野崎 - みる会図書館


検索対象: 群像 2017年1月号
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1. 群像 2017年1月号

方の面白さなんですね。俊くんを「生け贄石田お姉さんは、にぶちんの旦那さんとね。お姉さんは、階段の途中で妹を蹴り飛 にしちゃったんだよ」という、妹のすごい暮らしていけるんでしようか。 ばすんですよ。しかも二回。階段から蹴り せりふが出てきますけど、本当にそこまで野崎夫が自分のことを絶対的な相手とみ落とすって、危ないですよ。 いっていいのか、姉は他者を支配するようなしていなかった。そう思ったからお姉さ石田歯も腕も折れちゃって。歌舞伎とか な人なのかどうかも断定できないところがんは怒って出ていったわけですよね。で神楽みたいな見せ場でした。 あります。妺は、過剰反応的に攻め込んでも、この描き方だと、夫のほうに魅力がな野崎片岡さんがおっしやったように二回 いる感じがします。 いわけだから、上下関係としてはどう考え蹴る。僕は、二回というのがこの小説では 片岡そこまでは書く意思がなかったのかても、トロフィーワイフと呼ばれるに足る一つのバターンを作っているような気がし なという気がしますね。何を書きたかった ました。姉妹の一人がもう一人のコピーに のかなという不思議な気持ちが残ります。 なる。そういうところが形式的に韻を踏ん 最後に書き手が、幸せというものは当人の でいるような書き方になっていて、非常に 氏 問題であって、周りの人は誰であれ、その 歓狡猾というか、巧妙の面白さがあると思っ 幸せに関して云々する立場にはないんだと 崎たんですね。 野 片岡それはひょっとしたら書き手の癖か いうようなことを一言います。ですから、何 を、どういう話を読者として楽しめばよ もしれないですよ ( 笑 ) 。僕の場合は大抵 かったのか、余計にわかりにくいのです。 のものが三つ出てくるんです。 野崎ある意味、にべもない終わり方でお姉さんのほうが旦那さんより上に見える野崎その場合、二つだと話が止まっちゃ す。心を外部からシャットアウトしてしまんですよ。揺るがぬ自信がありそうに思ううんでしようか。 片岡そうなんですよ。 うような認識を示しているように見えまんだけども、揺れ動いていますね。 す。 片岡どの関係にも全部、上下関係みたい石田読後感に停滞を感じるのは、もしか 片岡全て当人の問題だ。要するに、気持な高低差がある。しかもその高低差の中にしたら二つということと関係があるのかも ちの持ち方一つですよというような結論に幸せというものがあって、その幸せは当人しれませんね。 なっていると思うと、せつかくこれだけ書だけのものだというふうに言われると、結野崎反復なんですよね。例えば、妹がお いたのにという気がしますね。 局何だったのかなという気持ちになります姉さんに電話して、旦那さんの悪口を一一 = ロう 343 創作合評

2. 群像 2017年1月号

ような言葉がありますね。その格言の部分がバスカル的な小説だと言ってもいいのからみを見破る。どの段階で見破ってもいし ですよ。先輩のたくらみがうまくいって、 と、アリサが相続する巨額のお金が主人公もしれません。 の頭の中で合致すると、あ、ここだという もともと運動、ムーヴマンが人間の本質キャピタルが手に入った後で、実はこう ふうにわかるんですよ。それが先輩にとつで、それはバスカル的には人間の中途半端だったんだろうというふうに言っても構わ てのキャピタルで、人生にとっての資本金さを言っているんですね。常に動いていな ないと思うんです。 ーをつくっ なんですね。そこで終わると、大変いい話きやダメなんだ。そうでないと絶対に永遠野崎先輩との対決でストーリ になるんです。 の安らぎは得られないと。この平静というていくと、面白いかもしれませんね。 野崎この状態だと、今おっしやった格言のはサバティカルと同じで、フランス語で石田やつばり先輩なので、腰が引け の部分がちょっと浮いていますよね。 は休息という意味も持っ単語ですけど、そちゃっていますよね。もう少し頑張ると、 片岡明らかに浮いています。だから、格れは死でしかないという。そうすると、こ先輩に対して自分なりにある程度応戦した 言とキャピタルを結びつけないといけなこで描かれている世界は、その運動の中かなという気持ちになれて、そのさきへ向か 。主人公が、先輩の格一言をコンピュータら一歩降りた状態で、どこかヒャリとしたうのかなという気もするんですけど、加藤 にすべて書き込んでいたりすると面白いで死の感覚もある。非常にメランコリックなさんは決めかねてる状態が描きたかったの す。 でしようね。 叙情が漂います。 野崎これは先輩の格言ではありません片岡最初は漂っているんですよ。雨のバ野崎いま一つつかめない最後になってい が、「一度前に漕ぎ出したら余裕などない。 ンコクですから。でも、二、 三ページで急ます。 遠くに着いたら後ろなど見えない。すべて速に消えて、後が続かない。 片岡主人公の推測に終わっていますか ら。 はそういうように出来ている。パスカルも石田主人公は、コンサルティングファー 言っていただろう」とある人物が言うと、ムの中でサバティカルを得るまで生き残っ石田アリサの事故も不思議です。アリサ 「僕」のほうは即座に反応してバスカルをてきたわけで、このひとは勝者なんですよ自身のこともよくわからなかった。 引用するんですね。「我々の本質は動くこね。 野崎理屈というか、設定がちょっと勝っ ~ 。 作 とにある」「全き平静とはすなわち死であ片岡ある程度は優秀なんです。その優秀ているような気がしましたね。人のいない る」。つまり、この業界の人たちはバスカさをうまく物語に使わないといけない。どところだけ案内されて、肝心なところは見 ル的な認識を共有していて、この作品全体ういうふうに使うかというと、先輩のたくせてもらっていない感じです。

3. 群像 2017年1月号

石田主人公は優秀な青年で、嫌なところ銭のことをしつかり書くと、面白く読める野崎先ほどの舞城さんのコピーという話 と共通しますが、一卵性双生児。 が全くないんですが、付き合っていた年上小説になりますよ。 しいものは全部姉が持っていった。 の女性のことを思い出す場面があります。野崎ぜひ書いてほしいですね。コンサル片岡 僭越ながら、私がもし彼の恋人だとした小説はまだまだ書かれる余地があるんじや自分は風船みたいに膨らんでいるだけで、 ら、やつばり別れるだろうなと思いましないですか。この中に、コンサルを辞めて中には何にもないんだと、アリサ自身も いった人たちがみんな、ある共通したまな言っているわけです。 た。読書家だし、非の打ちどころがないん しムードだと だけども、いわれたから、与えられたからざしをしていたというディテールがありま野崎読み始めたときに、、、 やらなきゃいけないっていうひとで、本人した。僕はそこにすごく興味を覚えまし思ったんですね。謎の行動をとったアリサ た。辞めざるを得ない人たちには、ある切を調査するわけですけれども、私立探偵物 が、何をしたいのかがわかっていないのだ 実さがあると思うんです。彼らを通してみたいな雰囲気です。でも、そのわりには と思います。 前々回取り上げた宮内悠介さんの小説だったら、コンサル業界が描けるんじゃなその過程にあまり困難が生じないんです いかという気もします。データセンターはよ。 で、ソフトウェアをつくる女性が出てきま したけど、彼女は休まず働いて心が疲れ抽象的な概念でしかないみたいなことが出片岡アリサがすぐ見つかる ( 笑 ) 。 て、会社に休暇をとるよう命じられる。そてくるけど、我々にとってはコンサルこそ野崎スムーズなんですよね、この主人公 こで最先端の仕事の難しさとか、人がどれ抽象的な概念でしかないので、そこを具体の生き方自体もそう。きっと能力の高さゆ ぐらい疲弊していくかとか、いろいろ見え化できたら、ほんとに刺激的だろうな。グえなんだろうな。コンサルはそれじゃな ハリゼーションとか—とかが集約さきや長年やっていられないんでしよう。た ていました。この小説は彼が疲れて恋人にロー 「これ以上やったら死ぬわよ」とか言われれているようなところなんでしようと想像だ、そのスムーズさが、読むほうにとって ているけれども、実際どんな仕事をして疲するよりほかないんですけど。文章は村上は情緒に流れているように感じられまし れて空つばになったのか、その辺のところ春樹的というか、その影は感じました。比た。具体的な手応えがもっと欲しかったな 喩が多いので、ちょっともったいぶった感ということですね。片岡さんがおっしやっ をもう少し知りたかったです。 た、 , それこそキャピタルですよ。次はお金 片岡もし知っているなら、仕事と金銭のじもするんですね。 ことをとにかく書く。金銭って大事なんで石田女性の透明感に、そういう印象があの問題をダイナミックに絡ませて書いてい すよ。これは外してはいけないのです。金りました。アリサは、双子の妹でしたね。ただきたいですね。 352

4. 群像 2017年1月号

と突然電話を切られる。妺自身も、夫にお野崎さっき石田さんがおっしやったようストかまんがでわかりやすく説明していくⅧ に、読む分には非常に心地よく、会話にと本がありますよね。ああいう会話に似た感 姉さんの悪口めいたことを言われると反発 を感じる。こだまし合う構造になっているてもリズム感があるので、魅きつけられまじがしたんです。だから、ああそうか、わ わけです。 す。この作者だから、もちろん語り口はじかった、わかったみたいな気持ちで読んで いくんですけれども、結末のあたりになっ トロフィーワイフという一一 = ロ葉で連想してつに達者なんですが、同時にそうスムーズ しまうのは、やつばりトランプの奥さんとにはいかせない、抵抗を作り出すそというて、姉妹の歩み寄りはわかるんですが、 かですよね。この旦那さんには、トラン気持ちもあったんでしよう。それが、読みさっき片岡さんがおっしやった最後の五行 のところ、作者の言葉が格言のように出て プつばいところはまったくない。そこがま終わってみると、何だったんだろうなとい きたときに、どすんと放り出されて、たじ たちょっと肩透かしというか、不思議なと ろぐ。 ころです。どういう夫婦だったのか。「姉 片岡読者として一番の不満は、お姉さん の結婚式では、その前にひと悶着あって、 氏 千と妹さんの関係が変わらないことです。最 その内容については忘れたいです」とあり 田初から最後まで同じで、これからも同じだ ます。何があったんだろうと思わせて、し 石 ろうなという感じがある。短篇ですから、 かし答えはない。その辺、一筋縄ではいき 二人の関係が変わらないといけないんじゃ ませんよね。 ないかなと思うんです。変わることによっ 石田何があったのか、知りたかった。旦 て何かが描かれて、その描かれたことに 那さんは、トロフィーワイフを持つのにふう謎として残るような気がします。 さわしい男性ではないと自他共に認めて石田カウンセリングのようだと言いましよって読者が満足するというようなことに たが、それも含めてこの作品の魅力だと思ならないといけないかなと思うんですよ。 る。そこも面白いです。 うんです。 野崎最初と最後のコントラストがくつき 野崎簡単には答えをつかませないそとい う、作者の側の姿勢でもあるような気もし片岡分析的だから、言葉数が多いんですり出てくると、読者としては非常に満足感 よ。非常にたくさんの言葉で語るわけだか が得られるわけですが、意外とそれが曖昧 ますね。 片岡でも、読者としてはすべてわかりたら、面倒くさいといえば面倒くさい ( 笑 ) 。な形で終わっている。必ずしも期待に応え 石田たとえば、ある哲学の思想を、イラない、不思議な味わいになってますね。石 いので、書いてほしいなと思います。

5. 群像 2017年1月号

なと思っていれば幸せなんですよ。幸せで常的にこういう会話はしないだろうから、だったのが、それが嫌で途中でグレる。で犯 はないと思い始めたら幸せではなくて、あフィクションとして楽しく読みました。 も、グレたつもりになっても、姉のコピー らゆる点でどんどん幸せではなくなってい野崎姉について、妹の旦那さんは「今、であることを拒むためにグレているので、 アイデンテイディクライシス状態なんじゃ結局、妹はずっと姉の影響下に置かれたま 石田扉子さんは小さいころから棚子さんないかな」と言います。だから、アイデンまだった。それが、この話の後半で、姉が に対してコンプレックスがあって、お姉さティティというのが一つテーマなんでしょアマテラス状態になって逃げていった先 んを長年観察、分析しています。けれどあうけども、その引き金となったアメリカので、姉はまた一種の女神のようになってい るとき、自分は姉と違う人生を歩まなきや社会心理学者のスピーチは、ある意味ではますよね。いい人の顔をしながら他者を支 いけないと気づき、新しい自分を作ろうと 配する女なんだという正体がだんだん見え 葛藤してきました。そういう妹が、福井に てくるという運びが、なかなか面白かった 行って、姉をじりじりと追い詰めていく。 氏です。スリルや怖さがあります。 その様子は神話的というか、アマテラスオ に一 ~ ご【男石田福井のお友達の子どもの俊くんが、 オミカミを天岩戸からひつばり出すみたい 岡お姉さんが世話をする一人として生け贄的 な、そういう面白さがありました。また、 片にあらわれる。俊くんとお姉さんのやりと 同じような悩みを持っている女性は、ああ りが一番現実的と思いました。 そうだったのかな、自分もそうなのかな 野崎石田さんがおっしやったようなカウ と、目からうろこが落ちる瞬間があるかも口実ですよね。それ自体が何かを解く鍵をンセリング的展開というのは、お互いに読 しれない。それと、姉が一人の人間として持っているというよりも、それまである種み合う展開でもあるわけです。これは妹の 目覚めていく様子のあたりは、『アナと雪の無理というか、人工性みたいなものがお立場で書かれているんだけども、その妹が の女王』の姉妹も思い出しました。あれ姉さんの成り立ちにあって、それが表に出本当に正しい診断をしているのかどうかと も、階段が出てきたし、日本でやるとこうてきたということなんだろうなと思うんで いうと、それはわからないですよね。 なるのか、と。とてもテンポよく進んです。 片岡全然わからないです。妹の解釈です いって、カウンセリングの会話を聞いてい コピーという一言葉が出てきますけど、妹から。 るような感じもします。ふつうの姉妺は日のほうは非常によくできた姉のコピー状態野崎その辺も含めての、この小説の書き

6. 群像 2017年1月号

て捕まり、出所してきて自分たちはおびえ思うんですが、もしそうでないとしたら、響いて、説得力が足りない気がしました。 て暮らすだろうというもので、どちらかと狩人としての男は、子どもにい、わけする石田倉内さんを現代人として描こうとし たのなら、これでいいんだと思います。 いうと街の掟ですよね。倉内さんは街の人行ないはしない気がするんです。 野崎ええ。ところがそうではないと思う です。その人が山に入って、山の掟に従っ片岡そのとおりですね。 て人を殺すというには、どういう経緯で彼野崎山の掟ではなく、都会の論理になつんですよね。理想の親子像にしたかったん がその掟を学んだかが知りたい。加藤の回てしまっているという今の石田さんの分析じゃないか。 想のように。殺人と狩猟は、やつばり違を非常に感心しながら伺ったし、共感した片岡崇高な人として描こうとしている。 う。生き物の命を奪って食べることによっんですけど、「息子と狩猟に」というタイ野崎崇高さというのは、反社会的なもの トルからして、息子に何かを手渡す、引きでもあるわけです。ライトに反射したウサ て、自分の命をつなぐ必要があるからとい ギの目を撃っということを子どもに教える 継いでもらうというモチーフが強く出てい うのが、狩猟。 片岡要するに狩人のほうが乖離しているますよね。父と息子の物語というのが一番のは、我々には非常に残酷に思えるわけだ わけですね。二重になっていて、一つにつ根底にあって、それが二重化されていまけれど、それは山の掟なのかもしれない。 ながっていない。 す。ヤクザ的な稼業をしている加藤も、そこのところが描き切れれば、戦慄を催す 石田死体に対して「太郎がたべてくれ昔、おじいさんに山の掟を教えてもらったものになったのかもしれないけれども、軸 る ? 」と、何回か言っている息子のほうがわけです。しかも、加藤がおじいさんにも足はどうしても都会のほうにあるので、ど 一むしろ本来狩人の発言だと思います。最初らったナタが、倉内の息子に委ねるといううも空回りしているんじゃないかという印 のあたりに登山道に入ったときに、手を伸形で引き継がれていく。徹頭徹尾、男たち象です。 ばして息子を助けようとして倉内さんが足が世代から世代へ殺しの意思を受け渡して石田本当のマタギの仕事は、もっと厳し いと思うんです。 いくという構図になっています。ところ を滑らせるシーンがあるんです。それで、 倉内さんは命を落とすのかなと思いながらが、倉内は本来的な猟師から浮遊していま片岡もっと厳しいし、もっと変な世界で評 読んでいったんですけど、無事に帰っていすよね。どうして山に入って動物を殺すのすよ。決して受け継いでいけるような世界推 か。それに対して、例えばアドレナリンがではないと思うのです。ですから、二つの 街に負ける自然界というものを書きた かったのであれば、このままがいいのだと湧いてくるというような説明がやや安易に話ですね。振り込め詐欺の話は、徹底して

7. 群像 2017年1月号

にしないような単語がちりばめられていま野崎お父さんが息子に対して一種の哲学んでいる人間が山に入って、猟銃で生き物鄒 す。そのことを通して、読者を日常とを吹き込みますね。「ケモノと人間が同じを殺す。その畏れみたいなものを持ってい ちょっと違う価値観へ引っ張っていこうとなのに、ケモノは殺してよくて、人間は殺てほしいのはむしろ倉内ではないかと思う する。そういう小説だなと思いました。そしちゃだめというのは、オレの中で筋が通んですけど、どうだったんでしようか。作 の中心には、殺し殺されるという関係性がらない。人を撃ち殺して気にゃんでたら、者は、、、倉内さんをどういう人間に描きた かったのか、読みきれませんでした。 あります。 今まで殺したケモノたちに申し訳が立たな 片岡一組は人間同士の殺し合いで、秩序い」。かなり挑発的というか挑戦的な哲学片岡非常に気楽ですよね。 石田ええ、そう見えてしまう。きびしい をつくっている人たちが秩序を乱す者を殺です。 します。もう一組もやはり殺すんですけ片岡不思議ですよ。申し訳って何です山の掟に生き、息子の尊敬に値する父親と して描きたいならば、私は、無事下山させ ど、それは猟師が肉を食べるために、自然か。 の中に生きている鹿や熊を撃っということ野崎しかも、お父さんは猟師といってなかったほうがよかったのではと思いまし で、振り込め詐欺をやっている動物はいなも、趣味でやっているんですよね。 いわけですから、原理が根本的に違うんで石田加藤のほうは、幼少のころ山間で非片岡最後、息子はおやじさんの死体を見 すよ。振り込め詐欺の男たちと猟師、これ常に貧しい暮らしをしている中で老人と出おろしていたほうがいいですね。それで は原理の違う者同士が対決する状況の物語会い、その老人に狩りの仕方や自然界で生「ばくは猟師になりたい」と言う。 なんですよ。読んだ後、何日もいろんなこきる掟を教わって育ちましたが、老人が山石田子どもが泣きながら、一人で下山し とくに、倉内さんが加藤を とを考えていて到達した結論はそういうこを追われて消えてから、どんどん転落してたほうがいい リこ・よ、加 いって、振り込め詐欺集団に入っていく。 殺したあとの場面、熊の太郎の前し。 とです。 野崎書き手は、その原理がある一点で同そういう来歴が書かれていました。けれ藤が理めようとしていた別の死体がある。 じになるときが来るんだというふうに書いど、一方の倉内は、誰に狩りを習い、どうそのときに倉内は、殺した加藤を「もう一 いう哲学を学んだのか、書かれていませ人頼む」と、太郎に声をかける。あれは失 ている気がします。 片岡そう思っているような感じがあるんん。都心の新聞社の営業職にある彼が、ど言だと思います。非常に利己的で、都心の ですけども、同じになるかならないか。 うして狩猟をする必要があるのか。街に住人間の考えです。殺す理由も、加藤が生き こ 0

8. 群像 2017年1月号

す。タイトルの「キャピタル」は、素直に観光していくような物語です。アリサのおんと書けば、アリサが相続した企業に対す 考えると最初に出てくるバンコクのことな父さんのお墓がある廃墟的なレジャー施設る先輩の思惑というのは、コンピュータの のかな。それから、コンサルティング会社と、アリサの会社のデータセンターを見学前に座っているだけでわかるんだと思いま が扱っている資本の流れを意味するのかなに行くシーンが面白かったので、その部分すよ。 と思いますけども、いずれにせよ、バンコをもっとのぞいてみたかったです。あと、野崎そうやって話をシャープにすれば、 クが舞台の小説として読み始めたときの期先輩の魂胆や、仕事で疲労して恋人が離れコンサルティングファームの凄みみたいな 待、または紋切り型のイメージとは全く正ていく様子は、エリート社会もあんまり変ものが出てくるんじゃないかという気がし 反対で、非常に静かで、ある意味何も起こわらないんだなあと思いました。巨額のおますね。ある時期から、「コンサルに勤め らない。片岡さんがおっしやったように、金を動かすわりには、先輩の戦略は伝統的ます」と誇らしそうに報告してくる学生が アリサの捜査が何か問題をはらむわけでもというか、そんなことでうまくいくのかな増えました。でも、僕にとってその実体は プラックポックスとしか一言いよ , つがなく、 とちょっと思いました。 なく、淡々と過ぎていきます。 最初に「肌寒いバンコク」とあるよう片岡お金の話があまり出てこないです今の世の中で最先端の就職先であるという に、雨が降って、季節も秋から冬なんですね。何をどうして、どこからどのくらいのことだけが感じられるんです。そこで何が ね。それがサバティカル、長期休暇ですかお金を取っているのか、そういうことを書行われているのか知りたいなと思うんです ら、デタッチメントな人生の一時期を描きかないといけないと思うな。雨の降る肌寒けど、夜中三時まで働いて、朝六時にはま いバンコクというのは、なかなかいいですた起きてといったハードワーキングなとこ たかったんだろうと思うんです。長期休暇 よ。 もち ろだというほかはあまりわからない。 中に今後の人生を考えなきゃならないとい ろん、そこを描きたかったわけじゃないん うことが一つ問題としてありますけども、石田口マンチックでしたね。 結局答えは出ず、待機状態のまま終始して片岡せつかくだから、雨のバンコクで押でしようが、コンサルティングファームの 具体的な描出がもうちょっとあったら面白 し通せばよかったんですよ。 いる印象です。 石田空調が効いている清潔な室内の、コ野崎北海道は出てこなくてもいいというかったのになと思うんですね。きっとこの 作者はよく知っているんだろうし、書くこ ントロールされている世界。肌寒くて、どことですね。 とはいつばいあるはずです。 こに行くにも清潔で、私の知っているにぎ片岡データセンターも出てこなくてい コンサルティングファームの話をきち片岡先輩が折に触れて言っている格言の やかなタイとは違い、人のいないところを

9. 群像 2017年1月号

んじゃないですか。 には入りませんという連絡をしてきたが、データセンターを手に入れて、それを売却 石田振り込め詐欺の場面で、お金を貯めその理由が全くわからないので、ちょうどして自分の利益にしようと考えていたらし 込んでいるおばあさんの貯金を世間に還元 しということがわかります。アリサは、東 しいことにバンコクにいるおまえが理由を する、といった話が出てきました。狩猟と探ってくれないかと頼まれます。 京に行って自分で説明したいと言うのです 呼応させて、生命の循環というものを広く 頼まれたほうは探しますが、アリサは簡けれども、説明がなされたのかどうかはよ 描かれたかったのだろうと思います。 単に見つかります。アリサは軽い交通事故くわからない。今、僕が言ったようなこと 片岡振り込め詐欺の話、猟師の話、猟師を起こして入院しています。アリサの背景も主人公の推測であって、それに対して、 の息子の話、それから熊の話も。四種類のがごく簡単にわかります。祖父母が中国かそれが本当だと先輩が認めたわけではあり 違う話が重なっているから、損しているからバンコクに来て、両親が財をなす。お父ません。バンコクで大変うまくいっている なと思いますね。 さんは脳梗塞で亡くなりますが、亡くなる企業を相続した女性をうまくだまして、そ 寸前、大変広いレジャーランドを企画しの企業を自分のものにして売却しようとし て、いろんな設備をつくりかけて途中で終た日本の男性の話かなという気がします。 「キャピタル」加藤秀行 わっていて、それがそのまま今、廃墟のよ野崎主人公で語り手の「僕」が、入社を 片岡最後は、加藤秀行さんの「キャピタうにあります。お母さんのほうはデータセ辞退したアリサという女の子を調査するわ ル」 ( 「文學界」十二月号 ) です。 ンターをつくって、それが大変うまくいつけですけど、そこまで彼女の事情を探る必 主人公は三十歳の独身男性です。コンサて、上場企業になっています。アリサには要がなぜあるのかなと思ったんですね。頼 ルティングファーム、要するにコンサルお姉さんがいますが、お姉さんはアメリカんできた先輩は、「我々は一人採用するに ティング会社で働いてきた人で、七年間勤でお母さんと一緒に自動車事故で亡くなつも膨大な予算をつけてやっている」からだ めた後、一年間の休暇をもらってバンコクていて、今とりあえずアリサは一人でいると言いますが、あまり説得力のあるもので はありません。 に滞在しています。滞在先に、かって一緒わけです。 評 に仕事をしたことのある先輩から電話がか アリサは上場企業とっくりかけのレジャ片岡先輩が述べる理屈はなかなか面白い 作 かってきて、自分のところで採用しようと ーランドを相続するのですが、結末を言っんですけど。 ほとんど決めていたバンコクの優秀な女てしまうと、アリサを雇おうとしていた主野崎最後まで読むと、調査自体が一種の 性、アリサが突然応募を取り消して、会社人公の先輩が、アリサにうまく取り入ってトリックを含んでいたということになりま

10. 群像 2017年1月号

片岡振り込め詐欺の話を完成させるため 。狩人のました。 金銭の話で完結させたほうがいい 話は狩人の話で、要再考です。二つは原理片岡狩人の話は、狩人自身の話とその息には、振り込め詐欺に参加する何人かの男 たちを描き分けて、なおかつ一つの目的が が違うから、原理の違うものを対決させる子の話へと、二つに分かれるんですよ。だ と、そこで余計に破綻が生じるかなというから違う原理が三つあって、それらが山の何回も達せられて、ある金額に達して、そ こで一気に解散というようなことが一番い 中で対決して危機的な状況を生む。 気がしますね。 いかなという気がします。殺しは現実にあ 野崎僕は子どもの視線も途中までつかみ石田加藤がだまされて、だました相手の 切れなくて、親の趣味につき合わされる子ために働いた下っ端を殺します。殺さなくるかもしれないけど、小説の中でこそ殺し それと、金額のことな どもはどう感じるんだろうと思ったんでてもいい人間を殺したと、加藤は動揺しまはないほうがいい。 ) す。お父さんに「この鹿はおまえの手柄す。殺人を犯した人間が見事に書けているんかいろいろ細かに書くと、非常にいいと と思いました。作者の服部さんは山に詳し思います。 だ」と言われて、息子は笑顔を見せてい く、たくさん調査もして書かれたと思うん野崎でも、作者の思いは振り込め詐欺よ る。でも、「学校で自慢できるな」には、 り、息子のはうにあるんだろうなと思いま 「言わないよ」と返す。「どうして」と聞かです。人間に銃口を向けることは狩猟では れると、「シカを殺して食べてるなんてない。そこに結末の難しさがあったかなとす。今、ピカレスクロマン的なものがよみ がえっていますね。悪漢小説には、現代を 言ったらドン引きだよ」。これはそうだと思います。 。ししカ考えると、ます、描くのに非常に適した部分があります。た 思います。「ドン引きだよ」は都会の論理片岡どうすれ、、、 で、子どもはそれを超えて山の掟のほうにとにかく振り込め詐欺の話を完成させるこだ、これはピカレスクとは逆に、ヒロイツ クな父親像をつくろうとしていますね。ヒ は簡単に行かないんじゃないかなという気とです。 、うちの実家にも電話がかロイックな父親を描くことができれば、現 がします。普通、子どもはこんなに親の趣石田この かってきたらしくて。それも振り込めじゃ代の作品として貴重なものになるんでしょ 味につき合わないですよね。こんなふうに うけど、やつばり難しいんだろうな。そこ なくて、還付金を振り込みますから銀行に 親の価値観を共有してくれたらいいなと、 に挑戦していること自体、オリジナリティ 同じ親として思いますけど、それははとん来てくださいっていわれたそうです。 どの場合に失敗に終わるんですね。その点野崎振り込みます詐欺というのがあるんーだと思うんですけど。 がこの作品で一番崇高な部分なんだろうけですか。小説のさらに先を行ってますね。片岡非常に難しいです。猟師の話と猟師 ども、読んでいて置いていかれた感はあり石田現実は、どんどん超えていきます。の息子の話ですから、世の中で一番難しい 348