早川 - みる会図書館


検索対象: シナリオ 2016年6月号
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1. シナリオ 2016年6月号

刑事教室に入る 轟音通過 ) 刑事早川に令状を差出す 綱手姫の見事な図柄 早川「松下君 ! 」 刑事「警視庁へ御出頭を願います」 研三「先生 ! ここれは綱手姫 ! 絹枝 早川の態度が改まった 早川冷然と黙殺して の妹の珠枝が彫っている筈の : : : 」 刺すような峻酷な口調 早川「松下君」 早川黙って例の破片乾板から拡大複早川「この事件の当初ある新聞が表題に刺 研三「はい」 写した一葉を研三に押しやる 青殺人事件と銘打ったまさしくこの一聯 早川「兄さんに連絡して僕の自宅へ来ても 研三両図柄を並べ較べる全然同一 の殺人事件の根底は入墨に発しているそ らってくれないか」 研三「珠枝 : : : 珠枝ですかこれはツ ? れと知っていてなぜ入墨に就いての探究 早川「図柄は同一の綱手姫だがそれは珠枝を疎略にしているのかね ? 彫安の三幅対 ではない」 早川の部屋 が二ッある ? ーー馬鹿なツこれだけの事 早川と松下兄弟一二者一二スクミの形で険悪研三「じゃ : : : だ誰ですツ」 件をたくらむ奴を捕えるのに根本の入墨に な沈黙の裡に対峙 早川「絹枝の大蛇丸と兄の常太郎の自雷也と対してそんな浅薄な観念で以て処理出来 列車の轟音が近附いて来る ( 剥製を指して ) それとで三幅対をなす彫るものかねッ : : : 」 英一郎意を決した風に 安自慢の傑作なんだ」 研三必死の面持で 英一郎「率直におき、します率直にお答え 英一郎冷静にかえり鋭く 研三「先生ッ先生 ! 兄に協力してやって一 下さい : : : 博士 ! あなたはあの事件の英一郎「早川さん仰有って頂きましよう ! 」 下さい解決の手がかりを与えてやって下 あった晩入墨のある或る胴体を処分した早川「云えないねこれは或る著名な社会人 さい ! 」 と仰有ってでしたね ? 」 地位あり名誉ある人の細君だたゞ前 早川その表情のない暗い眼でじっと研 早川「あ、 半生の素性が良くなく汚辱の世界に生い 三を見る 英一郎「その入墨の胴体は絹枝事件に関係あ 育って若気の至りから彫ったのだが : ・ 研三縋らんばかり りとも仰有ってでしたね ? 」 終生悔み恥入っていたわしとは生前の約研三「先生 ! 先生ッ ! 」 早川「あゝ云った」 東によって絶対名前を出さない條件で 早川瞑目沈思 冷然と顎をしやくって こうして手に入れることが出来たのだよ 研三満眼の涙肺腑を絞って胸底に 早川「あれだよその入墨はー そう云うことは時々ある昨晩手に入れた入 喰い、る真卒の叫び 兄弟振り仰いで新しい剥製の入墨額を墨も大体それに似た経緯からだ」 研三「先生 ! お願い致します ! 」 見て同時に驚きの声を発し研三弾英一郎「それじやア入墨三兄妹の三幅対の外 瞑目した早川の頬に仄かに血が昇るか じかれたように走り寄る ( 列車の汽笛と に彫安作の三幅対が別にも一ッある訳です と見えたーーびくりと顎頤が動いた いきさっ 106 ー

2. シナリオ 2016年6月号

刺青殺人事件 しづかに瞼を開いて研三を見た研三の研三「よく呑み込めませんが : んだからこそ常太郎はそのルートを辿っ 頬に光り滴るものを見た 英一郎が帰って来て て同病患者である目当ての人物を簡単に探 間 英一郎「常太郎が常習的な麻酔薬中毒ーー・モ し当てたのです決して無駄にはなりませ 早川「 : : : 絹枝が研三君に送った三幅対の写ヒ中患者であることが x x x x の結果証んお願いします , 真を兄の常太郎が一目見て即座に事件明されました」 ( 解説の声 ) 「阿片窟の追究林澄江の捜索を依頼した の真相を見破った以上解決の鍵はその入早川「それだ ! どうして今までそれに気が つかなかったろうそれさえ判っていれば 後早川博士は研三を伴って東劇へ 墨の写真にある筈だ」 東劇を辞去すると長駆京浜国道を疾駆して 犯行は未然に防げたかも : : : 」 研三「はい」 卓を叩いて立ち上る早川それまでの死横浜へ 早川「そして短時日の間に目ざす相手を探 し当てた」 灰を思わせる面貌に鬼気に似た精気が本牧のサン・エスホテルへ 漲って そこから再び国道を引き返して常太郎の屍 研三「はい」 早川「僕には恐ろしいこの事件の輪廓は朧げ早川「行きましよう警視庁へ ! 警視庁の体の発見された代々木の現場へ 解説の声に従って描写の数場面 ( ストッ ながら掴めているのだが常太郎がその相全能力を発動してこの兇悪犯罪者を駆り出 さんけりや : : : 及ばすながらお手助けしま プウォッチの大写を併用したら如何 ) 手を何処で発見したか : : : それが判らん それさえ突きとめられたら : すどうかそちらでも協力して下さい彼 やっ 電話がか、って来たとの報らせに英一 奴 ! 一切の嫌疑をこの早川に向けて犯跡代々木の現場に近づく自動車の内 を昏まそうとたくらみおった ! そうはさ早川「いくら ? 何分か、ったね ? 郎起って行く 早川しづかに せないよ ! 」 研三「〇〇〇分」 いやいや 早川「〇〇〇分だねよろしい 早川「僕の立て、いる仮説は恐らく間違いあ 車は停めるに及ばないこれから真ッ直ぐ 疾駆する自動車の中 るまいと信じるが例えばだねーー . 」 松下兄弟を両脇に意気軒昂たる早川 警視庁へ帰ってくれ給え」 早川例の問題の写真を取り上げて 早川「この事件には写真の陰画と陽画ネガ早川「どうかまず第一に全警視庁管内の阿片 とポジの理論が巧みに応用されているのだ窟ーーー乃至類似の麻薬取引の疑いのある警視庁の建物 松下の部屋に急ぎ入る早川と研三 つまり我々は犯人の巧妙な技巧に眼を眩場所を虱潰しに洗いあげて林澄江と名乗 英一郎待ちかねたように迎えて されて黒を白とし白を黒として眺めて るーーー絹枝の写真に瓜一一つの女を探して下 しいます必すいます絹枝も常太郎英一郎「早川先生 ( ※早川さんが先生に変っ いるのだ一旦陰画と陽画が反転すれば初さ、 も兄妹揃って麻薬中毒患者に相違ありませ ている ) 恐れ入りました麻薬常習者の連 めて真相が明らかになって来る訳なんだ」 107 ー

3. シナリオ 2016年6月号

近代欧風建築の邸宅ーーーと原作にあり と爆発するように笑い出した傍若無英一郎「その手の御負傷は ? 」 人な刺すような毒々しい笑い 早川「これかね ? 昨夜ある屍体の胴体から 早川の玄関 打ち切るようにびたと笑い熄めると 入墨を剥ぎ取ったのだよ上手の手から水 が洩れるのでちょっと刃物が上ってね . 女中さんが英一郎と密談しているところ早川「君い狭い露路の下水の縁に落ちてい へ急いで出て来る槇子夫人 た僅かこれッほちの硝子のカケラだ君の英一郎「昨夜 ? : : : 昨夜の ? 」 英一郎と研三槇子夫人に案内されて廊忠実な部下達がそれと気付かずあのドサ早川「八時半から十時の間さ」 下を早川の書斎へ クサ紛れに踏みつけて跡形もなしにしてし英一郎「その : : : 胴体は : : : 誰の ? 」 卓に凭れて何かやっていた早川振返っ まわないとも限らないしその点発見者早川「それは云えないね秘密を誓ってやっ て の僕が取敢えず保管しておいた方が時宜を た仕事だから : : : 」 早川「御用はこれなのでしよう ? 」 得た処置じゃなかったのかねえ」 英一郎「如何なる理由があっても申されませ 白紙の上に載せてある乾板、四ッ五ツに 英一郎いささか受太刀 んか」 割れていたのを寄せ集めて一枚の恰好に英一郎「 : : : それやあなたは入墨の研究者と早川「云えないと云ったら云えないねー 纏めたので欠損したま、の個所もある 英一郎勇を鼓して しては世界的な解剖医学では日本に何人と 早川「これがそのポジ ! 」 云われる栄誉ある地位にいらっしやるそ英一郎「一こと一ことだけお答え下さい 早川キャビネ版のプロマイド陽画を英の権威を以て発言なさるので一応尤もらし それは : : : 野村絹枝と何等かの関係があ一 一郎の前に押しやる乾板が割れている くは受取れますが結論犯人捜査の正常 りますか ? 」 ので画面に亀裂のズレは見えるがほゞ を軌道を紊乱されることに 早川「・ : 完全に整っている 早川「君君 ! マニアだからね僕は ! 良英一郎「ありませんか ? 」 全裸の女体の背面写真 識ある普通人として判断してくれちゃ困る早川「ある ! 」 綱手姫の刺青の見事な図柄 よ拾って見たら入墨の乾板と判ったら 廊下に足音がして 「あの捜査課長の松下さんに警視庁から御 早川「これは絹枝の身体に大蛇丸の入墨をし君むざむざ人手に渡せるものかねマニ た彫安の手に成る綱手姫の図柄だね」 アのマニアたる所以さ標本にしたいと思電話が : : : 」 件 英一郎「困りますなア殺人事件の現場から う入墨があったら殺してでもその胴体から 事 電話室 人重大な証拠になるかも知れない物件を勝手剥ぎ取りかねん況や乾板のカケラ如きに 青 英一郎が聞いている に持ち去られるなどと云う事はーー . 」 於いておやだ ! 」 早川「うむ ? 英一郎「大へん不躾ですが・ : きらりと早川の眼が睨むように光る 英一郎ズバリと斬り込む 玄関 ワ」 8 8

4. シナリオ 2016年6月号

扉は開かない 研三「先生 ! そそんな : : : 大変なんで すこ、で何か犯罪があったらしいような 扉の内部 横に引いて下に落す閂式の錠がか、って 研三身体を開いて脚下を指す いる 廊下から六畳へかけての血痕 戸はガタピシと動くが錠には影響がな 早川「なに ? 開イタ雨戸 と早川覗き込んだが彼の表情は表面に は出ない陰々鬱々冷厳な木彫の面 入 畳 扉のあちこちをガタガタ押したり叩いた 早川「松下君 ! 」 押 りしている横手で板の割目から内部を 研三「は ? 」 関畳関間 玄三玄土 現廊・要 覗く早川 早川「あの音は : : : あれや何の音かね ? 割れ目は幅一 研三「音 ? 」 ・二ミリ長さ二・三センチ = 浴邑〇四 早川振り返える 研三ぎくっと耳聳てる 最初は極めて幽かに : : : 咽び啜り泣く早川「覗け ! 」 と研三にシグサで示す異様な衝撃に流 ような音研三頭をめぐらす 廊下の突当りの方へ向って急速度に進み 石に色を失い歪んでいる顔面 寄って行くカメラ高まる音突当った 研三覗くーー呀 ! と声を出す 白タイル張りの浴室の床女の手が一本 ところの左手に浴室と思われる扉 ( 頑 ( 但胴体に附いているのか切断されてい 丈な樫類の板戸 ) るのは判らせまい ) 膝頭の少し上か そのノップ : : : 手が伸びる ら切断された白蝋のような女の下肢が一 早川「待った ! 」 っ切口をこちらに見せて転っている 叱りつけるような早川の声 件 不思議な音の源である水槽から溢れる水 振り返える研三に 事 がその手や足を洗っている 人早川「気を付けて ! 指紋を消さないように 青 虚脱しそうになってふらっく身体をやっ と踏みこたえて立っ研三 研三ハンカチーフで手を包みノップ を廻す 早川と眼が合う 下水の満 : 写真の乾板 早川「この風呂場へ外に出入口は : 自問するように呟いて見廻す 一方に洗面台がありその上が突上げ戸 に成っている ( 原作附図の物置としてあるところが洗 面所兼脱衣場になって廊下から入り込ん で居り浴室へ出入りの扉はこ、にあ る ) 早川押上げ戸を突上げ窓へ身体をの り出して浴室の外部を検分する 浴室の窓 ( 外観 ) 床の間押 八畳 早川流石に昂奮の色は掩えないながら も冷静を取戻して ( 附図 ) 絹枝の家 ( 原作所載 ) ほか 小滝家のニ階 石畳 木戸正門

5. シナリオ 2016年6月号

窓ガラスが破れている カメラ廊下を前進して『捜査第一課』の 早川「ふん : : : この窓からか : : : 」 表札へ と独言しながら浴室の窓から眼を返 しかけて早川ふっと一点に視線を惹カメラ前進して電話器ヘブサーが鳴っ かれる て居り受送話器が取上げられる 電話を聞いていた警官 浴室の窓下の下水の溝のところに日 光を反射して光る四五点のもの 警官「課長 ! 松下研三という方から・ : 早川再び窓へ目を返えす 執務中の松下英一郎くるっと向き変っ て 早川「窓ガラスの破片か : : : 」 英一郎「研三 ? あ、弟野郎だよ」 研三「え ? 何ですか ? ( と覗く ) ー 電話ロの研三 電話器渡される 下水の溝のあたりに光るもののや、近 研三「え ? そうですそうです東大医学部 英一郎「おいおい儂だ儂だ何ンだい ? : の早川博士 : : : 刺青標本の世界的な蒐集家 接した描写 早川「なにガラスの破片か何かだ」 む ? なに ? 」 のえ、僕の先生です僕が入墨の神経一 声が表情が態度が一変した 系統に及ばす反射条件を研究課題にしてい 研三「乾板ーー写真のネガの割れたのらしい る関係もあって : ・・・・え ? え ? とうして一 ですが : : : 」 今朝此処へ見えられたかはまだ伺ってい 早川「君 ! 」 絹枝宅 と鋭く見返って カメラ廊下の鍵の手の曲り角から電話ませんが : : : え ? モシモシ : : : モシモシ 室を望見する 早川「何より警察へ : 話している研一二の姿が見えるが声は そう云って掛けている研三の姿を越して はツきり聞き取れない 廊下の曲り角に早川がこちらを向いて 突立っている カメラを左へ 冷々陰々 長廊下の方へ廻す 曇然たる顔 突当りの浴室の左隣りは一段下って風 呂の焚口につゞく土間である 電話が切れてしまったので汗を拭きなが そこからひょいとカメラの方を覗き込む ら出て来た研三早川に気付いて 早川の顔 研三「あ ! 先生 ! 兄貴が : : : 兄貴警視 庁の第一捜査課長なんですがーーー . 」 4 玄関から左折して電話室へ 更に突進して電話機へ カメラ前進して ( 出来ればズームで ) 警 視庁の全景からその全面出入口へ 筈だ」 : こ、には電話がある 風呂の焚ロのある土間は一枚の戸で屋外 その戸は半開きになったま、で今し方 早川がそこから出入りした事を示してい る 早川カメラの眼を避けて何かをハンカ チーフで包みポケットに押込む ( 何かは四五片に割られた写真の乾板 ) ( 勝手口の外の露地 ) へ通じている -4- 8

6. シナリオ 2016年6月号

刑事「どこで ? 女将「最上さん ? はあ昨日の昼過ぎから見槇子「はいあのう : : : 」 えてますえ、それからすーっとまだ刑事「しょッちゅうですか夜分に家を明け早川「言える事と言えない事がある法律に 泊って居られますお連れ ? ほほほ られるのは ? 」 抵触する惧れのある或る種の行為は大体明 言の限りで無いよ」 ・ : お馴染さんらしいがタ方東京から来槇子「いえ : : : あのう」 刑事無礼なるいんぎんさを以て られましてネ」 刑事「行先は御存知なのですか ? 」 刑事「警視庁へ御同行願いましようか」 槇子「い、えそれが : : : 」 早川「今日は学校で講義のある日だ是非に 云いかけて夫人あ ! と云う ホテルの一室 と云うなら逮捕状を持って来給え」 刑事も振り返る背後に早川が立ってい 河畑京子あわて、べッドから飛び る今外出から帰って来たというところ 起きてカーテンを翻して隣室に姿を消す 刑事入る久のツそりと起き上る スーツケースを提げている 大学の教室 門前を去って行く自動車のひヾき これは階段式の医学教室で 久てれたように頭を掻いて とそれ以上のことは脚色者の想像と この刑事気骨あり早川の威圧にたじ 久「醜態々々 ! とんでもない現場を押え 創造の埒外にある世界です従って此の一 られちゃって : : : え、河畑京子と一緒な ろがず対抗して斬り込んで行く 刑事「昨夜代々木で遺棄屍体が発見されま んで : : : 来てます ! 」 場面に於ける早川博士の言動は私の能 力の範疇以外に属しますので一切を演出一 久の視線の向くところ・ーーカーテンの彼した」 者に委ねるの外はありません 早川「ふん」 方の人の気配 解剖台上には屍体があります 久「六時過ぎに桜木町駅で落合う約東でし刑事「通称彫常絹枝の兄で野村常太郎と 助手と演習当番の学生とが執行していま 云う男ですー たのでその時刻にこ、を出て迎えに行き す それから一緒に伊勢崎町で佛蘭西映画を一早川「ふん」 松下研三が聴講者の一人として列席して 本見まして : ・ 刑事「全身に彫った自雷也の入墨が見事に剥 いる事が不自然に過ぎるようでしたら後 ぎ取られてしまっていました」 卓上にあるその映画のいくらか皺く ちゃになったプログラム 述の場面を教室から研究室なり刺青標 早川「・ : 件 本室なりへ代替して下さい 刑事「失礼ですがそのお鞄には 事 早川博士の講義のテーマが屍体よりの 早川「死んだ人間の身体から剥いだ入墨の皮 人早川博士邸玄関 青 皮膚剥離にあることは論を俟ちません 膚が這入って居るよ」 刑事を前に度を失っている槇子夫人 刺 その室外に待っている刑事一一名 刑事「どう云う経路で入手されました」 槇子「はい実は昨夜は : 講義終って学生達出て来る 刑事「お帰りなさらなかったのでしよう ? 」早川「わし自身此の手で剥いだよ」

7. シナリオ 2016年6月号

中から林澄江を見かけたものがあると云う 三人兄弟の入墨写真を見てこの秘密を英一郎「〇月二十七日に最上久君と演舞場へ 報告が続々集って来ていますそのまた澄知っているのは早川だと云ったのは当り前行かれた七時半の閉場まで一緒に見物さ 江を兄の常太郎が躍起になって阿片の のことなんですよところがその有り得れて : : バア・セルバンへ引揚げられた ル 1 トからルートへ探し廻っていたとの証 べからざる三すくみが兄妹三人に彫り分け そこで最上君が酔っ払って大喧嘩をし一 拠も挙って来ています . : とそ、つで られている現にれッきとした証拠の写真晩警視庁の御厄介になった : ・ 早川「御苦労さまー が三枚あるところで下北沢事件当夜僕が したね」 ござ と早川慇懃に 手掛けた或る夫人の入墨こそ彫り分けられ京子「その通りでムいます」 早川「河畑京子を呼んでおいて頂けたでしょ た三幅対の一ツの綱手姫だったとしたら英一郎「え、と演舞場での坐席は ? 、つ、か」 ・ : 恐るべき秘密がこ、に潜んでいるので京子「この前のお調べの時に切符をお見せし 英一郎「迎えにやってありますからもうやすだからーー・」 たよ、つに思いますが : : : 」 がて : : : 」 このとき刑事入り来たって河畑京子の英一郎「あ、これこれ ! ト列の x 番 x 壁間の京浜地方大地図に向い立ってあ 来着を告げる 番の二番続きー ちこちと目測していた早川 早川訊問要項のメモを英一郎に渡して京子「はい 早川「松下さんどうやら僕の仮説は可能の 耳語 英一郎「実はちょっとそこんところに喰 現実性を加えて来ました」 河畑京子刑事に導かれて入り来たり い違いがあるようで : : : 丁度当日演舞場へ一 英一郎「え ? 」 顔馴染の早川さんを見て 行っていた者であなたのすぐ後の椅子に はず 早川「恐らく外れん ! 蛇は蛙を呑み蛙は京子「あら先生 ! 」 いた者が開演中ずーツとあなたお一人 ナメクヂを呑みナメクヂは蛇を溶かす とあでやかに会釈する だったと申出て来ているんですが : : : 」 そう云う俗言を御存知でしよう所謂三す 早川退いて室隅にあり微笑をかえす 京子度を失って瞬間茫然としかけ くみと云ってこの三つを一人の人間の身 英一郎京子に椅子をす、めて 体に彫ることは入墨師のタブーーー・絶対に英一郎「どうも御苦労さま河畑京子さんで京子「そんな : : : そんなことが ! 禁物となっておりひいてまたたとえ一 したね」 何かの間違いか人違いで : : : 」 つづ、彫り分けるにしても肉身のものに彫京子「はい」 英一郎「それからも一人演舞場の案内人 り揃えるつまり三幅対を血縁者に彫って英一郎「先日お尋ねした件でちょっと補足であなたが開演から終演までお一人きり はならないこと、されているだから彫安的にご説明願いたいことが二三ありますの だったことを証言していますあなたは当 ほどの入墨師がいくら酔狂でも我子の身 日玉虫色のワンピースに真珠の首飾りを して居られたと申していますが違います 体に彫る筈はないので : : : 死んだ常太郎が京子「どうぞ」

8. シナリオ 2016年6月号

いろんな角度から狙って矢継ぎ早やに閃 研三「モシモシ : : : モシモシ ! 」 早川「知っている」 かすフラッシュ 切れたと判りながらなおしきりに相手 研三「すぐに参りますからって : 英一郎浴室内の一点を指して を呼んでいる研三の遠くの背景に彫像 早川「松下君 ! 」 英一郎「研三 ! 確かに野村絹枝の首だな ? の如く立っている早川博士 途端に電話のベルが鳴る その早川の陰々滅々たる顔に忽然として研三「間違いありません」 英一郎「博士は ? 」 聞えて来るクラクソン : 電話室 早川「僕もそ、つとは思、つか : ・・ : しかし : 自動車のひゞき 鳴っている電話機 英一郎「む ? 」 静まり返った家の中不気味な浴室の水 早川「野村絹枝と云う女は大蛇丸の入墨が 音に混ってチリチリ : : : とベルの響き絹枝方の表に停る自動車 あってこそ完全な野村絹枝と呼び得るのが 呪縛された形に立ちすくむ一一人 停りもあえず扉を押して降り立っ英肝心の胴体が紛失していては入墨の無い 早川「出給え ! 」 バラバラと手足と首だけで野村絹枝と断 一郎 と早川に云われて身を翻えして馳け出 定してしまって差支えないものかね」 続いて到着する一輌また一輌 す研三 英一郎「ふーむ ! 」 そこへ課員の一人が小滝の細君を案一 浴室 電話室 内して来る 扉の一部 ( 下方 ) が鋸で引き截られ叩 研三が受話器を外すなり受話器を洩れ 課員「例の入墨の胴体がないので首だけで き破られる る太いバス 認定して頂かなければならないのですが その隙間から手を突込む 「あ、絹枝かね」 手が落し錠を上げる 研三「モシモシ ! 」 細君怯々と浴室を覗き込む 扉がガラリ引きあけられる 「絹枝 ? 」 呻きどよめく一同 研三「い、えあのウー」 途端に失神して倒れかけ課員に支えら 英一郎息を呑み : 「うむ ? 絹枝じや無いのか」 れる 圧し出すような声で 事研三「あのウ : : : 絹枝さんは唯今ちょっと 人 こりやアひど過ぎる」 : モシモシどちらさんですか ? モシ英一郎「ひどい ! 殺 青 振り返って 刺 応えはなくてガチャンと受話器を掛け英一郎「写真 ! 」 写真係が此場の主役となる る音 ( それともオートバイか ? ) ( 茶の間と四畳半を調査室にしてある ) 小滝の細君英一郎に対してオドオドと 8

9. シナリオ 2016年6月号

研三じりじりして ※以上早川の声による解説に併って描研三「先生じゃその疑問は一応後廻しに町角で刑事が手を挙げる 写さるべき状景は逐一縷述に堪えないのするとしまして : : : ではなぜ犯人はあ 自動車停る で省略しますこれは精密なコンティ の晩から翌朝へかけて我々ーー・先生に私 刑事走り寄って ニュイティーを必要とする領域でもあり それに支配人の稲沢を何とか彼とか理由刑事「現場から連絡がありまして : : : 河畑京 ますので を作ってまでわざわざ兇行の現場へ呼び寄子が最上の家を出ましたそうです」 せたんでしようか ? 早川「ほう ! ( と安堵に似た溜息をついて ) : い、かね君の云う通り無事に帰ったか : 場面は現実に返る ( 夕方になっている ) 早川「絹枝が : 研三たまりかねたように手を振って 殺してはならない筈のその絹枝が現に殺英一郎「先生 ! 」 研三「先生々々 ! ちょっと待って下さい されていると云う事実をだよ絹枝を知っ早川「うむ ? 」 先生は今竹藏を殺すのは財産と絹枝と一一 ている我々に確認させる必要からさ」 英一郎「犯人は覚悟を極めたらしいですね ツながら手に入れようが為だと申されまし研三「確認させる必要 ? 」 あの女を殺したところでもはや処置なし たが : : : 肝心の絹枝を殺せば目的の半分は早川「必要以上だ第一問題の入墨の胴体と観念して無事で帰してやったのでしょ 吹ッ飛んでしまう訳ですが がなくなっているとなれば嫌疑は先づ一 、つ」 早川「うムなるほどそうだ絹枝を殺し 応僕に向けられる第一一絹枝が八時四十早川「うむ : : : 」 てしまったのでは目的をなくす如何にも分まで生きていたことは隣りの妻君が認め 絹枝は殺せないうむ絹枝を殺すことは ているんだから兇行はそれ以後すなわち別の町角 出来ん ! 」 最上久が警視庁に留置されていた時間中に 張番の刑事手をあげて自動車を制す 皮肉な冷たい笑い 行われたと云うアリバイが成立する」 自動車徐行して止まり一同降車 電話 その刑事が先に立って案内して行く 研三「常太郎を殺したのは ? 」 刑事が聞いて英一郎に 早川「麻薬のルートから共犯の女を探し当て 刑事「河畑京子が唯今最上久の実験室へ入り られて危険を感じたので先手を打って常太 事件の翌日刑事が電話を借りて本庁へ ましたそうです」 郎をおびき出した例の謎の両腕の肘か 掛けていた ( その向側あたりに最上の 英一郎「よしではばつほっ仮本部へ出向く ら先に繃帯をしている女を使って : : : 多分 住宅があるつもり ) の八百屋か蕎麦屋 とするか早川先生御足労ですが : 告白するとか自首して出るからとか云い か薬屋か : : : 休養してびったり表を閉 している くるめて : : : だろうと思うこれこそ想像 の域を一歩も出ないが その狭い横路地に入る松下の一行 走る自動車の中 ( 窓外は夜になっている ) ね」 110 ー

10. シナリオ 2016年6月号

英一郎と研三が靴を穿いている英一郎 研三「自殺ですか他殺ですか」 もりで来て見ましたところ : : : 」 が起っと背後に声があって 英一郎「判らん ! 」 土藏の中では既に数名の課員が先着して 早川「松下君ー 噛みつくように云う英一郎早川への余 働いている。薄暗いので刑事が懐中電球 早川が突ッ立っている 憤をその弟子である弟へ浴びせかける で照らすと奥の方に何かの空箱 ( ? 空 あわて 早川「大事件だと見えてひどく大周章ーーは 研三這々の態 樽 ) がありその前の床の上に竹藏の屍 いいとして : : : 忘れ物 ! 」 体が右手に拳銃を握って倒れている血 綱手姫の写真とその上に載せた破片の 疾駆する自動車の前面に変転する風景 は右の耳の上から筋を引いて流れすでに 乾板研三が受取る 山ノ手の街路電車の通る繁華な街路 赤黒く凝固している 英一郎屹ッと早川を見据えて 交叉点高架線の下場末の街踏切刑事「拳銃は竹藏自身のもので事務所で発 英一郎「最上竹蔵 : : : 絹枝の旦那ですその 郊外雑木林を出はずれかけて先方に 見した弾丸のケースと一致して居ります」 竹藏が屍体となって発見されました ! 」 待っている刑事の挙げた手で走る風景が 刑事屍体から拳銃を取り上げて弾倉を開 早川「有りそうな事だ」 停る 英一郎「え ? 」 車から降る英一郎に、刑事一方を指して刑事「六連発を全部装填して一発だけ発射し一 早川「有り得べき事だよ」 刑事「あの屋敷の土藏の中です ています」 英一郎「先生ー 英一郎「他殺の形跡は ? 英一郎決然と一歩進み寄って その屋敷の外観へ向って進むカメラ 刑事「殆んど認められません」 英一郎「博士あなたは事件の真相をーー確 門へ玄関へ庭を通って土藏へ 遠く表の方で自動車の警笛がひゞく かに知っていらっしやる ! 知って居られ 課員が一人走って来て ながらあなたはーー」 土藏の戸へ 課員「検事局から : : : 検事の一行が到着され 早川「捜し給え ! 捜してそして突きとめる ました」 のが君達の仕事じゃないか ! 」 土藏の内へーカメラ進む 英一郎「え ? 」 ( 解説の声ーーー刑事 ) 「この屋敷は抵当流れに 冷々たる早川の眼勃然として憎悪と敵成ったのを最上が買受けたもので手入れ 検事が到着して動きの活発になった土 意に燃え上る英一郎の眼 をして自分の別宅にすると云っていたそう 藏をや、遠くに見られる邸内の一角に腰 英一郎自動車に乗り込みながら ですまさかこんな無人の荒屋敷へ一人ッ を卸した研三が真剣な顔で考え込んでい る 英一郎「中央線三鷹」 きりで行く筈も無かろうと考えていたので 研三つゞいて乗り すが最後にまあ念の為にと無駄足のつ 手にしている手帖 8 4