国 - みる会図書館


検索対象: 世界 2016年9月号
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1. 世界 2016年9月号

うした進路決定は、個々の加盟国内部の公共圏での議論や議われる。そして各国内部の階級関係や支配関係は無視され る」 ( 原書一三四ページ。訳書一三四ページ ) 。こうして、危機対策 会における意見形成・意思決定から切り離されてしまう。そ の政治は、成果を挙げた結果として批判的な声に耳を貸さな うすることによって市民たちの政治的資源の価値が切り下げ くなり、各国の公共圏でおたがいに歪められたイメージを られる。各国の市民だけが、彼らの国の議論アリーナ〔公共 「諸国民」が持ち合う。こうした危機対策と歪んだイメージ 圏と議会〕にアプローチ可能なのに、そうした人々の政治的 の持ち合いが、相互に強まり、耳を貸さない度合いとイメー な意見や参加の意思が価値を失ってしまう。それによってョ ジの歪み具合が高まって行くことになる。 ーロッパ政治は事実問題としてはますます批判のしようがな こうした妨害をつぶすには、社会題を個々の国の問題に くなるーーー同時にまた、民主主義という観点からはますます すり替えてしまうやり方に対抗して、ヨーロッパ統合を支持 批判すべきものとなる。 する政党が個々の国を越えて協力し合い、キャンペーンを張 批判を受けつけないの体質、いわば自己免疫化とでも らねばならない。政治的な対案を正しく設定し、それに沿っ いうべき事態をさらに強めるのが、第二の事態である。それ て激しい論争が火を噴くことにならねばならないのだが、各 は、加盟各国の国家予算の主権というフィクションがなおも これは、 国の国内公共圏では、そうした論争が起きていない。 維持されていて、そのために危機に関する公共圏での見方が、 右翼の力に対する恐怖のゆえではないか、という以外の説明 まちがった方向に向けられてしまう事態である。各国の国家 を私は思いっかない〔例えば、ギリシアのために「ドイツ人が働い 予算へと政治が断片化している事態に金融市場の圧力がかけ て得たお金を使うとはなにごとか」と叫ぶ右翼への遠慮〕。 られ、危機に襲われた住民たちが自分たちを集団〔例えばドイ リスクのない対案、さらには金のかからない対案というも ツ人、ギリシア人〕として見る流れが加速される。つまり、「恵 のはないのだ。そのことをすべての側が認めねばならないは かむ国々」と「貰う国々」という見方が危機によって強められ、 ずだ。それを認めてこそはじめて中核ヨーロッパの将来につ 主両者が衝突し、ナショナリズムが煽られることになる。 資 いての論争が、ただ引っ掻き回す論争ではなく、真に問題の シュトレークもこうしたデマゴギーがはびこる余地につい か あり方を明確にするようなそれになるはずだ。国々の境界を て注意を促して、次のように述べている。「国際的な債務政 シ ラ ク 策のレトリックの中では、国家が一体のものとして考えられ、頼りに偽りの前線を構築するのでなく〔「だからギリシアは」、 とか、「やつばりイタリアは」というのでなく〕、危機管理に テ連帯責任を負う統一的な道徳的アクターであるかのように扱 特集 2

2. 世界 2016年9月号

①現在の市長が再選 ( 無投票 ) されたのは二〇一三年一月、 、外交や防衛は各地方公共団体が独自に行う事務ではなく 市議が当選したのは同年一〇月。その時点ではまだ自衛隊国の事務だと考えられています。これは単に、地方公共団体 配備の話は持ち上がっておらず、選挙の公約に自衛隊配備 が独自に外交や防衛事務を行うのではないという意味であっ を掲げたのは市議ひとりだけ。にもかかわらず、市長は議 て、『ロ出しできない』ということではないと考えます。そ 界 世 会の意思日民意であるとし、それが「議会制民主主義」と うであれば、そもそも地方自治の規定の中に地方特別法に関 主張した。その議会は与党が圧倒的に多い構成である。 する住民投票の規定はないはずです。国が定める法律であっ ②市民から「議員に全てを白紙委任したわけではない」と住 ても、特定の地域の人々に不利益になる場合には、その意思 民投票を求める声があがったが、市長は「国防は国の専権を反映させるというのが憲法の立場ですから、国による単純 事項であり、住民投票にはなじまない」と主張した。 な押し付けを前提としていません。 ③市民から何度も「市が主催する住民説明会」を求める声が 憲法は、そもそも地方公共団体を国から独立した存在だと あがったが、市長は「今回の事業主体は国であり、国が説考えていますから、国が決めたことであったとしても、地方 明をすべきだ」と主張した。 自治体が自らの立場で意見を述べることは否定されません。 しかも、住民の命や生活に密着する重大な事柄であることを ここで市長の欠席裁判をするつもりは毛頭ない。それでも考えると、住民の生活に密着した政治を行う団体である地方 ①②③を見ると、「どこか変だ」と思わずにはいられない。 公共団体が、独自に住民投票をして意思を表明することは当 自衛隊配備は多くの人々の暮らしに影響する問題なのに、 然であるし、国政に反映されるべきです。 度も主権者の意思が問われておらず、地方自治体の独立性も 本来的には、特定の地方公共団体に『国境防衛』という非 見られない。 これは憲法の基本原理に反するやりかたで、憲 常に危険な負担を負わせる政策ですから、国が法律を定めて 法上、多重的に問題がありそうである。 住民投票を行うべきだろうと思います。」 気鋭の女性憲法学者である髙良沙哉・沖縄大学准教授に 次に「③説明会」について。 ②と③についてメールでコメントを求めた。 髙良准教授「基地設置主体は国家です。国家がより多く まず「②住民投票」について。 の正確な情報を持っているわけですから、説明を住民に行う 髙良准教授「憲法では、地方自治の規定に関連して国と のは当然です。だからといって、首長としての責任は何もな 地方公共団体との事務配分についての議論があります。確か いのでしようか。住民の代表として、不誠実な情報不開示は

3. 世界 2016年9月号

~ 」世」 : 界・の潮 日下部尚徳 一ハングラデシュ・グッカ、人質事件、 「穏健」な国で巻き起こるテロ 石巻事件最高裁判決」ー少年事件の特性はどれだけ検討されたのか = 本庄武 経済的に急成長を遂げつつあり、親日国としても知られていた国家で ) 外国人を狙ったテロが起きてし まったことへの衝撃。犯行グループの若者たちは、なぜイスラム国に感化されるに至ったのか。 バングラデシュ・グッカ、人質事件 「穏健」な国で巻き起こるテロー 日下部尚徳 七月一日にバングラデシュの首都ダッ規模かつ計画的なテロ事件であった。 れた。彼らの動機については明らかにさ 力の高級住宅街で発生した人質事件は、 この事件は、近年インターネットなどれていないが、それを後押しする要素と 日本人七人を含む二〇人が殺害されるとを通じて影響力を強める、イスラム国して、イスラム主義勢力を政治的に執拗 いう、同国において過去に例をみない大 (—n) に感化された若者によって実行さ に追い詰める、現政権による強権体制が ダッカ人質事件の追悼式で、渡邉正人駐バン グラデシュ大使に話しかけるハシナ首相 ( 7 月 4 日、ロイター / アフロ )

4. 世界 2016年9月号

『分断社会を終わらせる』 ( 筑摩書房 ) を読んで、自分は大き 国には頼れない、介護保険は権利があっても使わないという。 な間違いをしていたと気付かされた。それは、「歳出削減イ そういう状況を無視して、ただ生活保護費、社会保障費を コール改革」と考えていたということです。本当に必要なと 削るだけでいいのか。生活保護のポーダーラインをさまよう ころまで削ってしまっては、井手さんのご指摘のとおり、社 人に限らず、雇用が不安定で、あるいは年金だけではやりく 世会の分断をいっそう深めてしまう。 りがっかずに我慢を強いられる人は、日本にはいつば、、 井手まことしやかに語られる「支出の削減イコール財政 す。こういう方々が、まずはもう一歩、前に進めるような政 策をとらなければいけよ、。 再建」は本当か、ということですね。実は、低所得者へのい わゆる「弱者救済」ではなくて、中間層も含めて広くサービ 私は政治家として、「尊厳ある国家」を掲げてきました。 スを提供できている国のほうが、統計的に見て税収が大きい。 外国からは賞賛され、内にあっては自らの国に誇りと自信を 政治的多数が受益者となって、自分の必要を満たしてくれる もてる国ーーーそうしたビジョンです。しかし、自らの国に誇 安心から、税金への抵抗が弱まる。こういう経路があります。 りと自信をもっためには、国民一人ひとりが、「人間として 前原支出を増やして、税への抵抗を弱めることで、結果 の尊厳」を保障されなければならない。人間の生活保障、尊 的に財政再建を実現し得るという提案はとても意外でした。 厳保障のためのセーフティーネットをどう張っていくかがも 発想の転換を迫られたといった感じかもしれない。 っとも大事なポイントだと思います。 井手「やせ我慢」は、日本社会の分断の本質を突く言葉 一億総中流から「中の下」社会へ ですね。最近、ある統計調査を見て驚いたのは、自分は社会に 前原日本では、生活保護基準以下の収入の人のうち、実 おいて「中の下」であると答える人の割合が、日本は先進国の 際に生活保護を受給しているのは二割弱。これは先進国のな なかで一番高いのです。北欧諸国では「中」がもっとも多い かでずば抜けて低い数字ですが、反対に言えば、八割の人た かって「一億総中流」と言っていた日本が、どうして「中 ち。 慢しているわけです。子どもに学校で惨めな思い の下社会」になったのか。おそらくこれには二つの側面があ させたくいと言って、生活保護を拒む親御さんも多い る。所得が減り、実際に中間層から剥落しつつある現実と、 あるいは、の知り合いのご家族は人工透析を受けていて、 その一方で、自分は貧困層ではないという「やせ我慢」の意 とくに腎臓透析には自治体から補助も出ますから、これ以上識。この二つじゃないでしようか 特集わ

5. 世界 2016年9月号

法律が「機能している」というのはどういう状態をいうの 境を一歩出れば、県単位の規模での原発事故影響を考慮した かは評価が難しい。しかしこの健康診断の実施率を見る限り、健康診断は行なわれていない。 事故から三〇年後を想像してみたい。日本は自分の手で福 事故から三〇年経過してなお、チ = ルノブイリ法二四条はこ れまでにないほど「機能している」。そして、それを原発事島第一原発事故の影響についての総括ができるのか。限定的 世故被災国である日本で参考にする「意味はある」。 なデータだけをもとに国際機関が示す見解をそのまま繰り返 ロシアの被災地では、この健診のおかげで、多くの疾患の すのか。国としてのスタンスが問われている。 早期発見につながっている。 疾病が見つかったときに、手術をしないほうが良い場合は 被災者には、甲状腺がん以外の病気でも「健康被害」認定手術をしない。 ) そのガイドラインをしつかり定めておけば、 を受け、より充実した支援を受ける道が開かれている。 過剰治療は起きないはずだ。 これが一義的に被災者保護のためであることは言うまでも 『ロシア政府報告書』はスクリーニング効果の可能性があ ない。しかし、国全体の知識の蓄積という観点からも重要だ。 ることは指摘するが、過剰診断のリスクを論拠に、健康調査 健康診断で得られたデータは、国が管理する疫学レジストリ の範囲縮小や打ち切りを求めてはいない。健康診断をさらに に登録され、チェルノブイリ健康被害の評価のための基盤と継続する必要性は広く認識されている。これが三〇年間健康 なっている。 調査を続けてきた被災国の知見なのだ。 ロシア政府は原発事故から三〇年間の健康調査の蓄積に基 健康診断の対象から外れた地域では、調査データがない以 づき、これまで公式に認めてこなかった健康被害を、限定的 上、特定の疾病が生じた際に「原発事故のせいかもしれな に認めはじめた。やなどの国際機関による評 い」という、検証し得ない推測が残る。 価のコピーではない。被災国自身の手による、事故被害評価 健康調査をしないことによって、得るものは何もない。 と総括である。 ( * ) ロシア全国平均で、たとえば人口Ⅱ人あたり遺伝性疾患が一〇 日本で原発事故から五年が経過した。国の資金も投入して 〇症例の場合、この汚染地域では人あたり〇・〇八例、または 公的に実施している健康診断は、事故当時福島県に在住して 〇・四例、放射線起因の遺伝性疾患があるという推計。 いた人々を対象にした県民健康調査だけである。福島県の県

6. 世界 2016年9月号

です。英国の植民地であれ中国の特別行定されたのは、中国史においては春秋戦す。都市国家の香港は、大陸や他の中華 政区であれ、香港の政治体制は「都市国国時代以来、初めてのことです。「党国」圏の地域とともに「邦連」を築いて建国 家の自治」状態です。 の中国と「城邦」の香港は、いずれも憲し、現代国家を創り上げる。香港が独立 「城邦論」によると、香港と中国はどの法上は不完全な国家であり、建国の準備するのは「邦連」を結成する時であり、 界 世ような関係を構築できますか。 段階にあると私は考えます。将来的には香港は連邦国家で中華伝統文化の復興を 陳香港は、中国と別個の存在です。中健全な憲政体制のもと中国大陸や台湾、 リードするのです。 国は「民主集中制」という名の一党専制マカオなどとともに「邦連 ( 連邦、国家連 香港に残る中華文化の本流 体制で、共産党が政府に優先されるので合 ) 」を構成しようと提唱しています。 「党国 ( 「受冐 ) 」とも呼ばれます。一ーーー主張として、香港の独立を求めているわーー香港にその条件はありますか。 方、香港では法治が実現し、基本的人権けではないのでしようか。 陳『城邦論』に続いて著した『香港遺 が保障されています。香港住民は中国国陳私が主張するのは香港独立ではなく、民論』のなかで、香港の主流文化は中華 民とは別扱いで、香港は「中国香港」の「中華邦連」や「華夏 ( 中国 ) 邦連」の結文化の本流であり、それが戦乱続きの中 名称で独自に国際組織に加盟し、国際条成です。本土主義と独立は、イコールで国大陸よりも完全な形で残っている点を 約も締結できます。自分たちの議員も、 はありません。 述べました。文化の正統性で大陸が香港 そして本来なら元首も選挙できる。香港・・ーー台湾の本土化運動では、台湾と中国大陸を超えられないという事実を認識するこ には国家としての主権はなく、国防や国の違いや関係性の薄さを強調することで台湾とで、香港は大陸に対する文化的な優位 家としての外交の能力はありませんが、 の主体性を訴えており、北京側もこれを「民性を確認できます。英国が香港を統治し 都市国家として高度な自治権を行使して族の裏切り」や「売国奴の策動」と直線的にた際も、中華文化に対する破壊、あるい 外国と協定を結ぶことができます。 批判できました。しかし香港の本土化運動が、は同化政策はなく、むしろ中華文化の復 香港と中国中央政府の関係は、一九八中華の正統性を大陸と争うのであれば、大陸古を意図的に奨励した。これは、大陸の 四年に調印された国際条約「中英共同声としてもいささかやりにくいのでは。 共産中国や台湾の国民党政権が香港に対 明」と一九九〇年に全国人民代表大会で陳香港が中国大陸との関係を絶っ、もして繰り広げた文化宣伝や攻勢と向き合 可決された「基本法」に基づきます。中しくは全面的に対立することは不可能なう際、香港が清朝の伝統文化を直接引き 央政府と地方政府の権力関係が憲法で規ので、互いの妥協点を探ることが必要で継ぎ、中国大陸や台湾よりもワンランク

7. 世界 2016年9月号

敗してきたかのように語ってきた。だが、 ' ま この先さらにつづけていくとしたら、こ カ揺らいでい / 、ーーそうした最悪の社会 見方を変えればこうもいえる。 崩壊まで、今回の事故からは帰結しえた。んなに馬鹿馬鹿しいことはない。 これだけの未曽有の原発事故に対し、 私たちはそれを避けた。このことを、も帰還政策からの転換を求められるのは、 この国はなんとかこの五年間、堪えてきっと正当に自己評価しなければならない。そうはいってもやはり当事者である。避 世た。一六万人ともいわれた原発避難者に他の国で同じことが起きたとき、はたし難者 / 被害者自身が声を上げることが全 対しても、ここまで私たちはその暮らしてこれほどすんなりとここまでの形に辿ての変革の起点になる。 を支えてきた。そこには地方自治体独自り着くことができるだろうか。 いまこそ被害者たち自身が、自分がお の施策も数多くあり、政府にいわれずと帰還を事実化し、賠償を切り、支援をかれている現実に向き合い、味方は誰で、 もはじめた対応が、いまや国の手法とな打ち切り、原発避難者特例法を終了する誰が敵なのかをはっきりさせる時である。 っていることも多い。そしてそうした ことは、この小康状態を再び混乱へと陥たしかにこの事故をうけて何か実を得よ 様々な工夫の中で、強制避難者のみなられることにつながる。やっと落ち着いた うとする人々はいる。しかし、意外に ず自主避難者も含めてこの国のセーフテこの状態にもう一度辿り着くことは、私この国には敵よりは味方の方がずっと多 ィネットのうちに収めてきた。これだけ にはとても不可能なように見える。目先 そしてここで一小したよ , つに、もっと の事故が起きたのにもかかわらず、私たのことや体面にとらわれず、起きた事態自分の思いを社会に言って良いのだ ちは破綻していないし、また国民感情もにしつかりと向き合い、私たちにできるそして社会もそれを受け止めてくれるこ 傷んではいない。どうして良いか分からことの限界を認めること。このことが今とを、知らなければならないのである。 ないままにスタートしたが、事態は今あ最も求められることだ。 きらかに小康状態にある。 私たちは今回の原発事故を当初、「大付記ここでは主に富岡町を含む福島第一原発 この小康状態は、誰かが設計したので変なことだ」と認識していた。しかし事側の四町 ( 浪江、双葉、大熊、富岡 ) を念頭に はない。国民一人一人が努力し、工夫し、態が小康状態に入って、あの時のことを記述した。 納得して、この国の今の体制を作りあげ忘れたかのようである。だが、ここまで たのである。地域が崩壊し、経済が破綻に果たしてきた人々の努力 ( 政府も含む ) し、被室暑や国民の感情が爆発し、国家に対する評価もしないで、愚かな選択を

8. 世界 2016年9月号

= Leave を LeaVe き Leave をし第第 ~ 。 6 月 23 日、 EU 離脱を間うイギリスの国民投票が行われ、 大方の予想を裏切り、僅差ながらも離脱派の勝利に終わった。 投票結果の分析から見えたのは、イギリス社会にいくつもの 深刻な亀裂が走っている現実だった。それが国民投票をきっ かけに、国の政党システムをもいっそう流動化させようとし ている。 一方、 EU にとっても打撃は大きい。史上初めて加盟国が 脱退する事態になるが、その先に「 EU 解体」を見る識者も いる。これは EU ではなくューロの危機だという見方もある。 冷戦終結後、国家を超えたグローバル資本主義のもとで、 一国の国家主権も民主主義も緊張関係に囚われている。その なかでイギリス国民が求めたものが何だったのかを考えると き、今回の事態が浮き彫りにした課題は、イギリスに限った ことではないことに気付かされる。この国民投票がもつ意味 は、今日、我々が思っているよりはるかに大きいのかもしれ ない。 ョーロッパと日本の論者がユーロと EU の行方を読み解く。

9. 世界 2016年9月号

以上が南シナ海仲裁裁判のかいつまんだ表向きの顛末であ されたことは間違いない。裁定の申し渡し日には奇しくも欧 る。しかし「何やら話が出来すぎているなあ。きっと裏があ 州連合・中国首脳会議が北京で開催され、さらに一五、 るはずだ」とお感じのかたもいるはずだ。そこで、これから 一六の両日、モンゴルの首都ウランバートルで開催国モンゴ 「木」の背後に控える「森」の解明に挑戦することにしよう。 ルに、フィリピンを含む東南アジア諸国連合 (<ØQ<Z) 諸 ーとして 国、中国、日本、韓国に欧州二八カ国、オブザー 目隠しの下から盗み見するオランダの女神 ロシア、豪州、ニュージーランドが参加するアジア・首 ◆限りなく政治的な国際裁判の日程 脳会議の開催が確定していた。さらに七月二四日にラオスで 「この国の地方裁判所には、目隠しした女神が剣を突き下 日本、中国、一韓国を加えた外相会議、一一六日に中 ろす石像が飾ってあります。裁きの公正さの象徴ですが、実 国、日本、米国、ロシア、韓国等の外相が加わり東アジアサ は女神は目隠しの下から盗み見しているというジョークがあ ミットが開催される。中国は正に国際社会の首脳たちの前で ります」と、オランダの法曹関係者が教えてくれた。裁判と仲裁裁判の裁定の履行を求めるフィリピンと対峙する、まこ いうのは表向きはともかく、実際は政治的で、裏があること とに具合の悪い羽目に陥ったのである。 機 危を物語る話だが、国際裁判でもそう違わない。昔、北方領土 裁定の日は仲裁裁判所当局の匙加減一つで決まる。中国に 問題で業を煮やした当時の外務大臣が「いっそのことハーグ対する挑発的な日取りであり、極めて政治的な判断が働いた 南 の国際司法裁判所に提訴したらどうだ」と言い出し、関係者と言わざるを得ない。ハ ーグ国際法曹界の権威筋が裁判の裏 さが「とんでもない」と大臣を諫めたという。諫めた理由は 事情を明かす。 成 造「国際司法裁の一五人の判事はソ連ばかりか中国など様々な 「裁定を中国が完全に拒否するのは計算済みでした。仲裁 裁判は、中国の南シナ海での振る舞いに対する裁定により、 国連加盟国の出身者で構成され、日本は負ける可能性が大い 体 同にある」ことだった。 中国の世界の悪者ぶりを国際社会に見せつけるのが最大の狙 際それでは同じ平和宮に収まる常設仲裁裁判所の場合はどう いだったのです。だが軍事的な鞘当てが一つ間違って深刻な 国 か。今回の南シナ海の裁定はまだ湯気が立っている段階であ 状況を生む恐れは十分あり、憂うべき状態だと思います」 人 商り、裁判の背景は「状況証拠」により想像するしかなさそう ◆半世紀をかけ醸成されたアジア地域の緊張の構図 死 だが、少なくとも中国にとって最悪のタイミングで裁定が下 裁定の数週間前、ロンドンの大学で南シナ海問題を専攻す

10. 世界 2016年9月号

世界 SEKAI 2 0 1 6 . 9 ー 54 の確認シートによるリスクの見える化です。 : : : 最終的に番由とされるが、果たしてそれだけだろうか。天皇の生前退位 組ができあがった放送前の段階で、すべてのリスクがきちん は皇室典範の定めによりできないことになっている。その理 と回避されているかどうか点検します」。対象は、ジャーナ 由は、①歴史上見られたように、退位後、上皇として権勢を ルな内容に関するものだという。 ふるうおそれ、②政治的に退位をせまられるおそれ、③自ら リスク管理に名を借りた事前検閲を受けた放送に、権力の 恣意的に退位するおそれ。この規定は則も戦後も変わって 監視など誰が期待できようか。呆れついでに書いておく。六 いない。天皇は元首であれ象徴天皇であれ、他に例を見ない 月に経営委員長に就任した九州相談役の石原進氏が安倍特異な政治権力である。この世襲による無責任制度は、護憲 政権と密接な関係にある極右団体「日本会議福岡」の名誉顧派にとっても改憲派にとっても難問なのである。 問と、原発推進派の「原子力国民会議」の共同代表を務めて 一九九〇年一月二三日、今上天皇は即位の礼で「常に国民 しることが分かった。これこそが、安倍政権がしばしば口に の幸福を願いつつ、日本国憲法を遵守し、日本国及び日本国 民統合の象徴としてのっとめを果たすことを誓」った。これ する「放送法違反」ではないのか。 参院選後最初の「報道特集」 ( 七月一六日 ) でキャス を護憲の意思とみなせば、この象徴としての地位は、日本国 ターの金平氏は、沖縄での取材に基づいて、「現職の閣僚憲法第一条の「主権の存する日本国民の総意に基く」ことに ( 島尻安伊子氏 ) が落選した翌朝、すぐに高江の米軍ヘリ なる。だが、国民にその自覚は乏しい。他方、二〇一三年四 ド基地 ( の工事 ) に着工し、その後に、辺野古の工事の再開 月に起草された「自民党憲法草案」は、第一条に「天皇は、 を国が示したのを見ると、民意がどのように示されようが聞 日本国の元首」と明記している。国家元首は英語で "Head of く耳を持たないことに、沖縄の人は非常に怒っている」と語 state" である。これはが "Symbol of the S 臼【 % と書きか 気を荒らげ、「私たちメディアが事前の争点を提示するとい える前の地位である。いまの天皇が即位に際して「憲法を遵 う機能に対して十分だったかということも反省してみる必要守する」と誓ったのは、現行憲法第九九条で憲法尊重擁護の がある。私個人としても思います」と結んだ。 義務を負う「天皇又は摂政」としてであった。しかし、それ 天皇の生前退位について与党が圧勝した三日後、いよい に該当する自民党憲法草案一〇二条には、そもそも「天皇又 は摂政ーの文字がない。天皇は憲法を守る主体ではなくなっ よ憲法改正論議が始まろうとした矢先、天皇が生前退位を周 ているのである。これまで、戦後の天皇の役割は、一方で曖 囲にはのめかしたというニュースが流れた。高齢と病気が理