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検索対象: 小説推理 2016年12月号
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1. 小説推理 2016年12月号

っていた。 えとーーあれ、どうしてだろう、何月だったらしい写真がはらりと落ちた。わたしと男性 かすら思い出せない。長袖のカットソーを着が写っている。きっと、これが夫だ。 何をしてたんだっけ。 とい , つかここは」こ ? ているから、今は春 ? それとも秋 ? 扉から出る前に、差入口からノートや手 ほら、今十紙、ペンを取り上げられた。 答えを求めようと、膝の上で開いていたノそうだ。ノートを見ればいい。 ートを読む。一一十年前の事件、殺人容疑 : 一月だって。最後の日付は三日。きっとこれ「開錠 ! 」 留置場・・ : : 記憶障害・・ : : ? が今のこと。だとすれば、生理なんてまだま扉の外に出ると、服の上からボディチェッ クされる。 慌てて手紙も開けてみた。一一通ともわたしだ始まらない。 の夫と名乗る男からで、一通目は状況の説明安心したとたん、また疑問が湧いた。で、 「あー だった。一一通目には、面会での会話をわたし何をしてたんだっけ。ペンがあるということ上半身から下半身へと移りかけた婦警が、 が後からでも思い出せるように、重要事項をは、 - ノートに何か書いていた ? 気まずそうな声を出す。 ここに書いておく、とある。その内容は、起『今日は検察庁に行ったらしい。さっき看守水色のジャージパンツの股間が、ぐっしょ 訴後すぐに弁護士をつけるから心配無用、なが教えてくれた。帰ってくると夫から手紙がりと血で濡れていた。 どであった。 やだ・ : 届いていて』 咄嗟にしやがみこむ。さっき、ノートで十 続けて、現金も差し入れておいたから好き文章はここで終わっている。 ええと、この続きはーー・ 一月三日だと確認したのに。予定日はまだま な弁当や飲み物を買えばいいこと、そしても だ先のはずなのに。 うすぐ生理が始まるはずだから生理用品を注「五九番。面会です」 格子戸の外から、婦警が声をかけてくる。 それとも、やつばり手紙に書かれているこ 文しておくようにと書き添えられている。 カッと頬が熱くなった。 この人が看守なんだろう。 とが正しかったの ? 毎月少しずつずれてい って、今では月初めに生理が来るようになっ なによ、これ。他人に、しかも男に生理周「面会って : : : 誰ですか ? ー てたってこと ? 「ご主人ですよ」 期を把握されているなんて、ひどい屈辱。 わたし、そんなことも自分で覚えていられ 自分の体のことくらい、わかってる。初潮夫。この手紙を送った人か。 ないわけ ? 以来、数日のズレはあっても正確な方なんだ「すぐ行きます」 から。いつも月の半ば頃。それで今日は、えノートを閉じると、その下にずっとあった「五九番

2. 小説推理 2016年12月号

以上に結婚はすぐ近くまで迫っているのだろ 「最初に言ったと思いますけど、黒崎さんは「ええっ 沙雪と会ってからまだ一ヶ月と少しだ。交うか。 一見強面です。でも根はすごくまじめで、ユ 携帯にメール着信があった。 ーモアもあって優しい : : このギャップは魅際に用意されている期間は三ヶ月ではない こんばんは。今、仕事終わったとこで 力です。黒崎さんの良さは会ってみて初めてか。いくらなんでも早すぎるだろう。 「三ヶ月はあくまで目安です。一一ヶ月くらいす。今日も疲れましたあ。黒崎さんはまだお わかる面があると思うんです」 褒められて照れ臭かった。確かに今までので決めるカップルは結構多いですし、早いカ仕事ですか ? ( > 0 > ) 失敗で、自分に自信が持てなくなっていたのツブルなら一ヶ月で決めちゃう場合だってあ沙雪からのメールはいつもこんな感じだ。 返事が遅れる時もあるが、これくらいの距離 かもしれない。 りますよ」 感がちょうどいい 「でもお相手からすれば、限られた情報しか「そんなに早く : ・ : ・」 お疲れ様でした。こちらの仕事は早く こ乗ります ないわけです。会うところまでいかなけれ「頑張ってください。何でも相談。 終わりました。今、自宅近くの公園にいま ば、そういう良さはわからない。だからパー から気兼ねなく」 まどかに送られながら、私はどこか地に足す。 ティーを勧めたんです。若松さんはきっと、 私が打ち込むと、一分もしないうちに返事 そういう黒崎さんの素晴らしさに気付いてくつかぬ思いで相談所を後にした。 が来た。 すでに外は暗かった。 れたんじゃないですか」 え、そうなんですか。前に話していた いつものように巣鴨駅で降りると、スー パーティーでは三分しか話していないのだ が、それで分かってもらえるのだろうか。いーで惣菜を買って、自宅アパート近くの公園猫ちゃんがいるのかなあ。あ、わたしも今、 や、私も三分で相手のことをだいたい分かつでプランコに腰かける。今日はいつものさび巣鴨にいるんですよ。こっちに用事があっ 猫は出てこない。 て。会えませんかあ ( > しー☆ たつもりでいたのではないか こちらも食事はまだだ。わかりましたとメ まどかに一一 = ロわれたことが頭に残っている。 「この調子なら、そろそろ考える頃合いかも プロポーズ : : : 確かにここまで来たのは初めールを打つ。近くのファミリーレストランで しれませんねー てだ。婚活で一一一回以上会う場合、相手は本気会うことになった。 「頃合い ? ほとんど待っことなく、沙雪は姿を現し で結婚を考えているというが、沙雪とはパー まどかはフフッっと微笑んだ。 ティ 1 を含めるとすでに六回会った。思ったた。 ラ - ロポ 1 ズですよ ,

3. 小説推理 2016年12月号

今り① あなたの ゼイ肉、 落とします 3 垣谷美雨一 00 どうしても 痩せられないあなた。 0 ( 」「心のゼイ肉 . を 落とすことを 忘れていませんか ? 身も心も軽くなる 読んで痩せる タイエット小。 双葉社 ・定価 : [ 円 + 税 140

4. 小説推理 2016年12月号

機嫌そうに聞こえた。今まで、「ぜったいにラッグの量が少なすぎるということですね , ころで、すぐに破綻しますよ」 試験なんか受けない」と言っていたので、照「そうです。〈赤い虎〉や美蘭に対する周囲善田の言葉に上月もうなずいた。 れくさいのかもしれない。 の人間の評価から比べて、事件が小さい。連そんなものが簡単に実現できるなら、暗黒 「もし善田さんがうちの班からいなくなった中、まだ何か隠しているんじゃないかな」 社会の住人たちが、こぞってそちら側に入り ら寂しいけど、警部補になった善田さんも見隠すとすれば、もっと大きな事件だ。〈眉こもうとするだろう。 てみたいですよー 山〉の社長や美蘭は、大きな事件を隠すため これは上月の本心だった。善田は人柄がよのカモフラージュに利用されたのではない 開は、ギャンプル依存症だ。 く、上月班の母親役のように、みんなをまとか。 馮社長から大金をくすねた後、彼はポート めてくれている。しかし、そろそろ彼自身も「美蘭には借金があったんでしたね。そのレースにその金をすべてつぎ込んだそうだ。 ひとつの班を率いるべきだ。 いま、啓天たちから逃げて、復讐をたくら 話、王姫は知っているはずですねー 「なったところで、今と変わりませんよ。そ王姫の事情聴取を担当したのは、上月と堀むとしても、まず金がいる。開ならギャンプ れで、報告書がどうかしたんですか ? 」 田だった。売春については話を聞いたが、美ルで稼ごうと考えるかもしれない。 日本国内で、平日にギャンプルらしいギャ 善田が、それ以上の議論を打ち切ろうとす蘭の借金の件は聞いていない。い つもなら、 ンプルができる場所と言えば、学智はパチン るかのように、短くうながす。上月も、追及雑談の合間に聞き出すこともある上月だが、 をやめた。 王姫はよく喋る中国人には珍しいくらい慎重コ店くらいしか思いっかなかった。 あるいは、闇カジノか。 「この一一件のドラッグ密輸事件が気になるんで、よけいな会話はいっさいしなかった。 とはいえ、学智はギャンプルに興味がない です。何か引っかかる」 「もう少し突っ込んで聞いてみますか , うえ、刑務所に入っている間に、東京の闇 ふたつの事件の概略と、〈赤い虎〉に関す「いやーーー彼女は喋らないでしよう」 る城の推理をおさらいした。善田は黙って聞美蘭もそうだが、王姫はとりわけ、ひとをカジノが今どうなっているのか、事情がわ いていた。いっしか、西川や大田原、堀田食ったようなところがある。もっと材料がなからなくなっていた。カジノが開くのは夜 ら、上月班のメンバーが全員、自席でこちらければ、彼女のロを開かせるのは無理だろになってからで、日中はやはりパチンコだろ の会話に耳を傾けているようだった。 「つまり班長が気になるのは、見つかったド「治外法権とはね。そんなものをつくったと啓天に捕まっていた開が、当座の逃走資金

5. 小説推理 2016年12月号

未央子としては、自分が選ばれたらというた時から、飲み物を運んだり話し相手になっ宝来はとっぜん皆の顔を見回して言った。 ポジテイプな予感より、落ちてシッシッと追たりするなどして、みんなの世話をしてくれ「ところでお一一人は、どんな話を書いたんで す ? い払われることになるのでは、いやおそらくている。 そうなるだろうというネガテイプな予感ばか未央子がここに到着したとき、他の一一人は未央子たちは顔を見合わせた。いきなりこ りが心の中でふくれあがり、もうこの段階ですでに着席していて、宝来華厨王がひとりでんなことを聞かれても、どう反応してよいか 席を立って家へ帰ってしまいたい衝動に何度しゃべっていた。そして今まで一秒も休むこわからない。第一、今さっき宝来は、他人の となくしゃべり続けているのだ。まるで、話作品には興味がないと言ったばかりではない もかられていた。 すのをやめたら死んでしまうと思ってるみたか。 このテープルには、三人の最終候補者 「何です何です、お通夜みたいにだんまりし 未央子、宝来、それに大月景司がすわって、 「結果が出るまで候補者を隣の部屋で待たせて宝来は大声で笑った。「この三人が顔を 選考が終わるのを待っている。 大月はこの新人賞の常連投稿者で、最終候ておくという選考会は、今はもうなくなって合わせるのは、これが最初で最後かもしれな しまいましたけど、 x x 社のミステリ 1 新人いんですよ。もっと仲良くしようじゃありま 補に残るのはこれで一一一度目だ。 小柄で、頭髪の後退した細長い顔にメガネ賞でもやってたんですよねー宝来が喜々としせんか」 「仲良くするのと、はしゃぐのとは違うんじ をかけている。未央子は一目見て、作家といて言った。 うより学校の先生のようだなと思ったが、実「こういうのって、いやがる人もいるかもしゃないかな ? 」大月が口調は穏やかに、表情 際に一一年前まで大阪市内の中学で国語を教えれませんけど、僕は大歓迎ですよ。入選者だは厳しく、宝来に言った。「候補になれて嬉 けが隣の部屋に呼ばれ、先生方から祝福を受しいのはわかるが、自分もはしゃぐからお前 ていたのだという。 「コーヒーのおかわりはいかがですか ? 」桜ける。あとの者はすごすご帰る。じつにはったちもはしやげ、というのは、ちょっと違う きりしてていいじゃないですか。桜木さん、ように思うんだがね , 木が未央子にたずねた。 「これは失礼しました、三度も候補になられ 「ありがとうございます。お願いします」こ僕が受賞したら、ぜひ担当になってください ている大先輩に対しまして ! 」宝来は目を真 の部屋に来てから一一一十分ほどになるが、緊張ねー 「ええ、その折はよろしく , 桜木は軽く頭をん丸に見開き、おどけた仕草で一礼した。 のせいか、のどが渇いて仕方がない。 「先輩のご意見は尊重しますよ。で、先輩の 桜木は、三人の候補者がこの部屋に集まっ下げた。

6. 小説推理 2016年12月号

ろう。ここは有名な暗渠なんだよ。ここをし罰されるはずだ。そうでなくても、クビだろなせせらぎが、かすかな音を立てている。よ ばらく行くと、自然の湧水があるんだよ。すう。生徒を無断で連れ出すなど、規則で固くく光る、澄んだ透明の水だった。 ごいだろ。もうちょっとだから」 禁じられていることだ。でも、どうでもい 「ほら、自然に湧き出てきた水だよ 佑はしばらく鼻をすすっていて黙り込んで 。どうせもう、塾には長くいられまい。最光晴は手を伸ばして、水に触れてみせた。 後ろをついてきたが、やがて、ぼそりと言っ近、同僚たちに白い目で見られていることは指と爪のすき間がかすかに痛む。佑は突っ立 一」 0 知っている。一兀彼女の写真を流出させた男とったまま無言で眺めていたが、しばらくして 「いっか、俺も、先生やお父さんみたいになして、悪評が広がっていた。自分から公表し喉の奥から絞り出すようにして、 っちゃうのかな」 たので、誰のことも恨んではいなかった。 「先生は捕まる ? お父さんは捕まる ? 「お前はそうはならないよ。だって、今日わ「だから、さっきみたいに、どんな女の人でと、小さな震える声で問う。 かっただろ ? あのフォルダの女の人たちにもフォルダに入っちゃえば一緒とか、言わな「それはないと思うけど、近いうちに、お店 も、どこかに家族がいて、住んでいる場所がいでくれよ。せめて、お前だけは に弁護士さんが話を聞きにくるかもしれな あって、俺たちと同じように、歩けば疲れる再び細い道に戻るなり、光晴は懇願するよい」 こめん んだよ。あの人、今は全然関係なくなったけうに言って、頭を下げた。佑はスニーカーではああ、と佑はため息をついた。、 ど、きっと今も優しい人で、みんなに好かれこちらの向こう脛を弱々しく蹴った。 ね、と一一 = ロうと、彼はもはやどうでも良さそう て暮らしている。でも、先生のせいであの画「だったら、先生、なんであんなことしたんに、のろのろと目の前の石段を登り始めた。 像がいろんなところで見られるようになっただよ。あれをものみたいに扱ったのは、俺じ「ねえ、その人んちまで、本当にあとちょっ から、とっても困ってるんだよ ゃないよ。先生じゃないか。先生やお父さんとなの ? 」 道が途切れた。表通りに迂回し、暗渠が現じゃないか。何も知らない俺に教えてやって「もう半分は来たよ。だから、付き合ってく れるのを辛抱強く待って歩いていく。何度かる、っていうふうに一一一一口うのはやめてよ れるかな。本当にごめん。先生はただ単に、 遮られながらも、表通りと高低差の生まれつ「そうだよ。ごめん。ごめん。その通りだ一人になるのが嫌なだけかもしれない。その つある細い小道を追いかけた。 よ。お前が正しいよ」 人んちが今もあるかを見届けたら、もう本当 今頃塾では、佑も自分も来ないので、騒ぎその時やっと、湧水地点に着いた。切り立に終わり」 になっているだろうか。一緒だとわかったらった崖とアパートの隙間に出来た小さな小さ「ちゃんと家まで送ってよねー

7. 小説推理 2016年12月号

わたしは安堵し、自然に笑顔になった。しわ。これじゃまるで : : : あなたが殺人犯になそんなの、ひどい。 かし反対に久江は顔色を失い、頬を震わせてるのを待ってるみたいじゃない」 アラームが鳴った。頭の中が、ばっと白く いる なる。 殺人犯。 「 : : : なんですって ? このまま起訴されるその重い響きが耳に残り、鳥肌が立つ。 「五九番、面会時間は終了です , のを待てというの ? あなたに弁護士が必要「ということは、ご主人は麻由子ちゃんが殺看守が言い、わたしを立たせた。 なのは、今すぐよー したと思ってるのね。あんまりだわ。誰より今、何か重要なことを考えていた気がする のに 久江が怒っているのだと、ようやく気がつも無実を信じるべきなのに」 確かにそうだ。 「麻由子ちゃん」 「ご主人は、あなたが起訴されてもいいと思夫の言葉は優しいが、全てわたしが殺人をアクリル板の向こうの、白髪の女性が呼び ↓丿一」 0 っているってこと ? 起訴されたら、ほぼ確犯したという前提ありきではないか 力し / 実に有罪になるということなのよ」 「麻由子ちゃんは殺していない。起訴なん「いい ? あなたは人を殺せるような子じゃ 「でも減刑ってーー」 て、絶対にさせやしないわー ない」 「減刑してもらったからって何 ? 有罪は有久江の頬を、涙がったう。 そうだ、思い出した。 罪じゃないの。それに、麻由子ちゃんが留置他人が、こうしてわたしのために泣き、怒わたし、殺してない。それなのに、夫はわ 場で不自由な思いをすることなんてわかりきり、・かばってくれている。 たしを犯人にしようとしている。 ってる。なのに何も行動を起こしていないなでも、夫はーー ? 「もう大丈夫だからねー んて。こんなのおかしいわー 本来なら、夫こそわたしをかばうべきでは ドアから連れ出されていくわたしの耳に、 そ , つなの ? ないの ? 女性の声が届いた。 これはおかしいことなの ? 『僕を信じて』と書いてあるけれど、わたし「わたしが一緒に闘うから。わたしだけは、 だけど、腕には夫は味方だって。信じていの無実を信じてくれないような人を信じてい何があっても麻由子ちゃんの味方よー いって書いてあるーー・・・・ いの ? 「あなたのことを心から思っているのなら、 夫を信用するということは、殺人犯になっ看守に連れられて歩きながら、わたしはひ 起訴なんてされる前に弁護士を雇うべきだてしまうということだ。 たすら同じことを自分に言い聞かせていた。 172

8. 小説推理 2016年12月号

どういう意味だろう ? 「麻紀ちゃんのパパ、 「うん、分った」 浩枝は特に感じなかったが、まなみはきっ 一一人の会話は頭の中だけで交わされてね . と何かを片岡から感じ取ったのだ。 こげ・くさい : 「じゃあ、僕は先に失礼しようか」 。何かが焼けた ? 火事。ーーそう、火事があった。あの、安と、仲田が言った。「家に寄って、着替え「無理を言ってすみません」 達直子の大学の研究室で。 とか持たなきゃいけないし」 と、浩枝は言った。 刑事を名のった男が、ガードマンを射殺し「そうね。じゃ、そうして」 「いいえ、どうせ休みの日は何もすることな と、浩枝は肯いて、「麻紀と私はもう少しいので」 ここにいるから と、小田切ルリ子は言った。「麻紀ちゃん 一瞬、浩枝の顔から血の気がひいた。 まさか ! 片岡が ? は大丈夫。見てますわ コアザート、食べる ! 」 浩枝はまなみを見た。まなみも浩枝を見て麻紀は、他のテープルに回っている、デザ「よろしくお願いします , ートのワゴンをしつかり見ていたのだ。 と言って、浩枝は車を降りた。 「おばちゃんも分った ? 」 「では、ごちそうになって申し訳ありませイタリアンのお店からの帰りに、ルリ子が まなみが浩枝の頭の中に語りかけた。 ん」 呼んでくれたハイヤーである。 と、仲田は小田切ルリ子に礼を言って先に 川田岐子とまなみは先に降りて、浩枝は、 「まなみちゃん。今の、確かなのね ? 」 店を出て行った。 その後に、 「うん。何かこげた匂いがした」 「そう : 。でもね、まなみちゃん。今のこ「同じ秘書でも、私は個人秘書じゃないので「寄りたい所があるんです」 とは誰にも言っちゃだめ。分った ? 」 楽ですわー と、ルリ子に頼んだ。 「どうして ? と、川田岐子が言った。 夫が先に店を出た後、浩枝は安達直子へ電 「とっても危いことかもしれないの。まなみ「おばちゃん」 話した。そして休日の今日も、直子が大学に ちゃんや、ママに、危いことが起るかもしれと、またまなみが浩枝の頭の中に呼びかけ出ていると知ったのだ。 それなら、一刻も早く、直子と会っておき ない。だから、おばちゃんだけに言って、黙た。 たい。 , ーーまなみのひと言は、浩枝の胸に深 っててね。分った ? こ . 「なあに ? 」 セッケンの匂いがする

9. 小説推理 2016年12月号

「見ないで ! 腕には手錠。腰には縄が巻かれ、それを引ど前にこちらに戻ってきたんですよ」 ますます体を固くし、膝を抱きかかえる。 いた婦警が数歩前を歩いている。ここは警察「戻ってきた : : : ? ここはどこなんでか 「ナプキン、あげますから。あとで買って返署の中 ? 何だか、前にもこんな光景があっ ? してもらうことになるけど、今日の分はトイたような気がする・ーー 「森ヶ崎署内の留置場です。思い出しました レの都度あげられます。着替えもした方がい「あの , か ? ・ _J いですね。一度、房に戻ってくれますか」 声をかけると、足を止めて婦警が振り向い 婦警は再び歩き出し、ドアの前で立ち止ま 」 0 慰めるような口調で促されたが、わたしは った。面会室、とパネルに書いてある。 立っことができなかった。 「わたし、どこへ行くんでしよう ? 「今からお会いになるのは、ご主人ですよ , きっと今まで、こんなことが何回もあった「ええと、だから面会ですよ」 主人 ? んだ。しかも夫の前で。この分では、おそらすでに何度か同じ質問をしたのか、婦警はわたし、結婚していたの ? どうして何に く取り替えるタイミングも忘れるだろう。夫苦笑いした。 も思い出せないんだろう。 が数時間おきに、トイレに行くよう言ってく面会って誰とだろうと考える間もなく、脳婦警がドアを開け、部屋の中へと促す。刑 れていたんだ。ああ、使用済みのナプキンのに「裁判官」という一一 = ロ葉が浮かんだ。裁判官事ドラマで見るような透明の板が部屋の真ん 処理は ? 捨てることをすっかり忘れて、ト どうして突然、そんな言葉が出てきたの中にあり、それを挟んで椅子が置いてあっ イレに置きつばなしだったこともあったに決か。自分でも不思議だったが、思い切って口た。そして板の向こうには、男が座ってい まってる。 る。 に出してみることにした。 恥ずかしい。 「あの、面会って : : : 裁判官とですかを 手錠が外され、椅子に座る。「面会は一一十 情けない。 婦警が目を見開いた。 分ですから [ と言い、婦警が背後に下がっ 惨めだーー 「昼間の裁判官との接見のこと、覚えているた。 一三ロ の 一一人がかりで無理やり立たされるまで、しんですか ? ー 「麻由子 [ ス やがみ込んだまま動くことができなかった。 「いえ、あの、そういうわけじゃないんです男は板にくつつかんばかりに前のめりになガ っている。 けど。裁判官という一一一一口葉が浮かんだの わたしは灰色の廊下を歩いている。 「裁判官との接見はとうに済んで、一時間ほ これがわたしの夫なのか。なんとなくだけ

10. 小説推理 2016年12月号

「どうしたんだ ? 「ええ、同じです。おそらく、同じようなこ「信じられない , とがあったんでしよう。つまり、真木さんも 聞き終えて、翔介が首を横に振った。 「真木さんの知り合いの文具屋さんに今、き 証言しないことで何らかの利益を得ているの「あんなに警察が間違っていると言っていたいたんだ。当たっているかどうかわらないけ に違いありません」 のに、なぜ、ころっと変わってしまったのど、真木さんが受ける利益はたぶん : : : 」 「汚い。そんなことが通用するんですか、 「たぶん、なんだ ? 」 か。そこが不思議だ」 「ゆかりさんも、そうでしたが、真木さんも宏はまだ腹の虫が治まらない 「税金だ」 表情が強張っていました。良心が疼いている「まさか、警察がわざわざやってきて威した「税金 ? 」 んです。ふたりとも、このあと、苦しみからりしたのだろうか , 「真木さんが使っている税理士は料金が安い 逃れられなくなるかもしれません。そういう 「いや。それなら、かえって反発するかもしけど 、いい加減なところがあるんだ。税務調 意味じゃ、彼らも犠牲者です。それだけ、警れない。水木先生も言っていたが、真木さん査が入るという知らせがあって、真木さんは 察の罪は重い」 は証言しないことで何らかの利益を得たの文具屋さんにこぼしていたそうだ。だいぶ、 水木は激しく訴えた。 申告漏れがあるらしい」 「利益 ? 」 「裁判になっても勝てるでしようか」 「負けるわけにはいきません。もはや、翔太「たとえば、真木さんは交通違反をした。そ「今、確かめたら、真木さんのところに税務 めこぼ さんだけのことではなくなっています。権力のことをお目溢ししてくれるとか・ : 。ま調査は入らなくなったそうだ」 の横暴に歯止めをかけなければ、おなじようあ、そのくらいはあまり利益を受けるという「税務調査を免れたというのか」 なことが延々と続くことになります 感じではないな。交通事故のお目溢しはどう「そう。なぜ、税務調査を免れたのか」 水木は悲壮な決意を口にした。 だろうか。ひとを轢いたのでなければ : 「警察と税務署がつるんでいると ? 「わからない。そんなことはないと思うけ その夜、宏は翔介が帰宅すると、真木の変「父さん、ちょっと待ってくれー 心ぶりを訴えた。 いきなり翔介が立ち上がって電話口に向かど、そういうことだったら説明がつく」 った。 「真木さんが、態度を変えた」 「ばかな」 憤慨しながら、宏は真木とのやりとりを語翔介はしきりに何かをきいている。やがそんなことが罷り通るのかと、宏は悪寒を った。 て、電話を終えて、戻ってきた。 覚えて体が小刻みに震えていた。 ( つづく ) 139 声なき叫び