真由子 - みる会図書館


検索対象: 怨讐の交差点:霊鬼綺談
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1. 怨讐の交差点:霊鬼綺談

ゅうれい 「君の妹が交差点の幽霊の話をしてくれたよ」 おび びくびくと怯えた眼を勇帆に向けた。 「苛められてあの交差点で自殺した子が、苛めた子を死に誘うってね。 ・ : 苛められた 子っていうのは田口幸江じゃないのか ? かか からだ 頭を抱えて真由子はしやがみこんだ。身体全体がぶるぶると震え、発した声も弱々し かった。 「私のせいじゃないわ : : ・。私だけのせいじゃない : 。だって大人も忘れなさいって 言ったもの。私は見てただけだもの。湊だってリカコだって同罪よ」 勇帆は腕を掴んで、無理やり真由子を立たせた。顔は涙で濡れていた。 「湊も同罪ってどういうことだよ ? ちゃんとはっきり話せよ」 「勇帆、手を放せ」 高陽が割って入って、真由子を勇帆から引き離した。片手で真由子の肩を抱いて、気を たた 点静めようと、もう片方の手で背中を軽く叩いた。 交「落ち着いてからでいいから、話してくれないかな」 讐 真由子は腕の中でがたがたと震えていた。 怨 さそ ふる

2. 怨讐の交差点:霊鬼綺談

156 「あれは : いっか勇帆の家で見た護符に似ていると思いながら、自分のべッドに貼ってあったのか 確信が持てず、ロに出して訊くことはしなかった。 高陽の質問に、見るまに菅真由子は落ち着きをなくしていった。 「教えてほしいんだ。 5 年前になにがあったんだ。どうして 4 人も事故に遭わなきゃいけ ないんだ」 きふく しゃべ 感情の起伏が少ない高陽の喋り方が、真由子に圧力をかけた。 はた くちびるふる 傍から見てもはっきりわかるほど真由子の唇は震え、顔色は紙のように白くなってい その様子を、勇帆は腕組みをして黙って見ていた。 「事故に遭う直前、リカコは『ごめんなさい』、湊は『忘れていたわけじゃない』と言っ ていたそうだ。これはどういう意味なのか、君なら知っているんだろう ? からだ 高陽の問いかけにびくりと身体を震わせ、真由子は後ずさった。 一一 = ロ葉にならないことを言いかけて口を動かす真由子に、勇帆が初めて口を開いた。 ごふ

3. 怨讐の交差点:霊鬼綺談

いさほ 次の日の朝も登校する前に、勇帆は病院に足を向けた。 立ち寄るというより、神宮前の自宅からわざわざ出向いていって、渋をにある学校に戻 みなと るかたちになるのだが、時間のロスがあっても湊の様子を見ておかないといけない。ここ かん 2 、 3 日が山場だと勘が教えていた。 病室に入ると、湊の母親もまだ来ていないようで、 3 人の病人が眠っている静けさだけ があった。 勇帆は櫛にると、湊の手を取った。点滴の跡がどす黒く内出血して痛々しかった。 「湊、おはよう。今日は真由に会ってくるよ。交通事故に遭った田口幸江の話は聞い 点たけど、俺はおまえが苛めをしていたなんて信じられないんだ。 5 年前になにがあったの 交か菅真由子に訊いてくるから、おまえは心配しないで早く目を覚ませよ」 語りかけて軽く手を握っても、湊はびくりとも動かなかった。 「俺に笑いかけてくれよ : : : 」 握った手を頬に当ててみた。体温の温かさが伝わってくる。喋らなくても、動かなくて ほお しゃべ

4. 怨讐の交差点:霊鬼綺談

「だから彼女は出てきたんだ。自分の存在を示すために、今頃になって現れたんだ」 「 : : : どうしよう : : : 、私も死ぬの ? あの交差点で車に轢かれちゃうの ? 」 ふらついて真由子は高陽から離れた。 「幸江はあの現場にいた子を全員殺すつもりなのね : ・ 高陽は真由子の腕を餡んだ。 「しつかりして : : : 」 「いやーー 来ないで ! 近寄らないでよ ! 」 取り乱した真由子を押さえつけようとしていた高陽は、彼女が自分ではなく、背後のな にかを見ていることに気がついた。 ごめんなさいー 「ごめんなさいー 叫ぶ真由子の両腕を掴んだまま、高陽は振り返った。 うすばんやりとではあったが、そこには誰かが立っていた。 「勇帆 : : : ? 」 その白い影から視線をはずせず、高陽は勇帆を呼んだ。 讐 「見えてる : ・ 。田口幸江だ : 怨 低いけれども、はっきりした声で勇帆は言った。 はいご

5. 怨讐の交差点:霊鬼綺談

152 校の写真よりはずいぶんと大人びていた。 「菅 : : : 真由子さんですよね ? 」 こうよう 高陽が 1 歩前に出て訊いた。 突然の見知らぬ訪問者に眼をみはって、真由子は頷いた。少し身を引きぎみにして立ち 止まった態度が、不審の念を露にしていた。 「僕たち、湊のクラスメートです。僕は吉舎、彼は船津といいます。菅さんは湊が事 故に遭ったのを知ってますよね ? けいかいしん 身元を名乗っても真由子は警戒心を解かず、しぶしぶ頷いた。 「事故に遭う前に湊に会いましたか ? 真由子はバッグを地面に下ろした。話が長引くとみたようだった。またその話かと少々 うんざりした顔が言っていた。 「会ってはないけど、電話はあったわ。リカコから連絡がなかったかって」 「リカコから : : : ? それで君のところにはあったの ? 」 「あったわよ。どういう意味かわからなかったけど『あの子が呼んでる』って言って、電 話は切れたの。湊にもそう言ったわ」 「あの子が : : : 呼んでる : ・ あらわ うなず

6. 怨讐の交差点:霊鬼綺談

「ひと雨ごとに寒くなって、本格的な秋が来るんだろうけど : ・ 、いやな雨だね」 こうよう かさかたむ 傘を傾けて高陽は空を見上げた。だが、街灯の明かりの中に細かい糸のような雨が見え るだけで、雨雲は暗すぎて識別できなかった。 「電話を入れてねえけど、菅真由子はいるかな ? しぶや 「今、 7 時すぎか : : : 。渋谷で遊ぶような子じゃなければ、いる時間だけど」 よりん ろうか 真由子の住むマンションの階段を上がり、呼び鈴を押した。雨が吹き込む廊下からは、 となり 隣のマンションの非常階段が手に届く近さに見えた。 出てきたのは真由子の妹だった。 「お姉ちゃんは学校の行事で、関西に行ってますけど」 「関西 ? 部活かなにか ? 修学旅行じゃないよね ? 」 ほまえ 微笑む高陽に、まだ小学生と思われる少女は頬を赤らめた。 「テニスの試合です」 点「いっ帰ってくるの ? 「あさって」 「そう、じゃあまた電話してみるよ」 一一人は妹にバイバイと手を振って、その場を離れた。 真由子があさってまでいないということは、そのあいだ事故は起きないだろう。二人に ほお

7. 怨讐の交差点:霊鬼綺談

172 の霊だった。 かなしば からだ いくらカを籠めても、金縛り状態になっている身体は自由にはならなかった。 きつねかをたか 狐の甲高い声が聞こえた。 視線だけを移すと、 3 人目の霊が狐と真由子を離そうとしていた。 ちかこ まさみ 「リカコ、知賀子、昌美っ ! こんなことをしてなんになるつー おも 問いかけに 3 人は、同じ想いをぶつけてきた。 『苦しい 、助けて : ・ ここから出して : : : 』 すが こ、つ于・い 縋りつくように切ない想いが洪水となって、高陽を襲った。 じゅばく 気が集中できない高陽をあざ笑うかのように、狐の呪縛を離れて、真由子は交差点に走 り込んだ。 プレーキの音。タイヤの焼ける鬼い。ぶつかる衝撃音。人の悲鳴。 あおむ さまざまな音の重なり合いの果てに見たものは、仰向けに倒れ光を失った真由子の、う ひとみ つろな瞳だった。 ふっとかき消えるように、 3 人の霊の存在が消えた。 ひざ 支えられていたものが急になくなり、高陽はがくりと膝をついた。 「どうして : と 車が停まり、ばらばらと人間が真由子に近づくのを客観視しながら、高陽は自分の無力 こ

8. 怨讐の交差点:霊鬼綺談

眉にを寄せて、真由子は訝しげな顔をした。 「いったいなんなの ? どうして湊もあなたたちも同じことを訊くの ? 「リカコは湊にも同じことを言ってるんです。『あの子が呼んでる』って」 いっしゅん 真由子の表情が一瞬固まった。 「そしてリカコが死んだ同じ交差点で湊は事故に遭った」 「ど一つい一つことなの ? ・ 「奥本リカコから始まって、湊、沢知賀子、横山昌美。この 4 人が立て続けにあの交差 点で事故に遭っている。みんな、自分から道路に飛び出し、自殺とみなされていて、今生 きているのは湊だけなんだ。それでも意識は戻っていない」 こきざ られつ くちびるふる にら 名前の羅列に小刻みに真由子の唇が震え、それを隠そうとして、きっと高陽を睨んだ。 ほしじるし 「この 4 人に加えて君。湊の持っていたメモ帳に星印がつけてあった。無事なのは君だ けなんだ。君があの交差点で事故に遭う確率はとても高い」 点「な、なにが言いたいのよっ ! 私があの交差点で事故に遭うって決めつけないでよー : だけじゃな 交「この 5 人の関係を教えてくれないか ? 5 年生の時に同じクラスだった : もくげきしゃ 讐いはずだ。田口幸江の事故の目撃者でもあった」 ぎようし 真由子の眼は大きく見開かれて、高陽を凝視していた。なにかをじっと見つめていない からだ と身体が支えきれないと思えるほどの強い視線だった。 あ き

9. 怨讐の交差点:霊鬼綺談

真由子には幸江が、湊に助けてという信号を出しているのがわかった。振り返った湊を じっと見つめていたからだ。 やらなければ人間扱いしてもらえない日々が毎日続く。けれどやるのは、自ら車に飛び 込んでいくようなものだった。どちらにしても、先の見えない暗い未来だった。 「ほら、点滅するわよ」 はじ ほおこうちょう 興奮して頬を紅潮させた知賀子の声に弾かれたように、幸江は歩道を走り始めた。 「やだ ! 危ない ! あと少しで渡りきろうとしていた湊の叫び声が、真由子の耳に届いた。それくらい大き な声だった。 点滅はすでに終わりかけている。幸江はどうにか真ん中まで走っていた。 しんぞう どくどくと心臓が高鳴って、真由子は幸江がそのまま真ん中の島で、次の信号までやり すごしてくれればいいと願った。 点「なにやってんのよ ! 信号が変わっちゃうわよ ! 」 おもしろ 面白がって知賀子が叫んだ。走るのをやめかけていた幸江は、ちらりと知賀子を振り返 り、足を踏み出した。 怨 その時にはもう信号は赤に変わっていた。 車が迫ってきていた。運転手も、幸江がそこに立ち止まると思っていたらしい。 せま

10. 怨讐の交差点:霊鬼綺談

142 教師たちも入れ替わっており、あの交通事故を知る人間はいなかった。 礼を言って職員室を出た一一人は、途方に暮れた。 「今から連絡を取って、話を聞いたとして間に合うだろうか : : : 」 「転任先がじゃあな : 。会いに行くっていっても、時間がかかりすぎる。電話だ と、今頃どうして、何年も前の事故の話を : : : と、反対に不審がられて話してくれない可 能性もあるし : : : 」 「明日には菅真由子が帰ってくる。彼女から眼を離さないようにしないと」 知らず知らずのうちに立ち止まり、溜め息ばかりをついていた。 「あ、お姉ちゃんの : ・ その時、登下校口から出てきた小学生が一一人の姿を見つけて、声をかけてきた。 菅真由子の妹だった。 「ああ、君もこの小学校だったんだ。今、帰りなんだ ? 」 みちこ 「美智子ちゃん、だあれ ? 友達に美智子と呼ばれた真由子の妹は、頬を赤らめて高陽を見た。 「お姉ちゃんのお友達。どうして学校にいるんですか ? ちょうど異性を意識し始める頃なのか、美智子もその友達もしそうに二人を見てい たいき ほお