いのではないかと思います。そこで、本件における 手続参加規定については、サテライト大阪事件の見 取り図を示すだけの規定との違いをできるだけ重視 すべきだと考えました。 湯川単に許可基準のレベルではなくて、法律上、 利害関係人の手続参加権が認められていることを根 拠にして、この許可基準でいうところの 50 メートル はサテライト事件のときとはちがう重みをもってい る規定と考えようということですね。 南川はい。ただサテライト大阪事件で最高裁が言 っていた、明確な手がかりとは、通常、距離制限規 定のことが念頭に置かれていると思われます。それ に比べると手続参加規定はそこまで強力な手がかり とは言えないかもしれませんが。 湯川原告適格のところにもう一度戻りますが、南 川さんは、原告適格を基礎づける利益として健康利 益という切り口で入るのと、サテライト事件のよう な生活環境利益という切り口から入るのと、どちら でもよいというお考えですか が少しあったほうがよかったのではないかというこ 南川問題文の中に、用途地域制度についての説明 ついて南川さんはどう思われますか。 れも用途規制といった問題を取り上げていることに いですよね。そういうなかにあって、建築確認、そ れる学生さんは個別行政法規の勉強は基本的にしな 地域、用途制限の話が出ています。行政法を勉強さ 湯川本件では、建築基準法の建築確認の中の用途 が決まるといえます。 要性と法律上の手がかりの強弱の組み合わせで入口 がかりを要求したわけです。したがって、利益の重 問題となっていたので、最高裁は明確な法律上の手 健康被害を受けうるとは言えない生活環境の利益が いるわけです。他方で、サテライト大阪事件では、 健康被害に着目して個別保護利益の切り出しをして のうえで、健康被害を受けうる範囲の者について、 好な生活環境の保全を趣旨目的としていました。そ 南川はい。小田急訴訟では、処分の根拠法規は良 031 特集↓司法試験冏題の検討 2016 とでしようか。そのほうが親切であるようにも思い ますが、私は授業で、地元の岡山市の都市計画図、 12 種類に色分けされた用途地域の大きな地図を年 に 2 、 3 回は黒板に貼ったりしていますから、用途 地域制度については行政法総論や行政救済法の講 義、演習の事例として比較的馴染みのある話だと思 います。ですから、用途地域制度に全く触れる機会 なく法科大学院を卒業してしまうことはないのでは ないかと思います。そうすると、この程度の話をい きなり出したとしても、困るとまではいえないよう に思います。 湯川法科大学院教育の中で一定、このような個別 行政法規、とりわけ建築関係あるいは開発関係につ いては、それなりに個別法規の中身に踏み込んで勉 強していることを踏まえての出題になっているわけ ですから、それも妥当だろうという話ですね。 南川はい、そうです。 湯川〔設問 1 〕は、いま議論してきたとおり、原 告適格の議論の基本的な理解と、判例の理解を問う 南川和宣 1971 年生まれ。専攻は行政法。 では、本件例外許可が裁量基準に違反している点、 裁量基準の出題は過去に何度もありますが、本問 目した裁量統制を行うことが求められます。 ます。他方で、実体的瑕疵については裁量基準に着 当たるか否かを十分に論じることがポイントとなり は明確ですので、この瑕疵が例外許可の取消事由に れています。まず手続的瑕疵については、瑕疵自体 瑕疵の具体的な 2 点について検討するように誘導さ 議録】における D の発言から、手続的瑕疵と実体的 本案の主張についての問題です。【法律事務所の会 南川〔設問 2 〕は、例外許可の取消訴訟における 湯川続きまして、〔設問 2 〕に入りたいと思います。 引〔設問 2 〕の解説と検討 南川はい。 っているということでよろしいでしようか 身についての十分な理解も求められている出題にな ていて、小田急訴訟判決やサテライト事件判決の中 ( 2014 年 ) がある。 2016 年 ) 「行政法の学び方」法学セミナー 59 巻 4 号 政法理論の探究芝池義ー先生古稀記念』 ( 有斐閣、 生にかかる行政手法について」曽和俊文ほか編著「行 などを担当。主要著作として、「地域公共交通の再 みなみがわ・かずのぶ氏 「行政法解釈の基礎」「行政法特論」「行政法演習」
028 [ 特集引司法試験問題の検討 2016 法学セミナー 2016 / 09 / no. 740 論文式試験問題公法系〔第 2 問〕 岡山大学教授 南川和宣 い出題全体について 湯川平成 28 年度の論文式試験問題 [ 公法系科目 ] 〔第 2 問〕行政法について検討していきます。最初 に南川さんから全体についての基調報告を簡単にお 願いします。 南川本問は、都市計画法上の第一種低層住居専用 地域において計画されたスーパー銭湯の建築を阻止 するために周辺住民が行政訴訟を提起したという事 案のもと、訴訟法上の問題と行政処分の違法性の問 題を検討させるものです。事案のモデルとなった事 件は名古屋地決平 9 ・ 2 ・ 21 判時 1632 号 72 頁であ ると思われますが、同決定は建築確認を受けたスー パー銭湯の建築・開業により生活環境などが著しく 害され、その被害は受忍限度を超えるとして建築工 事禁止の仮処分が周辺住民により申し立てられた事 案であり、スーパー銭湯が建築基準法上の「公衆浴 場」に当たるか否か、被害が受忍限度を超えるか否 かが争われていました。 これに対して、本問では、周辺住民が本件スーパ 一銭湯の建築にかかる行政処分に着目し、本件自動 車車庫に対する例外許可と、本件スーパー銭湯にか かる建築確認の 2 つの行政処分の取消訴訟を提起し たという設定になっています。そしてこの設定のも と、〔設問 1 〕では、例外許可の取消訴訟の原告適格、 〔設問 2 〕では、同訴訟における本案の主張、すな わち同許可の違法性を問うています。そして〔設問 3 〕では、例外許可の違法性を同許可の取消訴訟で はなく、後続する建築確認の取消訴訟においても主 張できるか、すなわち違法性の承継の可否が、そし て最後に〔設問 4 〕では、本件建築確認の違法性が 問われています。 湯川個別の設問に入る前に、今年は設問が 4 問あ 弁護士、京都産業大学教授 湯川ニ朗 りました。南川さんとしてはこの問題の量、解答量 についてはどのようにお感じになりましたか。 南川問題文の分量としては、添付されている資料 が少し多いですが、それ以外の部分でみますと例年 と同じだと思います。ただ、設問が 4 つあり、そし て解答する内容がそれぞれかなり多いものですか ら、時間内に解答できるかという点では、大変な試 験だと思いました。 湯川このあとまた検討させていただきますが、〔設 問 1 〕の原告適格の問題は受験生からすると大きな 論点ですので、これだけに力を入れて答案を作成し てしまうと残りが書けなくなってしまいます。その わりに〔設問 1 〕の配点割合は大変少なくなってい るので、従来的な論点型の勉強だけをしてきた人か らすると、非常に困ったことになります。 南川設問の数が多いほど、様々な分野から偏りな く出題できますので、受験生の実力が正しく測れる という点ではメリットがあると思います。その反面 で、解答量が全体として多くなり、 1 つひとつの設 問に使える時間が少なくなるため、やはり解答の質 が一定程度低下することは避けられないでしよう。 どういう答案に合格点をつけるかという点では、悩 ましい話だと思います。 湯川各論点について十分理解している受験生であ っても、はたして 4 問を時間内に書き切れるかとい う事務処理能力まで問われると、なかなか難しかっ たかもしれません。 幻〔設問 1 〕の解説と検討 湯川それでは個別的な設問の検討に入っていきた いと思います。ます〔設問 1 〕からお願いします。 南川〔設問 1 〕は、第三者の原告適格についての 問題です。原告適格の判定は、今回で 4 回目の出題
035 特集司法試験冏題の検討 2016 続の充実という事情がありますから、そのあたりに 午可カ拠分の名宛人以外の第三者には通知される仕 注目して手続法的に考えていく方法、観点がありま 組みにはなっていないという点ですね。ここがまず すね。もっともこれらは、最高裁が示した 2 つの観 1 つのポイントになると思います。建築確認のほう 点の中の話だともいえますが。 は看板が立てられて周辺住民が知るということがで あとは、先行処分を争わなかった個別事情につい きますが、そのような仕組みがないということです。 てもとり上げるというやり方です。以上の方法が最 さらに、先ほど述べた公聴会、公告といった事前手 高裁の示した 2 つの観点以外の観点としていえるの 続の存在もここで指摘すべきです。 ではないかと思います。しかし、現実的に試験場で そして、もう 1 つ、これも最高裁の示した観点で すが、例外許可が出されただけで工事が開始される このような指摘をするのは難しいようにも思います わけではないことからすると、仮に例外許可を争わ し、出題の趣旨についははっきりわからないところ ないという判断を住民がしたとしても、それは不合 です。 理なものとはいえないということです。これも個別 湯川そこまで深い意味はなくて、違法性の承継と いうと、単純に教科書的に目的効果が同一であると 法の仕組みに照らしていえると思います。 か、一連の手続であるとか、そういうことだけで書 湯川この違法性の承継という論点はだいぶ以前か く受験生もいるので、それ以外の視点でもみて欲し ら、そのうち出るぞ、出題されるぞと言われていて、 いというだけなのかもしれません。とりわけ、東京 ようやく出たという論点です。 都の建築安全条例事件が、実体法的観点と手続法的 引〔設問 4 〕の解説と検討 観点を言っているので、少なくともその 2 つからは 湯川最後に〔設問 4 〕を検討していきましよう。 みるようにというだけであるとの善意の解釈もでき 南川〔設問 4 〕は、建築確認の違法性を個別行政 るでしようか。 南川そうですね、最高裁の示した 2 つの観点を分 法令の解釈により主張させる、いわゆる典型的な「現 場問題」です。そして、【法律事務所の会議録】に 析して、建築基準法の仕組みに即した検討していれ ば、それは答案として高く評価されると思います。 おいて検討事項が 2 点に絞られています。 1 つは、 湯川実体的観点ということですが、これは建築基 建築基準法別表の公衆浴場の解釈問題です。本件ス 準法の建築確認の仕組みというか、実定法上どうな ーパー銭湯は文理解釈によれば公衆浴場に含まれて っているのかをみていかないといけないでしようか。 しまいますが、歴史的解釈、目的論的解釈などの法 南川はい、そうだと思います。例外許可と建築確 解釈の技法を用いて縮小解釈することの当否が論点 認は処分庁こそ異なりますが、やはり、両者は低層 になります。もう 1 つは、本件スーパー銭湯の飲食 店部分をどう評価するかという問題です。いずれの 住宅に係る良好な住居の環境を保護するために第一 種低層住居専用地域内おいて一定の建築物を制限し 問題を考える際も、建築基準法の仕組みを踏まえる ているわけです。両者が良好な住環境を確保すると ことがポイントになると思います。 湯川受験生もおそらく〔設問 4 〕まで来ると、ほ いう目的において共通している点はます指摘しない とんど時間がないなかで答案を書いていくことにな といけないと思います。 るだろうと思います。ただ、書くべきことは先生の 湯川建築基準法 6 条の建築確認で求められている ご指摘のとおり法律事務所の会話の中でしつかり指 建築基準関係規定の中に 48 条が入っているので、そ 摘されているので、あとはこれをどうやって法的な の 48 条に関する判断として例外許可があるだけで かたちでまとめるかということです。 すから、この仕組みを押さえていって、これが実体 1 つ目は、本件のスーパー銭湯が建築基準法の別 的に同一の目的・効果を狙っているという話をして 表上の公衆浴場に当たるのかどうかを議論しましよ いくということですね。 うということです。それにあたって、南川さんは歴 南川はい。 湯川それと、手続的観点についてもう一度整理し 史的な解釈とおっしゃいましたが、建築基準法上で 公衆浴場というのが第一種低層住居専用地域にも建 ていただくと。 築できるとされた趣旨は何かというところを踏まえ 南川例外許可のほうは、名宛人が建築主であって、
034 法は裁量基準に着目した裁量統制ということで、違 法の言い方自体についてはある程度事前に準備でき ると思います。ただ、実際にこの問題を解いていく にあたっては、どちらも個別法の細かい仕組みにき ちんと着目しなければなりません。その意味で、 の問題は、初見の行政法令を解釈する、いわゆる「現 場問題」に近い性質を持っていると思います。 4 簒設問 3 〕の解説と検討 湯川それでは、〔設問 3 〕に移ります。 南川〔設問 3 〕は、違法性の承継の問題です。基 本的には東京都建築安全条例事件 ( 最判平 21 ・ 12 ・ 17 民集 63 巻 10 号 2631 頁 ) で最高裁が用いた、同一の 目的・効果の実現を目指しているかという実体法的 観点と、先行処分を争うための手続保障が十分かと いう手続法的観点の 2 つの判断枠組みないし考慮要 素に即して検討することになると思いますただ 【法律事務所の会議録】で弁護士 C が「できるだけ 多角的な観点から検討してください」と指示してお り、また配点が 30 % もあることから、出題者はほか に何か書くことを期待しているようにも思われます。 湯川受験生はたぶん、違法性の承継が問題になっ ているとすぐにわかったと思います。そのなかで法 律事務所の【法律事務所の会議録】を見ますと、「関 連する最高裁判所の判例もあったと思いますので、 併せて検討してみます」というくだりがあり、南川 さんがご指摘になった東京都建築安全条例事件の判 例をしつかり理解し、それを答案上に書き表すこと が、ます求められているのですね。 南川はい。 湯川違法性の承継という話でいくと、通常は先行 処分があって、先行処分の違法性は承継されないと いうか、後行処分の取消訴訟では先行処分の違法性 を主張できないという原則論を書いて、その次によ うやく、ただし例外的に違法性が承継される場合が あるのではないかという議論を立てていくかたちに なるかと思います。そういった論理的な順序を追っ た答案構成もやはり求められているのでしようか。 南川違法性非承継の原則に言及しないわけにはい かないのですが、ただ、その論拠を議論するとなか なか大変なことになります。そうすると、出発点と しての違法性非承継については簡単に書くというこ とではないかと思います。 湯川「できるだけ多角的観点から検討する」とい うのは何を指しているのでしようか。 南川受験生はこの誘導を読んで、 3 つの可能性に ついて逡巡したと思いますね。 1 つは、先ほどの最 高裁判決が実体法的観点と手続法的観点を用いてい ますから、その 2 つの観点を指して多角的な観点と 言っているという理解です。すなわち、答案上は先 の最高裁判決の 2 つの観点だけ書けばよいというこ とですが、 2 つで多角的というのはちょっと引っか かったのではないでしようか 2 つ目の捉え方として、最高裁が出した手続法的 観点、実体法的観点という 2 つの観点の中の更に細 かい観点をみていくという理解です。これならば多 角的観点という誘導の要請も充たせるのではないか と思われます。 最後に 3 つ目として、最高裁が出した 2 つの観点 以外の観点ですね。学説上は違法性の承継について さまざまな説があり、その整理まで、さまざまにな されているという状況ですから、そういうことも聞 いているのではないかという読み方です。ただ、さ まざまな学説を知っていることは出題者としては求 めていないと思われますので、この事案を分析する にあたり、最高裁の判例の考慮要素以外のことも、 何か見つけ出しなさいという読み方ですね。 湯川具体的には何でしようか。 南川そうですね、 3 番目の読み方ですと、違法性 の承継は、先行処分の早期安定の問題だと思います が、今回の事案で早期安定を図る必要があるのかど うかという観点ですね。特に許可の名宛人との関係 で、業者のほうは例外許可をもらったからといって 直ちに本件自動車車庫部分について先行して工事が できるわけではありません。例外許可をもらったと いうのは、法 48 条の用途地域制限で禁止されている 建築物について、その禁止が解除された、建築確認 申請において法 48 条違反と取り扱われないという だけですから、結局のところ、適法に工事を行うに は、車庫の部分を含めて建築確認をもらわないとい けないわけです。そうしますと、業者サイドからす れば、例外許可の法効果を早期安定させる必要性は ないのではないかと思われます。 ほかにも、手続の観点で、最高裁は争訟手続の保 障、すなわち事後手続の保障に着目しますが、今回 の事案では、先ほど〔設問 2 〕でみたように事前手
になります。処分の名宛人以外の第三者は「法律上 の利益」 ( 行訴法 9 条 ) をもつ者に限り取消訴訟を提 起できます。したがって、第三者が原告適格を有す るか否かは行訴法 9 条の解釈の問題となりますが、 判例が採用する法律上保護された利益説に立っ場 合、原告が有する利益が、処分の根拠法規において、 もつばら公益としてだけでなく、個々人の個別的利 益としても保護されているといえるか否かで決せら れることになります。 結局のところ、原告適格の存否は、処分の根拠法 規の解釈により決まります。そして、この解釈作業 は行訴法 9 条 2 項の考慮勘案事項を踏まえて行うこ とになり、通常、問題の利益が公益か個別的利益か はさておき、とりあえず処分の根拠法規において、 法律上保護されているか否かをみるテスト ( 保護範 囲要件 ) と、法律上保護されているといえる場合に、 それが個々人の個別的利益としても保護されている かをみるテスト ( 個別保護要件 ) の 2 段階のプロセ スで判断されます。本問でも、基本はこのような手 順に沿って分析することになります。 本件の特徴としては、個別保護要件について 2 っ のグループの切り出しについて検討させる点を挙げ ることができます。すなわち、周辺住民というくく りから、健康被害に至るほど対象施設に近いグルー プと、対象施設からやや離れ、健康被害に至るとま ではいえないグループについて分けて検討すること になります。そして、前者については小田急訴訟 ( 最 大判平・ 17 ・ 12 ・ 7 民集 59 巻 10 号 2645 頁 ) を、後者に ついても利害関係人の手続参加規定を手がかりに原 告適格を肯定した長沼訴訟 ( 最ー小判昭 57 ・ 9 ・ 9 民集 36 巻 9 号 1679 頁 ) を参考にすれば、結論として、 両者について原告適格を肯定できるのではないかと 考えました。 湯川まずこの問題ですが、 XI のグループと X2 のグループの 2 つがいるわけです。私が授業で教え る時は、グループが 2 ついると、その違いに応じて 結論が変わるのではないかということを考えなさい と話しているのですが、南川さんとしてはここはど のようにお感じになられましたか。 南川原告適格を肯定していく手がかりが 2 つのグ ループで異なるものですから、出題者としてはそれ をみたいのではないかと考えました。 湯川本問で問題とされている原告らの利益につい 特集↓司法試験問題の検討 2016 ては、生命まではいかないが、身体の安全とか健康 上の利益の侵害があると南川さんは考えておられま すか。 南川ええ、そうです。確かに、 XI らは居住環境 が悪化するとしか主張していません。しかし、問題 文の中の、【法律事務所の会議録】に「近隣住民の 被る夜間の自動車の騒音、ライトグレア及び排気ガ スによる被害は重大なものになりますね」との誘導 があります。これは本件自動車車庫に隣接している X 1 らのグループが受ける被害を指しています。他 方で X 2 らの自動車の通行による被害の程度につい ては特に言及されていないことが 1 つの手がかりで す。それから、本件スーパー銭湯は、年中無休、深 夜までの営業で土日休日は自動車での来場が約 550 台にも及びます。このような事情からすれば、健康 被害と結びつけることができるのではないかと思い ます。また、実際にも、ライトグレアの問題などは、 一般の住宅におけるご近隣トラブルとしてよく聞く 話です。自動車のヘッドライトは暗闇を数十メート ル先まで照らすことができる、かなり強力な光です から、これを毎日至近距離で目にすると体調を崩す ことは十分に考えられると思います。よって、 X 1 らが主張する利益と X2 らが主張する利益は、大き な違いがあると思います。 湯川本問を解いた学生さんの答案を見せてもらう と、健康利益に着目して書いている答案が多かった です。ただ、私がこの問題を見て思ったのは、まず 例外許可というのが建築基準法 48 条の用途規制に 関する話です。そして、例外許可の要件は第一種低 層住居専用地域における良好な住居の環境を害する かどうかです。要は、建築物の用途や生活環境が問 題になっている。その生活環境被害を細かくみてい く基準が許可基準の中で触れられています。したが って、これは、本来的に個人的法益である健康被害 の側面からアプローチするのではなく、本来的には 公益である生活環境被害であっても個人的法益侵害 にあたるとして原告適格が認められるのはどういう 場合かということに着目する問題であると思いまし たが、南川さんはいかがでしようか 南川生活環境上の不利益にはさまざまなものがあ りますが、その中でグレードの高いものが健康被害 を導くものという位置づけになると思います。そう いうものについては、健康などに与える被害の態様 029
036 て、いまの事情、スーパー銭湯の事情と当時の事情 はちがうということを議論するということはよくわ かりました。 問題はもう 1 つの目的論的解釈のほうです。公衆 浴場法の施行条例の話にいって、そこが一般公衆浴 場とその他の公衆浴場に区分されていますとか、あ るいは、物価統制令に基づく価格統制の対象になっ ているかなっていないかということが触れられてい て、建築基準法からすいぶん離れていっている感じ もしますが、これはどのように使っていけばよかっ たのでしようか。 南川使いどころは 2 つあると思います。まず 1 っ 目は、この条例は、公衆浴場を地域住民の日常生活 において必要な施設とそれ以外というように 2 つに 区分していますが、この区分の視点が建築基準法の 別表の解釈でも使える。すなわち、先ほど申しまし たように、縮小解釈する時に、公衆浴場法 1 条 1 項 が規定する公衆浴場の中から地域住民の日常生活に おいて必要な施設というふうに縮小解釈するにあた って参考になるという意味で使えるのではないでし ようか。もう 1 つは、価格統制をやっていますが、 本件スーパー銭湯はその値段を超えていることか ら、日常生活において保健衛生上必要な施設には当 たらないという当てはめの段階で使える。この 2 つ の使いどころがあると思います。 湯川もう 1 点目の飲食店部分の問題について、私 はこちらのほうが大変難しいと思いましたが、飲食 店部分の評価です。これはどういうかたちで問題と して立てるべきでしようか。 南川【法律事務所の会議録】の弁護士 C の発言は、 飲食店部分が別表の公衆浴場に当たると考えてよい のでしようかとしか書いてありません。この誘導か らしますと、先ほどの話と同じように、別表の公衆 浴場の中に飲食店を併設した公衆浴場も含まれるの かどうかという問題になるようにも思われます。た だ、飲食店部分が公衆浴場の用途に含まれるかとい うと、含まれないことがはっきりしているようにも 思われます。そうすると、出題者の意図としては、 これは公衆浴場に当たらないので、では、ほかにど ういう位置づけができれば適法に建築できるのかを 考えてくださいということかなとも思いました。 そうしますと、可能性としては別表十号の該当性 の問題になってくるわけです。飲食店部分が公衆浴 場の建築物に附属するものといえるかどうかという 十号の解釈問題になるのではないか。その解釈につ いて規範を立てて、論証して、当てはめるという解 答内容が求められているのではないかと理解しまし た。 湯川私は、別表十号該当性の部分は全く想定して いなかったです。十号ということは、建築物に附属 するかどうか。それについては施行令の 130 条の 5 がありますね。ただし、施行令の 130 条の 5 で挙げ られているのは、自動車車庫のことだけですよね。 飲食店部分はここには出てきていないですよね。 南川はい。 130 条の 5 は政令で定めるものを除く ということで、一定規模の自動車車庫については除 かれるというだけです。 湯川そうすると、建築物に附属するものであって も、本件の厨房部分とか飲食店コーナーは附属物に は該当しないという議論をするということですか。 南川はい、そうだと思います。 湯川私が別途考えたのは、あとの条文を見ていく と、 1 つだけ関係のない条文がありますね。施行令 の 130 条の 3 で兼用住宅の条文が載っていますが、 これは何かというと、法の別表第二で見ると、一号 で住宅、二号で兼用住宅というのがあって、住宅で あっても別の用途を兼ねるものがあっても一定の範 囲でオーケーだと。どういうものがオーケーかとい うのは施行令で書いてある。こでは食堂、喫茶店 部分を兼ねる住宅であっても、 50 平方メートルまで であれば兼用住宅として認められるという条文があ ります。 そこから着目すると、兼用住宅の条文というのは 主たる用途は何かということを考える条文。その 1 つの切り口が食堂とかであって、かっ 50 平方メート ルという基準。本件の場合も 50 平方メートルの飲食 店部分というのは出てきます。そうすると、主たる 用途が公衆浴場だといえるためには、喫茶店部分が 50 平方メートル以下であれば主たる用途が公衆浴 場といえる。ところが、 50 平方メートルを超えてい るので駄目だという議論をするのかなと考えてみま した。 南川出題者がどのように考えているのかはわから ないのですが、法律構成の話としては、今回の飲食 店部分を備えている公衆浴場が七号の公衆浴場にあ たるかどうかという問題の立て方をして、その中で
033 特集』司法試験問題の検討 2016 うな時間や解答スペースはおそらくないので、簡潔 れているだけで壁がないため、自動車の騒音、ライ にまとめる必要があります。 トグレア及び排気ガスを防ぐ構造にはなっていませ 湯川流れとしては、許可基準の法的性質という意 ん。許可基準が求めるさまざまな対策を何もとって 味では裁量基準だと捉えるのでしようか。本来なら いないわけですから、それを許可基準の各条項に即 ば、裁量基準としての合理性を論じなければならな して指摘していくことは必要だろうと思います。 いのですが、そこまでの余裕はないので、裁量基準 湯川細かい話になりますが、本件の自動車車庫が と適合しているのか、仮に裁量基準に違反している 1 層 2 段式だという点はどうでしようか。許可基準 として、なおかっこれが適法だといえるような特別 には 1 階以下の部分にあることとありますが、そこ の個別的な事情があるのかという検討を踏まえてい は違反しているということになるのでしようか。 くということですね。 南川本件自動車車庫のように屋上部分を利用する 南川この要綱が裁量基準に当たらないとなります 1 層 2 段の自走式車庫が許可基準「 1 階以下の部分 と、許可の外にあるということですから、今度は行 にあること」に適合するものか否かについては、様々 政指導の指針とみることも問題になるところです。 な考え方が成り立っところですね。ただ、実務書の そういう点はなかなかおもしろいところですが。ま 解説などをみますと、「階数とは層数のことをいう」 た、裁量基準の裁判規範性については、マクリーン との説明がなされていますので、実務上は適合する 事件の規範なども含めてですが、やはり詳しく書く と取り扱われるようです。しかし、これを初見の許 時間があまりないのではないかと思います。 可基準から導き出すことは困難ですから、答案上の 湯川たしかに、細かく検討すると、あくまでも例 処理としては、どちらでも構わないと思います。た 外許可は用途規制に対する例外を認めるという制度 だ、この点にひっかかって時間を使った受験生も多 湯】ニ朗 1 0 年生まれ。湯川法律事務所所属。 「行政法演習」「環境法講義」「環境法演習」などを ゆかわ・じろう氏 担当。主要著作として、「入札に関する争訟」現代 行政法講座編集委員会編「現代行政法講座Ⅳ自治 体争訟・情報公開争訟」 ( 日本評論社、 2014 年 ) 、「行 政訴訟の現状の問題点と改革の方向性」 ( 共著 ) 月 刊司法改革 19 号 ( 2 開 1 年 ) 8 頁、「市民のための行 政訴訟制度改革」 ( 共著、信山社、 2 0 年 ) がある。 であるのに、その許可基準がこの自動車車庫の構造 くいたのではないかと思われます。ついでに、同じ が、騒音とかライトグレアとか排気ガスに対しての く建築基準法施行令 130 条の 5 、そして要綱の基準 対処ができているのかどうかで判断しようというの にも同じ表現があるのですが、自動車車庫の床面積 は、制度と許可基準とが直接結びっているのか、ま の合計について、「同一敷地内にある建造物に附属 ともに議論するとなかなか大変な気もします。 する自動車車庫の用途に供する工作物の築造面積」 南川出題者の意図としては、本件事案の裁量基準 というのが、何のことかなかなか理解できなくて、 への当てはめ、裁量基準の規範の意味内容を理解で かなり引っかかりました。ただでさえ今年は問題数 きたかというのが 1 つのポイントでしよう。もう 1 が多いので、このようなあまり本筋とは関係ないと ころで時間を使うような点については改善の余地が つは、裁量基準に違反しても直ちに違法にならない という点を押さえているかどうかですね。この点を あるようにも思いました。 湯川いずれにしても〔設問 2 〕は、従来ですと、 みるぐらいの問題ではないかと思っています。 湯川個別的な事案が、それぞれの許可基準に、何 訴訟要件を論じさせる設問 1 と、実体的な違法事由 がどう違反しているのかについては、どの程度触れ を論じさせる設問 2 との 2 つでも十分なくらいの量 る必要があるのでしようか。細かく全部みていく必 の問題です。なのに、他にもまだ設問が複数あるの こでは、手続的違法と実体的違法について、 要がありますか。 で、 南川実体的瑕疵では、そこがメインになるとは思 とにかく簡潔に要領よく論じることが求められてい います。本件自動車車庫については、屋上部分の外 るのですね。 周に転落防止用の金属製の網状のフェンスが設置さ 南川手続的違法は手続的瑕疵の取扱い、実体的違
032 裁量基準を適用しない個別事情が特に見当たらない 点、また配点が手続的瑕疵と合わせて〔設問 2 〕に 30 % しか割り振られておらず、設問も全部で 4 つも あるという時間的制約からすれば、裁量基準の裁判 規範性や合理性審査、【法律事務所の会議録】の C の発言で指示された Y 1 の裁量権の内容範囲などを フルスケールで書いていくことは求められておら ず、裁量基準違反を具体的に指摘する点を中心に簡 潔にまとめることになると思われます。 湯川まず手続的瑕疵の点は、建築審査会の同意に 当たって、除斥事由のある委員が関与していた手続 的瑕疵をどう考えるかという話です。手続的瑕疵が あるので、それがそのまま例外許可の取り消すべき 事由になるという立論をするとアウトでしようか。 南川はい。どこの法科大学院でも教えていると思 いますが、手続的瑕疵については、手続重視説と実 体重視説の対立があり、裁判例においてもストレー トに処分の取消事由にはならないということを学生 さんは勉強しています。ですから、それを踏まえて 手続的瑕疵の取扱いについての規範を立てるところ までは、多くの受験生が書けたと思います。 湯川本問は、建築審査会の議決の賛否の票数だけ で考えると最終的な議決の結論には影響がありませ んから、手続的瑕疵について実体的な理解をする立 場からすると、これは違法ではないという結論にも なり得るように設定にされています。ここはどのよ うに取り扱っていけばよろしいのでしようか。 南川結論的には議決の結果に影響がないというこ とですが、それが手続的瑕疵の取扱いの規範との関 係で、結果に影響を与える場合に当たるかについて も、議論できると思います。というのは、今回は合 議制機関の審理ですので、各メンバーが意見を持ち 寄ってすぐ多数決をするわけではなく、議論して結 論を出すわけです。 1 人の委員が議論の流れを大き く変えたり、ほかの委員を説得したりすることがあ り得るのが合議体の審議です。ですから、最終的な 多数決の内容をみて結果に影響がないということは できないという議論も可能だと思います。ただ、湯 川さんがおっしやったように、メインの話はもう 1 つの規範である重要な手続における重大な手続規定 違反があったどうかになると思います。 湯川建築審査会の同意の審議にあたって、除斥事 由のある委員がいたというような手続的違法の重大 性はどのようなかたちで論じていくのが一番説得的 でしようか。 南川【法律事務所の会議録】の、弁護士 C の指示 としては、除斥事由が定められた趣旨を踏まえて検 討するようにということです。ですから、受験生の 多くはまず除斥規定の趣旨をみていくと思います が、それだけでは物足りません。まずは審査会同意 手続の重要性を指摘するべきです。目の付けどころ としては 2 つあります。 1 つは、今回のこの個別法の仕組みは、公聴会制 度を設けているので、当然、公聴会で得た意見を踏 まえて審査会で議論していきます。その審査会は処 分庁の原案に同意するという制度がとられていま す。そうしますと、審査会の同意手続も利害関係人 の権利保護の要素を含んでいるとみることができま す。これが 1 つのポイントで、重要な手続であると 指摘できます。 次に、今回の例外許可は広範な裁量を認めるかた ちになっていて、裁量の判断の適正さを手続的に保 障するという裁量権の手続統制の観点からも重要な 装置になっています。この 2 点から審査会同意手続 の重要性を指摘したうえで、除斥規定の趣旨を論じ ていくことになります。 湯川法律上、例外許可の要件が良好な住居の環境 を害するおそれがないという極めて抽象的な中身に なっていますので、公開による意見の聴取と建築審 査会の同意という手続的要件のもとでこれに縛りを かけています。このような法律の仕組みになってい ることをきちんと押さえていれば、この手続の重要 性からこの違法の重大性を導けるということですね。 南川はい。 湯川次に、実体的瑕疵についてですが、先ほども 出た【資料 2 要綱 ( 抜粋 ) 】が建築基準法の例外 許可の許可基準となっていますが、まずこの法的性 格をどうみるのかということですが。 南川これも、去年や一昨年の問題のように、基本 的には法律の側にどの程度の判断の余地、裁量の穴 といってもよいでしようが、開かれているか、そし て行政規則の側が、その穴にびったり収まる寸法に なっているのか、この両面からみていくことになり ます。そして、法に認められた裁量の範囲にきちっ と収まる合理的な裁量基準であるかどうかの判定を することになります。ただ、その話を詳しくやるよ
037 当たるかどうかについて、飲食店部分の用途、規模 や利用状況を考慮して判断していくという法律構 成。それから、私が先ほど申し上げました十号の建 築物に附属するものに当たるかどうかという話。法 律構成としてはこの 2 つがあると思います。 ただ、どちらの構成をとっても、結局のところは 飲食店部分の規模や施設全体に占める割合、サービ スの内容等をみて判断することになりますので、考 慮する内容は同じになると思います。そして、その 考慮の 1 つに、 50 平方メートルという規模について、 兼用住宅の場合にもこの 50 平方メートルまで認め られているという点が参考にできるということで、 資料として付けられているのではないかと思いまし た。答案としては、おそらくどちらでもよいのでは ないかという感想をもっています。 湯川いずれにしても個別行政法規の概念、公衆浴 場という概念の解釈問題を、普通は法科大学院の教 育でも教えるわけがないので、試験の場で与えられ た資料の中から考えてみようということが求められ ている話であると。それを法的にどのような問題と して作り上げていくか、切り込んでいくかというの が問われている問題であるということですね。なか なか高度な問題かなという気もします。ただ、その 分、配点割合も 15 点なのがもったいないのか、ある いはここはあまり配点を大きくするわけにいかない のか、微妙なところがあるかもしれません。 い法科大学院教育との関係 湯川今年の試験問題をみてみますと、訴訟要件の 問題、処分の違法性について実体的要件、手続的要 件からの切り込み、それから処分の違法性に関して 違法性の承継という大きな論点、最後に個別行政法 規の解釈問題とあり、行政法の全体についてまんべ んなく上手につくられた問題だという気がしまし た。南川さんとしてはこの問題を改めてご覧になっ てどのような感想をおもちになりましたか。 南川法科大学院の教育とも関係することになろう かと思いますが、先ほど湯川さんがおっしやられた とおり、バランスよく出題されています。また今回、 典型的な論点を扱う際にも個別法の仕組みを十分に 踏まえないといけないという点が特徴的だったよう に思います。もともと行政法の事例問題というのは、 多かれ少なかれ個別法令の仕組みに着目して分析す 特集司法試験問題の検討 2016 るという視点が必要だと思います。今回の試験は、 釈というのは立地規制です。これは本来的にはきち 感想です。今年の試験で問題となった公衆浴場の解 南川 2 点あります。まず、今回の事案についての 最後に、何かご感想等はございますか。 強くなったのかなという感じがしました。 のではなくて、短答式が廃止されてその傾向が一層 れているということですね。単に論述をすればよい 湯川基本判例に関するしつかりした理解が求めら 問題であるとも思います。 で、学生さんにとって基本的な知識の整理に役立つ 試験の中でこういう問題が出されるのは良いこと 著名なものでしたから、そういう意味でいうと論文 す。ただ、今回問われたような最高裁判例は本当に 面も論文試験の中に反映していっていると思いま ことからすると、短答式試験で問われていた知識の 数が増えて、著名な最高裁判決の理解を聞いている 南川それもはっきりとはわかりませんが、設問の て、何かご意見はございますか。 問題に何らかの影響を及ばしているかどうかについ 目になります。短答式試験が無くなって論文式試験 湯川最後に、短答式試験が無くなって今年で 2 年 と思っています。 ういう意味で、今年の問題はとても良い問題だった グしていくことは非常に重要だと思っています。そ てとか、あるいは演習問題などを通してトレーニン 考方法を学生の時代から、今回のような問題を使っ になされていることだと思いますが、このような思 先生方にとっては日々の訴訟業務で当たり前のよう 食らいついて立論していくということは、弁護士の いですけれど重要な意味をもっています。個別法に め方というのは〔設問 4 〕でしたが、それぞれ細か 強い関わり方をしている点とか、それから別表の定 るとか、〔設問 2 〕では審査会が同意というかなり 問 1 〕と〔設問 3 〕では事前手続規定が置かれてい いらっしゃいましたが、今年の問題をみても、〔設 べきだといわれます。先ほど湯川さんも振り返って されなくて、個別法の仕組みに食らいついて議論す 行政法の試験では、いわゆる空中戦はあまり評価 観察することが習慣になれば嬉しいです。 果があると思います。個別法の仕組みをしつかりと 勉強している学生さんに対して更に高めるという効 この視点といいますか意識を、いまロースクールで
030 を考慮すれば、比較的容易に個別的な切り出しが可 能であると思われます。他方、健康被害に至らない ような不利益については、普通に考えますと、生活 環境の利益という公益を法が保護している、それに よって事実上利益を受けているに過ぎない、いわゆ る反射的利益にすぎないわけでして、それが処分の 根拠法規において個々人の個別的利益としても守ら れているというためには、さらに強力な、明確な法 律上の手がかりが必要とされるでしよう。今回はそ の手がかりとして、手続参加規定を使えるのではな いかと考えました。 湯川いま先生がおっしやられたのは、サテライト 事件判決 ( 最ー小判平 21 ・ 10 ・ 15 民集 63 巻 8 号 1711 頁 ) の切り出し方というか、切り分け方ですよね。生活 環境利益が問題になる時、本来的には公益ですが、 それをさらに個別的な利益に結びつけていくような 実定法上の根拠があるのかどうかでみていく視点で すね。 南川はい、そうです。このような考え方は、平成 16 年の行訴法改正の時から議論になっていたこと で、行訴法 9 条 2 項の考慮事項の相互関係をどう理 解するかという点について、問題となっている被侵 害利益の価値が高いものについては、法律上の手が かりが多少弱くても個別保護要件が充足されるべき であると。他方で、問題となっている利益の価値が あまり高くないものについては、法律上、すなわち 実定法上、はっきりとした手がかりがやはり必要だ ということになります。問題となっている利益の価 値と実定法上の手がかりは、相関的な関係にあると 言えます。サテライト大阪事件最高裁判決もそのよ うな考え方に基づいているように思われます。 そして、その観点から見ますと、今回はまさにポ ーダーラインというか、生活環境の利益の中の健康 被害に至りうる部分とそうでない部分が問題となっ ています。健康被害に至る部分については、法律上 の手がかりが多少弱くても認められますが、他方、 健康被害に至らないグループについては、はっきり した手がかりが必要だと思います。ただ、その意味 では、手続参加規定では少し弱いかなとも思うとこ ろですが。 湯川サテライト事件判決で最高裁が言った、実体 法上の根拠ですが、それに【資料 2 要綱 ( 抜粋 ) 】 のような行政規則も含まれるという考え方になるで しようか。 南川それは司法試験でも、かってモーターポート の事件が問われた時 ( 平成 23 年 ) に、行政規則をど う取り扱うのかが問題になりましたね。行政規則類 は法律の合理的な解釈を前提につくられています。 そして、結局のところ、原告適格の判定においては、 処分の根拠法規を解釈するにあたって、説得的な立 論をするために関連法令や法の目的をみるというこ とですから、行政規則類も当然参考にしてかまわな いと思います。したがって、要綱に定められた、騒 音対策などについての許可基準を考慮することが可 能であると思います。 また、建築基準法 48 条 14 項を見ますと、例外許 可をする場合に、利害関係人の意見聴取の規定があ ります。この利害関係人の範囲を解釈するにあたっ て、要綱が 50 メートル以内の土地建物の所有者に対 しては、公聴会の案内を個別に送付することになっ ているので、こちらの方でも行政規則を用いること ができると思います。 湯川この 50 メートルという数字を見て思い出す のは、サテライト事件の判決では、 1000 メートル 以内の医療関係者などの地図を提出させることにな っていて、原審はその規定を手がかりに 1000 メー トル以内の医療関係者については原告適格をそのま ま認めましたが、最高裁はこれをそのようには使い ませんでした。南川さんは、この 50 メートルをどの ようにお考えになりますか。 南川サテライト事件とちがうのは、本件ではこの 範囲内の者は利害関係人として手続参加権が与えら れていることです。もちろん、手続法上の利害関係 人の範囲と原告適格のそれは完全に一致するもので はありませんから、このことから直ちに原告適格が 肯定されるわけではありません。けれども、これを 手がかりに X2 らのグループについてもなんとか原 告適格を認める方向でチャレンジしてみなさいとい うのが出題の趣旨であると考えました。平成 16 年行 政法改正の趣旨であった、実効的な権利救済の観点 は、処分性の問題にとどまらす、原告適格の判定に も及ばされるべきで、 X2 らのグループについても、 良好な住環境が大きく損なわれることから、事前手 続に関与できるだけでなく、処分の適法性を裁判所 に審査してもらえるべきだと考えます。原告適格の 判定については硬直した運用がなされることはまず