憲法改正 - みる会図書館


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1. 世界 2016年9月号

の議席を占めるようになった。実際に具 い」との、ニューヨークの政治リスクコらみで警察が射殺する事例が相次いでい 体的な改憲論議が政治日程あがるかどうンサルタントの分析を引用している。 る。テキサス州ダラスでは、「人種差 か、それがいつなのかはまだまだ不透明英国の大手通信社の⑧も東京発の解説別」に反発した元軍人 ( アフリカ系 ) が警 だが、安倍政権下での大きな変化に注目記事だ。「保守派は憲法を、第二次大戦で察官を狙った連続狙撃事件を起こした。 世する米国のメディアは少なくなかった。の日本の敗北の屈辱的なシンポルと感じこれに対してダラス市警は立てこもった 有力紙⑦は、東京発の解説記事である。ている」が、護憲派は「戦後の平和と民容疑者に対して爆発物を装備したロポッ 「力強さのない経済、安倍氏が希求する主主義の源泉」だと評価しているとみる。ト兵器を使い、死亡させた。 自衛隊の役割拡大への世論の分裂」にも各種世論調査では憲法九条改正は必要現地の報道によると、米国の警察が攻 かかわらず、与党が大勝したと伝えるとないとの意見が多く、連立のバートナー撃型のロポット兵器を使用したのは初め ともに、「戦争放簗を規定した条項 ( 九条 ) である公明党も「九条改正には腰が重てのこと。イラクなどの戦場での展開は を修正するという安倍氏の野望が実現すい」状態だと分析している。それが現状日常化してきたが、テロ対策を含む米国 るかどうかは今後の動きを見ないと何とではあるものの、「米国が起草した条項内での実用化が現実のものとなった。 も言えない」との見方を示している。 の改正を長きにわたって根強く目標に据米国の⑨は、多数の警察がロポット兵 安倍氏にとっての課題は、「 ( 改憲勢力えてきた安倍氏は、前に推し進める思い器を保有しているとの専門家の見方を紹 の中でも ) 各々のグループが改正を望むにかられるかも知れない」と、首相の政介する。その多くは攻撃用ではなく、爆 条項について意見が分かれて」いること治判断に強い関心を寄せている。 発物処理や小型カメラを使った現場の偵 だと指摘するが、今回の選挙結果で安倍安保関連法による自衛隊の活動拡大と察などに利用するタイプである。だが、 氏が改憲への立場を強めたのは「確かな」九条改正とは次元が異なるだけに、首相元ポストン市の治安当局関係者は「武器 ことだとみている。が、憲法改正には国が憲法問題にどう取り組むかは周辺のア使用の基準は、特定の武器を想定してい 民投票も待ち構えている。「 ( 憲法改正は ) ジア諸国だけでなく、戦勝国である欧米るわけではない」とし、「その場に応じて 恐ろしく複雑で意見対立の激しい政治的でも注目されると考えられる。 ( 吉田 ) 必要な武器を使用できる」と語っている。 過程」を避けられず、「 ( 両院で三分の二を とはいえ、容疑者が武装した場合でも、 ロポット兵器の登場 確保して ) 安倍氏が望むものを手にでき 身柄を確保して司法の判断を受けさせる るとみるようでは現実を理解できていな米国ではアフリカ系市民を「事件」がことが警察の重要な任務。軍隊のような アメ リカ

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10 3 違憲立法の 既成事実化を いとう・まこと一九五八年生まれ。弁護士。伊藤塾塾長。 法学館憲法研究所所長、日本弁護士連合会憲法委員会副委 員長。安保法制違憲訴訟の会共同代表。著書に『憲法は誰 どう阻むか のもの ? 」 ( 岩波ブックレット ) 、『中高生のための憲法教室』 ( 岩 伊藤真 波ジュニア新書 ) など多数。 法廷で安保法制を間う 自民党は一一〇一一一年四月に憲法改正草案を発表している。 ということは、立憲主義、民主主義を破壊する法的なクーデ この草案は、近代立憲主義の基本理念である個人の尊重を否 タであり、断じて許すことはできない。 定し、現行憲法とは全く逆方向をめざすものである。 こうした事態を是正し、憲法価値に従った政治を回復する 安倍政権は、あえて選挙公約として掲げなくても、いった ためには司法の力が不可欠である。国民・市民は選挙権、表 ん選挙が終われば、秘密保護法、安保法制を成立させてきた。 現の自由、請願権、裁判を受ける権利など憲法が保障するあ 後述するように前者は自民党改憲草案九条の一一第四項、後者 らゆる手段を行使して、自らの手で立憲主義、民主主義を取 は第三項で法律事項として予定されているものである。着実 り戻さなければならない。我々が提訴した安保法制違憲訴訟 にこの改憲草案の示すゴールに向かって進んでいる。 も、そうした国民・市民の運動の結節点として、安保法制の しかし、それらはいずれも現行憲法に違反している。安保 廃止に向けて意味あるものにしていかなければならない。 法制が違憲であることは、これまでも多くの識者の指摘する 憲法違反の国政運営と選挙による正統化 ところである。もしこれを認めるのであれば、憲法改正が必 2 要なはずである。選挙で多数の議席を得ただけであるにもか ①閣議決定・安保法制と選挙結果 かわらず、採決の強行によって違憲の法律を成立させ続ける ここ数年来、この国では憲法を無視した前代未聞の国政が 世界 SEKAI 2 0 16.9

3. 世界 2016年9月号

一一一万人を超える市民が参集する一大集会が開催され、参議 あまりにも非立憲的な考えである。これこそが現在の自民党 の体質といえる。違憲の事実状態を作り出し、それを既成事院での強行採決が危ぶまれる九月一四日には四万五〇〇〇人 が国会議事堂を包囲するなど、同月一九日の採決に至るまで、 実として認知させて、あとから憲法改正で追認するという非 立憲的手法をとることは断じて許されない。規範と現実が食連日数万人規模の安保法制反対集会が続けられた。反対運動 は、国会周辺にとどまらず、全国各地にも大きく広がった。 世い違うときに、現実に規範を合わせて修正するのでは、規範 そしてこの市民運動は参議院選挙一人区での野党共闘を主 の存在意義がない。あるべき姿である憲法規範に、いかに現 実を近づけていくかが憲法尊重擁護義務を負っている政治家導し、市民連合などの各地で活動、野党による憲法、安保法 制の争点化に大きく貢献した。そしてこれまで特に与党が強 の責務である。政治家が違憲の既成事実を作り上げ、それを かった一人区の当選者は、前回三一選挙区中一一名だったのに 国民に追認させるなど許されて良いはずがない。 対し、今回三二選挙区で一一名となった。加えて、福島と沖 市民による広汎な反対運動と参院選 縄の各選挙区では、安倍内閣の現職閣僚一一人が落選した。 れらは大きな成果といえる。 こうした異常な国政運営に反対する市民の運動は、一一〇一 ただ、選挙結果は、国会における改憲勢力が各院で三分の 四年の閣議決定前後から大きな広がりを見せた。安保法制へ 二を占めたことにより、憲法改正の発議が行われる可能性が の反対運動は、集会、デモ、国会要請、署名等様々な形で展 出てきた。この点をどう受けとめるべきか 開され、各界各層に広がり、大きなうねりとなっていった。 端的に言えば、この結果自体について一喜一憂したり、落 一方、各弁護士会、弁護士会連合会もかってない広がりをも 胆する必要はない。憲法改正の発議は、具体的にある条文を った運動を展開した。全国の五二の弁護士会すべてが閣議決 こう変えるという案が出たとき、それに三分の二の賛成を得 定・安保法制に反対する会長声明や決議を発表したほか、日 られるかどうかにこそポイントがあるからである。たとえば、 弁連は一一〇一四年末から全国キャラバン運動として全国各地 憲法九条を変えて国防軍を創設する自民党の改憲案に、かり の弁護士会とともに全国的な運動を展開する。この動きは、 にも「平和の党」を自称する公明党がすぐに賛成するとは考 これまで個別に行われてきた市民運動を一つに結集し、統一 えにくい。おおさか維新の会が示す教育無償化や憲法裁判所 的な運動に発展させるきっかけとなった。 の設置は自民党の改憲草案には示されていない。具体的な改 こうして、二〇一五年八月三〇日には、国会議事堂周辺に ロ

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が醸成されるのは、大前提としておかしい 中野戦後の憲法論争は、九条を守るのか変えるのかとい う議論がどうしても中心でしたが、現状はそれにとどまらな すべて、それこそファウンデーションから変えてしまお 界 世うというところまできています。あるいはおおさか維新に典 型的に見られる「ネオリペ的改憲論」ーー九六条改憲論もそ うだと思うのですがーーーは憲法を統治の道具として扱ってい る。国家権力に箍をはめるものとして憲法があるのではなく て、統治機構改革の延長として、時代に合わないものから変 くせもの えていくというもので、こちらのほうが曲者ですね。 新自由主義的な政治の特徴は、かっての一党独裁の共産主 義が「革命が失敗しているのは革命が足りないからだ」とい う論理に陥るのと同じように、「改革がまだ成功していない のは改革が足りないからだ」と、常に改革を標榜するわけで、 そのある種のなれの果てが憲法に手をつけようという議論で す。放っておくとアベノミクスがうまくいかないのは憲法が 悪いからだという話にすらなって、第三の矢のうちの一本に なるかもしれない。そういう議論の飛躍によって統治機構の 部分でクセ球ーーおおさか維新が参院選で具体的に挙げたの は、教育の無償化、統治機構改革、憲法裁判所の設置ーーを 投げて議論を集約させようという、いわゆる「お試し改憲」 の立場に立っと、安倍さんの任期中に可能だし、そこで抵抗 感をなくすような方向で攻めてくる可能性はある。 青井とすると、なんで憲法を改正したいのかがわからな 持集 1 = 、 ~ たが いと言えばわからない。なんで憲法改正したいんですかね。 中野歴史修正主義、いわゆるリビジョニズムと、憲法を リバイズ ( 改訂 ) したいという別の意味でのリビジョニズム が通底していると思うんです。それは戦後の体制そのものを、 サンフランシスコ体制から戦後の日本国憲法含めて、押し付 けられたと感じている人たちが、少しずつでも変えたいとい う情念が根幹にある気がします。 青井同感です。日本国憲法以降がいやなんだろうと思い ますね。その前に戻りたいというか、日本国憲法によって押 し付けられた価値観も含めて性に合わないということになる と、「理由なき改憲」にほば近くなるわけです。前近代と近 代とが倒錯しているともたぶん思っていない。むしろいまが 倒錯状況であって、天皇を戴く「特別な国」なんだから、倒 錯した状況をもとの正常に戻したいという気持ちがうかがわ れる。もはや理性的な議論の対象ではないと思うんです。 中野そうですね。ことの性質上、二極化した議論にしか なり得ない。落としどころを探るような議論の乗り方をして もむだだと思います。 右派のこの情念は、戦後ずっとそうだったわけではなくて、 自民党は結党以来六〇年間、改憲を目指してきたかのように 言いますが、真っ赤な嘘です。実際は、九〇年代の半ばぐら 、には、党是としての改憲論を除くことさえ検討していた。 それがまさに先ほどのリべラリズムの時期だったんですが、 その自民党がいまなぜここまで先祖返り的な様相を呈してい

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( 三月二日参院予算委 ) などの一連の発言である。 た。参院選向け政策バンフレット「この道を。力強く、前 しかし、どこをどう変えたいかも示さずに、まず改憲あり へ。」も、憲法改正にはほとんど触れていない。憲法改正問 きという議論は本末転倒である。憲法改正は主権者たる国民、 題は、国民の関心が低いばかりでなく、かえって票を減らす すなわち憲法制定権者である国民の専権事項であり、憲法改要因になりかねないと判断して、選挙前にはそれを口にしな 正の意思表示ができるのも国民のみである。国会議員ができ いことにしたのだろう。二〇一六年七月の参院選は、与党が るのは、国民の意思を代弁して国会で発議するということに 改選過半数の六一を超える七〇議席を獲得し、さらに、自 尽きる。しかも、国家権力を担う国会議員は憲法に拘東され 民・公明・おおさか維新などの改憲勢力を合わせると、参議 るから、自ら改憲を主導し、それに国民を追随させることを 院でも三分の二を占めるに至った。秘密保護法や安保法制も、 目的に、災害対策に名を借りて緊急事態条項の必要性を訴え、 与党勝利により民主的な正統性が与えられたかのようにも見 改憲実績を作ろうという発想自体、立憲主義、国民主権に反 える。しかし、選挙に勝ったことで違憲の法律が合憲となる する。 ものではない。違憲は違憲である。 憲法改正は、主権者たる国民が国の体制を変えたいと切実 しかも、そもそも現在の国会自体に民主的正統性はない。 に考えたときに、すなわち、現行憲法の下では法律によって衆院選はもちろん、合区を含む一〇増一〇減の調整を経た参 対応できないという具体的な条項の不都合から改憲の必要性 院選も含めて、「一票の格差」の問題は解決されていないか を認識したときに、その手段として行われるものである。 らである。今回の参院選は有権者の四割が選挙区選出議員の 「まず改憲ありき」という発想自体が、目的と手段を取り違過半数を選んだ計算になり、主権者の多数が国会議員の多数 む えた手法であり、国民の制憲権を無視しており許されない。 を選出していない。 これでは憲法が要求する正当な選挙とは ところが六月一日の記者会見で安倍首相は、与党で ( 衆参 とてもいえない。改憲勢力が三分の二といってみても、本来、 を で ) 三分の二をとることは不可能とトーンダウンし、六月一一一発議すらできないはずである。この違憲状態を放置しながら、 実 事日からの参院選に向けた街頭演説では、憲法改正に触れなく 改憲論議を進めようとすること自体、本末転倒で許されない。 既なった。続く六月一九日の動画中継サイト「ニコニコ動画」 ちなみに、自民党は「一人一票の人口比例選挙でなくても 立の党首討論会では、次の国会から憲法審査会を動かしていき よい」とする趣旨の改憲を今回の公約に掲げていた。現実の 違たい、選挙で争点とすることは必ずしも必要がない、と述べ 違憲状態をなくすために憲法の方を変えてしまえというのは、 5

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キムジョンイル 連載 「「第ニニ九回 ( 」 ~ = 六 韓国、サード配備を正式発表霍を ニ = 印・町 ( 輟毳在 8 の 7 防官 国司 たノロ 1 ト . 《 0 へ 4 正と 備室 みド政 一防界 サ国世 北朝鮮で最高人民会議が開催され、国金正日氏が統治した時代、北朝鮮では法の修正、補充、②金正恩氏の国家最高 家最高機関として国務委員会が設置され国防委員会を国家最高機関と位置付けた。位への推戴、③国務委員会の構成、④国 て、新しい政治体制が整った。 金日成主席が存命の一九九一一年、中央人家経済発展五カ年戦略の遂行、⑤祖国平 民委員会の部門別委員会だった国防委員和統一委員会の国家機構化、⑥人事、の ( 一 ) 憲法改正と新体制 会は、そこから独立した国家機関に格上六項目が議題として提一小された。 北朝鮮では五月七日に第七回朝鮮労働げされ、その委員長は国家主席から分離まず第一の点では、憲法第六章の国家 党大会が開催されて、党組織の手直しがされた。九三年の最高人民会議で金正日機構の規定が修正された。『労働新聞』 キムジョンウン 実行され金正恩氏が党委員長に就任した。氏が国防委員会委員長に選出され、金日 ( 六月三〇日付 ) の憲法改正についての報 これにより、国家機関についても近く組成主席死後の九八年の憲法改正を通じて告をもとにまとめてみよう。条文におい 織替えが行なわれるものと予想されたた国家主席制が廃止され、国防委員会委員て、国防委員会を国務委員会に、国防委員 め、六月二九日の最高人民会議第一三期長が国家最高職責と定められた。 会第一委員長を国務委員会委員長に置き 第四回会議は非常に注目されていた。 今回の最高人民会議においては、①憲換えた。国務委員会委員長は「最高指導 北朝鮮では六月末、最高人民会議が開かれ、された。しかし同日、米国財務省は人権侵害 金正恩氏が国務委員長に選出されるなど、新を理由に金委員長を金融制裁対象に指定、七 しい政治体制が整った。七月六日には政府報月八日には米韓両国が高高度迎撃ミサイルシ 道官声明で「朝鮮半島非核化」に言及、注目ステム「サード」の韓国配備を正式決定した。 キムイルソン

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9 中野何しろ改憲そのものが目的になっているわけですか 青井本来の筋から外そう、外そうとしてくるでしようか ら、何とかしてやりたいのであれば、少し中身を希釈して受 らね。七割の憲法学者が自衛隊は違憲だとしていることに対 け入れやすい技術的なものに変えて、公明党、おおさか維新 して、「おまえが違憲だと言っていたじゃないか」となりが ばかりか民進党の一部も乗せたいという形で来ると思います。 ちですが、本当に見なければいけないのは別のところにある 世そこまで技術的で、言ってみればどうでもいい改憲をわざわ はずで、議論をどういう土俵で組まなければいけないかとい ざやることに何の意味があるのかという議論で反撃すること うのは難しいですね。土俵にそもそも乗らないと言いながら になります。市民社会の側でその過程を注視して、議論を 打ち返さなけれま、ナよ、。ー 。しレオしのところが本来の土俵だとい 「改憲ありき」にさせないことが必要です。皆が傍観して国 うことで、適宜適切に戦っていくほかないのでしよう。 会議員の自由な議論に任せていたら、国民投票でいきなり巻 そもそも憲法を志すというか、関心を持っている限りにお き込まれるような構図になるのはまずいですね。 いては、現実政治と切り離されたところで議論は本来できな 青井日本国憲法の場合は九六条に国民投票の規定があり いはずで、樋口陽一さん、長谷部恭男さんや石川健治さんの ますから、憲法改正が正統性を生む一番の中心には国民的な ような方々があそこまで動いているのは、状況がいかに危機 議論があるべきですが、技術的な改憲になるほど議論になり 的かを表していると同時に、プラスの面もあると思います。 にくいですね。日本国憲法改正草案にある緊急事態条項は、 長谷部さんがおっしやるように、憲法のことを常日頃考えな 全く恐ろしいの一言に尽きる、国を壊すためのものではない ければいけない社会は不幸である、と。憲法や立憲主義を考 かという代物だということと、実際上は要らないような技術 えなくてはいけない社会は普通の社会ではないが、そういう 的な憲法改正であるならばなんでやるの ? というような議 政治の時期になりつつあるわけで、これをきっかけに、いま 論とを同時並行でやるしかない。ただ、前者のほうにあまり まで政治から切り離されてきた市民社会を変えていくきっか 比重をかけ過ぎるとおどろおどろしくなって逆に現実味がな けや、国家とか権力を考えるきっかけにしていかなくてはい くなる。いかにも現実的、技術的な改正だと、何の抵抗も議 けない。それについて何がしかの社会的責務を研究者も負っ 論もなく、なされてしまいそうな気がする。どちらに転んで ていると思います。 も、緊急事態条項の議論は難しいですね。 石川健治さんが毎日新聞 ( 七月一ニ日付 ) で「『護憲的改憲』を 技術的な改憲に議論がずらされないように、個別に打ち返せる 考えるまじめな改憲補完勢力には、特に注意を促しておきたい」と 準備をしておく必要があると感じるんですが。 指摘していらして、「新九条論」のことを想起しました。「新九条 特集 1

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ことが明らかになり、違憲の憲法秩序に風穴を開け、既成事「配慮」を適正な範囲に抑えることが鍵を握る。すなわち、 問題があくまでも憲法の条文の解釈、規範の問題という法律 実化を阻止する一歩になるはずである。 この裁判ルートは、憲法秩序を回復するための中心となる 論であって、政治論ではないことを強調する一方で、違憲判 はずなのだが大きな課題がある。日本の裁判所の保守性への 断に政治的正統性があること、すなわち、圧倒的多数の国民 懸念であり、これは憲法論的にいうと司法消極主義と付随的 の支持・意識に適合することを訴えていく必要がある。国民 の支持・意識に応えることが司法への信頼という裁判の正統 違憲審査制という二つの「壁」の問題である。 第一の壁は、司法消極主義である。本来、裁判所は非民主性を支えることになる。何よりも裁判所が政治部門の暴走に 歯止めをかけその役割を果たすことこそが司法への国民の信 的機関であり、国民代表機関である国会の意思を尊重すべき こと、裁判所が政治的紛争に巻き込まれると、裁判の客観性頼をつなぎ止める唯一の道である。裁判所が、司法部門とし て、これまで一定の信頼を寄せることができた政治部門とは と公正さに対する国民の信用が失われることから、裁判所は 全く異質のものになってしまった現状において、裁判所は文 憲法判断に立ち入ることに消極的であったり ( 憲法判断消極主 義 ) 、実体判断において違憲とすることに消極的であったり 字通り、憲法保障の最後の砦なのである。さらに、そもそも する ( 違憲判断消極主義 ) 。 投票価値が不平等で違憲状態の選挙で選出された正統性のな 第二の壁は、付随的違憲審査制である。我が国の裁判所は、 い議員で構成されている国会に判断を委ねることは、憲法保 司法、すなわち具体的な事件・争訟に法を適用して紛争の解障の担い手としての裁判所の職責放棄となろう。 付随的審査制に関していえば、これまで抽象的審査制とい 決を図ることを第一義としている。そこでは、違憲審査が事 む う本質的に異なるシステムと対置されてきた。しかし両者の 件の解決に必要な限度で行われ、具体的事件性が欠けていれ ば違憲審査は行われない。この点が強調されすぎ、従来まで 合一化傾向が指摘されて久しい。付随的審査制のもとでも、 実際には、個人の人権保障を通じて憲法秩序そのものを保障 の裁判所は往々にして、具体的事件性に少しでも問題があれ 実 することが重視されるようになっている。特に安保法制違憲 事ば、憲法判断を避けてきたといわれる。 既 訴訟でいえば、具体的な事件が起こり、誰かが死傷した後で ただ、これらの二つの壁は、決して乗り越えられないもの の ないと判断できないのでは、司法はその役割を果たしている 立ではない。 違司法消極主義に関しては、まず、裁判官がもっ政治への とはいえない。戦争やテロの被害は、通常の人権侵害以上に

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み、ついに二〇一五年九月、安保法制が「成立」した。しか 行われている。その最たるものが二〇一五年九月に成立した 平和安全保障法制 ( 以下、「安保法制」 ) であり、一一〇一四年七 し、これらも、自民党にとっては既定路線といえる。二〇一 月一日、集団的自衛権行使を容認する「解釈」を示す閣議決 二年四月に決定された自民党の「日本国憲法改正草案」 ( 以 定である。現行憲法に反する防衛政策が必要なのであれば、 下、「改憲草案」 ) によれば、九条の二第四項で「前二項に定め 世まず憲法を改正するのが筋である。そうせずに、一時の内閣 るもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する がそのような閣議決定を行い、次いで憲法違反の安保法制を事項は、法律で定める」とある。この軍事機密保持のための 作り、さらに明文改憲に進むという。これは立憲主義を無視法律を先取りして秘密保護法が作られた。また、同三項には、 するいわば「法の下克上」である。 「国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動の 閣議決定から半年後の同年一一一月、安倍首相はアベノミク ほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を スの是非を前面に押し出し ( 「景気回復、この道しかない」 ) 、衆確保するために国際的に協調して行われる活動を行うことが 議院の解散総選挙に打って出た。選挙結果は、定数四七五議 できる」とある。ここに規定されている法律を先取りして新 しい安保法制がつくられた。つまり、改憲草案には、自民党 席中、与党が三一一六議席を獲得 ( 自民党二九一議席、公明党三五 議席 ) 、衆議院で三分の二を占めた。これにより七月一日の が理想に描く国家像が示されているのだから、それに則して 閣議決定に、さしあたりの民主的な正統性が与えられたよ , っ法律を作っただけのことなのである。 にみえる ( 最高裁大法廷判決平成二七年一一月二五日はこの選挙が違 自民党は、この改憲草案をゴールとしてこの国の形を着実 憲状態にあったとするが、ここでは立ち入らない ) 。閣議決定を推進 に変えてきており、あえて選挙のたびに明示的に争点にする までもないということなのであろう。 する安保法制整備に関する公約項目は、約三〇〇項目中、わ ずか一つだが、存在したからである。 ②安倍首相の改憲への意欲 しかし、選挙の勝利が即ち閣議決定の違憲の瑕疵を治癒す 二〇一六年に入り、七月の参院選に向けて安倍首相は、改 るものでないことはもちろんである。 憲に前のめりの姿勢を示し始める。憲法改正は参院選でしつ この閣議決定後、軍事機密の保持につき、特定秘密保護法かり訴えていく ( 同一月四日年頭会見 ) 、いよいよどの条項につ いて改正すべきか、新たな現実的な段階に移ってきた ( 一月 が制定され ( 二〇一四年一二月施行 ) 、集団的自衛権の行使につ 二一日参院決算委 ) 、 ( 憲法改正を ) 私の在任中に成し遂げたい き、日米防衛協力のための指針 ( ガイドライン ) の見直しが進

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民主党政権時代の大きな反省の一つは、親小沢だ、反小沢 観念的保守と現実的保守 だということで、党内でいわば本気の殴り合いのような対立 が生まれたことです。それで党を割る結果となった。非常に 前原井手さんが先ほど言われたように、私は、前文、九 お粗末なガバナンスでした。安倍首相は憲法で仕掛けて、こ 条、それから緊急事態条項がないという点では、憲法改正に ついて議論する余地はあると考えています。そもそも九条一一 の問題で民進党を分断できると思っているかもしれませんが、 それを逆手にとって、むしろ党の結束、懐の深さをアピール 項に関して言えば、日本の再軍備を阻止するというの していくことが大事だと思っています。 意思があってつくられた条項です。ところが冷戦が顕在化し、 もう一つ、真っ先に考えるべきは、安倍政治に不信感を抱 朝鮮戦争が勃発すると、アメリカは占領政策を変えて、今日 の自衛隊へとつながる警察予備隊をつくった。 く人たちの思いをどうやってくみ取るかということです。国 民の皆さんのあいだでは、九条が戦争への歯止めになってい 私は自民党改憲草案のように、新たな役割を自衛隊に与え るべきだとは思いません。現行憲法の平和主義の理念は、こ る、平和のための安心材になっているとの思いは、法律論や れからも尊重され続けるべきものです。ただ、当時憲法の条 歴史の議論を超えて浸透していると思います。この点をしつ 文を「読んで字のごとく」となるよう改正していれば、「自 かりふまえて、慎重な対応をとらなければならない。 衛隊違憲論」が何十年にもわたってくすぶる余地はなかった。 井手社会保障、労働、環境、それに外交・安全保障にし この持論は、ロジックの問題ですから、情勢しだいで変わる たるまで、課題は山積しています。しかし、権力の座にあっ ても、全部一度には動かせない。大切なのは優先順位です。 性格のものではありません。 か その点で前原さんは正しいと思います。 しかし、私は憲法改正が「最重要課題」とはまったく考え 拓 ただ、いまはそう言っていても : : という思いが残る ていません。次の政権交代、あるいは衆議院選挙を考える上 ( 笑 ) 。もしも前原さんが実権を握ったら、あるいは首相にな はでもっとも重要なのは、民進党が自公政権とは異なるどのよ ったら、結局九条に手をつけるのではないかと心配する人も のうな社会像を目指すのか、そして財源論から逃げずに、社会 いるでしよう。改憲は「最優先でない」という世界と、「や の分断を生まない分配政策をどう打ち出してゆくかというこ りません」という世界は、やつばり違うわけです。 ンとです。そのために、意見の幅がある憲法というテーマも含 セ めて違いが断層とならないよう、党内をまとめる必要がある。 前原私は、いずれは総理になり、この社会を少しでも良 特集 1