財産 - みる会図書館


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1. 法学セミナー 2016年9月号

事実の概要 159 YI は、平成 24 年 5 月上旬、上記、共済金・保険金 本訴被告 ( 上告人 ) YI 及び訴外 A ( 夫婦 ) は、 の請求手続をし、同月下旬に合計 2400 万円を受け取 平成 24 年 3 月 7 日、東京地方裁判所に破産手続開始 り、このうち 1000 万円を費消した ( なお、残金は、 の申立てをした。 Y 1 及び A の長男である B は、平 破産法 156 条にいう引渡決定後、 YI の破産管財人 XI 成 16 年に Z 共済との間で、被共済者を B 、死亡共済 に送金された ) 。本件本訴は、本件保険金等請求権は、 金を 400 万円とする生命共済契約を、また、平成 23 Y 1 又は A の各破産財団に属するものであるにもか かわらず、 Y 1 は費消を通じて、 1000 万円を不当に 年に N 生命保険会社との間で、被保険者を B 、死亡 保険金を 2000 万円とする生命保険契約をそれぞれ締 利得しているとして、 XI 及び A の破産管財人 X2 が、 結していたが、平成 24 年 4 月 25 日に死亡した。 各破産財団にそれぞれの割合で返還するよう求める Z 生命共済の死亡共済金の受取人は、約款の定め ものであり ( 民 704 ) 、反訴は、反対に、 YI が、そ る順位に従い、 YI 及び A ( 父母 ) となり、 N 生命 の破産財団帰属性を争って、上記 1400 万円の不当利 保険の死亡保険金の受取人は、 YI に指定されていた。 得返還 ( 民 704 ) を求めるものである。 [ 最ー小判平成 28 ・ 4 ・ 28 金判 1492 号 16 頁 ] 権利 ( 死亡保険金請求権 ) も、その発生原因は、 破産手続開始の時に具体化していない破産者の保 破産手続開始決定の「前」 ( = 保険契約の成立時 ) 険金請求権は、破産財団に帰属するか。 にあるという理由で破産財団に帰属するとし、学 説・実務に見解の相違があった論点に最高裁とし 「第三者のためにする生命保険契約の死亡保険 ての判断を示した ( なお、本件第 1 審・控訴審及 金受取人は、当該契約の成立により、当該契約で び本件関連の東京高決平 24 ・ 9 ・ 12 判時 2172 号 44 定める期間内に被保険者が死亡することを停止条 頁ならびに、契約者兼受取人が破産者であった入 件とする死亡保険金請求権を取得するものと解さ 院共済に関する札幌地判平成 24 ・ 3 ・ 29 判時 2152 れる」ところ ( 最三小判昭 40 ・ 2 ・ 2 ・民集 19 巻 号 58 頁も、同旨をいう ) 。保険金請求権は停止条 1 号 1 頁参照 ) 、「この請求権は、被保険者の死亡 件付請求権であり ( 山下友信『保険法』 508 頁 ) 、 前であっても、上記死亡保険金受取人において処 他方、破産法 34 条 2 項にいう、将来の請求権の例 分したり、その一般債権者において差押えをした として、停止条件付債権で手続開始の時点で未だ りすることが可能であると解され、一定の財産的 条件成就が認められないものが挙げられるが ( 伊 価値を有することは否定できないものである。し 藤眞「破産法・民事再生法〔第 3 版〕』 238 頁 ) 、 たがって、破産手続開始前に成立した第三者のた 本判決は、その理由に加え、保険事故発生前のい めにする生命保険契約に基づき破産者である死亡 わゆる抽象的保険金請求権にも言及し、これが、 保険金受取人が有する死亡保険金請求権は、破産 その段階ですでに保険金受取人において処分した り、一般債権者において差押え対象となる事実 ( 理 法 34 条 2 項にいう「破産者が破産手続開始前に生 じた原因に基づいて行うことがある将来の請求 由 ) をも指摘した上で、結論を導いている。 権」に該当するものとして、上記死亡保険金受取 に判旨がいう「一定の財産的価値」とは、文脈上、 債権者の期待権という視点から見た価値を指すと 人の破産財団に属すると解するのが相当である」。 考えられ、一般債権者も、本件のような破産債権 者も、その財産的価値に対し、自らの債権の引き 破産手続開始前に成立した第三者のためにする 生命保険契約に基づき、 ( 後に ) 破産者 ( となる者 ) 当てを期待してよい、との実質的考慮が本判旨に 織り込まれている。この点、抽象的保険金請求権 が死亡保険金受取人に指定されている場合にあっ は、不確定かっ具体化も不確実なものとして、破 て、破産手続開始決定の時点 ( 破産 34 条 1 項、固 産債権者が期待すべき財産ではない ( ゆえに破産 定主義 ) では、未だ被保険者は死亡しておらず具 財団にも含めるべきでない ) との反論を封じ込ん 体的な死亡保険金請求権は発生していなかったも だ形の判断である。反対学説 ( 遠山優治「生命保 のの、その後、破産手続中に被保険者が死亡した 険金請求権と保険金受取人の破産」文研論集 123 場合、その保険金 ( 財産 ) は、破産財団 ( 破産 2 巻 211 頁、 217 頁、 220 ~ 225 頁等 ) が主張する破 条 14 号 ) を構成 ( 破産財団に帰属 ) するのか、そ 産者たる受取人の保護について、それを代替して れとも、新得財産 ( 開始決定後に破産者に帰属す 実現し得るところの、「自由財産の拡張 ( 破産 34 るに至った財産 ) として、破産財団からは除かれ 条 4 項 ) 」による調整 ( 倉部真由美・別ジュリ 202 るのか。本判決は、「後 ( 開始決定の後 ) 」に条件 号 207 頁 ) は、本判決の立場のもとでも、なお、 成就 < = 被保険者が死亡 > して発生する ( 期待権 法学セミナー ( どき・たかひろ ) く = 民 129 条参照 > のレベルを超える ) 具体的な 可能である。 2016 / 09 / no. 740 破産手続開始決定前に成立した死亡保険契約上の権利の破産財団帰属性 最新判例演習室ーー商法 裁判所の判断 中京大学教授土岐孝宏 解説

2. 法学セミナー 2016年9月号

財産第 } ル」イ切〉 143 付という基本的な構造が認められなければならな い。また、詐欺罪は財産犯の一類型であることから、 欺罔行為の相手方に財産的損害が生じたか否かも問 題となる。この点につき、財物の占有侵害・喪失そ れ自体が財産的損害であるとみなす立場 ( 形式的個 別財産説 ) によれば、被害者が錯誤に陥らなければ 財物を交付しなかったであろうといえる場合に、直 ちに詐欺罪の成立を認めることになる。これに対し て、財物の占有移転によって、全体財産的な見地な いしは実質的な見地から財産的損害が生じる必要が あるとする立場 ( 全体財産説ないしは実質的個別財産 説 ) によれば、被害者が錯誤に陥らなければ財物を 交付しなかったであろうといえても、直ちに詐欺罪 の成立を認めるのではなく、財物の占有を失った者 に何らかの意味で財産的損害が発生しなければ、詐 欺罪の成立を認めることはない 2 ) 。 さて、以上のような詐欺罪の基本構造を前提とす ると、行為者と被欺罔者という二者しか登場しない 事例では、欺罔行為によって錯誤に陥る者、処分行 為をする者、財産的損害を被る者は同一人物である。 これに対して、クレジットカードの不正使用に関す る事例では、行為者と取引関係にあるものとして、 加盟店だけでなく、カード会社も登場するために、 錯誤に陥る者、処分行為をする者、財産的損害を被 る者が誰になるのかが一概にいえなくなる。そこで、 以下では、まず自己名義のカードの不正使用の事例 を取りあげ、欺罔行為によって錯誤に陥る者、処分 行為をする者、財産的損害を被る者が誰になるのか を意識しつつ、詐欺罪の成否を検討する。 [ 2 ] 自己名義のカードの不正使用 (i) 事例の確認 支払意思・能力がないにもかかわらず、カード会 員がカードを使用して商品ないしはサービスを手に 入れる場合、最終的には、カード会社がカード会員 より代金相当額の支払いを受けることができない事 態に至ることになるが、この場合、誰がどの段階に おいて錯誤に陥り、また、財産的損害を被ったとい えるであろうか。次の事例で確認してみたい。 【事例 1 】 X は、 A 社が発行した自己名義のカードを使 用して、 B 店の店員 C より商品を購入した。と ころが、その時点において、 X には、支払意思 もその能力もなかったが、このことを C は知ら なかった。後日、当該取引の売上票を A 社に送 付することにより、 B 店は A 社より代金相当額 の立替払いを受けた。 A 社は当該取引の代金相 当額の支払請求を X に通知したが、支払期日に なっても X の銀行口座から引き落とすことがで きず、 A 社は X から支払いを受けることができ ない事態に至った。 ( ⅱ ) 欺罔行為と錯誤の存否 この事例において、まず問題となるのは、店員 C は X から欺罔を受け、錯誤に陥ったといえるのかと いう点である。というのも、一般的に、加盟店は、 カード会社と加盟店の間の取り決めを定めた加盟店 規約に基づき、カードの有効性と、カード使用者が カード名義人本人であることの確認は義務づけられ ているが、カード会員の支払意思・能力について調 査するべき義務を負っていないからである。そのよ うな調査義務がない以上、加盟店はカード会員の支 払意思・能力の有無にかかわらず、そのカードの使 用を認めることから、加盟店の店員において、カー ド会員の支払意思・能力について錯誤が生じる契機 が存在しないともいえる 3 。したがって、この観点 によれば、【事例 1 】において X は、店員 C に対して、 自己の支払意思・能力について欺罔を行ったとはい えず、また、店員 C も X の支払意思・能力の有無に ついて錯誤に陥ったとはいえないと評価される。 店員 C との関係において X による欺罔行為が認め られないとすると、 A 社との関係において X が欺罔 行為を行ったといえる否かにつき検討しなければな この点について、カード会社は、加盟店 らない 4 ) を通じて送付される売上票を受け取った際に、カー ド会員が後日請求に応じて支払いをなすものと錯誤 に陥るのであり、この錯誤に基づき加盟店に立替払 いという処分行為をしたと認める見解がある。この 見解によると、カード会員は、カード会社に立替払 いをさせ、自分自身は代金支払いを免れた点で財産 上の利益を得ているのであり、カード会社から加盟 店に立替払いがなされた時点で 2 項詐欺罪、つまり 利益詐欺罪 ( 246 条 2 項 ) が既遂に至ると評価されて いる 5 。したがって、この見解は、被欺罔者、処分 行為者、被害者はいずれもカード会社と理解してい

3. 法学セミナー 2016年9月号

144 法学セミナー 2016 / 09 / n0740 LAW CLASS ることになり、【事例 1 】においては、 A 社がだま されて B 店に立替払いをした時点で、 2 項詐欺罪が 既遂となると評価することになろう。しかし、この 見解に対しては、カード会社は、売上票が送付され た段階では、カード会員の支払意思・能力の有無に かかわらず、加盟店規約に基づき、加盟店に対して 立替払いをせざるを得ない立場にあるとの批判がな されている。すなわち、カード会社においても、カ ード会員の支払意思・能力について錯誤が生じる契 機が存在しておらず、カード会員は、自らの支払意 思・能力に関してカード会社を欺罔したと評価する ことができない 6 ) 。 以上からすると、【事例 1 】において x は、加盟 店である B 店店員 C に対する関係において、また、 カード会社である A 社との関係において欺罔行為を したとはいえず、いずれにせよ詐欺罪の成立を否定 するべきなのであろうか。このような詐欺否定説に 対して、下級審の裁判例には、加盟店に対する関係 において欺罔行為があると解するものがある。すな わち、カード会員の支払意思・能力がないことを加 盟店が知った場合には、カード会社に不良債権が発 生しないようにカードの使用を拒絶すべき信義則上 の義務が加盟店にはあり、その義務違反が認められ ると加盟店はカード会社から立替払いを拒否される 可能性がある。したがって、加盟店は、カード会員 の支払意思・能力について調査義務がなくとも、そ の有無に関心を抱かざるを得ないのであって、この 見地からすると、支払意思・能力がないにもかかわ らず、このことを秘してカードの使用を加盟店に申 し込むこと自体が欺罔行為になると評価される ( 以 上につき、東京高判昭和 59 ・ 11 ・ 19 判タ 544 号 251 頁 ) 。 (iii) 財産的損害の存否 前述の下級審の裁判例によると、加盟店は、カー ド会員の支払意思・能力に関して錯誤に陥り、その 錯誤がなければ商品の提供 7 もなかったであろうと いえる限りにおいて 1 項詐欺罪、つまり財物詐欺罪 ( 246 条 1 項 ) の成立が認められている。この見解は、 前述の形式的個別財産説を基本としつつ、被欺罔者、 処分行為者、被害者はいすれも加盟店であると理解 していることになり、【事例 1 】において、 B 店の 店員 C がだまされて商品を x に提供した点で、 1 項 詐欺罪が既遂となると評価することになろう 8 しかしながら、この見解に対しては、前述の全体 財産説ないしは実質的個別財産説を支持する立場か ら、カード会社から立替払いを受けることができる 限りにおいて、加盟店には財産的損害が発生してお らず、商品を提供することによりその対価を得るこ とになるから、取引における経済的目的も達成され ているとして、加盟店を被害者として扱うことはで きないと指摘されている。そこで、この指摘を受け て、加盟店を被欺罔者として位置づけつつ、カード 会社に財産的損害が発生しているとして詐欺罪を構 成することが次に考えられよう。このような一種の 三角詐欺として【事例 1 】を処理するのであれば、 非欺罔者と被害者が別個に存在する以上、被欺罔者 である店員 C が加盟店の担当者として 9 カード会社 である A 社の「財産を処分しうる権能または地位」 を有する必要がある ( 最判昭和 45 ・ 3 ・ 26 刑集 24 巻 3 号 55 頁 ) 。通常は取引の相手方の財産について、い くら債権者といえども処分し得る権限があるとはい えない。しかし、加盟店から売上票が送付されると、 加盟店規約上、カード会社は立替払いを原則的に拒 絶することはできない。したがって、その限度にお いて B 店側は A 社の財産を処分することができると みるべきであろう 0 このことを前提とすると、 A 社にはどのような段 階で財産的損害が発生したというべきであろうか。 ます、加盟店から売上票の送付を受け、実際にカー ド会社が立替払いを行った時点で財産的損害が現実 化することにより 2 項詐欺罪が既遂に至るとする見 解がある ll この見解に対しては、加盟店がカード 会員に商品を提供した時点で、カード会社が立替払 いの負担を負うこと、あるいは、カード会員の債務 を引き受けることによって、カード会員が代金支払 いを事実上免れたと把握することにより 2 項詐欺罪 の既遂を認めることができるとの指摘がある 12 。ま た、カード会員が加盟店より商品の交付を受けるこ とにより、その効果としてカード会社はほば確実に 立替払いをすべきことになる点を捉えて、 1 項詐欺 罪の成立を認めつつ、財産的損害はカード会社に生 じるとの指摘もある 13 ) しかし、加盟店はカード会員との取引に際して、 自己の財産を処分したとはいえるが、それだけでは 同時にカード会社の財産を処分したとはいえないだ ろう。カード会社は加盟店から売上票の送付を受け

4. 法学セミナー 2016年9月号

066 [ 特集引司法試験問題の検討 2016 民事系科目試験〔第 3 問〕 法学セミナー 2016 / 09 / no. 740 同志社大学教授 林昭ー 林本年度の論文式試験民事系科目〔第 3 問〕民事 訴訟法は、権利能力なき社団をめぐる訴訟に関する 民事訴訟法上の論点のうち、社団に帰属する財産を めぐる訴訟の当事者適格の問題 ( 〔設問 1 〕 ) 、社団 の総会決議の有効性と代表者たる会長の地位を確認 することの当否 ( 〔設問 2 〕 ) 、そして社団の受けた 判決の効力に関する問題 ( 〔設問 3 〕 ) について、検 討を求めるものです。全体的な傾向としては、民訴 法の基本論点について、論点に関わる基礎理論の正 確な理解を問うとともに、その理解を基に発展的な 論点について、【事例】における会話中に示された 手がかりをもとに考察させるものであるといえま す。ここ数年の出題傾向に沿ったものということが できると思います。 1 ぼ設問 1 〕の解説と検討 [ 1 ] 解説 林まず、〔設問 1 〕は、権利能力なき社団に属す る財産をめぐる訴訟の当事者適格についての問題で す。 B から依頼を受けた弁護士 L 1 と司法修習生 P 1 の会話をもとに、 X の構成員全員が Y に対して総 有権確認訴訟を提起する場合において、 Z の立場を 支持し、提訴に反対する勢力がいる場合の対応策を 考えることが求められています。 考察のポイントは 3 つあります。第 1 点目として、 X 団体自体が当事者とはならず、 X の構成員が Y に 対して総有権確認を求めるには、原則として、全員 が原告とならなければならない理由について。その うえで第 2 点目として、構成員の中に訴えの提起に 反対する者がいた場合の対応策について。第 3 点目 として、訴訟係属後に新たに構成員となる者が現れ た場合の訴訟上の問題点について、この者が B に同 調する場合としない場合とに分けて、それぞれ論ず 弁護士、関西学院大学教授 亀井尚也 ることが求められています。 是正できないとすると、構成員の訴権を不当に害す 流出したにもかかわらず、それを訴訟手続において 訴に反対する者がいるために、団体の財産が不正に 不適法な訴えとなります。しかし、構成員の中に提 を欠いたまま提起された訴えは、当事者適格を欠く た場合、訴訟共同の必要により、提訴に反対する者 総有権の対外的確認を固有必要的共同訴訟と解し 討です。 に訴えの提起に反対する者がいた場合の対応策の検 なければならないという状況において、構成員の中 次に第 2 点目です。構成員全員が訴えの提起をし れる固有必要的共同訴訟と解されます。 の訴訟形態としては、合一確定と訴訟共同が求めら 帰属の有無が合ーに確定される必要があります。そ を共同行使したうえで、これらの者との間で財産の 適格が認められるため、その基礎となる管理処分権 合には、構成員全員が原告となってはじめて当事者 Y に対して総有権の確認を求めて訴えを提起する場 よって、権利能力なき社団である X の構成員が、 属することになります。 持分権は認められず、管理処分権が構成員全員に帰 す。したがって、社団の財産について、各構成員に 有的に帰属するものと観念せざるを得なくなりま 産とは区別されたものとして、すべての構成員に総 で、権利能力なき社団の財産は、構成員の個々の財 らが財産の実体法上の帰属主体とはなり得ないの ができます。しかし、権利能力がない以上、社団自 が認められ、その社団に固有の財産を観念すること 権利能力なき社団は、取引主体として社会的実在 討することが出発点となります。 ことを前提として、その財産の法的帰属について検 まず第 1 点目です。 X が権利能力なき社団である

5. 法学セミナー 2016年9月号

ハ 1 トル国イヤル 145 てはじめて立替払いをなすべき立場に置かれるので あるから、早くてもこの時点で加盟店のカード会社 に対する処分行為を認めるべきである。また、カー ド会社からみると、実際の損害は立替払いをなすこ とによって現実化するのであって、それよりも以前 に加盟店が売上票の送付をした段階、さらに早く加 盟店が商品をカード会員に交付し、売上票を作成し た段階では、その時点でカード会社がほば確実に立 替払いをすべきことになるとはいえても、せいせい 財産的損害が生じる具体的な危険しか認められない と思われる。むしろ、加盟店がカード会員に商品を 交付した段階では、加盟店においてのみ財産的損害 が発生していると思われる。すなわち、加盟店は、 商品の提供の代わりにカード会員から代金債権を取 得したとしても、カード会員に直接的に代金支払い の請求をすることが加盟店規約上認められておら ず、また、その代金債権はカード会員による資力の 裏づけをもっていないのであって、経済的に無価値 である。このような観点から、加盟店がカード会員 に商品を交付した段階で加盟店に財産的損害が発生 することを認め、その反面としてカード会員は商品 を得たとして 1 項詐欺罪の成立を認めるべきであろ う。その上で、カード会員は、自身の支払意思・能 力に関して加盟店を欺罔することによって商品の交 付を受けるだけでなく、さらに、錯誤に陥った加盟 店による売上票の送付を介してカード会社に立替払 いをさせることによってカード会社に財産的損害を 生じさせ、自身の代金支払いを事実上免れることに もなるのであるから、さらに 2 項詐欺罪の成立を認 めるべきである。 さて、加盟店に対する 1 項詐欺罪とカード会社に 対する 2 項詐欺罪は、その財産的損害が異なる帰属 主体に別個に生じることになるから併合罪 ( 45 条 ) になるようにみえる。しかし、カード会社による立 替払いによって加盟店の財産的損害は填補される関 係にあり、また、それに対応してカード会員が商品 を得たこととその代金支払いを免れたことは裏表の 関係にあるといえることから、事実上は 1 個の法益 侵害性しか認められない。したがって、【事例 1 】 において、 x には、 B 店の店員 C に対する関係にお いて 1 項詐欺罪の成立が認められ、 A 社に対する関 係において 2 項詐欺罪の成立が認められたとして も、前者の 1 項詐欺罪は後者の 2 項詐欺罪との関係 において不可罰 ( 共罰 ) 的事前行為として処理する か、この両者を併せて ( 混合的 ) 包括一罪として処 理すれば十分と思われる 14 ) 1 ) このように「信用」の供与 ( 与信 ) こそが問題であ るとすると、「カード」という形態をとることはクレジ ットカード制度にとって本質的要素ではなく、その利用 に際して、名義人を特定できるカード番号 (ID) と暗 証番号があればよいということになる。また、それら番 号 ( 記号 ) に代えて、名義人と実際に利用する者が一致 すると確認できる方法があれば、その方法でも構わない ことになろう。 2 ) また、このような財産的損害の理解をめぐる論争に 対しては、条文にあげられていない財産的損害を要件と するのではなく、欺罔行為の相手方に生じる錯誤につい て、詐欺罪の法益に関係するものでなければならないと する法益関係的錯誤説も主張されている ( 例えば、代表 的なものとして、佐伯仁志「詐欺罪 ( 1 ) 」法教 372 号〔 2011 年〕 107 頁以下 ) 。ただし、この見解も、形式的個別財産 説を批判しており、実質的個別財産説と同様の問題認識 をもっとされる ( 佐伯・前掲論文 107 頁 ) 。 3 ) 山中敬ー『刑法各論〔第 3 版〕』 ( 成文堂、 2015 年 ) 362 頁、松宮孝明『刑法各論講義〔第 4 版〕』 ( 成文堂、 2016 年 ) 259 頁。なお、松宮・前掲書 258 頁は、【事例 1 】 について、詐欺罪の成立を否定した上で、背任罪に類似 した背信行為がなされていると指摘する。 4 ) 具体的には、カード会社において立替払いの決定を 行う担当者との関係において、欺罔行為性とそれに基づ く錯誤の有無を検討することになろう。なお、加盟店か ら送信される売上データに基づき、カード会社が機械的 に立替払いの手続きを処理しているのであれば、詐欺罪 ではなく、電子計算機使用詐欺罪 ( 246 条の 2 ) の成否 を検討する必要がある。この罪の成立要件について、詳 しくは、内田幸隆「人はだませてもワタシはだまされな い」本連載第 19 回 ( 本誌 738 号 ) 106 頁以下参昭 5 ) 藤木英雄「刑法各論』 ( 有斐閣、 1972 年 ) 370 頁。 6 ) 伊東研祐「刑法講義各論』 ( 日本評論社、 2011 年 ) 201 頁以下は、被欺罔者、処分行為者、被害者はいすれ もカード会社であると理解しつつ、カード会社がカード 会員の無資力を知ったならば、直ちにカード会員に対し て代金相当額の支払い請求をしたはすであるのに、通常 の支払い請求がなされる期日まで猶予している点を捉え て詐欺罪の成立を肯定する。たしかにこの見解からする と詐欺罪の成立は否定しがたいが、カード会社が立替払 いを負担したにもかかわらず、カード会員から代金相当 額を回収することができないという実際の損害を不問に 付すおそれがある点で疑問に思われる。 7 ) なお、加盟店が商品ではなく、サービスの提供をな した場合は、加盟店に対する関係において 2 項詐欺罪の 成立を検討することになる。 8 ) この結論を支持する学説として、大塚仁「刑法概説 ( 各 論 ) 〔第 3 版増補版〕』 ( 有斐閣、 2005 年 ) 250 頁、大谷實 「刑法講義各論〔新版第 4 版補訂版〕』 ( 成文堂、 2015 年 ) 265 頁、前田雅英「刑法各論講義〔第 6 版〕』 ( 東京大学 出版会、 2015 年 ) 240 頁など。なお、長井圓「クレジッ

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016P9 公法系科目試験問題 第 1 問木村草太 / 西村裕一 第 2 問南川和宣 / 湯川ニ朗 民事系科目試験問題 第 1 問 滝沢昌彦 / 松尾弘 第 2 問 松井英樹 / 髙橋真弓 第 3 問 林昭ー / 亀井尚也 刑事系科目試験問題 第 1 問 照沼亮介 / 杉本一敏 第 2 問 公文孝佳 / 青木孝之 カナダの最高裁、連邦議会、首相官邸 現地に学ぶ統治機構 OUGAKU Seminar 日本評論社 ! 016 年 9 月 1 日発行毎月 1 回 1 日発行通巻 740 号 956 ( 昭和 31 ) 年 4 月 12 日第 3 種郵便認可 VOL61-09 集 ] 恵島市立図聿館 097-1383 ー・ジャーカ切 ・山田隆司 吉見俊哉 ・武川幸嗣 内田幸隆 ・井上亮 公共空間を考える一一技術者として法を語る・・・ 戦後日本とく文化〉国家 / 都市の挫折 プラスアルフアについて考える基本民法 契約責任と第三者・その 2 ーーー債務不履行の被害者としての当事者・第三者 財産犯バトルロイヤルーー財産犯事例で絶望しないための方法序説・・・ 現金がなくてもイイんです ! ーークレジットカードの不正使用 ( その 1 ) わたしの仕事、法つながり [ ひろがる法律専門家の仕事編ト 新規ビジネスを創る一一ビジネスの共通語としての法的思考 2016 問題の検討 司法試験 法学セミナー

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116 法学セミナー 2016 / 09 / no. 740 LAW CLASS 本件建物の廊下・壁のひび割れ、床のたわみ、 梁の傾斜、配水管の亀裂、バルコニーのぐら つきなどが判明するに至り、 H がバルコニ から転落して重傷を負うに至った。 H は G に 対して損害賠償請求することができるか。な お、 G が本件建物を F に引き渡してから 10 年 余りが経過しているものとする。 ( 2 ) ( 1 ) において転落事故がなかったとして、 H は G に対して修補費用の賠償を求めること ができるか。 ( 3 ) 本件建物が F および H に引き渡されてか ら間もなくして、本件建物内の引き戸の開閉 不完全およびエレベーターの機能不全が判明 した場合、 H は G に対して修補費用の賠償を 求めることができるか。 [ 1 ] 問題の所在 事例 Pa 「 t. 2 において、 H は本件建物の譲受人であ り、 FG 間の本件請負契約と FH 間の本件売買契約 が連鎖しているが、両者はあくまで別個独立の契約 であって GH 間には契約関係がないため、基本的に は不法行為責任の成否が問われよう。ところで、 ( 1 ) および ( 2 ) では G による本件建物の引渡しから 10 年以 上が経過しているため、本件建物の欠陥が建物の構 造耐カ上主要な部分に関する瑕疵であったとして も、特約がない限り、少なくとも G は担保責任につ いて免責されよう ( 品確法 10 ) 94 条 1 項 ) 。 H が本件建 物の引渡しをうけてからも 10 年が経過していれば、 H も担保責任を追及することができない ( 品確法 95 条 1 項 ) 。このように、契約責任・担保責任の法 理にしたがえば、請負人は注文者に対して責任を負 わず、買主も売主に対して責任を問えないにもかか わらず、請負人一買主 ( 譲受人 ) 間に不法行為責任 の法理を適用することによってこれが等閑視されて よいか ? 仮に不当であるとすれば、請負人はもっ ばら契約責任・担保責任の限度で責任を負えばよい のか ? 具体的にみていくと、 ( 1 ) は拡大損害 ( 人身 損害 ) が問題となっており、本件請負契約の当事者 であるか否かを問わずに被害者を保護する必要性が 高いため、このような場合にまで契約責任・担保責 任の限界に服することにつき疑問が生じよう。これ に対して、 ( 2X3 ) では契約責任・担保責任に親和的な 瑕疵修補費用の賠償が問われているところ、請負人 は注文者以外の第三者に対して不法行為責任に基づ いてこれを負担しなければならないのか ? 注文者 に対する関係において契約責任・担保責任から免責 される場合はどうか ? 不法行為責任と契約責任・ 担保責任との関係が問題となる。 [ 2 ] 第三者の生命・身体・財産の侵害に対する請負 人の責任 この問題につき最近の最高裁判決は、建物の瑕疵 による第三者 ( 注文者からの建物譲受人 ) の生命・身 体・財産の侵害に対する請負人の責任について、次 のように判断した ( 最判平成 19 ・ 7 ・ 6 民集 61 巻 5 号 1769 頁 < 以下、「平成 19 年判決」という。 > ) 。 「建物は、そこに居住する者、そこで働く者、そ こを訪問する者等の様々な者によって利用されると ともに、当該建物の周辺には他の建物や道路等が存 在しているから、建物は、これらの建物利用者や隣 人、通行人等 ( 以下、併せて「居住者等」という ) の 生命、身体又は財産を危険にさらすことがないよう な安全性を備えていなければならず、このような安 全性は、建物としての基本的な安全性というべきで ある。そうすると、建物の建築に携わる設計者、施 工者及び工事監理者 ( 以下、併せて「設計・施工者等」 という ) は、建物の建築に当たり、契約関係にない 居住者等に対する関係でも、当該建物としての基本 的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注 意義務を負うと解するのが相当である。そして、設 計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された 建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵が あり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が 侵害された場合には、設計・施工者等は、不法行為 の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながら これを前提として当該建物を買い受けていたなど特 段の事情がない限り、これによって生じた損害につ いて不法行為による賠償責任を負うというべきであ る。居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受 けた者であっても異なるところはない。』 このように平成 19 年判決は、建物の基本的安全性 につき請負人は注文者以外の居住者等に対しても責 任を負うべき旨を明示した。生命・身体の安全に関 する被害者保護の必要性に照らせば、請負人の責任 それ自体に対しては異論がなかろう。事例 Pa 2 ( 1 ) において人身損害を被った H に対して G は、担保責

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130 法学セミナー 2016 / 09 / no. 740 めるべき項目に「勧誘対象となる者の知識、経験及び 損害賠償を求めたが、 X がおよそオプションの売 り取引を自己責任で行う適正を欠き、取引市場か 財産の状況に照らし配慮すべき事項」をあげるなど ( 同 ら排除されるべき者であったとはいえす、担当者 法 40 条も参照 ) 、事業活動において高齢者や知的障害者 が X に 3 回目、 4 回目のオプション取引を行わせ への配慮の必要を強調している ( 消費者基本法 2 条 2 項 た行為が適合性の原則から著しく逸脱するもので も参照 ) 。より一般的には、特定取引や特定商品につい あったということはできないとして、その不法行 て、資産状況や当事者の知的能力・経験などに照らし 為責任を認めた原判決を破棄し、原審差戻しとし て、取引への勧誘が制限されるべきであるとの考えが た。判決理由は、その際、一般論としてではある 注目される ( いわゆる狭義の「適合性原則」 ) 。特に投資取 が、適合性原則と民事責任を次のような表現で架 引における適合性原則の進展は著しい ( 詳しくは、王冷 橋している。 然・適生原則と私法龝 [ 信山社、 2010 年 ] 、川地宏行「投 「平成 4 年法律第 73 号による改正前の証券取引 資取引における適合性原則と損害賠償責任」法論 84 巻 1 号 法の施行されていた当時にあっては、適合性の原 [ 2011 年 ] なと滲照 ) 。金融商品取引法 40 条はこれを「金 則を定める明文の規定はなかったものの、大蔵省 融商品取引行為にについて、顧客の知識、経験、財産 証券局長通達や証券業協会の公正慣習規則等にお の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らし いて、これと同趣旨の原則が要請されていた て不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠 これらは、直接には、公法上の業務規制、 けること」のないよう業務を行わなければならないと 行政指導又は自主規制機関の定める自主規制とい いう表現で、公法上の規制原理を明文化している。適 う位置付けのものではあるが、証券会社の担当者 ・生原則の違反行為は、直ちに無効・取消といった私 が、顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な 法上の効果に結びつくものではないが、判例上、不法 危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性 行為責任を導くこともあることが肯定されている ( 最 の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をして 判平成 17 ・ 7 ・ 14 民集 59 巻 6 号 1323 印 * 。いまや事業者は、 これを行わせたときは、当該行為は不法行為法上 も違法となると解するのが相当である。 / そして、 自ら提供する商品をきちんと知って説明するだけでな 証券会社の担当者によるオプションの売り取引の く、顧客にとって何が必要か、適合的かに配慮するこ 勧誘が適合性の原則から著しく逸脱していること とが求められているのである。この適合性原則の核心 を理由とする不法行為の成否に関し、顧客の適合 にある思想は、相手に対する利益顧慮義務であると同 性を判断するに当たっては、単にオプションの売 時に、「事業者が相手に一定の商品の推奨表明すると り取引という取引類型における一般的抽象的なリ きは、それだけの合理的根拠を有しているべきである」 スクのみを考慮するのではなく、当該オプション という、きわめて普遍的な行為規範である ( 具体的には、 の基礎商品が何か、当該オプションは上場商品と 王冷然「「合理的根拠適合性」とは何か ? 」市川兼三先生古稀・ されているかどうかなどの具体的な商品特性を踏 企業と法の現代的課題 [ 成文堂、 2014 ] 21 頁以下所収 ) 。さ まえて、これとの相関関係において、顧客の投資 もなければその者の言明や情報提供は、無責任な思い 経験、証券取引の知識、投資意向、財産状態等の っきか、欺瞞的勧誘態度でしかない。今日では、事業 者要素を総合的に考慮する必要があるというべき 活動の基本的な行為規範として、「思想としての適合 である」。 性原則」の確立が求められる ( 河上「思想としての適合 判旨は、公法上の業務規制等であっても、「適 性原則とそのコロラリー」現代消費者法 28 号 4 頁 [ 2015 年 ] 合性原則から著しく逸脱した勧誘行為」は不法行 同「「適生原則』についての一考察」星野英一先生追悼・日 為法上も違法となることを明らかにした点で画期 本民法学の新たな時代 [ 有斐閣、 2015 年 ] 587 頁以下など ) 。 的であり、その際の考慮要素として、「顧客の意 向と実情に反し、明らかに過大な危険を伴う取引 【最判平成 17 ・ 7 ・ 14 と「適合性原則違反」】事 を勧誘する」ことを例示し、具体的に本件では、 案では、 X が、証券会社 Y に対して、 Y の従業員 「オプションの売り取引の勧誘」につき、具体的 らが X の計算で行った証券取引等には、過当取引、 商品特性を踏まえて、顧客の投資経験、証券取引 オプション取引についての適合性原則違反、説明 の知識、投資意向、財産状態等の諸要素を総合的 義務違反などの違法があるとし、不法行為による に考慮する必要があるとしたものである。しかし、

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067 ることになってしまいます。 そこで、提訴に反対する者を本来の被告に加えて、 二次的な被告として訴訟を提起するという対応策が 考えられます。この場合において、共有者間におけ る訴訟共同の必要を満たすかどうか、あるいは〔設 問 3 〕の論点とも関連しますが、被告側の共同訴訟 人間においても、合一確定の保障が図られるといえ るかどうかが問題となります。ここでは前者の点に ついてのみ検討したいと思います。 固有必要的共同訴訟において提訴反対者を二次的 な被告に据えるという方法は、管理処分権が帰属す る共有者の間での一致した訴訟行動を求める、訴訟 共同の必要に反するかにみえます。しかし、共有者 や共同相続人の内部間において共有権や遺産の帰属 性に争いがあって、これらを対内的に確認する訴え が提起された場合を想定しますと、共有者や共同相 続人全員が共同訴訟人として片方の側に揃っている ということは貫徹されていません。この場合には、 共有者や共同相続人の全員が原告または被告として 訴訟に関与していれば、実体法上の管理処分権を基 礎として、当事者適格を有する者の全員が積極的ま たは消極的に訴訟に関与したことになり、さらに共 有者らの間において共有権等について合ーに確定す ることができます。また、訴訟共同の必要を満たし ていなくても、最終的に合一確定が保障されていれ ば十分であるという見方もあります。 したがって、訴えの提起に反対する者を二次的な 被告とすることで、全員の訴訟関与のもとで、総有 権の帰属をめぐる紛争において、その主張に基づく 手続保障を与えつつ、その帰属について共有者間で 合ーに確定するという固有必要的共同訴訟の狙いを 実現することができます。 次に第 3 点目についてです。さらなる検討課題と して、訴訟係属後に新たに構成員となる者が現れた 場合の訴訟上の問題点についてまとめよというもの です。「訴訟上の問題点」が何を指すかというのは 多義的ではありますが、差し当たり、以下の点を指 摘することができるように思われます。 すなわち、仮にこの者の手続関与がないまま行わ れた訴訟の結果がこの者を拘束するとしますと、 の者に対する手続保障を欠き、構成員の全員一致原 則に反する結果となります。その一方で、訴訟の結 果がこの者を拘東しないとすれば、構成員全員に総 特集司法試験問題の検討 201 法性が問題となります。主観的追加的併合について して弁論の併合を義務づける主観的追加的併合の適 は、この者を被告として訴訟を提起し、裁判所に対 これに対して、この者が提訴に同調しない場合に められます。 加の方法によって事後的に訴訟に関与することが認 されます。ですから、新たな構成員が、共同訴訟参 当事者として訴訟に関与していればその瑕疵は治癒 足していればよく、口頭弁論終結時において全員が 格は本案判決要件として口頭弁論終結時において充 な訴えとして却下を免れません。しかし、当事者適 の一部が欠けている場合、当事者適格を欠く不適法 同訴訟として提起すべき訴訟において、共同訴訟人 に参加することができます。確かに、固有必要的共 が働くことから、共同訴訟参加の方法によって訴訟 調する場合には、この者についても合一確定の要請 方法について検討します。ます、この者が提訴に同 次に、新たな構成員を事後的に訴訟に関与させる す。 て判決効を及ばすという方法はとり得ないといえま 行われる必要がある以上、選定当事者の方法によっ は、追加的選定が訴訟外の第三者によって自発的に これに対して、この者が提訴に同調しない場合に ことができます。 の帰属について合ーに確定するという要請を満たす の者にも既判力が及ぶ結果、構成員全体の間で財産 とが認められ、民訴法 115 条 1 項 2 号によって、こ ですので、訴訟係属中において追加的選定をするこ 既存の当事者と共同の利益を有すると解されます。 の者は、 X 団体の財産の帰属をめぐる争いについて、 めの請求を追加するという方法が考えられます。 選定して、自らの訴訟追行権を付与し、この者のた に同調している場合には、この者は既存の当事者を すという前者の方法についてですが、この者が提訴 まず、判決の効力を新たに構成員となる者に及ば に分けて論じることが求められています。 この者が提訴に同調している場合とそうでない場合 なります。その際には、それぞれの方法について、 手続に事後的に関与させる方法」を検討することに すことで合一確定を図る方法」と、「この者を訴訟 そこで「新たな構成員に対して判決の効力を及ほ いう目的を達成することができないという点です。 有的に帰属する財産を対外的に、合ーに確定すると

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118 法学セミナー 2016 / 09 / no. 740 LAW CLASS 瑕疵』と解し、請負人の不法行為責任を拡大損害の 発生またはこれに準じる場合 ( 現実的・具体的危険 の存在 ) に限定する旨を示した。 これに対してその第二次上告審判決 ( 最判平成 23 ・ 7 ・ 21 判時 2129 号 36 頁 < 以下、「平成 23 年判決」と いう。 > ) は、『建物の瑕疵が、 ・・・現実的な危険を もたらしている場合に限らず、当該瑕疵の性質に鑑 み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身 体又は財産に対する危険が現実化することになる場 合』と述べ、将来において居住者等の生命・身体・ 財産が侵害されるおそれを生じさせる潜在的・一般 的危険が存する場合に広く請負人の不法行為責任を 肯定すべき旨を説示した。その上で、「建物の構造 耐力に関わらない瑕疵であっても、これを放置した 場合に、例えば、外壁が剥落して通行人の上に落下 したり、開口部、べランダ、階段等の瑕疵により建 物の利用者が転落するなどして人身被害につながる 危険があるときや、漏水、有害物質の発生等により 建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険がある ときには』、建物としての基本的な安全性を損なう 瑕疵が認められ、その修補費用相当額が建物譲受人 の損害に含まれると解した。建物の基本的安全性そ れ自体を保護法益と捉え、これに対する侵害の除去 費用を損害と認定する構成と目されるが、第一次上 告審判決である平成 19 年判決に整合的な見解であ 平成 23 年判決のこのような理解にしたがえば、事 例 Part. 2 ( 2 ) において H は G に対して不法行為責任と して瑕疵修補費用の賠償を求めることができよう。 (c) 再び契約法理との差異について 平成 19 年判決および平成 23 年判決のように請負人 の不法行為責任を広く認めると、契約法理による解 決との差異について再確認する必要が生じる。第一 に、請負人の契約責任・担保責任を第三者に拡張す る構成加と異なり、建物譲受人が直接に請負人に対 して修補請求することはできない反面、請負契約上 の責任制限に服することもない。なお、建物の基本 的安全性を損なう瑕疵であっても、拡大損害でなく 瑕疵修補費用の賠償が問題となる場合、かかる費用 負担が予定されていない建物利用者や通行人には認 められないであろう。第二に、建物の基本的安全 性を損なう瑕疵 = 契約に適合しない建物の瑕疵では ない。この点につき平成 23 年判決は、『建物の美観 や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕 疵は』請負人の不法行為責任の対象に含まれない旨 を確認した。これにしたがえば、事例 Pa 「 t. 2 ( 3 ) のよ うな建物の不具合については、 FG 間の本件請負契 約および FH 間の本件売買契約における契約責任・ 担保責任のみが問題となり、 G は H に対しては不法 行為責任を負わないことになろう ( H が F に代位す るかまたは、 H に対して責任を負った F が G に求償し 得るにとどまる ) 。 3 おわりに 契約上の債務不履行によって相手方以外の第三者 が損害を被った場合、①被害者が契約当事者である か否かにしたがってもつばら契約責任によって解決 すべき場合 ( 事例 pa 「 t. 2 ( 3 ) ) 、②被害者が契約当事者 であるか否かを問わず、契約責任におけると同様の 保護を不法行為責任または契約責任の拡張によって 認めるべき場合 ( 事例 part. 1 ( 1 ) ) 、③被害者が契約当 事者であるか否かを問わす、契約責任の枠組を超え て不法行為責任によって救済すべき場合 ( 事例 pa 「 t. 2 ( 1X2 ) ) 、④債務者が契約責任のみならず原則と して不法行為責任も負わなくてよい場合 ( 事例 Part. 1(2)) があり得る。なお、③は判例の見解に沿 う整理であるが、ここに契約上の保護義務の拡張構 成を持ち込み、担保責任における期間制限その他契 約上の責任制限の適用を排除するなどの調整を図れ ば②と統一化されよう 22 ) 。 今回のテーマについては、契約責任・担保責任と 不法行為責任に関する規範上の異同、被害者が契約 当事者であるか否かによる区別の当否、債務者の義 務内容および被害者の保護法益ならびに損害の性質 などに留意しながら、被害者保護の要請と債権者の 契約上の予見確保の必要性との調和をどのように図 るべきかを考察することが求められる。 1 ) 奥田昌道「債権総論〔増補版〕』 ( 悠々社、 1992 年 ) 18 頁、 163 頁、林 = 石田 = 高木「債権総論〔第 3 版〕』 ( 青 林書院 ) 113 頁、潮見佳男「債権総論 I 〔第 2 版〕』 ( 信 山社、 2003 年 ) 95 頁以下、大村敦志「基本民法Ⅲ〔第 2 版〕』 ( 有斐閣、 2005 年 ) 7 頁、野澤正充「債権総論』 ( 日 本評論社、 2009 年 ) 34 頁、円谷峻「債権総論」 ( 成文堂、 2010 年 ) 21 頁、中田裕康「債権総論〔第 3 版〕」 ( 岩波書 店、 2013 年 ) 113 頁、など。こうした傾向に対して、平