魔物 - みる会図書館


検索対象: 平行神話 プラパ・ゼータ 3
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1. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

236 夢にも思わなかったに違いない。 失敗を恐れ、館全体をの蜥じの法陣で囲っていたことが、外への魔物の流出を 防ぎ、限られた狭い空間における時の驪の価値を高めた。 蜥印を解いたがゆえに一番初めの生けとなった領主は、魔物に食らわれると同時に時の 宝珠を手に入れた。 しょ上ノヂ・き 時の宝珠を受け入れたことと魔物に食らわれた衝撃で、それまでの記憶の大半が欠落し しかしそれでも、領民を、ひとびとを救いたいという強固な意志が、消えきらず残ってい たとしてもおかしくない。 欲深き魔物でありながら、絶対権力者。生命の尊厳を覚えている者。 人魔。 ひととしての彼を支えている時の宝珠を取りだせば。 しようしんしようめ、 領主は正真正鑵のひとに戻る。 ひとに戻った瞬間に、とりいていた魔物に食らわれ、本物の魔物と化す。 野斧のをうけ、滅しようとしている魔物に。 かな ひとみ 哀しい瞳でレイムは魔物を見つめた。 このまま魔物として彼は死ぬ。

2. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

232 喪した青い瞳が、ファラ・ ハンを見返す。 命をもかえりみない大胆な行動により、すでにして気勢はそがれていた。 無言で見返すディーノの瞳の中に映っている自分の姿を捕らえ。 ファラ ・ハンは、 0 のように引きしまった体驅を抱きしめていた腕を、ばっと放した。 うつむき、くるりと背を向ける。 とても向かい合ったままではいられなかった。 事切れようとしている領主は、ずるりとくずおれる。 くちびるか その姿を見つめながら、レイムは軽く唇を噛んだ。 いぎよう まもの その異形のものが本物の魔物なのかそうでないのか、わからなかった。 いくら上級の魔物であっても、聖なる斧の放っ聖光の前にはひとたまりもないはずだ。 事実、ほかの魔物たちは皆、消え失せてしまっている。 形を残したまま、存在する魔物などいるはずがない。 魔物とひととを見分けられるシルヴィンは、レイムとは違う観点から同じことを感じ、軽 みめかたち く目をこする。おぞましい見目形をしている魔物そのものであるそれが、なぜだか魔物では ないように思えてならないのだ。

3. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

192 意識して目をこらすことによって、それはより明確さを増した。 まもの ひとの姿から変じて魔物に見えてくるものさえ、数しれない。 ぼうだい 種類も数も膨大な魔物。 たる 樽を積みあげたり、洗濯をしたり、下働きのようにして働く魔物たち。 ときどきほんのわずかに、それらの中にひとが混じっている。 どーた しゅうあく 醜悪な姿形をした魔物たちの集まりの中に恐れげもなく混じり、戸端会議でもするよ うに談笑していたりする。 緊張するような、攻撃しかけるような、おぞましさに糶悪するような、複雑な表情でシル ヴィンの顔がんだ。 ほかの誰もは、みにひとのふりをする狡な魔物に気がついていない。 気づかないまま、魔物をそばに招き、我が身を危険にさらしている。 たましい それを見分けられたのは、自然なる生命と間近い位置に存在しているシルヴィンの魂の本 質があったからだった。 門の方向に視線をやったシルヴィンが見たのは。 門番らしい格好をしたひとに伴われ、魔物たちのそばを抜けて歩きくる、一人の詩ん の青年の姿だった。

4. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

200 遥かなる高みから、彼らの目指す場所目指して巨大な影が矢のように降下していた。 それよりすこし遅れて、もうひとつの影が舞い降りてきている。 一瞬上を見やったシルヴィンの飛竜が、仲間たちの到着に高らかに一声いた。 まほうじん レイムはシルヴィンに魔法陣を探してくれるように頼んでおいた。 こころよ 快く引き受けて、シルヴィンは飛び立っていったはずだ。 まもの まっさっ どうして彼女が魔物と人間を見分けて、魔物を抹殺するためにここに来ているのか、レイ ムにはわからなかった。 そしてなぜここにだけ、これほどの数の魔物がいるのかも、わからない。 まち 街のほうでも、魔物がひとのふりをして混じっているのだろうか。 思いをめぐらせ、レイムは首を振る。 あの街の寂れ方は、乏しい物資にようやく命をつないでいる、けなげなひとびとのもの 魔物に支配されている街ではない。 ではここは。 ひとのふりをして活動していた魔物は。 いったいなぜそんな茶番を演じる必要があったのか。 はる

5. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

ディーノが魔物にのまれた。 ただならぬ飛竜の哭き声に振りかえったシルヴィンが見たのは、その瞬間である。 ぎよっと大きく目を見開いたシルヴィンは、慌てて飛竜の向きを変える。 そしやく みもだ ぐちゅぐちゅとらしい音をたて、巨大な魔物は咀嚼を開始して身悶えた。 毒々しいの色をした液体が、閉じた魔物の開口部から溢れた。液体は、中から現れでた ひまっ 魔物のために突き崩された石畳の上に、汚らしい飛沫を飛ばし、こばれ落ちる。 こうしよう やかた 館からまろび出てきた領主が、ディーノをのみこんだ魔物を見て、哄笑した。 魔物の親方らしい威厳と風格をもつ、立派な衣服までまとったそれに、シルヴィンは驚 爬。めいたそれが、なぜ二本足で立ち、衣類まで身につけているのか、わからない。 見分けられると確信していたシルヴィンの目に。 そのものは、魔物のようにも、ひとのようにも、見えた。 一方。 ・ハンたちは。 平魔通の蜥土たるべき場所の近くに降りたレイムとファラ がれき 瓦礫の山と化したそこが、一見して目指していた場所に間違いないことを確信した。 印を結び、レイムがその中に踏みこむ。

6. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

ならば。 くんりん ここで君臨しているひとこそが、それを得た者。 ここの絶対権力者であるとする見方が、まず第一に当てはまる。 「でも : ・ ファラ ・ハンは、思い当たる人物に困した。 「どうしましたか ? 」 . ハンに、レイムが近寄る。 心当たりのありそうなファラ 「あれは、たしかに魔物でしたもの : おぞましい姿にした、領主ツィークフリ 1 ト。 しゅうあく ・ハンはぶるっと身震いし、飛竜を強く抱きしめた。 醜悪なるそれを思い出し、ファラ 「キャウ ? ・ハンにずりする。 くりつと首を上げ、飛竜はファラ ハンを安心させるかのように、レイムは寄り添うように えの色を浮かべ震えたファラ・ 間近く寄り、かすかに首をかしげて見つめた。 きれいみどりいろ 平きらきらと星を浮かべて澄んだ、綺麗な翠色の瞳。 おもも ・ハンは淡く笑んだ。 優しい面持ちでうなずくレイムに、ファラ 簡単に話を聞き、レイムは目を細める。

7. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

ハンのな声が呼ばわった男の名が、不思議と気持 なぜだか、ついいましがたファラ・ ちを落ち着かなくさせていた。耳から離れない感じがした。 ファラ・ ハンの顔をまともに見ることがためらわれた。 小作りな白い手を握った手の先が、ひどく熱い。 するどきば ぞろりと鋭い牙を生やしたロを開け、笑い声をあげる領主の眼前で。 勝利に酔い、 巨大な魔が齣敲を発して爆発した。 粉々に砕け散った肉片が、激しい爆風によって勢いよく飛散する。 おだくにくか、 いまわしい汚濁の肉塊の真ん中に。 しようき 瘴気にあてられ、ぐたりと翼を広げる飛竜がいた そして。 右手に銀色に光り輝くを持つ、ディーノがいた。 ぬらりとした魔物の緑色の体液と肉片で、飛竜もディーノも、全身ぐずぐずに汚れてい 話 平汚物と呼べるそれにぞっぷりと濡れそぼち、重くよれている。 それらにも汚されることのないもの。 硎ぎまされた刃物のように鋭い光を放っ青い瞳が。

8. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

234 むくろ 形あるままで、骸をさらすはずがない。 みにく 醜い死骸も、自然なる世界に存在していてはならないのだ。 浄化され消える定めである。 疑り深いディーノは仕損じたかと気軽く考えて、もう一度を振り下ろそうとしたのだ が、事態の意味するものは、そんなに簡単なものではなかった。 こぼ 魔物の目から、透明な涙が珠を結び、ほろほろと零れ落ちる。 魔物に滅は存在しない。 たとえ、ひとの姿を借りたり、乗り移ったとしても。 「本物の、ツィークフリートなのか : ひとであるのか。 あったのか。 いずれにせよそれは、信じがたい事実だった。 魔物がひとにとり憑き、あるいはひとを食らうことにより、その姿を得て成り代わること はよくある。 だが、それはあくまでも、魔物でしかない。 ひとの意識を保ちきることはできないのだ。 領民のことを気づかってやるようなことなど、到底できはしない。 まもの たま

9. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

死に際に、弱い生き物たちを守ろうとするようなことなど、あるはずがない。 消えようとする生命の灯を懸命につなぎとめ、がくがくと震える顎を動かし言葉を翫ごう とする魔物に、レイムは近寄りひざまずく。 「あなたが時の驪を持っておられたのですね」 慈悲と愍のこもった口調で、静かに話しかけた。 こ 涙を溢れさせる魔物は応えない。 いらえる力はもうない ひとの意識をもったまま、この領主たる男は魔物の力を手に入れていた。 そのような不思議を可能にするのは、時の宝珠の破片という、莫大な力の存在なしには考 えられない。 おそらくは少しばかりの魔道に精通していたがために、この土地にある魔道の蜥土のこと を知ったのだろう。 時の宝珠の迷いこんだそこならば、失ったあらゆる自然の力さえ、元に修復できるだけの こじ 神聖なる力を誇示していたことだろう。 平誰もが藁にもすがりたい気持ちで、物焉をむかえつつある世界に戦いていたのだ。 できうる思いつくかぎりの方法を試したとして、なんの不思議があるだろう。 蜥を解き、そのカのを己が物にすることが、同時に魔物を解き放っことになるとは、 ばくだい

10. 平行神話 プラパ・ゼータ 3

「あれは魔物じゃないわ。ただの虫。ゲルゼルって名前の、血を吸うやつよ。森の中にはよ くいるわ。まだ生き残ってたのね . すべての生き物が死に絶えようとしている世界。 ひとや動物に寄生して生きている生き物のほうが、自然から食物や栄養を得ていたものよ りも幾分か生き残る確率が高いのか。 害虫にほかならないものであったが、それでも一匹でも多くの生物が生き残っていたとい うことが、シルヴィンには豈〕しい。 そうはく ・ハンは、虫の大きさから想像し、蒼白になる。 血を吸うと耳にしたファラ 「あんなのに血を吸われては死んでしまうわ ! 早く助けましよう ! 」 怒るような激しい口調に、シルヴィンはきよとんと目を丸くした。 でもあれが血を吸うっていっても、ちょっと痺れて一時的な貧血を感じるくらい で、吸い口が腫れるとか何もないし : : : 、木の上とか大きな石の上とか、同じ地面の上にい なければ、すぐに見失ってどこかに行っちゃうようなな虫だし : : : 」 袵ようするに、見た目ほど恐ろしい虫ではないのだ。 平当たり前の環境で育ってきた者なら、誰もがゲルゼルを追い払う方法を知っている。 ばか それを知らないのはよほどの馬鹿か、世間知らずだけだ。 森に入るには入るだけの気がまえと常識がいる。 ひんけっ