042 はできないと思います。 小問 ( 1 ) は、甲土地について、所有権移転登記手続 ただ、そうすると 1 つ問題が生じ、つまり、私は を求める E の「請求の根拠」を説明し、その当否を 先ほど 94 条 2 項で F を保護できるとしましたが、登 論じることを求めています。 E の請求の根拠はまず、 己の話になると、同じ 94 条 2 項を適用するにもかか 滝沢さんの解説どおり、①甲土地の売買契約に基づ く債権的移転登記手続請求です。平成 24 年 2 月 10 わらず F を保護できない、なぜ結論に差があるので すか ? ということになりそうです。 日の AE 間の甲土地売買契約では、甲土地について それについては、帰責性がちがうという説明がで E が 450 万円の現金を調達できた時点で C から E へ の所有権移転登記手続をすることを合意しています きます。つまり、 93 条ただし書きの無効を第三者に 対抗することはできないという結論を導く為に 94 ので、平成 25 年 6 月 30 日に甲土地の売買代金全額 条 2 項を類推適用しようという見解は、両者とも自 を提供し、これを拒絶されて供託した E としては、 分の真意とちがう法律行為を、しかもわざとしてい 売買契約に基づく所有権移転登記手続請求の要件を 満たしています。また、②特定物売買における所有 るところに帰責性を捉えているわけです。だから、 本問ではそのような帰責性はあります。そんなこと 権移転時期に関する判例 ( 最二小判昭 33 ・ 6 ・ 20 民集 12 巻 10 号 1585 頁 ) によれば、 E は甲土地所有権に基 ( 真意とは異なる表示 ) をしたのは A ですが、 A は C の法定代理人ですから、 A がしたことについて C は づく物権的移転登記手続請求の要件も満たしている 甘んじてそれを受けるべきだろうと思います。 といえるでしようか。 他方、登記に 94 条 2 項を類推適用する場合の帰責 これに対する AD の反論として、滝沢さんの解説 性は、先ほども少し言ったように、真実とは異なる のとおり、 A の代理権行使が利益相反行為 ( 民法 登記がされているのを放っておいたという帰責性で 826 条 ) に当たるとの主張に対しては、判例の外形 す。それを考えると、放っておいたのは 1 カ月程度 標準説に従えば、利益相反行為に当たらないとする ですから、帰責することはできないだろうとおもい E の再反論が予想されます。そこで、 AD とすれば ます。このように、それぞれの帰責性の根拠がちが A の代理権濫用の意図を相手方 E が知っていたこと います。そもそも最初の法律行為に問題があったの を主張・立証し、 AE 間の売買が無効 ( 判例の民法 93 条ただし書き類推適用説 ) または E の移転登記手続 か、それとも登記を放っておいたことに問題があっ たのか、そういう点に違いがあることを考えれば、 請求が信義則に反する ( 民法 1 条 2 項による悪意の抗 こういう結論の差があっても、おかしくはないので 弁説 ) と主張することが考えられます。ここでも滝 はないでしようか 沢解説どおり、 A が自分の遊興を原因とする借金の ですから、本問では、 93 条ただし書きによる無効 返済のために甲土地を E に売却したことカ玳理権濫 用に当たることの分析が焦点になるでしよう。 E は を善意の第三者に対抗することができない、 94 条の 【事実】 4 の甲乙両土地の売買契約締結の時点で、 類推適用で善意の第三者は保護されると考えればよ A が遊興を原因とする多額の借金を抱え、乙土地の いのではないかと思います。 代金 600 万円をその返済に充当するつもりであるこ [ 2 ] 検討 とを知っていたということですから ( 【事実】 6 ) 、 〔設問 1 〕 ( 1 ) について 甲土地の売却についても代理権濫用に当たると解し 松尾〔設問 1 〕は、滝沢さんから説明があったと てよいでしよう。もっとも、それを D と共に A も主 張することの当否をどうみるかという問題が残りま おり、法定代理人 A による本人 C の甲土地・乙土地 についての E との間での権限濫用行為の効果、代理 す ( 後述 ) 。 ちなみに、民法改正案 107 条は代理権濫用の効果 権濫用者 A が他の共同相続人 D と本人 C を相続した につき、原則として有効であるけれども、相手方が ときの法律関係、 AD の共有持分権の効力等を問う ています。このうち、小問 ( 1 ) は AE 間で所有権移転 代理人の権限濫用の意図を知り、または知ることが できたときは、「代理権を有しない者がした行為と 登記手続が未了の甲土地を、反対に、小問 ( 2 ) は AE 間で所有権移転登記も終わり、さらに F に転売され、 みなす」と規定しています。それによれば、本問で は A の行為は無権代理行為ということになります。 登記、引渡しも終わった乙土地を問題にしています。 一三ロ
刑事訴訟法の思考プロセス 物のさらなる特定をその趣旨とするといえます。そ れゆえ、「差し押さえるべき物」の記載が特定され ているかどうかは、その記載自体に加え、被疑事実 の内容も踏まえて判断されます 13 ) もっとも、このように被疑事件と目的物との「関 連性」で差押え対象を限定しようとする考えについ ては、目的物の特定化それ自体の問題が二次的にな ってしまうとの批判も示されています。この見解は、 あくまでも、差押え目的物の特定性の要請は、「差 し押さえるべき物」の記載だけで目的物が特定され ていることによってこそ満たされるとし、例えば、 文書などについては、期間、主体、内容などにより、 目的物を独立して特定化することを考えるべきとさ れます ( 特定化アプローチ ) 14 ) 捜査機関による捜索・差押えの執行とその適法性判断 [ 1 ] 「捜索すべき場所」からスタートする思考プロ セス 捜査機関は、令状において特定された捜索場所等 の範囲内でのみ、捜索を行うことが可能です。この 範囲を超えると、当該捜査機関による捜索の執行は、 憲法 35 条 1 項や法 218 条 1 項・ 219 条 1 項に反し違法 と評価されます。上述のように、刑訴法は、捜索令 状により捜索可能な範囲について「捜索すべき場所、 身体若しくは物」 ( 219 条 1 項 ) をそれぞれ区別して 特定し記載すべきとしています。その理由としては、 「場所」、「身体」、そして「物」について保護される 権利・利益が異なるから、それぞれ裁判官による個 別の審査が必要であることが挙げられます。 捜索の執行の適法性を判断する ( 令状記載の「捜 索すべき場所」等の範囲内の捜索なのかの判断 ) のた めには、この憲法 35 条 1 項及び法 219 条 1 項の趣旨 を踏まえて、捜索差押え令状における「捜索すべき 場所」等の記載によって、どこまでの範囲の捜索が 許されているかを判断する論理を身に付けなければ なりません。憲法 35 条 1 項の特定性の要請の趣旨か らすれば、「当該捜索対象は、『捜索すべき場所』に 含まれている ( 包摂されている ) から、当該捜索は 適法である」という論理を骨格にすることが重要で す。この「捜索すべき場所」の範囲内における適法 な捜索の執行であったかが問われるケースとして は、次のような物を捜索した場合が考えられます。 ①捜索場所に日常的に置かれている物 ( 家具や 事務・生活用品、荷物、ロッカーなど ) ②捜索場所に置かれてはいるが、第三者が排他 的に管理している物 ( 第三者の所有物など ) ③捜索時に、捜索場所に居合わせた第三者の所 持品 ( 携帯している鞄や荷物など ) ④捜索時に、捜索場所に居合わせた者 ( 被疑者 も含む ) の身体や着衣 まず、基本的な思考プロセスを確認しておきまし よう。「捜索すべき場所」 ( 住居や事務所など ) の記 載により、上記①のように当該場所に日常的に置か れている物 ( 家具や事務・生活用品、荷物、ロッカー など ) の捜索は許されると理解されます ( もっとも、 法 102 条 2 項 ( 法 222 条 1 項により捜査段階に準用 ) に より、被疑者以外の者の住居等の捜索については、差 押え目的物の存在の蓋然性が認められる物に限定され ます ) 。その理由としては、住居等の場所について 保護される権利・利益は、建物や敷地といった「外 箱」に関する物権的権利にとどまらず、そこに居住 し、あるいは定常的そこを使用する人のプライバシ ーや生活その他の活動に関する権利・利益の総体で あることが挙げられます 15 。つまり、裁判官が「正 当な理由」があるとして、特定の場所について捜索 を許す判断は、外箱である場所に関する権利・利益 だけでなく、当該場所に日常的に置かれている物に 関する権利・利益への侵害 ( 捜索 ) をも許している ことを意味するのです。最決平 6 ・ 9 ・ 8 刑集 48 巻 6 号 263 頁は、被告人の内妻であった A の覚せい剤 取締法違反被疑事件に関して、 A 及び被告人の居室 を捜索場所とする捜索差押許可状に基づき、同居室 を捜索した際、同居室にいた被告人の携帯するポス トンバッグの中を捜索したという事例について、「右 のような事実関係の下においては、前記捜索差押許 可状に基づき被告人が携帯する右ポストンバッグに ついても捜索できるものと解するのが相当」と判断 しました 16 ) 。その論理は明らかではありませんが、 捜索場所に存在していたと認められる物 ( ポストン バッグ ) を捜索差押え令状そのものにより捜索する ことができると認めており、上記のような思考プロ セスによるものと理解できます。 そして、この思考プロセスは、捜索開始時点で捜
特・司法試験問題の検討 2016 ほしいのかもしれません。 047 おき、しかも異議なき承諾をしている。もちろん、 主に H が M を騙しているわけですが、 E も、何とな く心ならずも加担しているような形になっていると はいえます。したがって、そういう観点からの答案 もあり得るとは思います。しかし、調査官解説が考 えているのは、まず E が異議なき承諾をして M を安 心させて・・・・・・というように、 H と E が結託をして M を安心させて買わせたようなケースではないかと思 います。これに対して、本問の場合は、 E は、何も ことさらに M を騙そうとしているわけではありませ ん。ただ「債権を譲渡しました」と言われて「はい、 そうですか」と返事をしただけのケースで、特に M を騙す目的で異議なき承諾をしたというわけでもな いことを考えると、 H と結託をして騙そうとしたと まではいえないのではないでしようか。したがって、 もはや信義則上 90 条違反を対抗できなくなるとい う程のことはあるまいと私自身は考えています。 ( ⅱ ) 〔設問 2 〕 ( 2 ) について では、次の ( 2 ) です。「 M は、 E に対して、法定債 に、 権に基づき、 500 万円とそれに対する利息や遅延損 害金の支払を請求することができるか。」という問 題です。 実を言うと、私は、 こでの「法定債権」とは何 を指すのかをかなり長いこと考えていて、この点で、 おそらく受験生でもかなり苦しんだ人もいるのでは ないかと思います。よくよく考えてみると、貸し付 けが無効であるならば、 H は不当利得として、 E に 対して、その交付した 500 万円の返還を請求するこ とができるわけです。もっとも、貸し付けは無効で すから約定利息の請求はできないのであり、せいぜ い法定利率となるかと思いますが、法定利率による 遅延損害金の返還を請求することになるわけです。 ただ正直な感想として、問題としてはやや不自然 で、そんなものを譲渡するだろうかと疑問に思いま す。貸し付けに基づく貸金債権の譲渡ならともかく、 「私は不当利得に基づく返還請求権があるので、そ れを譲渡します」なんていうことをするのでしよう か。しかし、「【事実】 22 」で「急に資金繰りが悪化 した H は、平成 26 年 4 月 1 日付消費貸借契約に関す る債権を」という書き方をして、問題文自体、それ も含み得るようにわざわざ書いているわけです。と いうわけで、出題者の意図としては、そこを答えて くのがよいのではないかと考えています。このよう E に対しては返還請求できるという方向にもってい なことを考えると、 708 条ただし書きにより、 H は 事実その通りに使ってしまったわけです。そのよう 決まっています。お金を借りて賭博に使おうと思い、 すほうもけしからんわけですが、他方、 E も悪いに すよね。だから、賭博に使う金だとわかっていて貸 するときには不法性の比較をすることになっていま もあります。というのも、 708 条ただし書きを適用 そも H も E に返還請求できないのかについては問題 ただ、よくよく考えてみると、 708 条によりそも 思います。 まうのではないかという問題が考えられるだろうと き承諾をしたら、やはりそこで抗弁が切断されてし 条は適用されるとしても、債権譲渡した際に異議な 請求できないのでないかという問題と、次に、 708 るとして、そんなものは、民法 708 条によって返還 では、そのような不当利得返還請求権のことであ こは 708 条の 1 つの盲点というか、 708 条が しようね。そうすると保証も不成立となり、求償権 金銭消費貸借は「無効」というよりは「不成立」で く交付していなくて要物性を満たさないので、その イムラグはセーフでよいと思いますが、実際には全 当に 5 月 31 日に交付したのであれば、この程度のタ 5 月 31 日に金銭を交付することになっています。本 成したのは平成 26 年 4 月 15 日で、その契約書では せん。念のために問題文をみてみると、契約書を作 力を考えてみると、そもそも要物性を満たしていま し、それ以前に、まず K が E に貸し付けた契約の効 だからといって求償権を行使したいわけです。しか L は、もちろん主観的には、私カ峅済してやったの いる問題というか、なかなかの難問だと思いました。 そして最後の ( 3 ) に移りますが、これはよくできて ( ⅲ ) 〔設問 2 〕 ( 3 ) について ます。 うが筋がよいのかと、今は私はそんな感じがしてい 用できない ( 返還請求できる ) という線でいったほ で、そういうことからすると、そもそも 708 条も適 を適用したくないということが一般的にいえるわけ な感じになるわけです。ですから、あまり広くこれ 適用されてしまうと不法な契約を事実上認めたよう
046 で、表見代理などが成立する場合のみ有効だという されています。問題は、動機カ坏法で、しかもその ことになりそうです。 動機が相手方にも表示され、相手方にもわかってい そうすると、本問では、表見代理は成立しないよ たケースだということです ( 【事実】 16 ) 。 うに思われますよね。とすると、そもそも E は保護 動機は、もちろん原則として契約内容ではありま されないし、 F も保護されないことになりかねませ せん。金を貸すときに、それをどのように使うかな ん先ほど言ったように登記に対する信頼では F は どということは、お金を貸し付ける契約の内容では 保護できないでしようから。 ないわけです。しかし、昔から、動機カ坏法で、し 松尾そうですね。私自身は民法改正案 107 条は、 かもその動機が相手方にわかっているような場合に 代理権濫用行為について形成された判例および学説 は、契約が無効となることもあり得るとされていま による解釈法理の発展可能性を枠づけてしまわない す。 か、気に懸かります。それは法人の代表者による代 戦前の判例 ( 大判昭 13 ・ 3 ・ 30 民集 17 巻 578 頁 ) は 表権濫用行為に関する判例・学説にも影響を及ばす 賭け事の事案ですが、あれはややこしくて、賭け事 ことも考えられます。しかし、仮に民法改正案 107 によってつくってしまった借金を返済する為にお金 条が立法化されたとすると、 A の代理権濫用につい を貸したケースでした。だから、原告の側では因果 て相手方 E が悪意または有過失の場合は、 AE 間売 関係はないじゃないか ( 貸した金で賭博をしたわけで 買が無権代理行為とみなされ、 D が追認拒絶すれば はない ) と争ったのですが、それでも、そういう動 無効になりますので、滝沢さんがおっしやるように、 機がわかっていて貸し付けるのはけしからんという E と取り引きした善意の第三者 F を保護する方法を ことで民法 90 条違反として無効とされたケースで 別途考える必要が出てきます。無権利者からの不動 す。そうすると本問の場合も、 90 条違反で無効にな 産取得者も保護しうる法理として、民法 32 条 1 項た るわけです。 だし書き ( の類推適用 ) などもありますが、前主の 無効ですが、その無効の債権を M に譲渡して、そ 無権利の原因に注目し、できるだけ近い保護法理を のときに E も承諾をしている、しかも異議なき承諾 探求すべきだと考えられます。民法改正後は代理権 をしています。念の為の確認ですが、「異議ありま 濫用行為には民法改正案 93 条 1 項ただし書きは類 せん」と断る必要はなく、黙って承諾をすれば異議 推適用されないとしても、 AE 間の不動産売買契約 なき承諾になると解釈されています。したがって E の無効原因カ玳理人 A の権限濫用の意図について相 は、 H に対しては「あれは無効だ」と言えても、そ 手方 E が悪意または有過失とは知らなかった F を保 の抗弁を M との関係では出せないのではないかとい 護する法理として、民法改正案 93 条 2 項の類推適用 うことにもなりそうですが、これについては、最三 がなお考えられるでしようか。 小判平 9 ・ 11 ・ 11 民集 51 巻 10 号 4077 頁により、異 議なき承諾をしても、公序良俗違反のような酷い場 幻〔設問 2 〕の解説と検討 合は、無効を治癒することはできないという判決が [ 1 ] 解説 出ています。ですから、やはり無効ということにな (i) 〔設問 2 〕 ( 1 ) について ります。 滝沢では、〔設問 2 〕の検討に移ります。 ただ、この判決は、信義則上その無効を主張でき ます ( 1 ) は、「 M は、 E に対して、契約上の債権に ない場合もあり得るのではないかといっていて、調 基づき、 500 万円とそれに対する利息や遅延損害金 査官の解説などが想定しているのは、例えば、 E が の支払を請求することができるか。」という問題で 異議なき承諾をして M を安心させる、それで、 M は す。 M としては、貸付契約に基づく貸金債権を買い 安心して買っても大丈夫だと思って H にお金を払っ 取ったことになるのでしようが、ます H の貸し付け たら、 H がそのまま逃げてしまったというケースで す。そうすると、本問に近いと言えば近いとはいえ の効力から検討すると、 446 条 2 項で要求されてい る書面性に関しては、しつかり書面をつくっていま ますね。 H は、賭け事に要ることを黙っているし、 す。それから、消費貸借契約は民法 587 条で要物契 むしろ、資力の担保とは言わないかもしれませんが 約とされていますが、この金銭の交付もしつかりな 「 L は弁済に足る資産を有している」と安心させて 0 三
041 B から A へ所有権の移転の登記をすることは認めら れていますし、そうすれば、抵当権付きではありま すが、ちゃんと所有権の登記カ唳ってきます。した がって、このように、元来だったら登記の抹消を求 めるべき場面で登記の移転を求めることは、一般的 にはあり得るわけです。 では、本問で D は F 相手に所有権移転登記を求め ることができるでしようか。 これについては、ます、これは私自身あまり詰め て考えていないのですが、保存行為といえるのかに ついて若干の抵抗を感じます。また、いずれにせよ A ・ 3 分の 1 、 D ・ 3 分の 2 という共有名義の登記 を求めるのであれば、これは固有必要的共同訴訟と なりますから、 A の協力なしに D が 1 人でそれを求 めることはできないだろうと思います。固有必要的 共同訴訟で A が協力してくれないときには A を被告 としてしまえばよいという最高裁判例もあるのです が、仮にそのような考え方をとったとしても、現に A に登記が無いときに、登記を求める訴訟で A が被 を求めるかどうかは、また次の問題であるとする考 とを認めろ、そして、その後に A が残りの 3 分の 1 ってしまえ、まずは、 D が 3 分の 2 だけを求めるこ ります。他方で、いや、それはもう諦めろ、割り切 的な解決にならないのではないかという考え方があ 果になりますが、これは実態とズレているので抜本 を認めると、 3 分の 1 は F 、 3 分の 2 は D という結 については 2 つの考え方があり得ます。まず、これ 登記を請求できるのかという問題があります。これ 「 3 分の 2 だけ登記をください」という所有権移転 次に、 D は 3 分の 2 の持分は持っていますから、 判を起こせないだろうと思います。 求めるのは固有必要的共同訴訟なので D 1 人では裁 出題されていますから、 A ・ D の共有名義の登記を あくまでも D が 1 人で請求をすることを前提として いずれにせよ、本問では「 D は、 F に対し」と、 があります。 告になり得るのかについても少し引っかかるところ 特集 ] 司法試験問題の検討 2016 え方もあると思います。おそらく今の学界の大勢だ なかったことを考えると、 D に帰責性を認めること 況で、しかも D はそういう相続財産があるのは知ら もいえますが、そもそも 1 カ月しか経っていない状 ば 94 条 2 項を類推適用するだけの帰責性があると いるのを知っていて長い間放置したというのであれ も経っていない状況です。他人名義の登記になって を買ったのが平成 24 年 3 月 30 日ですから、 1 カ月 死亡したのは平成 24 年 3 月 5 日で、そして F が土地 の帰責性があったのかという問題になります。 C が ると、では、 A や D に登記を放っておいたという程 を類推適用することも考えられます。ただ、そうす だから、その登記に対する信頼に注目して 94 条 2 項 それとは別に、 F は E の登記を信頼して買ったの 考え得るだろうと思います。 わけです。ですから、 94 条 2 項を類推するのは十分 ですから、たしかに通謀虚偽表示に近いとはいえる て表示し、しかも、相手方も知っているという状況 から、自分の真意とは違うことを自分で分かってい ( 有斐閣、 2 開 3 年 ) がある。 著、有斐閣、 20 年 ) 、「契約成立プロセスの研究」 弘文堂、 2011 年 ) 、「はじめての契約法〔第 2 版〕」 ( 共 2015 年 ) 、「ケースではじめる民法〔第 2 版〕』 ( 共著、 として「民法がわかる民法総則〔第 3 版〕」 ( 弘文堂、 たきざわ・まさひこ氏 「民事法演習」、「民事判例研究」などを担当。主著 冫思冫尺昌彦 1959 年生まれ。専攻は民法。 ます。この状況を考えると、 93 条のただし書きです 小判昭 44 ・ 11 ・ 14 民集 23 巻 11 号 2023 頁などがあり の解釈としても、 94 条 2 項の類推が考えられ、最二 93 条 2 項として提案されています。しかし、現行法 条文が、現在国会に提出されている民法改正案では 意の第三者に対抗することはできないという内容の これに関しては、 93 条ただし書きによる無効は善 性はないのかを考えなければなりません。 すが、では、善意の転得者である F を保護する可能 だし、 93 条ただし書きにより無効だろうと思うので と同じ理由で無効でしよう。相手方も知っていたの る契約は、先ほどの小問 ( 1 ) は甲土地でしたが、それ ますが、先ほど言ったように、乙土地を E に売却す 設問は「その請求の当否を論じなさい」としてい 登記についてはいろいろ問題があると思います。 が主流ではないかという気がします。このように と一緒になって裁判を起こすのが筋だという考え方 と、それはやはり駄目だ、必要的共同訴訟として A
048 などもあり得ないことになってしまいます。 こで終わってもよいのですが、本問では、 L が わざわざ E に確かめているのに、 E は、金銭の交付 がなかったことを言わないで、ただ「お金は払えま せん、ごめんなさい」と言っているだけですから、 明らかに E に過失があるわけです。だから、一番悪 いのはもちろん K ですが、 L と E とを比較するなら、 明らかに E の方が悪い。 L には過失がないので、か わいそうじゃないですか、少なくとも不法行為の請 求くらいはできそうでしよう ( ということは問題文 自体が示唆しています ) 。ですから、明らかにかわい そうな L を何とか保護する方向を考えなさいという 趣旨の問題だと私は解釈しました。 ですから、本問についてはいろいろな解答があり 得るのだろうと思います。 まずは、民法 459 条に注目しました。この条文に よれば、「保証人が主たる債務者の委託を受けて保 証をした場合において、過失なく債権者に弁済をす べき旨の裁判の言渡しを受け、又は主たる債務者に 代わって弁済をし、その他自己の財産をもって債務 を消滅させるべき行為をしたときは、その保証人は、 主たる債務者に対して求償権を有する。」これを読 んで、問題文を読み、 L には過失がないじゃないか と思ったわけですが、しかし、この条文は保証契約 がちゃんと有効に成立している場面を想定している のではなかろうかと思います。それから、もっと大 きい問題は、条文に「その他自己の財産をもって債 務を消滅させるべき行為をしたときは」とあります が、本問ではそもそも債務がないわけですよね。そ うすると、いったいこの条文が適用されるのだろう か、という疑問が生じます。 次に、私は、民法 463 条 2 項による 443 条の準用 ということを考えてみました。 463 条の趣旨は、例 えば主債務者が弁済をしたときは、「自分はもう弁 済をした。だから、あなたは払わなくていいよ」と 保証人に教えてやれ、にもかかわらず、保証人がち ゃんと教えてもらわなかった為に払ってしまったよ うな場合には、保証人は自分の弁済を有効だとみな してよろしい、ということです。もっとも、 463 条は、 今述べたように、主債務者が弁済をして債務を消滅 させた場合が念頭にありますが、本問の場合には債 務はもとから存在しません。しかし、いずれにせよ、 債務はないのに、その旨主債務者が保証人に注意し なかった為に保証人が保証債務を履行してしまった 場合ですから、本問の状況に近いのではないかと考 えたわけです。しかし、 463 条も、保証が有効に成 立していることを前提とする条文だろうと考える と、本問に適用するのは苦しいのではないかと思っ ています。 最終的に私が行き着いた結論は、保証が不成立で あるとしても、 E が L に「保証人になって」とお願 いした保証委託契約は委任契約であり、この契約は 有効だろうと思いますので、民法 650 条 3 項で、受 任者は、委任事務を処理する為に自己に過失なく損 害を受けたときは、委任者に対し損害賠償を請求す ることができます。委任契約としては文句なしに有 効なはずですから、この条文によって請求できるの ではないかというのが、現在の私の提案です。 これについては、他にもいろいろな考え方があり 得るかもしれません。この最後の問題はなかなか難 問で、よく考えさせる問題だと思います。 [ 2 ] 検討 (i) 〔設問 2 〕 ( 1 ) について 松尾ありがとうございました。では、私のほうか らも本問への所感を述べさせていただきます。 小問 ( 1 ) は、債権譲受人 M が債務者 E に「契約上の 債権」に基づいて元本・利息・遅延損害金の支払を 請求するための根拠と内容をまず問題にしていま す。滝沢さんが解説されたように、 M の請求の根拠 は、① H の E に対する貸金債権が成立し、②同貸金 債権を H が M に譲渡したことです。 M は①の貸金債 権の弁済期の到来を主張し、その内容である元本 500 万円、利息年 15 % ( 平成 26 年 4 月 1 日から平成 27 年 3 月 31 日で 75 万円 ) 、遅延損害金 ( 平成 27 年 4 月 1 日から支払済みに至るまで。仮に平成 28 年 3 月 31 日ま での 1 年分で 109 万 5000 円。以上だけでも 684 万 5000 円 になります ) を請求するでしよう。 これに対する E の反論ですが、 M はすでに債務者 対抗要件 ( 民法 467 条 1 項 ) を満たしていますので ( 平 成 26 年 8 月 5 日に E に到達した H からの債権譲渡通知、 または E による異議をとどめない承諾〔同月 5 日 H に送 達、同月 10 日 M に交付〕 ) 、 E とすれば、 HE 間の消 費貸借が賭博資金に用いる目的で、動機の不法が表 示されて法律行為の内容になっていたがゆえに、公 序良俗に反して無効であり ( 民法 90 条 ) 、かっそれ
162 戻した ( 結局、 X は、 A への近況報告等が記載され 死刑確定者 X は、再審請求弁護人 A に宛てて、便 た 1 枚目の便箋のみを A 宛ての信書として発信申請 箋 7 枚に記載された信書①の発信を申請した。信書 し、これが許可された ) 。 ①の便箋 2 枚目から 7 枚目までには、専ら X の支援 X は、信書①② ( 本件各信書 ) を返戻した拘置所 者ら 4 名に対する連絡事項等が ( 支援者らごとに便 長の行為の違法性を主張し国賠訴訟を提起した。第 箋を分けて ) 記載されていた。大阪拘置所長は、信 一審 ( 大阪地判平成 25 ・ 4 ・ 24 ) が、拘置所長の行 書①の発信を許可すると、拘置所の規律・秩序を害 為に違法はないと判断したのに対し、原審 ( 大阪高 するおそれがあると判断し、信書①を X に返戻した。 判平成 26 ・ 1 ・ 16 判タ 1408 号 64 頁 ) は、本件各信書 X は信書①を加筆・修正し、再度 A に宛てた信書② は支援者らとの関係で刑事収容施設法 139 条 2 項の の発信を申請したが、その記載内容は信書①とほば 要件を充たしているとして、拘置所長の行為の違法 同一であったため、大阪拘置所長は信書②も X に返 性を認めた。国が上告受理申立て。 〔最三小判平成 28 ・ 4 ・ 12 裁時 1649 号 5 頁〕 死刑確定者による信書の発信 最新判例演習室ーー刑事訴訟法 この点、実質的名宛人 ( 支援者ら ) との関係で 「交友関係の維持」 ( 刑事収容施設法 139 条 2 項 ) 交友関係維持の要件が充たされている信書であれ の要件は、誰との関係で問題となるか。 ば、当該信書の発信が形式的名宛人 ( A 弁護士 ) を介して行われる場合であっても、実質的には法 「刑事収容施設法 139 条 2 項は、同条 1 項各号に の要件を充足しており、法の潜脱にはならないと 掲げる信書以外の信書の発受について、その発受 も解しうる。原審は、恐らくこのような理解に立 の相手方との交友関係の維持その他その発受を必 って、実質的名宛人 ( 支援者ら ) との関係でも交 要とする事情があり、かっ、その発受により刑事 友関係維持の要件を検討し、法 139 条 2 項該当性 施設の規律及び秩序を害するおそれがないと認め を認めたのであろう。これに対し、最高裁は、同 るときは、刑事施設の長は、死刑確定者に対し、 項の文言に依拠し、「交友関係の維持」は「その 発受の相手方」、すなわち、形式的名宛人との関 これを許すことができる旨を定めている。原審は、 本件各信書の 2 枚目以降の部分が X と支援者ら 4 係で検討すべきとして、実質的名宛人との関係で 名との間の良好な交友関係を維持するためのもの 法 139 条 2 項が適用される余地を否定した。本判 であるとするが、同条 2 項の文言に照らせば、同 決により、拘置所長は専ら形式的名宛人との関係 項にいう交友関係の維持については当該信書の発 で交友関係維持の要件を検討すれば足りることが 受の相手方との関係で検討されるべきものであ 確認されたのである。 り、専ら支援者ら 4 名に対する連絡事項等が記載 なお、本判決が一支援者らとの関係では交友関 された上記の部分が本件各信書の発信の相手方で 係維持の要件が充たされているとした一原審の具 ある A 弁護士との交友関係の維持に関わるもので 体的な判断 ( 当てはめ部分 ) についてこれを明示 ないことは明らかである。また・・・・・・本件各信書の 的に否定していない点に照らすと、仮に本件各信 書が支援者ら各自に宛てた個別の信書として発信 内容、体裁等に照らせば、 X が、上記の部分を支 申請されていた場合、最高裁もこれらの各信書に 援者ら 4 名各自宛ての信書として個別に発信を申 請せず、本件各信書の全部を A 弁護士宛ての信書 ついて法 139 条 2 項該当性を認めたのではないか と思われる。この点、本件で X が各支援者宛ての として発信しようとしたことに拘置所の規律及び 秩序の維持の観点から問題があったことは否定し 信書として個別に発信を申請しなかったのは、大 阪拘置所長が本件支援者ら 4 名につき X との外部 ・・・大阪拘置所長の判断に不合理な点があ 交通を許可しない方針を採っていたからであっ ったということはできない」。以上のように説示 した上、原判決中上告人敗訴部分を破棄し、上記 た。しかし、法 139 条 2 項に該当する信書である 限り、拘置所長の方針に反することを理由として の部分につき、 X の控訴を棄却した。 当該信書の発信を不許可とすることは許されない 本件各信書のように、形式的には弁護士を名宛 のであって ( 大阪地判平成 26 ・ 5 ・ 22 LEX/DB 25504117 参照 ) 、本判決も、この点を当然の前提 人とするものの、実質的な名宛人は支援者らであ るという場合、刑事収容施設法 139 条 2 項にいう とした上で、支援者らごとに個別の信書を出せば 足りるとの判断を示したものと解される。 「交友関係の維持」の要件は、形式的名宛人との 関係でのみ検討されるべきか、あるいは、実質的 法学セミナー 名宛人との関係でも検討することが許されるか。 2016 / 09 / no. 740 裁判所の判断 愛知学院大学准教授石田倫識 ( いしだ・とものぶ )
数は切捨て ) 。その後、 Y の育児短時間勤務者給与 樊育 XI ~ X3 は、平成 5 年 ~ 13 年に社会福祉法人 Y と間 等支給基準に「昇給及び昇格の決定に当たっては、 児 に無期労働契約を締結し、理学療法士または看護師 育児短時間勤務の適用を受ける期間は通常の勤務を 短 として勤務している。 Y の労働時間は 1 日 8 時間で していたものとみなす」との規定が新設され、平成 全時 労働日は月 ~ 金である。 Y は育介法を踏まえて、平 25 年 5 月から適用された結果、一律の昇給抑制はと 第間 成 22 年 4 月から育児短時間勤務制度を施行した。 XI りやめられた。 XI らは、本件昇給抑制は法令等に反 らはこれを利用し、 1 日 6 時間勤務を継続している。 して無効であるとして、昇給抑制がなければ適用さ 症 ~ Y は、平成 21 年度 ~ 24 年度の昇給に関して、給与規 れている号給の労働契約上の地位を有することの確 に務 程の平成 19 年一部改正に基づき、全職員について、 、支給されるべきであった賃金と現に支給された たとえば通常 C 評価で 4 号給昇給のところをマイナ 賃金との差額賃金等の支払い、不法行為に基づく精 ス 1 号給としたが、それに加えて XI らの平成 22 年度 神的物質的損害賠償を求めた。 ~ 24 年度の昇給については、 8 分の 6 を乗じた ( 端 を [ 東京地判平 27 ・ 10 ・ 2 労経速 2270 号 3 頁 ] 霪用 得を欠勤とする取扱いについて、権利行使を抑制 を 本件昇給抑制が違法であり、無効となるか。 し、法が権利を保障した趣旨を実質的に失わせる と認められる場合に限り、公序に反して無効であ 一部認容。①育介法の規定の文言や趣旨等に鑑 るとしてきた ( 日本シェーリング事件・最ー小判 由 みると、同法 23 条の 2 の規定は同法の目的・基本 平元・ 12 ・ 14 民集 43 巻 12 号 1895 頁等 ) 。労使自治 と 理念の実現のために「強行規定として設けられた を前提とする諸般の事情による公序論という判断 す ものと解するのが相当であり、労働者につき、所 手法には、むしろ休暇等取得の権利保障の観点か 定労働時間の短縮措置の申出をし、又は短縮措置 ら、労務不提供に見合う賃金カットを超える不利 る が講じられたことを理由として解雇その他不利益 益取扱いは許されないとの批判が当初からみられ な取扱いをすることは、その不利益な取扱いをす た ( 水野勝・労判 206 号 ) 。当該規定の強行的効力 ることが同条に違反しないと認めるに足りる合理 によりかかる取扱いは無効ではないかとの疑念が 抑 的な特段の事情が存しない限り、無効である」。 背景には存在したと解される。これに対して、近 本件では、 XI らの基本給は 8 分の 6 に減額されて 年の最高裁判決 ( 広島中央保健生協事件・最ー小 おり、ノーワークノーベイ原則の適用をすでに受 判平成 26 ・ 10 ・ 23 民集 68 巻 8 号 1270 頁 ) は、均等 の けている。また、 Y での定期昇給の実質は 1 年間 法の目的等から同法 9 条 3 項を強行規定であると の業績や身につけた執務能力等を考慮して決定さ し、妊娠中の軽易作業転換を契機とする降格を同 法 れる賃金改定であり、 XI らはかかる考慮を経て B 、 項に反して無効としたが、補足意見では育介法 10 C の評価を受けたのに、一律に本件昇給抑制を受 条も同様に強行規定とされた ( 拙稿・本誌 722 号 ) 。 性 けている。それは「本来与えられるべき昇給の利 その直前の裁判例 ( 医療法人稲門会事件・大阪高 益を不十分にしか与えないという形態により不利 判平 26 ・ 7 ・ 18 労判 1104 号 71 頁 ) は、育休取得を 益取扱いをするものであると認められ」、前述の 理由とする昇給上の不利益取扱いについて、育介 「合理的な特段の事情」も認められない。強行規 法 10 条が禁止する措置に当たるとしつつも、公序 定違反の行為は無効が原則であるが、不十分な利 に反して無効としたが、同条の強行規定性を無視 益を与える部分が併存するとき、全部無効とすれ していると批判されていた ( 根本到・本誌 724 号 ) 。 ば労働者は不十分な利益すら失ってしまうので、 以上の流れの中で、本判決が近年最高裁判決の影 無効と解すべきではない。②育介法 23 条の 2 が本 響の下に同法 23 条の 2 を強行規定とし、本件昇給 来与えられるべき利益を実現するのに必要な請求 抑制を違法とした点が注目される。不利益取扱禁 権を与え、あるいは法律関係を新たに形成・擬制 止規定を超えて、休暇等保障規定一般の効力論へ する効力までをももつものとは、その文言に照ら の展開が期待される。本判決は昇給抑制を無効と して解しえない。③同様の理由から差額分の賃金 するのを避けた。本来の昇給とは別にこれに 8 分 請求もできない。④差額賃金相当分の財産的損害 の 6 を乗じた措置を無効とすればよかったのでは の補填および賃金額に不利益が継続することなど ないかと解される。本件では 3 歳から小学校就学 からの慰謝料の支払いは認められるべきである。 前までの短時間勤務も制度化されている。また平 成 22 年 6 月 29 日までの間は育介法 23 条の 2 は未施 従来の判例は、賞与等支給や昇給に出勤率要件 行である。同条の類推適用とともに確認規定性を を設け、労基法等で保障された休暇・休業等の取 認めるべきであろう。 163 事実の概要 最新判例演習室ーー労働法 争点 裁判所の判断 熊谷大学教授矢野日日 g 法学セミナー ( やの・まさひろ ) 2016 / 09 / no. 740
刑事訴訟法の思考プロセス ①令状において特定されている「捜索すべき場所」に限って、捜索は許容される ( 憲法 35 条 1 項、法 218 条 1 項、 219 項 1 項 ) ②「捜索すべき場所」に含まれるかは、間題となっている捜索対象について保護される権利・利益の侵害につ いて、「正当な理由」があるとの裁判官の審査がなされているかによる。 ③「捜索すべき場所」に置かれている物は、「捜索すべき場所」に包摂される ( 当該「物」について保護される権 利・利益は、当該場所に包摂されている ) 153 ④「捜索すべき場所」に置かれて はいるが、第三者が排他的に 管理する物は、「捜索すべき場 所」に包摂されない ( 捜索した 場合は、違法と評価される ) 。 ④「捜索すべき場所」に居合わ せた第三者の所持品が、③に 該当する「物」である場合は 捜索できる。 ④「捜索すべき場所」に居合わ せた者の「身体」については、 保護すべき権利・利益の違 いを理由に、原則として捜索 できない。 ⑤④により「捜索すべき場所」に包摂されないとされた物や身体等に、「差し押さえるべき物」等が隠匿されて いる場合は、例外的に捜索あるいはそれに類する探索的行為が許される ( その論拠や許される場合の理解 としては、複数あり得る。本文参照 ) 。 護される権利・利益の侵害は許されていないので、 当該令状による捜索はできないでしよう 21 。以上の 思考プロセスを示しておきます。 [ 2 ] 差押えの範囲 差押え目的物についても、特定性の要請により、 令状に特定され記載された差押え目的物 ( 法 219 条 1 項 ) に該当するものに限られます。当然、それ以 外の物の差押えは、憲法 35 条 1 項及び法 218 条 1 項・ 219 条 1 項により違法と判断されます。この差押え 目的物に該当するかの判断は、①令状に記載された 「差し押さえるべき物」 ( 上記令状記載例も参照 ) に 該当することに加え、②被疑事実 ( 罪名など ) と関 連すること、とされます。 問題となるのは、②被疑事実との関連性の判断で す。当該被疑事実について有罪・無罪を判断するた めの証拠 ( 「罪となるべき事実」に関する直接証拠及び 間接証拠 ) は関連性を有することについて争いはあ りませんが、当該事件の情状事実や背景事情 ( 犯行 動機や目的、犯行に至る経緯に関する事実、犯行前後 の犯人等の行動に関する事実など ) に関する証拠につ いても関連性が認められるかが問題となるのです。 この問題に関するリーディングケースとされる最 判昭 51 ・ 11 ・ 18 判時 837 号 104 頁は、暴力団 O の構成 員 X による恐喝被疑事件について、「捜索すべき場 所」を「大阪市南区・・・ O 組事務所及び付属建物一切」、 「差し押さえるべき物」を「本件に関係ある、 暴力団を標章する状、バッチ、メモ等、二、拳銃、 ハトロン紙包みの現金、三、銃砲刀剣類」と記載し た捜索差押許可状に基づき、警察官が、 O 組事務所 を捜索したところ、 O 組構成員である X らが賭博場 を開張し、賭博をさせた者の名前や寺銭 ( 賭博場の 借り賃 ) その他の計算関係等を記録したメモも差し 押さえたという事例について判断しました。本件で は、①との関係で「差し押さえるべき物」に明確に 含まれるとはいえず、②との関係で被疑事実とは直 接関連しないような賭博関係の本件メモが、差押え 目的物の範囲に含まれるのか ( 本件差押えの執行は 適法か ) が争われました。 昭和 51 年判決は、本件「捜索差押許可状には、前 記恐喝被疑事件に関係のある『暴力団を標章する状、 バッチ、メモ等』が、差し押さえるべき物のひとっ として記載されている。この記載物件は、右恐喝被 疑事件が暴力団である O 連合 O 組に所属し又はこれ と親交のある被疑者らによりその事実を背景として 行われたというものであることを考慮するときは、
司法試験冏題の換討 2016 松尾たしかに。でも少し既存の枠組みを出た思考 はずです。残りの半分は、基礎ばかりではおもしろ のチャレンジも評価してほしいですね。 くないというわけで、素材となっている判例をもう 滝沢だから、いろいろな可能性があってよいと思 少しいじり、少しずっ難しくしているのですから、 うのですけれどもね。 これは応用力を見ることになります。それでも、そ 松尾もっとも、そういうチャレンジをするために の応用力の前提となっているのは、基礎をどの程度 も、滝沢さんの結論にあった 650 条 3 項を最後に用 深く理解しているのかです。 意しておくことは、安全弁になるでしようね。 また、基礎を深く理解した上での応用力という点 それから、おそらく小問 ( 3 ) で問われているのは、 からすれば、先ほどの最ー小判平 4 ・ 12 ・ 10 も最 民法 459 条の求償要件とともに、通知の問題ですよ 三小判平 9 ・ 11 ・ 11 も、できれば事案をちゃんと ね。保証人力履行する前の 463 条の事前通知、それ 見ていると良いでしよう。そうすれば、あの事件と に対して主たる債務者が提供すべき情報が重要で 比較すれば、これは代理権の濫用だろうなという感 す。保証人が保証債務を履行するよといってきたと 覚が分かります。これに対して、全く抽象論で、公 きに、主たる債務者が「いや、実はまだお金もらっ 序良俗に反するのは駄目だとか法定代理の趣旨に著 てないんですよ」という情報を提供しなかった、こ しく反するのは駄目だとか理解していると、ではど の落度を法的にどこでどう評価するのかということ の程度違反したら駄目なのかがわからなくなってし が問われているのではないでしようか。 まいます。ですから、基礎的な判例くらいは事案を 滝沢だから、受験生の立場であっても、結論はと しつかりと勉強しておくとよいのではないでしよう もかく、 459 条とか 443 条という条文くらいは出さ か。そして、それを基にして応用して考えさせる問 ないとね。 題であるという意味では、良い問題ではないでしょ 松尾そう、いろんな可能性を検討すべきですね。 うか。 滝沢書かないと、気がつかなかったのかと言われ ただ、特に最後の問題 ( 〔設問 2 〕 (3)) などは、か てしまうからね。そのうえで、否定されるかも、だ なり難しいというか、別の言い方をすれば、何か「正 めかもしれないけれども・・ 解」を求めているのではなく、先ほど言ったように 松尾最終的に 650 条 3 項にいくまでのプロセス いろいろ考えてくださいという問題ではなかったか を、どの程度辿っているのかということが問われて と私は思います。 松尾今年の問題の全体的な特徴として私が思った いるのかな。 滝沢そういう意味では、いろいろな可能性がある のは、 1 つは、民法改正案で取り込まれている内容 と思います。最近の受験生をみると、結論だけ書け との関係で、特に〔設問 2 〕 ( 1 ) で、改正案で削除し ばよいという人が多くて気になるのですが、そうで ている異議をとどめない承諾についてあえて聞いて はなくて、自分で考えていますよ、右に行ったり左 いる点ですね。こは債権の譲受人の保護と債務者 に行ったり、結局は右往左往しているだけかもしれ の保護の調整問題の一環として、民法改正で削除さ ないにせよ、いろいろ考えていますよというプロセ れるかも知れないにもかかわらず、きちんと理解す スをある程度答案に出さないといけないのではない べきことは理解してくださいというメッセージなの か。そうでないと寂しい答案だなということになり かなと思いました。 そうですね。 他方、代理権の濫用、心裡留保の例外的無効を第 三者に対抗できない場面の規律、書面による諾成的 引全体としての評価 消費貸借契約の有効性など、民法改正案に盛り込ま 滝沢本問の全体としての評価としては、私も、松 れた内容に関わる問題もちらほらと見られる点は、 尾さんがおっしやったように、良い問題と思います。 特色といえるのかなと思いました。 〔設問 1 〕も〔設問 2 〕もどちらも基本となってい 民法改正案は単なる立法論ではなく、解釈論を深 るのは、比較的みんな知っている判例です。だから、 めるツールにもなるという意味で、改正案に目配り 半分くらいは、みんな書けると思います。しつかり しておくことも有益だと思います。 と基礎的な勉強をしていれば、半分くらいは書ける 滝沢たしかに、図らすもという感じだけれども、 053