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検索対象: ジュリスト 2016年9月号
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1. ジュリスト 2016年9月号

最高裁時の判例 図ヤフー事件の概略図 ①平成 20 年 1 2 月 26 日本件副社長就任 井上社長 42 % ソフトバンク 0 驫 ヤフー 本件副社長就任 未処理欠損金 543 億円 ②平成 21 年 2 月 24 日本件買収 ( ソフトバンク→ヤフー IDCS の発行済株式全部の売却 ) 井上社長 42 % ソフトパンク 0 IDCS ・驫 ヤフー 本件買収 1 OO% IDCS 未処理欠損金 543 億円 ③平成 21 年 3 月 30 日本件合併 ( ヤフーによる IDCS の吸収合併 ) ソフトパンク 井上社長 ヤフー ( 十 IDCS) 未処理欠損金 543 億円 ( ※ ) ( ※ ) ヤフーは , 本件合併 ( 適格合併 ) に つき特定役員引継要件があるとして , IDCS の未処理欠損金 543 億円をヤ フーの損金とみなして損金算入 未処理欠損金 543 億円 42 % 本件合併 ( ※ ) 1 OO% 4 IDCS ! 真藤社長井上副社長 ! [ Jurist ] September 2016 / Number 1497

2. ジュリスト 2016年9月号

最高裁時の判例 IDCS の発行済株式全部の譲渡 ) ③平成 21 年 2 月 24 日本件譲渡 2 ( ソフトバンク→ヤフー 42 % ソフトバンク ヤフー U) —OO* 学 O 、 O 本件譲渡 2 1 OO% —OOS IDCF 資産調整勘定約 1 OO 億円 しこ一 ④平成 21 年 3 月 30 日本件合併 ( ヤフーによる IDCS の吸収合併 ) 42 % ソフトパンク ヤフー ( 十 IDCS) 本件合併 1 OO% IDCF IDCS 資産調整勘定約 1 OO 億円 93 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497

3. ジュリスト 2016年9月号

民事 1. 法人税法 ( 平成 22 年法律第 6 号による改正 前のもの ) 132 条の 2 にいう「法人税の負担 を不当に減少させる結果となると認められ るもの」の意義及びその該当性の判断方 2. 甲社が乙社の発行済株式全部を買収して乙 社を完全子会社とし , その後乙社を吸収合 併した場合において , 甲社の代表取締役社 長が上記買収前に乙社の取締役副社長に就 任した行為が , 法人税法 ( 平成 22 年法律第 6 号による改正前のもの ) 132 条の 2 にいう 「法人税の負担を不当に減少させる結果とな ると認められるもの」に当たるとされた事 例 3. 法人税法 ( 平成 22 年法律第 6 号による改正 前のもの ) 132 条の 2 にいう「その法人の行 為又は計算」の意義 最高裁平成 28 年 2 月 29 日第一小法廷判決 平成 27 年 ( 行ヒ ) 第 75 号 , 法人税更正処分取消請求事件 / 判 タ 1424 号 68 頁 ( 民集登載予定 ) / 第 1 審・東京地判平成 26 年 3 月 18 日 / 第 2 審・東京高判平成 26 年 11 月 5 日 Tokuchi Atsushi Hayashi Fumitaka 前最高裁判所調査官徳地淳 最高裁判所調査官林史高 事実 ①上告人であるヤフー株式会社 ( 原 告・控訴人。以下「ヤフー」という ) の 代表取締役社長井上雅博 ( 当時 ) は , 平成 20 年 12 月 26 日 , ソフトバンク株式会社 ( 以下 「ソフトバンク」という。なお , ヤフーの筆頭 株主である ) の完全子会社であるソフトバンク IDC ソリューションズ株式会社 ( 以下「 IDCS 」 という。当時 , 多額の未処理欠損金額を保有し ていた ) の取締役副社長に就任した ( 以下「本 件副社長就任」という ) 。②ヤフーは , 平成 21 年 2 月 24 日 , ソフトバンクから IDCS の発行 済株式の全部を譲り受け , IDCS をヤフーの完 全子会社とした ( 以下「本件買収」という ) 。 ③ヤフーは , 同年 3 月 30 日 , ヤフーを合併法 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497 80 人 , IDCS を被合併法人とする吸収合併を行っ た ( 以下「本件合併」という ) 。 以上の経緯の下で , ヤフーは , 本件事業年度 ( 平成 20 年 4 月 1 日から同 21 年 3 月 31 日まで の事業年度 ) の法人税の確定申告に当たり , 本 件合併は法人税法 ( 平成 22 年法律第 6 号によ る改正前のもの。以下「法」という ) 2 条 12 号の 8 の適格合併であるところ , 法 57 条 3 項 の委任に基づく法人税法施行令 ( 平成 22 年政 令第 51 号による改正前のもの。以下「施行令」 という ) 112 条 7 項 5 号に規定されている特定 役員引継要件 ( 要旨 , 合併法人と被合併法人の それぞれの常務取締役以上の役員が , 合併後に 当該合併法人の常務取締役以上の役員になる見 込みがあるという要件 ) を満たしており , 適格 合併における被合併法人の未処理欠損金額の引 継ぎを制限する法 57 条 3 項の適用はないとし て , 同条 2 項に基づき , IDCS の未処理欠損金 額約 543 億円をヤフーの欠損金額とみなして , 同条 1 項の規定に基づきこれを損金の額に算入 した。これに対し , 麻布税務署長 ( 処分行政 の特性 , 個別規定の性格などに照らせば , 同条 法 132 条の 2 が設けられた趣旨 , 組織再編成 認められるもの」 ( 不当性要件 ) の意義 不当に減少させる結果となると 1. 法 132 条の 2 にいう「法人税の負担を Ⅱ . 原審の判断の概要 は , 本判決の判文を参照されたい。 なお , 関係法令の定めや事実関係等の概要 る。 て , 本件更正処分等の取消しを求める事案であ き法 132 条の 2 は適用されないなどと主張し 告・被控訴人 ) を相手に , 本件副社長就任につ 本件は , ヤフーが , 被上告人である国 ( 被 ( 以下「本件更正処分等」という ) をした。 更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分 めず , ヤフーに対し , 本件事業年度の法人税の 欠損金額をヤフーの欠損金額とみなすことを認 規定である法 132 条の 2 を適用し , 上記未処理 庁 ) は , 組織再編成に係る行為又は計算の否認

4. ジュリスト 2016年9月号

が定める「法人税の負担を不当に減少させる結 果となると認められるもの」とは , ( i ) 法 132 条と同様に , 取引が経済的取引として不自然 , 不合理である場合のほか , ( ⅱ ) 組織再編成に係 る行為の一部が , 組織再編成に係る個別規定の 要件を形式的には充足し , 当該行為を含む一連 の組織再編成に係る税負担を減少させる効果を 有するものの , 当該効果を容認することが組織 再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣 旨・目的に反することが明らかであるものも含 むと解することが相当である ( 上記 ( ⅱ ) の基準 を「趣旨目的基準」という ) 。このように解す るときは , 組織再編成を構成する個々の行為に ついて個別にみると事業目的がないとはいえな いような場合であっても , 当該行為又は事実に 個別規定を形式的に適用したときにもたらされ る税負担減少効果が , 組織再編成全体としてみ た場合に組織再編税制の趣旨・目的に明らかに 反し , 又は個々の行為を規律する個別規定の趣 旨・目的に明らかに反するときは , 上記 ( ⅱ ) に 該当するものというべきこととなる。 2. 法 132 条の 2 にいう「その法人の行為 又は計算」 ( 行為主体要件 ) の意義 法 132 条の 2 の「その法人の行為又は計算」 の「その法人」は , その前の「次に掲げる法 人」を受けており , 「その法人の行為又は計算」 は「次に掲げる法人の行為又は計算」と読むべ きであって , 同条の規定により否認することが できる行為又は計算の主体である法人と法人税 につき更正又は決定を受ける法人とは異なり得 るものと解すべきである。 3. 不当性要件の当てはめ 本件副社長就任は , IDCS 及びヤフーのいず れにとっても , ヤフーの法人税の負担を減少さ せるという税務上の効果を発生させること以外 に , その事業上の必要は認められず , 経済的行 動としていかにも不自然・不合理なものと認め ざるを得ないのであって , 本件副社長就任の目 的が専らヤフーの法人税の負担を減少させると いう税務上の効果を発生させることにあると認 められ , 仮に上記目的以外の事業上の目的が全 82 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497 くないとはいえないものと認定する余地がある としても , その主たる目的が , ヤフーの法人税 の負担を減少させるという税務上の効果を発生 させることにあったことが明らかであると認め られる。これらの点を総合すれば , 井上が本件 買収時に IDCS の役員であり , 本件合併時にそ の取締役副社長であることによっても , 本件合 併において , 双方の経営者が共同して合併後の 事業に参画しており , 経営の面からみて , 合併 後も共同で事業が営まれているとは認められ ず , IDCS の未処理欠損金額をヤフーの欠損金 額とみなしてその損金に算入することは , 法 57 条 3 項及び施行令 112 条 7 項 5 号が設けら れた趣旨・目的に反することが明らかである。 したがって , 本件副社長就任及びそれを前提 とする計算は , 法 132 条の 2 の不当性要件に該 当すると認められる。 4. 行為主体要件の当てはめ 本件副社長就任の行為の主体が IDCS 又は井 上であってヤフーではないとしても , 上記 2 の とおり , 本件副社長就任に係る IDCS の行為を 否認し , ヤフーの法人税につき更正をすること ができるものと解される。のみならず , 本件副 社長就任の経緯等を総合すれば , 本件副社長就 任については , 法 132 条の 2 の適用において , ヤフーの行為とも認められるというべきであ る。 Ⅲ . 上告受理申立て理由と本判決 ヤフーが原判決を不服として上告受理申立て をしたところ , 第一小法廷は , 本件を上告審と して受理した ( ただし , 次の論旨 1 点目及び 2 点目以外の論旨は , 受理決定の際に排除されて いる ) 。 論旨 1 点目は , 原審の採用した法 132 条の 2 の不当性要件の判断基準 ( 上記Ⅱ 1 の ( ⅱ ) の趣 旨目的基準 ) は誤りである旨をいうとともに この点に関する原審の事実認定やこれに基づく 評価の適否を争い , 本件副社長就任は同条の不 当性要件に該当しない旨をいうものである。 論旨 2 点目は , 法 132 条の 2 の行為主体要件

5. ジュリスト 2016年9月号

図 IDCF 事件の概略図 ① 平成 21 年 2 月 2 日本件分割 (IDCS による IDCF の新設分割 ) 42 % ソフトパンク ヤフー 未処理欠損金約 1 OO 億円 ( 平成 21 年 3 月末償却期限 ) 譲渡益約 1 OO 億円の発生 IDCS 本件分割 ( 分割資産等約 15 億円に対し IDCF 株式 1 15 億円 ) ( ※ ) IDCF 資産調整勘定約 1 OO 億円の発生 ( ※ ) この時点で②の本件譲渡 1 が計画されていたことにより , 適格分割の要件である完全支配継続見込 み要件を欠く状態となり , 非適格分割となった。その結果 , IDCS に譲渡益が発生し , IDCF に譲渡損 に対応する資産調整勘定が発生した。 ②平成 21 年 2 月 20 日本件譲渡 1 (IDCS →ヤフー IDCF の発行済株式全部の譲渡 ) 42 % ソフトパンク ヤフー —OOS IDCS 、 - 0 IDCF IDCF 本件譲渡 1 資産調整勘定約 1 OO 億円 92 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497

6. ジュリスト 2016年9月号

決定を受ける法人とが異なる場合も予定してい るということができること , ②同条の文言上 , 否認の対象とすることができる「その法人」と は , その前の「次に掲げる法人」を受けている と解釈することができること , ③平成 19 年法 律第 6 号による改正前の法人税法 132 条の 2 は , 「これらの法人」と規定していたところ , 上記の改正が , 同条の規定により否認すること ができる行為又は計算の主体である法人と法人 税につき更正又は決定を受ける法人との関係を 変更することを意図してされたことはうかがわ れないこと , ④組織再編成においては , 複数の 法人が関与することがその性質上当然に予定さ れており , 組織再編成に関する複数の当事者の 中のいずれかの法人が不当な行為・計算を行う ことによって , 当該法人についてのみならず , 組織再編成の当事者である他の法人について も , 法人税の負担の減少が生じ得ることが当然 に予定されていること , 以上の点に加え , ⑤組 織再編成の形態や方法の多様化に対応するため に設けられたという同条の趣旨に鑑みれば , 法 132 条の 2 の「その法人の行為又は計算」の 「その法人」は , その前の「次に掲げる法人」 を受けており , 「その法人の行為又は計算」は 「次に掲げる法人の行為又は計算」と読むべき であって , 同条の規定により否認することがで きる行為又は計算の主体である法人と法人税に つき更正又は決定を受ける法人とは異なり得る ものと解すべきであると判断した。 2 本判決の判旨Ⅲは , 内容的に原審の判断 と異なるものではないが , 第 1 審判決及び原判 決に対する評釈等の中には , ヤフーの主張と同 様に , 「その法人の行為又は計算」にいう「そ の法人」とは , その文理上 , 更正又は決定を受 ける法人を意味するという見解を支持するもの も少なくなく , また , 原審がヤフーの主張に基 づく仮定的判断を示していたことも考慮し , 最 高裁がこの点につき明示的な判断を示しておく ことに一定の意義があるものとして , 併せて判 断が示されたものであろう。法 132 条の 2 の規 定の文言だけをみればヤフーの主張するような 90 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497 解釈もあり得ないではないが , 本判決が説示す るとおり , 同条の立法趣旨やその改正経緯等を 考慮すると , ヤフーが主張するような限定的な 解釈は採用し難いといえよう。 Ⅳ . 本判決の意義等 本判決は , 租税法学者や法律実務家のみなら ず経済界も大きな関心を有していた事件に関 し , 最高裁が法 132 条の 2 の不当性要件の意義 及び判断枠組み等について明示的な判断を示す と共に , 具体的な事案につき同条の適用を認め たものであり , 理論的にも実務的にも重要な意 義を有すると考えられる。 なお , 本件の関連事件である IDCF が国を相 手に法人税の更正処分等の取消しを求めた訴訟 につき , 最高裁第二小法廷は , 本判決と同日 ( 平成 28 年 2 月 29 日 ) 付けで , IDCF の上告 を棄却する判決 (IDCF 事件最判 ) を言い渡し た。 IDCF 事件最判の内容及びこれと本判決と の関係等については , IDCF 事件最判の解説を 参照されたい。

7. ジュリスト 2016年9月号

民事 行為又は計算」の意義 前のもの ) 132 条の 2 にいう「その法人の 3. 法人税法 ( 平成 22 年法律第 6 号による改正 に当たるとされた事例 減少させる結果となると認められるもの」 132 条の 2 にいう「法人税の負担を不当に ( 平成 22 年法律第 6 号による改正前のもの ) を前提としてされた当該分割が , 法人税法 発行済株式全部を分割法人が譲渡する計画 2. 新設分割により設立された分割承継法人の れるもの」の意義及びその該当性の判断方 担を不当に減少させる結果となると認めら 前のもの ) 132 条の 2 にいう「法人税の負 1. 法人税法 ( 平成 22 年法律第 6 号による改正 成 26 年 3 月 18 日 / 第 2 審・東京高判平成 27 年 1 月 15 日 / 判タ 1424 号 83 頁 ( 民集登載予定 ) / 第 1 審・東京地判平 平成 27 年 ( 行ヒ ) 第 177 号 , 法人税更正処分等取消請求事件 最高裁平成 28 年 2 月 29 日第二小法廷判決 Tokuchi Atsushi Hayashi Fumitaka 前最高裁判所調査官徳地淳 最高裁判所調査官林史高 事実 ①上告人である株式会社 IDC フロン ティア ( 原告・控訴人。以下「 IDCF 」 という ) は , 平成 21 年 2 月 2 日 , ソフトバン ク株式会社 ( 以下「ソフトバンク」という ) の 完全子会社であったソフトバンク IDC ソ リューションズ株式会社 ( 以下「 IDCS 」とい う。当時 , 多額の未処理欠損金額を保有してい た ) から , 新設分割 ( 以下「本件分割」とい う ) により設立された。② IDCS は , 同月 20 日 , ヤフー株式会社 ( 以下「ヤフー」という ) に対し , IDCF の発行済株式全部を譲渡した ( 以下「本件譲渡 1 」という ) 。③ソフトバンク は , 同月 24 日 , ヤフーに対し , IDCS の発行 済株式全部を譲渡した ( 以下「本件譲渡 2 」と いう ) 。④ヤフーは , 同年 3 月 30 日 , ヤフーを 合併法人 , IDCS を被合併法人とする吸収合併 最高裁時の判例 ( 以下「本件合併」という ) を行った。 以上の経緯の下で , IDCF は , 本件各事業年 度 ( 平成 21 年 2 月から同 24 年 3 月 31 日まで の間の 4 事業年度 ) に係る各法人税の確定申告 に当たり , 本件分割は法人税法施行令 ( 平成 22 年政令第 51 号による改正前のもの。以下 「施行令」という ) 4 条の 2 第 6 項 1 号に規定 されている完全支配継続見込み要件 ( 要旨 , 分 割後に分割法人と分割承継法人との間に当事者 間の完全支配関係が継続することが見込まれて いるという要件 ) を満たしていないため , 法人 税法 ( 平成 22 年法律第 6 号による改正前のも の。以下「法」という ) 2 条 12 号の 11 の適格 分割に該当しない分割 ( 以下「非適格分割」と いう ) であり , 法 62 条の 8 第 1 項の資産調整 勘定の金額が生じたとして , 同条 4 項及び 5 項 に基づき , 上記の資産調整勘定の金額からそれ ぞれ所定の金額を減額し損金の額に算入した。 これに対し , 四谷税務署長 ( 処分行政庁 ) は , 組織再編成に係る行為又は計算の否認規定であ る法 132 条の 2 を適用し , 上記の資産調整勘定 の金額は生じなかったものとして所得金額を計 算した上で , IDCF に対し , 本件各事業年度の 法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦 課決定処分 ( 以下「本件各更正処分等」とい う ) をした。 本件は , IDCF が , 被上告人である国 ( 被 告・被控訴人 ) を相手に , 本件に法 132 条の 2 は適用されないなどと主張して , 本件各更正処 分等の取消しを求める事案である。 なお , 関係法令の定めや事実関係等の概要 は , 本判決の判文を参照されたい。 Ⅱ . 原審の判断の概要 1. 法 132 条の 2 にいう「法人税の負担を 不当に減少させる結果となると認められる もの」 ( 不当性要件 ) の意義 法 132 条の 2 が設けられた趣旨 , 組織再編成 の特性 , 個別規定の性格などに照らせば , 同条 が定める「法人税の負担を不当に減少させる結 果となると認められるもの」とは , ( i ) 法 132 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497

8. ジュリスト 2016年9月号

論旨 1 点目は , 原審の採用した法 132 条の 2 の不当性要件の判断基準 ( 上記Ⅱ 1 の ( ⅱ ) ) は 誤りである旨をいうとともに , この点に関する 原審の事実認定やこれに基づく評価の適否を争 い , 本件計画を前提とする本件分割は同条の不 当性要件に該当しない旨をいうものである。 論旨 2 点目は , 法 132 条の 2 の行為主体要件 の「その法人」とは , その規定の文言に照らせ ば , 更正又は決定を受ける法人のみを意味する と解すべきであり , 「次に掲げる法人」 ( 同条各 号に掲げられている法人 ) を意味するとした原 審の判断は誤りであるというものである。 本判決は , 論旨 1 点目 ( 不当性要件 ) につき 判旨 I 及びⅡのとおり判断し , 論旨 2 点目 ( 行 為主体要件 ) につき判旨Ⅲのとおり判断し , 論 旨にはいずれも理由がないとして , IDCF の上 告を棄却した。 判旨 法人税法 ( 平成 22 年法律第 6 号によ る改正前のもの ) 132 条の 2 にいう「法 人税の負担を不当に減少させる結果となると認 められるもの」とは , 法人の行為又は計算が組 織再編税制に係る各規定を租税回避の手段とし て濫用することにより法人税の負担を減少させ るものであることをいい , その濫用の有無の判 断に当たっては , ①当該法人の行為又は計算 が , 通常は想定されない組織再編成の手順や方 法に基づいたり , 実態とは乖離した形式を作出 したりするなど , 不自然なものであるかどう か , ②税負担の減少以外にそのような行為又は 計算を行うことの合理的な理由となる事業目的 その他の事由が存在するかどうか等の事情を考 慮した上で , 当該行為又は計算が , 組織再編成 を利用して税負担を減少させることを意図した ものであって , 組織再編税制に係る各規定の本 来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用 を受けるもの又は免れるものと認められるか否 かという観点から判断するのが相当である。 新設分割により設立された分割承継法 Ⅱ 人が当該分割は適格分割に該当しないと 最高裁時の判例 して資産調整勘定の金額を計上した場合におい て , 分割後に分割法人が当該分割承継法人の発 行済株式全部を譲渡する計画を前提としてされ た当該分割は , 翌事業年度以降は損金に算入す ることができなくなる当該分割法人の未処理欠 損金額約 100 億円を当該分割承継法人の資産調 整勘定の金額に転化させ , これを以後 60 か月 にわたり償却し得るものとするため , 本来必要 のない上記譲渡を介在させることにより , 実質 的には適格分割というべきものをこれに該当し ないものとするべく企図されたものといわざる を得ないなど判示の事情の下では , 法人税法 ( 平成 22 年法律第 6 号による改正前のもの ) 132 条の 2 にいう「法人税の負担を不当に減少 させる結果となると認められるもの」に当た る。 法人税法 ( 平成 22 年法律第 6 号によ Ⅲ る改正前のもの ) 132 条の 2 にいう「そ の法人の行為又は計算」とは , 更正又は決定を 受ける法人の行為又は計算に限られるものでは なく , 同条各号に掲げられている法人の行為又 は計算を意味する。 ( 判旨 I ) について 意義及びその該当性の判断方法 I . 法 132 条の 2 の不当性要件の 解説 この点については , 将来の同種事案におい いう ) の判旨 I と同様の判断を示した。 判タ 1424 号 68 頁 ( 以下「ヤフー事件最判」と り , ヤフー事件に係る最ー小判平成 28 ・ 2 ・ 29 同じであったところ , 本判決は , 判旨 I のとお 事件 ) におけるヤフー及び国の主張と基本的に 主張は , ヤフー事件 ( 法人税更正処分取消請求 れた。そして , この点に関する IDCF 及び国の ないし判断方法をどのように解すべきかが争わ て , 不当性要件の意義やその該当性の判断基準 かどうかが最大の争点であり , その前提とし 分割が , 法 132 条の 2 の不当性要件に該当する 本件においては , 本件計画を前提とした本件 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497 95

9. ジュリスト 2016年9月号

ヤフーに引き継がせるためには , 特定役員引継 要件を満たす必要があったところ , 本件副社長 就任は , この特定役員引継要件を満たすために 行われたものであること。 上記 ( 1) 及び②の各事情は , 判文上 , 本件で 行われた一連の行為の動機や全体像を示すこと により , 事案の理解を容易にする意味を有する と同時に , 本件においては , 判旨 I の不当性要 件該当性の判断方法における考慮事情 ( ①行 為・計算の不自然性 , ②合理的な理由となる事 業目的等の有無 ) から強いて推認するまでもな く , ソフトバンクによる組織再編成の手順の提 案 ( 以下「本件提案」という ) 等により , 本件 副社長就任を含む一連の行為が , 組織再編成を 利用した租税回避スキームとして計画された行 為であり , 「組織再編成を利用して税負担を減 少させることを意図したもの」であることが明 らかな事案であることが示されているといえよ 3 本判決は , 上記 2 ( 1) 及び②の各事情に 続けて , 井上が IDCS の取締役副社長に就任し た経緯 , 就任期間 , 業務内容 , 実質的な地位・ 権限等について次の① ~ ④の各点を指摘してい る。 ①就任の経緯等 : 本件副社長就任は , 本件 提案が示された後に , ソフトバンクの代表取 締役社長である孫正義の依頼を受けて , ヤ フーの井上及び真藤豊がこれを了承するとい う経緯で行われたものであり , 上記依頼の前 から IDCS とヤフーにおいてその事業上の目 的や必要性が具体的に協議された形跡はない ②就任期間 : 井上が IDCS の取締役副社長 に就任していた期間は僅か 3 か月間程度であ り , 本件買収により特定資本関係が発生する までの期間に限れば僅か 2 か月間程度にすぎ ないこと ③業務内容 : 井上の IDCS における業務の 内容は , おおむね本件合併等に向けた準備や その後の事業計画に関するものにとどまるこ と 最高裁時の判例 ④実質的な地位・権限等 : 井上は IDCS に おいて代表権のない非常勤の取締役であった 上 , 具体的な権限を伴う専任の担当業務を有 していたわけでもなく , IDCS から役員報酬 も受領していなかったこと そして , 本判決は , 以上の① ~ ④の事情に鑑 み , 井上は IDCS において経営の中枢を継続的 かっ実質的に担ってきた者という施行令 112 条 7 項 5 号の特定役員引継要件において想定され ている特定役員の実質を備えていたということ はできず , 本件副社長就任は , 実態と乖離した 上記要件の形式を作出する明らかに不自然なも のであり , 税負担の減少以外にその合理的な理 由といえるような事業目的等があったとはいえ ないとした。 4 本判決は , 以上のような検討を経て , 本 件副社長就任は , 組織再編成を利用して税負担 を減少させることを意図したものであって , 法 57 条 2 項 , 同条 3 項及び施行令 112 条 7 項 5 号の本来の趣旨及び目的を逸脱する態様でその 適用を受けるもの又は免れるものと認められる というべきであるとし , 判旨Ⅱのとおり判断し たものと考えられる。 Ⅲ . 法 132 条の 2 にいう 「その法人の行為又は計算」 の意義 ( 判旨Ⅲ ) について 1 本件において , ヤフーは , 法 132 条の 2 にいう「その法人の行為又は計算」の「その法 人」とは , その文理上 , 更正又は決定を受ける 法人のみを意味すると解すべきであり , 本件副 社長就任は IDCS と井上の行為であってヤフー の行為ではないから , 本件副社長就任につき同 条の適用はないと主張した。 これに対し , 原審は , ①法 132 条の 2 第 3 号 との関係においては , 合併等をした一方又は他 方の法人の行為を否認して , その株主等 ( 法 2 条 14 号 ) の法人税につき更正又は決定をする 場合を予定していると解されるから , 法 132 条 の 2 の規定は , 否認することができる行為又は 計算の主体である法人と法人税につき更正又は [ Jurist ] September 2016 / Number 1497 89

10. ジュリスト 2016年9月号

上記未処理欠損金額のうち約 100 億円を IDCF の資産調整勘定の金額に転化させて以後 60 か 月にわたり償却し得るものとするべく , ごく短 期間に計画的に実行されたものであること。 ②本件計画 ( 本件譲渡 1 を行う計画 ) の 意図等 上記 ( 1 ) のとおり IDCS の未処理欠損金額を IDCF の資産調整勘定の金額に転化させるため には , 本件分割が非適格分割である必要があっ たところ , 適格分割の要件である完全支配継続 見込み要件を満たさないこととなるように , 本 件分割と本件譲渡 2 との間に本件譲渡 1 を行う 本件計画が立てられ , 実行されたものとみられ ること。 上記 ( 1) 及び②の各事情は , 判文上 , 本件で 行われた一連の行為の動機や全体像を示すこと により , 事案の理解を容易にする意味を有する と同時に , 本件においては , 判旨 I の不当性要 件該当性の判断方法における考慮事情 ( ①行 為・計算の不自然性 , ②合理的な理由となる事 業目的等の有無 ) から強いて推認するまでもな く , 本件提案等により , 本件分割 , 本件譲渡 1 , 本件譲渡 2 及び本件合併という一連の行為 が , 組織再編成を利用した租税回避スキームと して計画された行為であり , 「組織再編成を利 用して税負担を減少させることを意図したも の」であることが明らかな事案であることが示 されているといえよう。 3 本判決は , 上記 2 ( 1 ) 及び②の各事情に 続けて , 本件分割の実質や本件計画 ( 本件譲渡 1 ) の事業目的等につき次の各点を指摘してい る。 ①本件分割の実質 : 本件譲渡 1 の 4 日後に 行われた本件譲渡 2 により , IDCS は IDCF と共にヤフーの完全子会社となり , その翌日 にヤフーと IDCS との間で合併契約が締結さ れ , その約 1 か月後に本件合併の効力が生じ ており , 本件の一連の組織再編成を全体とし てみれば , IDCS による移転資産等の支配は 本件分割後も継続しており , 本件分割は適格 分割としての実質を有すると評価し得ること 最高裁時の判例 ②本件計画の事業目的等の有無 : 仮に本件 分割後に本件譲渡 1 が行われなくとも , 本件 譲渡 2 と本件合併によりヤフーによる IDCS の吸収合併と IDCF の完全子会社化は実現さ れたことや , 本件譲渡 1 の対価である 115 億 円が本件譲渡 2 及び本件合併によりいずれヤ フーに戻ることが予定されていたことなどか らすると , 本件譲渡 1 を行うことにつき , 税 負担の減少以外に事業目的等があったとは考 え難いこと そして , 本判決は , 以上の①及び②の事情に 鑑み , 本件分割は , 本件計画を前提とする点に おいて , 通常は想定されない組織再編成の手順 や方法に基づくものであるのみならず , これに より実態とは乖離した非適格分割の形式を作出 するものであって , 明らかに不自然なものであ り , 税負担の減少以外にその合理的な理由とな る事業目的等を見いだすことはできないとした。 4 本判決は , 以上のような検討を経て , 本 件計画を前提とする本件分割は , 組織再編成を 利用して税負担を減少させることを意図したも のであって , 法 2 条 12 号の 11 イ及び施行令 4 条の 2 第 6 項 1 号 , 法 62 条の 3 並びに法 62 条 の 8 の本来の趣旨及び目的を逸脱する態様でそ の適用を受けるもの又は免れるものと認められ るというべきであるとして , 判旨Ⅱのとおり判 断したものであると考えられる。 Ⅲ . 法 132 条の 2 にいう 「その法人の行為又は計算」 の意義 ( 判旨Ⅲ ) について 本件において , IDCF は , 法 132 条の 2 にい う「その法人の行為又は計算」の「その法人」 とは , その文理上 , 更正又は決定を受ける法人 のみを意味すると解すべきであり , 本件計画を 前提とする本件分割は IDCS の行為であって IDCF の行為ではないから , 上記分割につき同 条の適用はないなどと主張したが , 本判決は , 判旨Ⅲのとおり判示した上で , 本件計画を前提 とする本件分割は IDCF の行為ではないが , こ れを同条により否認することは許される旨判断 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497 97