126 法学セミナー 2016 / 09 / n0740 る A のあっせんによって行われたものであるか ら、このような場合には、 A は、 X に対し、信義 則上、本件売買契約締結に先立って、本件土地が 接道要件を満たさないことなどについて説明する 義務を負うものと解するのが相当である」 としたのに対し、最高裁は、 事案の事実関係によれば、第 ) 本件売買契約と X と Y との間の上記の融資契約とは、当事者を異 にする別個の契約であるが、 A は、後者の融資契 約を成立させる目的で本件土地の購入にかかわっ たものである。このような場合に、 A が接道要件 が具備していないことを認識していながら、これ を X に殊更に知らせなかったり、又は知らせるこ とを怠ったりしたこと、 Y が本件土地の売主や販 売業者と業務提携等をし、 Y の従業員が本件土地 の売主等の販売活動に深くかかわっており、 A の X に対する本件土地の購入の勧誘も、その一環で あることなど、信義則上、 A の X に対する説明義 務を肯認する根拠となり得るような特段の事情を 原審は認定しておらず、・・・・・・ ( 2 ) 本件前面道路部分 は、本件私道の一部であり、本件売買契約締結当 時、本件土地の売主である B が所有しており、不 動産登記簿上の地目も公衆用道路とされていたこ とから、同人が X に売却した本件土地の接道要件 を満たすために本件前面道路部分につき道路位置 の指定を受けること等の B の協力が得られること については、その当時、十分期待することができ たのであり、本件土地は、建物を建築するのに法 的な支障が生ずる可能性の乏しい物件であった。 ( 3 ) 本件土地が接道要件を満たしているかどうかと いう点は、宅地建物取引業法 35 条 1 項所定の重要 事項として、書面による説明義務がある。本件売 買契約においては、売主側の仲介業者である C 株 式会社がその説明義務を負っているのであって、 A に同様の義務があるわけではない。 これらの 諸点にかんがみると、・ X に対し、 Y から融資を受けて本件土地を購入す るように積極的に勧誘し、その結果として、 X が 本件売買契約を締結するに至ったという事実があ ったとしても、その際、 A が X に対して本件土地 が接道要件を満たしていないことについて説明を しなかったことが、法的義務に違反し、 X に対す る不法行為を構成するということはできない」 とした。 ・・・ Y の従業員である A が、 問題は、売主力駐宅公団の場合にも生じている。分 譲価格の適否について判断するための適切な説明がな かった点について、最高裁は、信義則違反を理由に慰 謝料請求を肯定している ( 前掲最判平成 16 ・ 11 ・ 18 民集 58 巻 8 号 2225 頁 = 消費者判百 14 事件 [ 小粥 : 戀引 ) 。 また、状況と情報提供の対象を異にするが、最判平 成 17 ・ 9 ・ 16 ( 判時 1912 号 8 頁 = 民法判百Ⅱ < 第 6 版 > 4 事件 [ 尾島茂樹 ] ) は、防火設備の一つとして重要な役 割を果たしうる防火戸が室内に設置されたマンション の専有部分の販売に際しての説明義務につき、防火戸 の電源スイッチが一見してそれとは分かりにくい場所 に設置され、それが切られた状態で専有部分の引渡し がされた場合において、宅地建物取引業者 Y が、購入 希望者に対する勧誘・説明等から引渡しに至るまで販 売に関する一切の事務について売主 Z から委託を受 け、売主 Z と一体となって同事務を行っていたこと、 買主 X は、業者 Y を信頼して売買契約を締結し、上記 業者から専有部分の引渡しを受けたことなど判示の事 情においては、業者 Y には、買主 X に対して防火戸の 電源スイッチの位置・操作方法等について説明すべき 信義則上の義務 ( 売買契約上の付随義務 ) があったとして、 不法行為に基づく損害賠償責任を肯定した。同判決は、 いわゆる事例判決ではあるが、宅建業者が契約の一方 当事者から委託を受け、他方当事者から委託を受けて いない場合に、委託を受けていない当事者に対して、 説明義務違反を理由として不法行為に基づく責任を負 う場合があることを明示している点で注目されてい る。こでは、契約を締結するかどうかに関する事項 ではなく、既に契約が成立していることを前提に、契 約目的を円滑に達成できるか否かに関し、しかも購入 者の生命に関わる重要な事項についての契約の付随的 義務としての説明義務が問題となっている点に留意し たい ( 小粥太郎・民商 134 巻 2 号 275 頁参昭 ) (b) フランチャイス喫約 フランチャイズ契約の内容とそこでの情報提供義務 の問題については、具体的な事例の紹介から始めるこ とが理解を助けよう。さいたま地判平成 18 ・ 12 ・ 8 ( 判 時 1987 号 69 頁 = 消費者判百 1 事件 [ 河上正二 ] ) は次のよう な事案である。 X ら 9 名 ( フランチャジー・加盟店 ) は、自動車 運転代行のフランチャイズ事業を展開する Y ( フ
[ 特集引司法試験問題の検討 2016 095 法学セミナー 2016 / 09 / no. 740 論文式試験科目刑事系〔第 2 問〕 神奈川大学教授 公文孝佳 問題の解説 公文今年の問題の全体を通しての印象についてで すが、法科大学院の授業で通常扱われるような判例・ 裁判例をベースに、その判例と具体的事実が異なっ た場合にどのような結論になるのかを考えさせる良 問だと思いました。特に〔設問 4 〕は公判前整理手 続と公判での尋問制限を関連づけて考えさせる、お もしろい問題です。これは手続の一連の流れにおい て先後関係にあるものを制度的趣旨を有機的に連関 させて考えさせ、それでいて判例の知識も問うてい るという、良問です。 伝聞法則は、受験生を毎年悩ませ、私たちが法科 大学院で解説をするときにも悩ましいところです が、本文ではそれほどウェイトが置かれていない印 象です。 問題数の点では、本問は 2 時間でさばき切れる量 だろうかと思いました。学習基本判例をどこまで正 確に理解しているかを問い、そして「判例は具体的 事実に対する法的判断」という線を守りながら、そ こから先を考えさせる出題である点で、難問はあり ませんが、実際の処理はなかなか難しいのではない でしようか。反面、実務家の登用試験である以上、 〔設問 4 〕なども付け加えることで、オールラウン ドな知識を基礎に、そこからはみ出た部分、従来の 判例から自分で考えて予測するしかない部分をどこ まで論理的に書けるかどうかを問うているのではな いかと思いました 次に〔設問 1 〕から〔設問 4 〕まで、少し雑駁で はありますけれど、お話ししたいと思います。 [ 1 ] 〔設問 1 〕について 〔設問 1 〕は、極めてオーソドックスな問題です。 一橋大学教授 青木孝之 任意捜査の限界、職務質問における有形力の行使、 時間経過に伴う嫌疑の発展など、事実の展開を丁寧 に拾わせる問題です。関連判例としては、最三小決 平 6 ・ 9 ・ 16 刑集 48 巻 6 号 420 頁があり、これも非 常にオーソドックスな判例で、刑事訴訟法判例百選 〔第 9 版〕の 2 事件になっています ( 以下、平成 6 年 事例 ) 。本問では、判例と本件とのちがい、事実関 係をしつかり押さえることができるかどうかが課題 ではないかと思います。平成 6 年事例については、 違法性判断の要素の一つとして令状請求時点が問題 になっています。そこを、本件の【事例】はうまく 変えていると思いました。 それから、平成 6 年事例は被疑者に対する権利制 限を肯定する根拠として、道路交通法上の危険防止 措置を援用しています。ですから、平成 6 年事例を 知ったうえで、ちがいをどこまでしつかり処理でき るかどうかが問われています。 これは答案構成とも関連するので後にまた改めて 触れますが、一連の流れとして事実経過に沿って書 くのか、それとも令状請求時点でちがった処理をす るのか、私自身はそこで少し悩みました。 [ 2 ] 〔設問 2 〕について 〔設問 2 〕は、接見交通権の問題で、刑訴法 39 条 3 項の「捜査のため必要があるとき」の解釈を問う 問題です。一見オーソドックスですし、また最大判 平 11 ・ 3 ・ 24 民集 53 巻 3 号 514 頁がありますので、 これをベースに考え始めます。そして、本件は初回 接見を問題にしますので、最三小判平 12 ・ 6 ・ 13 民集 54 巻 5 号 1635 頁の考え方をしつかりと学んで いるかどうかが問われています。この判例は、初回 接見だから重要であるという論理を直接にとっては いません。それを丸飲みして勉強している受験生は、
1 OO がします。 公文捜査を受ける、捜査の対象になる、あるいは 取調べを受けるということは、権利制限を一定程度 受忍することを意味するわけですから、それは明確 な意思表示でなければならないと思います。そして、 捜査機関側は、まめに意思表示をさせる、確認する ということが本来必要だと思います。 青木おっしやるとおりです。 公文本問では、どの事実を重視するかによって、 結論が違法にもなり得えるのではないでしようか。 青木警察官が説得して、甲が「仕方ねえな」とい う、そのような押し問答を繰り返していました。た だし、ある時点で時間的限界というのが必ず訪れる と思います。 公文そうなると本問事例の場合は、先ほど言った ように、令状請求から執行までの時間が合理的な範 囲内に収まっているから適法だということになるで しようか。 青木最後の押し戻しが午後 4 時で、令状が来て執 行したのは午後 4 時 30 分です。その一方で、交通渋 滞に引っかからなければ 3 時半ぐらいには、現場に 令状が来ていた可能性があります。 公文そうなったらむしろ簡単ですよね。 青木それをどうみるかは、出題者からのシグナル として、必ず検討しなければいけないところです。 4 時半になってしまったけれど、 1 時間分は捜査官 側の責に帰すべき事由ではありません。本来ならば 3 時半に令状が来て、 4 時に行われた押し戻しはな かった。ですから、全体としては適法と救済する構 成もできます。しかし、仮に午後 3 時半に令状が来 ていたとしても、午後 1 時ぐらいの段階で、甲の体 を進路をふさいで押し戻しています。しかも、取り 囲むようにパトカーを配置して、 5 人もの警察官が 甲を取り囲んでいました。これは、現場での一種の 軟禁状態でしよう。さらに、甲は、この時にはっき りと帰りたいと言って、弁護士に相談までしている。 ですから、ここからは違法ともいえます。 公文弁護士に相談したということが、もう帰りた いという意思の表れだったということは、判断者と いうか、弁護人の主張によって異なり得るような事 実でではないですか。 青木どうでしよう。弁護士として、このような緊 急相談を受ける場面はありますが、「あくまで任意 ですから、あなたが嫌と言ったら、警察がそれを押 しとどめることはできません」と必ずアドバイスし ます。それが「弁護士から帰ってもいいと言われた ので、帰るぞ」という甲の発言に表れていると思い ます。 公文こまで検討してきたところで、本問では、 違法と適法の両方が説得力をもって書けることがわ かりました。 令状が届くまでの留置きに関して、大ざっぱな言 い方をすると、 15 分刻みの話になると思いますが、 最初は職務質問をするための説得行為で最小限度の ものであったと処理できますし、次の留置きに関し ては、甲の嫌疑性は高かったということができます。 青木そうですね。甲の注射痕を確認するなど、覚 醒剤の嫌疑が徐々に明らかになっていっています。 公文任意提出を求める説得をするための留置きと して、最三小決昭 51 ・ 3 ・ 16 刑集 30 巻 2 号 187 頁を 前提としたうえで、重要な権利制限ではないという ことができます。蛇足かもしれませんが、意思の制 圧にも至っていないというところでも処理ができま す。すると〔設問 1 〕で熟考を要するのは、令状請 求以降の処理にあるということになりましようか。 青木そうですね、令状請求までは特に問題ないと 思います。 公文今後も、法科大学院や法学部の講義や演習で は、平成 6 年事例は教えるべき事項でありつづける でしよう。しかし、私は、平成 6 年事例について、 かって法科大学院で教えていたときも、令状請求の 時点が変わったらどうなるかまではシミュレートし て教えていませんでした。 青木あの事件は、実務家の視点からみると、令状 請求について、なぜ現場でこんなにグズグズしてい たのかということが、真っ先に目につく事案です。 公文そうなると、裁判官の方からみても、これは 看過し難い事案ですか。 青木はい。現場の警察官が判断を誤ったので、証 拠能力を否定されても仕方ない事件だと思います。 ただ、被疑者が積雪にもかかわらず車を運転し、高 速道路を使って長距離を移動しようとしていたた め、行政警察活動、交通警察としての安全確保の観 点から救済したような印象はあります。 公文実際に、道交法 67 条を根拠としてもち出して いますね。あれは特殊な事例です。
099 う点もありますね。 青木おっしやるとおりです。そのような問題にな ると、先行手続の違法性が後行手続にどう引き継が れるかということや、毒樹の果実論について受験生 は延々と書いてしまうので、この部分は設問にしな かったのでしよう。広く、伝聞法則の理解とか、公 判前整理手続の理解などを、ほかの設問に振り分け ていったのはスマートなやり方だと思います。 公文これを違法とした場合、後が煩雑になります ね。そこまで本問は問うていませんが、受験生にと っては任意捜査の限界はとても悩ましいところだと 思います。この点、一定の事例の集積を待って類型 化することで解釈上の方針が見いだせるという立場 もあるようですが、それには疑問をもっています。 青木私も、個人的には、類型化には馴染まないよ うに思います。実務が類型化したうえで処理してい るとも思わないです。 公文そのように考えると、端的に権利制限の重大 性が問題になりますね。重大性を考慮する要素とし て、本問事例では、甲は外界とのコミュニケーショ ンがとれていたということもありますが、捜査機関 側の意図にまで言及する必要はあるでしようか。 青木現在の判例実務を前提にすれば、私は必要あ ると思います。事実審の裁判官が、これは重大な違 法であると宣言して証拠能力を否定するかどうかの ぎりぎりの場面に置かれたときには、捜査警察官の 証人尋問を経ていることが圧倒的に多いですから、 そこでの心証は判断に影響すると思います。最高裁 が初めて証拠能力を一部否定した事案 ( 最二小判平 成 15 ・ 2 ・ 14 刑集 57 巻 2 号 121 頁 ) においても、現場 の警察官が逮捕状持参を忘れていたのが明らかなの に、ぬけぬけと持っていましたと言っていますよね。 公文さらにあの事案では、嘘の報告書まで作って いますね。 青木はい。偽証をするような警察官では、最初か ら令状主義を守るつもりはなかったと言われても仕 方がないというように、捜査官の意図の認定にかな 特集」司法試験問題の検討 2016 り影響すると思います。 る材料がたくさん入っていますから、できそうな気 賛成です。本問も、違法説で書くのであれば、使え があるので、これについては私も反対意見のほうに であるという恐るべきテーゼが独り歩きする可能性 と思います。はっきりノーと言ってない限り、任意 とを積極的に承認しているという状況は考えにくい 青木常識的に考えて、夜通し取り調べを受けるこ ったわけです。 公文その最初の一言だけで、 22 時間も続けてしま たいな話でしたね。 どうぞ取り調べてください、濡れ衣を晴らしたいみ 22 時間の取調べをした事例は、被疑者の側から、 構影響があるような気がします。 と思うかどうかという点は、事実審のレベルでは結 ガッンと否定しておかないと、また同じことをやる ような意味の意図ではなく、問題のある捜査手法を は学界を二分する問題になってしまいますが、その えるときに、意図を真正面から取り上げるかどうか 学 31 号 ( 15 年 ) などがある。 を録音・録画した記録媒体の実質証拠利用」慶應法 犯の理論と実務」琉大法学 78 号 ( 2 7 年 ) 、「取調べ 基本問題」 ( 共著、成文堂、 2008 年 ) 、「共謀共同正 員制度」 ( 日本評論社、 2013 年 ) 、「刑事事実認定の などを担当。主要著作として「刑事司法改革と裁判 あおき・たかゆき氏 法律事務所。「刑事実務概論」「模擬裁判 ( 刑事 ) 」 青木孝之 1 1 年生まれ。元裁判官、弁護士・メトロポリタン ている気がします。刑法における純粋な違法性を考 捜査機関側の意図というのはある程度の意味をもっ がありますが、違法収集証拠排除の場面では、私は 主観や意図がなぜ違法性に影響するのかという批判 策的な判断です。刑法の判例でも刑訴の判例でも、 除は、違法な捜査活動を抑止するための、ある種政 捜査官の意図の話に戻しますと、違法収集証拠排 ずだというのは、事実認定のレベルで疑問です。 きりノーと言っていないから本人は承諾していたは ば、その事案は、認定が甘いのだと思います。はっ 青木その危険性はあります。ただ、私に言わせれ ようか。 しろ違法救済のために使われているのではないでし り強制捜査潜脱の意図がなかった、ということがむ した事例では、捜査機関側に悪意がなかった、つま 7 ・ 4 刑集 43 巻 7 号 581 頁の、約 22 時間の取調べを からの疑問のある判例があります。最三小判平 1 ・ 公文被疑者の意思表示という点に関して、かねて
事例判決としてのこの判断枠組みは、その後の裁 判例に対して、同原則の適用対象を著しく狭く限 定する方向で作用してしまったようである。 (d) 保険契約 ( i ) 変額保険保険契約に関しては、融資一体型変 額保険等における保険会社や銀行の説明義務違反の問 題が、数多くの裁判例を生んでいる ( 大阪高判平成 7 ・ 2 ・ 28 判タ 897 号 150 頁 [ 消極 ] 、東京高判平成 8 ・ 1 ・ 30 判 タ 921 号 247 頁 [ 将来の運用実績の断定的判断の提供につき積 極 ] 、最判平成 8 ・ 10 ・ 28 金法 1469 号 51 頁 [ 前掲東京高判平 成 8 ・ 1 ・ 30 の上告審で積極 ] 、大阪地判平成 12 ・ 12 ・ 22 金 法 1604 号 37 頁、東京高判平成 14 ・ 4 ・ 23 判時 1784 号 76 頁 [ 相 続税対策としての商品の不適格性 ] ) 。 ( ⅱ ) 火災保険地震免責条項 火災保険契約における地震免責条項に関して説明義 務違反カ竫われた事例では、最判平成 15 ・ 12 ・ 9 眠 集 57 巻 11 号 1887 頁 = 消費者判百 22 事件 [ 岡田豊基 ] ) が興味 深い。事案は、阪神淡路大震災の被災者が、火災保険 契約締結に際して保険会社が地震保険契約について情 報提供をしなかったために、地震免責の適用される保 険契約を締結してしまったために被害に対する保険金 を受け取れなかったとして慰謝料請求をなしたもので あるが、最高裁は 「地震保険に加入するか否かについての意思決 定は、生命、身体等の人格的利益に関するもので はなく、財産的利益に関するものであるであるこ とに鑑みると、この意思決定に際し、仮に保険会 社側からの情報の提供や説明に何らかの不十分、 不適切な点があったとしても、特段の事情が存し ない限り、これをもって慰謝料請求権の発生を肯 認し得る違法行為と評価することはできない者と 言うべきである」 とした。当時としては情報提供を受けていたとしても 地震保険契約を締結した蓋然性は高くないと考えられ たこと ( 契約締結当時の兵庫県での地震保日入率は 3 % 程 度 ) もその一因をなしているようであるが、 3 ・ 11 東 日本大震災を経験し、熊本地方大震災を目の当たりに した今日でも、そう言えるかは大いに疑問である。 この関連では、「奥尻保険金請求訴訟」第 1 審判決 の函館地判平成 12 ・ 3 ・ 30 ( 判時 1720 号 33 頁 ) は結果 的に損害賠償請求を認めなかったが、優れた判決理由 131 債権法講義 [ 各論 ] 6 で問題状況を浮き彫りにしている。少し立ち入って、 その判決理由を検討してみよう。 「少なくとも、本件地震が発生した平成 5 年当 時において、火災保険契約における地震免責条項 及び地震保険について、国民一般の広い範囲にお いて十分に知られていたとは到底言い難い状況に あり、地震火災による損害についても火災保険契 約によって担保されると誤解する者も少なからず いたものと推認することができる。また、 らの学歴、職業、年齢等を考慮すると、 X らは、 その傾向がより高かったのではないかと推認する こともあながち不合理ではない」。「一般に、契約 当事者間において、その契約に関わる情報が、専 門性が高いこと、高度なこと若しくは多量なこと 又は契約内容が一方当事者 ( 事業者 ) の定めた技 術的、精緻な条項規定によらざるを得ないこと等 の理由によって、事業者側に偏在し、他方の当事 者 ( 消費者 ) が当該情報を得ることは、事業者に よる提供がない限り困難な状況にあり、私法上の 根本原則たる私的自治や自己責任原則・・・・・・を十分 に全うすることができないと認められる場合に は、当該情報の保有者である事業者は、消費者に 対して、その情報を開示して、十分に説明して、 十分な理解を得るべきことが要請され・・・・・・その義 務を懈怠した場合には損害賠償責任を負担すべき であると判断される場合があり、その根拠は信義 則に求めることができる」。地震免責条項および 地震保険についての情報は募取法 16 条 1 項にいう 「重要な事項」に該当し、「私法上の法的義務の存 否を判断する際に、重要な要素として、相当の比 重を占めるべきことは、明らかである」。しかし、 「少なくとも、本件各火災保険契約締結時におい ては、保険会社ないし保険代理店の当該違反行為 が損害賠償責任に直結するような「一般的な情報 開示説明義務』として、右の要望をとらえること は困難であって・・・・・・個別の具体的な契約締結状況 における信義則違反ないし信義則上要求される義 務の違反を評価するにあたり、重要な要素として 考慮すべきもの」にとどまる。しかして、「 X ら の個別の具体的な本件各火災保険契約締結の状況 において、 Y らの契約締結補助者が、 X らに地震 保険加入・不加入の意思決定の機会を与えずに、 地震保険意思確認欄が作出された旨の・・・・・・信義則 に違反する事実は肯認することができ ( ない ) 」
われているのを感じます。 幻検討 [ 1 ] 全体について せん。ご指摘のとおり、事実関係のちがいを意識し んだ一般的な論証を吐き出すだけでは対処し切れま ますが、その基本判例のことを思い出し、そこで学 ことがある基本判例に関係していると気づくと思い 青木問題文を読めば、受験生は必ずどこかで見た ね。 ンパクトにする練習をしておかなければなりません 公文日ごろ授業を受けるときに、自分で表現をコ 青木おっしやるとおりです。 なければならない。 て、自分の表現として簡単にまとめて短くしておか サッと書くかが重要です。教科書的な記述ではなく 度の趣旨が問われている場合などは、それをいかに し、それを解くための規範の定立の部分、また、制 実を拾うのは当然として、問題になる事実を拾い出 要な一般論を展開してしまいがちな部分ですね。事 公文受験生が「規範の定立」と呼ぶ部分が、不必 いるという受け取り方もできます。 し、かぎ分けて、決断よく処理していく能力を見て なわち決められた時間の中で本質的なことを探し出 方ではありますが、実務家にとって必要な能力、す ることもできます。その意味では、厳しい設問の仕 ていると必ず時間不足に陥るように作ってあると見 ないかと指摘されますが、不必要な一般論を展開し 例年、問題文が長過ぎる、設問が多過ぎるのでは 思います。 は、現場ではかなり大きなプレッシャーになったと 処理が忙しいですね。 120 分で 4 問を解くというの す。公文さんがいうように、難問ではありませんが、 目して具体的な処理ができるかを試している良問で 含めた基本判例をベースに、事実関係のちがいに着 ほば一致しています。ひと言で言うと、最新判例を 青木全体的な印象については、公文さんの意見と 097 特集 ] 司法試験問題の検討 2016 て、この問題の解答に使えるかたちにカスタマイズ しながら使っていく能力が求められています。 [ 2 ] 〔設問 1 〕について 公文まさに本問の〔設問 1 〕は、平成 6 年事例を 基礎にした事例と思われます、令状請求の時間がち がっていて、これは違法性判断に大きな影響を及ば す違いになると思います。 青木そうですね。本問事例では、令状請求自体は 早いのですが、請求してから令状が届くまで 5 時間 ほど時間がありました。 公文はい。平成 6 年事例は、令状請求を逡巡して いたことが留置きの違法性に影響していると判示し ている事案です。しかし、本問では令状請求は極め て早い段階で行われています。令状を請求してから 実際に発付されるまでの時間も、通常 4 時間ほどで あるところ、 1 時間遅れの総計 5 時間になっていま す。総計時間は平成 6 年事例とそう変わりませんが、 請求時点がちがっていることが、本問の結論を分け 公文孝佳 969 年年生まれ。専攻は刑事訴訟法、刑事法学。主 要著作として「無罪推定法理について・一一 - 証拠法則 くもん・たかよし氏 としての再構成 ( 1 ) 」北大法学論集 53 巻 6 号 ( 2003 年 ) 、 「無罪推定法理の再生ー一証明法則としての機能」 刑法雑誌 45 巻 2 号 ( 2006 ) 、「 19 世紀証拠法史研究序 説」神奈川法学 46 巻 1 号 ( 2014 年 ) などがある。 るのではないでしようか。 時間の経過が通常どおりで、 1 時間は捜査官の責 めに帰すことができないものであるとするならば、 その限りにおいては適法といえると思いますただ 本問においては、令状請求から後の留置きの態様が、 わりとタイトですね。 青木はい。身体の接触を伴っています。 公文そこをどう考えるかです。身体の接触を伴い つつも、甲は「仕方ねえな」と言って車に戻り、不 承不承ではありますが、留め置かれることを認容し ていました。加えて、甲は外界とのコミュニケーシ ョンも自由な状態にあります。これは細かいところ かもしれませんが、身体の接触については、本問で は両手を広げて進路を塞ぎ、足を踏ん張っただけで す。押し戻すなどの行動には至っていません。この ような点からすれば、まだ重大な権利制限に至って いないとも書けると思います。 こは悩みどころですが、令状請求をしてからの
高齢化の進展等を踏まえた消費者 利益の擁護のための規律の強化 消費者契約法の改正 法学セミナー 2016 / 09 / no. 740 ・法改正の背景 消費者契約法は、消費者と事業者との間に存在す る情報・交渉力の構造的な格差を是正して消費者の 利益の擁護を図ることを目的として、平成 12 年に制 定された。同法は、①商品の品質などの重要事項に ついて事実と異なることを告げたり ( 不実の告知 ) 、 「必ず値上がりする」など将来の不確実な事項につ いて断定的判断を提供することで消費者が誤認する ことなどによって交わされた消費者契約を、消費者 が取り消すことができること、②事業者の債務不履 行による損害賠償責任を免除する条項その他消費者 に一方的に不利な契約条項を無効とすること、など を定めており、対等当事者間における法律関係を規 律する民法の特別法と位置付けられている。 消費者契約法の施行により、多くの消費者被害が 救済されたが、高齢化の更なる進展やインターネッ トの普及による契約方法の多様化などにより、現行 法では対応が難しい消費者被害の事例も増えた。 こうした状況を踏まえ、内閣総理大臣の諮問を受 けた消費者委員会の専門調査会が、消費者契約法の 規律等の在り方を検討し、報告書を取りまとめた ( 平 成 27 年 12 月 ) 。報告書において「速やかに法改正を 行うべき」とされた事項について対応するため、消 費者契約法の一部を改正する法律 ( 平成 28 年法律第 61 号 ) が制定された。この法律は、一部を除き、公 布の 1 年後 ( 平成 29 年 6 月 ) から施行される。 ■主な改正の概要 消費者契約の取消しに関する規定については、① 消費者にとっての通常の分量・回数・期間を著しく 超える内容の契約を、新たに取消し可能とする。例 えば、賞味期限内に使用できないほどの大量の健康 食品を売りつけたりする場合が、取消しの対象とな る ( 政府答弁 ) 。②不実の告知により取消しの対象 となる「重要事項」の範囲を拡大し、商品の品質な ど契約内容・条件そのものではないが、契約の目的 013 LAW FORUM [ ローワォーラ 4 立法の話題 となるものが消費者の生命・身体・財産その他の重 要な利益についての損害・危険を回避するために通 常必要である事情を「重要事項」として扱い、これ について不実の告知があった場合には取消しの対象 とする。例えば、床下にシロアリがいないのに、い るとの不実の告知をして床下リフォームの契約を結 んだ場合が、取消しの対象となる ( 政府答弁 ) 。③ 取消権は、追認できる時から 6 か月間行使しないと きは時効により消滅するとされているところ、この 期間を 1 年間に伸長する。 ④消費者契約の無効に関する規定については、事 業者の債務不履行や瑕疵担保責任に基づく消費者の 解除権をあらかじめ放棄させる条項を、新たに無効 とする。 ■今後の課題等 改正後、具体的にどのような消費者契約が取消し や無効の対象となるかについては、改正後の消費者 契約法の規定と個々の契約の解釈の問題となる。国 会でも、具体的な契約の事例を挙げて、それが取消 しの対象となるのか、その解釈をただす質疑が行わ れた。規定の解釈をめぐる混乱が生じないよう、改 正後の消費者契約法 ( 非改正部分を含む ) やその解 釈について、国会での答弁内容を含め、消費者、事 業者、消費者行政担当者などに対し、分かりやすく 周知を図る必要があろう。 なお、専門調査会の報告書には、現時点で法改正 を行うことについてコンセンサスを得るに至らず、 「今後の検討課題」とされた論点が多々ある ( 執拗 な電話勧誘による契約や、事業者との委託関係を立 証できない第三者の介在する「劇場型勧誘」による 契約の取消しなど ) 。こうした様々な課題について は、国会の附帯決議で、政府は、裁判例や消費生活 相談事例の分析・検討を行い、その結果を踏まえ、 改正法の成立後 3 年以内に必要な措置を講ずべきと された。消費者の利益の擁護の更なる推進に向けた 積極的な措置がとられることを期待したい。 ( K )
138 法学セミナー 2016 / 09 内 P740 LAW CLASS 攻撃防衛は、不正な侵害そのものを阻止する防御 防衛とは異なり、相手方に対して攻撃を加えること によって不正な侵害を排除しようとするものである から、防衛行為者に攻撃の意思があることは否定で きない。しかし、正当防衛は、急迫不正の侵害に対 する反撃行為であるから防衛行為者が平穏かっ冷静 な心理状態を保つのは一般に困難であり、不正の侵 害を排除しようとして防衛行為に出た行為者に、攻 撃の意思が少しでもあったからといって、それだけ で正当防衛の成立を否定することはできない。した がって、判例が、攻撃の意思と併存して防衛の意思 は否定されないとしているのは妥当であり、攻撃防 衛の類型による反撃も当然許されるといえる。 [ 3 ] 防衛の意思が否定される場合 実際に相手の侵害が間近に迫った段階で相手を攻 撃しようとするとき、攻撃の意思と併存する程度の 防衛の意思も存在しないというケースはさほど多く はない。しかし、攻撃防衛の類型であっても、専ら 攻撃の意思で反撃行為に出たと認められる場合は防 衛の意思が否定される。 専ら攻撃の意思で反撃行為に出たと認められるの は、不正の侵害の機会を利用して積極的に攻撃を加 えようとした場合である。具体的には、①防衛行為 の相当性を著しく欠いている場合および②意図的な 過剰行為の場合がそれに当たる。 ①の防衛行為の相当性を著しく欠く場合というの は、侵害を排除するためには明らかに必要のない過 剰な結果を意図的に与えたため過剰防衛とすること が適切でないような場合である。例えば、自己に生 命の危険など全くなく素手で相手に対抗しても十分 なのに、相手を殺害するために凶器で刺す事例など がその典型である。このタイプは殺人罪の成否が問 題となる事例に多い。 ②の意図的な過剰行為というのは、 ( 防衛行為の相 当性を著しく欠いているとまではいえないが ) 侵害を 排除するためには明らかに必要のない過剰な行為を 意図的に開始した場合をいう。例えば、腕を掴まれ ただけで殴られる危険がないのに相手の顔面を強打 する事例などがその典型である。このタイプは傷害 罪や傷害致死罪の成否が問題となる事例に多い ( 香 城敏麿「正当防衛における防衛の意思」小林充 = 香城 敏麿編「刑事事実認定 ( 上 ) 』〔判例タイムズ社、 1992 年〕 参照 ) 。 このように、判例が防衛の意思を否定するのは例 外的な事情がある場合に限られており、それ以外は 防衛の意思が認められる。それは、正当防衛が緊急 状態における権利行為であることに鑑み、それを委 縮させるような法解釈をとるべきではないと考える ためであろう。 4 「防衛の意思」の有無に関する間題演習 それでは、最後に、具体的事例に即して防衛の意 思の有無を判断するトレーニングをしよう。 V は、甲の長女の夫で甲と同居していたが、 長女の死後飲酒の度を加え、甲やその家族に対 し、しばしば、因縁をつけたり、器物を投げて 障子やガラスを壊し、「殺してやる」「家を焼い てやる」などの乱暴な言動をして、甲らを困ら せていた。 V はかって甲の居宅が火災に遭った とき復旧のために金員を出捐したことがあり、 他方、甲は V の生活費や工場建物について金員 を出捐したことがあったので、これらの出捐を 念頭に置いて相互に感情的な対立が潜在してい た。ある日、台所で朝より飲酒を続け泥酔して いた V が、甲に対し、「おじい殺してやる、火 をつけて家を焼いてやる」などと暴言を吐いた ことから甲と口論となり、 V が七輪 ( 軽量かっ コンパクトで移動が容易な調理用の炉 ) や鍋など を甲に投げつけ、さらに小鍋で甲の頭部を殴っ たため、甲は、平素の鬱憤を抑えかね、憤激の あまりとっさに V を殺害することを決意し、台 所の板の間にあった手斧を掴んで振り上げ、 V の頭部を 2 回強打し、さらにその場に昏倒した V の頭部を 2 回強打して頭蓋骨骨折を伴う傷害 を負わせた上、 V の頸部をタオルで覆って両手 で強圧し、即時その場で窒息死させた。なお、 台所から一室隔てたところに成人した甲の子ど もたちがいた。甲の罪責を論じなさい。 【間題 9 】において、甲は殺意をもって甲の頭を 斧で強打しさらに頸部を両手で強圧して窒息死させ たので、甲の行為は殺人罪の構成要件に該当する。 【間題 9 】憤激手斧強打事件
「消費者契約法における情報提供モデル」民商 123 号 4 = 5 号 576 頁 [ 2001 年 ] 。なお、重要事項の提供に関する事業者の努 カ義務を定めた消費者契約法 3 条 1 項、詐欺的情報不開示を 詐欺と同視するユニドロア国際商事契約原則 3 ・ 8 条も昭 ) : 彡ハ、、 0 かりに、「故意」の立証が困難な場合にも、相手方の 情報提供カ坏十分であったり、誤認誘導的である場合 は、裁判実務上、錯誤での処理が容易になる傾向にあ る ( 平野裕之「投資取引における被害者救済法理の相互関係 について ( 2 ) 」法論 71 巻 2 = 3 号 119 頁以下 [ 1998 年 ] 、後藤巻 則・消費者契約の法理論 72 頁、同・前掲「消費者契約と民法 改正』 246 頁以下、山下純司「情報の収集と錯誤の利用ー契 約締結過程における法律行為法の存在意義 ( 1 ・ 2 未完 ) 」法 協 119 巻 5 号 779 頁 [ 2002 年 ] 、 123 巻 1 号 1 頁 [ 2006 年 ] 以下、 同「情報の収集と錯誤の利用」私法 70 号 107 頁 [ 2008 年 ] な どに詳しい ) 。錯誤が、相手方の認識可能性、結果の重 大性、表意者側の帰責性などを総合的に勘案して法律 行為の効果を否定するための一般条項化しているから である ( 河上・民法総則講義 349 頁、 355 頁以下 ) 。 ( 4 ) 消費者契約法と情報提供義務 消費者契約法 4 条 1 項 1 号は、事業者が、消費者契 約の締結について勧誘をするに際し「重要事項につい て事実と異なることを告げること」により、消費者が 「当該告げられた内容が事実であるとの誤認」し、そ れによって当該契約の申込み又は承諾の意思表示をし た場合は、その意思表示を取り消すことができると定 めている。同規定は、事業者の主観的態様を問わす、 告知内容が客観的に事実と一致しない場合に、契約の 成立を前提としつつ、消費者に取消権を認める ( 福岡 地判平成 18 ・ 2 ・ 2 判タ 1224 号 255 頁 [ マンションの眺望阻 害事情の不実告知 ] など ) 。同様に、同法は、不利益事実 の不告知、断定的判断の提供についても、一定要件の 下で消費者に取消権を認めている ( 消契法 4 条 1 項、 2 項 ) 。同法の解釈上、周囲の事情から、黙示的に表示 があったと見ることができる場合にも取消しを認める 裁判例もあるなど、事実上、情報提供義務違反を契約 の効力否定につなげているとも評せよう。なお改善の 余地はあるものの ( 勧誘の概念、重要事項の範囲、不利益 事実の不告知における先行行為要件・故意要件、効果として の損害賠償の欠如など ) 、情報の不提供・誤提供が契約 の効力否定に結びつくわけである ( これについては、山 本敬三「消費者契約法と情報提供法理の展開」金法 1596 号 8 頁 ( 2 開 0 年 ) 、同「消費か契約法の意義と民法の課題」民商 125 6 契約締結過程における説明義務・情報提供義務に関 ( 5 ) 債権法改正の動向 123 巻 4 = 5 号 43 頁〔 2001 年〕など参昭 ) 債権法講義 [ 各論 ] 体となって、 Y の利益のために、 Y の従業員であ 「本件売買契約は、 X と Y との間の融資契約と一 ことについて、原審が、 上の接道義務を満たしていないことを説明しなかった 宅地の購入を勧誘した事案で、当該宅地カ健築基準法 は、金融機関の従業員カ融資契約を成立させる目的で 商 130 巻 4 = 5 号 910 頁、後藤巻則・リマークス 30 号 62 頁 ) で 最判平成 15 ・ 11 ・ 7 ( 判時 1845 号 58 頁 = 片岡宏一郎・民 する場合があり得る。たとえば、否定例ではあるが、 建業者と業務提携関係にあるような者についても妥当 昭和 63 ・ 6 ・ 28 判時 1294 号 110 頁など ) 。このことは、宅 ている ( 東京高判昭和 52 ・ 3 ・ 31 判時 858 号 69 頁、札幌地判 者による、重要事項の調査・説明義務として論じられ いる ( 同法 35 条 ) 。この説明義務は、私法上も、宅建業 法 176 号 ) は、宅建業者に重要事項の説明義務を課して 不動産売買において、宅地建物取引業法 ( 昭和 27 年 (a) 不動産売買 立ち入って検討してみよう。 ついては別途説明する機会がある ) 。いくつかの具体例を して定着している問題がこれに関係する ( 医療契約に 約においては、インフォームド・コンセントの議論と 契約、投資取引、保険契約などがある。さらに医療契 型的場面としては、不動産売買契約、フランチャイズ 情報提供義務違反や説明義務違反が問題とされる典 ( 6 ) 情報提供義務の応用問題 ほかあるまい。 これまで通り信義則を根拠に個別的判断を積み重ねる からは必ずしも適切な態度とは思われないが、当面は、 例準則を見通しの良いものにしようという改正の趣旨 が簡潔に紹介している ) 。信義則の具体化をはかって判 編著・民法改正案の検討 ( 第 2 巻 ) 172 頁以下 [ 有賀恵美子 ] 面の影響が問題視され、規定化が見送られた ( 円谷峻 味さや、説明のコストなど取引実務に与えるマイナス 務の存否を判断するために考慮すべき事情の外延の曖 定を設けることも検討されたが、対象となる事項、義 しては、債権法改正の立法過程で民法典に具体的な規
102 るわけですから、まずは接見させるべきだという論 法も十分可能で、違法説でも書くことができます。 弁解録取においては、被疑者がそのときにどう言 っているかをそのまま正確に録取し、その後、これ からは本格的にあなたの話を取調べというかたちで 聞きたいので、その前に弁護士と防御の方針を打ち 合わせておくようにと言う。弁護士から見て理想的 な検察官であれば、こうしてくれるかもしれません が、なかなか微妙に本問事実が作ってあります。甲 が検事さんにお話ししたいことがあると言い出した 瞬間、間近な時間に取り調べる確実な予定が既に入 ったと評価することもできるように作ってあると思 います。 公文最三小判平 12 ・ 6 ・ 13 民集 54 巻 5 号 1635 頁は、 そこを協議せよと言っていますね。これは、そこに 踏み込んであるんですよね。 青木はい。検察官 S は、弁護士 T に対して「先生、 被疑者が私に言いたいことがあると言っているの で、取調べを少し入れたいんだけど」と協議をもち かけるべきなのに、協議をもちかけずに取調べを入 れ、実行して、しかもその間、電話にも出すに無視 しているわけです。このようなことは認められない と言えば、立派な違法説になると思います。 公文本問は、私選の弁護人の事例ですよね。 青木本問事例では、勾留状はまだ出ていないので、 国選弁護人をつけることができませんね。 公文そうですね。私選の弁護人ならば、なおさら 会わせてあげるべきだという話になりますね。 青木そういえると思います。 公文その逆は成り立ちませんか。 青木最三小判平 12 ・ 6 ・ 13 でも、被疑者は、救 援連絡センターに登録された弁護士がよいと、いわ ば名指しをしていて、最高裁は、その弁護士が来て いることを違法の判断をする一つの事情に使ってい ます。被疑者が積極的にこういう筋の弁護人に会い たいと言っているときには、弁護人が来たら、まず 会わせる算段をしなければならないのです。私選で、 妻が付けようとしている弁護人であることは、おっ しやるとおり、細かな点ですが、ポイントになると 思います。 公文しかし、さすがに答案にはそこまでは書けな いでしようね。更に補強するとすれば、福岡高判平 5 ・ 11 ・ 16 判時 1480 号 82 頁で、任意で取調べのと きに弁護士を取り次がなければいけないという判断 を下した裁判例があります。 青木任意はそうですよね。 公文任意の場合ですらそうであるのならば、より 権利制限性の高い場合はいっそう考えるべきです。 捜査機関の人は、そんなことはないと言うかもしれ ませんが。 青木言うでしようね。 公文取調べの場合、初回接見の重要性に軍配があ がりやすいのではないでしようか。 青木はい。 7 : 3 ぐらいで、違法説のほうが書き やすいだろうと思います。 公文この問題とは場合が異なりますが、発展問題 として、初回接見でない場合に、自白を取れそうだ からという見込みがあるとして、それが「捜査のた め必要があるとき」として肯定される場合もありう るのでしようか。 青木現在の実務では、 23 日間しか、捜査機関の人 は「しか」と言いますが、被疑者の身柄を利用した 捜査はできません。その間にバッティングが起こり ますから、合理的な調整のために刑訴法 39 条 1 項と 3 項があるということを、最高裁判例は強調してい ます。例えば、ある日、午前中の取調べで検事は済 ますとしていたのに、被疑者をもう一押しすれば検 察官の側からみて望ましい供述、例えば自白を取る ことが可能に思えたとき、午後に予定されていた接 見との間に、調整の協議をしたうえで午後も取調べ を優先して入れるという事態があることを、残念な がら現在の裁判所は否定しない気はします。 公文そこは協議をしてくれという話ですね。 青木そうです。協議です。実際、接見に来た後は 否認し、しばらく接見の間隔が空くと自白をし、否 認と自白を繰り返すという事件もないわけではあり ません。 公文それは、最終的には任意性のところで決着が っきますね。 青木そうです。そんな自白だったら任意性カ礙わ れても仕方ないと思います。実際に任意性が否定さ れた事例もいくっかあると思います。 本問は、下線部①の措置は適法で、②の措置はど ちらかというと違法です。問題文に自白とはっきり と書いてあるので、現場の受験生も、自白を優先し て弁護士に会わせない、弁護士を宙ぶらりんにして