文学 - みる会図書館


検索対象: 群像 2016年12月号
114件見つかりました。

1. 群像 2016年12月号

はそこに、変容したかたちであれ、東歌や防人歌に通い合 一九二八年だが、人麻呂を巡遊詩人とする折ロの所説が与 えた衝撃はそれに似ている。先に枕詞とあえて訳したのは うものを見て、感動したのである。 トラディショナル・エピセット、すなわち、髪美わしいレ 折ロは『梁塵秘抄』に真正面から向き合っているとは思 ト、白い腕のヘラ、脚速きアキレウスといったときの、そ えない、と感じた理由だ。『梁塵秘抄』に古代的なものを 見出しえなかったということかもしれない。 の「髪美わしい」「白い腕の」「脚速き」といった紋切り型 大岡にしてみれば、しかし、古代、中世、近世など、便の形容詞のことである。この紋切り型の配置を決定してゆ 宜的なものにすぎない。作品が与える感動こそすべてだと くのは個性というよりはむしろ職人芸とでもいうべきもの いうことになるだろう。同じように詩人ではあっても、折であって、それはホメロスの詩篇がロ承文芸としてあった 0 0 、ーノ 1 ー・十 6 、、、 ことを明らかにしているというのである ロは違っているのである。おそらく古代的なものにこそ詩 が潜むと確信しているのである。国文学の発生は詩の発生ヴァード大学で教鞭を取るとともに、アドリア海に面する であり、それは私という現象の発生と密接にかかわりあ古都ドウブロヴニクを拠点に、当時なおューゴスラヴィア などで活動していた巡遊詩人たちを探訪調査していたが、 う。古代にこそ私という現象の秘密の鍵があるのであり、 一九三五年、三十二歳の若さで事故死した。 出生の秘密の鍵があるのだ。だが、それは、解明しきれな このバ い闇とともにある。それを照らし出すのが「まれびと」な ーの刺激を受けて、エリック・ハヴロックは のだ。 『プラトン序説』 ( 一九六三 ) を書き、ジュリアン・ジェイ 折ロはそう感じていたと思わせる。 ンズは『神々の沈黙』 ( 一九七六 ) を書いたと見なしてい 。『プラトン序説』は、ホメロスの世界に文字が侵入し て哲学が生れた、すなわちそれまでは動く百科事典として あった巡遊詩人が、文字すなわちアルファベットの登場に 折ロの「柿本人麻呂」 ( 一九三一一 l) は、古代文学論として よって駆逐され、考えることが諸個人のもとに委ねられる ことになったというものである。また、『神々の沈黙』は、 抜きんでている。 、、、、ルマ、ノ . 。ハリ . 『イリアス』に典型的に描かれているが、二分心すなわち ーが博士論文「ホーマーにおける枕詞」 を留学先の。ハリ大学に提出して『イリア、ス』『オデュッセ右脳がつねに神の言葉を囁きつづけていた時代、人々があ たかも自由意志を持たないかに描かれていた時代が終わっ ィア』がロ承文芸としてあったことを強く印象づけたのは 語の政治学 229

2. 群像 2016年12月号

■大澤真幸【おおさわ・まさち】社会学。年生。 ・佐々木敦【ささき・あっし】評論家。年生。 『恋愛の不可能性について』『〈自由〉の条件』『ニッポンの思想』『批評時空間』『ゴダール原 『〈世界史〉の哲学』 ( 古代篇、中世篇、東洋篇、論』『ニッポンの文学』 イスラーム篇 ) 『可能なる革命』共著に『ふし■佐藤康智【さとう・やすとも】文芸評論家。 ぎなキリスト教』 年生。「『奇蹟』の一角」 ( 第回群像新人文学 ・大平貴之【おおひら・たかゆき】エンジニア、賞評論部門当選作 ) ・安藤礼ニ【あんどう・れいじ】文芸評論家。 プラネタリウムクリエイター。間年生。『プラ ・関口涼子【せきぐち・りようこ】詩人、翻訳家。 年生。『神々の闘争折ロ信夫論』『光の曼陀羅ネタリウムを作りました。』 間年生。『カシオペア・ペカ』『グラナダ詩編』 日本文学論』『祝祭の書物表現のゼロをめ ・片岡義男【かたおか・よしお】作家。鬨年生。訳書に『素晴らしきソリポ』 ( 共訳 ) ぐって』『折ロ信夫』 『友よ、また逢おう』『スローなプギにしてく ・瀬戸内寂聴【せとうち・じゃくちょう】作家。 ■石田千【いしだ・せん】作家、エッセイスト。れ』『ミッキーは谷中で六時三十分』『豆大福と年生。『花に問え』『場所』『秘花』『死に支 年生。『月と菓子バン』『ばっぺん』『きなり珈琲』 度』『求愛』 の雲』『家へ』 ・熊野純彦【くまの・すみひこ】倫理学、哲学史。 ・高原到【たかはら・いたる】批評家。年生。 ■磯﨑憲一郎【いそざき・けんいちろう】作家。 年生。『レヴィナス移ろいゆくものへの視「ケセルの想像力」 ( 第回群像新人評論賞優秀 年生。『肝心の子供』『終の住処』『往古来今』線』『西洋哲学史古代から中世へ』『西洋哲学作 ) 『電車道』 史近代から現代へ』『マルクス資本論の思・武田花【たけだ・はな】写真家、エッセイス ■稲垣えみ子【いながき・えみこ】フリーランサ考』訳書に『存在と時間』『判断力批判』『物質 年生。『猫町横丁』『眠そうな町』『猫光 年生。『魂の退社』『アフロ記者が記者とと記憶』 線』『猫のお化けは怖くない』 して書いてきたこと。退職したからこそ書けた ・武田将明【たけだ・まさあき】英文学、評論家。 ・小林信彦【こばやし・のぶひこ】作家。年生。 覧 こと。』 『虚栄の市』『冬の神話』『日本の喜劇人』『うら年生。「囲われない批評ーー東浩紀と中原昌 者 ■入江悠【いりえ・ゅう】映画監督。四年生。監なり』 也」 ( 第回群像新人文学賞評論部門当選作 ) 筆 督作に『 cn サイタマノラッパ ー』『日々 ■坂口周【さかぐち・しゅう】日本文学。行年生。訳書に『スコットランドの黒い王様』『ロビン ロック』『ジョーカー・ゲーム』『太陽』 ソン・クルーソー』 『意志薄弱の文学史』 執筆者一覧 GUNZO

3. 群像 2016年12月号

すべての関係者の方々に感謝申し上げたい。掲載するに足 るという評価をいただけたことはたいへんありがたいことだと 思っている。ただ拙文には、対象にたいする敬虔さが欠けてい るところ、誤解や拙速な議論等が、あきらかに含まれている。 どうせ物書きになるのなら立派な作品で打って出たいなどと これで良かっ 考えていたが、そうはならなかった。残念だが、 たのだとも思う。これほど教訓的なことはないからだ。 受賞のことは 略歴 驪ト川 : ト第 : Ⅲ、阯第 : : : : ド 一九八七年四月大阪府生まれ。二十九ロ 歳。東海大学文学部文芸創作学科卒 好 業。畜産業。北海道在住。 美 優秀作 「不幸と共存 シモーメ・ヴェイユ試論」 文学や批評を読んでいる時に「このようなことが考えられ、 また書かれうるのか」という驚きと共に、囲繞していた壁か 破壊される感じを受けたことが、自分にとって言語体験の 「原光景」なのだと思う。自分にそのようなことか可能かど、つ かについては全く心許ないし、考える必要もない。ただ、その ことへの渇きがある。優秀作に選ばれたことを励みとして、 次に書くべきもののことを考えてゆきたい。 受賞のことは 優秀作 「新たな「方法序説」へ ーー大江健三郎をめぐって」 略歴 お : : 設ト纏製 : : 3 Ⅲ : を第に 一九七八年一月東京都生まれ。三十八 歳。早稲田大学大学院文学研究科博士 後期課程満期退学。博士 ( 文学 ) 。大 学講師。東京都在住。 宮澤隆義 1 第 60 回群像新人評論賞発表

4. 群像 2016年12月号

フが強く現れていたことは容易に指摘できる。「万人の万大江は高校時代に手にとった渡辺のこの本に震撼させら 人に対する戦い」、あるいはそこにおける権力関係・契れ、東大への進学を決心したという。いわばそれは彼の運 約・協働等々のモチーフはまた、リアリティショー等の中命を決定した書物であったが、『日本現代のユマニス + で絶好の資本を提供してきたことも明らかだ。だがここで渡辺一夫を読む』の中で大江は渡辺の生涯と著作を丹念に 私は文学において、この「人間本性」という「回帰する初辿りながら、『フランスルネサンス断章』が扱っている 期条件」に対して「新しい人」なる異例のテーマを小説の時代が激烈な宗教戦争の時代であったことに注意を次のよ 中で繰り返し描いてきた存在として、大江健三郎の名前を うに喚起している。「フランス・ルネサンスの時代には、 ・挙げたいのである。 宗教の問題を、政治の問題として、新旧のキリスト教徒 東京大学在学中に発表した「奇妙な仕事」が平野謙に賞の、王家も貴族も大いに争った。宗教戦争を戦い、異端を ・賛され、「死者の奢り」での本格的な小説家としてのデ焼き滅ばした」。 ビュー以降長いキャリアを持つ大江だが、ある時期からは この本は、まぎれもなく宗教戦争における「内戦」を生 " 「人間」の重要性を強調しつつも、「新しい人」の到来を待きた人間と、日本の戦時期を二重写しにしつつ書き継がれ 望し呼びかけ続けている。「人間」の重視には師である渡た列伝だった。渡辺は中世フランスにアジア太平洋戦争当 辺一夫の影響が強く見られるが、大江の視点は師の発想と時の状況と、戦後のレッドバ ージ等々の状況を二重三重に は微妙にズレているのだ。大江の文学に初期から通底して写し込みながら叙述している。渡辺は破局的な要素も善い いた大きなテーマであった、「新しい人」への希求はどの 行為も引き起こす要因としての「人間」の問題を強調する ような意義を持っているのだろうか ? 性急な人間中心主が、大江はそこで「人間の一般概念」を考察しなければな らないと強調している。 義批判が盲目にしてしまう論じ方とはまた別の視点から、 この「人間」と「新しい人」の関係について考察してみた 」 , つい , っしし 、ことも、人間という概念がつくり出したも 大江の文学がその小説家としての出発以前から「人間」 の、それに左右されるものだけれども、また破局のよう と「内戦」の問題に根深く浸されていたとすれば、渡辺の なおぞましいことも、人間に本質的に根ざすものだと考 えなければならない。 著作『フランスルネサンス断章』 ( 後に改稿して『フラン ス・ルネサンスの人々』 ) の存在が極めて大きいと言える。 《「人間」と申すのは、現在の「人間」のことです。或

5. 群像 2016年12月号

" 文学をめぐる励ましのマキシム " 坂口周 私のベスト いきなりだが、『意志薄弱の文学史ーー日本現代文学殺人」 ( 一八四一年 ) の書き出しである。この小説は冒 の起源』 ( 慶應義塾大学出版会 ) を出版した。一昨年に頭で、「分析」こそ人間の至高の能力であることを主張 頂いた評論優秀作 ( 子規論 ) を第一 , 章に組み込んでい する。優れた分析は、解析力、計算力、注意力、記憶力 る。研究書の趣だが、この場を借りて宣伝してくれて構でも、反対に創造力の強さなどでもなく、開かれた「観 わないという編集部の優しさである。どんな執筆者も、察」に基づく想像力によるもので、その結論は「まるで 書く体勢を作るのに個性的な習慣を持っている。飲んだ直観にしか見えない」。私の論文なんかは、評論家から ら書けない派が多いが、私の場合、逆に若干朦朧としなは分析的で味気ないといわれ、研究者には「思いっき」 くては筆が進まない ( そんな内容の本ともいえる ) 。だ に過ぎると眉をひそめられる。だって、それが至高の道 くだらない。 から、執筆をアテにするベスト 3 酒 ですから ! とポー先生を思って自分を慰めるのだ。ま 「文学」を選ぶ者が行き場を失いつつある時代である。 たも趣旨を外れたようである。 ここはやはり生真面目に、そんな迷子を鼓舞してくれる 最後に、横光利一「人間学的文芸論」 ( 一九三〇年 ) 意見、それも今回の執筆で出会った作家のお言葉 3 選でから。「いかにすれば人間が、人間であるわれわれの前 ある。 へ、人間と社会とを明瞭にすることができるであらうか 「日本の在来の文学では、意志薄弱は徒らに嘲笑されてと努力する方法の一つを、われわれは文学と云ふのであ ゐた」が、二〇世紀を目前に反転した弱さの思想を得てる」。人間が人間を理解しようとしても、自らが人間で いく。校了後にたまたま読んだ、正宗白鳥の評論「日本あることの壁を超えられない。また、社会から人間を理 文学に及ばしたる西洋文学の影響」 ( 一九三三年 ) の一解しようとしても、「私」の意識体験は取りこばされる。 節である。大正期頃の作家たちの「意志薄弱」の語用の間にまたがって、人間の本態を探り続ける「学」を文学と 裏に、共通のひねくれた認識のようなものが見え隠れし いう。そう横光は考えた。その努力の絶えたとき、人間 ていたから、奇をてらったタイトルをでっち上げたつも社会は基礎学の支えを失って、その「開展」を止めるだろ りはなかった。それを証拠付けてくれた文である。至言 う。これは文学に携わる者を均しく鼓舞する言葉である。 でも何でもない。私的な励ましを受けたという話であ それで、この半年の一酒はといえば、ブッカーズとい る。いきなり趣旨から外れた。 う銘のバーポンである ( 本にかけて ) 。高級酒だが、ほ が、無理につなげて、二つ目ーーー「分析的なものとしんとにチビチビ。ところがちょっと過ぎると、椅子に て論じられている精神の諸作用は、実は、ほとんど分析座っていられない ( 寝る ) 。体力の限界、酩酊法も卒業 を許さぬものなのである」。・・ポー「モルグ街のの歳と知った。 私のベスト 3 261

6. 群像 2016年12月号

■舞城王太郎【まいじよう・おうたろう】作家。 ■多和田葉子【たわだ・ようこ】作家。年生。 『犬婿入り』『容疑者の夜行列車』『雪の練習生』年生。『阿修羅ガール』『好き好き大好き超愛 してる。』『短篇五芒星』『深夜百太郎』 『雲をつかむ話』『献灯使』 ■富岡幸一郎【とみおか・こういちろう】文芸評■三浦雅士【みうら・まさし】文芸評論家。年 論家。療年生。『戦後文学のアルケオロジー』生。『メランコリーの水脈』『身体の零度』『青 『使徒的人間カール・バルト』『内村鑑三』春の終焉』『出生の秘密』共著に『村上春樹の 読みかた』 『最後の思想』 ■野崎歓【のざき・かん】フランス文学、文芸評・山城むつみ【やましろ・むつみ】文芸評論家。 論家。年生。『五感で味わうフランス文学』年生。『文学のプログラム』『転形期と思考』 『赤ちゃん教育』『異邦の香りーネルヴァル「東『ドストエフスキー』『小林秀雄とその戦争の時 「ドストエフスキイの文学」の空白』 方紀行」論』『フランス文学と愛』『アンドレ・ バザン』訳書に『赤と黒』『ランサローテ島』 ・鷲田清一【わしだ・きよかず】哲学。年生。 ・橋本治【はしもと・おさむ】作家。年生。『分散する理性』『モードの迷宮』『「聴く」こと 『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』『双のカー臨床哲学試論』『「ぐすぐず」の理由』 調平家物語』『上司は思いっきでものを言う』『しんがりの思想』 『結婚』『百人一首がよくわかる』 ・保苅瑞穂【ほかり・みずほ】フランス文学。 【投稿はすべて新人賞への応募原稿として取り 年生。『プルースト・印象と隠喩』『ヴォルテー扱わせていただきます。なお原稿は返却いたし ルの世紀』『恋文』『モンテーニュ』 ませんので必ずコピーをとってお送り下さい。】 ■穂村弘【ほむら・ひろし】歌人。年生。『シ【佐伯一麦氏の「山海記」、片山杜秀氏の「鬼 ンジケート』『によっ記』『短歌の友人』『ばく 子の歌」は休載いたします。】 ーー編集部 の短歌ノート』 ( 毎月一回一日発行 ) 群像第七 + 一巻 二〇一六年 十一月七日印刷 二〇一六年 十二月一日発行 編集人佐藤とし子 発行人市田厚志 印刷人金子眞吾 発行所講談社 郵便番号二二ー八〇〇一 東京都文京区音羽一一ー十一一ー一一十一 電話編集〇三ー五三九五ー三五〇一 販売〇三ー五三九五ー五八一七 印刷所凸版印刷株式会社 郵便番号一七四ー〇〇五六 東京都板橋区志村一ー十一ー一 ⑥講談社二〇一六年 本誌のコピー、スキャン、デジタル化等の無 断複製は著作権法上での例外を除き禁じられ ています。本誌を代行業者等の第三者に依頼 してスキャンやデジタル化することはたとえ 個人や家庭内の利用でも著作権法違反です。 ISSN 1342 ・ 5552 ◎落丁、乱丁などの不良がございましたら、 小社業務 ( 電話 0 3 ー 5 3 9 5 ー 3 6 0 3 ) までお送り下さい。良品とお取り替えい たします。 ◎最近号のバックナンバーを購入ご希望の方 は、書店にお申し込み下さい。 ◎品切れになりましたら順次締め切らせてい ただきますのでご容赦下さい。 308

7. 群像 2016年12月号

には至らなかったのには理由がある。それし」とされるとき、それは、何の解がないれは、ト島信夫が小説で「私」と指示して は、小説の評論とは何かということに関係のかを明らかにすることができれば、評論いる人物ーー・ーっまり小島自身だがーーの周 しており、宮澤のこの大江論が、まさにそとして成功する。こうした観点で、「新た辺の人間関係についての事実の詮索であ のことを考えさせるものになっている。評な「方法序説」へ」を見たとき、 ( 解ではる。日本の現代文学に重要な足跡を残した 論には何を書けばよいのか。たとえば何かなく ) 問いそのものが発散していて像を結人物について、小説のモデルになった事実 の解説のような文章であれば、著者がわびきれてはいない。「 ( 世界の ) 偶発性」、がどうだったかを知ることで満たされる好 かっていること、つまり著者が知っている「宙返り ( 転向 ) 」、「 ( 人間の ) 暴力性」等奇心はないでもないが、少なくともこの評 ことを、もっとわかりやすいように言い換のおもしろそうな論点がちりばめられてい論に書かれていることはオタク的なもの えればよい。しかし、小説の評論はそう いるが、この評論は、それらが、思考を駆りで、そこから、文学や哲学や思想に連なる うものではない。大江自身、自分は、自分立ててやまないどのような問いをめぐって意義をもった考察はほとんど展開されてい が「知らないこと」を小説に書いている、 いるのかを、統一的に示すまでには至らな とスーザン・ソンタグへの返答の中で述べかった。つまり、「我考う ( コギト ) 」を刺 ているとすると、評論は、ト / 説家がすでに激し続けている「徴候」が何であったかを 彦 「知っていること」について書いても、意特定できてはいない。 味がない。言い換えれば、評論は、小説優秀作には至らなかった二作についての ( 家 ) 自身が知らないことについて考える講評は以下の通りである。伊野連の「正岡 野 こと、知らないことをまさに知らないとい子規における死生観」は、率直に言えば、 ム月ハ表 発 う開放性を損なうことなく書くことであろ正岡子規論にはなっていなかった。これ 賞 論 う。ということはどういうことか。それは、終末医療のケーススタディのようなも は、小説のうちに潜在している思考を、のである。その対象が、正岡子規である必優れたテクストは読みつがれる。読みつ人 「解」の形式ではなく、「問い」の形式で示然性は読み取ることができなかった。鄭重がれてゆくことでじぶんを再生産し、かく像 すことではないか。思考がめざす普遍性の「「私」のゆくえ」は、タイトルからは、て古典となってゆく。 回 は、解ではなく、問いにある、ということ一人称についての哲学的考察のようなもの古典的なテクストはたほう、みずからに 第 を明らかにすることであろう。宮澤が引いを想像したが、実際には、あまりに字義通っいてのテクストを再生産する。かくてま ている津島佑子の言葉を借りれば、「解なりのことが書かれていて、驚かされた。こた古典をめぐる研究や批評が生まれてゆ ヒヒい

8. 群像 2016年12月号

第六十回群像新人評論賞 予選通過作品発表 第六十回「群像新人評論賞」に多数のご応募をいただきあ りかと , っ、いました。 応募総数一七九篇のなかから、第一次通過作品、第二次通 過作品 ( 〇印 ) 、および最終候補作品 ( ◎印 ) を以下のよう に選出しました。 川口好美 - ◎不幸と共存ーーーシモーヌ・ヴェイユ試論 ピアニッシモ 菊谷倫彦 沈黙の反響音 5 日常制作派宣言 月の徴しの下にーーアニメーションにおける器官なき身体 木澤慧史 「九年前の祈り」を読む 〇文学のヴァルネラビリティ 栗脇永翔 《推理》の行方ーー山尾悠子『ラピスラズリ』の作品世界 小林徹 多田紅子 ルフェーヴルの直観 否定絵はいかにして描かれたかーーー正岡子規とウイトゲン シュタイン 谷口一平 鄭重 ~ ◎「私」のゆくえ 文学における現実意識なるもの ( 吉本隆明をめぐって ) 仲村清 橋ロ祐樹 軽蔑の技術ーー後藤明生再考 ◎正岡子規における死生観 伊野連 ・シーンに見る現代科学の諸相樋口拓哉 宮沢賢治と東北ー「大盗」と「舎利の寶塔」ー岩井洋子】〇カルチャー 深井寛 三島由紀夫の「哲学」について 『たけくらべ』ー「女」から「女性」へー ・・デブラダヴィセンテ 〇非なるものの書庫ーーギイ・カシールス演出『うわずみの 堀切克洋 大貫徹】赤』をめぐって 〇佐伯彰一論ーーその変貌と断念を巡って 大山アラン一◎新たな「方法序説」へーー、大江健三郎をめぐって 時間の身体性 宮澤隆義 グーグル、アマゾン、ツィッター、そしてポルへス的迷宮 吉田末和 小野裕三 深沢七郎試論 テクネー 115 第 60 回群像新人評論賞発表

9. 群像 2016年12月号

ヒヒ 連作評論小説の 『トム・ジョウンズ』と僭名の時空 武田将明 安藤礼二 『コンピニ人間』論 佐藤康智 第圓回群像新人評論賞発表 優秀作不幸と丑ハ存 日ロ好美 シモーヌ・ヴェイユ試 新たな「方法序説」へ 宮澤隆義 大江健三郎をめぐって 受賞のことば 選評大澤真幸熊野純彦鷲田清一 予港通過作ロⅧ発表 連載小説九十八歳になった私 ( 4 ) 橋本治 瀬一尸内寂聴 いのち ( 8 ) 鳥獣戯画 ( じ 磯﨑虫思一郎 三浦雅士 連載評論一言衄Ⅲの政治学 ( 5 ) 佐々木敦 新・私小説論 ( 川 ) 〈世界史〉の哲学 ( し 大澤真幸 モンテーニュの書斎 ( ) 保苅瑞穂 現代短歌ノート ( 乃 ) 穂村弘 町の消滅 小林信彦 新しい」 AJ 武田花 鳥と暮らす 稲垣、んみ子 「日本 ()n 映画零年」のために 入江悠 未来のエネルギー 大平貴之 耳以外で聞いた三つの立日の話 関口一子 文学をめぐる励ましのマキシム坂口周 書評『コン一アクスト・オプ・ザ・・デッド』 佐々木敦 羽田圭介 『地鳴き、小鳥みたいな』保坂和志山城むつみ 『籠の鸚鵡』辻原登 ~ 局原到 『日本語のために』池澤夏樹編 富岡幸一郎 創作合評「再起動」岡本学 「弔い」杉本裕孝 片岡義男 x 野崎歓 x 石田千 「囚われの島」谷崎由依 第回群像新人文学賞応募規定目次裏 第回群像新人評論賞応募規定目次裏 連作評論大拙 ( 3 ) 一ロ薹一口 水槽としてのコンビニ 連載 随筆 私の ベスト 3 最終回 執筆者一覧 りけ 0- 円・ー ワヴー 8 り 1 ワ一 4 ー ワ 8 -0 — 1 -8 1 -4 ワ 014 — 8 -4 ワ 8 ワ り・ 1 -8 -4 ワ -8 8

10. 群像 2016年12月号

文学座附属演劇研究所 文学座でに俳優・演出家・舞台スタスを目指す才能を募集します。 新しい感覚と強い意志でこれからの演劇界に》 新たな歴史を刻む若い力を研究所は待っています当 = 57 期本科入所試験 1 次試験ー 2017 年 1 月 8 日 2 次試験い月 1 0 日・ 1 1 日 受験資格 18 歳以上 ( 2017 年 4 月 1 日時 ) 経験不問 願書受付 2016 年 12 月 12 日 ~ 22 日 文学座ー〒 160-0016 東京都新宿区信濃町 10 83-3351-7265 lhttp://www.bungakuza.com/