場合で ある。危険性の小さい代替行為をとるべきであった と評価されるときは、当該防衛行為は必要最小限度 のものとはいえないのが原則であるが、例外的に 防衛行為から生じた結果が侵害結果よりも小さけれ ば、大きな法益を守るために小さな法益を侵害した にすぎないので ( 優越的利益原理により ) 、正当防衛 が成立すると解される。 もっとも、本類型の事案の場合は実際上起訴され ることがないため、これに当たる裁判例は存在しな い。そこで、教室設例ではあるが、例えば、傷害の 危険の少ない暴行に対し、傷害の危険の少ない暴行 で反撃 ( 危険の小さい代替行為 ) すべきなのに、傷 害の故意で傷害の危険のある暴行で反撃 ( 当該防衛 行為 ) したところ、傷害の結果を発生しなかったよ うな場合が第 3 類型に当たると考えられる。 もっとも、生じた結果が侵害者の侵害結果よりも 小さければ常に相当性が認められるわけではない。 傷害の危険の少ない暴行に対し、傷害の危険の少な い暴行で反撃すべきなのに、殺人の故意で殺人の危 険のある暴行で反撃 ( 当該防衛行為 ) したところ、
036 る人の行為を原因とする当該行動をする人に対する ②ディスカバリーの停止 カリフォルニア州法は、訴訟における全てのディ 訴訟原因に適用すると規定し ( 425.16 節 b 項 1 号 ) 、 被告の立証責任を考慮する際に最も重要な審査は、 スカバリー手続は特別の削除申立ての通知の提出ま 訴訟原因が被告の保護された言論の自由または請願 で停止され、当該ディスカバリーの停止は申立てを 決定する命令の登録通知まで効力を有するものとす 権を促進する行為に基づくものか否かにあり、反 SLAPP 法の定義的焦点は、原告の訴訟原因の形式 ると規定している ( 425.16 節 g 項 ) 。そして原告は、 にあるのではなく、むしろ被告に対して主張される 法的に見て適切な根拠を示して特別のディスカバリ 責任の原因である当該被告の行為にあり、当該活動 ーを行うよう訴えることによってのみディスカバリ が保護される言論または請願活動を構成するか否か ーの停止を回避し得る 15 。法律の目的は、迅速にし にあるとされる 17 。ワシントン州法も、特別の削除 て、且っ費用をかけない訴訟の実体の暴露と 申立てを提起する当事者 ( 被告 ) は証拠の優越によ SLAPP 訴訟の訴えの却下の促進にあるが故に、 って当該申立てが公的参加および請願に関わる行為 SLAPP 訴訟の提訴者 ( 原告 ) に適切な根拠事由を立 に基づくものであるとの入口の立証責任を負うと 証する重い責任を課している。かかる適切な根拠事 し、特別申立ての当事者が当該立証責任を満たした 由を満たすために原告は、被告またはその訴訟代理 場合、明白且っ確信をいだかせるに足る証拠に基づ 人が当該被告の反 SLAPP 訴訟の申立てを覆すであ いて訴訟に成功し得る蓋然性を立証する責任が応答 ろう証拠を知っていること、または保持しているこ 当事者 ( 原告 ) に転換し、応答当事者が当該立証責 とを時宜を得て立証しなければならない。ディスカ 任を満たした場合、裁判所は当該特別申立てを否認 バリーが認められたとしても、当事者はディスカバ しなければならないと規定している ( 424.525 条 4 項 リーを反 SLAPP 訴訟の申立てにおいて提起された 争点に限定しなければならず、原告がディスカバリ b 号 ) 。 ④公的手続における言説 ーの手続無くして立証し得ない争点に訴えなければ カリフォルニア州法もワシントン州法も、共に「公 ならないとされる。たとえば、名誉棄損訴訟の場合、 的手続」において行われる全ての言説を保護してい 原告は言説が虚偽であり、または当該言説が公表さ れたことを立証するだけではディスカバリーを要求 る ( 第 425.16 節第 e 項第 2 号、第 424.525 条第 2 項 ) 。問 題は、いかなる判断基準で公的手続における言説と し得ない。けだし原告は、ディスカバリーの手続を 判断され得るかである。ある論者は、カリフォルニ 踏むことなく虚偽または公表を立証し得るからであ ア州最高裁判所は反 SLAPP 法の下で手続が公的か る 16 。ワシントン州法もまた、全てのディスカバリ 否かを決定するに際して①手続が州法に基づいて要 ーは特別の削除申立ての提出によって停止されなけ 求されているか否か、②手続の結果が政府機関に報 ればならないと規定し、ディスカバリーの停止は削 告されなければならないか否か、③手続が公共の福 除申立てに対する決定の命令の登録までその効力を 祉において役割を果たしているか否か、そして④手 有するものとしている。そしてディスカバリーの停 止にもかかわらず、裁判所は申立ておよび適切な根 続において行われた決定が司法審査に服すか否かに 基づいて分析していると説き、かかる判断基準に基 拠事由に基づいて特別のディスカバリーが行われる づく公的手続の中には、裁判所の審理および行政手 ことを命ずることができる旨を規定している 続等のほか、たとえば州が病院に報告を要求しそれ ( 4.24.525 条 5 項第 c 号 ) 。これらの規定は、裁判所に に基づいて司法審査に服す病院の診療内容審査手 とって SLAPP 訴訟の被告が必要最小限度の費用を 続、制定法上のイ中裁手続、さらには政府機関によっ もって実体のない訴訟を遅延なく解決することにあ て行われる公聴会が含まれると解している 18 ) ると解される。 ③手続的救済手段 [ 2 ] 2 つの州法の相違点 手続的救済手段は、 SLAPP 訴訟の標的にとって ①保護される言説 有力な防御の武器として機能するが、カリフォルニ ア州法は特別の削除申立てを公的論争との関連にお 2 つの州法の最も重要な相違点は、法律が適用さ いて請願権または言論の自由の促進のために行動す れる言説の範囲の侵害の決定にあると思われる。い
120 LAW FORUM ロー一ラ 最新立法インフォメー ション 特定商取引に関する法律の一 部を改正する法律 [ 平成 28 年 6 月法律第 60 号 ] [ 趣旨・内容 ] ①主務大臣が販売業 者等に対する業務停止命令ができる 期間の上限を 2 年 ( 現行 1 年 ) とす る。②主務大臣は、販売業者等に対 して業務の停止を命ずる場合に、当 該販売業者等の役員等に対し、当該 停止と同一の期間を定めて、当該停 止を命ずる範囲の業務を新たに開始 すること等の禁止を命することがで きることとする。③主務大臣は、 の法律による指示または命令を行う ための書類の送達を受けるべき者の 住所等が知れない場合等に、公示送 達をすることができることとする。 ④主務大臣は、処分事業者に対して、 購入者等の利益を保護するために必 要な措置を指示できることを明示す る。⑤電話勧誘販売において通常必 要とされる分量を著しく超える量の 商品の売買契約の締結について勧誘 すること等を指示等の対象とすると ともに、購入者等による当該契約の 解除等を可能とする。⑥通信販売に おいてあらかじめ承諾等を得ていな い相手へのファクシミリ装置を利用 した広告の送信の禁止、訪問販売等 の規制の適用対象となっていなかっ た権利の販売に対する規制の拡大、 意思表示の取消権の行使期間 ( 現行 6 月 ) を 1 年とする、罰則の法定刑 を全般的に引き上げる等の措置を講 ずる。 [ 施行期日 ] 一部を除き、公布日 ( 2016 年 6 月 3 日 ) から 1 年 6 月以 内で政令で定める日 [ 審議経過 ] 2016 年 3 月 4 日 ( 190 国会 ) 内閣提出、 4 月 7 日衆・消費 者問題に関する特委付託、 27 日趣旨 説明および質疑、 28 日質疑の後可決、 5 月 10 日衆・本会議可決、全会一致。 5 月 11 日参・本会議趣旨説明および 質疑、同日参・地方・消費者問題に 関する特委付託、 13 日趣旨説明、 18 日質疑、 20 日質疑の後可決、 25 日参・ 本会議可決、成立、全会一致。 [ 審議論点 ] 悪質事業者への法執行 の強化、法の解釈の周知徹底、実態 を踏まえた勧誘規制強化の必要性等 消費者契約法の一部を改正す る法律 [ 平成 28 年 6 月法律第 61 号 J [ 趣旨・内容 ] ①消費者が、事業者 が消費者契約の締結について勧誘を するに際し、物品等の当該消費者契 約の目的となるものの分量等が当該 消費者の通常の分量等を著しく超え ることを知っていた場合等に、その 勧誘による当該消費者契約の申込み または承諾の意思表示の取消しを可 能とする。②事業者が事実と異なる ことを告げた場合に消費者が意思表 示の取消しができる対象である重要 事項として、当該消費者契約の目的 となるものが当該消費者の生命、身 体、財産等の重要な利益についての 損害または危険の回避に通常必要で あると判断される事情を追加する。 ③消費者契約法の規定による取消権 は、追認できるときから 1 年間 ( 現 行 6 月間 ) 行わないときは時効によ り消滅することとする。④事業者の 債務不履行により生じた消費者の解 除権を放棄させる条項を無効とする。 [ 施行期日 ] 一部を除き、 2017 年 6 月 3 日 [ 審議経過・審議論点 ] 参・本会議 趣旨説明及び質疑がなかった点を除 法学セミナー 2016 / 10 / no. 741 の進展に伴う対応の課題等 [ 審議論点 ] 金融サービス業の I T 共産、社民、生活等反対。 可決、 25 日参・本会議可決、成立、 趣旨説明、 24 日質疑および討論の後 5 月 11 日参・財政金融委付託、 12 日 会議可決、共産、生活、社民反対。 疑および討論の後可決、 28 日衆・本 金融委付託、 26 日趣旨説明、 27 日質 国会 ) 内閣提出、 4 月 25 日衆・財務 [ 審議経過 ] 2016 年 3 月 4 日 ( 190 日 ) から 1 年以内で政令で定める日 [ 施行期日 ] 公布日 ( 2016 年 6 月 3 分別管理等の規定を整備する。 利用者が預託した金銭や仮想通貨の 時における本人確認等を義務付け、 通貨交換業を登録制とし、口座開設 依存の要件を一部緩和する。④仮想 に求められる当該銀行に対する収入 の子会社である従属業務を営む会社 は保有することを認めるほか、銀行 関連 I T 企業等の議決権を取得また 受けて、基準議決権数を超えて金融 銀行または銀行持株会社が、認可を に一元化することを可能とする。③ 行の委託先管理義務を銀行持株会社 プ内子会社への業務集約の際に、銀 よる実施を認めるほか、金融グルー いて、認可を受けた銀行持株会社に 融グループ内の共通・重複業務につ ープの経営管理を義務付ける。②金 ループ頂点の銀行に対し、金融グル [ 趣旨・内容 ] ①銀行持株会社やグ [ 平成 28 年 6 月法律第 62 号 ] 等の一部を改正する法律 変化に対応するための銀行法 日情報通信技術の進展等の環境 を改正する法律に同じ。 き、特定商取引に関する法律の一部
088 法学セミナー 2016 / 10 / 8741 LAW CLASS し、それと現実の防衛行為を比較することにより、 当該防衛行為が必要最小限度であったといえるかを 検討する。もし、代替行為を行うべきであったと判 断されれば、当該防衛行為は必要最小限度のもので はなかったとして過剰防衛となる。 このように、防衛行為が必要最小限度であるとい えるかは、侵害行為の危険性との比較 ( 予備審査 ) を踏まえ、代替行為との比較 ( 本審査 ) によって判 断されるのである。 [ 2 ] 相当性判断の考慮要素 それでは、このような相当性判断を行う際には、 どのような事情に注目したらよいのであろうか。 正当防衛が問題となる場面で登場するのは「侵害 者」と「防衛行為者」であるから、当然のことなが ら、これらの者の行動に着目する必要がある。 第 1 に、侵害者側の事情として、①どのような身 体的条件の下、②どのような武器・凶器を、③どの ような使い方で攻撃を加え ( 行為態様 ) 、④その結果、 防衛行為者のどのような法益 ( 保全法益 ) が侵害さ れそうになったのかを検討する。 ①の身体的条件とは、侵害者の年齢 ( 若年か、老 人か ) 、性別 ( 男性か、女性か ) 、体格・体力 ( 身長、 体重、屈強か、貧弱か ) 、運動能力 ( 格闘技などの習得 者か ) 、酩酊の有無・程度、侵害者の人数 ( 1 人か、 2 人か ) など攻撃力に関わる諸事情である。 ②の武器・凶器とは、侵害者が使用した武器・凶 器の種類・性質のことである。素手なのか、刃の長 さがどの程度の包丁やナイフを用いたのかなどに注 目する。 ③の行為態様とは、武器・凶器をどのように使っ たのか ( 凶器の用法 ) 、攻撃力は強いか ( 攻撃の強さ ) 、 何回も執拗に行われたのか ( 回数 ) など侵害者の加 害行為の態様 ( 危険性 ) のことである。 ④の保全法益とは、侵害者の加害行為によって侵 害されそうになった法益の内容、侵害の程度である。 第 2 に、防衛行為者側の事情として、同様に、① どのような身体的条件の下、②どのような武器・凶 器を、③どのような使い方で反撃したのか ( 行為態 様 ) 、その結果、④侵害者のどのような法益 ( 侵害 法益 ) が侵害ないし危殆化されたのかを検討する。 それに加え、⑤防衛行為者として侵害を回避する ために他にどのような方法があったのか ( 代替手段 ) も検討しておかなければならない。その際には、防 衛行為者の心身の状態 ( 負傷していたか、狼狽してい たか、極度の興奮がみられたか、侵害者に対してどの ような印象をもっていたか ) をも考慮する必要がある。 3 防衛行為の相当性の判断方法 そこで、判例実務において、当該防衛行為が防衛 手段として必要最小限度といえるかを具体的にどの ように判断するのか、その判断方法を説明すること [ 1 ] 防衛行為と侵害行為との比較 ( 予備審査 ) 防衛行為の相当性の有無を判断するにあたり、真 っ先に検討すべきことは、侵害行為と防衛行為それ ぞれの危険性を比較衡量することである。 ア防御防衛の場合 防衛行為には、防御防衛と攻撃防衛の 2 種類があ るが ( 第 12 講 137 頁 ) 、相手方からの不正な侵害を阻 止するだけで積極的に反撃を加えない防御防衛の場 合は、侵害行為の危険性の方が常に大きいといえる ので、侵害行為と防衛行為の間に著しい不均衡は認 められない。 したがって、第 2 段階審査において、他にとりう るより良い手段があり、それを選択する十分な余裕 があると判断される場合を除いて、防衛行為の相当 性が肯定される。 【間題菜切包丁事件 甲は、貨物自動車を駐車させようとしていた V から、路上に駐車してある甲の車が「邪魔に なるから、どかんか」などと怒号されたため車 を移動させたが、 V の粗暴な言動に立腹し、同 人に対し「言葉遣いに気をつけろ」と申し向け た。すると、年齢も若く、体格にも優れた V が、 「お前、殴られたいのか」と言って、手拳を前 に突き出し、足を蹴り上げる動作をしながら近 づいてきた。甲は、恐くなって逃げようとした が、 V が約 3 m 目前に迫ってきたため、やむな くその接近を防いで危害を免れる目的で、普段 から果物の皮むきなどのために自車の運転席前 のコンソールポックスに置いていた刃体の長さ
る同年 12 月 8 日になって、 Y の融資が右工場用地 取得代金支払にあてる予定であることを充分承知 しながら、またメインバンクたる Y の融資拒絶が x 会社の本件工場進出計画に悪影響を及ばすであ ろうことも容易に予測できるのに、正当な理由な く融資を拒絶し、その結果、 X 会社が予定してい た土地代金の支払計画に支障を来させ、別途 3 億 7000 万円の調達に奔走せざるを得ない事態を招来 し、またそれにより X 会社の社長として一手に右 計画の責任を担っていた X に著しい心労を与えた のであるから、 Y の右不当な融資拒絶は、 X らに 対する違法な権利侵害行為とみるのが相当であ る」。しかし、遅くとも 12 月 30 日には当初の計画 どおり X に融資する旨を通知していることなどか ら、 X 主張の損害の多くは相当因果関係がなく、 X 会社につき 99 万円余、代表者 X につき慰謝料と 弁護士費用のみが認容された。 X 、 Y ともに控訴。 控訴審判決 ( 東京高判平成 6 ・ 2 ・ 1 ) も、第一審判 決同様、支店長による融資約束の一方的破棄カ坏法行 為となり、 Y 銀行は使用者責任を負う旨判示したが、 X 会社への賠償額については、因果関係の判断を緩め て 3514 万円余にまで増額認容し、代表者 X 個人の本 訴請求の方は全面的に棄却した。判決理由は、次のと おりである。 「企業とそのメインバンクとして取引を継続し てきた銀行が右企業から新規に計画した事業につ いて、必要資金の融資の申込を受け、当該計画の 具体的内容を了知したうえ、右企業と消費貸借契 約の締結に向けて交渉を重ねている途中であり、 金銭の授受がなく消費貸借契約が成立したとはい えない段階においてであっても、融資金額、弁済 期、借入期間、利率、担保の目的物及び担保権の 種類並びに保証人等の貸出条件について具体的な 合意に達し、銀行が右貸出条件に基づく融資をす る旨を記載した融資証明書を発行して融資する旨 の明確な約東 ( 以下「融資約東」という。 ) をした 場合において、右融資約東が破棄されるときには、 右企業の新規事業計画の実現が不可能となるか若 しくは著しく困難となり、右企業が融資約束を信 じて当該計画を実行するためにとった第三者との 契約若しくはこれと実質的に同視することができ る法律関係等の措置を解消することを余儀なくさ 071 債権法講義 [ 各論 ] 7 れる等し、このため右企業が損害を被ることにな る等の事情があり、しかも当該銀行が、このよう な事情を知り又は知りうべきであるにもかかわら ず、一方的に融資約東を破棄する行為に出たとき には、かかる行為に出るにつき取引上是認するに 足る正当な事由があれば格別、そうでない限り、 当該銀行は、右企業が前示のような損害を被った ときには、民法 709 条、 715 条に基づき、これを賠 償する責任を負うものと解すべきである」。本件 では、取引上是認するに足る正当な事由があると はいえないから、 Y には X が県企業庁および T 建 設との関係の解消を余儀なくされたことにより被 った損害につき損害賠償責任がある。相当因果関 係にある損害としては、本件土地の売り戻し差損 および既払い建設代金の計 1 億 5 開 0 万円余が認め られるが、本件計画規模の過大性や運転資金調達 に対する X の配慮不足、損害拡大抑止の可能性な どから過失相殺をとり ( 前者につき 6 割、後者につ き 9 割 ) 、弁護士費用を含めて、結果的に 3514 万 円余の損害賠償が認められる。 同判決理由中に現れた、融資契約そのものとは異な る「融資約刺とされるものの性格は、曖味である。 「融資する」という約束に諾成的消費貸借としての効 力を認めるなら、 Y には適時に融資すべき義務カ生 し、一方的融資拒絶は直ちに債務不履行となる可育尉生 がある。民法は、 578 条で消費貸借を要物契約とする 一方、 589 条ではその予約にも効力があるものとし、 もともと両規定の整合性には疑問があった ( 改正法案 587 条の 2 では、書面でする消費貸借における要物契約性を否 定し、 589 条を削除している ) 。本件における「融資約東」 について第一審判決は、金銭の授受があるまでは消費 貸借契約は成立しないとの前提で、遅くとも「融資証 明書」を交付した日の時点で、 x 会社の予約完結の意 思表示により所定の内容で融資を実行すべき義務を負 う「融資予約」 ( = 一方の予約 ) があったと考え、控訴 審判決では「金銭の授受がなく消費貸借契約カ城立し たとはいえない段階」ではあるが「貸出条件について 具体的な合意に達し」かつ「融資する旨の明確な約東 をした」との評価を与えている。つまり、両判決とも に、「融資証明書」の交付という事実を重視しながら、 正式の契約締結に向けての交渉の過程ではあるが、少 なくとも将来、一定の条件で融資をすることを引き受 けたものと認定している。なるほど、 Y の主張するよ
114 条、 331 条 ) を受けたが、その命令で定められた期 本件は、訴訟救助の申立て ( 民訴 82 条 1 項本文 ) 間内に手数料を納付しなかった。そのために、原審 の却下決定に対する即時抗告における抗告状却下命 の裁判長は、 x に対して抗告状却下命令 ( 原命令。 令に対する許可抗告事件 ( 民訴 337 条 ) である。 民訴 137 条 2 項、 288 条、 331 条 ) を発することとし、 本件については、基本事件を初め、事件の背景等 その告知のために、原命令の謄本が X に宛てて発送 の詳細は明らかではないが、本件の事実関係は、以 された。しかし、 X は、その送達を受ける前に手数 下のとおりである。 X ( 申立人・抗告人 ) は、訴訟 料を納付したことから、原命令に対して許可抗告を 救助却下決定に対する即時抗告の抗告状に所定の印 申し立てた。なお、本件では、その手数料納付前に 紙を貼付していなかったため、原審の裁判長から、 原命令が抗告人に告知された事実は認められなかっ 抗告提起の手数料を命令送達の日から 14 日以内に納 た。 付することを命じた補正命令 ( 民訴 137 条 1 項、 288 補正命令における所定期間経過後の手数料納付と抗告状の効力 最新判例演習室ーー民事訴訟法 [ 最ー小決平 27 ・ 12 ・ 17 判タ 1422 号 72 頁 ] その書面は遡って有効となる旨を判示していた 手数料納付の補正命令で定められた期間の経過 が、このような取扱いは、古い時代におけるいく 後における手数料納付と抗告状の効力。 つかの大審院判例 ( 大決昭 10 ・ 4 ・ 9 法学 4 巻 12 号 99 頁〔控訴状〕や大決昭 13 ・ 3 ・ 5 法学 7 巻 10 原命令破棄。抗告提起の手数料の納付を命じる 号 107 頁〔訴状関係〕等 ) からの一貫したもので 裁判長の補正命令を受けた者が、その命令で定め あった。一般に、訴訟行為等の「補正」とは、瑕 られた期間内に納付しなかった場合でも、不納付 疵ある訴訟行為等への対応方法の 1 つであり、事 を理由とする抗告状却下命令の確定前に納付すれ 後的な補充・訂正の行為を意味する。訴訟行為等 ば、その不納付の瑕疵は補正され、抗告状は当初 としては成立していることが前提であり、補正は、 に遡って有効となる。なお補足意見がある。 その訴訟行為等を生かす方向で対処すること、す なわち、法的救済機構としての裁判所の機能を当 本件は、抗告提起の手数料の納付を命じた裁判 事者のために活用することを意味する ( 川嶋四郎 長の補正命令を受けた者が、当該命令で定められ 「民事訴訟法』 420 頁注 ) 184 ) .. 、。でいつ瑕 た期間経過後にこれを納付した場合に、抗告状が 疵は多様であり、必要的記載事項の不備・欠缺か 当初に遡って有効となることを初めて判示した最 ら、それには問題がないものの手数料納付に欠け 高裁決定であり、従来の裁判実務を確認したもの る場合もある。前者が、実質面・内容面の問題で である。本件は、抗告提起の手数料納付の関する あるのに対して、後者は、民事手続の世界におけ 事件ではあるが、後述する本件引用判例等を考慮 る形式面にすぎず、また、スライド方式の訴額等 すれば、各種手数料納付を命じる補正命令一般に の手数料算定は技術的な側面もある。したがって、 関する取扱いを明確化したものと評価できる。し 結果として手数料の納付 ( 国庫収入の確保 ) がな かも、この場合に手数料納付が問題とされた書面 されている限り、適式な書面の提出が行われたと ( 適式な書面 ) の提出があったとされる時点とし 考えることは妥当であり、補正の趣旨からも首肯 できる。それゆえ本決定は妥当である ( 補正命令 て、遡及的に当該書面提出時とされたことにも意 義がある ( 判決文中、「当初に遡って」とは、 における所定の期間は、却下命令のいわば猶予期 間と考えられる ) 。なお、所定の期間内に納付し のように解される ) 。基本的に、提出書面の必要 た者とのバランスも考慮されかねないが、 ( 所定 的記載事項等、本質的な核心部分に問題がなけれ 期間の経過自体を即書面の不適式化に結び付ける ば、手数料の不納付という技術的な理由で遡及効 のではなく ) 納付しなければ却下命令を受けるリ を認めないのは適切さを欠き、遡及効を認めなけ れば、期間遵守や提訴等にともなう実体法上の効 スクを負うことで、それを保つことができるであ ろう。さらに、小池裁判官の補足意見の指摘は、 果等を享受できず、不納付の瑕疵を補正し有効と 信義則 ( 民訴 2 条 ) を初め、手続利用主体の作法 したことの意味がなくなるからである。 の問題 ( 川嶋・前掲書 276 頁、 421 頁参照 ) を想起 本決定の基礎にある基本的な考え方は、古くか させるが、個別事件の処理であれ、裁判所におけ ら最上級審で判示されていた。本決定が引用する る憲法上の権利 ( 憲 32 条等 ) の制限には、基本的 判例 ( 最三小判昭 31 ・ 4 ・ 10 民集 10 巻 4 号 367 頁 ) によれば、訴えの変更申立書に印紙不足があった には慎重な姿勢が望まれる。 法学セミナー 場合に上級審で追貼すればその瑕疵が補正され、 2016 / 10 / no. 741 裁判所の判断 同志社大学教授川嶋四郎 ( かわしま・しろう )
093 応用刑法 I ー総論 傷害の結果を発生しなかった場合は、当該防衛行為 頁 ) などがその典型例である。 は必要最小限度のものではなく過剰防衛となる。な 第 2 に、相手から殴られるなど死または重大な傷 せなら、防衛行為が相当であるためには、防衛行為 害の危険のない侵害を受けた場合は、危険の小さい と侵害行為の危険性が著しい不均衡が生じていない 代替手段が存在する場合が多く、その場合にその代 替手段をとらずに危険性の高い手段をとって過剰な ことが前提とされるからである。 結果を発生させたときは過剰防衛となる。 《コラム》 防衛行為者が銃を発射して死の結果を惹起した場 結果の衡量は不要か ? 合 ( 退去しない侵入者に対して銃を発射した事案につ き、大判大 9 ・ 6 ・ 26 刑録 26 輯 405 頁 ) 、刃物を用いて 判例は、反撃行為により生じた結果がたまた ま侵害されようとした法益より大であるという 死の結果を惹起した場合 ( 下駄で殴られそうになった ことだけで過剰防衛にするという考え方 ( 結果三 ため匕首で切り付けた事案につき、大判昭 8 ・ 6 ・ 21 の相当性説 ) はとっていない。そのため、学生 刑集 12 巻 834 頁 ) 、その他の器具を用いて死の結果を . 諸君の中には、防衛行為の相当性の判断におい : 惹起した場合 ( 酒に酔った者から組みつかれたため陶 て結果の衡量は不要であると誤解している者が 器で殴打した事案につき、大判昭 7 ・ 12 ・ 8 刑集 11 巻 1804 頁 ) 、均衡を失する強力な肉体的有形力を行使 いる。しかし、正当防衛は防衛行為者の法益侵 して死の結果を惹起した場合 ( 空手三段の腕前を有 三害行為 ( 防衛行為 ) を正当化できるかという問 題であるから、防衛行為からどのような結果が する者が回し蹴りをした事案につき、最決昭 62 ・ 3 ・ 三発生したのかは重要な考慮要素であり、それが 26 刑集 41 巻 2 号 182 頁 ) などがその典型例である。 ! 守ろうとした法益 ( 保全法益 ) と著しく均衡を 《コラム》 失していないかを検討することは不可欠であ 「やむを得ずにした行為」の当てはめ る。そして、著しい不均衡がある場合は過剰防三 正当防衛の関する事例問題の多くは、急迫不 衛になる可能性が高いが、なおそれでも必要最 正の侵害がないとか防衛の意思に欠けるなどの 小限度の防衛行為であるという評価が可能であ : 特殊な事例でない限り、やむをえずにした行為 るかという観点から事案を慎重に検討する必要 といえるのか、すなわち、正当防衛になるのか がある。 三過剰防衛になるのかを識別させる問題である。 その場合、「やむを得ずにした行為」の意義 以上の検討から明らかなように、第 1 類型、第 2 について、判例の規範を定立した上で、当ては 類型、第 3 類型のいずれにも当てはまらない場合は、 当該防衛行為は必要最小限度のものとはいえないた めをいかに充実させるかが答案作成におけるポ め、正当防衛は成立せず過剰防衛となる。どのよう イントとなる。結果や行為の危険性に着目しな な場合に過剰防衛となるかは、個々の事案を詳細に がら、危険性の小さい代替手段が存在するかを 分析して判断するしかないが、大まかな判例の傾向 : 事案に即して説明することになるが、防衛行為 の相当性を否定する場合には、危険性の小さい を示すと以下のとおりである。 三代替手段の具体例を 1 っ挙げて説明することが 第 1 に、凶器により死または重大な傷害の危険を 伴う侵害を受けた場合は、相当強力な対抗手段が許 望ましい。 されるが、他に危険の小さい防衛手段をとりうると きは過剰防衛となる。 相手の凶器を奪ったことにより重大な身体傷害の 危険が去ったのにその凶器を用いて相手に死または 重大な傷害を与えた場合 ( 大判昭 14 ・ 3 ・ 6 刑集 18 巻 81 頁 ) や反撃により相手方の侵害がほとんどやんだ のになお反撃を続け相手の生命・身体に重大な結果 を生じさせた場合 ( 最判昭 34 ・ 2 ・ 5 刑集 13 巻 1 号 1 ( おおっか・ひろし )
034 スラップ 訴訟 S し APP 訴訟とは ( 1 ) 市民が、住宅地区に隣接する土地に建設業者が 立案した廃棄物処理場の建設計画に反対して市民団 体を結成した。市民団体は、公聴会を開催し、市当 局に対して建設反対の書簡と報告書を提出し、地方 新聞に処理場建設反対の声明を掲載した。これに対 して開発業者が、市民団体および団体に加入してい る個人を相手に名誉毀損 (defamation) 、取引関係へ の意図的妨害 (intentional interference with business relations) および民事上の共同謀議 (civil conspiracy) を理由に訴訟提起した。市民団体は、 合衆国憲法で保障された表現の自由 (freedom of expression) および請願権 (right to petition) に基づ いて防御した。資金が潤沢な開発業者は、法廷にお いては訴答術を駆使し、市民団体の訴えを取り下げ るよう試み、法廷外においては当該団体の会員名簿、 集会の場所と時間、団体資金の出所を求めて暗躍し た。市民団体は、訴訟に勝利し、訴訟費用および弁 護士費用を得たものの更なる開発業者による訴訟提 起を恐れて、キャンペーンを組織化し、維持するこ とはもはや困難であると判断し、反対運動を中止し た。開発業者にとって訴訟費用は大きな負担とはな らず、反対運動が終息した結果、開発業者は戦略的 ーーに挙げた 勝利 (strategic victory) をおさめた 範例は、アメリカ合衆国において「戦略に基づく公 的参加封じ込め訴訟」 (Strategic Lawsuit Against public participation) ( 以下、「 SLAPP 訴訟」という ) と呼ばれる訴訟の典型的な例である。 SLAPP 訴訟は、市民または市民団体による憲法 上保護された表現の自由および請願権の行使がその 相手方である当事者の権利ないし利益を侵害するも アメリカにおける反スラップ法の構造 法学セミナー 2016 / 10 / no. 741 のとして、当該当事者が原告となり市民または市民 団体を被告に提起する報復訴訟 (retaliatory lawsuit) である。 SLAPP 訴訟は、 1960 年代初頭に は既にその萌芽を見ており、その後 1980 年代に入る と広範囲にわたって提起されるようになっていく SLAPP 訴訟において裁判所は、従来、合衆国憲 法修正 1 条にいう表現の自由と請願権をめぐって展 開される 2 つの裁判法理を用いて紛争解決を図って きた。その第 1 の法理が、 New York Times v. Sullivan2 をはじめとする一連の名誉毀損訴訟で展 開された「現実の悪意」 (actual malice) の法理およ び「公的人物」 (public figure) の法理であり、第 2 の法理が Eastern Railroad President's Conference v. Noerr Motor Freight, lnc. 3 等で「反トラスト法」 (antitrust law) の解釈をめぐって展開された「ノー ア - ペニントンの法理」 (Noerr-Pennington doctrine) である。当該法理は、「議会および政府の行為を求め、 またはそれに影響を与えようとする私企業の側の努 力は、その効果が取引制限または独占化にあるとし ても、請願権を保障する合衆国憲法修正 1 条によっ て反トラスト法の適用から免除される原則」と定義 される ( かかる判例法理の展開が、反 SLAPP 法制定の 動機の 1 っとなっていく ) 。 ( 2 ) これらの判例の展開から、標的となった市民ま たは市民団体によって SLAPP 訴訟の提訴者を打ち 負かすための有意味な訴訟手続が、その前提として 必要であることが理解される。しかし、正式事実審 理前協議 (pretrial conference) 4 をも含む訴訟過程 における訴訟技術上の問題、裁判所における紛争解 決の遅滞、さらには訴訟過程において被告にかかっ てくる過度の費用負担は、 SLAPP 訴訟の提訴者に 藤田尚則 創価大学教授