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検索対象: 法学セミナー 2016年9月号
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1. 法学セミナー 2016年9月号

072 判決の効力を団体の構成員に及ばす必要から、団体 とするものである以上、反訴原告の地位に生じた現 在の危険・不安を除去するという視点に基づく、即 自体を被告とすべきです。よって、 Z は利害関係が 対立する B ではなく、団体である X を反訴被告とし 時確定の利益が認められます。 そして、 Z の解任決議無効確認は、過去の権利関 て訴えを提起することができると考えられます。 これらの反訴請求が、本訴となる第 1 訴訟の各請 係の確認を含むものであり、その対象としての適格 性には疑問もあり得ます。しかし、そもそも訴訟物 求とどのような関係に立つかということを検討しま の前提たる法律関係を対象とする中間確認の訴えに すと、これらはいすれも、第 1 訴訟の訴訟追行主体 である B が団体を訴訟上代表する地位にないという おいては、対象選択の適否は厳格には求められない という立場があることに加えて、決議の無効を確認 ことを追及するものです。そして、現在の代表者で することによって、 Z が依然として会長の地位にあ ある B への所有権移転登記請求の当否を論ずるうえ ることを確認することにもなり、本件不動産の帰属 で、前提となる先決的な法律関係ということができ をめぐる X と Z との間における現在の紛争の抜本的 ると思われます。そして、 Z の本訴請求の進行中に 解決に資するということができます。さらには会社 おいて、自らが X 団体の会長であって、第 1 訴訟は 法をはじめとする団体法制においては、団体の総会 会長職になく代表権がない B が代表者として提起さ れていると主張して、その適法性を争って訴え却下 決議の効力を争うことが許されていますので、中間 判決を求めようとしています。ですから、本件反訴 確認の反訴の対象としての適格性を満たしていると は中間確認の反訴請求を提起しようとするものとい いうことができます。 ところで、昭和 28 年判決は、本案の前提問題とし えます。 ての手続的事項について確認の利益を認めないとい 以上の点を踏まえて、そもそも本件反訴が適法で う結論を述べています。この昭和 28 年判決は、訴訟 あるかどうかと、中間確認の訴えの利益が認められ 係属の適法性を基礎づける訴訟要件でもある訴訟代 るかを検討したいと思います。 理権が存在しないことを独立の訴えとして確認を求 まず、反訴の適法性について、民訴法 146 条 1 項 めたという事情に基づく判断です。 の要件との関係では、本件反訴は本訴の目的である 確かに、【事例】においても、会長の地位にある 請求又は防御の方法との関連性を有するかという点 ことの確認を通じて団体の代表者であることが定ま が問題となります。本件反訴の目的である請求は、 り、それによって実際の訴訟追行主体の代表権の存 Z が会長の地位にあることの確認と Z の解任決議の 否が定まるという関係にありますので、本案の前提 無効確認です。 L 2 の発言にあるように、総会決議 問題としての手続的事項ということもできます。し は無効となり、そうであるとすれば、規約上 1 名に かし、当該訴訟限りで、その効力が問題となる訴訟 限られる会長が既に存在するとしてなされた新会長 代理人の代理権の存否とは異なって、現に会長の地 の決議も無効となるという前提に立っと、本件反訴 位にあることの確認をすることは、 X 団体の対内的、 の請求は、いずれも本訴請求の前提となる B の会長 たる地位、すなわちその代表権の有無という法律関 対外的関係において、派生的かっ連鎖的に発生し得 る法的紛争の前提となるものであるといえると思わ 係です。ですから、本訴の目的である所有権移転登 己手続請求請求とも関連性を有し、また、本案前の れます。 したがって、昭和 28 年判決とは問題を異にしてい 答弁として B を代表者とする本件訴えは不適法であ るということができ、そのうえ、【事例】では別訴 るとの Z の防御方法との関連性も有するということ ではなく反訴を選択している点でも、昭和 28 年判決 ができます。そして、専属管轄違背、訴訟手続の著 とは事情が異なります。よって、中間確認の反訴に しい遅滞をもたらす事情は見受けられないことか よること ( 方法選択の利益 ) も認められるというこ ら、民訴法 146 条 1 項所定の要件を満たすというこ とができます。 とができます。 以上のように、本件反訴について、確認の訴えの 次に、本件反訴として行われた中間確認の訴えの 利益が認められるとの立論をすることができます。 利益については、本件反訴の訴訟物が、本訴請求で ある第 1 訴訟の訴訟物に関連する中間の争いを対象 一三ロ

2. 法学セミナー 2016年9月号

公共空間を考える・ - ーー技術者として法を語る という発言であった。そしてこの発言には、「それ には、先ず、謙虚な反省が必要である。今迄の悪か った点を反省して、国としても、個人としても、人 生の再出発をする」とのフレーズが続いていた。っ まり新聞報道では、本人の原稿にあったであろう反 省的な文章が省略され、他方で「文化日本」と「国 体護持」が強調されたのだ。しかも新聞記事には「文 化日本の建設へ」という見出しがつけられていたが、 同様の言い回しは、 1945 年 9 月 6 日の朝日新聞で、 東久邇首相の施政方針演説の「万邦共栄文化日本 を再建設」という大見出しにも見て取れる。 このように、戦後日本の文化国家論は、戦中から の切断によってというよりも、むしろ戦中の継続と して登場してきたものだった。これを仕掛けたのは、 戦中期に戦争遂行に向けて様々な国民教化のキャン ペーンを仕掛けてきたのと同じ人々であったと思わ れる。いわば「文化」は、「平和」の代理という以 前に、「戦争」の代理として与えられたのだ。実際 4 く、 1945 年 9 月 11 日の「文化日本」による国家再建を謳 う記事でも内閣情報局の担当官の発言が掲載され、 「われわれは今日武力に敗れたことによって気を失 うことなく、『文化日本』をうちたてることによっ てこの屈辱を拭い払わなければなるまい・ ・ ( その ために ) 名実ともに東西文化を融合した『文化国日 本』をうちたてたい」とされていた。「武力」によ る敗戦を「文化」による勝利に転換するこの論理は、 やがて「文化」が「技術」に入れ替わることで、 1960 年代の高度成長期の技術立国言説へと引き継が れていく。 02 ー新憲法体制の中でのく文化〉の焦点化 敗戦直後に沸き起こった文化国家論議は、こうし た言説上の流行にとどまらず、新憲法や教育基本法 のような戦後体制の根幹にも深い刻印を与えていっ た。たとえば、 1946 年 11 月 3 日に公布された日本国 憲法の第 25 条には、「すべて国民は、健康で文化的 な最低限度の生活を営む権利を有する」という条文 が盛り込まれている。この新憲法公布に際して発せ られた天皇の勅語でも、「朕は、国民と共に、全力 をあげ、相携へて、この憲法を正しく運用し、節度 と責任を重んじ、自由と平和とを愛する文化国家を 建設するように努めたい」と語られていたから、「文 化」は当時、新憲法体制の根本概念として認識され 設の強力な中枢機関として、政府内に文化建設本部 されていく。政府は 1946 年 10 月 7 日、「文化国家建 この流れの中で、やがて「文化庁」の設置が決定 03 文化〉の復興から〈経済・技術〉の復興へ 標となったのである。 た文言が並び、「文化」は特別に強調される達成目 活」「文化国家の建設」「文化の創造と発展」といっ った戦後日本の根幹をなす法の条文に「文化的な生 る」とされていた。つまり、憲法や教育基本法とい の敬愛と協力によって、文化の創造と発展に貢献す 尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他 2 条で、教育の目的を達成するため「学問の自由を とする決意を示した」ことが前文に書き込まれ、第 を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しよう きに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家 3 月に制定された教育基本法でも、「われらは、さ 新憲法だけではない。日本国憲法に続いて 1947 年 りへ変換させたのだった。 障ではなく、電化されたアメリカンな生活を促す語 の」という修飾句を省略し、条文を基本的権利の保 たものだったのだが、この広告は肝心の「最低限度 民が「最低限度の」生活を営む基本的権利を保障し 的な最低限度の生活をいとなむ権利がある」と、国 原文通りではなかった。原文は「国民は健康で文化 ところが実は、この広告は、日本国憲法第 25 条の 化の主体となるよう誘っていった。 広告の読者である家庭の主婦たちに家庭電化 = 民主 設計 リビング・プランをおたてになっては」と、 りをご覧になって、より便利に、より楽しい生活の 成可能になるという論理で、広告は「あなたのまわ 実現され、戦後日本が標榜している「民主化」も達 つまり、家庭電化を通じてこそ「文化的な生活」が 社の家電製品を買い求めるよう顧客に訴えていた。 主化」のテーゼに家庭電化の必要性を結びつけ、同 そのひとつに家庭の電化があります」と、「民 この私たち国民すべての願いが満たされていくもの 生活をいとなむ権利がある』と、うたわれています。 「日本の憲法、第 25 条には、『国民は健康で文化的な 例えば、 1959 年の松下電器による電化製品の広告は、 の大衆意識において特別な意味合いを帯びていく。 ちなみにこの憲法第 25 条の中の「文化」は、戦後 ていたのである。

3. 法学セミナー 2016年9月号

028 [ 特集引司法試験問題の検討 2016 法学セミナー 2016 / 09 / no. 740 論文式試験問題公法系〔第 2 問〕 岡山大学教授 南川和宣 い出題全体について 湯川平成 28 年度の論文式試験問題 [ 公法系科目 ] 〔第 2 問〕行政法について検討していきます。最初 に南川さんから全体についての基調報告を簡単にお 願いします。 南川本問は、都市計画法上の第一種低層住居専用 地域において計画されたスーパー銭湯の建築を阻止 するために周辺住民が行政訴訟を提起したという事 案のもと、訴訟法上の問題と行政処分の違法性の問 題を検討させるものです。事案のモデルとなった事 件は名古屋地決平 9 ・ 2 ・ 21 判時 1632 号 72 頁であ ると思われますが、同決定は建築確認を受けたスー パー銭湯の建築・開業により生活環境などが著しく 害され、その被害は受忍限度を超えるとして建築工 事禁止の仮処分が周辺住民により申し立てられた事 案であり、スーパー銭湯が建築基準法上の「公衆浴 場」に当たるか否か、被害が受忍限度を超えるか否 かが争われていました。 これに対して、本問では、周辺住民が本件スーパ 一銭湯の建築にかかる行政処分に着目し、本件自動 車車庫に対する例外許可と、本件スーパー銭湯にか かる建築確認の 2 つの行政処分の取消訴訟を提起し たという設定になっています。そしてこの設定のも と、〔設問 1 〕では、例外許可の取消訴訟の原告適格、 〔設問 2 〕では、同訴訟における本案の主張、すな わち同許可の違法性を問うています。そして〔設問 3 〕では、例外許可の違法性を同許可の取消訴訟で はなく、後続する建築確認の取消訴訟においても主 張できるか、すなわち違法性の承継の可否が、そし て最後に〔設問 4 〕では、本件建築確認の違法性が 問われています。 湯川個別の設問に入る前に、今年は設問が 4 問あ 弁護士、京都産業大学教授 湯川ニ朗 りました。南川さんとしてはこの問題の量、解答量 についてはどのようにお感じになりましたか。 南川問題文の分量としては、添付されている資料 が少し多いですが、それ以外の部分でみますと例年 と同じだと思います。ただ、設問が 4 つあり、そし て解答する内容がそれぞれかなり多いものですか ら、時間内に解答できるかという点では、大変な試 験だと思いました。 湯川このあとまた検討させていただきますが、〔設 問 1 〕の原告適格の問題は受験生からすると大きな 論点ですので、これだけに力を入れて答案を作成し てしまうと残りが書けなくなってしまいます。その わりに〔設問 1 〕の配点割合は大変少なくなってい るので、従来的な論点型の勉強だけをしてきた人か らすると、非常に困ったことになります。 南川設問の数が多いほど、様々な分野から偏りな く出題できますので、受験生の実力が正しく測れる という点ではメリットがあると思います。その反面 で、解答量が全体として多くなり、 1 つひとつの設 問に使える時間が少なくなるため、やはり解答の質 が一定程度低下することは避けられないでしよう。 どういう答案に合格点をつけるかという点では、悩 ましい話だと思います。 湯川各論点について十分理解している受験生であ っても、はたして 4 問を時間内に書き切れるかとい う事務処理能力まで問われると、なかなか難しかっ たかもしれません。 幻〔設問 1 〕の解説と検討 湯川それでは個別的な設問の検討に入っていきた いと思います。ます〔設問 1 〕からお願いします。 南川〔設問 1 〕は、第三者の原告適格についての 問題です。原告適格の判定は、今回で 4 回目の出題

4. 法学セミナー 2016年9月号

[ 趣旨・内容 ] ①宅地建物取引業者 に対し、 a ) 媒介契約の締結時に建物 状況調査を実施する者のあっせんに 関する事項を記載した書面を依頼者 に交付すること、 b ) 買主等に対して 建物状況調査の結果の概要等を重要 事項として説明すること、 c ) 売買等 の契約の成立時に建物の状況につい て当事者の双方が確認した事項を記 載した書面を交付すること、を義務 付ける。②宅地建物取引業者との宅 地建物取引業に関する取引により生 じた債権に関し、営業保証金または 弁済業務保証金による弁済の対象か ら、宅地建物取引業者を除く。③宅 地建物取引業の事業者団体は、宅地 建物取引士等に対して、体系的な研 修を実施するよう努める。宅地建物 取引業保証協会による同事業者団体 に対する当該研修の実施費用の助成 を可能とする。 [ 施行期日 ] 公布日 ( 2016 年 6 月 3 日 ) から 1 年 ( ①は 2 年 ) 以内で政 令で定める日 [ 審議経過 ] 2016 年 2 月 26 日 ( 190 国会 ) 内閣提出、 4 月 21 日衆・国土 交通委付託、 22 日趣旨説明、 27 日質 疑の後可決、 28 日衆・本会議可決、 全会一致。 5 月 23 日参・国土交通委 付託、 24 日趣旨説明、 26 日質疑の後 可決、 27 日参・本会議可決、成立、 全会一致。 [ 審議論点 ] 法改正の意義および効 果、建物状況調査、いわゆるインス ペクションの在り方等 酒税法及び酒税の保全及び酒 類業組合等に関する法律の一 [ 趣旨・内容 ] ①財務大臣は、酒類 [ 平成 28 年 6 月法律第 57 号 ] 部を改正する法律 に関する公正な取引につき、酒類製 造業者または酒類販売業者の適切な 経営努力による事業活動を阻害して 消費者の利益を損なうことのないよ うに留意しつつ、酒類製造業者等が 遵守すべき公正な取引の基準を定め る。当該基準を遵守しない酒類製造 業者等に対して、指示、公表または 命令をすることができ、命令違反に 対しては、免許の取消しができるこ と等とする。②財務大臣の質問検査 権の対象に、酒類業組合等、酒類製 造業者または酒類販売業者の関係事 業者を追加する。③酒類製造業者ま たは酒類販売業者の酒類の取引に関 し、公正取引委員会と財務大臣の間 において双方向の報告制度を設け る。④酒類小売業者は、酒類の販売 業務に関する法令に係る研修を受け た者のうちから酒類販売管理者を選 任し、当該酒類販売管理者に対して は、財務省令で定める期間ごとに研 修を受けさせなければならないこと とする。 [ 施行期日 ] 公布日 ( 2016 年 6 月 3 日 ) から 1 年以内で政令で定める日 [ 審議経過 ] 2016 年 5 月 10 日 ( 190 国会 ) 衆・財務金融委において起草、 同日同委員長提出、委員会審査を省 略し、 12 日衆・本会議趣旨説明の後 可決、全会一致。 5 月 25 日参・財政 金融委付託、 26 日趣旨説明および討 論の後可決、 27 日参・本会議可決、 1 名反対。 中小企業の新たな事業活動の 促進に関する法律の一部を改 正する法律 〔平成 28 年 6 月法律第号 [ 趣旨・内容 ] ①題名を「中小企業 等経営強化法」に改める。②基本方 167 針に定めるべき事項に、 a ) 中小企業 等の経営力向上の内容、実施方法等 に関する事項、 b ) 経営力向上の支援 体制の整備に関する内容、実施体制 等に関する事項を追加する。③主務 大臣は、基本方針に基づき、所管に 係る事業分野のうち、中小企業者等 の経営力向上が特に必要と認められ る事業分野を指定し、経営力向上の 内容、実施方法、その支援体制の整 備等に関し、経営資源を高度に利用 する方法の導入方法その他の当該事 業分野に係る経営力向上に関する指 針 ( 事業分野別指針 ) を定めること ができる。④主務大臣は、中小企業 者等が申請した経営力向上計画につ いて、事業分野別指針 ( 事業分野別 指針が定められていない場合は基本 方針 ) に照らし適切なものであり、 かっ、経営力向上を確実に遂行する ため適切なものであると認めるとき は、その認定をする。⑤認定を受け た事業者を、中小企業信用保険法、 中小企業投資育成株式会社法等の金 融支援の特例措置等の対象とする。 [ 施行期日 ] 公布日 ( 2016 年 6 月 3 日 ) から 3 月以内で政令で定める日 [ 審議経過 ] 2016 年 3 月 4 日 ( 190 国会 ) 内閣提出、 4 月 4 日参・経済 産業委付託、 5 日趣旨説明、 14 日質 疑の後可決、 15 日参・本会議可決、 全会一致。 5 月 12 日衆・経済産業委 付託、 13 日趣旨説明、 20 日質疑の後 可決、 24 日衆・本会議可決、成立、 全会一致。 [ 審議論点 ] 認中小企業施策に係る P D C A サイクル確立の必要性、経 営力向上計画の認定基準等

5. 法学セミナー 2016年9月号

いても言及することが求められています。 そのほかの構成として、 Y と Z との間で参加的効 力が生じているという指摘ができると思われます。 すなわち、本件不動産が X の構成員に総有的に帰属 することが認められて、第 1 訴訟において Y が敗訴 すると、 Z は、抵当権設定契約当時、本件不動産に ついて所有権を有していなかったという理由によっ て、 Y により債務不履行責任を追及される関係にあ るという、法律上の利害関係があるということがで きます。このことから、本件不動産の帰属について、 X の構成員全員の総有でないとして争うことについ て、 Z と Y とは利害関係が共通しており、 Z は Y と の間で敗訴責任を分担する関係にあると言えます。 そこで、第 1 訴訟の係属中において、 Y は Z に訴 訟告知をしておくことで、 Z に対して参加的効力を 及ばすことができると解されます。これによって、 Z が Y に補助参加するかどうかにかかわらず、 Z に 対して、第 1 訴訟の基準時において本件不動産が X の総有権に帰属しないという主張をすることができ なくなります。 しかしながら、 Y は第 1 訴訟の係属中に Z に対し て訴訟告知をすることができたにもかかわらずそれ をしなかったという反論が Z からなされることが予 想されます。そこで、訴訟告知によるのではなくて、 Z が Y に対しても当然の補助参加をしていたとする ことによって、参加的効力が生ずるという主張をす ることも考えられます。 確かに、補助参加の申し出がない当然の補助参加 の理論は、明確な基準を欠くことから、消極的に解 するという見解があります。しかし、 Z もまた第 1 訴訟の被告とされており、自己の単独所有が否定さ れると Y から追奪請求をされることが十分に予想さ れる地位にあるといえますので、 こでは当然の補 助参加が認められることに支障はないということも できると思われます。 以上のように解しますと、前訴判決の既判カまた は参加的効力により、第 2 訴訟において、本件不動 産の帰属について改めて審理・判断することはでき ないという結論に達することができるのではないか 亀井いずれも説明が難しい問題ですね。私もけっ [ 2 ] 検討 と思われます。 077 鼈集↓司法試験問題の検討 2016 こう難しいなと思って考えました。①も②も③もそ うですね。 まず下線部①ですが、これは X の Y に対する総有 権確認請求と X の Z に対する総有権確認請求の両方 が訴訟の主題だったのですよね。頭がこんがらがり そうな感じですが、 X の Z に対する請求が認容され たという部分については X ・ Z 間で既判力が生じる ということで、 Y は関係ないという議論になりそう ですよね。 林そうです。 亀井 Y が Z に対して第 2 訴訟で提訴しているわけ ですから、 Z と Y との間では何ら既判力は生じてい ないという議論になりそうだというところが出発点 ですよね。 Z が蒸し返しできないのは X に対してだ けだという議論になりそうで、 Y に対して、 Y との 後訴において Z が蒸し返しをするのは自由になるで はないかという議論になりそうです。つまり、それ を本件において援用することが適切かということで すよね。 Z の既判力を Y が援用してよいのかという 林 X の Y に対する総有権確認の部分ですよね。で すから、 X が勝訴した部分の中には Z の立場も決ま ってくるのではないか、と。 亀井そういう議論ですよね。ですから、 X の Y に 対する訴訟で X が勝訴したと、総有権が認められた という X ・ Y 間の訴訟の X 勝訴によって生じる既判 力が Z にも及ぶという議論ですね。 林はい、そうです。 Z ・ Y 間の訴訟でも基準時の 判断に拘東されるという話です。 亀井 X は勝訴したわけですよね。 X に総有権があ るのだということに、 X の構成員である Z も拘東す るのだということですよね。 Z は提訴には反対の立 場ですよね。 Z は自分の物だと言っているわけです から、そうですね。 X に総有権があるのだというこ とが、 X の構成員である Z にも及ぶのだと。それは X ・ Y 間の訴訟で、 X が勝ったということの拘東カ なのだという理論ですか。 林はい。 X ・ Z にそもそも総有権確認の訴えを立 てている意味がどこにあるのかという別の問題が出 てきそうな気がします。いちおう内部関係ですし、 争いがあるので、それはできるとは思うのですが、 本来、 X ・ Y 間の訴訟の中に Z の地位も含まれてい るので、 X ・ Z の請求はおそらく要らないのでしょ

6. 法学セミナー 2016年9月号

061 特集 J 司法試験問題の検討 2016 当たるかどうかが問題になります。本問では、定時 なされた場合の資本多数決の濫用のケースでないの 株主総会が定足数を満たさす流会になっており、形 で、少し説明がしにくいかもしれません。また、高 式的には「否決された」とはいえません。 松高裁の判例は知らない受験生が多いのではないか しかし、高松高決 18 ・ 11 ・ 27 金商 1265 号 14 頁では、 と推測します。そこで、設問②のヒントとして、解 「『株主総会で否決されたとき』とは、議案とされた 任の訴え自体が、いったんは原則としての資本多数 決の仕組みを通り、うまくいかない場合にこれを修 当該役員の解任決議が成立しなかった場合をいい、 多数派株主の欠席により定足数カ坏足したり、定足 正するという趣旨による制度であることを確認させ るために、設問①が置かれているのでしよう。 数を充たしているにもかかわらす議長が一方的に閉 会を宣言するなどして流会になった場合をも含む」 引〔設問 3 〕の解説と検討 と解されています。理由として、「定足数の出席を [ 1 ] 解説 得て解任議案を上程し、これを審議した上で決議が 松井それでは〔設問 3 〕です。こでは取締役の 成立しなかった場合でなければならないと解すると 監視・監督義務違反、さらには内部統制システムの すれば、多数派株主が株主総会をポイコットするこ 構築や運用に関して、任務懈怠に基づく取締役とし とにより、取締役解任の訴えの提起を妨害すること が可能となり、相当ではない」ことを挙げています。 ての会社に対する責任の有無を考えさせる問題にな 本問では、 A が自らの解任議案が可決することを っていると思います。 ここでは①として、 C の甲社に対する会社法上の おそれ、旧知のイ中である甲社の株主数名に対し、定 時株主総会を欠席するように要請しています。この 損害賠償責任が問われています。会社法 423 条 1 項 に基づく責任を負うかについて、 C に善管注意義務 占を重視すれば、議案とされた A の解任決議が否決 されたときに当たるということで、 854 条 1 項の要 違反が認められるかが問題になります。すなわち、 C が甲社の代表取締役社長として負っている監視・ 件を充足すると考えることができます。この点、い 監督義務に違反する任務懈怠が認定できるかどうか かがでしようか です。 [ 2 ] 検討 甲社は、「事実 8 」から資本金額 200 億円の大会 高橋本問は、まさしく参考にしている事例がある 社に当たるため、いわゆる内部統制システムを構築 しなければならない義務を会社法 362 条 5 項に基づ ので、問題の処理としては、おっしやったとおりだ き負っています。有効・適切な内部統制システムの と思いますまずは株主総会で解任を判断させるこ 構築・運用がなされていることは、取締役の監視義 とと解任の訴えの制度の趣旨がつながっていること 務が履行されたと判断されるための前提条件です。 から説き起こせばよいでしようか。 システムが有効に機能していれば、自己の担当業務 松井この会社法 854 条の解任の訴えの制度自体 以外については、特に疑うべき事情がない限り、当 が、いわゆる資本多数決の修正です。いったん多数 該業務を担当する他の取締役がその任務を適切に遂 決で解任しないことを決めた場合において、そのこ 行していると信頼してよいとする信頼の原則が、 とに基づいて不利益を受ける少数派の株主が、その 多数決の結果をひっくり返そうとしています。この 般的には認められるわけです。 この C については、代表取締役の監視・監督義務 制度趣旨を踏まえて、今回、形式的には否決の決議 の範囲は、本件従業員 E が行った不正行為にも及ぶ はないことを、どう取り扱うかということです。 ことが、まずは大前提になるかと思います。この内 こではしつかりとした規範をその場で考え、多数派 部統制システムの構築に関わる善管注意義務違反の が否決決議自体を形式的に妨害しているというので 判断について、最ー小判平 21 ・ 7 ・ 9 判時 2055 号 あれば、資本多数決の修正原理として解任の訴えと 147 頁 [ 百選 54 ] が参考になります。 いうものが提起できてしかるべきだと結論付けるこ この判例は、架空売上げの計上等の不正行為につ とになるのでしようか。 いて会社として通常想定されるこれを防止できる程 高橋資本多数決を背景に、株主総会で実質的に審 度の管理体制は整えられており、不正行為が巧妙に 議がなされなかったとの評価ですね。これは決議が 0 1 11

7. 法学セミナー 2016年9月号

数は切捨て ) 。その後、 Y の育児短時間勤務者給与 樊育 XI ~ X3 は、平成 5 年 ~ 13 年に社会福祉法人 Y と間 等支給基準に「昇給及び昇格の決定に当たっては、 児 に無期労働契約を締結し、理学療法士または看護師 育児短時間勤務の適用を受ける期間は通常の勤務を 短 として勤務している。 Y の労働時間は 1 日 8 時間で していたものとみなす」との規定が新設され、平成 全時 労働日は月 ~ 金である。 Y は育介法を踏まえて、平 25 年 5 月から適用された結果、一律の昇給抑制はと 第間 成 22 年 4 月から育児短時間勤務制度を施行した。 XI りやめられた。 XI らは、本件昇給抑制は法令等に反 らはこれを利用し、 1 日 6 時間勤務を継続している。 して無効であるとして、昇給抑制がなければ適用さ 症 ~ Y は、平成 21 年度 ~ 24 年度の昇給に関して、給与規 れている号給の労働契約上の地位を有することの確 に務 程の平成 19 年一部改正に基づき、全職員について、 、支給されるべきであった賃金と現に支給された たとえば通常 C 評価で 4 号給昇給のところをマイナ 賃金との差額賃金等の支払い、不法行為に基づく精 ス 1 号給としたが、それに加えて XI らの平成 22 年度 神的物質的損害賠償を求めた。 ~ 24 年度の昇給については、 8 分の 6 を乗じた ( 端 を [ 東京地判平 27 ・ 10 ・ 2 労経速 2270 号 3 頁 ] 霪用 得を欠勤とする取扱いについて、権利行使を抑制 を 本件昇給抑制が違法であり、無効となるか。 し、法が権利を保障した趣旨を実質的に失わせる と認められる場合に限り、公序に反して無効であ 一部認容。①育介法の規定の文言や趣旨等に鑑 るとしてきた ( 日本シェーリング事件・最ー小判 由 みると、同法 23 条の 2 の規定は同法の目的・基本 平元・ 12 ・ 14 民集 43 巻 12 号 1895 頁等 ) 。労使自治 と 理念の実現のために「強行規定として設けられた を前提とする諸般の事情による公序論という判断 す ものと解するのが相当であり、労働者につき、所 手法には、むしろ休暇等取得の権利保障の観点か 定労働時間の短縮措置の申出をし、又は短縮措置 ら、労務不提供に見合う賃金カットを超える不利 る が講じられたことを理由として解雇その他不利益 益取扱いは許されないとの批判が当初からみられ な取扱いをすることは、その不利益な取扱いをす た ( 水野勝・労判 206 号 ) 。当該規定の強行的効力 ることが同条に違反しないと認めるに足りる合理 によりかかる取扱いは無効ではないかとの疑念が 抑 的な特段の事情が存しない限り、無効である」。 背景には存在したと解される。これに対して、近 本件では、 XI らの基本給は 8 分の 6 に減額されて 年の最高裁判決 ( 広島中央保健生協事件・最ー小 おり、ノーワークノーベイ原則の適用をすでに受 判平成 26 ・ 10 ・ 23 民集 68 巻 8 号 1270 頁 ) は、均等 の けている。また、 Y での定期昇給の実質は 1 年間 法の目的等から同法 9 条 3 項を強行規定であると の業績や身につけた執務能力等を考慮して決定さ し、妊娠中の軽易作業転換を契機とする降格を同 法 れる賃金改定であり、 XI らはかかる考慮を経て B 、 項に反して無効としたが、補足意見では育介法 10 C の評価を受けたのに、一律に本件昇給抑制を受 条も同様に強行規定とされた ( 拙稿・本誌 722 号 ) 。 性 けている。それは「本来与えられるべき昇給の利 その直前の裁判例 ( 医療法人稲門会事件・大阪高 益を不十分にしか与えないという形態により不利 判平 26 ・ 7 ・ 18 労判 1104 号 71 頁 ) は、育休取得を 益取扱いをするものであると認められ」、前述の 理由とする昇給上の不利益取扱いについて、育介 「合理的な特段の事情」も認められない。強行規 法 10 条が禁止する措置に当たるとしつつも、公序 定違反の行為は無効が原則であるが、不十分な利 に反して無効としたが、同条の強行規定性を無視 益を与える部分が併存するとき、全部無効とすれ していると批判されていた ( 根本到・本誌 724 号 ) 。 ば労働者は不十分な利益すら失ってしまうので、 以上の流れの中で、本判決が近年最高裁判決の影 無効と解すべきではない。②育介法 23 条の 2 が本 響の下に同法 23 条の 2 を強行規定とし、本件昇給 来与えられるべき利益を実現するのに必要な請求 抑制を違法とした点が注目される。不利益取扱禁 権を与え、あるいは法律関係を新たに形成・擬制 止規定を超えて、休暇等保障規定一般の効力論へ する効力までをももつものとは、その文言に照ら の展開が期待される。本判決は昇給抑制を無効と して解しえない。③同様の理由から差額分の賃金 するのを避けた。本来の昇給とは別にこれに 8 分 請求もできない。④差額賃金相当分の財産的損害 の 6 を乗じた措置を無効とすればよかったのでは の補填および賃金額に不利益が継続することなど ないかと解される。本件では 3 歳から小学校就学 からの慰謝料の支払いは認められるべきである。 前までの短時間勤務も制度化されている。また平 成 22 年 6 月 29 日までの間は育介法 23 条の 2 は未施 従来の判例は、賞与等支給や昇給に出勤率要件 行である。同条の類推適用とともに確認規定性を を設け、労基法等で保障された休暇・休業等の取 認めるべきであろう。 163 事実の概要 最新判例演習室ーー労働法 争点 裁判所の判断 熊谷大学教授矢野日日 g 法学セミナー ( やの・まさひろ ) 2016 / 09 / no. 740

8. 法学セミナー 2016年9月号

168 法学セミナー [ へんしゅうらんだむ ] 2016 / 09 工デイトリアルデザイン : 図工ファイブ 次号予告 ( 10 月号 ) [ 特集 ] スラップ訴訟 編集後記 今月の特集は司法試験問題の検 討。私の学生時代の同級生は、今年ロ ースクールの 2 年生にあたるので、 本誌を活用してくれるだろうと思い 発売が楽しみでした。対談形式の解 日本においてようやく認知され始めたスラップの定義、実態、弊 説は、悩む部分や、書く内容の取捨 害を整理して紹介し、アメリカの反スラップ法を参考に日本にお 選択など思考の流れを伺え、別冊号 ける抑止・救済策を整理し、今後の議論を展望する。 の解説とも、ひと味違ったおもしろ さがあります。併せて学習に役立て スラップとは何か・・・・・・澤藤統一郎 / 武富士事件・・・・・・新里宏ニ / 伊 て頂ければと思います。 那太陽光発電事件・・・・・・木嶋日出夫 / スラップ訴訟、名誉毀損損害 賠償請求訴訟の現状・問題点とそのあるべき対策・・・・・瀬木比呂志 2016 年 6 月号に特別企画「高校生 / メディアへの萎縮効果の検証・・ 三宅勝久 / アメリカにおける 模擬裁判選手権」を掲載したが、今 反スラップ法の構造・・・・・藤田尚則 / 昭和 63 年判例の見直し・・・・・・小 年も同選手権大会が、 7 月 30 日に、 園恵介 / 日本における従来の名誉毀損法理とスラップの関係に関 関東大会 / 関西大会 / 中部北陸大会 する考察・・・佃克彦 / 救済・抑止の制度設計・・・・紀藤正樹 / 四国大会の 4 地域に分かれて行わ れた。昨年、神奈川県予選と関東大 お知らせ 会本選とその間に行われた高校生た ちの準備の様子を取材し、今年もぜ 権部人権第二課電話 03 ー 3580 ー 9969 ■関東学生法律討論会結果 ・「司法試験の問題と解説 2016 6 月 26 日 ( 日 ) 、明治大学駿河台キ ひ観たいと思っていたのだが、今年 ャンパスにおいて平成 28 年度第 1 回 8 月下旬に、今年も発売予定。 はなんと予選の審査員を仰せつかっ 関東学生法律討論会が開催された。 本特集と併せてぜひご活用下さい ! たので、先日、喜んで予選を観に行 分野は刑法、出題は内田幸隆教授 ( 明 1 ー 1 公法系論文式試験の問題と解 ってきた。今年も真剣に取り組み、 説〔第 1 問〕・・・木村草太 / 〔第 2 問〕 治大学 ) 。 大きな力と成長の姿を見せてくれた 【総合の部】 ・・・南川和宣 高校生たちに感動するとともに、大 1 ー 2 民事系論文式試験の問題と解 第一位 : 早稲田大学 会を運営し、高校生たちの支援を行 説〔第 1 問〕・・・滝沢昌彦 / 〔第 2 問〕 第二位 : 慶應大学 う多くの弁護士の方々の熱意とパワ ・・・松井英樹 / 〔第 3 問〕・・・林昭一 第三位 : 日本大学 【立論の部】 1 ー 3 刑事系論文式試験の問題と解 ーにも触れることができた。同大会 説〔第 1 問〕・・・・・・照沼亮介 / 〔第 2 第一位 : 早稲田大学高松千在 は毎年夏に行われるということで 問〕・・・・・・公文孝佳 第二位 : 中央大学安齋航太 「文系の夏の甲子園」みたいな大会 2 ー 1 短答式 [ 憲法 ] の問題と解説 第三位 : 慶應義塾大学藤田慶 になってくれればいいなと期待して 【質問の部】 全体講評・・・・・・西村裕一 / 解説・・・・・・島 [ 柴田@eisuke503] いる。 田新一郎・藤代浩則・松本賢人・湯 第一位 : 早稲田大学中山由佳子 ■夏休み映画企画「不思議なクニ 川二朗 2 ー 2 短答式 [ 民法 ] の問題と解説 の憲法」を観て監督と語ろう 全体講評・・・松尾弘 / 解説・・・青戸理 日時 : 2016 年 8 月 22 日 ( 月 ) 成・井藤公量・小濱意三・近藤明彦・ 1 部 14 : 00 ~ 17 : 10 映画上映「不 思議なクニの憲法」 / トークセッシ 森山文昭 2 ー 3 短答式 [ 刑法 ] の問題と解説 ョン松井久子監督・伊藤真弁護士 全体講評・・・杉本一敏 / 解説・・・上田正 2 部 18 : 30 ~ 20 : 40 舞台挨拶 和・小田幸児・鈴木敏彦・前田稔 松井久子監督 / 映画上映 3 選択科目論文式試験の問題と解説 場所 : 弁護士会館 2 階講堂「クレ 倒産法・・・上江州純子 / 租税法・・・高橋 オ」 A 会議室 ( 千代田区霞が関 1-1-3 祐介 / 経済法・・・石岡克俊 / 知財法・・・ 東京メトロ霞ヶ関駅 ) 田村善之・中山一郎 / 労働法・・・柳澤 ※参加費無料・事前申込不要 ( 定員 武・緒方桂子 / 環境法・・・荏原明則・ 2 開名 ) 神戸秀彦 / 国際公法・・・江藤淳一 / 国 主催 : 日本弁護士連合会 お問い合わせ : 日本弁護士連合会人 際私法・・・中林啓一 [ 大東 ] 法学セミナー Web サイト https://www.nippyo. CO. jp/ blog—housemi/ 帯 学 法学セミナーの最新情報をチェック できる携帯サイトをご利用下さい。 http://katy.jp/housemi/ 回回

9. 法学セミナー 2016年9月号

158 提起し、 1 審は平成 25 年 9 月 30 日に、原審は平成 26 A が平成 18 年 10 月 7 日に死亡し、 A の妻 B 及び子 年 2 月 3 日に、それぞれ口頭弁論を終結したが、 1 審の口頭弁論終結日の時点で、評価額は約 10 億円で YI ~ Y3 は、平成 19 年 6 月 25 日に遺産分割を行った。 あった。 1 審・原審ともに、遺産の評価基準時を支 この時点での A の遺産の積極財産の評価額は、約 18 払請求時として X の請求を認容するとともに、支払 億円であった。 X は、平成 21 年 10 月、 A の子である 青求日の翌日からの遅延損害金の請求を認容した。 ことの認知を求める訴えを提起し、同年 1 1 月には、 これに対して、 X が、評価基準時及び遅延損害金の その請求を認容する判決が確定した。 X は、平成 23 起算日を遺産分割時とすべきであるとして上告受理 年 5 月 6 日、 Y らに対し、民法 910 条に基づく価額 申立て。 Y らは、遅延損害金の起算日を事実審口頭 の支払を請求した。この時点での評価額は、約 8 億 弁論終結日の翌日とすべきであるとして附帯上告受 円になっていた。 X は、平成 23 年 12 月、相続開始時 を評価基準時として価額の支払を求めて本件訴訟を 理申立て。 [ 最ニ小判平 28 ・ 2 ・ 26 民集 70 巻 2 号 195 頁 ] 事実の概要 民法 910 条に基づく価額支払請求における遺産評価の基準時 最新判例演習室ーー民法 一三ロ 明示した最高裁として初めての判断である。 910 条の価額支払請求権は、相続回復請求権 ( 884 相続の開始後認知により相続人となった者が民 条 ) の一種であると理解するのが通説であるが、 法 910 条の定める価額の支払請求をする場合にお 物権的請求権である相続回復請求権が 910 条によ いて、 ( 1 ) 遺産の価額算定の基準時は、いつか。また、 り金銭債権に転化するという前提を採っても、そ ( 2 ) 価額の支払債務が遅滞に陥る時期は、いっか。 のことから必すしも演繹的に具体的な遺産評価の 基準時が導かれるわけではない。そのため、学説 上告・附帯上告いずれも棄却。 ( 1 ) 「相続の開始 でも、遺産分割が再分割を求める権利を価額支払 後認知によって相続人となった者が他の共同相続 請求権に転化する直接原因となるとの理由から、 人に対して民法 910 条に基づき価額の支払を請求 遺産分割時を基準時とする見解、請求の時点で金 する場合における遺産の価額算定の基準時は、価 銭債権として現実化することや衡平の理念等から 額の支払を請求した時である」。 ( 2 ) 「民法 910 条に 支払請求時を基準時とする見解、再分割に代わる 基づく他の共同相続人の価額の支払債務は、期限 の定めのない債務であって、履行の請求を受けた 価格支払の額は現物と等価であるべきで、現実支 払時に最も近接した時点をとるべきとする見解が 時に遅滞に陥る」。 みられる。 本判決は、基準時を支払請求時とする理由とし 民法 910 条は、相続開始後に認知により相続人 て、上記の金銭債権への転化という面には触れる になった者が遺産の分割を請求するにあたり、既 ことなく、他の共同相続人と被認知者との利害調 に分割等が終了している場合に、分割のやり直し 整という 910 条の目的に照らして、支払請求時ま を避け、一方で分割の効力を維持しつつ、他方で での価額変動を他の共同相続人の支払額に反映さ 被認知者の保護のため価額による支払請求を認め せ、その時点で直ちに支払額を算定できるように ている。この価額支払請求が問題となる事案では、 することが当事者間の衡平の観点から相当である 遺産分割後に一定の時間が経過した上で価額の支 とする。つまり、請求時までの価額下落 ( 上昇 ) 払請求がされることが多く、そのため遺産の価額 は被認知者 ( 共同相続人 ) がリスク負担し、請求 が変動することは避けられない。本件も、遺産の 時以後の価額下落 ( 上昇 ) は共同相続人 ( 被認知 価額が遺産分割時に最高騰し、請求時に半額以下 者 ) がリスク負担することになるが、そのことが に下落し、 1 審口頭弁論終結時には再上昇したと どのような意味で当事者間の衡平に適うのかは、 いう事案である。考えうる時点としては、相続開 必ずしも明らかでなく、さらなる理論的な検証が 始時 ( 本件 X の請求 ) 、遺産分割時 ( 本件 X の上 必要であろう。本件のもうーっの争点である遅延 告受理申立理由 ) 、支払請求時、現実支払時 ( そ 損害金の発生時について、本判決は、それを請求 れに最も近接した事実審の口頭弁論終結時や審判 時とするが、このように遺産評価の基準時と遅延 時 ) 等がある。これまでの裁判例としては、支払 損害金の発生時とを結びつけることは、他の共同 請求時とする東京高判昭 61 ・ 9 ・ 9 家月 39 巻 7 号 相続人が被認知者の価額支払請求に速やかに応じ 26 頁、現実支払時とする神戸家審昭 53 ・ 4 ・ 28 家 るインセンテイプを与えることにも通じ、紛争の 月 31 巻 11 号 100 頁及びその抗告審である大阪高決 長期化を避けるという面では、妥当な判断である 昭 54 ・ 3 ・ 29 判時 929 号 83 頁等がみられたが、本 法学セミナー ( なかがわ・としひろ ) 判決は、遺産評価の基準時を支払請求時であると と考えられる。 2016 / 09 / no. 740 裁判所の判断 専修大学教授中川敏宏

10. 法学セミナー 2016年9月号

医事法講義 訴一冪一 〒 170-8474 東京都豊島区南大塚 3 ー 1 2 ー 4 TEL : 03-3987-8621 FAX : 03-3987-8590 ( 4 ) 日本言平ⅱ冊ネ土 こ注文は日本評論社サーヒスセンターへ TEL : 049-274-1780 FAX : 049-274-1788 https://www.nippyo・ co ・ jp/ ■法セミ LAW CLASS シリーズ / 〃 / / / / / / / 〃 / 〃 / / 米村滋人 [ 著 ] 法学の深い知見と、医師でもある著者自身の臨床経験に裏打ちされた、 待望の本格的教科書。医事法の全領域を体系的に説く。 第 1 章医事法総論 第 4 章特殊医療行為法 第 1 節医事法の基本的意義 第 1 節終末期医療 第 2 節医事法の基本思想と法的構造 第 2 節脳死・臓器移植 第 3 節精神医療・感染 第 2 章医療行政法 第 4 節生殖補助医療 第 1 節 医療従事者法 第 5 節クローン技術規制 第 2 節 医療機関法 医療法上の医療制度・医業類似行為 第 3 節 第 5 章その他の諸問題 第 1 節ヒト組織・ , 胚の法的地 第 3 章 一般医療行為法 第 2 節医薬品第医機の 第 1 節 医療契約 第 2 節 民事医療過誤法 第 3 節 刑事医療過誤法 ◎旧 BN978-4-535-52175-9 / A5 判 / 本体 3200 円十税 いち早く平成 28 年改正を織り込んだ改訂版 ! 伊藤真の 憲法的刑事訴訟法の理念を基礎に、いち早 く平成 28 年刑訴法改正の解説を織り込ん だ定番入門書の改訂版。新しい刑訴法の重 要問題もコラムでわかりやすく解説。 目第 1 章序論 第 2 章捜査 第 3 章公訴の提起 第 4 章公判手続 第 5 章裁判 第 6 章まとめ 伊藤真の 刑事訴訟法入門 講再現版第 6 版 伊藤真第 最初に 読みたい 1 冊 03-3987-8590 イ日本評論社 〒 170-8474 東京都豊島区南大塚 3 ー 12 ー 4 TEL . 03-3987-8621 /FAX こ注文は日本評論社サーヒスセンターへ TEL . 049-274-1780/FAX 049-274-1788 https://www nippyo. co. jp/ ・本体 1,700 円 + 税■ A5 判 ■ 5BN978-4-535-52163-6