てきて、リアリティがありました。ひとりではできない。野球マンガ まあ、あとは、代の頃から北九つて基本的に、父と息子の物語な 州に対してノスタルジックになるんですよ。 ことはなかったですね。まだ離れ斎藤『巨人の星』からしてそう たい年齢だったので。 ですね。 斎藤自分のことを書こうという 平野そう、『キャプテン』とか。 気はなかったわけですね。『日蝕』。フロ野球選手でも、松井とかイチ は、むしろ逆に振ってやろうとい ローとか、父親の存在感、大きい う意志がはっきりと表れていますでしよう ? だけどサッカーは、 ひとりでも上手くなりようがある。 ものね。 ドリ・フルとかリフティングとか 成田少年時代ーー年代の思い 大きいですが、実際、書ぎづらい出といえば、どんなことでしよう野球大会に行くと、父親が熱心な ことも多い、やくざのこととかか。 子が上手いに決まっているんです ~ 『少年ジャンプ』の時代 よ。だけどサッカーやバスケがス いま流行のヤンキー論とか、平野たとえば、小学 4 年くらい トリートでやられて、貧困国や貧 斎藤平野さんにとっての年代オリエンタリズムに見える。 から『キャ。フテン翼』 ( 連載 19 はほぼ小学生時代と重なるんです 斎藤そんなャワなものではない。 815 年 ) が突然流行ったこと困地域で愛されるのは、友達同士 ね。北九州ですよね ? 平野ああいうのは、奥に分け入です。それまでは野球が圧倒的でで上手くなれるからじゃないです 平野よ、。 ーし生まれは愛知ですが、っていくと、色々と事情のある世したが、ある日、いつものようにかね。 育った場所と言えば北九州です。界なんですよね。ャンキーとか暴グロー・フとバットを持ってグラウ 斎藤なるほどね、ものすごく腑 成田小説を書き始める時には、走族とかがそんなところで好き勝ンドに行ったら、皆がサッカーをに落ちた。 子ども時代の思い出から書かれる手にできるわけがなくて。 していた ( 笑 ) 。でも、僕はその時、平野あの時代は、父親たちがサ 考 再 場合も多いのですが、平野さんは斎藤『花と龍』 ( 火野葦平の小説 ) サッカーが流行るのはわかる気がツカーをやってきた世代ではない 代 全然違うところから出発されてい の世界ですよね。 したんです。僕は父親を早くに亡ので、皆が同一線上だった。それ ますね。 ・バツ。フ・ハイスクくしていますが、野球はどうやつはすごく解放感があったんです。 平野『ビー 平野そうですね。小説のテーマ ール』ってマンガは福岡が舞台でたってひとりで上手くなりようが『キャプテン翼』だって、父親じ として関心がなかったというのがすけど、その辺の話がチラチラ出ない。キャッチボールもノックも、やなくて、ロベルトというプラジ 戦後日本社会の分岐点、 19 80 年代。 その光景は地方に住む少年にはどのように見えていたのか ? 経済大国の裏のインチキくささとは ? 異端の知の系譜はどこに行ったのかワ 作家、文芸評論家、歴史学者が、 あの時代の豊潤な可能性を掘り起こす。 459

ル人が主人公に教えるという設定。倒的な影響力をもっていましたね。平野買っていましたね。 140 ないのは嫌だなと。まあ、テレビ これもサッカーというスポーツの全盛期の編集長と長く喋ったこと円くらいだったので。一時は 40 で誇張されたそういう部分を見て 本質を突いている気がします。 があるんですけど、彼は梶原一騎 0 万部とかとんでもない部数が出たというのもありますが。でも地 斎藤そうか。野球はやつばり昭が好きなんですよ。あのド根性のていましたよね。あと適度にお色元は地元で嫌だったんです。ここ 和のものなんだね。 —リーグがで世界を爽やかに史新した形で『ジ気マンガも載っていて、思春期ににいても未来が見えない、と。 きるのが 1993 年ですから、ャン。フ』の世界はつくられていたさしかかる頃の男子にはそれも購斎藤浮かれている感じがわかっ 年代にサッカー少年がマスとしてんだと感じました。その世界観の読の理由の一つだったんじゃない たわけですか、小中学生にも。 生まれていたということですね。刷り込みは、僕らの世代にはけつでしようか。 平野中学くらいからですね。で 平野しかも日本だけじゃなくて、こうあると思います。 も、たとえば漫才プームがあって ジダン ( 元フランス代表 ) とかも、成田それがまた、テレビアニメ 地方から見た年代東京 『オレたちひょうきん族』が始ま 本国で『キャプテン翼』を見てサの世界にすぐ繋がっていくという ったのが別年くらいだと思うんで ッカーに目覚めたといいます。 構造ですね。 成田平野さんにとって、年代すが、「昔のお笑いはよかった」 斎藤すごい影響力。 斎藤 『北斗の拳』とか『キン肉の東京はどう見えていたのでしよとか言う人がいますけど、僕はあ 平野海外のサッカー選手のインマン』とか『ドラゴンポール』とうか。どのような東京観をもってるとき関心があってあの頃の漫才 タビューを聞いていると、よく出か : いましたか。 を YouTube でたくさん見たんで てきます。 ートナー 平野はい。ただ、僕は別に好き平野少年時代に限らず、東京にす。紳助竜介とかはパ 成田もうテレビは、日常的な存で読み始めたわけではなくて、学対してすごくネガティブな感情をじりみたいな感じで、いま見ても 在でしたが、平野さんはテレビっ校で皆その話をしているから、も持ってました。まったく憧れがあ笑えるんですけど、ツービートと 子といえるような少年でしたか。 う読まざるをえなかった。でも僕りませんでした、川代の頃は特に。カーを 、よまとんど笑えない。すっとブ 平野すごく見てましたね。年は 2 、 3 年で熱が冷めた。毎週必斎藤大学は京都に行かれるんでスと田舎者をディスってる、とか。 代の出来事は、テレビで騒がれたず買っていたんですけど、 3 週我すよね ? 斎藤差別ネタなんですよね。 ものほど印象に残っています。学慢したらもう読まなくて平気にな平野そうです。バ。フルで浮かれ平野ええ。でも、みんな笑って 校での会話は、ほとんどテレビのった ( 笑 ) 。 ている東京の人たちをテレビで見ましたからね。今の過剰反応のネ 話題でした。 成田まわし読みから、皆それそてて、本当に馬鹿だなと思ってまットも息苦しいけど、あれを今や 斎藤他に共通体験は ? れがこそって買って読むという時した。あんな人間にはなりたくなったら、炎上するでしようね。 平野『週刊少年ジャン。フ』が圧期に、入り込んでいたのですね。 いし、自分の未来があそこにしか成田平野さんにとっての東京は、 460

らはニューアカへを混在させてしまうのですが。 のプレ段階という 平野もちろん、たとえば中村さ 気がします。たしんはフーコーを訳していますし、 かに、私も馬鹿になんで区別するのかというと難し はしないけど「ケいけど、ただ僕がデビューした頃 ! 」と思ってい は、『へるめす』の人たちはもう たところがあった古いという雰囲気はありました。 斎藤目次からして、こういうふィーズのキーワード辞典とか、柳と思う。だけど、小説家にイマジ 斎藤年代はたしかにそうだっ うにいけるんだ ! という感じでし父章の明治時代に生まれた翻訳語ネーションを与えるということは、 たよね。 集とか、そういうものの一環の中中身が豊かだということですね。平野でも中村さんたちと喋って 成田何やら新しい知の動きがあで読んでいましたね。 平野『術語集』自体が小説のイみて、わかりました。さっきも言 るそ、それはどういうものだろう斎藤別冊宝島の『わかりたいあマジネーションというわけしゃな いましたけど、ユングにオカルト かという時に、中村さんがかってなたのための現代思想・入門』 ( 1 かったんですけど、僕が大学に入な部分があるのはわかりきってい の啓蒙とは異なるかたちで、「知」 984 年 ) に近いものがありますった年頃は、いよいよポストモるんですよ、誰だって。だけど、 の提供龕啓蒙 ) をおこなった著よね。 ダン・ブームが爛熟期を迎えて、 にもかかわらす、多くのアーティ 作だと思います。 成田あれは年代に「戦後思想」さっきも言いましたけど、皆が註ストが影響を受け、そっから面白 斎藤年代の新しいキーワード が「現代思想」に変わった、とい釈抜きでやたらめったら難解な文い作品が生み出されるのはなぜ 集だったんですね。アイデンティ う時、ひとつの指標になる本です。章を引用しまくってたんですよね。か ? 僕は、絶対に「バカだから」 ティ、遊び、アナロギア、暗黙知、カタログ的にフーコー 、デリダ、それで、まあ、基本的な勉強のたなんて思わなかった。僕はアート 異常、エロス、エントロ。ヒー、仮ドウルーズ : : : を示していく。 めに、というようなことで読んでとか文学の人間でしたから、そう 面・・ 斎藤『術語集』もほぼ同時期にました。 いうことに好奇心をくすぐられて 成田あいうえお順で示している出ていますね。でも、捉えている成田平野さんが『へるめす』グ「なぜなのかな ? 」という話をす ところも、また年代的です。 現象が、ここからニューアカに行ルー。フとポストモダンを区別してる人たちの方が好きだった。僕も 斎藤でも、あいうえお順でも、 く感しがする。浅田彰さんや中沢いることが、とても興味深いです別に、人が悩んでいる時に「ユン 並びになるほど感がありますね。新一さんはこの後の感しがしますね。普通は、さきの別冊宝島の「日グ派心理学者のところに行ったら 平野僕はカルチ = ラル・スタデよ。中村さん、山口さんの後。彼本篇」もそうであるように、両者治るよ」と言うわけではないんで 近代の知というのは分析的理性で方法に走るのに対して、 『へるめす』的な知の営みは越境的で混淆している。 これは共通感覚、つまり統合の感覚を問題にしている。 ( 成田 ) 468

アマルティア・センは『アイデンして読んだんだけど、本当にどうすね。 てしまうから、既存の考えが反復 ティティと暴力』という本で、まやって生きていったらいいのかわ斎藤近代になってから、文学と強化されるだけになってしまう。 さに同じような話をしているんでからないという、わりと切々としは要するに、「私とは何か」をずどこかで、そうじゃない、そうじ すね。インドみたいな国でアイデた手紙をもらったり、インタビュ っと考えてきたわけでしよう。そゃないというのをやっていかない ーの時に言われたりしたんですよれがこういう展開で出てくるのがと、なかなか自分が救われる考え ンティティが確固としたものとし には至らないですよね。中村雄一一 てあると、血で血を洗う争いになね。それは考えないといけないと面白いですね。 るから、アイデンティティは複数 いうのが大きかったんです。もち成田『空白を満たしなさい』は、郎的な年代の知と僕は相性がよ 化して、共同性を多様化する必要ろん、僕自身としても、それを考まさにいかに生きるかを主題にさかったんですけど、中村さん自身 がある。それはすごく現実的な哲えないと、生きてはいけなかった。れていて、分人主義の具体的展開も 2000 年頃に書いた本では日 学として彼は語っていて、そうい 成田『決壊』は、年代で切りです。分人主義を説明すると同時本の現状にかなり危機感をもって 冫いなかった時期の自分を存在いる。僕の場合、世代的な屈折と う考え方が僕には性に合っていま開かれたはずのものが実は途轍もこ、 す。 ない抑圧になっているという話でさせていく話でもあるわけですかして、何とかなるという感じがま 斎藤今の趨勢はアイデンティテした。離れているけれども繋がつら、物語構成的にも分人主義的にったくないんです。 ており、繋がっているけれども離なっています。平野さんは、一旦斎藤楽観主義ではもうダメなん イを一本化しようとしている。 成田しかも「われ」じゃなくて、れている。それは理想的な生き方振り子をものすごく恐ろしい世界だ。 に振っておいて、他方でそれを揺平野楽観主義はもうなくて、む 「われわれ」に複数化していこう だと年代的には言われていた。 とする圧力がものすごく強くなっしかし、ネットで繋がってしまう り戻して、いかに生きていくのかしろ必要以上に屈折している。 いわゆるロスジェネですか 斎藤 てきています。そういう状況の中と既名性に脅かされる、繋がってという回答を出されていっている らね。 で、分人主義はとても有効です。 いるということによって逆に相手ように読めます。 平野悲しいかな、俺たちは割を 平野『決壊』一作でそういうこ 斎藤 うん、使える発想ですよね。が何を考えているかわからない。 成田平野さんは、『決壊』ではあるいは、よく知っていると思っとができるといいんですけど、ど食っているという意識が染みつい 考 悲惨な世界を描いたけれど、いかていたけれど、ネットを見たら全こかで徹底して懐疑し続けないと、ている。しかし、ポジティ・フに言再 年 にそこから生き延びていくか、と然知らない顔をもった相手がいる。通念的な着地点に回収されちゃううと、だからこそいかに生きるか の思索の中から、分人主義を提示 そういう底知れぬ不安を掻きんですよね。メタファーにしてごを考え続けられるということです。 したのですね。 立てる、恐ろしい世界を書かれた。まかしてしまったりとか。そうす何とかしたいということはいつも 平野読者から、『決壊』を感動平野さんの言う「文明の憂鬱」でると読者も知っていることで埋め考えています。 0 473

です。歳を過ぎており、既に 3 ジャングルの中で死体をたくさんたんですよね。とにかく行ったら感じはなかったですね。 見て、踏みとどまってしまうシーすっと空爆で、逃げて逃げて逃げ斎藤というか、その頃は全体的人子どももいました。だから帰っ にそうでしたよね。今みたいな感て来なきゃいけないという思いが ているうちに戦争が終わったとい ンがあるんですが、あれを見て、 強かった。独身で川代ですごく思 祖父はいつも泣いていた。祖父もう感じで、だから祖父はよく喋つじがむしろ : い詰めて行った人たちと、かなり 2 回かなりひどい負傷で病院に入たんだと思います。 平野すごく最近、唐突に広がっ ギャツ。フがあったんだなというの っていた。だけど部隊に帰りたく 斎藤孫にちゃんと語って聞かせている感じですね。 て追いかけていって、やつばり同てくれる人って、そんなに多くな斎藤すごく最近ですよね。年は、のちに大岡昇平『俘虜記』と 代はそもそも軍隊を忌避する感じかを読んでわかりました。彼も 0 じような体験をしてるんです。そいんでしよう ? の時に祖父が話していた戦死は、成田そうですね。それに加えて、だった。ヒロイックな気持ちになくらいで、しかも京大の仏文研究 るというのは、そういう人もいた者というインテリとして戦地に行 ほとんど飢餓状態でのマラリアと祖父母ー孫と、父母ー子とでは、 か赤痢とか、病死なんですよね。語る方も聞く方も構えが大きく異でしようけど、メジャーな感覚でっていますが、若い一途な人たち ↓よ、な . かっ 4 ~ 。 こそどんどん死んでいって、自分 祖父はインパール作戦にも参加しなっているでしようし。 ていて、戦争に対して、今あるよ平野だから、別の戦地で、もう成田そうですね。特に昭和天皇たちみたいなのが生き残ると書い うなヒロイックなイメージはまっちょっと加害者意識まで抱えながが死ぬ前後は、天皇の戦争責任がています。 ら帰ってきて、まったく何も言わあらためて問われますが、その中斎藤観察して、ちゃんと語れる たくなかったですね。 なかった人も僕の周りにはいましで、もう一度当事者の戦争経験が言葉があったということですよね。 斎藤平野さんの世代でそういう ことを聞いているというのは、珍た。祖父は歯医者だったんですね。呼び起こされ、語り継ぎがなされ平野最前線よりもちょっと下が ったところで、衛生兵みたいなこ しいんじゃないですか。 田舎のインテリだったから、部隊ようとします。その最後の機会だ 祖父の場合、大戦ので上官にさんざん苛められて、とったといってよいでしよう。それとをやっていたので、そういう意 平野は、。 かなり末期に行って、しかもビル にかく理不尽な理由で呼び出されを文字どおり直接に見聞きされて味でも語りやすかった。 マだったので、これはいろいろ意ては殴られたりしていたそうです。いるのは、平野さんの世代では稀成田平野さんの「初七日」とい う作品は、 ( 平野さんからすれば ) 見があると思うんですけど、祖父帰ってきてからも、戦友とのつき有でしようね。 の実感としては結局イギリスと戦あいは続いていましたけど、家か平野祖父が母に語ったことを聞父の世代から、祖父の戦場での経 いていたということもけっこうあ験を推察し、その「沈黙」の意味 らわりと近所に住んでた祖父の元 ったから、ビルマの現地の人にい ろいろ良くしてもらったというの上官とは、戦後一度も会ってませります。それから、祖父は医者でを類推する、という小説です。戦 です。加害者意識があまりなかつん。だから軍隊を美化するというすから召集されるのが遅かったん争経験の意味の探求が、「戦後」 462

1 OO 430 【特別鼎談】 震災と詩歌 過去、現在、そして未来と向き合う「言葉」たち 平田俊子 x 川野里子 x 小川軽舟 司会 = 田村文 その現実に、詩歌はどう向き合ったのか ? 詩、短歌、俳句の実作者が語り合う「あの日」からの言葉 【マンガ】 414 364 【連載小説】 恩田陸灰の劇場第六回 田口ランテン逆さに吊るされた男第五回 町田康ギケイキ第九回 ' 宮内勝典永遠の道は曲らくねる第二回 356 月、林ェリカウノレフー青 ぼくの人生は失敗だったけれど、とても幸福です 【連載】 ・今日マチ - 了、ばらいそさがし第二回 現代の『グロウィ夫人』 斎藤美奈了・日本文学全集とその時代 ( 下 ) 局橋源一俍に一億三千万人のための「論語」教室第二回 保坂和志遠い触覚第一叭回 2 ー第 53 回文藝賞応募規定 474 475 476 477 478 479 480 481 【 BOOK REVIEW 】 山田詠美『賢者の愛』東直子 磯﨑憲一郎『電車道』西崎憲 高橋源一郎『動物記』滝ロ悠生 柴崎友香『ノヾノララ』長島明夫 小野正嗣『九年前の祈り』小倉美惠子 恩田陸『 EPITAPH 東京』門井慶喜 佐々木中『神奈備』安藤礼ニ 最果タヒ『星か獣になる季節』坂上秋成

すよ。 平野僕は自分の気質として、混無頓着に「しかし」を使ってる、成田さて、『日蝕』を今回読み バカなんだろう、とか ( 笑 ) 。そなおし、あらためて ( ここまで議 斎藤 わかります。文化の土壌のざり合っていくものが好きなんで 論してきたように ) 「部年代の知」 問題でしよう。もう年代に入るす。たとえばマイルス・ディヴィういう話なんですよ。 テクスト論が失敗して、そを存分に吸収し、それとシンクロ と、ニューアカ的なもの、構造主スとか、いろんなスタイルが混じ斎藤 していると感じました。別の言い 義 / ポスト構造主義みたいなものっていって、どんどん変わっていうなっていくんですよ ( 笑 ) 。 自体がそれこそ爛熟期に入っていく。 十年一日のごとく同じことを平野すごく窮屈な気がしました。方をすると、年代の知を補助線 たから、筒井康隆さんの『文学部やっている人は、それはそれで尊成田混ざり合うこと、「混淆」に引くと、平野さんの作法とモチ ーフがとってもよくわかる、とい 唯野教授』はそれをまさに茶化し敬しますけど、飽きちゃうんですこそは、まさに『へるめす』的な た小説でしよう。ああいうものがね。そういう意味でいうと、年営みに他なりませんね。編集委員うことです。年代に中村雄一一郎 からして、文化人類学あり、音楽さんが問題にしていたのは、科学 出てきて皆がクスクスしながら読代の武満さんにしても山口さんに めるというふうにはなっていたんしても、混ざっていくことによっ家あり、建築家あり、小説家や詩の知、近代の知をいかに相対化す ですよね。 て、それを面白がる。それは自分人がいる、と越境的で、混淆してるか、ということであり、そのと 成田筒井さん自身も、『へるめの作品にも共通していて、気質的います。たとえば、中村さんの営きに、神話の知、魔術の知に着目 みもまた、そのなかでの振る舞いしていました。神話の知は認識論 す』グルー。フとして活動していまなところで共鳴するのです。 す。創刊記念の別巻『へるめす』 斎藤一方、年代の批評家はどでしたでしよう。中村さんにいくに関わり、魔術の知は実践に関わ らか踏み込めば、近代の知というるのですが、平野さんの作品に対 でおこなわれた鼎談が、井上ひさんなことを言っていたの ? し + 大江健三郎 + 筒井康隆さんで、平野お勉強の成果に、なんでものは分析的理性で方法に走ってい応させると、魔術の知は『日蝕』 図式的に当てはめようとするんでる、それに対して共通感覚、つまに当てはまり、神話の知は『一月 「ユートビア探し物語探し り統合していく感覚を問題にして物語』に当てはまる。 戦後の文学をどう考えるか」です。すよね。無理に決まってるのに。 そうか、なるほどー 『文学部唯野教授』は、 1990 「ドウルーズはこう言っているのいくのだ、ということですね。「関斎藤 年の刊行ですが、とても年代的に、平野はこう書いている」とか、係性」、「役割」、「場所」というも成田これを補助線にすると、平 考 な知を、筒井さんもっくりだして関係ないことを言いだすんです。のの重視です。平野さんの世界と野さんの作品がさらに新しい問題再 年 文学が読めないというのか。「し重なりあっているように見えます。関心で読めると思いました。『日 います。 蝕』の物語は世紀の終わりから 斎藤筒井さんは、年代的な知かし」という逆説の接続詞をめぐ " 『日蝕』と魔術の知 世紀のフランスを舞台とします ですごく作風が変わったと思いまって、昔こういう議論があったの ス、僕は設定ー方法ー対象という すもん。 に、平野啓一郎はそれも踏まえず、 469

ソ連が崩壊していったから「ああ、俺の住んでいる場所はもう終わっ凄いなんて、年代を通してまっその入れ替えの時期だったでしょ やつばりこっち側でよかったんだていくんだなとひしひしと感じてたく思わなかったんです。 う。「戦後思想」から「現代思想」 な」くらいのことですね。それかい て、文化的なものはメディアに 斎藤 たしかに地方の少年が感じへのギアチェンジの時期とも言え ら、バブルだとか言っても年代乗ってくるものしかなかったんでていた感覚としてそうだったろうると思います。 後半になってからのことですから、すよね。 けれど、大人も皆そうだったと思平野あと、それまでは中国とか 前半と後半ですいぶん違うと思う斎藤 そうか、博多とはだいぶ違いますよね。東京でも地方でも。韓国のことをあまり意識して考え んですよ。バブル崩壊後からの不うのかもしれないな。 だから『ジャパン・アズ・ナンバ ていなかったんですけど、ちょう 景気で、就職とか割を食った世代平野全然違いますね。 ーワン』は、「ええ ! 嘘でしよどの工業製品などが北九 だということに我々はなっていま 円」みたいな感じでベストセラー 州の方に入ってきて、たとえば携 すから、後からの恨みつらみを含 年代のインチキくささ になったんだと思うんですよ。ま帯音楽。フレーヤーの性能がソニー めた回想の仕方になりがちですね。 さに文化は不毛で、映画なんてダとかに比べると悪いとか。それで、 成田文化についても、僕などは、平野今よく中国などでバッタもサいのに、「まさか ! 」と。 あのへんは遅れているんだなみた アメリカは遠くにあって触ってい んのミッキーマウスとかを見て若成田そうですね。思想の面で言 いなことを、なんとなく感じまし くものだと思っていましたけれど、い子たちが馬鹿にしていますけど、えば、「戦後思想」がそういう意た。だけど、差別意識とかまでに 、、よ、つこ 0 平野さんはもう体に染み込んでいあんなのは僕が子どもの時、 いく味づけをし、日本の近代はまだ未よ る ( 笑 ) 。世代なのでしようが、 らでもあった。ガンダムなのか何完成で、ありうべき近代に達しなそれから、年代の「嘘」とい べースがすいぶん違うような感じなのかわからないロポットとか。ければならないと発破をかけていうことでいうと、。フロレスですね。 がしますね。 駄菓子屋でマイケル・ジャクソンました。日本の文化はまだ本物でちょうど。フロレス世代なんで、囲 斎藤 もうそこにあるという感じ。のサインを売っているとか ( 笑 ) 。はない、 という意識が強くあった年代になってプロレスがフェイク 音楽にしても消費文化にしても。経済大国という面とインチキくさと思います。 だとわかった時に、けっこうショ 平野北九州みたいな街は寂れゆい面と、両方あった。だから今、 斎藤明治時代と一緒ですね。追ックを受けたんです。年代は情 くエ場都市なんですよね。第二次日本が凄いと思い込んでいる人た いつけ追い越せで、いっか追いっ報も少なかったし、フェイクとリ再 年 産業の時代がもう終わりつつあるちって、部年代くらいまでかろう いたと錯覚する日が来るんだけれアルなものとが、かなり曖昧だっ 中で、実際に鉄冷えと盛んに言わじてあった日本の嘘くささみたい たと思うんです。しかし、ネット ども、まだ年代は追いついてい れ、第三次産業が盛んな博多の方なものを知らない世代なのかなとないと思っていた。 が出てくると「全部、打ち合わせ はどんどん発展していきました。 思いますね。僕は日本が文化的に成田まさに、年代がちょうどをしている」とか暴露され始めた。

メディアを介在させたイメージで東京の全国伝播と地域の東京化と文化は東からやって来ると思ってやった。 「東京なるもの」であり、同時に、 いう画一化・均一化。 いたんですよね。そんな感じです。成田平野さんは、「昭和の終わ それに反発するということですね。平野そこはアンビバレントで、 った日」を覚えていますか。 二重の意味で、東京への距離を意大きいデパートが来たりすると、 昭和の終わった日 平野はい。実はその年、祖父が 識するということとなりますね。やつばり喜んでいたんですよね。 亡くなったんです。天皇の死とわ 平野そうです、完全に。僕とい地方の人の典型ですけど。だから成田年代がほぼ小中学校時代りと近い時期でした。祖父はビル うか、地方の人は皆そうだと思い地元がひたすら大事とも思わなかに重なるとすると、「昭和」の終マに戦争に行って帰ってぎた人だ ます。 った。今あるものを残したいとはわりは : ったんです。僕にとっての戦争体 斎藤きっと、東京だけが面白が思わなくて、ダメになっていって平野中学に入ってからです。昭験はほとんど祖父から聞いた話で っていた。東京にいるとわからなはいるから、中央からそういうも和が終わったところで、自分の中した。その祖父が亡くなって、昭 いんですよ。 のが来れば少しは発展するだろうで断絶みたいなものがある。とい和天皇が亡くなって、自分の中で 平野高校くらいになると「原宿という感じはもっていました。 うのは、僕だけじゃなく、皆、今昭和が終わった。それは少年なが 系」とか言われ始めましたけど、 とてもくだらない話なのですが、が平成何年なのかすぐにわからなら感じていましたね。 原宿がどこにあるか知らないし、 小学生のある時、法事で父の実家いんです。 成田平野さんの中に、戦争経験 田舎にいて原宿系も何もないだろの愛知に行っていると、自転車の斎藤そうそう。 の伝承があるということになりま うという感じでした。ちょっとカことを「ケッタマシーン」と呼ん平野もう二十何年も経っているすね。記憶の中で、大きな位置を ルチャーのアンテナがある子はフでるのを聞いたんです。僕はそれのに、皆、平成になってから迷子占めていましたか。 リッパーズ・ギターとか聴き始めをてつきり東京からの流行が名古になっている感じで。 2000 年平野ありますね。僕が子どもの ましたけど、それに対して何とも屋まで来ていると思いこんで、九に何があったかというとまだ思い頃には、特攻隊の話よりも、『ビ 言えない気持ちがありました。だ州に帰っていち早く自転車のこと出す手だてがあるんですけど、平ルマの竪琴』とか、ジャングルの から小沢健一一をどう思うかとかいをケッタと言い始め、皆も僕に感成何年となると途端にわからなく中で餓死して : : : というような話 考 再 うところで、その頃に東京にいた化されてケッタと言っていたんでなる。 が今よりももっと描かれていた。 代 人と僕とではものすごいギャップす。だけど、待てど暮らせどブー 斎藤うまく換算できない。 斎藤そういう話が出てきた頃で咩 がある。 ムが来ない ( 笑 ) 。おかしいなと平野小学生の頃までは昭和何年したもんね。 成田年代は、どこも東京化し思ったら、単に愛知県の人がそうというのがまだわかったんですけ平野『ビルマの竪琴』で、ひと ていく時期でもあるんですよね。言っていただけだった。とにかくど、それ以降はわからなくなっちり部隊から離れてしまった水島が、

/ 第 . あをを 【特別企画】 1980 年代再考最終回 地方・フネグ・分めす 平野啓一郎 斎藤美奈子 成田龍一 SpeciaITalk: 工一「 a コ 0 K の一 ic 三「 0 x SaitO Minako x Narita Ryuichi Photo: Oha 「 0 Taihei 458