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検索対象: 法律のひろば 2016年10月号
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1. 法律のひろば 2016年10月号

特集 責任を負、つのだろうか いえる客観的状況が認められるか否か 三自死遺族の法律実務の各論 この点に関し、最高裁は、認知症の という観点から判断すべきである。」 患者が線路に立ち入り列車と衝突して と判示している ( 注 3 ) 。 鉄道への投身自死における損害 鉄道会社に損害を与えた事案におい 私見ではあるが、社会通念上要求さば 賠償 て、保護者、成年後見人、及び精神障 れる看病や看護を行っていても、鉄道ひ ア自死遺族からの相談として多いの 害者と同居する配偶者であるだけでは 会社に対する加害行為を防止するため律 は、「いつになったら鉄道会社から請法定の監督義務者に該当しないとした に自死者を監督することが現実的に可 求が来るのでしようか ? 」という相談上で、「監督義務を引き受けたとみる 能な客観的状況とはいえない場合が殆 である。しかしそもそも、救急や警察べき特段の事情が認められる場合」に どであろうから、大部分の事案におい は、プライバシーの観点から、原則と は「法定の監督義務者に準すべき者」 て、自死遺族は、「法定の監督義務者 して鉄道会社に対して自死者の身元情として民法 714 条に基づく損害賠償 に準ずべき者」に該当せず、損害賠償 報を伝えない場合が多いと思われる 責任を問、つことができると判一小した。 義務を免れると考えられる。 そのため、自死遺族自身が相続人であ そして、「法定の監督義務者に準ずべウでは自死者の損害賠償義務を相続す ると鉄道会社に伝えていない限り、鉄 き者」に該当するか否かは、「その者るなどして自死遺族が損害賠償義務を 自身の生活状況や心身の状況などとと 負う場合、損害額はどの程度であろう 道会社側と亠ては請求の相手方を知る 事ができないのであるから、請求され もに、精神障害者との親族関係の有か。 ることはない。 無・濃淡、同居の有無その他の日常的 鉄道での投身自死が起こると、自死 もちろんそのような状態では時効が な接触の程度、精神障害者の財産管理遺族は「数千万円や数億円の損害賠償 進行しないため、自死遺族に対してそ への関与の状況などその者と精神障害 を受ける。」と一般的に言われるが、 の旨を告げ、可能な限り鉄道会社に対者との関わりの実情、精神障害者の心 少なくとも筆者の経験上、そのような して申出をするようアドバイスをする 身の状況や日常生活における問題行動案件は極めて稀であるといえる。 が、そのまま身元を告げていない自死 の有無・内容、これらに対応して行わ 通常、鉄道会社からの損害賠償の内 遺族も相当数存在すると思われる れている監護や介護の実態など諸般の 容は、振替輸送費、事故の対応に当た イところで、自死者が精神障害等で責事情を総合考慮して、その者が精神障 った職員の人件費、及び車両等が破損 任無能力状態であった場合、自死者自害者を現に監督しているかあるいは監した場合の修繕費に分けることができ 身は損害賠償義務を負わない ( 民法 7 督することが可能かっ容易であるなど る。これらの損害項目のうち、仮に数 13 条 ) 。では、そのような場合、自衡平の見地からその者に対し精神障害千万円や数億円の損害が生じるとすれ 死遺族は民法 714 条 1 項に基づいて者の行為に係る責任を問うのが相当と ば、車両等が破損した場合の修繕費だ

2. 法律のひろば 2016年10月号

に関する損害に分けることができる るとしても、鉄道に対する投身自死と 3 貨貸物件内で自死が生じた場合 同様に、責任無能力の問題が生じるか まず原状回復に関する損害賠償義務 の損害賠償 問題となる における損害額は、物理的な「損耗・ この点、「自ら故意に死亡する行為毀損」に限定されず、自死による心理ば アます、賃貸物件の内部で賃借人が自 が、民事法上、責任能力がないとの理的な嫌悪感を理由に多額になる傾向にひ 死することが債務不履行責任を構成す ある。例えば、ワンルームマンション律 るか問題となる 由で債務不履行責任ないし不法行為責 の玄関で自死した場合であっても、部 この点、判例は、「賃借人が賃貸目任を阻却されるのは、精神疾患または ーリング、システムキッチ 的物内において自殺をすれば、これに それに準じる状態により、正常な判断屋のフロ より心理的な嫌悪感が生じ、一定期能力が失われた状態で行われたことが ン、ユニットバス、壁紙、空調等、部 間、賃貸に供することができなくな 立証された場合であると解される。基屋の設備の全てが自死によって心理的 な影響を受けたとして、多額の損害賠 り、賃貸できたとしても相当賃料での、本的に、①精神疾患等による幻覚また 賃貸ができなくなることは、常識的に は妄想の影響での判断の前提としての償の請求が行われることもある。しか 自らがおかれている状況を大きく誤認 し、心理的な嫌悪感の中身も範囲も非 考えて明らかであり、かっ、賃借人に 常に曖味であるし、そもそも、かかる 賃貸目的物内で自殺しないように求め した上で行為に及んだ場合 ( 例えば、 心理的な嫌悪感自体、自死に対する偏 ることが加重な負担を強いるものとも火災に遭っているという非現実の幻覚 にとらわれて、それから逃れようとし見に基づくものと思われる。したがっ 考えられないから、賃貸目的物内で自 て、高層階の窓から飛び出すなど ) 、 て、原状回復に基づく損害賠償の原因 殺しないようにすることも賃借人の善 は、賃借人の居住、使用により発生し 管注意義務の対象に含まれるというべ または、②希死念慮を典型的な症状に きである。」と判示するなど ( 注 7 ) 、 含む精神疾患の状態が深刻化して、病た建物価値の減少のうち、賃借人の故 一般的・抽象的な理由から自死の債務的な希死念慮により自ら死亡する行為意・過失、善管注意義務違反、その他 を決意し決行した場合」であれば ( 注通常の使用を超えるような使用による 不履行責任を肯定する場合が多い。 9 ) 、責任無能力と認定され、損害賠「損耗・毀損」 ( 注四、すなわち、物理 また、賃借人の同居人が自死した場 的な瑕疵に限定されるべきである 合、かかる同居人は賃借人との関係で償義務を負わないものと解される 次に、将来賃料 ( 逸失利益 ) に関す 占有補助者に該当することから、信義ウ最後に、善管注意義務違反と相当因 る損害賠償義務の範囲は、判例実務 則上、同居人の過失について賃借人も果関係のある損害の範囲が問題とな る 上、将来 2 年程度とする判例も多い ( 注 賃貸に対して債務不履行責任を負う ( 注 8 ) 。 リ。しかし、大型マンションである この点、損害の範囲は、原状回復に こと、学生等の比較的住居期間が短い イ次に自死が債務不履行責任を構成す関する損害と、逸失利益 ( 将来賃料 )

3. 法律のひろば 2016年10月号

特集自殺予防対策ー自殺者減少社会の実現へ 自死遺族に対する法的支援の留意点 と思われる るものと解される ( 注 6 ) 。 生命保険における自殺免責 そのため、筆者の経験上も、車両等 ここで訴訟上問題となるのは、自死直 が破損しない場合は、通常、数十万円保険法訂条 1 号は、「被保険者が自殺前の精神障害の程度・影響をどのように から数百万円の損害額となる。そしをしたとき」、死亡保険契約の保険者は立証するかという問題である。精神障害 て、都市部の方が振替輸送費が高くな保険給付を行う責任を負わないと定めのために入院中であったり、自死直前に るため、地方よりも損害額が多額になる。一方、生命保険約款には、責任開始精神科を受診したりすることでカルテに る傾向にある の日から 3 年以内の自殺については免責症状の状態が記載されている場合は問題 工ところで、ショックを受けている自事由とする自殺免責特約が一般的に存在が無いが、そのようなカルテが存在する 死遺族をさらに過酷な状況に追いやるしている。そこで、責任開始の日から 3 場合は多くない。また、カルテが存在し のが、自死者の実名報道である。前述年以内の自死について、全て保険者が保ている場合であっても、医師に対して正 のとおり、警察は原則として自死者の険給付を免責されるのか否かが問題とな直に症状を伝えない場合は、カルテ上、 希死念慮が認められない場合もある。 プライバシ 1 を鉄道会社や報道に伝える。 ない場合が多いと思われるが、自死者この点、自殺免責特約における「自殺」 そこで、警察による代行検視 ( 刑訴法 ワ 1 ワ 3 ワ〕 が未成年の場合、首都圏等で実名報道とは、被保険者が故意に自己の生命を絶 条項 ) が実施された場合に作成 が行われ、その実名がインターネットって死亡することをいうのであって、被される調書等が重要な証拠となる場合が を通じて拡散するという事態が生じて保険者が意思無能力者であったり、精神ある。これらの調書等は、自死の現場の いる 疾患による精神障害中における動作に起写真報告書や自死遺族者等周囲の人たち このような実名報道は、自死遺族に因し、被保険者が自由な意思決定に基づの聴取書などから構成されるが、自死の 対して極めて深刻な二次被害を与えるいて自己の生命を絶ったとはいえない場現場の写真報告書には、室内で繰り返し 自死未遂を図った痕跡や、錯乱した様子 ものであるし、敢えて実名報道を行、つ合を含まないと解される ( 注 5 ) 。 社会的必要性も見当たらない そして、前記意思決定能力の喪失の程の室内の様子等、自死直前の精神状態や 自殺対策基本法幻条の趣旨に鑑み度については、下級審の判例を踏まえる行動を記録化している場合がある。ま ( 注 4 ) 、今後、警察による実名の公表と、精神障害の程度・影響などを個々的た、かかる代行検視に関して作成された ; や、報道による実名報道は、行われるに斟酌すべきであり、⑦、つつ病等の精神調書等は、通常、訴訟上の文書送付嘱託 障害り患前の被保険者の本来の性格・人 ( 民訴法 226 条 ) を行わないと開示さろ べきではない。 格、④自殺行為に至るまでの被保険者のれないが、事件が検察官に送検されていの 言動及び精神状態、◎自殺行為の態様、る場合は条照会 ( 弁護士法条の 2 ) 法 〇他の動機の可能性等を総合的に考慮すによって開示される場合もある

4. 法律のひろば 2016年10月号

り み 読 被依存関係ないし保護・被保護の関係がないものと説明されている。すなわち、範囲の適否等に関する議論が行われた上 認められ、かっ、その関係に継続性が認「影響力があることに乗じて」とは、 で、要綱 ( 骨子 ) 第三のような罰則を設 められることが必要であり、そのような歳未満の者に対する監護者の影響力が一けることに賛成の意見が多数を占めたも 監護関係は、法律上の監護権に基づくも般的に存在し、かっ、その影響力が遮断のである ろ のでなくてもよい反面、法律上監護権をされていない状況で、性交等を行うこと ②なお、要綱 ( 骨子 ) 第三の罪を新設 有する者であっても、実際に監護して いをいうのであり、「乗じ」るための特段する場合、この罪における「性交等 , の法 るという実態がなければ、「現に監護すの行為を必要とするものではないことと意義も 2 で概説した要綱 ( 骨子 ) 第一等 なる る者」には当たらないこととなるものと におけるのと同じものとなるほか、要綱 されている このような罰則の新設の必要性等につ ( 骨子 ) 第六の結果的加重犯の基本とな また、「影響力があることに乗じて ( 性いて、部会においては、事務当局から、 る罪として、この罪も加えることとな 交等をする ) , という文言の意義に関し要旨「実親、養親等の監護者による歳る。 ては、監護者の影響力が一般的に存在し未満の者に対する性交等が継続的に繰り ている関係においては、通常、監護者と返され、それが日常化してしまっている 5 強姦と強盗とを同一機会に行っ 歳未満の者との間の性交等について監事案などでは、特定の性交等の場面だけ た場合に関する罰則の整備 ( 要綱 護者の影響力が作用しており、歳未満を見ると、暴行や脅迫を用いることな ( 骨子 ) 第七 ) の者の自由な意思決定に基づくものとは く、抗拒不能にも当たらないような状態 いえないと考えられるが、監護者の影響で性交等が行われているため、強姦罪、 要綱 ( 骨子 ) 第七は、強姦と強盗とを 力が遮断されて行われたといえる場合が準強姦罪等では処罰できないものがあ同一機会に行った場合の罰則を整備しょ まったくないとまではいえず ( そのようる。しかし、これらの事案は、強姦罪やうとするものである な場合の例として、部会では、歳未満強制わいせつ罪と同じように被害者の性そのうち要綱 ( 骨子 ) 第七の一本文は、 の者が相手方を判別できない状態で性交的自由、性的自己決定権を侵害してお現行刑法 241 条前段において、強盗犯 等が行われたときや監護者が歳未満のり、同等の悪質性、当罰性が認められる人が強姦をしたときには強盗強姦罪とし 者から脅迫されるなどして性交等を強い ものであり、その実態に即して、強姦罪て無期又は 7 年以上の懲役という重い刑 られたときが挙げられた。 ) 、このようなや強制わいせつ罪と同様の法定刑で処罰に処せられることとされている一方、強 一般的に存在している監護者の影響力がするため要綱 ( 骨子 ) 第三の罪を新設し姦犯人が強盗をした場合についてはこの 遮断されている場合には「影響力があるようとするものである。」旨の説明がなような規定がなく、一般的な併合罪の規 ことに乗じて」性交等を行ったとはいえされ、その要否や行為主体とされる者の定に従って、その処断刑が 5 年以上年

5. 法律のひろば 2016年10月号

特集自殺予防対策ー自殺者減少社会の実現へ 自殺対策基本法施行 1 0 年の成果と課題 る計画の例を踏まえると、今後所管省庁 展開していく必要があると思われる 6 都道府県・市町村に対する交付 ( すなわち厚生労働省 ) において計画策 金の交付 ( 条 ) 定に関するガイドライン等が示されるこ 5 都道府県自殺対策計画等 ( 条に規定する計画を策定して自殺対 とが想定される。また、自殺対策計画は、 条 ) 大綱と当該地域の自殺実態に応じた形で策を推進する都道府県及び市町村を財政 都道府県は、大綱及び地域の実情を勘策定されることになるところ、大綱は平面から支援するため、国は、これらの計 案して、都道府県自殺対策計画を定める成四年夏頃の見直しが想定されており、画に基づいて当該地域の状況に応じた自 ものとされた。また、市町村は、大綱及各地方公共団体は、ガイドライン等の国殺対策のために必要な事業、その総合的 び都道府県自殺対策計画並びに地域の実の支援体制の整備状況や大綱の改定に向かつ効果的な取組等を実施する都道府県 情を勘案して、市町村自殺対策計画を定けた作業状況等も踏まえて、それぞれの又は市町村に対し、当該事業等の実施に めるものとされた。 地方公共団体において対応することにな要する経費に当たるため、推進される自 殺対策の内容その他の事項を勘案して、 法律による地方公共団体に対する計画ると思われる。 予算の範囲内で交付金を交付することが なお、特に市町村自殺対策計画につい の義務付けは、地方分権の観点から見直 される傾向にあるが、今後の地域におけては、小規模地方公共団体等の事務負担できることとされた。 「三地域における自殺対策の推進」 る自殺対策の実施に当たっては、いわゆ等も考慮し、ガイドライン等で示された るサイクルを確立していくこと内容等に関する指針を満たす限り、他ので述べたとおり、これまでも国において が重要であると考えられること、また、法律の規定による計画のガイドライン等は累次の補正予算により地域の取組を支 にもみられるように、自殺対策のみを定援してきたところであり、このような財 包括的な生きる支援である自殺対策をい わばナショナル・ミニマムとしてすべてめた計画だけでなく、他の関連分野の計政面での支援について法律上明文化した の地方公共団体において実施する必要が画と合わせた総合計画において自殺対策ものである。なお、平成年度において あることなどから、あえて計画策定を義を盛り込むことや、複数の市町村が共同は、地域自殺対策強化交付金を初めて当 初予算において計上しており、地域にお して一つの広域的な計画を策定すること 務付けたものと考えられる。 自殺対策計画は、法定ではあるものなども許容するように解釈・運用されてける自殺対策に係る自主的な財源も組み いくものと考えられる。さらに、既に自合わせつつ、継続的な取組を支援するこ檢 の、あくまでも自治事務の一環として作 ととしている 成されることになると整理され、その内殺対策計画に該当する計画を策定してい ろ 容や作成時期についても、一義的には当る地方公共団体においては、今般の法改 ひ の 該地方公共団体において判断されること正により必ずしも新たに自殺対策計画を 律 法 になる。一方、障害者基本法に基づく障策定し直すことは要しないものと考え 害者基本計画など、他の法律の規定による。

6. 法律のひろば 2016年10月号

特集自殺予防対策 - 自殺者減少社会の実現へ SOS の出し方教育ー児童・生徒への自殺予防教育の具体的な取組 学校現場での取組 ニ「自分を大切にしよう」 足立区における児童生徒へ の出し方教育 のØOØの出し方教育ー保 ー児童・生徒への自殺予防教育の具体的な耳 : 健の立場から 馬場優子 足立区衛生部こころとからだの健康づくり課長馬場優「十 東京都立赤羽商業高等学校主幹養護教諭 西川路由紀子 自殺総合対策推進センター地域連携推進室長反町士ロ秀 はじめに 本法では、「困難な事態、強い心理的負足立区では若年者向け自殺対策とし 担を受けた場合における対処の仕方を身て、区内の小中学校、高校に対して出張 反町吉秀 に付ける」教育または啓発 (ØOØの出形式で特別授業「自分を大切にしよう」 し方教育 ) を行うように、学校は努めるを実施している この授業は、「自己肯定感が持てるよ 2006 年に制定された自殺対策基本ものとする、との文言が条に盛り込ま 、つにメッセ 1 ジを伝え、将来起きるかも 法に基づく取組により、 2010 年頃よれた り自殺者は減少を続け、 2015 年には本稿では、学校におけるの出ししれない危機的状況に対処できるよう援 1998 年の自殺急増前の自殺者数まで方教育を実施している足立区の先進的な助希求行動 ( 誰かに相談したり、 減少した。しかし、一方で、児童生徒 ( 小取組について、教育と保健のそれぞれのを発信するなど ) がとれるようにするこ 学校、中学校、高等学校生 ) の自殺者数立場から、中心的な役割を果たしたお一一と」を目的としている。児童・生徒がこ には、 1998 年の急増以降減少がみら人にご報告いただく。その後、この取組ころの健康についてしつかりと考えるこ れず、横ばい状態が続いており、 200 の意義や科学的根拠等について論ずることは、その後の人生にとても大切であ る。自分を大切に思えない子どもたち ととする。 6 年から 2 015 年の川年間に、 2 9 9 は、いじめなどの問題行動だけでなく、 9 人の児童生徒の命が自殺により失われ 困った時に助けを求め、問題を解決して引 ている。特に、 2015 年の自殺者数は、 いこうとする援助希求行動がとれずに問の 341 人とこの川年間で最多となってい 法 題を抱え込んでしまうことが多くなる る ( 注 1 ) 。この深刻な現状を鑑み、 20 こうしたことから、青少年期のこころの 16 年 4 月に施行された改正自殺対策基 一はじめに

7. 法律のひろば 2016年10月号

スの収益状況は急速に悪化し、損失を計条の規定にもかかわらず、アルゼンチン結果となると結論した。その上で、本件 上することになった。英国とアルゼンチの裁判所で最初に訴訟を提起しないまま仲裁廷は、本案の争点について判断し、 ンの間には「投資の促進と保護のための仲裁を開始したことから、本件仲裁は不結論として、グループによる 1 億 8 協定」 ( 以下「本件協定」という。 ) があ適法であると主張したが、本件仲裁廷 500 万ドルの損害賠償請求権を認めば ひ り、グループは、 2 0 0 3 年、本件は、、、 カカる主張を退けた。本件仲裁廷は、 の 律 協定 8 条に基づき、仲裁を申し立てた。 2 0 0 2 年、アルゼンチン大統領が、新 法 本件協定 8 条は、当事国及び他方の当事経済措置の結果としての損害を請求する 2 本件訴訟の経緯 国の投資家との間の紛争に適用される紛訴訟における裁判所の終局判決 ( 及び差 争解決条項を規定する。具体的には、本止め ) の執行を 180 日間停止するとの グループ及びアルゼンチンは、 2 件協定 8 条①は、投資が行われた領土の政令を発令したことを指摘した。また、 008 年 3 月、コロンビア特別区連邦地 ある当事国における権限ある裁判所に訴アルゼンチンは、新経済措置によるマイ方裁判所に、仲裁判断の審査を申し立て えを提起することができるものとし、本ナスの影響を緩和するため、メトロガスた。グル 1 プは、ニュ 1 ョ 1 ク条約 件協定 8 条②は、 1 権限ある裁判所に との契約のような公共サ 1 ビスに関する及び連邦仲裁法における仲裁判断の確認 紛争が提出されてからか月間経過した契約の再交渉プロセスを創設したが、アを求めた。アルゼンチンは、仲裁廷が管 後、当該裁判所が最終判断をしていない ルゼンチンは、同時に、裁判又は仲裁に轄を欠如していたこと等を理由に、仲裁 か、又は①前記の裁判所の最終判断がさよってアルゼンチンと係争していた企業判断の取消しを求めた。地方裁判所は、 れたが当事者がまだ争っている場合、仲 については、このようなプロセスに参加アルゼンチンの請求を棄却し、仲裁判断 裁を申し立てることができると規定してすることを禁止したため、これらの措置を確認したが、コロンビア特別区連邦控 いる ( 現地訴訟提起の要件 ) 。本件協定は、アルゼンチンの裁判所における訴訟訴裁判所はかかる判断を取り消したた 8 条②⑤は、当事者が、直接仲裁に進むを文字通りの意味で不可能にするものでめ、グループは裁量上訴を申し立 ことを合意できると規定する。 ないとしても、本件協定が現地訴訟提起て、最高裁判所は当該裁量上訴の申立て 当事者は、仲裁手続において仲裁人をの要件に従うことを黙示で免除する程度を認めた。 指名し、仲裁地をワシントン QO とするに、国内司法に頼ることを妨げたと認定 ことに合意した。 2 0 0 45 2 0 0 6 年された。本件仲裁廷は、このような状況 にかけて、仲裁人は各種申立ての決定、下でアルゼンチンの裁判所においてか 証拠調べ、ヒアリングを行った。アルゼ月の間救済を求めることを私人の当事者 ンチンは、グループは、本件協定 8 に必要とすることは、馬鹿げた不合理な

8. 法律のひろば 2016年10月号

労働環境等に十分な注意を払うべき安 この点、予見可能性のレベルは、精神る。加えて、患者の病気に対する認識が 全配慮義務を負っている」 ( 注とさ科医療における患者の治療と人権、保護欠如している場合や、治療行為に対して れていることから、安全配慮義務違反と自由という一一律背反的な要請の調整機非協力的な場合は、医師や看護師も患者 を免れることは困難であると思われ能を法理論の中に期待するという意味にの行動を予測することが難しくなることば る。 おいて、「具体的予見可能性」とするべから、さらに慎重な経過観察が必要となひ 律 後者については、一般的に労働者もきとし、医療関係者から見て「差し迫っるであろう。 法 自己の健康を保持する義務を負ってい た自殺の危険が直前に認められる」場合 したがって、予見可能性のレベルは具 ると解されているが、ストレスチェッ に限り、自死に対する予見可能性を肯定体的な予見可能性であるとしても、「差 クにおいて正確に回答しなかったことする見解もある ( 注邑。 し迫った自殺の危険が直前に誌められ のみをもって過失相殺の対象とするこ しかし、「差し迫った自殺の危険が直る」場合に限定することは妥当ではな とは相当では無いと思われる。なぜな前に認められる場合」に限り自死に対す く、例えば保護室内で自死したような事 らば、事案によって異なるであろうる予見可能性が認められるとすれば、患案であれば、患者の年齢と家族構成、患 が、「自らの精神的健康 ( いわゆるメ者の動向に無関心な病院ほど直前の患者者の生育歴、患者の病名、症状の経緯、 ンタルヘルス ) に関する情報は、・ の様子を知らないことになり、予見可能治療に対する反応、希死念慮の強さ、保 労働者にとって、自己のプライバシー性が否定されることになる。精神科医療護室に入室した経緯と入室直前の状況、 に属する情報であり、人事考課等に影 においては、一般的な医療に比べて患者保護室入室時や入室中の希死念慮の強 響し得る事柄として通常は職場におい の精神状態を観察してその変化や推移にさ、及び保護室内で行われた自死の手段 て知られることなく就労を継続しよう敏感となるべきであることを踏まえるとその除去の容易性などを総合的に考慮 とすることが想定される性質の情報」と、かかる結論は明らかに条理に反するし、医師や看護師が自死を予見できたか ( 注 ) だと解されているからである。 というべきである 否かについて、個別具体的に検討すべき 特に、医師が自死の危険性を根拠に患である。 者を保護室に入室させた場合、客観的な 5 病院ないしは医師に対する損害 自死の危険性が明らかな上に、医師や看 賠償請求について 四最後に 護師以外の行為以外に自死を防止する手 精神病院において患者が自死した場段は存在しない。とすれば、医師や看護 以上のとおり、法律実務家は、自死遺 合、法的に最も争われる論点が、医師や師は、通常の病室に入院した場合と比較族に対する法律支援を行う際、自死者の 看護師の自死に対する予見可能性であして、保護室に入室した場合は、患者に権利義務関係が複雑である可能性を十分 る。 対してより慎重な経過観察が必要になに考慮した上で、自死遺族の体調や心理

9. 法律のひろば 2016年10月号

ズに望ましい支援を探る一助とする。 がある」と自殺予防の観点を含めた項 ②生徒一人ひとりの意識を捉えること 目を精査して入れた。 ( 現任校でも実 で生徒理解の深化に役立てる。③生命 施 ) ②面接【 1 対 1 の形式、一人 5 分 に関わる事件・事故の予防に活かす。 程度 ろ 企画、準備、運営【教育相談委員会 ※他のプ 1 スからの声が聞こえないよひ を中心とした健康・環境部教員 、つに、心が落ち着くをかけ律 ※教育相談委員会【副校長・保健主 任 ( 主幹教諭 ) ・ 1 学年特別支援教 ⑦フィードバック〕その日に管理職も 育コーディネ 1 ター 2 学年特別支参加し、全生徒についてのフィードバ 3 メンタルヘルス検診の重要性 援教育コ 1 ディネ 1 ター 3 学年特 ックを行い、教育相談委員会で今後、 生徒の心の健康状態や支援を要する生 別支援教育コ 1 ディネ 1 タ 1 ・教育支援が必要な生徒についてリストアッ 徒を入学直後に把握することで、予防教 相談委員・養護教諭 ( ケースにより プする。 1 学年のコーディネ 1 ターか 育に活かせると考え、当時の東京都専門 スクールカウンセラー ) 学年会で各担任へ報告する。 医派遣事業で依頼していた精神科医と副 ※学年の特別支援教育コーディネ 1 タ⑧ 取組の成果【①メンタルヘルス健診 校長 ( 現校長 ) 、本校の教育相談委員会 ーは学年会との情報交換を担、つ の結果を踏まえ、全教員で情報を共有 で検討を重ね、メンタルヘルス検診を実 実施者【精神科医巡回相談員臨 しているので、早期に対応できた。② 施するに至った。これまでに副校長を中床発達心理士スク 1 ルカウンセラー 担任一人で抱え込まず、組織として生 心に教育相談委員会の教員が先進校や研 方法【①事前調査「生活習慣アン徒、保護者に関われた。③若手教員の 究所等様々な場所で研修を積み、力量を ケート」 ( 本校作成 ) 。 不安を軽減できる。教員が相談できる 高められたことは大きく、企画した副校 はじめは、東京都作成の「高校生の場がある。教員の理解が深まった。④ 長の功績は絶大であった。 意識調査」を使用したが、生徒の実態事前の「健康と生活のアンケート」で メンタルヘルス健診の実施 に合わせた「健康と生活のアンケー 一人ひとりの心身の状況を把握するこ ①日時【 4 月入学直後 とかできた。 ト」をオリジナルで作成した。訂項目 対象【 1 年生全員 の中に「自分で自分の体を傷つけるこ メンタルヘルス検診を行う前に教育相 ③目的【①生徒一人ひとりのメンタル とがある」「気持ちが憂鬱になる時が談委員会の教員から検診の趣旨を生徒に 面から健康管理と健康指導の充実を図 ある」「家に居場所がないと感じる時説明し「心の専門の先生だから何でも困 るための資料を得て個々の生徒のニー がある」「いじめや暴力を受けたこと っていることや中学でのできごと等お話 たった 1 時間の指導だが、 今まで多くの 生徒から印象強く記億に残っているとい 、つ亠尸を聞き、「きっかけ」をつくること ができたと提えている。この、健康教室 に協力いただいた保健師さんには生徒に 代わって感謝の気持ちでいつばいであ る

10. 法律のひろば 2016年10月号

た効果的な施策として実施すべきも は我が国で初めての大綱が閣議決定さと、また、厳しい経済情勢を背景としたに の」、「国、地方公共団体、医療機関、事れ、大綱の下、内閣府において、関係省自殺の社会的要因である失業や倒産、多 業主、学校、自殺の防止等に関する活動庁、地方公共団体、自殺防止等に関する重債務問題の深刻化への懸念から、追い を行う民間の団体その他の関係する者の活動を行っている民間団体とも連携しっ込まれた人に対するセ 1 フティーネットば 相互の密接な連携の下に実施すべきもっ総合的な自殺対策を推進する体制が整の一環として、地域における自殺対策のひ った。 の」と定めた。 強化が喫緊の課題となっていたことを踏律 法 自殺対策基本法に基づき、政府は、政 まえ、内閣府において、補正予算におい 府が推進すべき自殺対策の指針として、 て 100 億円の予算を計上し、都道府県 三地域における自殺対策の推 基本的かっ総合的な自殺対策の大綱 ( 以 に当面 3 年間の対策に係る「地域自殺対 下「大綱」という。 ) を定めること、大 策緊急強化基金」を造成した。基金事業 綱の案の作成や自殺対策に必要な関係行 自殺対策基本法及び大綱に基づき、政の内容については、国が提示した対面型 政機関相互の調整、自殺対策に関する重府においては関係府省において様々な取相談支援事業、電話相談支援事業、人材 要事項について審議し、その実施を推進組が行われてきた。その中でも川年間の養成事業、普及啓発事業及び強化モデル する「自殺総合対策会議」を内閣府に設自殺対策の取組のもっとも大きな変化と事業の 5 つのメニューの中から、都道府 置すること、毎年、国会に、我が国におして挙げられるのが、平成幻年度補正予県及び市区町村が地域の実情を踏まえて ける自殺の概要及び政府が講じた自殺対算により創設された地域自殺対策緊急強選択し、実施された。 策の実施の状況に関する報告書 ( 自殺対化基金とそれに基づく地域における自殺その後基金は累次の補正予算において 策白書 ) を提出することとなった。また、 対策の取組の進展であろう。 実施期限の延長・積み増しが行われ、地 国及び地方公共団体が講ずべき基本的施平成幻年当時、地方公共団体における域における自殺対策の実施における重要 策として、調査研究の推進、国民の理解総合的な自殺対策は、国における自殺対な財源となった。また、平成年度補正 の増進、人材の確保、心の健康の保持に策の本格的な推進を受けて数年前から開予算においては、新たに地域自殺対策強 係る体制の整備、医療提供体制の整備、始したところが多く、本格的な取組が全化交付金の制度を導入し、同年度及び 自殺発生回避のための体制の整備、自殺都道府県で行われているとは言えす、市年度に実施する自殺対策事業に充てられ 未遂者に対する支援、自殺者の親族等に町村に至っては、年川月末に決定した 対する支援、民間団体の活動に対する支自殺対策加速化プランに基づき自殺対策地域自殺対策緊急強化基金は、すべて 援などが掲げられた。 担当の部局等が設置されるよう働きかけの都道府県と、 1400 を超える市区町 平成四年 4 月、内閣府に自殺対策推進を行ったばかりという状況にあった。こ村において活用されたが、この基金を呼 室が設置され、自殺総合対策会議の事務のような中で、平成川年以降、年間の自び水として、各地方公共団体における自 局機能を担うこととされた。同年 6 月に殺者数がⅡ年連続して 3 万人を超えたこ殺対策の企画・立案・実施の体制が整え 進