金色の長い髪、深緑色のマントを着た夢のように美しい若者を、シルヴィンは知ってい る。 手を伸ばせば届くほどの距離にいる魔物の横を通りながら、レイムはそれにまったく気が ついた様子はない。 もとともに墜ちながら。 シルヴィンはかすかに手を引いた 合図を受けて。 飛竜が纃のを吐いた。 むね こころよ 吟遊詩人として訪れた旨を語ると、門番は快くレイムに中に入ることを許した。 コニーたちの話にあるようなな弭はもない。 やかた にぎ 活気に満ち、忙しく立ち働く使用人たちで、館の中はあちこち賑わっている。 似たような領主の館で働いていた経験をもっレイムには、特別に珍しくもない光景だ。 = な行為が行われたらしい雰囲気もないし、これだとディーノたちは客人としてのも 平てなしを受けて休んでいるのかもしれない。 うまくとりいり領主に話を切りだせば、案外簡単にディーノたちに会うことができるかも しれない。
術は申し分なく、成功していた。 「それはなんですの ? とても」 ・ハンが笑んだ。 レイムの前に浮かぶ球体を見つめ、ファラ 花の咲きこばれるかのような艶やかさに、周囲までがばあっと明るくなる感じがする。 ファラ ハンの表情一つで、陰に隠れた埃やカビがかすかに異臭を放っこの部屋であって も、窓を閉め切られて動くことのほとんどない、 こもった空気さえ清浄さを帯びて新鮮にな あながち錯でないことは、楽になる呼吸から明白だ。 ファラ・ ハンの問いに答えるため、レイムは少し視線をファラ・ ハンに・回ける。 綺麗だと褒められたのは球体なのだが、それを形にしたのはレイムである。 間接的な褒め言葉をもらったレイムは、少しばかり照れて笑みを浮かべる。 「これは僕たちの行き先を示す「導きの球』です。この世界を構成している「正』の力を根 源としているから、光と同じく、明るく気持ちのいいものに見えるのです。僕たちはこれを 話用いて道と行き先を知ることができます。けた時のの破片を見つけることができま 行すー いのち 「世界の命と話ができるの ? 」 レイムの言葉から読み取り、彼女独特の価値観をもってシルヴィンが尋ねた。 あで ほこり
今回は、王都から聖戦士たちの旅立ちと、第一のを手に入れるところまで。 ・ハンには危険な不様 世界救済のもうひとつの物語が世界に流布しているという、ファラ なものが彼らの前に立ちふさがり、行き着く先をもうとしています。 きみろうまどうし 運命の公女ルージェスと、不気味な老魔道士ケセル・オーク、獣人ウイグ・イーを加え、 メイン・キャラクターが全員出そろいました。 舞台はこれ以後王都を離れ、時の宝珠を探して各地に移ります。 最終話でもう一度、王都に舞台が戻ってくるまで、女王やエル・コレンティ老魔道師な ど、王都の居残りキャラたちはお休みです。 片山先生のイラストがお気に入りのわたしは、バルドザック兄ちゃんやマリエおばちゃん が話のなかにさえ出てこなくなるのは、ひじよーに寂しくってしいです。仕方ないけど。 そのかわり、と言ってはなんですが。 ひりゅう でつかい顔をしだしたのが、チビの飛竜。 ファラ・ ハンやディーノという、出番の多いキャラにくつついているもんだから、出てく き一 る、出てくる。好き放題に騒いで食って寝る。しばらくはマスコットのつもりだったのに、 ・ハンたちには、ずいぶんといい待遇を受けて可愛がられ、甘やかされてます。 あファラ ただこいつ、わたしが忘れるのよ。作者には無意識にされてるの。 各章が終わって読みかえしてみると、何かアイテムが足りないのね。よーくチェックする
第二章異法 うらな 占いはすぐに結果を表した。 四頭の猛獣たちは、鋼鉄の鎖とその先の枷に捕らえた男の四肢を引きずったまま、それぞ れの方向に逃げおおせた。 中庭に残ったのは、ザクロかアワビみたいにばっくりと赤黒い口をあけた、の抜け殻に いもむし 似た一匹の巨大な芋虫だ。 まともな意識など保っているはずもなかったが、それはまだかろうじて生きているのか、 びくんびくんとエビのように跳ねていた。 内圧に耐えかねて、眼球が半分以上飛びでて、こばれかけていた。 話口から何も出なかったのは、さるぐっわのお陰だ。 行弾けでた内容物が、派手に周囲へとぶちまけられていた。 遠くまで飛散し、矼をびしやりと滴り濡らす赤い液体に、白い脂が入り混じっ に浮かんでいた。 かせ
老魔道師は、重々しい仕草でうなずいた。 女王が、はかなくむ。 「わたくしは、あなたがたの起こすであろう奇跡を信じています。必ず、戻ってきてくださ 何よりも無事に、四人そろって。 女王は誰かを犠牲にして、世界を救いたいのではない。 ハンを具現させたわけではない。 誰かが犠牲になるために、ファラ・ 女王。 この世界をまとめるにたる『生命』そのものの大きさを抱いて生きていけるひと。 女性としての存在を与えられ王位を継いだ彼女は、この世に何かを生みだし、成長させて ゆく、確固たる力で守り抜くという使命を本質的に帯びている。 ある意味、滅亡世界の王たるに、もっともふさわしい人物であるのかもしれない。 話 神 ゆっくりと羽ばたきながら、飛竜が円卓の上に降下した。 レイムは大理石でできた円卓の縁に上る。 振りかえったレイムに、エル・コレンティは重々しくうなずいた。
合いの手を入れて小さなうがく。 こうしよう 「高尚な善人のふりをしている奴らが気にくわないだけだ」 レイムはディーノを少し驚いた顔で見つめ、そしてすうっと目を細めた。 花も実もある若い男であるレイムには、ディーノの本心が知れた。 根本的にひねくれて、ぜんぜん素直でない根性曲がりな性格にも、なんとなくなれてきて これらのやりとりには、ディーノによる表現の限界があった。 冷めた表情で、挑むようにレイムはディーノに語りかける。 「ファラ・ ハンでは役目をいきれない、と言うのですか ? けいべっ いわずもがなの問いかけに、ちらりと横目で視線を投げ、軽蔑するようにディーノは言 「無だな。行かせようとする奴らはひとでなしで、行きたがっている女は身のほど知らず にもほどがある」 話「でも死ににいくのではありません」 行「誰でも最初は格好をつけてそう言う。そうしてなときにを巻いて逃げだすのだ。 一番最初にな」 たとえば。
第五章導球 膝を上げたレイムは、意を決した表情で立ちあがった。 「ゆくか ? 」 老魔道師が尋ねた。 「すぐにでも。僕は動けます」 一刻も早く、行動は開始したほうがいい。 ふんいき しん 少女めいた優しい雰囲気をもっこの青年は、見かけよりも遥かに芯が強い。 無と居ずまいを正し、円卓に向かって瞳を閉じ、レイムは両手を組んで印を結んだ。 声を封じられていたときの讎で、無言のまま、をえる。 ふち 話ひとの背の高さほどの高み、円卓の淵からわずかに内側に入った位置に。 行ばわっと光が生じた。 靄のように頼りない光は、二、三度瞬き、不意に出現する火を連想させる勢いで、 ばっと燃えあがった。 はる
を知ることができた。 あの聖女の広場、シルヴィンをうのから守ったときに初めて感じた、あの魔道 士たるものだけのもっ力の感覚だ。 ややあって、レイムは目を開けた。 開けてまっすぐに老魔道師を見た。 顎を引き小さくうなずく。 「できると、思います」 自信はなかったが、断言することはできた。 開く、それだけなら、不可能ではない。 「でも : : : 」 レイムは言葉を濁した。 自分一人なら無責任にあきらめもっくが、ファラ・ ハンやディーノ、シルヴィンなどを 伴って、無事にこれを出入りすることなど、とてもできそうにない。 話続きを言いよどむレイムに、老魔道師が近寄った。 そうく 行枯れた巨大な樹木にも似た痩驅が、頭一つも高い位置から間近くレイムを見下ろす。 ひとみ 俗世に縛られず、神秘とともに生きる、深みのある穏やかな瞳がレイムを見つめていた。 そこにいるのに近くない、離れていても遠くない、不思議な人物。
「これだけたくさんのガラクタを集めて、いったいなんの役に立つのだ ? 」 いたけだかろうまどうし 物珍しげに見て回ったディーノが、居丈高に老魔道師に問いかけた。 簡単にガラクタと一 = ロい切ってしまうところが、いかにも彼らしい。 青くなってレイムがディーノに振りかえる。 ディ 1 ノの扱い方を心得ているらしい老魔道師たちは、無礼なその物言いにも動じること はなかった。 話「集めることに意味があるのではない。作られたことに意味があるのだ。それらは皆、役立 行っために作られている」 ゼんもんどう 老魔道師は禅問答をするような口調で静かに説いた。 ディーノは目を細める。 ファラ・ ハンを守り、同行するための、聖戦士なのだ。 女である自分が選ばれたのには、それなりの理由があったのだと、納得した。 奮起し、一つ大きくシルヴィンがうなずく。 晴れやかにんだ。 急に元気になったシルヴィンに、わけがわからないながらもファラ ・ハンは微笑みかえし
部屋に置かれたいくつもの燭台の上でかすかに揺らめきながら燃えている、魔道の ひととおり見て取って。 ファラ ・ハンは、これこそがこの世界の縮図であるような気がしていた。 科学と魔道。 混在し、お互いに支えあって成り立っている世界。 ファラ・ ハンの感覚において、本来なら相いれぬ二つのものたち。 部屋に溢れ、はみでそうなほどの知識。 これほどまでに蓄積されたものがありながら、急発展していかぬ、文明世界。 どれほどの時が流れていたのかは、教えられなくても目で見て知ることができる。 こまめに手入れされ、補修と修繕を繰りかえし、何千年何百年という長き時代を耐えてき た建造物がここにある。 一一百年という巍を重ね、生きてきた老魔道師がここにいる。 話この世界を支えていた『時の驪』。 行それはもしかすると。 基本的にとてももろいものであったのかもしれない。 あるいは、ちょっとしたことで〕朋壊してしまうような。