しばらくの沈黙の後で、まどかが口を開い めて、白い息を吐いた。 「でも整形かどうか訊けずに、お付き合いし 公園を通りかかると、いつものさび猫がいた。 「黒崎さん、整形のこと、どうして話してくている間も悩んでいたんですって。そして決 て、目つきの悪い茶トラとにらみ合ってい 意した。自分は黒崎さんが整形でも構わな た。縄張り争いかと思ったとき、電話がかかれなかったんですかー そのことを正直に話してくれれば受け入 沙雪はそんなことまで相談所に話したの って来た。取り出して見ると、まどかから しいくらでも相談。 これるつもりだった。でも整形で何が悪いん か。そ , ついえばまどかよ、 だ。慌ててタップした。 「はい、もしもし 乗りますと言ってくれたつけ。だがこれは結だ、みたいに開き直るから : : : と」 局、自分自身の心の問題なのだ。あえて言え真っ白になっていた景色がようやく色を回 「黒崎さん : ・ まどかの声は沈み込んでいた。まさか ば自分がもっともっと強く、愛していると告復した。 げるべきだったのだろうに、そうしなかったーー全部逆だったのか。 あの告白は、私が整形していることを正直 ことがまずかった。 「実は大変残念なんですが , 「断りの返事が来たんですかー 返事できずにいると、まどかは思いもよらに語って欲しいという意味だったのだ ! ま さか私に勇気を出すきっかけを与える意図が 問いかけると、まどかはカなく、ええと応ないことを口にした。 あっての発言だったとは。だがどうして沙雪 じた。 「整形しているんですってね、黒崎さん」 「はあ ? はそんな誤解を ? 「・ : ・ : そうですか」 ある程度は予想していたので冷静に応じる頭の中が白くなった。何を言っているんだ「わけがわかりませんよ。どうして彼女は私 が整形だって思ったんです ? 」 が、少なくない衝撃があった。 ため息が返ってきた。 女性心理は本当にわからない。いや、おそ「若松さんは残念そうでしたよ。黒崎さんは らく沙雪はこう思ったのだ。同情などいらな渋くて、自分のイメージする憧れの刑事その「若松さんは少し前、黒崎さんが『御木本ク 。もし憐れんで一緒になるというのなら、 ものと思ったけど、それが整形だと少し引くリニック』から出てきたのを偶然見たらしい んです , きっとうまくいかないと。私はそういう感情なって」 私は声を上げそうになった。 をうまく隠していたつもりではあったが、見ちょっと待ってくれ。止めようとしたが、 アップアップで声にならず、まどかは話し続「確かめたくて黒崎さんのアパートを訪ね、 抜かれていたのかもしれない。 343 婚活探偵
以上に結婚はすぐ近くまで迫っているのだろ 「最初に言ったと思いますけど、黒崎さんは「ええっ 沙雪と会ってからまだ一ヶ月と少しだ。交うか。 一見強面です。でも根はすごくまじめで、ユ 携帯にメール着信があった。 ーモアもあって優しい : : このギャップは魅際に用意されている期間は三ヶ月ではない こんばんは。今、仕事終わったとこで 力です。黒崎さんの良さは会ってみて初めてか。いくらなんでも早すぎるだろう。 「三ヶ月はあくまで目安です。一一ヶ月くらいす。今日も疲れましたあ。黒崎さんはまだお わかる面があると思うんです」 褒められて照れ臭かった。確かに今までので決めるカップルは結構多いですし、早いカ仕事ですか ? ( > 0 > ) 失敗で、自分に自信が持てなくなっていたのツブルなら一ヶ月で決めちゃう場合だってあ沙雪からのメールはいつもこんな感じだ。 返事が遅れる時もあるが、これくらいの距離 かもしれない。 りますよ」 感がちょうどいい 「でもお相手からすれば、限られた情報しか「そんなに早く : ・ : ・」 お疲れ様でした。こちらの仕事は早く こ乗ります ないわけです。会うところまでいかなけれ「頑張ってください。何でも相談。 終わりました。今、自宅近くの公園にいま ば、そういう良さはわからない。だからパー から気兼ねなく」 まどかに送られながら、私はどこか地に足す。 ティーを勧めたんです。若松さんはきっと、 私が打ち込むと、一分もしないうちに返事 そういう黒崎さんの素晴らしさに気付いてくつかぬ思いで相談所を後にした。 が来た。 すでに外は暗かった。 れたんじゃないですか」 え、そうなんですか。前に話していた いつものように巣鴨駅で降りると、スー パーティーでは三分しか話していないのだ が、それで分かってもらえるのだろうか。いーで惣菜を買って、自宅アパート近くの公園猫ちゃんがいるのかなあ。あ、わたしも今、 や、私も三分で相手のことをだいたい分かつでプランコに腰かける。今日はいつものさび巣鴨にいるんですよ。こっちに用事があっ 猫は出てこない。 て。会えませんかあ ( > しー☆ たつもりでいたのではないか こちらも食事はまだだ。わかりましたとメ まどかに一一 = ロわれたことが頭に残っている。 「この調子なら、そろそろ考える頃合いかも プロポーズ : : : 確かにここまで来たのは初めールを打つ。近くのファミリーレストランで しれませんねー てだ。婚活で一一一回以上会う場合、相手は本気会うことになった。 「頃合い ? ほとんど待っことなく、沙雪は姿を現し で結婚を考えているというが、沙雪とはパー まどかはフフッっと微笑んだ。 ティ 1 を含めるとすでに六回会った。思ったた。 ラ - ロポ 1 ズですよ ,
か ? それだけお綺麗なら、男性は放ってお現状報告をしなければいけない。 ではないが、一緒にいて心が落ち着く。無理 かないでしように」 束只の街はハロウインの飾りでいろどられすることなく、今までの自分を肯定してくれ しい雰囲気だったので、つい思っていたこていた。これが終わるとクリスマスムードにる彼女に、完全に私はメロメロになってい とを口にしてしまった。 一変する。毎年、この季節になるとジェラシた。しかし、ここまで来てもこの現実が信じ 「それは : : : 最近は結構申し込まれますけ ーに襲われるのだが今年は違う。私は一人じられなかった。これまでの″どんでん返し″ ど、昔はもてなかったんですよ。ダイエットやないからだ。 もあって、私はますます憶病になっていた。 したからかな」 相談所に着くと、エレベーターに向かつ「それにしても、どうしてあんなにいい人が 本当だろうか。まあ、あまり詮索することた。 私などに応じてくれたんですかね。しかも若 はよくないだろう。私が支払いを済ませよう「ああ、ちょっと待って ! 」 くてかなりの美人だし」 としたが、沙雪は割り勘でと言って強引に自久しぶりに、あの派手な髪形のおばさんが前々から思っていた疑問をぶつけた。 分の分を払った。 駆け込んできた。開くボタンを押し、迎え入「ううん、何故でしよう」 「今日はありがとうございました」 れる。おばさんは得意げにマッケンサンバをまどかはアゴに人さし指を当てた。 「いえ、こちらこそ」 くちずさんでいるが、不快ではなかった。 「それはわたしも謎なんですよね。黒崎さん しい雰囲気のまま、懐石料理店を出て別れ相談所に着くと、まどかがニコニコ顔で迎との交際に応じてくれる女性って、こういう た。後で彼女の方からまた逢いたいとメールえた。 と何ですけど、脛に傷もつ人ばかりでした を送ってくれた。私は嬉しさのあまり、あり「黒崎さん、順調のようですね」 し」 がとうー・ありがとうー・ありがとう ! と「ええ、おかげさまで」 励ましてくれるかと思ったのに、苦笑いせ 書いた。 余裕の笑みを浮かべる。沙雪との交際は順ざるを得なかった。 調そのものだ。あれから食事デートを一一一回、 「 : : : なんて冗談ですよ。黒崎さん、もっと それから一ヶ月余りが過きた。 ドライプデートを一一回こなしたが、いずれも自分に自信をもって、 仕事は終わったが、今日は相談所に寄って好感触だった。いつも盛り上がっているわけ「は、はあ 女の生きる道、次に開く扉は ? 朝比奈あすか「結婚、人生、エトセトラ」次号新連載ー 333 婚活探偵
アルバムを見せてもらったって言ってまし「ですよねえ ! 私も整形してるわけないっ にうずくまる。落とした勢いで、さっきもら料 た。古い写真が全くなかったのでおかしいって思ったんですよ ! あ、いえ、では若松さったボーナス入りの封筒がカバンから飛ひ出 て思ったそうです。この人は過去の自分を封んの誤解だったんですねー 印している。やはり整形だってー ようやくまどかの誤解は解けた。そうだ。 それから何を話したか、記憶が飛んでい 「あ、ああー こんなくだらないことで沙雪と破談になってる。いつの間にか通話は切れている。気づく なんてことだ。ようやくすべてが腑に落ちたまるか。仮面などかぶっていない絶世の美と猫同士の喧嘩はまだ続いていて、さび猫が た。依頼を受けて、婚約者の早坂愛海を調べ女が手を伸ばせばすぐ届くところにいたのフシャーと茶トラを威嚇していた、 るために『御木本クリニック』に何度か行っだ。 結局は私の愛が足りなかったのか。 た。そして自宅で見ていたアルバム。過去のまどかのため息が聞こえてきた。 沙雪が整形だと思い込んでいたとき、私は 顔を隠していると誤解されてしまったのか。 「でも一度こうなってしまうと、ダメですここまで必死に彼女を求めなかった。本気で 最後の待ち合わせで『御木本クリニック』前ね。正式なお断りの後、復縁したという例は愛していたなら、去っていくあの背を追って の公園を選んだのも、自分から言い出す機会ほとんどありません。一度切れてしまった糸引き止めていたはずだ。そうしていれば誤解 を与える意味があったに違いない。 は、それがたとえ思い込みであったとしてもも解けただろう。心の中のどこかで仮面の女 「まあこれは、整形であることをわたしにも簡単には戻らないんです。それでも行ってみと、彼女を見下していたのではないか。 隠していた黒崎さんが悪いですね」 ます ? 」 「運がなかった : : : 」 「いや、私は整形じゃない ! 誤解だ誤解。何ということだ。こんなことがありえてい 自分に言い聞かすようにつぶやくと、落と 違いますよ」 いのか。アルバムで確認していれば、あっさしたポーナス入りの封筒を拾い上げる。だが 私は必死で訴えた。 りと整形でないと分かったはずだ。 やはり納得できない。再アタックしたいとい 「じゃあ黒崎さん、整形していないんです「愛してる ! 私は沙雪さんを愛してるんでう思いが、とめどもなく湧き上がってくる。 す . 「・・ : : で終われるかー・畜生ーーっ ! 」 「当たり覗たー 「黒崎さん , 福澤諭吉を握りつぶすと、私はさび猫に負 だいたい整形するなら、こんな怖い顔にす「誤解だ ! 誤解なんだあ ! けないよう、公園で絶叫した。 るはずがないではないか。 私は叫んだ。カバンを取り落とし、その場 ( つづく ) か」 一」 0
シェイカーを振っている。私はお決まりの端「あっ、恋愛運はいまいちかな」 ことがわかった不幸な男で、婚活について話鮖 の席に腰を下ろしてワイルドターキーを注文図星だったが、私は口元に余裕の笑みを浮せる数少ない知人だ。それからこのバーでは した。 かべた。 ひっそりと婚活中年による作戦会議が何度か 今日は久しぶりに一人でゆっくりと飲め「なんてね。本当はよくわかんないんです , 行われている。 こちらの恋愛事情を詮索することなく切り「ダメだね。あんたはどうだ ? 」 る。考え事をするにはちょうどいい。不し 分のツキのなさについて、しばらく振り返っ上げてくれたので、私は少しほっと胸をなで「ぼちぼちです」 一一階堂も私と同じ相談所に入っている。年 た。これといって大きな失敗はないのだが、おろした。 私生活から仕事までどうも歯車がかみ合って悩んでいるのはそう、もちろん婚活のこと齢も私と同じだ。だが彼には毎月、多くの女 いない気がする。まあ、朝の来ない夜はなだ。最近は申し込んでも受けてくれる女性が性から申し込みがあるのだそうだ。高スペッ そう思い込むしかなさそうだ。 いない。見合い自体が成立せず、なんと四十クなやり手有名弁護士だけのことはある。 「母が気に入らない子が多くて困っちゃうん 「何かお悩み ? 」 五人連続で断られているのだ。 梓紗が青いスモークチーズを差し出した。 窓ガラスに映ったむさくるしい中年の顔をですよ , マザコンを卒業すればいい と思うのだが、 「運がなくてね , 見つめながら思う。私も整形してイケメン、 いやせめて優しい顔になったらモテるのだろその言葉は飲み込んだ。まあ、それだけ選択 早坂愛海の件は正直、それほど悩んではい ない。他にも打つ手はあるのだ。問題は別のうか。 肢があるというのは、うらやましい限りだ。 ところにあった。 「ところで黒崎さん、婚活パーティーに出て 「いらっしゃいませー メガネをかけた中年男が扉を開けて入ってみてはどうですか」 「黒崎さん、いいですか」 梓紗は私の手を取った。ドキリとして思わきて、隣の席に腰かけた。彼は梓紗が他の客 T パーティー ? 」 と話しているのを確認してから、ロを開く。 「僕も最初は抵抗があったんですが、やって ず息をのむ。 みると案外、使えるんですよ。この前もうま 「黒崎さん、どうですか ? 調子は」 「金運も健康運もいいみたいだけどなあ」 手相を観られるとは知らなかった。こうし弁護士の一一階堂光彦だった。彼の母親が依くいきましてね。付き合い始めました。でも て客の手をよく握っているのだろうか。私に頼をしてきて、彼とは仕事を通じて知り合っ母が見た目が派手だとかうるさくて」 心を許してくれたからだと思いたいものだ。 た。婚約者がアダルトビデオに出演していた「ううん : : : それはどうもな。大人数の場は
沙雪は噴き出した。おかしい、と腹を抱え私はトイレに立った。それよりどうする ? 生身の男と女にそんなルールは建前なのかも師 しれない。どっちだ ? くそ、まったくわか て笑っている。 女性が交際中の男性のアパートまで来るとい うことは、自分の身を男性にゆだねるというらない。 「あ、気にしないですかー 「当たり前ですよ。わたし、むしろタバコの意味だといえよう。沙雪はこちらが切り出す迷いまくっていた時、沙雪はアルバムをた のを待っているのではないか。このままではたみ、立ち上がった。 臭いって好きなんです。男つぼくてー 優柔不断で情けない男と思われてしまいかね「それじゃあ、私、そろそろ帰ります。明日 「そうなんですかー ない。思い出せ、野性の本能を。戦え ! 草も仕事があるから」 「ええ、刑事だったら吸っている方がイメー ジ通りじゃないですか。黒崎さん、真剣に一一一一口食系最強のトリケラトプスよ。お前の角はお唐突感たつぶり。もしかして煮え切れない 私に業を煮やしたのだろうか。そう思った うから何のことかと思ったら、そんなことな飾りか。 いや待て。これは普通の恋愛ではないが、沙雪は笑顔でその心配を吹き飛はした。 んだもん。おかしい。ギャグなのか真剣なの ぞ。 「黒崎さん、それじゃあまた」 か計りかねちゃった」 私の中で残念な思いとほっとした思いが交 婚活は通常の恋愛にはないルールがある。 赦された : : : そんな思いが全身を包んでい く。よかった。こんなことで破たんしなくて多くの結婚相談所では、会員同士が男女の仲錯していた。 にまで発展した場△只それは成婚とみなされ「あ、よろしければ車で自宅まで送ってくれ 本山ョによかった。 それから彼女とテレビゲームをしたり、駄るのだ。うん十万という成婚料を払い、晴れませんか」 菓子をばくついたりして小一時間ほどこして卒業ということだ。『縁 E 三 s 巨もそう「ええ、もちろん」 た。まずはこんなものだろう。うつかりしてだ。それを考えに入れると、男女間の関係にそれから私はいつものように会話を重ねっ アダルト Q>Q を発見されるという失態も演ならない前提があるから、沙雪はリラックスつ、沙雪を自宅アパート近くのコンビニまで しているのかもしれない。そんなところに求送った。 じたが、笑われるだけで問題なかった。 ーーうん ? あれ : めれば、野獣のような男とひかれてしまう恐 「へえ、アルバムもあるんですねー 到着したのに、どういうわけか沙雪は助手 沙雪は本棚に手を伸ばした。先日、見たばれもある。優しい象さんだと思っていたのに かりのものだ。本当は刑事時代の格好いい画股間の象さんはパオーン、暴れているんです席から動こうとしなかった。 ね、なんて突っ込まれそうだ。だが現実には「どうしたんですか」 像が残っているとよかったのだが。
「私、子供のころから探偵にあこがれていた晴らしい。だがそれよりも沙雪との会話に手落ち着いて話すと、沙雪は案外に面白い女 んです。自分の中にハードボイルドつぼい勝ごたえを感じる。 性だった。先入観で美人は面白みがないと思 手なイメージがあって、その像を追いかけて「今は小金井に一人暮らしなんですけど、実い込んでいた。元刑事が聞いて呆れる。私も いたんです。その点、黒崎さんって私がイメ家は世田谷区です . 乗せられて自分が刑事になった動機について ージする探偵そのものなんですよ」 私は基本的に聞きに回った。 話す。刑事ドラマの影響という陳腐なものな こちらの心中を察したような答えだった。 「実家は栗の木坂殺人事件があった近くでので、あまり人には話してこなかったが、案 「イメージ : : : そうなんですか」 す。赤い一一一角屋根で : の定、沙雪は身を乗り出していた。 「ええ、おかしいかな」 苦笑いで応じた。私が刑事だったからか、 「へえ、ドラマの影響ですか。何か黒崎さ 笑顔に吸い込まれそうになった。 知っていて当たり前のように話しているが、ん、わたしと似ているかもー 「いえ、ただずっと探偵をやっていたわけでそんな事件は聞いたことがない。訊くかどう 私はいやいやと苦笑いで応じた。 はないんです。まだ探偵になって一一年ほどでか迷ったが、恥すかしながらと前置きして訊「古臭い人間ですよ。ラインも婚活を始めて す。それまでは刑事でした」 ねると、沙雪は大笑いした。 からやり出したくらいです。今もよくわかっ 「元刑事さん ? やつばりそうなんですねー 「フィクションですよ。『踊る大捜査線』にていませんし , 普通のお見合いなら、こういう情報は事前出てきてロケをやっていたんです。刑事もの「やつばり似てる ! 私もです。見ちゃうと に相手に届くことが多い。だが今回はパーテのドラマや漫画が大好きで、自分でも描いち既読になるじゃないですか。スルーしている ィーで知り合っただけなので、互いに未知のやったりするんです。応募したこともあるくと思われないために、来たことがわかっても 部分が多いのだ。もしかするとあの三分間でらいで」 あえて見ないでおこうって、小賢しく考えち 話したかもしれないのだが、すっかり忘却の「そうなんですか。才能豊かなんですね」 ゃうんです。まあ、ほとんど使ってないんで 彼方だ。 「そういうわけじゃないですよ。美大も受験すけどねー やがて先付が運ばれてきた。 したのに落ちましたし。自分のできないこと「同じです。似てますね」 「うわ、おいしそう」 にあえてチャレンジしたくなるだけで無鉄砲これ以外にも話がよく合って、一一時間余り 鱧の琥珀寄せに手を伸ばす。さすがに風見なんです。だから夢を追って、それを職業にがあっという間に過きていった。 オススメの店たけあって、味もサービスも素できる人って、尊敬しちゃうんです」 「それにしてもどうして婚活を始めたんです
苦手なんだ」 替える。それからしばらく話して別れた。 ねしたいんですが . 実はアドバイザーの城戸まどかにもパーテ 「ちょうどよかった」 ィーへの参加を勧められている。だがとてもアパートに戻った私は、べッドに仰向けに スマホの向こうで、まどかは少し興奮気味 無理だ。サクラや遊び感覚で参加する者も多なった。 だった。 くいると聞く。下手をすれば、八神などが遊来月で四十一一歳になる。晩婚化というが、 「実は一人、欠員が出ちゃって、困ってたと び感覚で参加していても不思議ではない。何大きい子供がいていい年齢だ。何とかしなけころなんです。急で悪いんですが、明日の土 曜日、参加できませんかー せ球場でばったり遭遇したりする引きの強さればいけない。 なのだ。どこかの少年名探偵かよと突っ込み横向きになると、本棚のアルバムが目に入「いえ、ただ準備が : たくなる。婚活パーティーだなんて、会えばった。探偵になってからのものばかりだ。刑「婚活パ 1 ティーに準備なんていりません 一発でアウトだ。私はそのことを口にした。事をやめたとき、新しい気持ちで生活を始めよ。ス 1 ッとネクタイがあれば十分。お金は 「気持ちはよくわかります。でも『縁ようとそれまでの分は実家に置いて来た。 後払いでもいいですし。そうやって縁を見過 EnishÜのパーティー参加者はどこかの相談今まではいいことがなかったが、諦めてはごしていっていいんですか」 所に登録しているムはかりですから、サク一フ いけない。人生の伴侶を得て、このアルバム「それは : : : 」 やおかしな人は入り込めませんよ」 に思い出を刻み込みたい。いつまでも一人とアルバムを見つめる。確かにこのままでは 一一階堂はラインの画面を表示した。写真は、 しうのは辛すぎる。 ラチがあかない。虚しく歳を重ねるだけだと パーティーで知り合い、交際中の女性らし ーで一一階堂が言っていたことが、ふっと思い、渋々パーティー参加を決めた。 美人ではあるが、茶髪でネイルアートが頭に浮かんだ。 キラキラしていて、今時の娘という感じで私「 : ・ : パーティーか」 翌日、日比谷公園上空は秋晴れだった。 は好きではない。一一階堂の母親の気持ちも理スマホで『縁 E 三 s のホームページを表参加することになった婚活パーティーはこ 解できた。 示する。婚活パーティーの案内がいくつも出の近くにある一流ホテル十三階で行われる。 梓紗がカウンターで客と話をしながらこちていた。少し迷ったが、まずは相談だ。そう パー一アイーではど , っ動ナよ、、 ししししのか、さつば婚 らを見た。おっと、婚活中年の作戦会議は迅思い、城戸まどかに電話をかけた。 りわからず、緊張が解けない。 速に撤収が基本だ。すぐに仕事の会話に切り「会員の黒崎です。パーティ 1 についてお訊会場に着き、受付の女性に黒崎ですと名乗
えた。だがそれは結局、彼女の仮面のなせる事はできない。 える。会話が弾むことはなく、間があいた。 わざなのではないか。違うと言いたかったが荻窪駅近くの塾を出た後、息子を尾行する長く息を吐き出してから、私は沙雪に切り 出した。 できない。実際、整形と聞いただけでこの狼が、取り立てて不審な動きはなかった。 狽ぶりだ。 「素直に家に帰りましたね 「整形に対する答え : : : 出ましたよ」 沙雪は一度たけ瞬きをし、凜とした眼差し ただし沙雪は早坂愛海のようにその事実を「とりあえず今日は終わりだ」 隠すのではなく、正直に私に話してくれた。 午後九時一一十四分。私は八神と別れ、待ちを私に向けた。 自分がしてきた事実が全てフィになることを合わせ場所の吉祥寺に急ぐ。こちらの答えは夜空を見上げた後、私はロを開いた。 承知の上で・ : 決まっている。後はそれを正直に言うだけ「それがどうした : : : これが僕の答えですー 何も問題はないと、はっきり言い切った。 人は自分を良く見せたがるものだ。化粧すだ。 るというのも同じだろう。それは私も同じ。 沙雪が指定してきたのは、吉祥寺駅近くにそれが深い意味を持っことは、よくわかって 少なくとも沙雪の勇気は、タバコの臭いを隠ある小さな公園だった。『御木本クリニック』いた。これは一生彼女を支えていくという実 のすぐ隣でもある。 質的なプロポーズでもある。考え抜いて至っ そうとした自分にはないように思えた。 長く考え抜いた末、私は一つの決心に到達駅近くの公園には大時計があって、午後九た結論。これが自分の本心だ。沙雪さん、私 し、一万円札をぐっと握りしめた。 時五十七分を指している。何とか間に合ったはあなたをずっと支えていく。 ようだ。夜なので公園に人気はない。犬の散沙雪の唇はかすかに動いていた。だが言葉 は漏れなかった。代わりに沙雪はまっすぐに 運命の日は思ったよりも早く来た。 歩をする人が横切っていくくらいだ。 金曜日。私は八神と一緒だった。大手銀行大時計前には外灯に照らされた、沙雪のい私を見つめた。悲しげな顔だ。黒崎さん、こ んな私で本当にい、 しんですか : : : そう言いた の重役に頼まれて、中学生になる彼の息子をつもの美しい顔があった。 げに見える。だが私はもう迷わない。彼女の 尾行する仕事だ。どうも最近、様子がおかし「こんばんは しレ J し , っ 私が先に声をかけた。 顔が以前とまるで違っていてもそれでいい。 アルバムなどは見たくない。今の彼女を愛し 仕事が終わった後、沙雪と会 , っ予定になつ「ああ、黒崎さん」 ている。今日は互いに夜まで仕事があるの 沙雪は微笑んでいた。しかしその笑みはどていく自信がある。 沙雪は目をそらすと、背を向けた。 で、待ち合わせは午後十時と遅く、一緒に食こか不女けで、緊張感を抱えているように思
私は今日もさがす、未来の妻を。 たん 婚活探偵 第四話仮面の女 もんたけあき 大門剛明 竹松勇二 = 画 ・登場人物・・黒崎リュウジ・・・・・・東新宿の「ウインドミル探偵事務所」に 勤めるコワモテ探偵。不惑を過ぎて刑事から転職。そして周囲に内緒で婚 活中。家の近くの公園にいる猫が唯一心を許せる相手。・八神旬・・・・・・「ウ インドミル探偵事務所」の探偵。ニ十歳そこそこのハンサム。・風見・ 「ウインドミル探偵事務所』所長。スイーツ好き。・城戸まどか・・・・・・結婚相 談所「縁 EnishiJ のアドバイザー。・倉野梓紗・・・・・・西新宿のバー「レッ ド・べリル」のバーテンダー かっ ん こ てい だい どうも最近、運に見放されている。 タバコに火をつけると、私は出てきたビルを振り返った。視線の 先にあったのは吉祥寺駅近くにある『御木本クリニック』という有 名な美容整形外科の看板だ。 ポケットから一枚の写真を取り出す。写っている女性は小顔で目 のばっちりしたかなりの美人で、早坂愛海という日本語、英語、フ 一フンス語と一一一か国語を操る才媛だ。とある大会社社長から息子の婚 約者を調べてくれと依頼があり、この早坂愛海について調べ回って いる 早坂愛海の実家近くで過去を洗っているうちに整形疑惑が浮上し た。私は彼女が『御木本クリニック』に通っていたことを突き止 め、関係者から情報を得ようとした。だがクリニックでは個人清報 管理が徹底されていて、証拠をつかむことはできなかった。 タバコを地面に放りける。もみ消そうとしたが、小うるさそう な中年女性の視線が刺さった。仕方なく拾って、コンビ一一の吸い殻 入れまで持っていく。 ーーーくそ、やつばりついてないな。 憂さを晴らすように、私は新宿西口にある行きつけのバー『レッ ド・べリル』に足を向けた。 いつものように適度に客がいて、女性バーテンダーの倉野梓紗が