016 かは、この問題の書きぶりだと微妙な感じがするの で、この論点をどう扱うべきかについては西村先生 のご意見をうかがいたいところです。 解答の方向性としては、だいたい以上のようにな ると思います。 2 検討 [ 1 ] 継続的監視の評価と残虐な刑罰 ( 憲法 36 条 ) 木村まずは、残虐な刑罰 ( 36 条 ) を思いついた受 験生もいたかと思うので、それについてコメントを いただけますでしようか。 西村たしかに、メーガン法については、松井茂記 先生がお書きになっていて ( 松井茂記「性犯罪者から 子どもを守る一一メーガン法の可能性」〔中公新書、 2g7 年〕 ) 、残虐な刑罰についても触れておられます。 しかし、残虐な刑罰に関しては、「死刑でさえ残虐 な刑罰ではない」とするのが現在の判例ですから、 実際に何が残虐な刑罰に当たるのかということを憲 法解釈論として組み立てるのは、自力ではかなり難 しいだろうと思います。学説上もほとんど論じられ ていないのではないでしようか。 木村私もそうは思います。ただ、 36 条に意識がい く受験生はいるだろうと思います。 西村さんのご意見をうかがいたいのですが、死刑 や懲役刑といった刑罰と、本問のような、 24 時間の 継続監視付きの釈放、社会に戻すけれども長期的・ 継続的に監視するということを比べたときに、どち らをより重い刑罰として評価すべきでしようか。 西村たしかにそのような問題はあるのですが、先 ほど木村さんがおっしやったように、これが刑罰な のかというのがそもそも問題です。少なくとも、法 律をつくった側は、これを刑罰だとは思っていない でしよう。 木村ただ、これは、性犯罪の傾向の強い人であれ ば皆にやるのではなく、過去に実際に犯罪を犯した 人にだけ適用されるものですね。 西村ただ、その適用に当たっては、手続がしつか りとあるわけです。告知・聴聞の機会を保障するこ とも法律に書いてあるので、そこは 31 条の問題であ り、今回はそういう難しい話はしなくてもよいとい うことだと思います。 木村本問で 31 条と 39 条を外してあるのは、どち らかというと 31 条以下を全部外しているという趣 旨だとお考えですか。 西村そうですね。刑事手続について今回は論じな くてもよいですよという趣旨だろうと思いました。 もちろん、 31 条と 39 条しか指定されていませんか ら、それは私の思い込みなのかもしれませんが。 木村私は、 36 条をあえて排除していない趣旨なの かどうかが気になってしまうのですが。 西村たしかにそこは気になりますよね。 木村 こでの見解としては、残虐な刑罰 ( 36 条 ) は想定していないと読んでよいのではないかという ことでしようか。 西村 こで議論しても結論は出ないと思います が、残虐な刑罰かどうかについては、 13 条や 22 条 の問題を論じる中で同じようなことを論じる可能性 もありますよね。ですから、そちらだけでいえばよ いのかなという気もします。 木村そうですね。そうすると、やはりプライバシ ー権や移動の自由といったものを、自由の制約とい うかたちで論点にしていけばよいということですね。 西村そうだと思います。 [ 2 ] 制約される権利の内容 木村では、制約される権利の内容の検討に入りま しよう。 (i) 平等権 ( 14 条 ) は問題になるのか 西村 13 条と 22 条 1 項が問題にはなるのですが、 その前に一つ気になったのは、先ほどの目的の正当 性の話のところでスティグマ付けの話がありました が、 14 条 1 項の問題もあるのでしようか。 木村それはあると思います。他の犯罪と比べてと いうことですね。 西村というのも、本問で参考人として呼ばれてい る T さんと U さんは、性犯罪とほかの犯罪類型とを 比較しています。どうして性犯罪だけなのだと T さ んは言っている。この T の意見を読んだ受験生とし ては、そこが気になったかもしれません。 木村それについては当然、気にはなるのですが、 権利の構造上、主張してもあまり意味はないかなと いうのが私の意見です。 仮に平等権を論じる場合、例えば、殺人前科者と 性犯罪前科者との間にある、継続監視をされるかど うかに関する区別を、合憲性の問題として提起する
050 て無効の債権で、約定の利息も遅延損害金も取れず、 契約目的を達成できないことを理由に、当該債権の 売買契約を解除し ( 民法 570 条、 566 条 ) 、代金 4 開万 円の返還および損害賠償 ( 民法 545 条 ) を請求する方 法が考えられます。損害賠償額は , 小問 ( 1 ) で検討し た M の請求内容に相当する額 ( 元本 500 万円 + 約定利 息 + 約定の遅延損害金 ) から 400 万円を控除した額と 考えてよいでしよう。この M の H に対する債権を被 担保債権として、 H が E に対してもつ不当利得返還 請求権を代位行使する方法で ( 民法 423 条 ) 、不当利 得返還請求権を行使し、代金 400 万円プラス損害賠 償分を確保する方法があると思います。 これに対する E の反論は、 H の E に対する 5 開万 円の交付は不法原因給付に当たるから、 H は返還請 求することができず ( 民法 708 条本文 ) 、それを代位 行使する M も返還請求できないと主張するでしよう。 これに対する M の再反論として、 E が賭博に使う 資金を得るために貸してくれと H に頼み込んだので あり ( 【事実】 16 ) 、 H は E から賭博に使う「つもり」 だと一方的に告げられただけで、何ら公序良俗違反 ( 民法 90 条 ) ではなく、不法原因給付 ( 民法 708 条本文 ) にも当たらない、あるいは HE 間の消費貸借契約の 不法原因はもつばら E にあり、 E の不法性に比べて H の不法性は小さいので、民法 708 条ただし書きが 適用され、返還請求は可能であるとの主張が考えら れます。なお、 H は所在不明になっていますが、そ れによって M の契約解除が妨げられることはないと 考えられます。 ( ⅲ ) 〔設問 2 〕 ( 3 ) について 小問 ( 3 ) は、滝沢さんが分析されたように、保証人 の求償権に関する民法 459 条および 463 条 2 項につ いて可能な検討を加えたうえで、委任に関する 650 条 3 項を検討する展開が適切であると思われます。 まず、 L は委託を受けた保証人で、保証契約に基 づき、平成 27 年 6 月 1 日に連帯保証債務の履行とし て 584 万円を弁済したことにより、民法 459 条に従 い、 E に対して 584 万円の求償請求をするとします。 L は 584 万円の保証債務を履行する前に、 E に対し 問合せをしています ( 【事実】 25 ) 。 L の照会に対し、 E は間違えて「事業はうまくいっておらず、 K に対 する債務は利息を含め 1 円も支払っていない」と説 明し、それで L は E に「仕方がないので連帯保証債 務を履行する」と述べています。これは民法 463 条 1 項の事前通知に当たるといえるでしよう。 これに対し、 E は、 K と消費貸借の合意はしたけ れども、約束した平成 26 年 5 月 31 日に 500 万円は交 付されず、民法 587 条の要物契約としての消費貸借 は成立していないから、主たる債務は存在しない、 主たる債務が存在しない以上、保証契約も不成立で ある、したがって、保証債務の成立を前提とする民 法 459 条の求償権は成立しないという、保証債務の 付従性を理由にした反論をするでしよう。あるいは 滝沢さんも指摘されたように、民法 459 条の求償要 件としての「債務を消滅させるべき行為をした」の 主たる債務が存在しないという反論もあるでしょ う。総じていえば、 L はそもそも主たる債務もない のに債権者と称する K に支払ったのであるから、 L 自身が K から取り戻すだけのことだという主張です。 これに対する L の反論は考えられるでしようか。 まず、主たる債務の不成立を理由とする E の主張に 対し、 E K 間の諾成的消費貸借の成立を肯定する立 場からの反論もあるかも知れません。 EK 間の消費 貸借契約は書面で合意されていますが、民法改正案 587 条の 2 第 1 項は、書面による諾成的消費貸借の 成立を認め、ただし、借主は金銭等を受け取るまで 諾成的消費貸借を解除することができると提案して います ( 民法改正案 587 条の 2 第 2 項 ) 。本問では、 L による保証債務の履行前に E が L との契約を解除し ている事情はありません。したがって、諾成的消費 貸借の成立を認める見解によれば、 L K 間の保証契 約が付従性によって不成立であるという E の反論に は答えられるかも知れません。 しかし、 E は K からまだ 500 万円を交付していま せんので、 L の K への支払が E の「債務を消滅させ るべき行為」 ( 民法 459 条 ) とはいえないかも知れま せん。 L の最も大きな反論としては、保証債務の履行に 先立ち、平成 27 年 6 月 1 日に E に照会したところ、 E は本来ならば平成 26 年 5 月 31 日に 500 万円が K か ら交付される予定であったにもかかわらず、まだ交 付されていないことを本来伝えるべきであったのに 伝えていない。伝えていないだけではなく、むしろ K に対する債務は 1 円も払っていないと述べ、 K と E との間の消費貸借があたかも有効に成立したこと を前提にするような回答をしている。この事実を法
019 特司法試験問題の検討 2016 西村たしかに、そうかもしれないですね。 しては、「みだりにその容ばう・姿態を撮影されな い自由」とか「みだりに指紋の押なつを強制されな ( ⅲ ) 「継続的監視」一憲法 13 条 い自由」とか「個人に関する情報をみだりに第三者 木村では、継続監視について検討しましよう。 に開示又は公表されない自由」などと言っています。 西村まず、答案作成上、気になるのは、 13 条の前 木村ではまず、 13 条関係の判例との関係を整理し 段と後段を区別する必要があるのかどうかです。 ましよう。住基ネット事件で問題になったのは、個 判例によれば、憲法 13 条は「国民の私生活上の自 人に関する情報を第三者に公開されない権利でし 由」を保護しているとしたうえで、その一つとして た。これに対して、京都府学連事件で問題となった これこれの自由がありますという書き方で、 13 条の のは、容貌に関する情報を同意なく取集されない権 前段と後段を区別していない。 利でした。今回は公権力の情報収集自体を問題とし それに対して学説だと、 13 条後段が幸福追求権を ているわけなので、住基ネット型ではなく、どちら 保障していて、そこにプライバシー権も含まれ、プ かといえば、京都府学連型の事案ということになり ライバシー権は 13 条後段が保障しているとする。 ますね。 憲法 13 条に反するかが問題となるのか、 13 条後段 西村その点ではそうですね。 に反するかが問題となるのか。これが、判例べース 木村個人の私生活上の自由として、みだりに個人 で書くか学説べースで書くのかということと絡ん 情報収集されない権利がある。それは絶対保障では で、少し問題になるのではないかと思ったのですが。 ないけれども、肖像権というかどうかは別にして、 木村 13 条の前段と後段の区別を特におっしやっ 肖像に関する情報も個人情報であり、肖像をみだり 西寸裕一 1981 年生まれ。専攻は憲法。「憲法Ⅱ」「公法事例問 題研究Ⅲ」などを担当。主要著作として、「憲法学 にしむら・ゆういち氏 の世界」 ( 共著、日本評論社、 2013 年 ) 、「憲法学再 入門』 ( 共著、有斐閣、 2014 年 ) 、「憲法演習ノート ー - ー憲法を楽しむ 21 問」 ( 共著、弘文堂、囲 15 年 ) 、 「「憲法改正」の比較政治学』 ( 共著、弘文堂、 2016 年 ) などがある。 ているのは長谷部恭男先生ですね。ただ、この事案 に撮影されない権利が制約されたという話をしてい は、長谷部説の枠組みからいっても、両方にまたが たと思います。今回は居所ですよね。居場所を継続 る論点があるでしよう。何を通説にするかというと 的に監視されない権利は、個人情報を収集されない ころですが、私の理解では、学説としても、個人情 権利の中に含まれるという理解ですか。 報コントロール権というものが 13 条全体から導か 西村つまり、判例によると「国民の私生活上の自 由」に入ってくれないといけないわけで、先ほどの れるとしておけばよいのではないかと思います。 西村ただ判例は、憲法 13 条がプライバシー権を保 3 つの自由は、指紋押捺事件判決はプライバシーと 障しているとも、自己情報コントロール権を保障し いう言葉を使っていたと思いますし、他の 2 つも結 ているとも言っていません。他方で学説はそのよう 局プライバシー的なものではあるのですが、ただ、 に言っているのですが、司法試験の場でそういう学 それを「プライバシー権」と書くとまずいのではな いかということです。 説を前提にして書いてよいのかについて、少し気に 木村「国民の私生活上の自由の中に含まれる、居 なっています。 木村「国民の私生活上の自由」とは、どの判決が 所をみだりに把握されない権利」と表現すべきだと。 西村そういったものを設定して、それがこれまで 言っていましたか ? 西村それを言っているのは、京都府学連事件 ( 最 の判例の理解からすれば、憲法 13 条が保障する「国 民の私生活上の自由」に含まれるだろうと。 大判昭 44 ・ 12 ・ 24 刑集 23 巻 12 号 1625 頁 ) と指紋押捺拒 木村含まれるでしようね。 否事件 ( 最三小判平 7 ・ 12 ・ 15 刑集 49 巻 10 号 842 頁 ) と 西村ただ当然、それは先ほど木村さんがおっしゃ 住基ネット訴訟 ( 最ー小判平 20 ・ 3 ・ 6 民集 62 巻 3 号 ったように絶対ではない、公共の福祉による制約を 665 頁 ) の 3 つです。その中で、判例の言葉遣いと
045 有効である、その有効な所有権と登記を備えた E か ら取得した F の乙土地の所有権取得も保護されると いう主張を F がすることは考えられるでしよう。 第 2 に、仮にその主張が認められず、 E が無権利 者であることを前提とした場合、無権利者と取り引 きした者の保護法理を検討することになります。 これも滝沢さんが整理されたとおりで、 A の E に 対する代理権濫用行為が 93 条ただし書きの類推適 用によって無効であるとすれば、 F の保護としては、 民法 93 条ただし書き類推適用による無効も「善意の 第三者」に対抗できないとする昭和 44 年判例による 民法 94 条 2 項類推適用が考えられます。この場合、 A は心裡留保そのものではなく、権限濫用の意図を もっていた ( それゆえに民法 93 条ただし書きの類推適 用 ) ということですが、いずれにしても帰責性は強 いので、第三者の保護要件は善意のみでよいと考え られます ( 昭和 44 年判決 ) 。 この民法 93 条ただし書きの類推適用による代理 権濫用行為の無効を善意の第三者に対抗できないと するタイプの民法 94 条 2 項の類推適用と、 F が E の 不実の登記名義という虚偽の外観を信じたことによ る民法 94 条 2 項の類推適用は、同じく民法 94 条 2 項の類推適用でも善意の対象が異なり、 F は後者に よっては保護されない ( D による不実登記の放置が認 められない ) けれども、前者によって保護されうる という点は、滝沢さんのおっしやるとおりだと思い ます。ちなみに、前者の民法 94 条 2 項類推適用は、 民法改正後は、民法 93 条 2 項の類推適用ということ になるでしようか。 〔設問 1 〕について全体としてみますと、小問 ( 1 ) は、 法定代理人 A の行為の利益相反行為性を確認し、そ れに当たらないとしても、代理権濫用に当たるかを 検討し、代理権濫用者が本人の地位を他の共同相続 人と共同相続した場合の効果ついて、関連判例をフ ォローする形での基本的問題です。これに対し、小 問 ( 2 ) は小問 ( 1 ) の検討事項を踏まえ、共有持分権の効 果や無効な不動産取引の第三者保護を問う応用問題 で、積み上げ式に考えるプロセスを辿るよう配慮さ れた良問といえるように思います。結局、小問 ( 1 ) で は D が保護される一方、小問 ( 2 ) では F が保護される という結論の相違も、小問 ( 1 ) の甲土地については引 渡し・移転登記が未履行 , 小問 ( 2 ) の乙土地について は引渡し・移転登記とも既履行ということで、あり 特集」司法試験問題の検討 2016 うる帰着点だと考えられるでしようか。 滝沢私から、いくつか補充したいと思います。 と少なくなるのでしようね。原則としてむしろ無効 扱ってしまうのだから、たぶん保護する余地はもっ 松尾さんがおっしやるとおり、もう無権代理として で、それも含めて考え直すと、どうなるのかな ? 権の濫用には 93 条ただし書きは適用されませんの がおっしやったように、そもそも改正案では、代理 きないことになっていると言いましたが、松尾さん ただし書きにより善意の第三者に対抗することはで 思いついたのですが、私は、先ほど改正案では 93 条 それから、もう 1 つ、たしかに、私もそうだと今 てきません。 てくるだろうと思います。ただし、本問では差は出 はないかと考えることもできるので、結論に差が出 すが、これに対して、いや、あくまでも E は悪意で う履行した以上は諦めなさいと考えることになりま 滝沢たしかに、松尾さんのような考え方だと、も 松尾ええそうですね。 があるか否かですよね。 同じですが、差が出てくるのは、 E を保護する必要 しました。そうすると、 F を保護するという結論は ということでよいのではないかという考え方を提示 ちゃんと履行した時点で、今さら返せとは言えない 抗弁説によれば、もう E に移転した時点で、つまり、 考え方があるわけです。松尾さんは先ほど、悪意の きを類推適用するわけですが、他にも、いろいろな それから、小問 ( 2 ) について、判例は 93 条ただし書 るほうが良い答案になるだろうと思います。 ないでしよう。答案としても、その一言が書いてあ たように、 D が追認したときは、 A は嫌だとは言え いませんでしたが、松尾さんが適切に補充してくれ それから、同じく小問 ( 1 ) について、私は先ほど言 内容は同じだろうと思います。 前提にしますから、結局、考える内容、検討すべき しかし、それは、その売買契約は有効であることを 引渡しや登記移転がなくとも ) 所有権は移転します。 しかに判例によれば、特定物の場合には ( 代金支払、 で、所有権が移転するのか問題です。もっとも、た 払いもない、引渡しもない、登記もしていない段階 考えられないこともないことです。ただ、代金の支 有権を根拠にして所有権移転登記を請求することも 1 つは、小問 ( 1 ) のほうで、売買契約ではなく、所
027 ことでもあまり差はつかないということですから、 今回どこで何の実力が問われていると思いますか。 西村まさにプライバシーならプライバシーの中身 ですよね。プライバシー権についてちゃんと学説な り一判例も全く参考にできないわけではないと思 いますが一、学界で問題になっているプロファイ リング等々の問題について、ちゃんと問題意識をも てたかどうかということはあるかなと思います。そ ういう問題が一最後に話題になりましたが 個人の尊厳を脅かす。プライバシー権で問題になる のは最終的にはおそらくそういうことだと思います ので、勉強している人であれば、そういう本質的な ことまで書こうと思えば書けたのではないかと思い ます。 木村個人の尊厳の問題となるというのはそのとお りなのですが、結局、この制度に合理性があるのか、 必要性があるのかについては非常に書きにくい。そ ういう意味では、事案分析能力というものが意外と 問われていない問題だった。 西村そういう側面はあるかもしれません。 木村答案構成は決まっていて、事案分析のカで差 をつけることもしにくい。問題を分析してみると、 どの力を問おうとしているのか、出題の意図が非常 に見えにくかった。西村さんがおっしやったように 個人の尊厳のような非常に本質的な問題を掘り下げ るという出題趣旨なのだとすれば、たしかにそうい う問題として機能した可能性はあると思います。た だ、そこが正面から論点になっているようにも見え ない点で難しい。 西村正面から論点にする必要は必ずしもなくて、 プライバシーに関して答案を書いていくなかで、そ ういう問題意識を出すことは十分できると思いま す。木村さんの答案構成でも利益衡量のところで最 後にそういうことを書くこともできるわけですか ら。要するに、何を書けばよいのかわからないとい うか、そもそも何条が問題になっているかもわから ないとか、そういうことは今回はなかったような気 がします。 そのうえで 13 条なら 13 条、 22 条なら 22 条の論点 について理解していますかということが割と正面か ら問われたのかなと思いました。たしかに 22 条は少 し難しかったかもしれませんが、 13 条についてはそ れなりに問題意識を出すことは可能だったのではな 特集っ法試験問題の検討 2016 , いかと思います。 木村 13 条の枠組みの中で、個人の身体や尊厳性に ついても議論できていればよいのではないか、そこ が問われていたのではないかということですね。 西村そういう気がします。 ( 6 月 2 日実施 ) ありがとうございました。 うことは、それなりに興味のあるところですね。 について受験生たちがどういう反応をしたのかとい 試験としてどうかという問題とは別に、この問題 点実感を見てというところですね。 ろなので、その辺りは司法試験委員の方々が出す採 は、答案の出来などを見てみないとわからないとこ 木村そういう出題の仕方が適切であったかどうか
157 れたことで、状況が変化した。もっとも、「行政 土地家屋調査士法 44 条に基づく懲戒申出に対す 指導の中止等の求め」等では、「申請」ではなく「求 る応答義務の有 め」あるいは「申出」という言葉が使われており、 行政庁に応答義務はなく、仮に行政庁から申出を 控訴棄却。 拒否する通知があっても処分とはならないという 「土地家屋調査士法 44 条の定める懲戒申出制度 のが通説である。これに対し、本判決が、土地家 は、土地家屋調査士に対する処分権の適正な行使 屋調査士法 44 条 1 項に基づく懲戒申出を国民一般 が、依頼者となる国民一般の土地家屋調査士に対 に認められた申請権に基づくものであるとして、 する信頼を確保することを通じて公益にかなうも 行政庁に応答義務があるとした上で、申出を拒否 のであるとの認識の下に、その実効性を確保する する決定に処分性を認めた点が注目される。 2 同条は、 2002 年改正法によって新設されたも ために、国民一般に懲戒処分請求を認めるものと して新設されたと解すべきであり、同条二項は、 のであり、同条 1 項は、何人も、土地家屋調査士 に同法に違反する事実があると思料するときは、 法務局長等に必要な調査を義務付けているのであ るから、必要な調査を遂げた法務局長等には、懲 法務局の長に対し、当該事実を通知し、適当な措 戒申出をした者に対し、調査に基づく判断の結果 置をとることを求めることができると規定する。 本判決が上記判断をした第 1 の理由は、 2002 年改 を明らかにする応答義務があると解するのが、同 法の趣旨にかなうというべきである。」 正法の立法趣旨、すなわち、同項が規制改革推進 「本件懲戒申出は、土地家屋調査士法 44 条一項に 三カ年計画における「国民一般からの懲戒請求を 認めることを検討する」という事項を具体化した よって国民一般に認められた申請権に基づくもの ものであるという点を重視したことである。また、 であり、これによって津地方法務局長 [ B ] には 明文の規定はないものの、懲戒処分を行わないと 応答義務が生じたのであるから、本件決定は控訴 決定した際にも申出人にその旨を通知するという 人ら [X] の申請を拒否する行政処分であり、控 運用がなされていることも指摘される。行政手続 訴人ら CX] と被控訴人 (Y) との間には、申請 法における上記通説を前提とする限り、本判決が 権とこれに対する応答義務を内容とする公法上の 維持される可能性は小さいが、国民による行政監 法律関係があるというべきである。」 視の実効性確保 ( 前掲判時匿名コメント参照 ) が 重視されている点は、積極的に評価できる。 1 二面関係において、許認可の申請がなされた 3 本判決は、本件決定が行政処分であるから取 場合、行政庁には応答義務がある ( 行政手続法 7 消訴訟か無効確認訴訟を提起すべきであり、本件 条 ) 。これに対し、二面関係において ( 名宛人から ) 訴えを不適法であるとした。本判決は、本件決定 不利益処分をしないよう求められた場合や三面関 係において ( 第三者から ) 不利益処分をするよう を、申請 ( 申出 ) を拒否する処分とみており、 X は本件決定の名宛人となる。しかし、 X は、第三 求められた場合、行政庁には応答義務があるか。 者として、懲戒処分を求めて直接型義務付け訴訟 従来はいずれも否定された。しかし、 2004 年、差 止訴訟や義務づけ訴訟が法定化され、 2014 年、行 を提起する方法もあったのではないか。 政手続法に「行政指導の中止等の求め」 ( 36 条の 2 ) や「処分等の求め」 ( 36 条の 3 ) の制度が新設さ 第三者による懲戒申出に対する応答義務を認めた事例 しました」と通知した。そこで、 X は、国 Y に対し、 X は、自己所有地と市有地との境界確認事務にお 行政事件訴訟法 4 条後段の当事者訴訟として、本件 いて土地家屋調査士 A が市に虚偽の報告書を提出し 決定の違法確認を求めた。 たなどとして、津地方法務局長 B に対し、土地家屋 原審 ( 津地判平 27 ・ 2 ・ 26 ) は、本件懲戒申出に 調査士法 44 条 1 項に基づき、 A を懲戒処分にするこ よって X と Y との間に「公法上の法律関係」 ( 同法 とを求めた ( 以下「本件懲戒申出」という。 ) 。これ 4 条後段 ) が生じることはないから、本件訴えは、 に対し、 B は、 X に「本件懲戒申出については、懲 確認の利益を欠き不適法であるとして却下した。 戒処分に該当する事実は認められないので、懲戒処 れに対し、 X が控訴した。 分は行わないこと ( 以下「本件決定」という。 ) と [ 名古屋高判平 27 ・ 1 1 ・ 1 2 判時 2286 号 40 頁 ] 最新判例演習室ーー行政法 裁判所の判断 北海道大学教授山下竜一 解説 ( やましたりゅういち ) 法学セミナー 2016 / 09 / no. 740
プラスアルフアについて考える基本民法 115 とについては異論をみないであろうが、その法的性 質および内容につき B との間に差異を設けるべきで あろうか。 [ 2 ] 不法行為構成と保護義務の拡張構成 C および D に対する A の責任が不法行為責任 ( 709 条 ) であるとすると、 B が受傷した場合に比して何 が異なるであろうか。債務不履行と不法行為の主な 相違点として一般に、①被害者の立証責任、②消滅 時効期間 ( 167 条。 r724 条 ) 、③賠償すべき損害の範囲 ( 弁護士費用 ) 、④遅延損害金の起算点 ( 請求日の翌日 < 412 条 > 。 r 不法行為時 ) 、⑤遺族の慰謝料請求権の 有無、⑥過失相殺の要否 ( 418 条。 r722 条 2 項 ) 、⑦加 害者による相殺の可否 ( 509 条 ) などが挙げられて いる。そこで、債務不履行構成と不法行為構成との 間にアンバランスが生じないよう、問題類型の特色 に応じて解釈・運用上の柔軟な調整に努めることが 求められる。①については、債務不履行構成でも保 護義務違反の主張立証を要する一方、不法行為構成 においても欠陥の存在から過失を推定することが可 能であり、②では信義則上の主張制限による調整な どがあり得よう。③以下についても、本来の給付義 務の不履行ではなく完全性利益に関する信義則上の 義務違反であることにかんがみて、不法行為規範が 類推適用されてよいであろう。人身損害に対する B ・ C ・ D の救済を等しくするには、さしあたりこうし た手当てをすれば足りるともいえる。 もう一歩進めて、被害者が契約当事者であるか否 かを問わず法律構成を統一化しようとするなら、保 護義務の対象範囲を拡張する構成が考えられる。製 造物責任法制定以前における下級審裁判例には、売 主の保護義務に関連して、このような契約上の責任 は、『信義則上その目的物の使用、消費等が合理的 に予想される買主の家族や同居者』に対しても及ぶ と解したものがある 2 。保護義務の対象は必ずしも 契約の相手方にとどまらず、その性質・内容に照ら して契約上合理的に予見される範囲において第三者 にも及ぶという考え方であり、不動産賃貸借におけ る保護義務であれば、賃借人の家族・同居者さらに は賃借人の意思に基づく来訪者にも及ぶと解され る。この構成は本来の給付義務と区別して保護義務 のみを拡張するものであるため、実質的に契約の相 対効原則に反しておらす、むしろ保護義務の内容と 当事者の予見に合致するとみることもできよう 3 事例 Part. 1 ( 1 ) において A は B のみならず C ・ D に対 しても保護義務を負うとしても、あくまで損害賠償 責任を導くにとどまり、 C ・ D の賃料債務の負担あ るいは A に対する修繕義務の履行請求などが認めら れるわけではない点に留意を要する。 [ 3 ] 保護義務違反の間接被害者 事例 Part. 1 ( 2 ) においては ( 1 ) と異なり、甲建物の利 用に関係しない E までが本件賃貸借において予定さ れていたとはいえないであろうから、契約外責任の 問題として考えるべきことになる。そこで、不法行 為における間接被害者の法理を転用することが考え られる。すなわち、 B の休業期間中の賃金手当てに っき、 A が賠償すべき損害を E が代わって填補した と評価し得る場合、それが労働法または雇用契約上 の B に対する義務の履行として行われたか否かを問 わず、 E の A に対する求償を認めるべきであろう 4 法律構成としては、賠償者代位 5 ) ( 422 条 ) または弁 済による代位 6 ) ( 499 条 1 項 ) 、事務管理 7 ) ( 702 条 ) 、 不当利得 ( 703 条 ) などが考えられるが、事務管理 構成は A のためにする旨の E の管理意思の有無が問 題となろう 8 ) 。 E の営業上の損失については A 自身の不法行為責 任の有無が問われるが、判例は被害者と企業との間 に経済的一体性が認められる場合に限定して肯定す る 9 。間接被害者に対する不法行為を容易に認める と加害者の責任が合理的に予見可能な範囲を超えて 無限に拡大するおそれがある一方、雇用者としては 労働者の疾病や受傷による事業への影響を予め織り 込むべきであると考えられるからである。なお、加 害者に故意が認められる場合は企業に対する不法行 為が成立しようが、設例からそこまで汲み取るのは 困難であろう。 2 契約連鎖における不法行為責任の意義 〔事例で考えよう Pa 臧 .2 〕 ( 1 ) F は、建設業者 G との間で、自己所有の 土地上に本件建物を建設する旨の本件請負契 約を締結し、これに基づいて本件建物が完成 して引き渡された後に F はこれを H に売却し た ( 以下、「本件売買契約」という ) 。やがて、
LAW 148 法学セミナー 2016 / 09 / no. 740 刑事訴訟法の 思考プロセス [ 第 6 回 ] 続・令状主義の趣旨からスタートする 思考プロセス ( 捜索・差押え編 ) 龍谷大学教授 斎藤司 CLASS ・ク フ ス 令駐義の趣旨としての特定性の要請と令状における捜索・差押え対象の特定 第 6 回の目標 ①憲法 35 条 1 項の特定性の要請の趣旨を踏まえ [ 1 ] 特定性の要請と特定の程度の関係 た、捜索・差押え令状の特定・記載に関する適 憲法 35 条 1 項の特定性の要請の趣旨は、 A) 令状 法性判断の思考プロセスを身に付ける。 請求の審査の際に、裁判官は憲法 35 条 1 項にいう「正 ②捜索・差押えの執行の適法性判断に関する思 当な理由」の有無を審査し、 B ) その審査を通じて、 考プロセスを身に付ける。 「正当な理由」の認められる捜索場所や差押え目的 物を限定・特定し、 C ) この限定・特定された場所 や目的物が記載された令状により、捜索活動の許さ れる範囲や差押えの目的物が限定・特定され ( 「捜 捜索・差押えの要件論と手続論 索すべき場所」及び「差し押さえるべき物」を明示し 第 5 回では、憲法 35 条の要請である令状主義の趣 た令状 ) 、捜索や差押えについての誤りや恣意的な 旨からスタートして、捜索・差押えに関する諸問題 権限濫用を防止すること、 D) 事前・事後の令状提 を検討すべきことを述べました。捜索・差押えの適 示による被処分者に対して受忍すべき範囲や不服申 法性を判断する視点は、 a) 「正当な理由」の存否 立ての機会を付与することにあります ( 第 5 回を参 は十分審査されているか ( 実体的要件を満たした令状 昭 ) 発付かという問題 ) 、 b) 裁判官による特定は十分な A) 及び B ) からすれば、令状に記載された捜索 されているか ( 令状における特定は十分かという問 場所や差押え目的物は、裁判官が「正当な理由」が 題 ) 、 c) 令状で特定されている範囲・目的物以外 存在すると判断された範囲とそうでない範囲が区分 に対する捜索・差押えではなかったかという問題、 できる程度に「特定」されなければなりません。そ そして、 d) 憲法 35 条の例外である逮捕に伴う無令 の特定の程度としては、 C) の観点から捜査機関の 状捜索・差押えなどの適法性判断に区分できます。 判断により捜索場所や差押え目的物に含まれるかが どの視点で問題をとらえるかにより、捜索・差押え 判断可能な特定、そして、 D) の観点から被処分者 の適法性判断の思考プロセス ( 根拠条文、主体や対 に捜索場所や差押え目的物が理解できる程度の特定 でなければならないことになります 1 。この特定性 象となる処分など ) は異なってきます。 今回は、 b ) と c ) について学びましよう。 b ) の要請を受けて法 219 条 1 項は、捜索差押え令状に 「捜索すべき場所」、「身体」若しくは「物」、そして は裁判官により発付された令状の記載内容の適法 性、 c) については捜査機関による捜索・差押えの 「差し押さえるべき物」を記載すべきとします ( さ 執行の適法性が問題となります。 らに、同規定により、被疑者の氏名、罪名、有効期間〔原 則として 7 日 : 刑訴規則 300 条〕が記載事項とされます。 なお、令状請求書の記載事項については刑訴規則 155 条 ) 。それゆえ、「捜索すべき場所」として、「差押
026 対禁止の領域に入っているのではないかという論点 をどこカ咐け加えないと、付添人としてはやりにく いのではないかということですね。 [ 4 ] 個人の尊厳 西村今おっしやった個人の尊厳という話と関連す るのですが、この法律を見たときの素朴な感想を述 べると、「性的衝動に対する抑制が適正に機能しに くい」という理由で特定の類型の人たちを警察の監 視下に置くというのは、やや大げさに言うと近代法 の原理に反するように感じられたんですね。つまり、 自由な意思があるから責任も負うというのが近代社 会が前提としているフィクションだとすると、特定 の性犯罪者には自由意思がないと言っている本問の 法律は、そのようなフィクションから逸脱している ようにも思われます。 そうすると、そもそもどうしてそういう人たちに 刑罰を科すことができたのかというのも少々疑問な のですが、それはともかくとしても、市民社会の中 の特定の類型の人たちを「管理」の対象としていわ ば「動物」扱いしているという点に根本的な違和感 がありました。そして実は、そういう問題意識を掬 い取ってくれるのは 14 条かなということで、冒頭で 14 条についてお伺いしてみたというわけなんです。 木村それはあり得る考え方だと思います。まず、 普通に、憲法 14 条 1 項を使うと、「この区別に合理 的な理由があるのか」という問題を設定することに なります。ここで、単に、「継続的監視をされる者 とそれ以外の者」の区別を問題にすると、おっしゃ るような問題意識を反映できません。動物扱いと近 代法という問題意識を反映させるには、「動物扱い される者とそれ以外の者」の区別が問題なのだ、と 議論を組み立て、特定の者の個人の尊厳を否定する じる方法もあり得ると思います。その他にも、身体 は後段の「差別されない」権利の問題なのだ、と論 また、憲法 14 条 1 項の前段と後段を区別し、これ 論すればよいのではないでしようか ことには、到底、正当な目的を構成できない、と議 問題を議論する方法もあるでしよう。 いか ( 憲法 13 条前段 ) といった構成で、動物扱いの 「個人の尊重」理念に根本から反しているのではな を直接侵襲する残虐な刑罰 ( 憲法 36 条 ) ではないか、 3 全体としての評価 木村こんなところでしようか。私の意見としては、 いまの検討からもわかるように、付添人の側からは 違憲主張がなかなかしにくい問題だったと思いま す。これを立法事実として前提にしてよいとまで問 題文が言っているので、付添人からの組み立ては非 常に難しかった。そういう意味では、適切な出題で あったかが問われるべき問題だったと思います。 それから、この手の性犯罪の問題は、もちろん実 務に出ればこういう問題にぶち当たることもあるの ですが、これを試験問題で解かせるのは、例えば女 性の受験生に対しては一定のセクハラとして機能す るおそれがあるので、そういう観点からも今年の出 題については疑問が多いということは指摘せざるを 得ないのかと思います。 西村さんからはいかがでしようか。 西村問題の難易度という観点からすると、昨年の 問題は、問題自体はそれほど難しくなかったように 思うのですが、ただ誘導部分に混乱を招くところが あってかえって難しくなったということがありまし た。それに対して今年の問題は、法令違憲のみを問 題にすればよく、しかも最初に木村さんがおっしゃ ったように、適正手続 ( 31 条 ) や二重処罰の禁止 ( 39 条 ) という本来問題となるべき論点も論じなくてよ いとされているので、答案を構成するうえでは迷う 必要がそれほどなかったのではないかという意味で は、受験生に優しい問題だったのではないかという のが私の率直な感想です。 答案構成で迷う必要がないということは、純粋に 内容で勝負ができるということなので、実力をきち んと測ることができるという意味では、それなりに 適切な出題であったという感想もあり得ると思いま す。これまでの司法試験の問題だと、悪い意味で実 カ差があまり出せないところがあったと思うので、 もちろん出題が適切かどうかについては木村さんが おっしやるようにいろいろな意見があり得ると思う のですが、難易度としてはこれぐらいの内容でこれ からもやっていただけるとよいのではないかと思い ます。 木村問われる実力差というのはどこになるのでし ようね。判例知識で差がつくという感じでもなさそ うですし、答案構成、つまり答案の目次立てという
018 くまで継続監視のみを論点にすべきでしよう。禁止 止という目的がかなり重要な目的だということにな 命令の合憲性は、禁止命令が出たときにはじめて、 れば、この程度の理屈でもよいのではないかという その命令の取消処分として争うべきことです。そう 気がします。もちろん、本当にそれでよいかどうか すると、この問題では禁止命令の合憲性は論点にな は別ですが。 らないのだという処理をすべきようにも思うのです 木村そうすると、前科がある者と前科がない者と が、いかがでしようか の区別については、スクリーニングの効率性のよう 西村その点と関連するのですが、本問については、 なものが勝っと。それが区別の目的だということで 継続監視が憲法 13 条の問題で、立入制限は憲法 22 すね。そしてそれは正当であるとの主張が、公権力 条 1 項の問題だという考え方かと私は思ったのです。 の側から可能であると。弁護士の側としては、前科 木村そういう考え方だと思います。 を不利益処分の根拠にすること自体が前科者への差 西村なので、少し邪道なのですが、禁止命令とい 別ではないかということは言えそうなので、そうい う制度を法律でつくったこと自体が移動の自由を制 う議論を 14 条の観点から行い得るということです 限するというのが問題作成者の理解なのではないか ね。 と考えました。 西村そうですね。 木村例えば、立入禁止命令は違憲だけれども、継 木村この議論の決着をここでつけるものではない 続監視は合憲だという結論をこの問題で書くことは と思いますが、 14 条からいくのであればこのような 議論が可能であろうということですね。 できる ? 西村あり得るのではないでしようか。 西村ただ、自分から話を振っておいて何ですが、 木村では、継続監視は合憲だけれども、立入禁止 この議論は 13 条や 22 条の議論に吸収されるのでし 命令が違憲だとしましよう。あなた自身の見解では、 ようか、それとも 14 条の議論はそれらとは少しちが 「この事案において継続監視を行うことは合憲であ うのでしようか。 る。ただし、この継続監視は立入禁止の部分は違憲 木村理論的には、検討すべき論点ではあると思い であるから、それを前提に決定をする」というよう ます。なぜ前科ある性犯罪者だけなのかということ に書きたければ書いてもよいということでしようか。 は、考えていくと正当性がけっこう危ういでしよう。 西村そう書いてもよいのではないかと思います。 実際、アメリカでも実体的デュープロセス、日本風 実際にそういう判決が出たとしたら、立法府とし に言うとプライバシー権とは別に、平等保護条項を ては、立入禁止命令のところ ( 法 24 条 ) は全部削除し 使って議論しています。まだ最高裁判例は出ていな て、継続監視はそのまま残すということになるでし かったと思いますので、あくまで予測にすぎません ようし、そういう判断もあり得るだろうと思います。 が、もし最高裁に上がってきたら、おそらく両方が 木村そこは原告適格と呼ばれる論点ですね。安念 論点になると思います。 潤司先生はそう言うと怒ると思うのですが、原告適 格的には少しおもしろい論点かと思います。 ( ⅱ ) 「継続的監視」と「立入禁止命令」 西村なるほど。 A はまだ立入制限を「受けていな 木村権利の内容の検討に入る前に、西村さんに い」わけですからね。 意見をうかがいたい点がもうーっあります。問題文 木村ですから、立入制限を「受けるかもしれない」 は性犯罪者継続監視法が違憲かという問いの立て方 という抽象的な危険の段階で、移動の自由を主張す をしています。いわゆる法令審査、処分審査どちら ることはできないのではないか、という論点はあり をするのかという論点がありますが、処分審査はい ます。問題を作っている人はたぶんそこまで気を遣 らない、 A の特殊事情は考えなくてよいという趣旨 っていないような気がしますが。司法試験的には、 なのでしようか。 気を遣っていないので、両方論じたほうがよいと思 西村考えなくてもよいのてはないでしようか。 木村 = 0 法律 0 「継続的視」と「禁止命令」と うのですが、実務の現場だと、立入制限の合憲性ま でをこの事案で裁判所が判断してしまってよいのか は、それぞれちがう制度ですから、日本の最高裁風 どうかは、少し問題かと思います。 に考えるならば、禁止命令が出る前の段階では、あ