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検索対象: シナリオ 2016年6月号
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1. シナリオ 2016年6月号

十三郎 う顔 ) 」 と男の襟首をつかもうとするが、すり抜 けられる 篤平治「冷たくないんですか。風邪ひきます寿内「他の匿名とは : : : 一体、誰のことです しま屋の中から、呑んでいた人足たちが 十三郎「なに、近ごろはだいぶぬるくなって わらわらと飛び出してくる。 きた」 上町の通り ( 夜 ) 幾右衛門「みんな、泥棒だ ! 捕まえてく 篤平治「 : : : まさか、冬の間もやられてたん 善八、雨戸を閉めていて、 ですか ? 」 器用に逃げるが、徐々に囲まれていく編 答えず、ただ水をかぶる十三郎 斜め向かいの浅野屋の横の暗がりに、編 み笠の男。 篤平治「いや : : : 穀田屋さん、もしゃあなた、 み笠を被った男がじっと立っている。 一同、一斉に飛びつく・ : : が、勢いあまっ この何年もの間ずっと : : : 」 善八「 : : : ( 目をこらし ) 誰ですか ? 」 て、しま屋の障子に激突。 十三郎「しかし、もうまもなくの辛抱じゃ」 脱兎のごとく逃げ出す、編み笠の男。 篤平治「 : : : 」 善八「ど、泥棒っ ! 泥棒ーっ ! 」 衵しま屋・中 十三郎「もうまもなく、春が来るはずじゃ」 中町の方へ走り去る編み笠の男。 障子を突き破って倒れこむ一同。 篤平治「・ : ・ : 」 とき「なんですか」 祐中町の通り 幾右衛門「おかみ、すまぬ ! 泥棒だ ! 」 龍泉院・境内 ( 数日後のタ ) 走ってくる編み笠の男。ョロヨロと追う編み笠の男「違う、違うんだ : : : 」 釣り鐘の寄進者が書かれた記念碑の木板 善八。 編み笠の男の懐から銀貨や銅銭がこばれ が建てられる。その一番先頭にあった『遠善八「泥棒っ ! 泥棒だーっ ! 」 落ちる 藤寿内五貫文』の名が、つつしみの掟 店じまいをしていた篤平治、編み笠の男幾右衛門「じゃあ、その銭は何だ ! 」 に則って、外される。 の後を追う。 と男の編み笠をはぎ取る幾右衛門 寿内「 ( ため息をつき ) 和尚、この下の方に『匿 幾右衛門「あ、あんた ! 」 名の者、中町より一名』とか何とか、書き同・伝馬屋敷の前の通り 善八「・ : ・ : 忠兵衛さん ? 」 添えてはもらえませんか」 逃げてくる編み笠の男。 男は : : : 冒頭に登場した、夜逃げした忠 瑞芝和尚「はあ、しかしそれでは、他の匿名 「泥棒 ! 」の声に待ち構えていた幾右衛 兵衛だ の方がお困りになりますからなあ : : : 」 門、仁王立ち。その横をすり抜けようと 寿内「他の、匿名 ? 」 する編み笠の男。 席に座る忠兵衛。その周りを、幾右衛門 瑞芝和尚「あ ! いや : : : ( しまった、とい幾右衛門「そうはいくか ! 」 篤平治、善八、人足たちが囲む 8 一

2. シナリオ 2016年6月号

篤平治「ちょっと、向こう行きましよう、ね、十三郎「そんなことは分かっています ! 」 行水をなさっているとか」 篤平治「あなたはそうでも、他の人がどう思 向こ、つ・ : : ・」 篤平治「へえ」 うか。何せ、利息はすべて伝馬に使うわけ と二人を引っ張るようにして納屋の裏手 なつ「それに、断食したり、八幡様でお百度 ですから」 を踏んだり・・・・ : 」 十兵衛「 : : : そうなの ? 」 茶畑をどんどん下っていく三人。 篤平治「何か願い事でもあるんでしようね」 十三郎「己の事より宿場のこと。叔父貴が常 畑を下りていく篤平治。 日頃からおっしやっていることです」 遠くの納屋の前に十三郎 十兵衛「 : : : ん、ああ」 同・下の畑 篤平治「 ( 来て ) わざわざこんな所まで、どう 篤平治「それに、下手に話が漏れれば自分の 誰もいない茶畑で話す三人。 なされました ? 家は向かいなんですから、 篤平治「あれは夢物語だと言ったじゃないで首が飛びかねない」 話なら : ・ 十兵衛「 十三郎の横に、もう一人、男が立っていた。すか ! 」 男は十三郎の叔父の穀田屋十兵衛 ( 8 ) 。十三郎「 ( 聞かずに ) これをご覧くだされ」篤平治「なにせ、殿様相手に金貸しをやって、 と数字の並んだ、しわくちゃの書付けを金をむしり取ろうという話ですから」 十兵衛「菅原屋さん ! あんた、あつばれ 十兵衛「・ : 取り出す。 その十兵衛に : ・ : ・字幕『味噌屋穀田屋十三郎「金千両は銭にして五千貫文。これを十三郎「覚悟の上です ! 叔父貴のような心 私とあなた一一人きりで集めるとなると、大がけをお持ちの御仁は他にもいるはす。菅 十兵衛」。 原屋さん、これは決して、夢物語などでは 変な刻がかかる」 篤平治「ええと : : : 何でしたつけ ? ありませぬぞ ! 」 十三郎「思い切って叔父に打ち明けてみたと篤平治「いや、私は : : : 」 十三郎、鬼気迫る表情で篤平治を見つめ ころ、是非とも同志に、と言っていただき十三郎「 ( かぶせて ) しかし、この叔父のよう る。 に、志を同じくする者が十人いれば、一人 ましてな」 篤平治「 : : : わかりました。ならばいっその 頭五百貫文 : : : 」 篤平治「同志 ? 何のです ? 」 こと、肝煎に打ち明けましよう ! 」 字幕「五百貫文三千万円』 十三郎「何のって、千両ですよ ! 御上に貸 十兵衛「叶わぬ額ではないぞ ! 」 で インサート。伝馬の指示をする幾右衛門 息 近くで茶を摘んでいた使用人たちが一斉篤平治「しかし、これは儲け話ではないんで 利 すよ。大枚をはたいても、ちっとも自分の十三郎の声「肝煎にあの男は言わば、御 に見る 殿 上の手先・・ : : 」 得にならない」 十兵衛「やはりあんたは考えることが違う ! 十兵衛「 吉岡の誇りだ ! 」 なつ「 ( 見えて ) ? 」 っ

3. シナリオ 2016年6月号

ー気 河島順子 幸縁栄子 を一枚に書くということはできませんよね ロケ先でも撮影終わったらホテルの部屋 品ろど もちろん。監督のカット割りの状況に合 ですっと整理している印象があります。 作るな わせたり、人によっては台本自体を伸ばしたり そう、美味しいもの食べに行けないんで している場合もありますね。 の没巨 す ( 笑 ) 。 等沈の 現場でシナリオが変わったりしますよ ン進 ね。その場合は、新たに自分で台本を作り直し 必死でやってもね。 ゴ 、映編て、それを元に編集部さん用にスクリプトを スクリプト用紙を使うスタイルがなく なっても、やつばり時間ないですよ メ最書いて渡します。元々の台本だけで済むパター ンの方が少ないんじゃないでしよ、つか 平 河島 自分の台本は自分にしか読めない字で 現場での仕事は変わらないが、周囲が変わって ズ伝編 一馬火細かく書きこんだりしているので、それはとてきた 丿龍大 阿保 ン「都も人様には見せられない。編集に台本のコピー 『寄生獣』三〇一四 / 脚本古沢良太・ フマ京 を渡すとなると号 ( 、冫 、リこ青書用の台本を作ること山崎貴 / 監督山崎貴 ) に参加したんですが、 もあります。 この作品ではひとつの合成を完成させるため 本当、自分用は見せられないよね に何カットも素材を撮らなきゃいけないんで 2 私は ( 清書用と ) 二回書くのがしんどい す。そうすると素材内容やど、ついった合成にな 向画な から、ともかく人が読める字であるように現場 るか等台本には書ききれない。なので編集部か 映」 で気を付けて書いて、書き直すまでいかない。 ら「今回は合成が多い作品だからスクリプト用 めのそれとデジタルになったために、収録終わると紙でお願いね」と言われました。編集部から言 メディアが仕上げの方にすぐ行っちゃ、つ。昔はわれるとフィルム作品ではなくとも、もちろん 現像する一日があったので、家に帰ってそれを スクリプト用紙を書きます。 品の清書する時間があったのが、今はない。 確かに合成のためだけのシーンは、スク デジタルになって、撮済みが編集に上が リプト書く場合もあるよね。 るのが早くなったのと、土日は現像休みとかも アクションシーンでも、スクリプト用紙 章な」 なくなったので、私たちが整理する時間も少な の方が書きやすい。台本に細かく見栄えよく書 最ズ一 サ くなって大変なんです。 きこむのが逆に大変。 キ 極力その日のうちにとか。撮済みを持っ 別にアクション用の台本を作らないと ランていく人にちょっと待っててもらって書くと書ききれない。シナリオでは四行くらいで「戦っ かじゃないと間に合わない。 て云々」とあっても、実際はものすごい量にな 幸縁 幸縁 赤澤 赤澤 幸縁 赤澤 河島 赤澤 河島 幸縁 河島 幸縁

4. シナリオ 2016年6月号

瀬尾さんの「優しさ」は、中森明菜の『十戒』にあるよう ない自分を書かなかったのか。病床で、先祖である新納忠元と いう武将のシナリオを書いて、出来たら、永瀬正敏さんに読ん に「き弱さの言い訳」だったのかもしれない。それが、映画人 として何ひとっちゃんとした作品を遺せなかった最大の要因で でもらうんだと言っていたらしいけど、それも本当だったかど あったとも思う。でも、そうだとしても、僕が瀬尾さんの訃報 ハソコンもスマホもパスワードが分からず、開けられな を書いたフェイスブックの投稿に寄せられたコメント肥件の、 い今、それを確認する術はもうない。 高額医療費制度が受けられることになったのに、自己負担額そのほとんどは瀬尾さんの「優しさーに触れた人たちのもの だった。そのことは誇っていいと思う。 が戻ってくるまでの二ヶ月が持ちこたえられず、結局、満足な 葬儀社が厚意で用意してくれた僅かな花を棺に入れる時、お 治療を受けられないまま、歳の若さで死んでしまった瀬尾さ ん。亡くなる半年前、まわりの反対を押し切って、「戦争 5 』母さんが菊の花で何度も瀬尾さんの頬を叩いた。「コンチク ショウ、コンチクショウ」と、何度も小さく呟きながら。火葬 のプロデュ 1 サー・片嶋一貴監督の「いぬむこいり』の一ヶ月 された後、用意された骨壺はネコ用のものと同じ大きさだった。 半に及ぶ過酷な鹿児島ロケに参加した。そこまでして、映画と 関わっていたかったのか。なのに、そのメイキングも結局仕上そこには頭の骨しか入らず、残りは浄土宗の共同墓地に納めら げられず、音信不通になり、また片嶋さんが京都までハードれるという。その残された骨をお母さんが何度も何度も振り返 ディスクを取りに行くという事態を引き起こした。この人は本る。最愛の息子を亡くした歳のお母さんは、絽歳の老猫とこ の後、どうやって暮らしていくのか。頭も足腰もしつかりして 当にダメなんだと思っていた矢先の死だった。 いるお母さんは介護認定が受けられず、施設にも入れないとい 昨年肥月日から再び入院し、亡くなる一週間前に三ヶ月ぶ りに退院した瀬尾さん。回復したから退院したはずが、自宅に 瀬尾さん、あなたが本当に書くべきことは、これからのお母 帰った翌日には意識が混濁し、寝たきりになったという。瀬尾 さんの面倒を最後まで看ていた京都の助監督・生駒誠さんに病さんのことなんじゃないの ? 最後まで親不孝しやがって。 でも、これは他人事じゃない。い っ我々に起こってもおかし 床から届いたメールにはこう書かれていた。「毛糸持って、指 くないことだ。最貧困脚本家はすぐそこにある危機だ。だから、 宿フェニックスホテルへ向かってますか ? ー指宿フェニック スホテルは「いぬむこいり』の定宿。薄れゆく意識の中で映画書こう。生きるために、書くしかないのだ。 のことを思っていたのかと思うと泣けてくる。 3 月日午前 1 時浦分、自宅で、お母さんと愛猫のキジマルに看取られ、永眠 133 ー

5. シナリオ 2016年6月号

河島 す。 人物が海辺で物思いに耽ってる、海に沈むタ陽そこで思い浮かぶ第一印象を大事にします。そ 幸縁 倉本さんは、他にもいろんなト書きがあを見てる。夜通しその場にいる」。問題なのは こでまた何回か読んで、実際に尺を出す時はス る。「音楽、スネークインして」とか その後、「海から昇る朝日を見ている」。ありえ トップウォッチ持って感情移入もして計って スネークインって ? ないだろうってびつくりしたとか 阿保 幸縁 ど、つい、つこと ? 西と東があるじゃな でもいいホンだったり、ちゃんと泣ける ゆっくり入っていく。さらに音楽指定が河島 幸縁 入っている。 ようになってると真面目に読むよね。 赤澤 河島音楽とか、たまにカメラワーク書いてい 360 度見渡せる島なの ? ( 笑 ) 。 河島 しいホンだと本当にイメージしやすい るのとか。あれってどうなんですか 河島あと間をとるのでも、ト書きを空白で開 だけどあんまりたくさん書かれると逆に「こん けてたとか。それで間をとってると。 普通は書きません。カメラワーク書いてい な状況に絶対ならない」と思って。この監督こ るホンありますか ? 幸縁 すごい表現だね。 んな風にはやらないとかその辺あまりに綿密 河島あります。監督と打ち合わせて書いてい ー・ー逆に、やりやすいホン、スタッフとしてこ な台本を要求されるっていうのもね・ : : ・ ( 苦笑 ) 。 るのか、「えつ、ここまで書く ? こっちで考れはノレるなというホンはありますか 私もまあ同じですね。自分で芝居して尺 えさせてよ」っていう台本が最近多くなりまし 河島先ほどあったように、簡潔なト書きで、出さなきゃいけないから、やつばりさっき仰っ イメージしやすいホンですね。みんなだいたい ていたよ、つにイメージが膨らむホンだとやり 台詞とト書きって同時進行しているに準備稿から読み始めます。一番初めに台本もやすい。思い浮かべながら芝居できるし。 も関わらず、前後する書き方している。そうすらうとます「尺を出して」と言われるんです 私も一回目はさらっと小説読むみたい ると、台詞言い終わってから動作する人とかい ね。もちろん初めての監督は経歴とか作品とか な感じで読んで。面白かったらどんどん行く て。 色々調べて、事前リサーチもしなきゃいけな んですけど、「ん ? この台詞は ? この展開 読めてないってことでしよ、それは あと役者がどう演じるかっていうのも決は ? 」ってなったらなかなか進まなくて。 「やりながら喋ってよ」みたいな ( 笑 ) 。 まってない段階で、よく読まされる。それがと 一同あるある ( 笑 ) 。 基本的にはト書きはイメージしやすく、簡ても大変で。準備稿と、あと何回も尺出しされ 阿保 その後また読み始めて、分からない箇所 とか印つけながら、あと日替わりのこと考えた 潔にと僕らは教わっています。現場でそのイ るのってとても「苦」なんです。 メージを膨らませていただけるようなト書き 幸縁 二回三回と直してとかね り。「あれ ? ここでタ景になってるけど、なん を書くってい、つことじゃないかと 河島私は「準備稿と撮影稿しかやらないよ」 でこうなるんだろう」とか「さっきまで一緒に ですよね。そうじゃないホンが最近多い と回数を宣言して、やってもその間あと一回と出掛けてて、夜になってこの人どこから戻って と思います。 か。簡単に尺を出せると思っているプロデュー きたの」とかそんなのを考えたりしながら。で、 これはちょっと、作協で伝えていかないとサーとか助監督が多い 疑問なところに付箋つけながら「あ、決定稿で 今日渡して明日朝教えて、とかね。 直ってる」とか。その前に監督や助監督さん こんな脚本があったんですって。「ある 河島私はホン貰って、さらっと目を通して、 に言う時もあります。さっきの「俺」問題じゃ 幸縁 幸河 赤澤 赤澤 阿保

6. シナリオ 2016年6月号

瑞芝和尚「それでは、謹んでちょうだいいた 内、幾右衛門、十兵衛。そして新四郎、 仲内「 ! ( 誰より素早い動きで証文を隠す ) ー します」 善八と、甚内。そして一つ、十三郎が座篤平治「十三郎さん」 寿内「和尚、私より多く寄進しておる者は るはずの、空の座布団。 戸が開く。その向こうには、寿内。 篤平治「 ( 見ていて ) ・ 寿内「私も、出させて頂こう ! 」 瑞芝和尚「芳名には、寿内さんの名が先頭に幾右衛門「これまで出資の額は一人一律五百幾右衛門「 出るでしような」 貫文でしたが : ・ 寿内「いや、少々考え違いをしておった。宿 寿内「 ( 満足げにうなずく ) ー 字幕「五百貫文 = 三千万円』 場の苦しみ、この身を持って引き受けよう。 瑞芝和尚「大願を胸中に秘めつつ、寺にまで幾右衛門「このたび、新たに早坂屋さんから できるできない、ではない」 気を配られる方は、なかなかにおりませぬ ・ : 三百貫文」 幾右衛門「では、一千貫文・ : からな」 字幕「三百貫文日一千八百万円』 十兵衛「あっ、千両そろったな ! 」 寿内「は ? 新四郎「・ : 寿内「いや、額は、皆と同じでよい」 瑞芝和尚「 ( 声を潜め ) 聞きましたぞ。御上幾右衛門「穀田屋善八さんから、一一百貫文」幾右衛門「え ? 」 への献納のお話。いや、私も心を打たれ申 字幕「二百貫文一千二百万円』 寿内「いや、出せぬわけではないが : : : 肝煎 した。私心を打ち捨て、宿場の人々に代わっ善八「 : : : ( 恐縮して一礼し ) 」 様や大肝煎様を差し置くとあっては何とも て苦しみを身に受けんとする御心がけには幾右衛門「そして、浅野屋さんからは、一千恐れ多い。それに、一律五百貫文という決一 ・ : この墨染めの袖も、涙をしばるばかり」貫文ー まりがある。値踏みされとる方もいるよう 寿内「しかし : : : あのような企て、うまくい 字幕「一千貫文 = 六千万円』 だが : : : 決まり事は決まり事。違わぬ方が きますかな」 甚内「 : ・ ・ ( 一礼せず、無表情 ) 」 瑞芝和尚「うまくいく、いかない、ではない。幾右衛門「皆様、額はまちまちですが、志新四郎「 : ・ ・ ( うつむく ) 」 私はことの顛末を書き残し、後世に伝えね は同じものとし、願主に加えることに致善八「それは、私のことですか ! 」 ばならぬと思うておる。この町にそうした しました : : ということで、合算します甚内「出しましよう」 る御仁がいたことを知るだけでも、子々孫々 と、四千貫文。残すところあと、一千貫文寿内「 : : : んあ ? に至っては、町の誇りとするでしよう ! 」 甚内「足りないのは、あと五百貫文ですな。 息寿内「・・ : : 」 と : : : 何者かが走ってきて、激しく戸を 出しましよ、つ」 篤平治「 : : : では、しめて、千五百 ? 殿 伝馬屋敷・奥の間 字幕「一千五百貫文日九千万円』。 集まっている出資者の面々。篤平治、仲幾右衛門「御上か ? 一同、ざわっく。 一口

7. シナリオ 2016年6月号

ところが、それを共有すべき肝心の金谷祐子常務がその場 にいないのである。当然、進行役として挨拶に顔を出すべき なのに、いったいどこで何をしていたのか 打ち合わせができていなかった為に、この件をぶつつける タイミングを失ったとの言訳をするつもりは毛頭ない。私が 大作家である浅田さんに食らい付いて行けば、聴衆もどんな にか喜んだことだろうし、もっと戦意を鋭く研ぎ澄ましてい れば、やれたはずである。しかし、あれよあれよと浪費され て行く時間に私は追い詰められていた。 最も大きな反省点は、友好的に収めたいという私の側のス タンスにあったと思う。浅田さんにはよくぞ出席を承諾して くださったという感謝の気持が強くあったし、理事長という 立場上、あまりになりふり構わす喧嘩腰になることもどうか という、その中途半端さ加減がすべての失敗の原因で、結果 としては盛り上がりに欠ける不発状態のまま終わったのであ る。今更、切歯扼腕しても仕方がないけれど、この点はいく ら反省しても、し足りない。 三十日にあるパーティー会場に出席したとき、金谷祐子常 務と顔が合ったので、私はどうしても確かめたいことを切り 出した。 「あのくだりを切ったのはあなたの一存ですか ? ー 「え ? 何でしよう ? 「「片時までの予定を延長することも可能ですので、たつぶ りお話し戴ければと思います』というところを切ったのは、 あなたの一存ですか ? 」 一瞬の沈黙があり、「あなただけで決めたの ? ーと重ねて 訊くと、「そうです , と答えた。 「もう分あれば何とかなったのに、結局、シンポジウムは 失敗だった」 と私は言い、思っていたことをはっきりと告げた。 「傍にいるあなたが邪魔だったよ。ばくがひとりでやればよ かったんだ」 同じ会場に柳井事務局長も出席していたので、私がそちら のほうへ行くと、金谷祐子常務は追いかけるようにやってき て、「あの言葉を切ってしまったのは、私が悪かったと思い ます」と言う。 「それならば、みんなの前で謝ってください」 「分かりました」 「反省会をしようよ。私も謝るからー 「ええ、やりましよう」 と事務局長の応諾もあり、それを受けて、 4 月 6 日の理事 会の後、事業部会での反省会を持った。メンバーは私、金谷 祐子常務、柳井事務局長のほか 4 名。勿論、田上雄常務は姿 を見せない。もうこれ以上、詳しいことは報告したくないけ れど、ここに縷々書いてきた私自身の反省点や後悔を正直に 述べた。それに対する事業部長でもある岸間常務補佐が言っ た言葉が理事会を含めた現状の雰囲気のすべてを物語ってい る。 「理事長が自分で勝手に司会をすると言ったんじゃないです 122 ーー

8. シナリオ 2016年6月号

秀一「何人ぐらい子供ができたんですか」 秀一「あんたにも提供した責任はあるだろ」 裕人、、つろ、つろしている。 跡部「知らない」 跡部「あんたさ、これ、 5 歳の子にわかるの」 沈丁花の木を見つける。 秀一「え ? 」 秀一「わかるさ」 裕人「 : : : あ ! 」 跡部「提供する前は、メールで相談受けたり、跡部「弁護士かなんか知らんけどさ、これ、 やり取りはしてたよ。けど、渡した後はむ あんたの自己満足じゃないの」 〇 庭に面した和室・縁側 しろ、関わらないのが親切でしよ。向こう 跡部、お面を頭に乗せたまま席を立つ。 黙ったままいる秀一と一。 にはクお父さんツもいるんだし」 さっさと出口に向かい、途中でお面に気裕人「お兄ちゃん ! 」 秀一「じゃ、兄弟が何人いるかもわからな ついて、ゴミ箱に捨てる 裕人が走ってきて、 裕人「 : : : あの人、誰 ? 裕人「実 ! 」 跡部「提供したの人ぐらいだったかなあ。秀一「 興奮し、沈丁花の実を見せる。 成功率どれぐらいだったんだろ」 秀一「実 ? 」 〇 沈丁花が赤い実をつけている 「 : : : よく知ってるね。日本にあるのは 跡部「ほとんどの人は渡した時点でサヨナラ 庭に降り、一が見ている ほとんど雄株だから、花が咲くだけで実は一 になっちゃったけど、 1 人いたよ。デキま つけないんだけど、この木は雌株なんだよ」硯 したって報告くれた人。 ( 裕人に ) 君で 2 〇 岡山駅 裕人「めかぶ ? 」 人目」 秀一、切符を買おうとして、路線図の徳一「そう。でも、実は毒があるから、ロに いいかお前の半分は、こ 島の文字に目をとめる。 入れちゃだめだよ」 の人から来てるんだ」 秀一「 : : : 寄り道していし 一、裕人の頭をなでる 跡部「ちょっと、ちょっと」 裕人、、つなずく。 秀一「 : : : その子も、俺と一緒なんだよー 秀一「ちゃんと、ここから生まれてるんだ」 跡部「やめてほしいなア、そういう重いの」〇一の家・庭に面した和室 秀一「精子から出来た子。本当の父親は誰か 秀一「別に認知してくれって言ってるんじゃ 一、黒子装東を準備している。 わかったけど : : : 意味なんかなかった」 ないんですよ。ただ、将来この子がまた会 玄関で車がとまり、ややして秀一が来る。一 いたいって言ったら」 「・ : : ・おう」 秀一「なあ、俺って何 ? ほんのちょっと 跡部「そういうのは契約違反でしよ。お互い秀一「 : : : 久しぶり」 の差で生まれてこなかったような俺って、 干渉しないっていう。参ったなあ、お母さ いったい何なんだよ : : : 」 んには言ったはずだけどなア 〇 玄関先の庭 「 : : : お前が産まれた時な、父さん、え

9. シナリオ 2016年6月号

折り花 解除を申し立てていますので」 涼子、ドアを閉めて、 不思議に思ったことなかった ? 」 時子「よろしくお願いします。面会できるよ涼子「ずいぶん不躾ねえ」 秀一「何の話ですか」 うになったら : : : その、プラウスか何か、 うんざりしてタバコを取り出す。 涼子「無理もないわよね。誰のものともわか 差し入れてもらえませんか」 秀一「不躾はどっちですか。あんな、たった らない精子を、大学病院でもらってク作っ 時子はよれよれのジャージ姿である。 一言の返事を寄越して。お願いですから、 たツんだもん」 秀一「いいですよ。事務所の先輩に見繕って母と話して和解してください」 秀一「意味が分かりません」 もらいます . 涼子「お言葉を返すようですけど、いきなり涼子「諒子さんに聞いてみたら」 時子「ありがとうございます ! あと、これ 涼子、ドアを開ける。 「慰謝料を払え。さもなくば』って言って きたのはそっちですよ」 時子、手形の手紙を秀一に見せる。 秀一「民事の手続きはそういうもんなんです。〇 伊藤家 時子「裕人に渡してくださいー 鍋の中で、きちんと並んだロールキャベ あなたがここで「わかりました」と言って 秀一「わかりました」 ツがふつふっと煮立っている くれれば、裁判にしなくても」 時子、ホッとして、笑顔をみせる。 涼子「そんなにお金が欲しいの ? ああ、ご 煮汁をすくってキャベツにかける諒子。一 主人がここで使った分を取り返そうってわ 泉がダイニングに座っている 同・宅下げ窓口 け ? さすが専業主婦はしつかりしてるわ泉「では、このまま訴訟の手続きを進めて一 用紙に印鑑を押し、封筒を受け取る秀一。 ね」 よろしいですか」 急ぎ足で、外に出て行く。 秀一「母は、悔しいだけです」 諒子「ええ」 涼子「 : : : ねえ、考えてみたことある ? 泉「わかりました。裁判では、多少不快な 〇 銀座・クラブ三つ葉 ( 夜・開店前 ) 秀一「え ? 」 思いをすることもあるかもしれませんが」 秀一が、ずかずか入ってくる。 涼子「どうして、お父さんが私と付き合った諒子「ないわよ、これ以上不快なことなんて」 涼子「まだ開店前なんですけど」 か。わざわざ奥さんと同じ名前の女と。わ 諒子、器にロールキャベツを盛る 秀一「白坂さん、裁判にするつもりですか」 かる ? 」 諒子「朔先生も食べていって。夕飯、まだで 1 」よ、つ ? ・ ホステスたちが好奇の目で見る。 秀一「それが何だって言うんですか」 涼子「ちょっと」 ハスタ差して 涼子「あなた、お父さんと血がつながってな泉「 ( 見て ) うわ、すごい ! 涼子、秀一を奥に連れて行く。 いわよ」 ある」 諒子「普通でしよう」 同・スタッフルーム 涼子「顔も性格も、ちっとも似てないなって、泉「うちの母なら絶対しませんよ。と言う 〇 〇 145

10. シナリオ 2016年6月号

常務はよき協力者であることを微塵も疑っていなかった私 は、頭がクラクラッとした。 「時間がないので、この項目はカットしたらどうでしよう ? 」 と相談するのではないのだから、これは司会者としてのイニ シャチヴを乗っ取られたような事態と言わねばならない この点に関しては今から思えば思い当たることがある オープニングは金谷祐子常務ひとりだけが舞台に座して、次 に理事長の私が彼女に呼ばれて登壇する。続いて、パネリ ストの面々がーーーという段取りにしたいと言い出したのであ る。 「パネリストの先生方は兎も角、理事長は身内なんだから、 最初から一緒に座ってればいいんですよ」と私は取り合わな かったが、最終打ち合わせのときになって、さもそれが重大 な未解決問題のように拘って蒸し返す。そんな瑣末なことは どうでもいいと思っていたので、「じゃ、そのとおりにしよう」 と応じたけれど、金谷祐子常務 ( いずれは理事長になるので しよう ) としてはすべてを進行役の指揮下に収めたかったの だろう。庇を貸して母屋を乗っ取られるとはこのことである しかし一方で、鈴木氏は原作者には原作を守る権利がある というようなことを既に強く主張されていて、これは明らか に後に続くこの項目を意識されてのことだと思われた。その 意味でパンチカは少し薄れているかも知れないし、時間は否 応なしに浪費されていく。だが何としても契約のことだけは 追及しなければと思ったので、私はまず鈴木さんに「原作の 映像化の契約というものをどう思われますか ? 。との問いを 投げた。何か意見を言ってくださったと思うが、特に印象に 残っておらず、続く浅田さんの応答だけが鮮明である。 それは、ある小説をドラマ化したいとのからの申し 出があり、契約どころかと言った覚えもないのに、その 後九州に旅行をしたら、いつの間にか出来上がったドラマが 放送されていて、原作者としての意見を聞かれ、ひどく面食 らったという話である。つまり、原作者がドラマ化を承知し ないはずはないとの一方的な思い込みで、局側は申し出を済 ませば原作使用の契約もせずにことを進めているのが現状で あるということを、面白おかしく語られるものだから客席に は笑いが起こり、聴衆が楽しんでいることが分かると、私の 気分は萎えた。同時にこれ以上突っ込む意欲を喪失してし まった。 時間がないので急がなければならないのは分かっている が、第 4 項目の「原作偏重主義の蔓延の原因について』も金 谷さんはさっさとスキップする。この項目では、オリジナル 企画を精力的に実現させている内山聖子プロデュ 1 サーの意 見を是非とも語って戴く、そのためにパネラーとして来て戴 いたのに、失礼なこととなってしまった。第 5 項目の「プロ デューサーの問題』に入る。 金谷「先のアンケートでは、トラブルの原因のひとっとし て、プロデューサーの能力不足をあげる声がありました。「自 分で企画を立てられないプロデューサーの原作崇拝』「自分 のやりたい企画よりも通る企画、すなわち原作ものじゃない と通らないという現状をよしとする傾向』「冒険をさけよう ー 1 19 ー