乙女 - みる会図書館


検索対象: 平行神話 プラパ・ゼータ 3
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1. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

どい目にあわせた。 指一本動かすことができないほどに痛めつけられても、太陽の神は乙女を忘れることはで きなかった。 太陽の神は傷つきながらも、打ち、焔の馬車を駆って天を駆け続けた。 苦しい恋に悩む太陽の神の第話が、世界じゅうに広まった。 噂は、昼間水の底で眠っている湖の乙女の耳にも届いた。 太陽の神が捜し回っている恋人が自分のことであると、湖の乙女にはわかった。 でも湖の乙女は水の釋。太陽の神に近づけば、消えてなくなってしまう。 思い悩み水面の近くまで浮かびあがった湖の乙女の耳に、太陽の神のき声が聞こえた。 嘆きはやがて恨み言となり、そして罪もないな乙女を憎んだ太陽の神自身を恥じる言 葉に変わった。 湖の乙女は太陽の神の恋心に打たれ、ついに姿を現した。 喜び寄った太陽の神の指先が乙女に触れるわずかまえ、乙女は蒸発し、消えてなくなった。 神恋したあまりに傷ついた太陽の神を思った涙は、消えずに三粒のクリスタルになった。 太陽の神は死んでしまった乙女を嘆き、せめてこのクリスタルに命を与えてくださるよう に、大いなる神に願った。 クリスタルは卵になり、美しい乙女を生まれさせた。

2. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

174 第一の乙女は銀色の鱗を持つ人魚であった。第二の乙女は腰から下に金色の麒の胴体をつ けた人鹿であった。第三の乙女は背中に白い翼を持っていた : 「そこ、ちかーう ! 」 むっと口をらせて、コニーが抗議した。 うた 不意の指摘に、謡いやめ、レイムはきよとんとする。 「そうですね。間違っていますよ」 くすくすと笑いながら、司祭も言った。 まゆ レイムはわけがわからず眉を寄せる。 「音がはずれてましたか ? 」 「いえ、物語が違うんです。第三の乙女のところ。第三の乙女は、七色に輝く蠕のを 持っているんですよ」 「え ? 」 思いがけない言葉に、レイムは息をのむ。 間違ってはいない。 これはレイムが宮廷楽士から習い覚えた歌。姫君とも領主とも、何度も一緒に謡ったこと がある。聖書にも同じ話が載っていた。礼拝堂で司祭の朗読する声を聞いている。

3. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

118 ファラ ・ハンは気を失った。 地表ぎりぎりの危ういところで。 ディーノはファラ・ ハンの手首を捕まえて引き寄せ、体をしつかりと抱きとめた。 白い衣装に白い翼。 おとめ 色が同じであったため、誰もこの乙女の背中に翼があることを目撃して確信したものはい なかった。 もしいたとしても、目の錯として一笑にふされるだけだろう。 羽のはえた人間などいない。 真顔でそれを主張するなら狂気である。 もしも万が一いたとすれば、それこそが世界を救うという伝説の乙女にほかならないの 翼さえなければ、なんら普通の乙女と変わりない、ひとの形をしたファラ・ あの現場の目撃者でもないかぎり、まさかこの美姫が、されてこの世界に出現した 聖女であるなどとは、誰も思うはずがない。 世界救済の望みをう彼女。 誰もが喜んで迎えいれるべき存在。 どうしてかと問われれば自信はないが。

4. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

178 司祭がレイムの横から手を出してページをめくった。 記載されている文章を読み。 レイムは愕然とした。 それによると。 世界滅亡が予見されるとき、背に白い翼を持っ乙女がをいて現れでて、世界を支えて いる時の驪を奪い去ると書いてある。金色の髪の乙女は翼ある乙女を捕らえ、その心臓を えぐり、溢れでる血で世界を救うことになっている。 ( 馬鹿な ! ) 叫び声を、レイムは寸前でのみくだした。 司祭やコニーの前でそのような態度にでることは、望ましくないと思われたからだ。 彼らはこの聖書に書かれていることを、そのままに信じている。 いや、聖書を信じることは、なんの不思議もないのだ。 レイムは司祭に礼を述べて聖書を返した。 うた 頭の中で必死に別のことを考えながらも、せがまれるままに、他の歌をコニーに謡い聞か せた。 がくぜ

5. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

もとかれ、その中に隠された光明が探された。 そして。 厳しい修行によりひとに許された不思議をる、世界一の野通エル・コレンティ老は 提案した。 世界滅亡を予見した伝説を信じてみてはどうだろうかと。 世界の存続を危うくしている不安定な『時の』を正すことができるという、選ばれし 聖者たちの力にすがってみてはどうだろうかと。 この提案をのみ、女王は世界を救うという、夢物語に近い伝説の翼ある乙女のを許 可した。 女王自らが、翼ある乙女が世界を救うことに望みをつなぎ、信じるのだという。 うわさ 女王は『翼ある乙女さえ具現すれば必ず世界は救われる』という噂を広め、絶望しようと するひとびとに呼びかけた。 話王都から派遣された大勢の魔道士が世界各地に向かった。 行魔道士たちはこの希望の噂を伝え、乏しくなりゆく食糧に悩むひとびとに、王都の倉から 分け与えられたものを公平に分配してまわった。 魔道士たちは死に絶えゆく『』を滅亡から救うため、『眠り』の魔道をほどこしてまわ

6. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

172 きゃあきゃあと飛び回るように、少女が喜んだ。 うた 一度軽く目を閉じて、心の中で世界を作ってから、レイムは謡いはじめる。 コニーのために P そして小さな彼女を斌んできた世界に存在する、様々のものに感謝しながら。 優しい優しい気持ちの歌声。 ひそやかに後を追いかけてきた生き物たちは、再び聞こえきた歌声に歓喜する。 それは自分たちのために謡われるものでもあったから。 むかしむかしの物語。 それはまだ神様が地上にいらしたころ。 恵みの溢れる金の時代。 の馬車を駆り天空をめぐる太陽の神様は、年に一度の神々祝宴の夜、透きとおるほど おとめ に美しい一人の乙女に恋をした。 うるわ どうしても一目会いたい、その麗しい声を耳にしたいと、太陽の神様は乙女の姿を求める けれど、どうしても捜しだすことはできなかった。 恋に狂う太陽の神様は昼も夜も乙女を捜し回り、世界は一日じゅう昼間になった。 働きづめの昼の神と、出番を雅された朝と夜とタ方の神が怒り、太陽の神を掫まえてひ

7. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

ちっそく 彼のその細腕は、自分より頭一つ大きい男であっても片手で首を押さえ、つり上げて窒息 よろ ) しゅ させるほどの腕力を持っているのだ。打たれ強いのような筋肉こそまとっていないが、 でな動きには、必要最低限の筋肉を無駄なく見事に配した身軽なこの体型のほうがい おとめ 困ったものだねと首をかすかにかしげて、公子は乙女に同意を求めるよう視線を投げる。 のない金色の髪が、さらりと肩口を滑った。 乙女は、ふんと鼻を鳴らしてそっぱを向く。 ひとみみどりいろ 確かに同じ血を受けついでいる瞳の翠色、髪の金色。 ただし乙女の髪は優雅に大きく波打っ癖をもつ、ひときわ豪華な光の奔だ。囀で ほっそりした骨格を基本にすえた体型は、女性的と褒められるだけに味もなく愛らしい めじり うるわ すんなりと鼻筋のとおった、かすかに目尻の上がる麗しい顔つきは、何者をも恐れない不可 能知らずの若さと負けん気の強さを象徴し、美しさと愛らしさが混同した強さを感じさせ ざせつ る。屈服や挫折という言葉と彼女の存在とは、あまりにも縁遠い 彼女には彼の胚などはじめから見えていた。 「兄様の憂さ晴らしにつきあわされたんじゃ、たまらないわ ! 」 可な花の蕾に似た赤い唇を開き、苦々しく言葉を吐きすてる。 彼女に掫ならないのは、とやかく理由をこじつけて血を見ようとする兄の行為にではな

8. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

176 それに。 おとめ この白い翼を持っ乙女は、ファラ・ ハンのこと。 背中に白い翼のある聖女は、ファラ・ ハン一人。 彼女が存在しなければ、も世界救済も時のも何もない。 司祭はにこやかに知んで、レイムに聖書を開いて渡した。 うた 「駄目ねえ、お歌謡うひとは、ちゃあんとお話覚えなくっちゃ 大人びた口調で、コニーがレイムをった。 職でめくり盛のわかる、よく使いこまれた分厚い聖書。 そこには。 たしかに七色の光を放っ蝌のを持っ乙女の記述がある。 誰かが故に書き直した様子はない。も細工したり直したりした形跡はない。 冷水をかぶったように、レイムの体から音をたてて血が引いた。 「で、でもそれじゃあ、滅亡に向かう世界を救う救世主は : 青くなったレイムのつぶやき声に、司祭とコニーは首をかしげる。 みどりひとみ 「金色の髪を持っ翠の瞳の姫君の、あの物語のことですか ? 」

9. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

ゅうへい フラの塔にディーノが幽閉されたことも知られている。 おとめ 一週間ばかりまえ、聖地にて具現した翼ある乙女とともに選ばれし戦士であることも。 もっとも、した彼らの出発のそれまでは、王都にいる者にさえまだあまりに耳新し うわさ 、王都から遠く離れたこの地までは、伝令の支度も整っておらず、噂は聞こえていない。 ましてや彼らがいきなり訪れようなどとは、誰もが夢にも思うまい あのモルミエナ領主であるならば。 格好が違うから、同伴者がいるから、初対面と錯することがあるだろうか。 ふんいき 独特の魅力を有し、その場の雰囲気すら変えてしまうディーノのそれを忘れきってしま 今目の前にいる彼を別人と思うことがあるだろうか。 「お心づかい、ありがとうございます」 身を案じる問いかけに、ファラ・ ハンが淡く笑む。かすかに顔色が青い。 いらぬ気づかいをさせてはならないと思うから、懸命に笑みを浮かべようとしている。 それがよけいに、このはかなげなまでにか弱い乙女の魅力を増す。 白いルに薄く桜色に赤みを透かす、えもいえない愛らしさ。すんなりとした首筋も、しな

10. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

「たぶんね。建物ひとつまるまる建てられるくらいの大きさか、それ以上かもしれない。こ の地点の中心に、あの王都の礼拝堂と同じような『魔道の封土』があるはず。僕らはそこに 用がある」 「見つけたら ? 」 ハンを連れて、そこに行くから」 「待ってて。ディーノとファラ・ にこやかに、レイムは言った。 まゆ シルヴィンは、むっと眉をひそめる。 「連れて、って何よ」 説明と打ち合わせの終わったレイムは、立ちあがって振りかえる。 「僕が今から二人を迎えにいってくるから。何かあってあそこから出てこないみたいだし」 ハンまでもが出てこないのは ディーノはともかく、世界を救いたいと言っていたファラ・ どう考えてもおかしい。 ひりゅう ・ハンが背 彼女一人で自在に乗りこなすというのは危なげに見えても、あの飛竜はファラ に乗ることを許したわけだし、言うことも聞くはずだ。 平魔道士たるレイムの力が求められるような事態が起こっているのかもしれない おとめ 背に翼を持っ伝説の乙女。 全身を構成する細胞のひとかけらにさえ不思議の力を秘めた、世界さえ救う聖なる乙女。