十三郎 う顔 ) 」 と男の襟首をつかもうとするが、すり抜 けられる 篤平治「冷たくないんですか。風邪ひきます寿内「他の匿名とは : : : 一体、誰のことです しま屋の中から、呑んでいた人足たちが 十三郎「なに、近ごろはだいぶぬるくなって わらわらと飛び出してくる。 きた」 上町の通り ( 夜 ) 幾右衛門「みんな、泥棒だ ! 捕まえてく 篤平治「 : : : まさか、冬の間もやられてたん 善八、雨戸を閉めていて、 ですか ? 」 器用に逃げるが、徐々に囲まれていく編 答えず、ただ水をかぶる十三郎 斜め向かいの浅野屋の横の暗がりに、編 み笠の男。 篤平治「いや : : : 穀田屋さん、もしゃあなた、 み笠を被った男がじっと立っている。 一同、一斉に飛びつく・ : : が、勢いあまっ この何年もの間ずっと : : : 」 善八「 : : : ( 目をこらし ) 誰ですか ? 」 て、しま屋の障子に激突。 十三郎「しかし、もうまもなくの辛抱じゃ」 脱兎のごとく逃げ出す、編み笠の男。 篤平治「 : : : 」 善八「ど、泥棒っ ! 泥棒ーっ ! 」 衵しま屋・中 十三郎「もうまもなく、春が来るはずじゃ」 中町の方へ走り去る編み笠の男。 障子を突き破って倒れこむ一同。 篤平治「・ : ・ : 」 とき「なんですか」 祐中町の通り 幾右衛門「おかみ、すまぬ ! 泥棒だ ! 」 龍泉院・境内 ( 数日後のタ ) 走ってくる編み笠の男。ョロヨロと追う編み笠の男「違う、違うんだ : : : 」 釣り鐘の寄進者が書かれた記念碑の木板 善八。 編み笠の男の懐から銀貨や銅銭がこばれ が建てられる。その一番先頭にあった『遠善八「泥棒っ ! 泥棒だーっ ! 」 落ちる 藤寿内五貫文』の名が、つつしみの掟 店じまいをしていた篤平治、編み笠の男幾右衛門「じゃあ、その銭は何だ ! 」 に則って、外される。 の後を追う。 と男の編み笠をはぎ取る幾右衛門 寿内「 ( ため息をつき ) 和尚、この下の方に『匿 幾右衛門「あ、あんた ! 」 名の者、中町より一名』とか何とか、書き同・伝馬屋敷の前の通り 善八「・ : ・ : 忠兵衛さん ? 」 添えてはもらえませんか」 逃げてくる編み笠の男。 男は : : : 冒頭に登場した、夜逃げした忠 瑞芝和尚「はあ、しかしそれでは、他の匿名 「泥棒 ! 」の声に待ち構えていた幾右衛 兵衛だ の方がお困りになりますからなあ : : : 」 門、仁王立ち。その横をすり抜けようと 寿内「他の、匿名 ? 」 する編み笠の男。 席に座る忠兵衛。その周りを、幾右衛門 瑞芝和尚「あ ! いや : : : ( しまった、とい幾右衛門「そうはいくか ! 」 篤平治、善八、人足たちが囲む 8 一
篤平治「ちょっと、向こう行きましよう、ね、十三郎「そんなことは分かっています ! 」 行水をなさっているとか」 篤平治「あなたはそうでも、他の人がどう思 向こ、つ・ : : ・」 篤平治「へえ」 うか。何せ、利息はすべて伝馬に使うわけ と二人を引っ張るようにして納屋の裏手 なつ「それに、断食したり、八幡様でお百度 ですから」 を踏んだり・・・・ : 」 十兵衛「 : : : そうなの ? 」 茶畑をどんどん下っていく三人。 篤平治「何か願い事でもあるんでしようね」 十三郎「己の事より宿場のこと。叔父貴が常 畑を下りていく篤平治。 日頃からおっしやっていることです」 遠くの納屋の前に十三郎 十兵衛「 : : : ん、ああ」 同・下の畑 篤平治「 ( 来て ) わざわざこんな所まで、どう 篤平治「それに、下手に話が漏れれば自分の 誰もいない茶畑で話す三人。 なされました ? 家は向かいなんですから、 篤平治「あれは夢物語だと言ったじゃないで首が飛びかねない」 話なら : ・ 十兵衛「 十三郎の横に、もう一人、男が立っていた。すか ! 」 男は十三郎の叔父の穀田屋十兵衛 ( 8 ) 。十三郎「 ( 聞かずに ) これをご覧くだされ」篤平治「なにせ、殿様相手に金貸しをやって、 と数字の並んだ、しわくちゃの書付けを金をむしり取ろうという話ですから」 十兵衛「菅原屋さん ! あんた、あつばれ 十兵衛「・ : 取り出す。 その十兵衛に : ・ : ・字幕『味噌屋穀田屋十三郎「金千両は銭にして五千貫文。これを十三郎「覚悟の上です ! 叔父貴のような心 私とあなた一一人きりで集めるとなると、大がけをお持ちの御仁は他にもいるはす。菅 十兵衛」。 原屋さん、これは決して、夢物語などでは 変な刻がかかる」 篤平治「ええと : : : 何でしたつけ ? ありませぬぞ ! 」 十三郎「思い切って叔父に打ち明けてみたと篤平治「いや、私は : : : 」 十三郎、鬼気迫る表情で篤平治を見つめ ころ、是非とも同志に、と言っていただき十三郎「 ( かぶせて ) しかし、この叔父のよう る。 に、志を同じくする者が十人いれば、一人 ましてな」 篤平治「 : : : わかりました。ならばいっその 頭五百貫文 : : : 」 篤平治「同志 ? 何のです ? 」 こと、肝煎に打ち明けましよう ! 」 字幕「五百貫文三千万円』 十三郎「何のって、千両ですよ ! 御上に貸 十兵衛「叶わぬ額ではないぞ ! 」 で インサート。伝馬の指示をする幾右衛門 息 近くで茶を摘んでいた使用人たちが一斉篤平治「しかし、これは儲け話ではないんで 利 すよ。大枚をはたいても、ちっとも自分の十三郎の声「肝煎にあの男は言わば、御 に見る 殿 上の手先・・ : : 」 得にならない」 十兵衛「やはりあんたは考えることが違う ! 十兵衛「 吉岡の誇りだ ! 」 なつ「 ( 見えて ) ? 」 っ
ー気 河島順子 幸縁栄子 を一枚に書くということはできませんよね ロケ先でも撮影終わったらホテルの部屋 品ろど もちろん。監督のカット割りの状況に合 ですっと整理している印象があります。 作るな わせたり、人によっては台本自体を伸ばしたり そう、美味しいもの食べに行けないんで している場合もありますね。 の没巨 す ( 笑 ) 。 等沈の 現場でシナリオが変わったりしますよ ン進 ね。その場合は、新たに自分で台本を作り直し 必死でやってもね。 ゴ 、映編て、それを元に編集部さん用にスクリプトを スクリプト用紙を使うスタイルがなく なっても、やつばり時間ないですよ メ最書いて渡します。元々の台本だけで済むパター ンの方が少ないんじゃないでしよ、つか 平 河島 自分の台本は自分にしか読めない字で 現場での仕事は変わらないが、周囲が変わって ズ伝編 一馬火細かく書きこんだりしているので、それはとてきた 丿龍大 阿保 ン「都も人様には見せられない。編集に台本のコピー 『寄生獣』三〇一四 / 脚本古沢良太・ フマ京 を渡すとなると号 ( 、冫 、リこ青書用の台本を作ること山崎貴 / 監督山崎貴 ) に参加したんですが、 もあります。 この作品ではひとつの合成を完成させるため 本当、自分用は見せられないよね に何カットも素材を撮らなきゃいけないんで 2 私は ( 清書用と ) 二回書くのがしんどい す。そうすると素材内容やど、ついった合成にな 向画な から、ともかく人が読める字であるように現場 るか等台本には書ききれない。なので編集部か 映」 で気を付けて書いて、書き直すまでいかない。 ら「今回は合成が多い作品だからスクリプト用 めのそれとデジタルになったために、収録終わると紙でお願いね」と言われました。編集部から言 メディアが仕上げの方にすぐ行っちゃ、つ。昔はわれるとフィルム作品ではなくとも、もちろん 現像する一日があったので、家に帰ってそれを スクリプト用紙を書きます。 品の清書する時間があったのが、今はない。 確かに合成のためだけのシーンは、スク デジタルになって、撮済みが編集に上が リプト書く場合もあるよね。 るのが早くなったのと、土日は現像休みとかも アクションシーンでも、スクリプト用紙 章な」 なくなったので、私たちが整理する時間も少な の方が書きやすい。台本に細かく見栄えよく書 最ズ一 サ くなって大変なんです。 きこむのが逆に大変。 キ 極力その日のうちにとか。撮済みを持っ 別にアクション用の台本を作らないと ランていく人にちょっと待っててもらって書くと書ききれない。シナリオでは四行くらいで「戦っ かじゃないと間に合わない。 て云々」とあっても、実際はものすごい量にな 幸縁 幸縁 赤澤 赤澤 幸縁 赤澤 河島 赤澤 河島 幸縁 河島 幸縁
瀬尾さんの「優しさ」は、中森明菜の『十戒』にあるよう ない自分を書かなかったのか。病床で、先祖である新納忠元と いう武将のシナリオを書いて、出来たら、永瀬正敏さんに読ん に「き弱さの言い訳」だったのかもしれない。それが、映画人 として何ひとっちゃんとした作品を遺せなかった最大の要因で でもらうんだと言っていたらしいけど、それも本当だったかど あったとも思う。でも、そうだとしても、僕が瀬尾さんの訃報 ハソコンもスマホもパスワードが分からず、開けられな を書いたフェイスブックの投稿に寄せられたコメント肥件の、 い今、それを確認する術はもうない。 高額医療費制度が受けられることになったのに、自己負担額そのほとんどは瀬尾さんの「優しさーに触れた人たちのもの だった。そのことは誇っていいと思う。 が戻ってくるまでの二ヶ月が持ちこたえられず、結局、満足な 葬儀社が厚意で用意してくれた僅かな花を棺に入れる時、お 治療を受けられないまま、歳の若さで死んでしまった瀬尾さ ん。亡くなる半年前、まわりの反対を押し切って、「戦争 5 』母さんが菊の花で何度も瀬尾さんの頬を叩いた。「コンチク ショウ、コンチクショウ」と、何度も小さく呟きながら。火葬 のプロデュ 1 サー・片嶋一貴監督の「いぬむこいり』の一ヶ月 された後、用意された骨壺はネコ用のものと同じ大きさだった。 半に及ぶ過酷な鹿児島ロケに参加した。そこまでして、映画と 関わっていたかったのか。なのに、そのメイキングも結局仕上そこには頭の骨しか入らず、残りは浄土宗の共同墓地に納めら げられず、音信不通になり、また片嶋さんが京都までハードれるという。その残された骨をお母さんが何度も何度も振り返 ディスクを取りに行くという事態を引き起こした。この人は本る。最愛の息子を亡くした歳のお母さんは、絽歳の老猫とこ の後、どうやって暮らしていくのか。頭も足腰もしつかりして 当にダメなんだと思っていた矢先の死だった。 いるお母さんは介護認定が受けられず、施設にも入れないとい 昨年肥月日から再び入院し、亡くなる一週間前に三ヶ月ぶ りに退院した瀬尾さん。回復したから退院したはずが、自宅に 瀬尾さん、あなたが本当に書くべきことは、これからのお母 帰った翌日には意識が混濁し、寝たきりになったという。瀬尾 さんの面倒を最後まで看ていた京都の助監督・生駒誠さんに病さんのことなんじゃないの ? 最後まで親不孝しやがって。 でも、これは他人事じゃない。い っ我々に起こってもおかし 床から届いたメールにはこう書かれていた。「毛糸持って、指 くないことだ。最貧困脚本家はすぐそこにある危機だ。だから、 宿フェニックスホテルへ向かってますか ? ー指宿フェニック スホテルは「いぬむこいり』の定宿。薄れゆく意識の中で映画書こう。生きるために、書くしかないのだ。 のことを思っていたのかと思うと泣けてくる。 3 月日午前 1 時浦分、自宅で、お母さんと愛猫のキジマルに看取られ、永眠 133 ー
河島 す。 人物が海辺で物思いに耽ってる、海に沈むタ陽そこで思い浮かぶ第一印象を大事にします。そ 幸縁 倉本さんは、他にもいろんなト書きがあを見てる。夜通しその場にいる」。問題なのは こでまた何回か読んで、実際に尺を出す時はス る。「音楽、スネークインして」とか その後、「海から昇る朝日を見ている」。ありえ トップウォッチ持って感情移入もして計って スネークインって ? ないだろうってびつくりしたとか 阿保 幸縁 ど、つい、つこと ? 西と東があるじゃな でもいいホンだったり、ちゃんと泣ける ゆっくり入っていく。さらに音楽指定が河島 幸縁 入っている。 ようになってると真面目に読むよね。 赤澤 河島音楽とか、たまにカメラワーク書いてい 360 度見渡せる島なの ? ( 笑 ) 。 河島 しいホンだと本当にイメージしやすい るのとか。あれってどうなんですか 河島あと間をとるのでも、ト書きを空白で開 だけどあんまりたくさん書かれると逆に「こん けてたとか。それで間をとってると。 普通は書きません。カメラワーク書いてい な状況に絶対ならない」と思って。この監督こ るホンありますか ? 幸縁 すごい表現だね。 んな風にはやらないとかその辺あまりに綿密 河島あります。監督と打ち合わせて書いてい ー・ー逆に、やりやすいホン、スタッフとしてこ な台本を要求されるっていうのもね・ : : ・ ( 苦笑 ) 。 るのか、「えつ、ここまで書く ? こっちで考れはノレるなというホンはありますか 私もまあ同じですね。自分で芝居して尺 えさせてよ」っていう台本が最近多くなりまし 河島先ほどあったように、簡潔なト書きで、出さなきゃいけないから、やつばりさっき仰っ イメージしやすいホンですね。みんなだいたい ていたよ、つにイメージが膨らむホンだとやり 台詞とト書きって同時進行しているに準備稿から読み始めます。一番初めに台本もやすい。思い浮かべながら芝居できるし。 も関わらず、前後する書き方している。そうすらうとます「尺を出して」と言われるんです 私も一回目はさらっと小説読むみたい ると、台詞言い終わってから動作する人とかい ね。もちろん初めての監督は経歴とか作品とか な感じで読んで。面白かったらどんどん行く て。 色々調べて、事前リサーチもしなきゃいけな んですけど、「ん ? この台詞は ? この展開 読めてないってことでしよ、それは あと役者がどう演じるかっていうのも決は ? 」ってなったらなかなか進まなくて。 「やりながら喋ってよ」みたいな ( 笑 ) 。 まってない段階で、よく読まされる。それがと 一同あるある ( 笑 ) 。 基本的にはト書きはイメージしやすく、簡ても大変で。準備稿と、あと何回も尺出しされ 阿保 その後また読み始めて、分からない箇所 とか印つけながら、あと日替わりのこと考えた 潔にと僕らは教わっています。現場でそのイ るのってとても「苦」なんです。 メージを膨らませていただけるようなト書き 幸縁 二回三回と直してとかね り。「あれ ? ここでタ景になってるけど、なん を書くってい、つことじゃないかと 河島私は「準備稿と撮影稿しかやらないよ」 でこうなるんだろう」とか「さっきまで一緒に ですよね。そうじゃないホンが最近多い と回数を宣言して、やってもその間あと一回と出掛けてて、夜になってこの人どこから戻って と思います。 か。簡単に尺を出せると思っているプロデュー きたの」とかそんなのを考えたりしながら。で、 これはちょっと、作協で伝えていかないとサーとか助監督が多い 疑問なところに付箋つけながら「あ、決定稿で 今日渡して明日朝教えて、とかね。 直ってる」とか。その前に監督や助監督さん こんな脚本があったんですって。「ある 河島私はホン貰って、さらっと目を通して、 に言う時もあります。さっきの「俺」問題じゃ 幸縁 幸河 赤澤 赤澤 阿保
瑞芝和尚「それでは、謹んでちょうだいいた 内、幾右衛門、十兵衛。そして新四郎、 仲内「 ! ( 誰より素早い動きで証文を隠す ) ー します」 善八と、甚内。そして一つ、十三郎が座篤平治「十三郎さん」 寿内「和尚、私より多く寄進しておる者は るはずの、空の座布団。 戸が開く。その向こうには、寿内。 篤平治「 ( 見ていて ) ・ 寿内「私も、出させて頂こう ! 」 瑞芝和尚「芳名には、寿内さんの名が先頭に幾右衛門「これまで出資の額は一人一律五百幾右衛門「 出るでしような」 貫文でしたが : ・ 寿内「いや、少々考え違いをしておった。宿 寿内「 ( 満足げにうなずく ) ー 字幕「五百貫文 = 三千万円』 場の苦しみ、この身を持って引き受けよう。 瑞芝和尚「大願を胸中に秘めつつ、寺にまで幾右衛門「このたび、新たに早坂屋さんから できるできない、ではない」 気を配られる方は、なかなかにおりませぬ ・ : 三百貫文」 幾右衛門「では、一千貫文・ : からな」 字幕「三百貫文日一千八百万円』 十兵衛「あっ、千両そろったな ! 」 寿内「は ? 新四郎「・ : 寿内「いや、額は、皆と同じでよい」 瑞芝和尚「 ( 声を潜め ) 聞きましたぞ。御上幾右衛門「穀田屋善八さんから、一一百貫文」幾右衛門「え ? 」 への献納のお話。いや、私も心を打たれ申 字幕「二百貫文一千二百万円』 寿内「いや、出せぬわけではないが : : : 肝煎 した。私心を打ち捨て、宿場の人々に代わっ善八「 : : : ( 恐縮して一礼し ) 」 様や大肝煎様を差し置くとあっては何とも て苦しみを身に受けんとする御心がけには幾右衛門「そして、浅野屋さんからは、一千恐れ多い。それに、一律五百貫文という決一 ・ : この墨染めの袖も、涙をしばるばかり」貫文ー まりがある。値踏みされとる方もいるよう 寿内「しかし : : : あのような企て、うまくい 字幕「一千貫文 = 六千万円』 だが : : : 決まり事は決まり事。違わぬ方が きますかな」 甚内「 : ・ ・ ( 一礼せず、無表情 ) 」 瑞芝和尚「うまくいく、いかない、ではない。幾右衛門「皆様、額はまちまちですが、志新四郎「 : ・ ・ ( うつむく ) 」 私はことの顛末を書き残し、後世に伝えね は同じものとし、願主に加えることに致善八「それは、私のことですか ! 」 ばならぬと思うておる。この町にそうした しました : : ということで、合算します甚内「出しましよう」 る御仁がいたことを知るだけでも、子々孫々 と、四千貫文。残すところあと、一千貫文寿内「 : : : んあ ? に至っては、町の誇りとするでしよう ! 」 甚内「足りないのは、あと五百貫文ですな。 息寿内「・・ : : 」 と : : : 何者かが走ってきて、激しく戸を 出しましよ、つ」 篤平治「 : : : では、しめて、千五百 ? 殿 伝馬屋敷・奥の間 字幕「一千五百貫文日九千万円』。 集まっている出資者の面々。篤平治、仲幾右衛門「御上か ? 一同、ざわっく。 一口
ところが、それを共有すべき肝心の金谷祐子常務がその場 にいないのである。当然、進行役として挨拶に顔を出すべき なのに、いったいどこで何をしていたのか 打ち合わせができていなかった為に、この件をぶつつける タイミングを失ったとの言訳をするつもりは毛頭ない。私が 大作家である浅田さんに食らい付いて行けば、聴衆もどんな にか喜んだことだろうし、もっと戦意を鋭く研ぎ澄ましてい れば、やれたはずである。しかし、あれよあれよと浪費され て行く時間に私は追い詰められていた。 最も大きな反省点は、友好的に収めたいという私の側のス タンスにあったと思う。浅田さんにはよくぞ出席を承諾して くださったという感謝の気持が強くあったし、理事長という 立場上、あまりになりふり構わす喧嘩腰になることもどうか という、その中途半端さ加減がすべての失敗の原因で、結果 としては盛り上がりに欠ける不発状態のまま終わったのであ る。今更、切歯扼腕しても仕方がないけれど、この点はいく ら反省しても、し足りない。 三十日にあるパーティー会場に出席したとき、金谷祐子常 務と顔が合ったので、私はどうしても確かめたいことを切り 出した。 「あのくだりを切ったのはあなたの一存ですか ? ー 「え ? 何でしよう ? 「「片時までの予定を延長することも可能ですので、たつぶ りお話し戴ければと思います』というところを切ったのは、 あなたの一存ですか ? 」 一瞬の沈黙があり、「あなただけで決めたの ? ーと重ねて 訊くと、「そうです , と答えた。 「もう分あれば何とかなったのに、結局、シンポジウムは 失敗だった」 と私は言い、思っていたことをはっきりと告げた。 「傍にいるあなたが邪魔だったよ。ばくがひとりでやればよ かったんだ」 同じ会場に柳井事務局長も出席していたので、私がそちら のほうへ行くと、金谷祐子常務は追いかけるようにやってき て、「あの言葉を切ってしまったのは、私が悪かったと思い ます」と言う。 「それならば、みんなの前で謝ってください」 「分かりました」 「反省会をしようよ。私も謝るからー 「ええ、やりましよう」 と事務局長の応諾もあり、それを受けて、 4 月 6 日の理事 会の後、事業部会での反省会を持った。メンバーは私、金谷 祐子常務、柳井事務局長のほか 4 名。勿論、田上雄常務は姿 を見せない。もうこれ以上、詳しいことは報告したくないけ れど、ここに縷々書いてきた私自身の反省点や後悔を正直に 述べた。それに対する事業部長でもある岸間常務補佐が言っ た言葉が理事会を含めた現状の雰囲気のすべてを物語ってい る。 「理事長が自分で勝手に司会をすると言ったんじゃないです 122 ーー
秀一「何人ぐらい子供ができたんですか」 秀一「あんたにも提供した責任はあるだろ」 裕人、、つろ、つろしている。 跡部「知らない」 跡部「あんたさ、これ、 5 歳の子にわかるの」 沈丁花の木を見つける。 秀一「え ? 」 秀一「わかるさ」 裕人「 : : : あ ! 」 跡部「提供する前は、メールで相談受けたり、跡部「弁護士かなんか知らんけどさ、これ、 やり取りはしてたよ。けど、渡した後はむ あんたの自己満足じゃないの」 〇 庭に面した和室・縁側 しろ、関わらないのが親切でしよ。向こう 跡部、お面を頭に乗せたまま席を立つ。 黙ったままいる秀一と一。 にはクお父さんツもいるんだし」 さっさと出口に向かい、途中でお面に気裕人「お兄ちゃん ! 」 秀一「じゃ、兄弟が何人いるかもわからな ついて、ゴミ箱に捨てる 裕人が走ってきて、 裕人「 : : : あの人、誰 ? 裕人「実 ! 」 跡部「提供したの人ぐらいだったかなあ。秀一「 興奮し、沈丁花の実を見せる。 成功率どれぐらいだったんだろ」 秀一「実 ? 」 〇 沈丁花が赤い実をつけている 「 : : : よく知ってるね。日本にあるのは 跡部「ほとんどの人は渡した時点でサヨナラ 庭に降り、一が見ている ほとんど雄株だから、花が咲くだけで実は一 になっちゃったけど、 1 人いたよ。デキま つけないんだけど、この木は雌株なんだよ」硯 したって報告くれた人。 ( 裕人に ) 君で 2 〇 岡山駅 裕人「めかぶ ? 」 人目」 秀一、切符を買おうとして、路線図の徳一「そう。でも、実は毒があるから、ロに いいかお前の半分は、こ 島の文字に目をとめる。 入れちゃだめだよ」 の人から来てるんだ」 秀一「 : : : 寄り道していし 一、裕人の頭をなでる 跡部「ちょっと、ちょっと」 裕人、、つなずく。 秀一「 : : : その子も、俺と一緒なんだよー 秀一「ちゃんと、ここから生まれてるんだ」 跡部「やめてほしいなア、そういう重いの」〇一の家・庭に面した和室 秀一「精子から出来た子。本当の父親は誰か 秀一「別に認知してくれって言ってるんじゃ 一、黒子装東を準備している。 わかったけど : : : 意味なんかなかった」 ないんですよ。ただ、将来この子がまた会 玄関で車がとまり、ややして秀一が来る。一 いたいって言ったら」 「・ : : ・おう」 秀一「なあ、俺って何 ? ほんのちょっと 跡部「そういうのは契約違反でしよ。お互い秀一「 : : : 久しぶり」 の差で生まれてこなかったような俺って、 干渉しないっていう。参ったなあ、お母さ いったい何なんだよ : : : 」 んには言ったはずだけどなア 〇 玄関先の庭 「 : : : お前が産まれた時な、父さん、え
折り花 解除を申し立てていますので」 涼子、ドアを閉めて、 不思議に思ったことなかった ? 」 時子「よろしくお願いします。面会できるよ涼子「ずいぶん不躾ねえ」 秀一「何の話ですか」 うになったら : : : その、プラウスか何か、 うんざりしてタバコを取り出す。 涼子「無理もないわよね。誰のものともわか 差し入れてもらえませんか」 秀一「不躾はどっちですか。あんな、たった らない精子を、大学病院でもらってク作っ 時子はよれよれのジャージ姿である。 一言の返事を寄越して。お願いですから、 たツんだもん」 秀一「いいですよ。事務所の先輩に見繕って母と話して和解してください」 秀一「意味が分かりません」 もらいます . 涼子「お言葉を返すようですけど、いきなり涼子「諒子さんに聞いてみたら」 時子「ありがとうございます ! あと、これ 涼子、ドアを開ける。 「慰謝料を払え。さもなくば』って言って きたのはそっちですよ」 時子、手形の手紙を秀一に見せる。 秀一「民事の手続きはそういうもんなんです。〇 伊藤家 時子「裕人に渡してくださいー 鍋の中で、きちんと並んだロールキャベ あなたがここで「わかりました」と言って 秀一「わかりました」 ツがふつふっと煮立っている くれれば、裁判にしなくても」 時子、ホッとして、笑顔をみせる。 涼子「そんなにお金が欲しいの ? ああ、ご 煮汁をすくってキャベツにかける諒子。一 主人がここで使った分を取り返そうってわ 泉がダイニングに座っている 同・宅下げ窓口 け ? さすが専業主婦はしつかりしてるわ泉「では、このまま訴訟の手続きを進めて一 用紙に印鑑を押し、封筒を受け取る秀一。 ね」 よろしいですか」 急ぎ足で、外に出て行く。 秀一「母は、悔しいだけです」 諒子「ええ」 涼子「 : : : ねえ、考えてみたことある ? 泉「わかりました。裁判では、多少不快な 〇 銀座・クラブ三つ葉 ( 夜・開店前 ) 秀一「え ? 」 思いをすることもあるかもしれませんが」 秀一が、ずかずか入ってくる。 涼子「どうして、お父さんが私と付き合った諒子「ないわよ、これ以上不快なことなんて」 涼子「まだ開店前なんですけど」 か。わざわざ奥さんと同じ名前の女と。わ 諒子、器にロールキャベツを盛る 秀一「白坂さん、裁判にするつもりですか」 かる ? 」 諒子「朔先生も食べていって。夕飯、まだで 1 」よ、つ ? ・ ホステスたちが好奇の目で見る。 秀一「それが何だって言うんですか」 涼子「ちょっと」 ハスタ差して 涼子「あなた、お父さんと血がつながってな泉「 ( 見て ) うわ、すごい ! 涼子、秀一を奥に連れて行く。 いわよ」 ある」 諒子「普通でしよう」 同・スタッフルーム 涼子「顔も性格も、ちっとも似てないなって、泉「うちの母なら絶対しませんよ。と言う 〇 〇 145
常務はよき協力者であることを微塵も疑っていなかった私 は、頭がクラクラッとした。 「時間がないので、この項目はカットしたらどうでしよう ? 」 と相談するのではないのだから、これは司会者としてのイニ シャチヴを乗っ取られたような事態と言わねばならない この点に関しては今から思えば思い当たることがある オープニングは金谷祐子常務ひとりだけが舞台に座して、次 に理事長の私が彼女に呼ばれて登壇する。続いて、パネリ ストの面々がーーーという段取りにしたいと言い出したのであ る。 「パネリストの先生方は兎も角、理事長は身内なんだから、 最初から一緒に座ってればいいんですよ」と私は取り合わな かったが、最終打ち合わせのときになって、さもそれが重大 な未解決問題のように拘って蒸し返す。そんな瑣末なことは どうでもいいと思っていたので、「じゃ、そのとおりにしよう」 と応じたけれど、金谷祐子常務 ( いずれは理事長になるので しよう ) としてはすべてを進行役の指揮下に収めたかったの だろう。庇を貸して母屋を乗っ取られるとはこのことである しかし一方で、鈴木氏は原作者には原作を守る権利がある というようなことを既に強く主張されていて、これは明らか に後に続くこの項目を意識されてのことだと思われた。その 意味でパンチカは少し薄れているかも知れないし、時間は否 応なしに浪費されていく。だが何としても契約のことだけは 追及しなければと思ったので、私はまず鈴木さんに「原作の 映像化の契約というものをどう思われますか ? 。との問いを 投げた。何か意見を言ってくださったと思うが、特に印象に 残っておらず、続く浅田さんの応答だけが鮮明である。 それは、ある小説をドラマ化したいとのからの申し 出があり、契約どころかと言った覚えもないのに、その 後九州に旅行をしたら、いつの間にか出来上がったドラマが 放送されていて、原作者としての意見を聞かれ、ひどく面食 らったという話である。つまり、原作者がドラマ化を承知し ないはずはないとの一方的な思い込みで、局側は申し出を済 ませば原作使用の契約もせずにことを進めているのが現状で あるということを、面白おかしく語られるものだから客席に は笑いが起こり、聴衆が楽しんでいることが分かると、私の 気分は萎えた。同時にこれ以上突っ込む意欲を喪失してし まった。 時間がないので急がなければならないのは分かっている が、第 4 項目の「原作偏重主義の蔓延の原因について』も金 谷さんはさっさとスキップする。この項目では、オリジナル 企画を精力的に実現させている内山聖子プロデュ 1 サーの意 見を是非とも語って戴く、そのためにパネラーとして来て戴 いたのに、失礼なこととなってしまった。第 5 項目の「プロ デューサーの問題』に入る。 金谷「先のアンケートでは、トラブルの原因のひとっとし て、プロデューサーの能力不足をあげる声がありました。「自 分で企画を立てられないプロデューサーの原作崇拝』「自分 のやりたい企画よりも通る企画、すなわち原作ものじゃない と通らないという現状をよしとする傾向』「冒険をさけよう ー 1 19 ー