声 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年6月号
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1. シナリオ 2016年6月号

〇同・刑事法廷 何もありません」 モニターに裕人のお面姿が映る。 検察官の声「声に出して、答えてくれるかな」涼子「は ? 」 驚き、ざわっく裁判員たち。 裕人の声「 : : : 知ってる」 諒子、それきり目もくれず、黙る 裕人の声「ママに会いたい : 時子、思わず顔がほころぶ。 涼子、フンと鼻を鳴らし、遠くに座る。時子「 : 検察官の声「なんで逮捕されたかわかる ? 」 時子、涙がこみあげてくる。 裕人の声「ママがパパを刺したから」 〇 同・会議室 検察官の声「どうしてママはパパを刺したの」 今度は秀一が質問に立っている 〇 同・会議室 裕人の声「僕を裸で外に出したから」 秀一「さっきママがパパを刺したって言った秀一「 : : : 終わりますー 裁判員から「ひどい」と声が漏れる。 けど、それは刺すところを見たのかな ? 」 裕人「 : : : わかんない」 〇同・刑事法廷 〇 同・民事法廷・待合室 秀一「パパとママは、しばらくもみ合ってた 裁判長、左右を見回して、 泉と諒子が座っている。 んじゃない ? 」 裁判長「質問したい方は ? 」 泉「判決は結論を一言うだけなので、秒ぐ裕人「 ? 」 反応がない らいで終わります。中身はあとで、判決文秀一「ケンカして、その間に刺さっちゃった裁判長「では、以上で」 を読めますから , んじゃないかな ? 」 裁判員「あの、やつばり、ちょっといいですか」一 諒子「そんなにあっという間なの」 裕人「わかんない。 ママかパパを刺したよ」 裁判員席の若い女が手を挙げる。 涼子が入ってくる。 裕人、疲れている 諒子を見つけて笑いかけ、 検察官「もう可哀想なんじゃないかなあ」 〇 同・会議室 涼子「はじめまして。やっとお目にかかれま秀一「 : : : 裕人くん、もうちょっと頑張ろう。裁判員の声「 : : : どうして、裕人くんはお面 したね」 大事なところなんだ。ケンカしてる間に、 をかぶってるの ? 泉「白坂さん、判決の前ですから」 ママの持ってた包丁が刺さったんじゃない秀一「 ! 」 涼子「だからもういいじゃない。お互い、言 かな ? 」 秀一、裕人を見る いたいことは全部言ったんだから。そう思裕人「パパが僕を『殺してやる』って言った。裕人「 : : : 僕が、化け物だから」 いません、諒子さん ? そしたら、ママが刺したんだよ」 諒子、涼子をちらりと見る 裕人、辛抱できず、しやがみ込んでしまう。〇同・刑事法廷 涼子「 ( 笑っている ) 」 再び、法廷がざわっく。 諒子「 : : : あなたとお話しすることなんて、〇同・刑事法廷 裁判員「化け物って ? 」 156 - ー

2. シナリオ 2016年6月号

諒子「血縁関係はないわね」 たって、損賠請求できるのよ。伊藤くんは お面をつける間もなく、秀一は初めて裕 秀一「俺の遺伝上の父親は ? そこまでしないだろうけど、陳述書に一言 人の顔をまじまじと見る。 諒子「ドナーは匿名だって言われたわ」 ぐらい書く ? 」 秀一「 : : : 俺もお前と一緒だ」 秀一「じゃあ俺、誰から生まれたんだよ」 秀一「 ( 上の空で ) はあ : 裕人「 : ・ 諒子「母さんよ。何言ってるの」 泉の声「聞いてる ? 」 秀一「作りもんだよ : 秀一「なんで、こんなことしたんだよ」 階段に差し掛かりーー足を滑らせた。 秀一、突っ伏す。 諒子「子供が欲しかったからよ 肩カ小刻みに震えている 秀一「欲しかったから作ったって ? 」 転げ落ちる秀一。 諒子「そうよ。おかしい ? 」 泉の声「何、どうしたの ? 」 大森法律事務所 秀一「なんで今まで黙ってたんだよ」 痛い動けない。 秀一が独りでパソコンに向かっている 諒子「秀一に、父さんに気を使わせたら可哀泉の声「伊藤くん ! 何があったの」 「精子提供ー「 1948 年から」「」 想だと思ったのよ」 秀一「 : : : わかりません」 「非配偶者間精子提供」「慶応大学」「父 鍋が沸騰し、噴きこばれる。 泉の声「どこにいるのよ ? 」 親は不明」 : : : 次々と貪り読んでいく。 火をとめ、布巾で拭く諒子。 秀一「わかりません : ・ 外はもう、夜が白みかけている 秀一は突っ立ったままである 泉の声「大丈夫 ? 」 と、秀一のスマートフォンが震え出す。秀一「わかりません : : : わかんね : : : 」 地裁・廊下 ( 午後 ) 秀一、ポケットから取ろうとするが、手 腕から血が出ている 裁判官に続き、会議室から出てくる秀一。 元が狂い、落としてしまう。 秀一、傷口をなめる。 後から出た検察官が、「伊藤先生」と声 床にうるさく震動が響く。 をかけてくる。 秀一「 : : : 誰のか、わかんねえ . 諒子「 : : : 何してるのよ」 泉の声「はあ ? 検察官「公判前、お疲れさまでした。先生は、 諒子、屈んで拾おうとするが 裁判員裁判は初めてですか ? 秀一が引ったくり、飛び出していく。 〇 児童養護施設 秀一「いえ、これまでに何度か」 諒子「秀一 ! 」 裕人、寝ている 検察官「ああ、だからこの事件を引き受けた 外から「こんな時間に何ですか」「すぐ んですか。実に裁判員向きですよねえ」 り〇 歩道橋 ですから」と近づく声がし、目を覚ます。秀一「と言うと」 秀一、電話しながら歩いている ドアが開き、秀一が入ってくる。 検察官「事前に派手な報道もされているし、 泉の声「子供も親の不倫で精神的苦痛を受け びつくりして隅に体を寄せる裕人。 セルフ授精ですか、すごい時代ですよ、子 〇 〇 147 ー

3. シナリオ 2016年6月号

折り花 諒子「いいー だって喜んでましたし : : : でも、裕人が大〇マンションの一室 ( 涼子の家 ) 空つほの引き出しに、涼子が新品のトラ秀一「じゃあ、どうすんの。このまま離婚と きくなるにつれて「俺に似てない』って」 ンクスや靴下、パジャマを整理している。 か言、つなよ ? 」 秀一「それで暴力を」 スマートフォンに、 一からの着信。 諒子「・ : ・ : 母さん、訴えるわ。銀座の何とかっ 時子「でも、だからって私、逹夫を殺したり てクラブの人」 しません ! 刑事さんにも言いましたけど、涼子「珍しいわね。来店のご予約 ? 私はいっかまた、 3 人で仲良く暮らせるよ一の声「 : : : 実は、家族に君のことを話した秀一「なんで ? 」 諒子「慰謝料よ。父さん、その人のせいで相 うになったらって思ってたんですー んだ」 談役も辞めたのよ。今日、会社から連絡が 秀一「そもそもどうしてセルフ授精なんて」 涼子「やつばり、この間の電話 ? 」 あったわ。秀一、弁護してくれるでしょ ? 」 時子「前の夫に、さんざん嫌味を言われたん一の声「それで、家を出た」 いつうちに来る ? 下着とか、秀一「 : : : 民事は、代理人って言うんだよ」 です。ずっと子供ができなくて。お前は俺涼子「じゃ、 必要なものはひととおり揃えたから」 の給料全部、不妊治療に使う気かって。で 〇 銀座・クラブ三つ葉 ( 夜 ) も、検査したら、私の体には何の問題もな 一の声「いや、実家に帰るよ」 涼子「徳島の ? だって、もう誰もいないん涼子「私が何の罪になるの ? かったんです」 でしょ ? うちに来ればいいじゃない」 秀一「けどネットで買うなんて : 奥まった席で、秀一と涼子が向かい合っ ている 時子「独り身の女なんて、病院は相手にして一の声「 : : : これから、あなたにも迷惑をか くれません」 けるかもしれません。それを謝ろうと思っ秀一「 : : : 夫婦が夫婦以外と関係を持つのは、 法律上の不貞行為になるんです。結婚生活 秀一「 : ・・ : 裕人くんは何も ? を害したとして、賠償責任も発生します」 時子「知りません」 涼子「何よ、その他人行儀な言い方ー 涼子「ああ、そ、ついえば、昔ちょっと結婚し 一の声「色々、すまない ・ : じゃあ」 秀一「教えてあげたらどうですか , てた男も、そんなことぎゃあぎゃあ言って 電話がきれる。 時子「え ? 」 たわね。婚姻届って紙切れ一枚で、セック 秀一「自分を殴ってた父親は本当の父親じゃ スは管理されちゃうんだ ? 」 ないってわかった方が、裕人くんは楽にな〇 徳島県那賀町・バス停 秀一「白坂さん、こういう裁判は、法廷で私 一、携帯電話をしまい、歩いて行く。 るんじゃないですか」 生活まで全部さらしものになるんです。僕 時子「じゃあ、誰が父親だって言えばいいん は両親がそんなことになるのは」 〇 ですか」 伊藤家 ( 夜 ) 涼子「私にどうしろと ? 」 秀一と諒子、夕飯を食べている 秀一「 : : : それは : 秀一「俺から、父さんに連絡してみようか」秀一「母と話して : : : 謝罪を」

4. シナリオ 2016年6月号

〇 〇 〇 諒子「何言ってるの。デビューってやつじゃ秀一「 ( 外に ) 母さん ! 父さんって今日、 ない」 人形浄瑠璃 ? 」 諒子、グラスを出す。 諒子の声「そうよー」 一、栓を抜いてビールをつぎながら、 一「どうやって弁護するんだ。殺人犯だろ」〇 湯河原の温泉旅館 秀一「けど、ひどい受けてたんだ。虐待 浴衣の女が、広縁でのびをしている。 もあるし。情状酌量で減軽はとれると思う」 机の上の携帯電話が震え出し、画面に「秀 一「母さんも 一ーと表示されている。 諒子「じゃ、少しだけ」 っと考えてほくそ笑み、電話を取る女。 諒子、グラスをもう 1 個出す。 秀一の声「もしもし、父さん ? 」 一がつぎ、乾杯する 3 人。 女「一さんは今いません」 嬉しそうな両親の顔が秀一はむず痒い 秀一の声「え、あの、どちら様でしようか」 女「私、りようこです」 警察署・留置場 秀一の声「あの、すみません、これ、父の携一 時子、正方形に切った紙で、何か折って帯ですよね ? 父は今どこに」 いる 女「お風呂ですよ」 諒子の声「秀一」 伊藤家 ( 午前 ) 電話が切れる。 諒子、掃除機をかけている 〇 伊藤家・書斎 同・書斎 あわててスマートフォンを切った秀一。 諒子「母さん、昼から施設のおじいちゃんと 掃除を手伝わされている秀一。 換気のために窓を開けると、風が吹き込こ行くけど、あんたも来る ? み、書類を飛ばしてしまう。 秀一「いや、俺、仕事」 秀一、あわてて書類を拾い集める 諒子「たまには顔見せなさいよ」 と、資料の山の間に封筒がある 秀一「どうせ認知症でわかんないだろ」 人形浄瑠璃のチケットだ。 諒子「行かないと、よけい忘れちゃうでしよ」 〇 と、家の電話が鳴りだし、諒子が出る 諒子「はい、 伊藤です。 : : : ああ、諒子です。 いいのよ、千春ちゃんの初産なんだから。 どう、初孫は ? 和明も急におじいちゃん おじいちゃんしちゃうんじゃない ? 」 秀一、スマートフォンを見ている 温泉旅館 女、携帯電話を手に笑っている 扉が開き、湯あがりの一が入って来る。 「涼子、早かったな」 女ーーー日坂涼子石 ) 、 涼子「息子さんからの電話、出ちゃった」 〇 東京地裁・刑事法廷 老女が今日は神妙に立っている。 裁判長「あなたのお年のこともあって、今回、 刑の執行は猶予しました。ご主人に対する 怒りはわかりますが、ご主人はもう戻って 来ません。これからは、ご主人の菩提を弔っ て、穏やかに暮らしてください」 老女「 : : : ハイ」 ちょこんと、お辞儀する。 弁護人席でホッとする泉。 一方、秀一は思案顔である。 につこり笑し 138 - ー

5. シナリオ 2016年6月号

刺青殺人事件 9 ( 竹藏が絹枝殺しの犯人ならば ? ) ( 一 ) 自雷也大蛇丸綱手姫は同一の研三「最上との同窓関係それから早川先生 と表題して 入墨師「彫安」の作品と確認し得られる の門下生という点もありそれに何時だった ( 第一殺害した後何故胴体だけを隠 ( 一 l) 大蛇丸と綱手姫との図柄には大小 かお互いにひどく酔っ払った晩でした私 したか ? ) の差違あり 達三人兄妹の入墨には大きな秘密がある ※此の手記の大写には解説として研三の 研三、そこまで書きかけて「絹枝」「珠枝」 いづれそのうちに打明けるから大事に記録 読む声がカプる の写真を並べる しておいて欲しいって : : : 」 ( 第二もし竹藏の死が自殺ならばな ぜ特に此の屋敷を選んだか ? ) 引その比較大写 英一郎スタンドの灯を入れ枕元の手帖 ( 第三もし他殺ならばなぜピストル ( 研三の解説の声 ) を取上げて で抵抗しなかったか ? ) 「綱手は大蛇に比し遙かに図柄が大きい英一郎「兄野村常太郎通称彫常父彫安 ( 第四竹藏の死によって最も利益を絹枝は肘上まで、珠枝は両肘の下まで特の業を継いで入墨を職とす南方へ出征せ 受けるのは誰か ? ) に両脚は絹枝は太股までなのに珠枝のは しま、消息不明 両膝の下にまで及んでいる」 英一郎「妹珠枝広島原爆の当時同地に在り一 研三今度は浴室の現場写真を取上げて爾後生死不明なりこれじゃあどうにも 手帖のその手記を清書した大学ノート 見て手記を続ける 手のつけようがないが : それに並べて大蛇丸綱手姫自雷也の 現場写真の大写の上へ解説の声 研三「僕アね兄さん野村絹枝に掛って来 刺青写真計六枚一組づっ裏表にして置 「絹枝の首と共に切断されていた手足は た電話との間に何か繋がりがありそうな気 いてある裏面はい・ つれもアルバムから腕は肘上から脚は膝上からで入墨の部がして : : : 嫌な声だったなア ! 」 剥した跡があり同一の筆跡で自雷也には分は含まれていない [ 英一郎「どんな ? 「野村常太郎」大蛇丸には「姉野村絹枝」 隣の部屋から英一郎が 研三「変にしやがれた圧し潰したような 綱手姫には「妹野村珠枝」とあり研三、英一郎「研三、まだやっているのか」 その癖妙に張りのある : ・ 枕許のスタンドの明りで手記に書き込研三「眠れないものですからヴァンダイン英一郎「作り声と違うか ? 」 んだり消したり : : : 考えを纏めている の分析方法を真似て箇條書きにして見て研三「さア : : ? まだ耳に残っている嫌 唐紙で仕切った隣の間は英一郎の部屋で、 いるんですが : : : 」 な電話だったなアー 英一郎は眠っているらしくスタンドの灯英一郎「儂も考えていたのだがまず第一は と表の部屋の方で電話のベル は消されている お前と早川博士を何の目的であの家へ呼 英一郎むつくり起きかける 研三の手記 ( 並びに解説の声 ) び寄せたのか : : : 」

6. シナリオ 2016年6月号

刺青殺人事件 そらあの背中の大蛇丸の刺青ねあれか 久と京子肩を並べて歩いてくる背景ら附けたんだワきっと ! 」 その背中の美事な大蛇丸の背中にかけら は遠望の演舞場 れるかかり湯濛々たる湯気の中に上 体の筋肉の動きにつれて胴体に絡んだ 尾張町の角で久と京子立止る時鐘が 大蛇の胴が生きて動く 鳴っている京子反射的に腕時計を見乍 浴場の片隅にかたまった四五人の女達の ら見上げて ヒソヒソ話 京子「八時ね」 「土建会社の社長のレコですってサ・ : おろち 「怖い入墨ね : : : 大蛇なんて ! 」 服部時計台その盤面ー八時 「蛇夫人 : : : フウン : : : セルバンのセル ( 解説の声 ) 「恰度その時刻に パンたる所以だわ」 「朝日湯」の暖簾 その酒場の招牌の大写 すらり ! 着物が辷ると背中一面の大 蛇丸の刺青 場所は銭湯の板の間脱衣場 絹枝眞裸の後姿を見せて目を聳てる 女達の間を洒々平然として浴槽の方へ 番台さんを囲んで女連のおしゃべり 「誰あれ ? 」 3< コップ注がれるウイスキー 「あら知らないの ? 二号さんさア最 ( 解説の声 ) 「その同じ時刻そのセルバンに 勤めている河畑京子を伴って新橋演舞場か 上組って土建会社の社長さんの・ : ら帰って来ていた最上久は 「お妾さん ? ヘーえ : : : 」 注いでいる京子 「違うわよ銀座のバーのマダムよマダ 眼の据った久の顔 ム・セルバンて酒場を経営してンのよ」 コップに掛る手 「へーえマダム・セルバン ? 久そのグラスを掴むとひとしくばッ 「セルバンて蛇・ーー大蛇って意味なの 待そ ) ・マ物 と叩きつける 避け切れないで眞ッ向に酒を浴びた町の あんちゃんの顔 久のっそりと起っ 間 あーツと叫ぶ京子 町の与太者と渡り合う久与太者に加わ るその同勢酒場混乱に陥る ( 解説の声 ) 「最上久が絹枝の酒場でそんな騒 動を起している頃にーー」 時計盤 解説の声の間に 8 時過ぎから分針がノロノロと進行し始一 めて 8 時分辺に至る 絹枝の隣家 小滝の細君が風呂行きの道具を持って家 を出よ、つと表戸に手をかける チラッと窺う絹枝の眼 ( ガタピシと表戸 をあける音 ) 絹枝路上にうすくまる 表へ出た小滝の細君絹枝に気付いて 小滝の細君「おやどうか 絹枝笑顔を挙げて 絹枝「いえあの鼻緒が切れかけたものです

7. シナリオ 2016年6月号

とは一見して著しい大小精粗の区別が 機へ行く 頗る対比的である例えば大蛇丸では腕 その学生電話にか、り噛みつくよう は肘上股は膝頭までで止めてある入墨 が綱手姫では両肘の下三寸あたりまで学生「え ? え ? ハカワャ ? 早川だろう 緋鯉の滝登りが描かれてあり膝の下に早川先生はまだお見えに成らないよツ」 は鋏を振上げた大小の蟹が腓に及ぶまで 云い棄てて受話機を掛けかけて相手が 彫られている自雷也は大蟇の上に遁形 交換手から当の本人に代ったのに気付い の印を結ぶお極りの図柄 て再び耳にあてる 三図いずれにも「彫安作 . の短冊印 学生「え ? 野村絹枝さん ? はア早川 ( 手紙を読む声ーーー絹枝か ? ーーを六枚博士に是非ともーーーあちょっと待って の写真にカプせる ) 「かねがねお望みの彫安三兄妹の入墨写真 白墨を取ってメモ用の黒板へ要点を書き ながら を突然ながらお届け致します今まで大事 に内証にしていた品を思い切って差上げま学生「明日の え、朝の九時 : ・ もしもしもしもし : すのは唯今私の身辺にしんじつ一命に か、わる危険がヒシヒシと日増しに迫って ( 明朝九時自宅にて野村絹枝早川 ござ 来るのを感じるからでムいます」 教授 ) ( この終り頃に近くや、遠くで電話の ベルが鳴り始めて読む声を消すその 研三の手にしている手紙の大写 頃朗読の末尾に近くからカメラはそ ( 読む絹枝の声 ) 「二十八日の朝九時に私宅ま の文面の大写に移行しているーーー誤字で必ず必すお越し下さいますよう折入っ 当て字の多い金釘流の女文字 ) てお頼み申します取急ぎお願いまであ らあらかしこ 9 手紙を見ている松下研三 野村絹枝 電話のベルが苛立たしく鳴り研三の後 松下研三さま」 景に居る学生の一人が腹立ちそうに椅子 を軋ませて席を立ち靴音荒々しく電話 手紙から眼を放す研三 貶字幕 0 ・ --l ー時計の盤面 ( 大学の時計台の盤面とは限らない ) へ 画面一杯になるまでにトラック・アップ する間に次の字幕が O ・する 字幕「午後 2 時 ! 」 移動終って 2 時を指す盤面の両針 0 ・ -J ー往来激しい都心の一角に建つ一 焼け残りのビルディングの一つ ( 出来るならばズームレンズでその表入 ロへまで接近 ) 0 ・ー表入口の看板の一つ いろんな土建事業の肩書を並べた「最上 組事務所」 ( 或はーー表通りに面した三階か四階に あるその事務所の窓硝子に大きく金文字 か何かで書いた「土木建築設計施工 最上組」 ) ( 解説の声 ) 「この同じ二十七日の午後二時 眉を顰めてじっと一点を凝視するその顔 「この日ーー」 「五月一一十七日』 -6 冖 /

8. シナリオ 2016年6月号

陳述している 指紋検出に大量の指紋係のところへ歩み 英一郎縁先へ歩み寄り職業的な冷い 英一郎「え、と八時半過ぎに風呂から帰り 寄る英一郎 命令口調で の被害者が此の家へ這入るのを見届けられ英一郎「どう指紋は ? 英一郎「指紋 ? 」 指紋係「現在までのところはツきりした指研三「は ! 」 小滝の細君「はいそれから直ぐ : : : 九時頃紋は四種類二種類男二種類女 : : : いろ英一郎「それから : : : 早川博士 ! 恐縮です でしたか倅の学校友達が参りまして十 いろ出て来ますが最近のものは此の四ツだ が念のため指紋を取らせて頂きたいので けです 時前まで二階で音楽をやって居りました すが : が窓からこ、の門は見通しなんでその指紋係「男一一女二 : : : 女は絹枝と女中ーー早川「僕の指紋を ? : : : 松下君 ! 僕の指紋 間人の出入りは見掛けなかったって申して半月程前まで女中が居りましたそうで台を取る位のことで此の事件が解決っくとで 所用品食器の類にいくらも検出されますも考えておられるのかね ? 検屍官が隣室に姿を見せる から恐らくその女中の指紋と断定して間英一郎「いやそんな訳では : : : 現在検出さ 英一郎すぐ起って行く 違いないと思われます男の二ツの中一 れている最近の指紋四個のうち三個まで 検屍官「何しろ胴体無しで解剖も出来ず・ : ツは絹枝の旦那の最上竹藏のものとして はほゞ見当がついています残りの一つが一 精確な事は判りませんが大体死後十七八後の一つがーーー」 弟のでも先生のでも無いと判ればーーー」 時間から十二時間位のところです」 英一郎ちょっと沈思きっと庭先に目早川「それが犯人のだと云うのかね ? 英一郎「すると : : : 兇行は昨夜六時から十一一 を転じて 英一郎「いや : ・ 時迄の間・ : 英一郎「研三 ! 」 早川「松下君 ! 」 検屍官「そうなります」 早川の声が眼が態度が 鋭い皮肉な調子 英一郎「八時半には ( チラと小滝夫人を見て ) 庭先の木蔭 目撃者があるんだから兇行時間は八時半 ( ーー・か日蔭に ) 露骨な嫌悪と侮蔑と嘲笑の入り混った挑 から十一一時迄に極限される訳だ」 椅子なり有り合せのものを腰掛けに持出 戦的なものを以て迫って来た そこへ して捜査の秘密を保つ為に遠慮させられ早川「なるほどそれが君達の所謂科学的捜 「課長 ! 」 ている形で所在なさに煙草など吹かして査方法と称するものゝ公式かね と奥の八畳から呼ぶ声に部屋を出て行く いる研三と早川 四マイナス >< イコール簡単な算術だ 英一郎 鋭い兄の声に研三 しかしそんなソロバンで此の問題は絶対 「は ? 」 解けはしませんよこれは世にも兇悪な犯 奥の八畳の間 と振返る 罪の天才があなた方に叩きつけた挑戦状だ 6

9. シナリオ 2016年6月号

裕人の声「あの日、言われた。僕は作り物の、 時子、うなだれて証言席に座っている。 化け物だって」 表情は虚ろで、質問に立っている検察官 被告人席で凍り付く時子。 を見ようともしない。 裁判員「ノ / ( 。、。、こ言われたの ? 」 検察官「被告人は平成幻年 9 月から川月頃、 インターネットのいわゆる精子バンクで、 裕人の声「僕はパパの子じゃないって」 5 回にわたって精子を購入しました」 時子「裕人 ! 」 弾かれたように、時子が立ち上がる 時子、びくりとも動かない。 時子「裕人 ! 」 検察官「利用したのは、子宝バンク、ゆめた 刑務官が抑えにかかる まご、エクセレント、精子提供ばらんてい あ、ラブ・チャイルド : 半ば錯乱している時子。 秀一、メモを取っている。 裁判長「静かにしてください ! 」 検察官「被告人は 1 回につき 1 万円から 5 万 円を支払い、郵送あるいは喫茶店などで待 〇 同・会議室 裁判長の声「退廷させますよ」 ち合わせて、その場で精液を受け取ってい 裕人、不思議そうに秀一を見る。 ました。そうですね ? 」 同・民事法廷 検察官「 : : : 精子バンクを利用したのは、こ 諒子と涼子が対峙して座っている。 の時が初めてではありませんね ? すいぶ 泉は緊張した面持ち。 ん、無節操に試したんですねえ」 裁判官、咳払いして判決文を持ち上げ、時子「 : : : 」 裁判官「主文。本件、請求を棄却する」 検察官、大げさにため息をつく。 検察官「裁判長、被告人はお疲れのようです」 裁判官「訴訟費用は原告の負担とする。以上」裁判長「そうですね : : : ( 時計を見て ) いっ 裁判官、席を立ち、さっさと奥へ消える。 たん休廷としましようか」 り諒子「 : : : 泉さん、今のって ? 〇同・廊下 〇 同・刑事法廷 廊下に傍聴人が出てくる。 〇 シナリオ作協協会製「原稿用紙」 通信販売のご案内 通信販売は、十冊 ( 一組 ) 単位で承っております。 手書き用一組 3090 円 ( 200 字詰め・百枚 ) ワープロ用一組 3500 円 ( x 行・五十枚 ) 【購入方法】 最寄りの郵便局から次の要領にてお申し込み ください。 ( 商品到着・要十日前後 ) ① 郵便局常備の「払込取扱票」を使い、「通 信欄」に品名 ( 手書き用・一組、等 ) を記入。 ②商品代金と送料 ( 三組まで同額 ) の合計 金額を「金額欄」に記入し、左記宛てに送金。 郵便振替 00130 ー 6 ー 462509 ( 協 ) 日本シナリオ作家協会 ※問合せは 03 ( 3584 ) 1901 まで。 送料 1 , 500 円 1 , 000 円 900 円 600 円 地域区分 沖縄 北海道・九州・ 四国・中国 青森・岩手・ 秋田 上記以外 ー 157 ー

10. シナリオ 2016年6月号

鳴っている電話機へ寝巻姿の婆やさんが 兄弟憮然としてなお寝床にあり し場で研三の背を流している柳湯の亭主 掛ってまだ睡気の醒め切らぬ声で 室内すでに早くも暁色の仄かなるを漂わ 勝造 ( 研三以外の客と云っては全くしな 婆やさん「はいはい : : : 警視庁の ? : ・ す びた御老体とその孫の童女だけ ) お睡みでいらっしゃいますが : 英一郎やがてに肺腑から押出す声研三「勝ッあんの弁天小僧は確か本所の彫 奥の方から英一郎の大きな声 英一郎「事件の真相は確実に早川博士の手に安ッて名人が彫りかけたのだったね ? 」 英一郎「起きてる起きてるよ ! こっちへ ある、そしてあらゆる疑点は博士に集注し勝造「左様で・ : ・ : 」 切替えて ! 」 ているーー研三 ! もしも博士が犯人だと研三「筋彫のま、で残ってる所が多かったの 切替スイッチに掛る婆やの手 したら : : : ? に近頃急に埋って来たようだが : 研三答えす 勝造「へへへ・ : 枕許の卓上電話を取上げる英一郎 英一郎ふたたび 研三「相当いい腕前の彫師らしいが : : : 誰か 英一郎「僕松下 ! うむうむ : : : 待っ英一郎「事件のテーマは入墨にある、そして 入墨の中心に : : : 博士が居る ! 」 勝造「へへへ : 振返って研三に 何事かに思い当った研三の眼 研三「ねえ、勝ッあん ! 彫師には彫師の仁一 英一郎「竹藏の屍体解剖の結果の所見だ」 屋外を通り過ぎる電車のチンチンカンカ義があって筋彫のま、に成ってるのを後か 研三心得て即座に鉛筆をとり筆記の構 ン : : : 響音 ら彫り埋めるのは彫りかけた当人かでな え 研三すっと起っ きやその直系の弟子に限られてるように聞 英一郎「死亡時刻二十七日から二十八日英一郎「どうした ? 」 いてるんだが彫安の弟子ッて云えば倅の常 ・ : 待った ! 絹枝の殺されたのが二十七研三「今の一番電車でしよう ? 僕朝風呂へ 太郎、彫常一人の筈なんだが」 日の夜だとして竹藏の死んだのと時間的行って来ます」 (o ・ =) 勝造まづい顔をして流しの仕事にまぎ なズレは ? ーー、ん ? 虹 い ? 二人殆んど らせて答えず 同時刻か竹藏の方がいくらか後かも知れ 7 9 「柳湯」の暖簾 研三「常太郎が南方から帰還したと云う確か ・ : うむうむ・ : : ・」 眉の剃り跡の青く匂やかな婀娜ッほい な筋はないんだが、勝つあんの弁天小僧を 女房 ( お兼 ) が掛けている 彫りついでいるのは : : : 彫安作の自雷也の 浜松屋の店頭に胡座をかいた弁天小僧の入墨を背中に背負てる男とは違うのかね 五代目似顔の刺青ーーが画面一杯に動い ている。これは全部仕上っていなくて筋 勝造ぎくり ! としてにがり切って 彫のま、の部分が少々ある風呂場の流 た ! 」 卓上電話受送話機が掛けられる ( 0 ・