新刊案内 2016 09-10 進化する符号理論 萩原学 / 編著 はぎわらまなぶ ( 千葉大学大学院理学研究科准教授 ) A5 判予価 2800 円十税 978-4-535-78797-1 ( 9 月上旬刊 ) 情報化社会には欠かすことのできない、デジタ ルデータの誤り訂正のための数学「符号理論」。 その基礎から最近の応用も含めて紹介。 折る幾何学 ーーー約 60 のちょっと変わった折り紙 前川淳 / 著 まえかわじゅん ( 折り紙作家 ) B5 判予価 2000 円十税 978-4-535-78799-5 ( 9 月上旬刊 ) ファン待望、前川淳の作品集。一見変わった折 り紙の数々とその解説とから、幾何学に裏打 ちされた「折る楽しさ」が味わえます。 “お理工さん”の微分積分 西野友年 / 著 にしのともとし ( 神戸大学大学院理学研究科物理学専攻准教授 ) A5 判予価 2500 円十税 978-4-535-78681-3 ( 9 月中旬刊 ) 数学オリンピック 2012-2016 ( 公財 ) 数学オリンピック財団 / 監修 こうえきざいだんほうじん・すうがくおりんびつくざいだん A5 判予価 2200 円十税 978-4-535-78817-6 ( 9 月中旬刊 ) ・日評べーシック・シリーズシリーズ進化生物学の新潮流 ウイルス共進化 ( 仮題 ) ー一生物進化の隠れた立役者一ウイルス 朝長啓造・宮沢孝幸 / 著 ウイルスに感染・寄生されるたび生物はウイル ともながけいぞう ( 京都大学ウイルス研究所がんウイルス研究部門ヒトウイルス研究分 スと「超個体」を形成し多様性を獲得してきた。 野教授 ) ・みやざわたかゆ同研究所細胞性物学研究部門准教授 ) 内なる進化の立役者の実像に迫る。 A5 判予価 2200 円十税 978-4-535-80655-9 ( 9 月中旬刊 ) 大学数学の最初の一歩である微分積分を、具 体的な例解問題を考えながら楽しく ( ? ) 学べ、 その先にある本質もチラリと見られる一冊。 2016 年香港大会までの IMO と日本予選・本 選の問題と解答、アジア太平洋数学オリンピ ック 2016 年の間題と解答をすべて収録。 天に向かって続く数 やさしい数遊びから出発し、現代数学で重要な 加藤文元・中井保行 / 著 かとうふみはる ( 東京工業大学理学院数学系教授 ) ・なかいやすゆき ( 京都府立嵯峨 役割をはたす朝進数》まで、ゆっくりじっくり学 野高等学校教諭 ) ぶ。初等整数論の好入門書でもある。 A5 判予価 2500 円十税 978-4-535-79806-9 ( 9 月中旬刊 ) ※表示価格は本体価格です。別途消費税がかかリます。
070 められるのかどうかの議論があった時代になされて いた議論かなと私は理解しています。 林平成 6 年判決 ( 最三小判平 6 ・ 5 ・ 31 民集 48 巻 4 号 1065 頁 ) が 1 つの転換点だったわけですね。それ ができたので、平成 8 年の立法改正でも、あまり議 論としては活発にならないのではないかと考えられ たのでしようね。 亀井そうですね。 林あと、亀井さんが途中でおっしやったところで すが、この設問に「その者が B に同調する場合とし ない場合」とありまして、同調しない場合について は Z のほうに共同訴訟参加をする場合があるとおっ しゃいましたが、本問でそれを書く必要はあるでし よう力、。 亀井 Z に同調する場合に、被告である Z 側に共同 訴訟参加するというのは、もちろんあり得ますよね。 林あります。本問では「その者が B に同調する場 合としない場合」といっていますので、どこまで書 く必要があるのかということなのですが。 亀井どこまで書くかですよね。この設問自体は、 主体を限定して、訴訟を起こした B としてどうすれ ばいいのかということを書けとまでは指定していな いです。「訴訟上の問題点について、まとめてくだ さい」とある。たしかに、修習生 P 1 と会話してい る弁護士 L 1 は、 B から依頼を受けた弁護士ですの で、 B 側、すなわち原告側として、どういうことを とり得るのかという視点での問題かもしれません。 ですから、 B に同調しない者が Z 側に共同訴訟参加 するということまでは考える必要があるのかという のはありますね。 同調しない場合には、被告側に共同訴訟参加すれ ばそれで当事者になるので、それなら別にそれ以上、 原告側としてはやることもないだろうと思います。 それで、もし同調しないけれども Z にも共同訴訟参 加しないというような場合には、その者を被告にす る方策を考えなければいけないという順番になるで しようか。 林答案の構成としては、いまおっしやったような 流れで書くということですか。 亀井そうかもしれませんね。しかし、そこまでし っかりと詰めて書く人がどれぐらいいるかはわかり ません。 私も、いま林さんから質問を受けながら、そうな るかなと考えて、初めて考えを整理できた感じなの で、 1 人で答案を考えながらそんなことが全部でき るかどうかといえば、何とも言えないです。 林あとは、反対する者がいた場合の対応策につい て、被告に回す以外の可能性も学説上はそれなりに 有力に主張されてきているところがあります。実体 法上の解釈として、提訴請求権があるとか。 亀井第 2 点目のところですか。私はこういう議論 は全く知りませんでした。 林最ー小判平成 20 年 7 月 17 日 ( 民集 62 巻 7 号 1994 頁 ) の解説でも目にする機会はありますが、 う視点で書いてきた人がどれほど答案において評価 を受けるのかというのはわからないですが。 亀井提訴協力請求権という構成ですね。そうする と、別に提訴請求訴訟を起こすということですか。 林そのようですね。 亀井提訴協力をするという意思表示をせよという 訴訟を起こすということですね。 林はい。それをすることによって、原告の地位に なることが擬制されるという構成です。 亀井間違った議論ではないと思いますが、実務家 の視点からすると、そのように面倒くさい訴訟を別 にすることはまず考えないという感じがします。ほ かに方策がなければ考慮するしかないと思うのです が。被告に加えるということで、実際問題としての 訴訟追行上の問題はない。 要するに原告側と被告側に分かれることの問題点 がどうなのかということですので、それが特に問題 なくて、被告側に加えるということで、判例・通説 上も認められているので、それで答案の解答として は十分だと思います。 林問題となり得るとしたら、登記請求の場合です よね。被告に回ったときに、本来的被告とともに登 記の移転義務などを負うことはありませんので、そ のときに被告側に回すと支障が出るのではないかと いう議論と結びつきます。ただ、本問では「登記請 求については考えることをせす」とありますので、 そこは論じなくてよいということでしようね。 亀井登記請求をするときには、社団なり全構成員 が原告になって、登記は B に移転をせよという請求 の趣旨ですよね。 B に移転登記をせよという訴えを 社団なり全当事者が起こすということでよかったで すか。 B も原告にならないといけなくなかったです
054 〔設問 1 〕も〔設問 2 〕も民法改正案でテーマとな っていることに少し絡んでいる。だから、昨年のこ の企画で平野裕之さんと対談したときには、改正が 問題となっている時期だけに改正案は出しにくいの ではないかと議論したのですが、今年の問題を見る と、別にそうではないよと言われたような感じがし ています。 それから、特に今年は、出題委員に法科大学院の 教員は入らないで実施され、実務家中心の問題傾向 になるのではないかとも考えたのですが、結果的に みると、別にそうでもないなという感じがして、理 論的にみてもおもしろい良い問題になっていると思 いました。 松尾私も、問題の展開の仕方として、条文と基本 判例を使って坦々と解いていく、〔設問 1 〕の ( 1 ) 、〔設 問 2 〕の ( 1 ) ・ ( 2 ) 、そういう問題があったうえで、あ えて条文に書いてない、判例も無い問題についてど う考えるのかを問う、〔設問 1 〕の ( 2 ) 、〔設問 2 〕の ( 3 ) は、考えさせる良問だと思いました。 滝沢ありがとうございました。 ( 6 月 29 日実施 ) 基本事例で考える 民法演習 2 池田清治著 「基礎・基本」の定着を追求する演習書。基本レベルから応用・ 展開レベルまで、段階的な記述で思考を鍛える好著の第 2 弾。 基本事例で考える 民法演習 池川清治 法セミ LAW CLASS シリーズ ◆本体 1 , 900 円 + 税 / A5 判 ◆ ISBN 978-4-535-52067-7 第 16 講 第 17 講 第 18 講 第 19 講 第 20 講 第幻講 第 22 講 第 23 講 第 24 講 第 25 講 第 26 講 第 27 講 第 28 講 第 29 講 第 30 講 第 31 講 第 32 講 第 33 講 受領遅滞と解除ーー損害賠償の範囲と危険負担 ( その 1 ) 受領遅滞と解除ーー損害賠償の範囲と危険負担 ( その 2 ) 虚偽表示と第三者たる賃借人の地位一一 94 条 2 項と原始取得 危険負担と損害賠償 - ーー他人物売買の場合 ( その 1 ) 危険負担と損害賠償ーーー他人物売買の場合 ( その 2 ) 他人の物の贈与とその効力ーー即時取得と担保責任 代理の基本構造ーー署名代理と表見代理 他人の物の賃貸借と担保責任ーー賃貸人の義務と損害賠償の範囲 賃貸人の地位の移転と解除権の帰趨ー・一一敷金と賃料をめぐる法律関係 債権の譲受人と「第三者」一一一金銭騙取による不当利得と第三者のためにする契約 代理関係の瑕疵と表見代理ーー - 盗品の売買と代金債権の帰趨 表見代理と即時取得ーーー解除権の代位行使 制限種類債権と保存義務ーーー債務不履行と瑕疵担保 弁済の提供と特定ーー危険負担と損害賠償 必要費と留置権一一一転用物訴権との関連 ( その 2 ) 必要費と留置権一一転用物訴権との関連 ( その 1 ) 買戻しと物上代位 - ーー抵当権の帰趨と追及効 表見代理と占有の効力ーー賃借権の時効取得 基本事例で考える 民法演習 池田清治著 好評既刊 民法演習 ◆本体 1 , 900 円 + 税 / A5 判 ◆ ISBN 978-4-535-51971-8 〒 1 70 ー 8474 東京都豊島区南大塚 3-12-4 TEL 03-3987-8621 FAX 03-3987-8590 ( 4 ) 日本言平言冊ネ土 ご注文は日本評論社サービスセンターへ TEL 049-274-1780 FAX 049-274-1788 https://www.nippyo.co・jp/
017 特集 ] 司法試験問題の検討 2016 ことになるでしよう。この場合に、設定される違憲 抑制することだということですね。そういう筋で 14 審査基準は、一般的な通説に立っても「合理性の基 条を論じるというのは、あったのではないかと私も 準」、つまり、目的が正当で、かっ、関連性があれ 思います。 ば足りるということになります。では、殺人犯は継 さらに、もうーっ検討したいのですが、先ほども 続監視をせず、性犯罪者は継続監視する、その区別 少し問題にしましたが、性犯罪の傾向が強いけれど の目的は何なのか。公権力側は、より再犯率の高い も未だ前科の無い者は、性的衝動がある点では前科 類型に対して、より予防的な措置をとるという目的 者と同じなのですね。そうすると、もう 1 ラウンド を主張するでしよう。 平等権の問題がある。つまり、なぜ犯罪衝動の強い 他方で、弁護士の側からは、実はこれは性犯罪者 者すべてを継続的に監視しないのか。前科がなくて に対する差別ではないか、差別が目的ではないかと も継続的に監視すべきではないか。なぜ、私たち前 主張するということでしようか。 科者だけを監視するのかという主張はできるのでは 西村差別が目的だと主張するかどうかはともかく ないかということです。 として、どうして性犯罪者だけなのかということは 西村「過剰」ではなく「過少」な規制だという考 14 条の問題になるのではないか、と思ったのですが。 え方ですか。 木村なると思います。ただ、合理性の基準までは 木村そういうことですね。その場合の区別の目的 一隹が解いても同じことになるでしようが、区別の目 は何なのかということです。 的をどう論じるのかが難しいです。弁護士からは差 西村それは、全員を対象にするのは実際上無理だ からということで反論できそうな気もします。 別が目的だと言っておけばよいのかもしれません 木村草 . 太 1980 年生まれ。専攻は憲法。「憲法総合 2 」「公法総 合演習」「情報法」などを担当。主要著作として「平 等なき平等条項論ーー - 憲法 14 条 1 項と equal protection 条項』 ( 東京大学出版会、 2008 年 ) 、「憲法 の急所ーーー権利論を組み立てる」 ( 羽鳥書店、 2011 年 ) 「憲法の創造カ』 (NHK 出版、 2013 年 ) 、「テレビが 伝えない憲法の話」 (PHP 新書、 2014 年 ) 「憲法学 再入門」 ( 共著、有斐閣、 2014 年 ) などがある。 が、難しいのは被告側です。性犯罪の抑止は、この 木村無理というのは ? 区別の目的ではありません。区別をすることの目的 西村それを本当にやろうと思ったら、全男性か全 を論じなければならないわけですが、「殺人に比べ 国民かわかりませんが、全員に性的衝動の有無をテ て性犯罪をより強く抑制しなくてはいけない」とい ストをしないといけないことになり、事実上かなり うのは説得的とは言えません。組み立て方がとても 難しいだろう。それよりは、一度でも性犯罪を犯し 難しくなります。だから結局、弁護士からは、性犯 ているということは当然、性的衝動を有しているリ 罪者をほかの犯罪者と比べて差別する目的があると スクが高いことになるだろう。だから、全員のテス 言えばよいのだと思います。 トが無理だというときに、一度罪を犯した人につい てそういう傾向があるかどうかを調べるのはそれな 西村なるほど。 木村そうだとして、被告からどのように反論する りに合理的なやり方である、ということにはなりま かですね。 せんか。 木村それは公権力の事情としてはわかるのです 西村被告からの反論が、 U さんの反論ということ が、本人は刑を受け終わっているわけですから、前 になるのでしようか。つまり、再犯率は同じだけれ 科をそうした事情に使ってよいのかということは疑 ども、特定の性的衝動に対する抑制がしにくい。だ から、性犯罪の場合は、ほかの殺人や強盗に比べて、 問だと思います。 より自分の意思ではないかたちで衝動的に犯罪をし 西村それはその通りですが、しかし、それ以外に どういう指標があるのかというと、ほかに手段がな てしまう人がいるのだというのが、 U さんが言って い、あるいはそこまでは言えないとしても、かなり いることですね。 有効な手段であるような気はするので、性犯罪の防 木村つまり、区別の目的は、衝動的な犯罪を強く きむら・そうた氏
041 B から A へ所有権の移転の登記をすることは認めら れていますし、そうすれば、抵当権付きではありま すが、ちゃんと所有権の登記カ唳ってきます。した がって、このように、元来だったら登記の抹消を求 めるべき場面で登記の移転を求めることは、一般的 にはあり得るわけです。 では、本問で D は F 相手に所有権移転登記を求め ることができるでしようか。 これについては、ます、これは私自身あまり詰め て考えていないのですが、保存行為といえるのかに ついて若干の抵抗を感じます。また、いずれにせよ A ・ 3 分の 1 、 D ・ 3 分の 2 という共有名義の登記 を求めるのであれば、これは固有必要的共同訴訟と なりますから、 A の協力なしに D が 1 人でそれを求 めることはできないだろうと思います。固有必要的 共同訴訟で A が協力してくれないときには A を被告 としてしまえばよいという最高裁判例もあるのです が、仮にそのような考え方をとったとしても、現に A に登記が無いときに、登記を求める訴訟で A が被 を求めるかどうかは、また次の問題であるとする考 とを認めろ、そして、その後に A が残りの 3 分の 1 ってしまえ、まずは、 D が 3 分の 2 だけを求めるこ ります。他方で、いや、それはもう諦めろ、割り切 的な解決にならないのではないかという考え方があ 果になりますが、これは実態とズレているので抜本 を認めると、 3 分の 1 は F 、 3 分の 2 は D という結 については 2 つの考え方があり得ます。まず、これ 登記を請求できるのかという問題があります。これ 「 3 分の 2 だけ登記をください」という所有権移転 次に、 D は 3 分の 2 の持分は持っていますから、 判を起こせないだろうと思います。 求めるのは固有必要的共同訴訟なので D 1 人では裁 出題されていますから、 A ・ D の共有名義の登記を あくまでも D が 1 人で請求をすることを前提として いずれにせよ、本問では「 D は、 F に対し」と、 があります。 告になり得るのかについても少し引っかかるところ 特集 ] 司法試験問題の検討 2016 え方もあると思います。おそらく今の学界の大勢だ なかったことを考えると、 D に帰責性を認めること 況で、しかも D はそういう相続財産があるのは知ら もいえますが、そもそも 1 カ月しか経っていない状 ば 94 条 2 項を類推適用するだけの帰責性があると いるのを知っていて長い間放置したというのであれ も経っていない状況です。他人名義の登記になって を買ったのが平成 24 年 3 月 30 日ですから、 1 カ月 死亡したのは平成 24 年 3 月 5 日で、そして F が土地 の帰責性があったのかという問題になります。 C が ると、では、 A や D に登記を放っておいたという程 を類推適用することも考えられます。ただ、そうす だから、その登記に対する信頼に注目して 94 条 2 項 それとは別に、 F は E の登記を信頼して買ったの 考え得るだろうと思います。 わけです。ですから、 94 条 2 項を類推するのは十分 ですから、たしかに通謀虚偽表示に近いとはいえる て表示し、しかも、相手方も知っているという状況 から、自分の真意とは違うことを自分で分かってい ( 有斐閣、 2 開 3 年 ) がある。 著、有斐閣、 20 年 ) 、「契約成立プロセスの研究」 弘文堂、 2011 年 ) 、「はじめての契約法〔第 2 版〕」 ( 共 2015 年 ) 、「ケースではじめる民法〔第 2 版〕』 ( 共著、 として「民法がわかる民法総則〔第 3 版〕」 ( 弘文堂、 たきざわ・まさひこ氏 「民事法演習」、「民事判例研究」などを担当。主著 冫思冫尺昌彦 1959 年生まれ。専攻は民法。 ます。この状況を考えると、 93 条のただし書きです 小判昭 44 ・ 11 ・ 14 民集 23 巻 11 号 2023 頁などがあり の解釈としても、 94 条 2 項の類推が考えられ、最二 93 条 2 項として提案されています。しかし、現行法 条文が、現在国会に提出されている民法改正案では 意の第三者に対抗することはできないという内容の これに関しては、 93 条ただし書きによる無効は善 性はないのかを考えなければなりません。 すが、では、善意の転得者である F を保護する可能 だし、 93 条ただし書きにより無効だろうと思うので と同じ理由で無効でしよう。相手方も知っていたの る契約は、先ほどの小問 ( 1 ) は甲土地でしたが、それ ますが、先ほど言ったように、乙土地を E に売却す 設問は「その請求の当否を論じなさい」としてい 登記についてはいろいろ問題があると思います。 が主流ではないかという気がします。このように と一緒になって裁判を起こすのが筋だという考え方 と、それはやはり駄目だ、必要的共同訴訟として A
事案を工夫するのが難しいとは思うのですが、「事 実 12 」もいろいろと書いてあるとはいえ、「巧妙に 欺き」という書き方をされると、まずもって「事実 12 」から内部統制の構築義務違反を認定する受験生 はいないのではないかと思いました。 会社法 362 条 5 項の取締役会での決定義務の話 は、「事実 9 」の中で触れられていたので、記述し ても簡単に述べて、さらりと善管注意義務違反の問 題に入ってしまってよろしいですか。 松井そうですね。 高橋最ー小判平 21 ・ 7 ・ 9 に沿って、一定の仕組 みが整備・運用されていたこと、関係部署を「巧妙 に欺」き「不正が発覚することを防止するための偽 装工作を行っていた」など通常想定し難い方法によ るものであったこと、また本件以前に過去に同様の 不正行為がなかったことに触れ、前半部分は概ね判 例どおりに書く受験生が多いでしよう。 一方で、 D に関連する部分でついては、 D 自身の 責任だけでなく、 C についてもやや丁寧に検討する 必要があるように思います。 D が C など他の取締役 や監査役に報告しなかったことは、 D の監視義務の 問題だけでなく、内部統制の運用の問題というとら え方もできるでしようか。 C の責任も D の責任も善 管注意義務違反に収れんすることについては、悩ま ないと思うのですが。 松井例えば、内部通報があり、それをコンプライ アンス担当の D のところで止め、取締役会や役員間 で情報を全く共有しないようなシステムの構築と運 用だったという話になると、それ自体が不十分であ ったということで、 C の責任も出てくる余地があり ますよね。その辺りの事実は、この問題では出てき ていません。 高橋「事実 11 」で甲社の内部通報の担当者が後日 C に報告をしている事実もあるので、遅れが生じた という事実はあれども、内部統制の構築や運用に著 しい欠陥があったともいえないのかもしれません。 いずれにしても、おっしやられたようにたくさん 数字が出ているので ( 笑 ) 、少なくとも D は責任が あるという結論を導いてほしいのは非常にわかりや すくメッセージとして出ていると思います。問題は その善管注意義務を認定するまでの過程ですが、事 実の経緯からいって、 D が E の違法行為に信びよう 性がないと考える根拠がほとんどないに等しいの 集」↓司法試験問題の検討 2016 で、合理的な判断といえないと評価するのも比較的 簡単ではないかと思います。 6 全体について 松井次に、本問題全体の評価ですが、商法のこれ までの出題の傾向としては、株式会社の運営に係る 紛争について、法律上の争点をしつかり指摘したう えで法解釈論を展開して、その事実を当てはめてバ ランスのよい結論を示すという意味で、他の科目と 同様の基本的な能力が問われていました。これまで の本試験においては、会社法は条文を使いこなすこ とが非常に難しいので、事実関係を踏まえて適用す べき条文を正確に示しているかどうかにも点がつい ている印象があります。今年の問題については、適 用すべき会社法上の条文を正確に探すことについて は、あまり苦労がなかったのではないかと思われま す。組織再編などが出題された場合は新設型なのか、 吸収型なのか、どちらのタイプの会社の適用が問わ れているかによって、正確に条文を探すことは結構 大変です。しかし今回はかなりオーソドックスな論 点が多いです。問題の数が増え、しつかり解答とし て処理することは大変になったとは思いますけれど。 高橋私も全く同感です。典型論点が多いので、特 に差が出るところは実務感覚のようなものを聞いて いる部分ではないでしようか。これにどれぐらい受 験生が対応できるかが鍵だと思いました。 問題も、前半と後半で全くちがうものになってい るので受験生としては、どれくらい発想を切り替え て読めるのかが課題ですね。うつかりすると見落と してしまう部分も出てくると思います。 松井そうですね。この会社、〔設問 1 〕では非公 開会社を前提とした内容になっているのに、「事実 8 」で上場したことになっています。以前、実務家 の先生とお話をした際、これはあまり聞かない話だ と言われました ( 笑 ) 。 高橋話がかなり飛躍していますよね ( 笑 ) 。しかし、 論述の内容はともかく、論ずべき主題を判断し誤る 受験生は少ないのではないでしようか。 松井そうですね。 高橋先ほど指摘があったように〔設問 2 〕 ( 2 ) の② のような話は、おそらくここまでは判例を追えてい ない受験生も多いとは思いますし、問題はこの辺り でしようね。 063
164 I B A R Y / 09 / 白馬にまたがった三段階審査論 ドイツ連邦憲法裁判所はこれまで抽象的審査制の代 表格として、付随審査制であるアメリカ合衆国最高裁 およびそちらの陣営に与する日本の最高裁とは対極を なすという粗い紹介がなされてきた。ところが、ドイ ツの憲法判例を三段階審査で整理した定評ある教科書 ピエロート = シュリンク ( 永田秀樹他訳 ) 『現代ドイ ッ基本権』 ( 法律文化社、 2001 年 ) が全訳され、その後、 小山剛教授による同方式を日本の判例分析に大胆に導 入した『「憲法上の権利」の作法』 ( 尚学社、 2009 年・ 新版 2011 年 ) が世に出るに及んで、三段階審査は決 して抽象的審査制ゆえの異質なものではなく ( 彼の地 扱いになる。さらに経済的自由の領域では、たとえば 薬事法判決を LRA 基準によって説明した通説をよそ に、判例はさっさと立法事実論という社会学的な事実 認識に基づく裁量統制論へと舵をきった ( 森林法判 決 ) 。 こうした審査基準論の閉塞感を背景に、抽象的審査 の国からやってきた三段階審査論が、学界の一部と多 くの学生・受験生から白馬の騎士のように迎えられた のである。本書は、このような流れを決定づけるマイ ルストーンとして後世に記憶されるであろう。本書に おいては、試論やセカンドオピニオンとしての控えめ な仕草は一切見られず、三段階審査の本来の出番であ る防御権的な権利においてはひたすら保護領域ー制限 ー正当化という定式で判例の整理がなされ ( この最後 では憲法異議訴訟という 主観訴訟的な訴訟類型で 形成されてきた方式であ る ) 、むしろ日本の憲法 判例も少なくともその一 部はこのような方式で審 査を行っているのではな いか、という理解 ( ない しは後講釈 ) が急速に広 まってきた。 アメリカ由来の司法審 査基準論には、人権の実 体的価値を反映した要素 と、非民主的な司法権が V I 『憲法ロ W 憲法 I 義まわ・人い常本物彦第・ 渡辺康行・宍戸常寿・松本和彦・工藤達朗 = 著 日本評論社 / 2016 年 4 月 /A 5 判 / 3200 円十税 の「正当化」の段階では、 「狭義の比例性」という 名の下に個別的利益衡量 にも正式の地位が与えら れる ) 、それ以外の権利 の領域においても判例が その都度あつらえてきた 審査手法が当該権利の性 質と結びつけられて整序 されている。保護領域の 画定とその領域に対する 国家権力からの侵入 ( 制 限 ) の有無の検証という、 大陸的実体権思考に忠実 どこまで立法という民主的なプロセスに介入すること が許されるのかという要素とが、当初からダイナミッ クに入り混じっており、もともとヨーロッパ大陸法由 来の静態的な実体権思考の根強い日本の実務にはうま く接合しなかった。他方でとりわけ日本の実務は、 法事件であっても個別救済を第一義と考えるので、個 別事案ごとの利益衡量でまず結論が先行し、他の理屈 でうまく理由付けができない場合にやむなく後付けの 法令違憲判決を下すことになる。法令違憲の理由付け が審査基準を語っていても、「はじめに人権ありき。」 ではなく「はじめに事案ありき。」というバイアスの かかった論証空間のなかで、細分化された事案類型ご とに審査基準は変形され、同基準はせいぜい利益衡量 の天秤か、もしくは立法裁量の広狭の色分けといった な段階を持っことで、アメリカ由来の審査基準論の意 うんちく 外に哲学的歴史的な蘊蓄を動員する奥深さを回避しつ つ、「原則としての自由 / 例外としての制約」という 法治国家的でありかっ私法のアナロジーで捉えられる 思考様式を確保しうる。他方で、利益衡量を比例原則 の一翼に位置づけることで、場当たり的な利益衡量で はない体系的位置づけを与えられたそれが可能とな る。本書によるこのような観点からの憲法判例の整理 は、期せずして無理のない論証形式を実務家に提供し つつ、同時に判例形成の予測可能性を高めるとともに なによりも「書ける答案スタイル」を憲法が苦手な学 習者に授けることで、憲法裁判実務の内外に大いに寄 与するものであろう。 むねすえとしゆき [ 専修大学教授棟居快行 ]
087 特集↓司法試験問題の検討 2016 ですが、何かプラスアルフアで積極的に殺意を基礎 案と対比するのがよいと思います。 づけるような部分はありますかね。 そう考えると、離脱・解消の文脈で捉えた上で、 杉本顔面への蹴りで必ずしも死ぬわけではないの 着手前についても危険解消措置を要求した平成 21 で、これだけではたしかに殺意を認めるための情報 年決定があるので、それと対比して、本件の程度で 危険解消措置が十分かどうかが問題になるのではな としては薄いですね。 いでしようか。さらに、物理的にも心理的にも、甲 照沼 V がすごく高齢であるとか、頭に持病があっ の影響度は高いとみられるので、その辺りをどうみ て、かっそれらの点が認識されているというのであ れば別ですが、 V は 40 歳の男性で、普通に夜寝てい るかということだと思います。 杉本その通りですね。松江地判に近い事案になる ただけです。さらに、 V を殺してこいという指示が のでしよう。東京高判 60 ・ 9 ・ 30 は、そもそも最 なされていたわけでもありません。 初の共謀の内容がそのまま実現しているわけではな [ 2 ] 甲が乙に犯行を中止するよう指示したこと いですよね。そうすると結果論ですが、判例では共 照沼次に、甲についてはいかがでしようか 謀者の共犯の罪責を認める場合には、離脱論を使っ て離脱していないと判断するものが多いのに対し、 杉本結論については異論ありません。いちおう問 題になりそうな点を挙げると、甲が乙に途中で犯行 認めない場合は、そもそもそれは共謀の同一性がな の中止を指示したため甲の離脱が成立するかという いので、その共謀に従った実行ではないとして否定 点が問題になっていましたが、似たような事例には、 しているものが目立っということでしようか。 共謀の射程外だという論理で片付けるものと、離脱 照沼そういうことになりますかね。 杉本一敏 1975 年生まれ。専攻は刑法。 「刑法総合 I 」「刑法総合Ⅱ」「刑法応用演習」など すぎもと・かずとし氏 を担当。主要著作として「理論刑法学入門 : 刑法理 論の味わい方』 ( 共著、日本評論社、 2014 年 ) 「責任 帰属原理の原理としての「責任モデル』と「例外モ デル ( 1 ) 」」早稲田法学 88 巻 2 号 ( 2013 年 ) 、「リスク 社会と過失結果犯」刑事法ジャーナル 33 号 ( 2012 年 ) がある。 杉本しかし、両者の論理はある意味では表裏の関 を問題にするものがあります。今回の場合は離脱の 係にあって、共犯者に離脱が成立していながらそれ 論理が問題になる事例になるでしようか。 でも実行分担者が犯行を実行してしまう場合という 照沼共謀の射程外として処理した事案というの は、例えば東京高判昭 60 ・ 9 ・ 30 判タ 620 号 214 頁 のは、その実行分担者が、当初の共謀の影響力には 依存していない何か新たな動機により新しい意思決 ですね。これは特殊な事案だという印象があります。 定で犯行を始めた、ということになるわけですよね。 長期間にわたり、場所や状況を変えながら何回か謀 議していて、それぞれの謀議で参加している者が入 そうなると、「当初の共謀の因果性は切れている」 といいやすくなります。そういう意味では、本問の れ替わったり、その都度の当事者間の認識が微妙に 事例では、当初の共謀の影響力が解消されていない 変遷を遂げていて、最終的に実行した者にも違う人 と判断されるので、「共謀の射程外」という論理は がいるという、多くの関与者が出入りしている事案 出てこす、またそれと同時に、甲の離脱も認められ です。被告人については、最終的に実現された殺人 ない、ということになるでしようか の事実について、そんな内容で意思を通じていたと 照沼確かに、厳密に両者を区別するのは難しいで はいえないと評価されて、共謀の射程外として処理 すね。離脱の成否につき、理論的に「別個の犯罪事 された事案ではないかと思います。本問については、 実」といえるかどうかで判断するという主張もあり どちらかというと、松江地判昭 51 ・ 11 ・ 2 刑月 8 ますが ( 島田聡一郎「共犯からの離脱・再考」研修 741 巻 11 = 12 号 495 頁のような、組の中で非常に地位の 号〔 2010 年〕 3 頁以下 ) 、判例は基本的に因果的共犯 高い人間が犯行を指示し、現場まで既に配下の者が 論に基づいていると考えると、「離脱」と「射程外」 行った後で、止めるように指示して連れ帰らせよう という両者の処理につき原理的に何か違いがあるわ としたが、結局、一部の者が実行に出てしまった事
033 特集』司法試験問題の検討 2016 うな時間や解答スペースはおそらくないので、簡潔 れているだけで壁がないため、自動車の騒音、ライ にまとめる必要があります。 トグレア及び排気ガスを防ぐ構造にはなっていませ 湯川流れとしては、許可基準の法的性質という意 ん。許可基準が求めるさまざまな対策を何もとって 味では裁量基準だと捉えるのでしようか。本来なら いないわけですから、それを許可基準の各条項に即 ば、裁量基準としての合理性を論じなければならな して指摘していくことは必要だろうと思います。 いのですが、そこまでの余裕はないので、裁量基準 湯川細かい話になりますが、本件の自動車車庫が と適合しているのか、仮に裁量基準に違反している 1 層 2 段式だという点はどうでしようか。許可基準 として、なおかっこれが適法だといえるような特別 には 1 階以下の部分にあることとありますが、そこ の個別的な事情があるのかという検討を踏まえてい は違反しているということになるのでしようか。 くということですね。 南川本件自動車車庫のように屋上部分を利用する 南川この要綱が裁量基準に当たらないとなります 1 層 2 段の自走式車庫が許可基準「 1 階以下の部分 と、許可の外にあるということですから、今度は行 にあること」に適合するものか否かについては、様々 政指導の指針とみることも問題になるところです。 な考え方が成り立っところですね。ただ、実務書の そういう点はなかなかおもしろいところですが。ま 解説などをみますと、「階数とは層数のことをいう」 た、裁量基準の裁判規範性については、マクリーン との説明がなされていますので、実務上は適合する 事件の規範なども含めてですが、やはり詳しく書く と取り扱われるようです。しかし、これを初見の許 時間があまりないのではないかと思います。 可基準から導き出すことは困難ですから、答案上の 湯川たしかに、細かく検討すると、あくまでも例 処理としては、どちらでも構わないと思います。た 外許可は用途規制に対する例外を認めるという制度 だ、この点にひっかかって時間を使った受験生も多 湯】ニ朗 1 0 年生まれ。湯川法律事務所所属。 「行政法演習」「環境法講義」「環境法演習」などを ゆかわ・じろう氏 担当。主要著作として、「入札に関する争訟」現代 行政法講座編集委員会編「現代行政法講座Ⅳ自治 体争訟・情報公開争訟」 ( 日本評論社、 2014 年 ) 、「行 政訴訟の現状の問題点と改革の方向性」 ( 共著 ) 月 刊司法改革 19 号 ( 2 開 1 年 ) 8 頁、「市民のための行 政訴訟制度改革」 ( 共著、信山社、 2 0 年 ) がある。 であるのに、その許可基準がこの自動車車庫の構造 くいたのではないかと思われます。ついでに、同じ が、騒音とかライトグレアとか排気ガスに対しての く建築基準法施行令 130 条の 5 、そして要綱の基準 対処ができているのかどうかで判断しようというの にも同じ表現があるのですが、自動車車庫の床面積 は、制度と許可基準とが直接結びっているのか、ま の合計について、「同一敷地内にある建造物に附属 ともに議論するとなかなか大変な気もします。 する自動車車庫の用途に供する工作物の築造面積」 南川出題者の意図としては、本件事案の裁量基準 というのが、何のことかなかなか理解できなくて、 への当てはめ、裁量基準の規範の意味内容を理解で かなり引っかかりました。ただでさえ今年は問題数 きたかというのが 1 つのポイントでしよう。もう 1 が多いので、このようなあまり本筋とは関係ないと ころで時間を使うような点については改善の余地が つは、裁量基準に違反しても直ちに違法にならない という点を押さえているかどうかですね。この点を あるようにも思いました。 湯川いずれにしても〔設問 2 〕は、従来ですと、 みるぐらいの問題ではないかと思っています。 湯川個別的な事案が、それぞれの許可基準に、何 訴訟要件を論じさせる設問 1 と、実体的な違法事由 がどう違反しているのかについては、どの程度触れ を論じさせる設問 2 との 2 つでも十分なくらいの量 る必要があるのでしようか。細かく全部みていく必 の問題です。なのに、他にもまだ設問が複数あるの こでは、手続的違法と実体的違法について、 要がありますか。 で、 南川実体的瑕疵では、そこがメインになるとは思 とにかく簡潔に要領よく論じることが求められてい います。本件自動車車庫については、屋上部分の外 るのですね。 周に転落防止用の金属製の網状のフェンスが設置さ 南川手続的違法は手続的瑕疵の取扱い、実体的違
042 はできないと思います。 小問 ( 1 ) は、甲土地について、所有権移転登記手続 ただ、そうすると 1 つ問題が生じ、つまり、私は を求める E の「請求の根拠」を説明し、その当否を 先ほど 94 条 2 項で F を保護できるとしましたが、登 論じることを求めています。 E の請求の根拠はまず、 己の話になると、同じ 94 条 2 項を適用するにもかか 滝沢さんの解説どおり、①甲土地の売買契約に基づ く債権的移転登記手続請求です。平成 24 年 2 月 10 わらず F を保護できない、なぜ結論に差があるので すか ? ということになりそうです。 日の AE 間の甲土地売買契約では、甲土地について それについては、帰責性がちがうという説明がで E が 450 万円の現金を調達できた時点で C から E へ の所有権移転登記手続をすることを合意しています きます。つまり、 93 条ただし書きの無効を第三者に 対抗することはできないという結論を導く為に 94 ので、平成 25 年 6 月 30 日に甲土地の売買代金全額 条 2 項を類推適用しようという見解は、両者とも自 を提供し、これを拒絶されて供託した E としては、 分の真意とちがう法律行為を、しかもわざとしてい 売買契約に基づく所有権移転登記手続請求の要件を 満たしています。また、②特定物売買における所有 るところに帰責性を捉えているわけです。だから、 本問ではそのような帰責性はあります。そんなこと 権移転時期に関する判例 ( 最二小判昭 33 ・ 6 ・ 20 民集 12 巻 10 号 1585 頁 ) によれば、 E は甲土地所有権に基 ( 真意とは異なる表示 ) をしたのは A ですが、 A は C の法定代理人ですから、 A がしたことについて C は づく物権的移転登記手続請求の要件も満たしている 甘んじてそれを受けるべきだろうと思います。 といえるでしようか。 他方、登記に 94 条 2 項を類推適用する場合の帰責 これに対する AD の反論として、滝沢さんの解説 性は、先ほども少し言ったように、真実とは異なる のとおり、 A の代理権行使が利益相反行為 ( 民法 登記がされているのを放っておいたという帰責性で 826 条 ) に当たるとの主張に対しては、判例の外形 す。それを考えると、放っておいたのは 1 カ月程度 標準説に従えば、利益相反行為に当たらないとする ですから、帰責することはできないだろうとおもい E の再反論が予想されます。そこで、 AD とすれば ます。このように、それぞれの帰責性の根拠がちが A の代理権濫用の意図を相手方 E が知っていたこと います。そもそも最初の法律行為に問題があったの を主張・立証し、 AE 間の売買が無効 ( 判例の民法 93 条ただし書き類推適用説 ) または E の移転登記手続 か、それとも登記を放っておいたことに問題があっ たのか、そういう点に違いがあることを考えれば、 請求が信義則に反する ( 民法 1 条 2 項による悪意の抗 こういう結論の差があっても、おかしくはないので 弁説 ) と主張することが考えられます。ここでも滝 はないでしようか 沢解説どおり、 A が自分の遊興を原因とする借金の ですから、本問では、 93 条ただし書きによる無効 返済のために甲土地を E に売却したことカ玳理権濫 用に当たることの分析が焦点になるでしよう。 E は を善意の第三者に対抗することができない、 94 条の 【事実】 4 の甲乙両土地の売買契約締結の時点で、 類推適用で善意の第三者は保護されると考えればよ A が遊興を原因とする多額の借金を抱え、乙土地の いのではないかと思います。 代金 600 万円をその返済に充当するつもりであるこ [ 2 ] 検討 とを知っていたということですから ( 【事実】 6 ) 、 〔設問 1 〕 ( 1 ) について 甲土地の売却についても代理権濫用に当たると解し 松尾〔設問 1 〕は、滝沢さんから説明があったと てよいでしよう。もっとも、それを D と共に A も主 張することの当否をどうみるかという問題が残りま おり、法定代理人 A による本人 C の甲土地・乙土地 についての E との間での権限濫用行為の効果、代理 す ( 後述 ) 。 ちなみに、民法改正案 107 条は代理権濫用の効果 権濫用者 A が他の共同相続人 D と本人 C を相続した につき、原則として有効であるけれども、相手方が ときの法律関係、 AD の共有持分権の効力等を問う ています。このうち、小問 ( 1 ) は AE 間で所有権移転 代理人の権限濫用の意図を知り、または知ることが できたときは、「代理権を有しない者がした行為と 登記手続が未了の甲土地を、反対に、小問 ( 2 ) は AE 間で所有権移転登記も終わり、さらに F に転売され、 みなす」と規定しています。それによれば、本問で は A の行為は無権代理行為ということになります。 登記、引渡しも終わった乙土地を問題にしています。 一三ロ