内 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年6月号
186件見つかりました。

1. シナリオ 2016年6月号

に、このようなものを用意しました。こ 読み幾右衛門「以後全てにおいて、我らは名を伏 寿内「浅野屋さん ! あんたどういうつもり せた方がよい。あらぬことを言われるから だ ! 大肝煎様も肝煎様も、みんな五百貫上げさせて頂きます」 と懐中から誓書を取り出し、広げる。 文なのだぞ ! 」 幾右衛門「これ、寿内さん ! 」 仲内「 ( 読んで ) 一つ、喧嘩、口論は相つつしむ。寿内「しかし : : : 」 寿内「千五百などと、それでは手柄を一人占 ( 顔を上げ ) とにかく、何を言われても堪仲内「 ( 読んで ) 一つ、往来を歩く際は、礼 を失することにならぬよう、これをつつし 忍してください」 めではないか ! 」 む。 ( 顔を上げ ) 道では、なるべく、端を ・ ( うなすく ) ー 篤平治「なんですか、手柄って」 幾右衛門「ダメだ、ダメだ ! 諍いはいかん ! 仲内「一つ。こたびの嘆願について、口外す歩くのがよいでしよう」 一同、ざわっき始める。 こういう事が起こるであろうと思い : : : 大ることをつつしむ。 ( 顔を上げ ) 自分が出 資者であることを宿場の者に話してはいけ十兵衛「そこまでせねばならんのかのう 肝煎さま、お願いします ! 」 ません」 仲内「はい ( 立ち上がる ) ー 仲内「 ( 読んで ) 一つ、振る舞いなどの寄合で 寿内「え : : : 」 一同、仲内に対し、居住まいを正す。 は、上座に座らす、末席にて、つつしむ」 仲内「今日、お集り頂いたのは、他でもない。十兵衛「どうして、また : : : 」 みなさん : : : 我らは少し、つつしまねばな仲内「何か聞かれても、知らぬ存ぜぬで通し一同「 : : : 」 てください」 新四郎「あの、それは : : : 」 りませぬ」 仲内「なんでしよう ? 」 篤平治「誰がいくら出したか、とか、そうい 新四郎「一生、上座には座れぬ、ということ 、つことも : : : 」 仲内「宿場の者は、我らをまるで赤穂の義士 ですかな」 のようにもてはやしておりますが、この話仲内「つつしみましよう」 仲内「はい。子々孫々にいたるまで、です」 は元々、穀田屋の十三郎さんの宿場を救わ甚内「・ : ・・ ( 無表情 ) 」 寿内「子々、孫々」 んとする真心から持ち上がったものです」善八「それは、その方がよい」 寿内「あんたの額では、そうかもしれんな」仲内「 ( 読んで ) 右の条々、大願成就した暁に 一同、空の座布団を見る は尚もつつしみ、かっ子々孫々に至るまで 仲内「我々も、その思いは同じはず。金を出善八「なにを ! 」 固く守らせ、これをつつしむ。 ( 顔を上げ ) すのは尊敬されるためでも、名前を売るた幾右衛門「これ、喧嘩はつつしむと言われた 皆様方においては、金を出したことを鼻に ばかりだぞ ! 」 めでもない。違いますか ? 一同、うなずく。「その通りじゃーといっ仲内「 ( 読んで ) 一つ、神社仏閣等へ寄進致かける者はおりますまいが、子々孫々の代 になれば分かりませぬ」 し折も、その名を出すことを、つつしむ」 た声も出る。寿内も、渋々うなずく。 一同「 : : : ( 静まり返る ) 」 仲内「では、つつしまねばなりませぬ。ここ寿内「えっ ! 」 4- っ 0

2. シナリオ 2016年6月号

十三郎「・ : ・ : 」 音右衛門「 : きょ「遊んでいるようで、あなたはちゃんと 甚内「父は、この銭を御上に上納し、伝馬の 聞いていました」 御役目を減らして頂けるよう、お願いをす幾右衛門「しかし、そういうことは教えてく甚内「だから今、父上と同じことをしている るつもりでした」 れねば。皆に何と言われておったか、知っ ではありませんか」 十三郎・篤平治・幾右衛門「 ! 」 とるじやろ、つ」 十三郎「 : : : 」 甚内「ケチ、しみったれ、守銭奴、ですか」 篤平治、奮然と立ち上がり、出て行く。 先代甚内、臨終の場。 床に伏している先代甚内を、家族が囲ん 臨終の先代甚内 仲内の家・玄関 でいる 先代甚内「この事は決して他所に漏れぬよ、つ 奥から寝ほけ顔で出てくる仲内。 先代甚内「わしが駄目なら、おまえが : : : 」 にせよ。どのような謗りを受けようとも、 三和土には、篤平治が待っていた 気にするでない。誰かに誉められたくて、篤平治「今すぐ、お出で願いたい」 甚内「私が駄目なら私の子が : : : 何代にわ やるものではない」 たってもよいから、この志を捨てず、宿場 中町 5 上町の通り が立ち行くように、この銭を使ってほしい、甚内「父の教えです。冥加訓と申す書物で、 どんどん歩いてくる篤平治。ついていく と : 陽明学の流れを組んでおります。幼き頃に 仲内。 十三郎「そんなことは、一言も聞いておら くどいほど読み聞かされました」 仲内「こんな夜更けに、何事ですか」 ん ! 」 篤平治「 : : : ( 答えない ) 」 きょ「それも、あの人の意向です。あなた 回想。書物「冥加訓』を読む先代甚内 仲内「もしや、例のことをお仲間に話したの が継いだ穀田屋を、巻き添えにするなと先代甚内「決して恩に着せず、報いを求める ですか」 ことなく、行、つべきことを行い・ 篤平治「話してはいないが、いずれバレます」 十三郎「・ : 真面目に聞く幼い甚内と、ふざけている仲内「それはそうだが : : : しかし、再度嘆願 甚内「しかし、何も知らないはすの兄様の方 十三郎 するにせよ、ある程度間を置かねば、御上 が、かえって宿場の救済に奔走し、穀田屋 に ~ 礼とい、つことに : さんを潰す勢いだ」 十三郎「しかし、私はちっとも聞いていなかっ篤平治「あんたは、どっちを向いて仕事をし きょ「 ( 笑って ) 親子というものは、よく似た」 てるんだ ! 」 るものですね」 きょ「聞いていたのですよ」 仲内「・ : 十三郎「 ? 」 篤平治「苗字だの帯刀だのを許されて、侍に 4

3. シナリオ 2016年6月号

仲内「かれこれ、四、五十年も前のことにご なったような気でいるが、しよせん、私ら十三郎「なに」 と同じ百姓だろう ! 傘がさせるというこ甚内「このような者を養子に出すのは、父もざりますが : とが、それほど偉いのか ? 本当に偉いの気が引けたのでしよう。そのとばっちりが権右衛門「ん ? は、あんたじゃない。十三郎さんや、人足兄様に回ってしまった次第。まことに、申仲内「浅野屋甚内、という男がおりました。 この男がある日、銭を貯め始めました。毎 たちゃ、それに、浅野屋さんだ。ほんの少しわけありませぬ」 日毎日、己の食べるものを削り、その分、 しでもいいから、濁ったものを清らかにし十三郎「 一枚、二枚と銭を甕の中に貯め始めたので ようと思っている人たちだ ! 」 十三郎、甚内の身体を抱きかかえるよう こ、もわ す。なぜそんなことを始めたのか誰。 にして、ゆっくりと、中へ入っていく。 一人、兄弟の後ろ姿を見つめていた、篤かりません。ケチな男だと、馬鹿にする者 気づくと、浅野屋の前に来ている 平治。 もおりました」 何事かと中から出てくる十三郎と幾右衛 権右衛門「・ : 、甚内。 篤平治「 : : : 」 仲内「ところが、男が死の床につくに及んで 篤平治「浅野屋さん。すまないが、先ほどの ・タイトル「その翌年。明和九年謎が解けました。男は息子の手を握り、こ 話をいま一度、大肝煎にしてください ! 」 う言ったのです。「わしの夢は、銭を積み 幾右衛門「・ : : ・ ( 手を広げ、仲内を室内へい 立てて御上に献上し、未来永劫、吉岡宿を一 ざなう ) 」 伝馬の苦役から救ってくれるよう願い出る 仲内「 : : : ( 納得いかぬ顔で、中へ入ってい 中新田の代官所・御用の間 ことだ』」 仲内「 : : : ( 決死の表情で ) 」 権右衛門「 : : : ( 身を乗り出す ) 」 甚内、家の中へ入ろうとして、戸口につ 橋本権右衛門に対面している仲内。 ますく。 権右衛門「とにかく、不運というより他はな仲内「しかし、まだまだ銭が足りない。息子 、 0 は父の名をそのまま名乗り、またこっこっ 思わず手を伸ばし、甚内の身体を支える 徳取勝手じゃと、ただ一言申されて、 と銭を貯め始めました。毎日、毎日、何十 十三郎 却下されたそうだ」 年もの間です」 甚内「これは兄さま : : : ありがとう ) 」ざいま仲内「徳取勝手とは ? 権右衛門「取ったもん勝ち、ということじゃ。権右衛門「ちょっと待て」 で 息 甚内の手、手探りで宙をさまよう。 金に困った御上の足下を見て高利貸しを始仲内「やがて、女房子供はおろか使用人に至 利 るまで銭を : : : 」 める気だ、そう取ったのだ」 十三郎「 : : : どうした ? 」 殿 権右衛門「いや、千坂、待て待て。その銭と 甚内「かすんで、よう見えません。これは、仲内「それは、違いまする ! 」 いうのは、あの嘆願書に書かれた、あの 権右衛門「うむ、それはわしも、分かっておる」 生まれつきです」

4. シナリオ 2016年6月号

ナレーション「相役とは : : : 一人でできる役権右衛門「さてさて、これは古今、聞いたこ 職を二人以上が担当することである。つま とがない願いじゃが : : : 私が必ず、上へ取北方郡奉行所 ( さらに数日後 ) 今泉七三郎、戻ってきた嘆願書を見て、 りこの時代、武士が余っていた」 りはからお、つ ! 」 仲内「 ! 」 今泉「 ( 部下に ) 代官へ」 権右衛門「すぐにロ添書を書く。待っておれ」 山道 立ち上がり奥へ向かう権右衛門。ふと足 ナレーション「相役の橋本権右衛門がいる代 代官所 ( さらに数日後 ) 八島の前に平伏する仲内。 が止まり・、 官所は、遠かった」 八島「残念であったの」 汗だくで歩く仲内。 権右衛門「 ( 振り返り ) 急いでおるか」 仲内「いえ : : : 」 権右衛門「よし。呑もう ! このように民百八島「それより、どうじゃ。良い紬が入った。 1 谷川沿いの道 姓のことを思うておる大肝煎とは初めて会女房へのみやげに、持っていかんか」 斜面に足をとられ、谷川に落ちる仲内。 うた。ん : ・ : ・ ( と仲内の泥だらけの袴を見仲内「 : : : はツ」 て ) 着替えが要るな。わしのを貸そう。 ( 奥 山道 に ) おい ! 袴を持て ! 」 泥まみれで、棒を杖にして歩く仲内。 8 吉岡の宿場 ( 冬 ) 仲内「・ : : ( 感激 ) 」 雪に埋もれている家々 中新田の代官所・表 足を引きずりながら来て、門を仰ぐ仲内。 北方郡奉行所・一室 ( 数日後 ) R 仲内の家・居間 厚着で、ぬくぬくと火鉢にあたっている 郡奉行・今泉七三郎、嘆願書を読んで、 仲内。 今泉「 : : : うむ。 ( 部下に ) 出入司様へ」 中新田の代官所・御用の間 その前に、嘆願書を呆然と見つめている 願書に目を通している代官・橋本権右衛 日」一一 .0 0 篤平治。 日ー -4 仙台城・勘定所・出入司の執務室 ( さら その前に平伏している、仲内。 に数日後 ) 篤平治「 ( 付書を読み ) 『吟味なされがたく候』 : これにて、おしまい。理由も何もない 権右衛門「 ( 読みながら ) うむ : : : これは、杢「 : : : 却下」 ・ : 三月も待たせておいて、これだけです 嘆願書に目を通していた杢。 ど、つも : : : 」 か」 只右衛門「しかし千両もの金、渡りに船とい うものでは : 仲内「やはり、御上に無理を願ったのかの」 権右衛門「おもてをあげられよ」 篤平治「 ( 仲内を見る ) 」 杢「 : : : 徳取勝手じゃ」 仲内「はツ ! 」 6

5. シナリオ 2016年6月号

瑞芝和尚「それでは、謹んでちょうだいいた 内、幾右衛門、十兵衛。そして新四郎、 仲内「 ! ( 誰より素早い動きで証文を隠す ) ー します」 善八と、甚内。そして一つ、十三郎が座篤平治「十三郎さん」 寿内「和尚、私より多く寄進しておる者は るはずの、空の座布団。 戸が開く。その向こうには、寿内。 篤平治「 ( 見ていて ) ・ 寿内「私も、出させて頂こう ! 」 瑞芝和尚「芳名には、寿内さんの名が先頭に幾右衛門「これまで出資の額は一人一律五百幾右衛門「 出るでしような」 貫文でしたが : ・ 寿内「いや、少々考え違いをしておった。宿 寿内「 ( 満足げにうなずく ) ー 字幕「五百貫文 = 三千万円』 場の苦しみ、この身を持って引き受けよう。 瑞芝和尚「大願を胸中に秘めつつ、寺にまで幾右衛門「このたび、新たに早坂屋さんから できるできない、ではない」 気を配られる方は、なかなかにおりませぬ ・ : 三百貫文」 幾右衛門「では、一千貫文・ : からな」 字幕「三百貫文日一千八百万円』 十兵衛「あっ、千両そろったな ! 」 寿内「は ? 新四郎「・ : 寿内「いや、額は、皆と同じでよい」 瑞芝和尚「 ( 声を潜め ) 聞きましたぞ。御上幾右衛門「穀田屋善八さんから、一一百貫文」幾右衛門「え ? 」 への献納のお話。いや、私も心を打たれ申 字幕「二百貫文一千二百万円』 寿内「いや、出せぬわけではないが : : : 肝煎 した。私心を打ち捨て、宿場の人々に代わっ善八「 : : : ( 恐縮して一礼し ) 」 様や大肝煎様を差し置くとあっては何とも て苦しみを身に受けんとする御心がけには幾右衛門「そして、浅野屋さんからは、一千恐れ多い。それに、一律五百貫文という決一 ・ : この墨染めの袖も、涙をしばるばかり」貫文ー まりがある。値踏みされとる方もいるよう 寿内「しかし : : : あのような企て、うまくい 字幕「一千貫文 = 六千万円』 だが : : : 決まり事は決まり事。違わぬ方が きますかな」 甚内「 : ・ ・ ( 一礼せず、無表情 ) 」 瑞芝和尚「うまくいく、いかない、ではない。幾右衛門「皆様、額はまちまちですが、志新四郎「 : ・ ・ ( うつむく ) 」 私はことの顛末を書き残し、後世に伝えね は同じものとし、願主に加えることに致善八「それは、私のことですか ! 」 ばならぬと思うておる。この町にそうした しました : : ということで、合算します甚内「出しましよう」 る御仁がいたことを知るだけでも、子々孫々 と、四千貫文。残すところあと、一千貫文寿内「 : : : んあ ? に至っては、町の誇りとするでしよう ! 」 甚内「足りないのは、あと五百貫文ですな。 息寿内「・・ : : 」 と : : : 何者かが走ってきて、激しく戸を 出しましよ、つ」 篤平治「 : : : では、しめて、千五百 ? 殿 伝馬屋敷・奥の間 字幕「一千五百貫文日九千万円』。 集まっている出資者の面々。篤平治、仲幾右衛門「御上か ? 一同、ざわっく。 一口

6. シナリオ 2016年6月号

一同、二人に深々と頭を下げる。 甚内「 ( 視線を戻し ) うちから、五百貫文出し甚内の声「どうされました」 十三郎「 : : : ( 胸が詰まるが、意を決し ) わ 入口に甚内が立っている ましよ、つ」 かりました」 十三郎「醪はどうした ? 十三郎「もう、よい ! 」 篤平治「 : : : では、つつしんで、お請けいた 甚内「 : : : しかし、ここまで来たんだ。九合甚内「 : : : 」 します」 目まで登って、頂きが見えているというの十三郎「なぜ、蔵人がおらん ? 」 甚内「 ( 顔を上げ、大きく息を吐き ) ああ、安 甚内「今年は、造りませぬ」 心しました ! 」 篤平治「店を潰す者があっては、何にもなり十三郎「なぜじゃ」 その、晴れ晴れとした顔。 ません」 甚内「米を、買えませぬゆえ」 家族の者たちも、晴れ晴れとした笑顔に 十三郎「 : : : その通りだ。これ以上、出して十三郎「 : ・ なる。 はならぬー 甚内「全て、明らかになってしまいましたの」 十三郎・篤平治「・ : ・ ( 圧倒される ) ー 篤平治「 : 甚内「ご覧の通り。もう、潰れておりまする」きょ「十三郎」 十三郎「はい 同・表 きょ「ありがとう」 出てくる十三郎と篤平治。 同・居間 十三郎と篤平治の前に、甚内と、きょ 十三郎「 : ・ ・ ( ふと立ち止まる ) 」 8 しま屋・店内 篤平治「どうしました ? 」 さらに甚内の妻、子ら家族の者や、使用 9 呼び出された新四郎の前に、出資者一同。 人たちが出てきて、廊下に座る 十三郎「 : : : 歌が聞こえん」 十三郎、庭へと続く木戸に手をかけ、開きょ「わたしどもはこれまで、衣類も家財も、寿内「どうしても解せん。あんたの身代で 三百貫というのは、これ、どう考えてもお ける。 全て売り払うつもりで耐えてまいりました。 かしい」 ですから : ・・ : もうとっくに、覚悟ができて 十兵衛「湯治場掘りに使う銭があるではない おります」 同・酒蔵 る か ! 」 入ってくる十三郎と篤平治。 一同、覚悟の眼差しで十三郎たちを見る 仲内「家が永久に富み栄えるということはご 十三郎・篤平治「 : : : 」 ) 」十三郎「 : : : ( 見回す ) 」 森閑として、明らかに機能していない。 きょ「だから、どうか : : : お金を出させてくざいませぬぞ」 息 利 新四郎「しかし、当代が潰れれば、子孫も何 ださい」 梯子をかけ、大樽の中を覗きこむ十三郎 殿 もないでしよう ! 」 ・ : 中はすべて、空。 甚内「兄様、菅原屋さん、どうか、お願いで 寿内「何を ! ( 新四郎につかみかかり ) 末世 ございます」 十三郎「 :

7. シナリオ 2016年6月号

十三郎「橋本様 : : : ようやってくださいまし あんたのところは ? 」 寿内「ああっ ! いかん、いかん ! それは た。 ( 嘆願書をかき抱き ) これは、命綱で寿内「それより他に、出すべき者がおるじゃ いけませんぞ ! 」 ございます」 ろ、つ」 権右衛門「なにゆえじゃ ? 」 権右衛門「 : : : すまぬー 善八「それは、私のことですか ! 」 篤平治「通り相場では金千両は五千貫でした 寿内「あんたのことは言うとらん。わしが言 が、御上は銭を作り始めた。相場が下がっ 仙台城・勘定所・出入司の執務室 うておるのは : ・・ : 」 てる」 只右衛門「萱場さま : : : あれでは、あんまり幾右衛門「ああ、早坂屋かここのところ、 十兵衛「五千貫では、済まぬということか」 とんと顔を見せぬな」 幾右衛門「いくらになる ! 」 杢「溺れる者は藁をもっかむと言う : : : 」寿内「 ( 空の徳利を振り ) おかみ ! 酒がな 篤平治「金千両は、おそらく : : : ( 宙で算盤只右衛門「 : いよ ! 大肝煎様に失礼だろう ! 」 を弾く ) 」 杢「しかし、藁をつかませるには、一度水 おとき、店の外で伝五郎ら人足たちに囲 寿内「五千と八百貫」 まれている に落とし、溺れさせねばの ( ほくそ笑む ) 」 幾右衛門「あと、八百貫文だと」 善八「 ( 出てきて ) どうしました ? 何か揉一 字幕『あと、四千八百万円』 しま屋・店内 め事でも ? 」 仲内「おそらく : : : もっと取れると踏んだんとき「そんなんじゃありませんよ ( と店の中一 人足たち「 : ・ : ・ ( も、悄然とする )- です」 へ ) 」 権右衛門「すまぬっ ! わしの知恵が足りな 呑んでいる幾右衛門、十兵衛、寿内、善 散り散りに走り去る人足たち。 んだ。わしは、これからもう一度仙台へ行 八と、仲内。 4 く。行って、取消しを願ってくる」 幾右衛門「何ですと ? 」 浅野屋・店先 十三郎「おやめください ! 」 寿内「それではまるで、なりふり構わぬ守銭甚内「いくら足りないのですか」 十三郎、仲内の手から嘆願書を奪い 奴ではないか ! 」 静かに帳場に座る甚内の前に、十三郎と 十三郎「これは、命綱じゃ 善八「そんなの、今に始まったことじゃない 篤平治。 篤平治「・ : : ええ。きっと仕切り直しはない。 でしよう」 篤平治「八百貫文ですが : : : 」 千両というからには千両。異議を申し立て仲内「はしたない : 甚内「ほう : : : ( 視線を天井へ向ける ) ー れば、その場で却下・ : 幾右衛門「それにしても : ・ : しかかするか、 その右手は、かすかに算盤を弾いている 権右衛門「たしかに : : : 萱場様とは、そうい 八百貫」 十三郎「よせ」 うお方だ」 十兵衛「わしはもう鼻血も出ぬ。寿内さん、篤平治「そのために来たんじゃありません ! 」 4-

8. シナリオ 2016年6月号

無事じゃーっ ! 」新四郎「 : : : どうしても、受け取ってもらえ重村「ならばと、こちらから会いに来た。 ( 外 平八「 ( 背後に ) おーいー に ) 硯を持て ! 」 ませぬか」 と大声で叫ぶ平八。 大慌てで紙と硯箱を持ってくる家臣たち。 甚内「はい」 平八「八人全員、ご無事じゃーっ ! 」 重村、墨を擦りながら、 出資者八人、歩いていくと : 十三郎「ほら、の」 重村「萱場のことは許せ。当家に金がないの 曲がりくねった街道に沿って、町の者た寿内「やはり、言うてた通りか」 は、わしのせいじゃ。わしも少し、つつし 一同、笑い出す。 ちが持つ行燈の灯が、無数に、延々とっ まねばならん」 らなっていた。 甚内「 ? それはまるで星が連なったかのような光篤平治「きっと受け取らぬだろうと話しては 三枚の紙に「霜夜」「寒月」「春風」と書 景・ : おりましたが : : : 」 十三郎「しかし、それも困るのだ。宿場の者 十三郎「 : : : ( 呆然 L も、どうしても受け取れぬと言うておる」重村「その方らは酒屋であろう。これをもっ 立ち尽くす出資者たち。ただただ、灯り て、酒銘とせよ。 ( 立ち上がり ) 店を潰す を見つめる。 こと、まかりならぬ。御上に潰されたとあっ と : ・・ : 外が騒がしくなる。 その頭上には : : : まるで彼ら ( 猿 ) が勝 ては、わしの面目が立たんからな」 ち取ったかのような、大きな、丸い月が男の声「浅野屋というのは、ここか」 と笑い、大股に出て行く重村。 男、ずかずかと入ってきて、居間に上が 浮かんでいる り込み、上座に座る。その、華美な衣装。重村「馬も駕籠もいらん。城まで、歩いて帰 るぞ ! 」 男「重村である」 吉岡宿・浅野屋・奥の間 ( 翌日 ) 呆気にとられて見送る一同。 仲内「と、殿様つ」 甚内の前に座っている出資者八人。 十三郎・甚内「 : : : ( 深々と、平伏する ) 」 一同、一瞬の静寂の後、どよめく。 仲内「褒美の金も、町に配ると言うのですか」 慌てて平伏す一同。 甚内「 : : : ( 微笑んでいる ) 」 寿内「いいですか、浅野屋さん。これは私ら仙台藩主・伊達重村「その方が、浅野屋甚内吉岡宿・伝馬屋敷 ( 数ヶ月後 ) その年の暮れ・ : 全員があんたの所を潰してはいかぬと、出 か ? 」 表に、宿場の人々が列をつくっている しあった金ですぞ。骨休みに湯治に行こ、つ甚内「はい で 列の先頭では、幾右衛門が一人一人に利 という者もいた。着たきり雀のカカアに反重村「うむ。兄の、穀田屋は ? 」 息 利 息金を手渡している。受け取る人々の笑 物でも買ってやろうと言う者もいた。しか十三郎「はつ。わたくしめで : : : 」 殿 顔。 重村「その方ら、馬にも駕籠にも乗らぬとな」 伝五郎ら人足たちも、活き活きと働いて 十三郎・甚内「・ : 甚内「ご心配なく」 -4

9. シナリオ 2016年6月号

仲内「以上、これを「つつしみの掟』として 溢れている。 行く ) 」 定める。同意される方は、連判をお願いし 町民を前に、願書の文言を読み聞かせて篤平治「誰も立ちませんね」 ますー いる仲内。 善八「怖いのは、火事より貧しさじゃ うなずく一同。善八、寿内、新四郎も、渋々仲内「御伝馬役は大切な事と存じてはおりま十兵衛「ああ、今年に入ってまた一一軒、夜逃 すが、百姓みな困窮し、良き馬を調達する げが出たな」 甚内「・ : ・ ( 一人、目を閉じている )_ ことも甚だむつかしく : 篤平治「 : : : 」 篤平治「 ( 見て ) ・ 伝五郎ら人足たち、旦那衆、女房衆。な そこでまた、荒々しく戸を叩く音。 宿場のはずれ ( 数日後の早朝 ) つや加代、ぎんや桃吉ら出資者の家族、 また、人一倍素早い動きで隠れようとす 桜井屋や浅間屋ら出資を断わった人々も 旅姿の仲内を見送る篤平治、幾右衛門 る仲内。 いる 十兵衛。 戸を開ける幾右衛門 「つつしみの掟』通り末席に座る出資者幾右衛門「これより先は千坂様におすがりす そこには、伝五郎ら人足たちが大勢立っ たちだが、十三郎と甚内、音右衛門の姿るよりありませぬ。よろしくお頼み申し上 ていた。 ーーオし げます ! 」 伝五郎「お願いがございます。宿場の衆が、 後から来た寿内が上座に座りそうになる仲内「必ず、よい返事を頂いて参ります ! 」 旦那衆も人足衆も、それから女たちもなん が「つつしみなされ」と十兵衛らに引っ十兵衛「まさか、このような日が来ようとは一 ですが : : : そのような話が、本当に叶うの 張られる。 のう」 仲内「この嘆願を御上がお認めになった暁に篤平治「まだ分かりませんよ。何せ、猿が月 利兵衛「わしらが話してもラチがあかんので は、一軒前の家には銭六貫文、半軒前の家を取る話ですからな」 すよ。本当に宿場全部に銭がゆき渡るのか、 には銭四貫文 : : : 」 だの、何だの : しわぶき一つたてずに聞き入る一同。 代官所・御用の間 幾右衛門「では、どうすればよい ? 」 「カン、カン」と小さく半鐘の音が聞こ 願書に目を通している代官・八島伝之助。 る平八「わしら、字が読めねえもんですから、 えてくる。 平伏しながらも、挑むような目で八島を ご皆の衆を集めて、嘆願書の読み聞かせを、新四郎「 ( そわそわして ) : : : どこぞで、火事 見る仲内。 息 お願いしたいんですが : : : 」 ですかな」 八島「ほう。その方は、かような事を考えて だが誰一人席を立たず仲内の話に聞き おったのか」 殿 同・庭 ( 数日後の夜 ) 入っている。 仲内「 : ・ : ・ ( 思わず、目を伏せる )- 集まっている宿場の人々。屋敷の外にも幾右衛門「ちょっと様子を見て来よう ( 出て八島「これは、相役の橋本殿に相談せよ」

10. シナリオ 2016年6月号

寿内の前に、質屋の利助。 も、薪も、人足も必要だ。莫大な銭が要る」 利助「ええ。私も詳しいことは聞いておりま一同「 : : : ( 顔を見合わす ) 」 せんが、そのようなことをおっしやってい寿内「銭を作っておる者に銭を貸すほど確か たよ、つな : : : 」 な増やし方もあるまい。私も一口乗らせて しま屋 ( 夜 ) とき「 ( 聞こえているが ) もらいますぞ。おいくらかな」 呑んでいる人足の伝五郎と平八、利兵衛。 幾右衛門「あ、いや、寿内さん、そういうこ 伝五郎「そ、つい、つことか ! 」 とでは : 伝馬屋敷・奥の間 とき「そういうことよ ! ( 酔っている ) , また戸を閉め切って集まっている、十一一一篤平治「一口、五百貫文です , 千両の話を人足に話していた、とき。 郎ら出資者たち ( 仲内はいない ) 。質屋一同「 ( 篤平治を見て ) えっ ? 利兵衛「じゃあ、儲けも見返りもなしにか え ? の書き付けを並べ、 寿内「ならば、二ロ出させて頂こう。よろし 幾右衛門「まだまだだな」 いな ? 」 とき「なしによ。まったく、泣かせる話じゃ 十兵衛「やはり五人ではのう」 一同を見回し、出て行く寿内。 ないの」 そこに、乱暴に戸を叩く音。 しんみりする一同。 十兵衛「一千貫 : : : 」 十三郎「大肝煎様のお出ましかな」 幾右衛門「よいのか ? 儲け話と勘違いした 伝五郎「穀田屋さん、菅原屋さん、それに十 十三郎、戸を開けると : : : 顔を出したの だけだぞ」 兵衛さんと、肝煎様 : : : なんだ、みんな中一 は、寿内。 篤平治「ウソはついてませんよ。御上に貸す町の旦那衆じゃねえか」 寿内「聞きましたぞ。そのような話、肝煎ぐ ことには変わりないんですから」 とき「そうね。さすが中町ね」 るみで内密にするとは、、 しささか由々しき十三郎「ええ : : : それに、これは宿場のため伝五郎「やつばりすげえな、ウチら中町の日一 ことではありませぬかな」 になること。誠心誠意話せば、いずれきっ 那衆は」 幾右衛門「 ( トボけて ) えつ、なんのことだ ? 」 と、わかって頂けるはずです」 利兵衛「 ( 上町の在で ) ・ 寿内「御上に銭を貸す : : : そういうことです篤平治「そうですよ。それに寿内さんが入れ平八「 ( 下町の在で ) ・ る な ? 」 ば ( 証文を見直す ) 」 ざ 字幕「合計三千五百貫文竺一億一千万 下町の通り 息篤平治「 : : : 誰から聞きました ? 」 円』 歩く平八。雑穀屋「早坂屋」の前で立ち 止まる 寿内「私は両替屋だ。銭に敏いのは生まれつ十兵衛「 : : : 見えてきたのう」 殿 きでしての : : : 御上は銭を作り始めた。銭幾右衛門「バレたら、その時はその時 : : : か」平八「 ( 見上げ ) : : : 」 を作るには銅を買いしめなきゃならん。炉 ■タイトル「その翌年。明和六年 ( 一七六九年 ) 』