行為 - みる会図書館


検索対象: ジュリスト 2016年9月号
119件見つかりました。

1. ジュリスト 2016年9月号

歓送迎会終了後の送迎行為の業務遂行性 一行橋労基署長事件 れたものとはうかがわれないこと等を考慮しても , B は , 本件事故の際 , なお A 社の支配下にあった」。 解説 1 一般に , 何らかの事故によって生じた労 働者の負傷や死亡が「業務上」 ( 労災 7 条 1 項 1 号 ) の災害とされるためには , 業務と災害との間に ( 条件的因果関係のみならず ) 相当因果関係 ( 「業務起 因性」とも呼ばれる ) が必要であるとされる。そして この相当因果関係の存在を肯定するための要件の 1 つが , 労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあ る状態で災害が発生すること , すなわち業務遂行性で ある ( 判旨 I ) 。本件の争点は , 職場外で開催された 歓送迎会の終了後 , 会の参加者をその住居に送ってか ら再び職場に戻る予定で車を運転していた際に衝突事 故に遭った B の死亡につき , その原因となった自動 車の運転行為に業務遂行性があったかどうかである。 原審は , 研修生の歓送迎会は A 社の定期的な行事で はなく , 本件歓送迎会も任意参加の「従業員有志によ る私的な会合」に過ぎなかった , 運転行為も私的な会 合に付随して B が任意に行ったに過ぎない , として 業務遂行性を全面的に否定した。 2 これに対し最高裁は , 業務を中断して本件歓送 迎会に参加し再び職場に戻るという当日の B の行動 は , A 社が職務上「要請」していたものである ( 判 旨Ⅱ① ) , 本件歓送迎会はその目的等からすれば「事 業活動に密接に関連して行われた」ものである ( 同 ② ) , B が E 部長に代わって研修生らを送ったのも A 社が要請した行動の範囲内のものであった ( 同③ ) , として , 同じ事実関係の下で原審とは全く逆の評価を 行った。事業活動そのものでなくても , それに「密接 に関連」した行事 ( 本件では研修生の歓送迎会 ) のた めに会社が「要請」したとみなしうる行為であれば , 明確な業務指示がなくても ( 判旨Ⅲ ) , 業務遂行性を 肯定できるということになる。実態に即して実質的な 判断を可能とする柔軟な枠組みといえるが , 統一的な 基準による公平な労災認定という観点からは , 今後 「要請」というやや曖味な基準の具体化・明確化を図 る必要がありそうである。 本判決の判示の直接の射程は歓送迎会後の送 迎行為であり , 類似事案がそれほど多いとも思 われない。しかし , 会社の「要請」を基準とする本判 決の規範は , これまで何らかの形での「強制」や「義 務」の存在が前提となると考えられてきた , 社外行事 の業務遂行性に関する判断 , さらには通勤災害におけ る「就業に関し」 ( 労災 7 条 2 項 ) の判断にも影響を 与えると思われる。たとえば前者について , 代表的な 裁判例は , 懇親会等の社外行事への参加は , 「社外行 事を行うことが事業運営上緊要なものと客観的に認め られ , かっ労働者に対しこれへの参加が強制されてい るときに限り , 労働者の右社外行事への参加が業務行 為になる」という枠組みの下 , 会社役員が従業員にで きるだけ参加するようにと勧め , 参加者を当日出勤扱 いにする旨伝えたことを認定しつつ , 会社が参加を 「強制」した事実はないとして , 忘年会参加の業務遂 行性を否定している ( 福井労基署長事件・名古屋高金 沢支判昭和 58 ・ 9 ・ 21 労民集 34 巻 5 = 6 号 809 頁 ) 。 他の多くの裁判例も , 行事への参加強制の有無 , 行事 の目的・実態と業務との関連性という視点から業務遂 行性の有無を検討している ( 詳細は阿部未央〔判批〕 社会保障百選〔第 5 版〕 103 頁参照 ) 。上記福井労基 署長事件における , 会社役員からの会合参加の勧めや 出勤扱いにする旨の伝達などは , 本判決の枠組みであ れば会社の「要請」と評価されてもおかしくない事実 であるように思われる。 なお , 本判決では全く触れられていないが , 原審の認定によれば , B 運転の本件車両には乗 車定員 5 名のところ B と研修生らの計 6 名が乗車し ており , 道路交通法違反の状態での事故であったよう である。通勤災害の事案であれば , この事実により , 通勤が「合理的な・・・・・・方法」 ( 労災 7 条 2 項 ) による ものではなかったと判断されていたであろう。本件は 通勤災害とは制度趣旨の異なる業務災害の事案であ り , そのような点を敢えて問題にする必要はないとい うことなのか。あるいは , 最高裁としては , 道交法違 反をしてでも研修生らを送っていくよう A 社が「要 請」したのだ , と正面から言うのは少々憚られたとい Ⅱ うことかもしれない。 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497 5

2. ジュリスト 2016年9月号

ある不正競争防止法 ( 18 条 1 項 ) の中で , 外 国公務員に対する贈賄行為を処罰する規定が置 かれている。しかしながら , 1999 年の同規定 の施行以来 , この規定に基づいて処罰された公 表事例は数例しかなく , その宣告刑も罰金又は 執行猶予付きの短期懲役刑にとどまる。そのた め , 日本では外国公務員への贈賄行為に対する 意識はそれほど高いとはいえないのが実情で あった。 OECD においても , 日本は外国公務 員に対する贈賄の取締りが立法・運用いずれの 面においても不十分であると再三にわたり指摘 を受け , 漸次改善を求められているところであ る。 もっとも , 近年は , 海外に事業展開する日本 企業において , 外国公務員に対する腐敗行為の 防止は , コンプライアンス上の最重要課題の 1 っとして認識されるに至っている。 その引き金になったのは , 2010 年代以降 , 複数の日本企業が米国 FCPA の域外適用を根 拠として相次いで摘発・処罰され , 巨額の罰金 刑や関係者の拘禁刑を科せられる重大な結果に 至ったという事実であろう。実際に , 米国以外 の企業が米国外で行った行為が処罰されている ケースが多く , 日本企業にとっても , 海外で 行った贈賄行為が処罰対象になり得るというの が現実化したことに加え , これに対するコンプ ライアンス体制の構築・運用が急務となったの である。 3. 民間企業や民間人を相手方とする贈賄 ( 民間贈収賄 ) 前述のとおり , 贈賄罪は国内外の公務員を相 手方とする犯罪類型であったが , 民間企業や民 間人との間であっても , 不当な目的や態様によ る金銭等の授受等は公正な市場競争を歪曲する おそれがある点は同様であるため , これを防止 する必要性があるという観点から , 民間贈収賄 も可罰的であるという考え方が台頭した。その 結果 , 後述するように , 多くの法域において , 民間贈収賄は明文の法規により規制されるに 至っている。 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497 60 もっとも , 米国 FCPA は , 外国公務員等へ の贈賄を処罰対象とする一方で , 民間贈収賄は 処罰対象から除外されている ( もっとも , その 「外国公務員」には半官半民企業や国際機関も 広く含まれると解されており , 日本人が通常想 起する「公務員」よりその範囲が広い点は注意 を要する ) 。そのため , 米国 FCPA の解釈基準 として米国司法省 (Department of Justice) が 公表しているガイドラインは , あくまで外国の 「公務員」に対する贈賄行為を念頭に置いてい るのであって , その基準が必ずしも民間贈収賄 にも妥当するわけではない。もとより , 民間企 業に対する贈答・接待やその他の贈与行為は , 多くの法域において広く容認されてかっ実際に 行われてきたものであり , これらをむやみに禁 圧するとすれば , 企業活動に対する過剰な萎縮 効果を生じ , ひいては社会的活動が円滑に立ち 行かなくなるという反対利益への考慮も忘れて はならない。 以下 , 世界における主な贈収賄規制法令の中 で , 民間贈収賄がどのように規制されているか を俯瞰したい。 ( 1 ) 英国 米国 FCPA と並んで広範な域外適用で知ら れる UK Bribery Act 2010 ( 以下 , 「英国 UKBA 」 という ) が定める原則的形態の贈賄罪 ( 英国 UKBA 1 条 ) では , 贈賄の相手方は限定され ず , 民間企業に対する贈賄も公務員に対する贈 賄と等しく処罰対象となっている。その主たる 構成要件は , 他人に対して , その役職や業務を 「 impr 叩 er (ly) 」に遂行させる意図をもって , 経済上の利益を申し込み , 約東し又は供与する ことである ( 英国 UKBA 1 条 2 項 (b) ) 。 この「 impr 叩 er ( ly ) 」というのは多義的な 語であって , 日本語への直訳には若干の難があ るが , 「不正」と訳するのが適切なように思わ れる。これは「違法」よりも若干広い概念で あって , 必ずしも明文の法令により禁止される 行為に限られない。英国 UKBA の関係条文等 によれば , その「不正」とは , 「 ( 合理的な英国 人の ) 期待を裏切る行為」を意味し , 「期待」

3. ジュリスト 2016年9月号

とは信義・公平や信頼関係の原則に則すること をいうとされている。 これは極めて抽象的な基準であるのに加え , 比較的新しい法令で判例が未だ乏しいため , 今 後の判例や行政機関 (Serious Fraud Office) による運用事例の集積を待っところである。 ②中国 中国では , いわゆる「商業賄賂」といわれる 贈賄の一類型が刑法に規定されている ( 中国刑 法 164 条 1 項・ 3 項 ) 。これは , 商業上の不正 な利益の獲得又は提供を目的として授受される 財物を意味するが , その金額の多寡や政治的動 向等によっても処罰発動の有無や程度が左右さ れる。その他 , いわゆるリべートの規制に係る 類似の規定が , 反不正競争法 ( 8 条・ 22 条 ) に もみられる。 近年 , これに基づく民間贈収賄の摘発は盛ん に行われているように見受けられ , その傾向が 指導部の交代や政変によって大きく影響される のが中国の特徴である。すなわち , 過去の時点 では黙認されていた行為が , 指導部の交代を機 に突如として一斉摘発されるということは , 決 して珍しくないのである。 ( 3 ) 欧州大陸諸国 ( フランスの例 ) 欧州大陸諸国の法令も , 民間贈収賄を独立の 犯罪類型として , 多くは刑法典の中にこれを規 定している。 フランスを例にすれば , 民間贈収賄を処罰す る法文が , 対公務員の贈賄や外国公務員に対す る贈賄と並んで明文で規定されている ( フラン ス刑法典 L. 445 ー 1 条以下 ) 。その構成要件の要 旨は , 「職業活動又は社会的活動の分野」にお いて , 他者のために「管理又は労務提供」を行 う者に対し , 法令 , 契約又は職業規範に反した 作為若しくは不作為をさせる目的で , 又はこれ に対する報償として財物等を申し込み , 約東し 又は供与する行為である。 その他 , フランスで特筆すべき事項として挙 げられるのは , 賭けを伴うスポーツ大会 ( 必ず しも国際大会に限らない ) において , いわゆる 八百長を行う目的で行われる贈賄行為が , 民間 時論 贈収賄の中でも独立した犯罪類型として明文で 規定されている点である ( 同法典 L. 445 ート 1 条 ) 。 ④日本 日本において , 贈賄の一類型として民間贈収 賄を刑事罰の対象とするめばしい法令は , 取締 役等の贈収賄罪 ( 会社 967 条 ) 程度かと思われ る。 他方で , 民間企業が他の民間企業に対して正 当な理由なく贈与や利益供与等を行った場合 , その行為者は刑法上の背任罪 ( 刑 247 条 ) や会 社法上の特別背任罪 ( 会社 960 条 ) により処罰 される可能性がある。もっとも , これらの犯罪 の保護法益は任務の委託者 ( 後者であれば会 社 ) の財産保護であり , 公務の廉潔性や公正な 自由競争の保護を保護法益とする贈賄罪とは根 本的に性質の異なる犯罪であることに注意が必 要である。 Ⅲ . 贈収賄事案における判断基準と スポーツの世界における特殊性 贈収賄事案においては , その収賄者が官・民 いずれであるかを問わず , 贈賄者と収賄者の間 にいわゆる「わら人形」としてコンサルタント 等の第三者が介在することが多い。このような 第三者が介在する贈賄リスクを低減するために は , コンサルタント等を起用する前に ( 場合に よっては起用後も ) これを十分に精査すること が重視される。 しかしながら , 一般的な新興国投資案件にお ける政府系コンサルタントの場合と , スポーツ の国際大会招致を目的として起用されるコンサ ルタントの場合では , 以下のような理由から , 考慮すべき要素が著しく異なるため , 同列に論 じることはできないのである。 1. 贈収賄に第三者が介在する場合の判断基準 前述のとおり , 典型的な場面は , 新興国に投 資する外国企業が , 現地で事業を行うために政 府系コンサルタントを起用することが避けられ ず , そのコンサルタントへの委託業務報酬とし [ Jurist ] September 2016 / Number 1497

4. ジュリスト 2016年9月号

条と同様に , 取引が経済的取引として不自然 , 不合理である場合のほか , ( ⅱ ) 組織再編成に係 る行為の一部が , 組織再編成に係る個別規定の 要件を形式的には充足し , 当該行為を含む一連 の組織再編成に係る税負担を減少させる効果を 有するものの , 当該効果を容認することが組織 再編税制の趣旨・目的又は当該個別規定の趣 旨・目的に反することが明らかであるものも含 むと解することが相当である。このように解す るときは , 組織再編成を構成する個々の行為に ついて個別にみると事業目的がないとはいえな いような場合であっても , 当該行為又は事実に 個別規定を形式的に適用したときにもたらされ る税負担減少効果が , 組織再編成全体としてみ た場合に組織再編税制の趣旨・目的に明らかに 反し , 又は個々の行為を規律する個別規定の趣 旨・目的に明らかに反するときは , 上記 ( ⅱ ) に 該当するものというべきこととなる。 2. 法 132 条の 2 にいう「その法人の行為又は 計算」 ( 行為主体要件 ) の意義 法 132 条の 2 の「その法人の行為又は計算」 の「その法人」は , その前の「次に掲げる法 人」を受けており , 「その法人の行為又は計算」 は「次に掲げる法人の行為又は計算」と読むべ きであって , 同条の規定により否認することが できる行為又は計算の主体である法人と法人税 につき更正又は決定を受ける法人とは異なり得 るものと解すべきである。 3. 不当性要件の当てはめ 本件の一連の組織再編成に係る計画は , 本件 分割後に本件譲渡 1 が行われることのみを局所 的に取り出してみれば , 「当事者間の完全支配 関係」の継続の見込みがないとの判定がされる ものの , 「移転資産に対する支配」が継続して いるか否かの指標とされる「当事者間の完全支 配関係」が一時的に切断されるが短期間のうち に復活することが予定されているものであり , 一連の組織再編成の計画を全体としてみると , IDCS の分割は , 実質的にみて , 分割会社によ る「移転資産に対する支配」が継続する内容の ものであると評価すべき場合であることは明ら 94 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497 かである。 また , 本件分割の態様は , IDCS にとって , 事業上の必要性よりも , ソフトバンクグループ 全体での租税回避の目的を優先したものである との評価を免れないことは明らかである。 さらに , 本件譲渡 1 を行うこと自体の事業上 の必要性は , 極めて希薄であったことは明らか であり , 加えて , 一連の組織再編成に関与する 法人は , 資産調整勘定の金額の計上が認められ ない可能性が相当程度あることを認識していた ということができる。 以上のような本件における諸事情を総合勘案 すると , 分割後に本件譲渡 1 を行うという計画 ( 以下「本件計画」という ) を前提とした本件 分割は , 局所的にみれば完全支配継続見込み要 件を充足しないものではあるものの , それによ りもたらされる税負担減少効果を容認すること は , 完全支配継続見込み要件を定めた施行令 4 条の 2 第 6 項 1 号が設けられた趣旨・目的に反 することが明らかであるということができる。 したがって , 本件計画を前提とした本件分割 は , 法 132 条の 2 の不当性要件に該当すると解 される。 4. 行為主体要件の当てはめ 会社分割に関する定めによれば , 分割承継法 人 (IDCF) が分割法人 (IDCS) の権利義務を 承継するのは , 分割による法的効果にすぎず , 分割承継法人において , 同法人が行う何らかの 承継行為が観念できるものではない。しかし , 上記 2 のとおり , IDCF に係る法人税につき本 件各更正処分等をするに当たり , IDCS の本件 計画を前提とする本件分割を否認し , 本件計画 を前提としない本件分割に引き直すことが許さ れると解するのが相当である。 Ⅲ . 上告受理申立て理由と本判決 IDCF が原判決を不服として上告受理申立て をしたところ , 第二小法廷は , 本件を上告審と して受理した ( ただし , 次の論旨 1 点目及び 2 点目以外の論旨は , 受理決定の際に排除されて いる ) 。

5. ジュリスト 2016年9月号

において , 経済合理性基準に係る上記の通説的 見解の考え方を取り込んだものと評価すること ができるように思われる。 ( イ ) ところで , 上記①の考慮事情において は , 行為・計算の不自然性の例示が 2 つ示され ている。これらは , 本件及び関連事件 (IDCF 事件 ) の事案の内容に即して掲げられた例示と みられるが , その内容に照らせば , 上記の不自 然性を基礎付ける代表的な例示であるとみて差 し支えないであろう。ただし , 今後新たに問題 となる事案によっては , 例えば , 組織再編成に おける何らかの契約上の対価が適正価格に比し て著しく低額又は高額である場合など , 不自然 な行為・計算とされる類型はその他にもあり得 るものと考えられる。 ( ウ ) また , 上記②の考慮事情については , 「税負担の減少以外に合理的な事業目的その他 の事由が存在するかどうか」という表現ではな く , 「・・・・・・そのような行為又は計算を行うこと の合理的な理由となる事業目的・・・・・・」というや や複雑な表現が用いられていることに留意すべ きであろう。これは , 経済合理性基準に係る前 記通説的見解の「租税回避以外に正当な理由な いし事業目的が存在しない」という部分につい て , 必ずしも意識的に論じられているわけでは ないが , 論者によって , ( A ) 行為・計算の異常性の程度等とは切り離 して考え , 租税回避以外の事業目的等が「存 在するか否か」のみを基準とする立場 ( 本件 訴訟におけるヤフーの主張はこのような趣旨 をいうものと解される。この見解の場合 , 極 論すれば , ごく僅かでも何らかの事業目的等 が存在すれば , 法 132 条の 2 は適用し得ない ことになると考えられる ) ( B ) 行為・計算の異常性の程度との関係や , 税負担の減少目的との主従関係等を考慮し て , 租税回避以外の事業目的等が「正当なも のといえるか」どうかも判断する立場 ( 例え ば , 吉村政穂「「不当に減少』とその判断基 準としての経済合理性」税務弘報 62 巻 7 号 58 頁等。原判決が仮定的にした判断もこれ 86 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497 に沿う内容と評価し得よう ) の 2 通りの解釈があるように思われる。本判決 が上記②の考慮事情において , 「・・・・・・そのよう な行為又は計算を行うことの合理的な理由とな る・・・・・・」という表現を敢えて用いているのは , 上記 ( A ) の考え方ではなく , 行為・計算の不自 然さ ( 異常性・変則性 ) の程度との比較や税負 担の減少目的と事業目的との主従関係等に鑑 み , 行為・計算の合理性を説明するに足りる程 度の事業目的等が存在するかどうかという点を 考慮する上記 ( B ) の考え方を採用する旨を明ら かにするものと考えられよう ( なお , 組織再編 成という事柄の性質上 , これに関する行為につ き , 何らかの事業目的等を作出し又は付加する ことは容易であり , 上記 (A) の考え方のよう に , 税負担の減少以外の事業目的等が全く存在 しない場合にのみ法 132 条の 2 が適用されるも のとすると , 同条はほば死文化することになり かねず , その立法趣旨に反する結果となること は明らかであろう ) 。 ( ェ ) そして , 本判決は , 上記①及び②等の 事情を「・・・・・・考慮した上で」としている。この ような言い回しは , 濫用の有無の判断に当たっ ては , 上記①及び②等の事情を必ず考慮すべき であるという趣旨が含意されているものと考え られ , さらにその趣旨を推し進めると , ①行 為・計算の不自然性と , ②そのような行為・計 算を行うことの合理的な理由となる事業目的等 の不存在は , 単なる考慮事情にとどまるもので はなく , 実質的には , 法 132 条の 2 の不当性要 件該当性を肯定するために必要な要素であると みることができるのではなかろうか ( 例えば , 行為・計算の不自然性が全く認められない場合 や , そのような行為・計算を行うことの合理的 な理由となる事業目的等が十分に存在すると認 められる場合には , 他の事情を考慮するまでも なく , 不当性要件に該当すると判断することは 困難であると考えられる ) 。 ( 3 ) 濫用の有無の判断における具体的な 観点 本判決は , 判旨 I の最後に , 「〔その濫用の有

6. ジュリスト 2016年9月号

なく ( 解任時を基準時とすれば , 退職慰労金が支給さ れていた蓋然性は常に高くないことになり得る ) , 選 任時または就任時であるべきなのではないかという批 判があり得よう。 なお , 本判決は , 未払の役員報酬については Ⅳ 年 6 分の割合で , 会社法 339 条 2 項に基づく 損害賠償については年 5 分の割合で , 遅延損害金を 支払うことを Y に命じている。これは , X が求めた 割合によるものであり , Y がこれについて争わな かったことによるものであるが , 理論的には , いずれ についても年 6 分の割合での遅延損害金の支払が命 じられるべきであると解する余地があるように思われ る。すなわち , 取締役任用契約は商行為であると解す る判例 ( 最判平成 20 ・ 1 ・ 28 民集 62 巻 1 号 128 頁 〔商行為たる委任契約〕 ) ・多数説 ( ただし , 江頭憲治 郎・会社法コンメンタール ( 1 ) 132 頁は反対 ) を前提 とすれば , 未払の役員報酬についての遅延損害金が年 6 分の割合で算定されるべきこと ( 最判平成 4 ・ 12 ・ 18 民集 46 巻 9 号 3006 頁。また , 増森珠美・最判解 民事篇平成 20 年度 70 頁 ) は当然であるといえる ( 下級審裁判例には年 5 分とするものが少なくないが 〔東京高判平成 9 ・ 12 ・ 4 判時 1657 号 141 頁など。森 本滋・逐条解説会社法 ( 1 ) 106 頁も参照〕 , これは原告 が年 5 分で請求していたためであると推測される ) 。 また , たとえば最判昭和 30 ・ 9 ・ 8 民集 9 巻 10 号 1222 頁は商事売買の合意解除に基づく前渡金返還債 務は「商行為ニ因リテ生ジタル債務」であるとして , 最判昭和 47 ・ 5 ・ 25 判時 671 号 83 頁は , 会社を借主 とする賃貸借契約上の債務不履行を原因とする損害賠 償債務は「商行為ニ因リテ生ジタル債務」といえると して , それぞれ , 商事法定利率を適用している。すな わち , 前掲最判昭和 47 ・ 5 ・ 25 は , 「契約上の債務の 不履行を原因とする損害賠償債務は , 契約上の債務が その態様を変じたにすぎないものであるから , 当該契 約が商行為たる性格を有するのであれば , 右損害賠償 債務も , その性格を同じくし , 商法 514 条にいう 「商行為ニ因リテ生ジタル債務』というに妨げないも のである」としている。商行為に基づく債権が損害賠 償請求権に転化したとしても , 商事法定利率の適用が あると解するのであれば , 取締役が正当な理由に基づ かないで解任された場合の会社の損害賠償義務は「商 行為によって生じた債務」に準ずる債務であると解す ることが首尾一貫するという見方もできそうである。 114 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497 たしかに , 会社法 339 条 2 項の責任は法定責任で あるが , 平成 17 年改正前商法 266 条 1 項 5 号の責任 のように「法によってその内容が加重された特殊な責 任」 ( 前掲最判平成 20 ・ 1 ・ 28 , 最判平成 26 ・ 1 ・ 30 判時 2213 号 123 頁 ) というより , 取締役任用契約の 中に会社法 339 条が定める解任自由と損害賠償とが 織り込まれていると解する余地がある。そうであれ ば , 実質的には , 「商行為によって生じた債務」に準 ずる債務であるとみる余地もありそうである。また , 民法 651 条 2 項による損害賠償ーーー委任契約が有償 でかっ期限の定めがある場合には , 理由なく当該契約 を解除した者は相手方に対して損害賠償義務を負うと いう見解が有力である ( 明石三郎・新版注釈民法 ( 16 ) 287 頁 ) ーーであれば商事法定利率によるが , 会 社法 339 条 2 項による損害賠償は民事法定利率によ るというのは整合的ではないとも思われる。たまた ま , 株主総会の決議に何らかの瑕疵があって解任が無 効である場合の報酬請求権とそうではなく解任が有効 である場合の会社法 339 条 2 項に基づく損害賠償請 求権とで異なった取扱いをすべき実質的理由も存在し ないと思われる。とはいえ , 処分権主義を前提とする と , 原告が主張していないにもかかわらず , 職権で年 6 分の遅延損害金の支払を命ずることができるのかと いう問題が存在する。

7. ジュリスト 2016年9月号

みがそのまま採用されたことを意味し , 公取委の判断 要素及び手法は一貫しているものと言える。また , のような立証方法は , 間接証拠を , 意思の連絡・交 渉 , 連絡・交渉の内容 , 行動の一致の 3 つに分類し て整理する立場である , 3 分類説 ( 実方謙二・独占禁 止法〔第 4 版〕 172 頁 ~ 176 頁及び金井貴嗣ほか編 著・独占禁止法〔第 5 版〕 50 頁 ~ 53 頁 [ 宮井雅明 ] 参照 ) にも沿っているものと思われる。 ただし , 論点 ( 1) に関する特徴として , 日経新聞の 役割を挙げることができる。すなわち , 本件における 意思の連絡においては , 日経新聞に本件各値上げ記事 が掲載されたことによる「地均し」が重要な役割を果 0 意思の連絡の認定において新聞発表が一定の役割を 果たしたものに , モディファイヤー価格カルテル事件 ( 東京高判平成 22 ・ 12 ・ 10 審決集 57 巻 ( 第 2 分冊 ) 222 頁 ) がある。しかし , 最初から値上げに関する記 事掲載が意識されていたわけではなく , また 1 社に よる先行値上げ手段及び 2 社による追随手段として 同記事掲載が利用された同事件とは異なり , 本件にお いては , 最初から被審人及び 9 社によって日経対策 が重要視され , 本件各値上げの記事掲載により全体と して値上げの旨が一気に決定し , 遅くともその後の委 員会開催までには意思の連絡の存在が認められた。な お , 上記モディファイヤー価格カルテル事件における 意思の連絡は , 最後に値上げの新聞発表が行われた日 までに成立したとされた。 したがって , 本件は , 最初から業界紙利用が念頭に おかれ , それを本件各値上げのための手段として積極 的に利用して全体の合意に漕ぎ着けた点に特徴がある と思われる。 論点②について , 公取委は , 審決要旨Ⅳで 挙げたことをもって純果糖と他の異性化糖との 間に性状の違い等はあるものの , 純果糖も特定異性化 糖に含まれ , 本件各合意の対象であるとした。 不当な取引制限における一定の取引分野をどのよう に画定するかに関しては , 大きく分けて , 結果的に違 反行為の対象が一定の取引分野になるという見解と , 企業結合における一定の取引分野の画定に影響を受け たと思われる , 商品の需要または供給代替性によって 個別に画定されるべきであるという見解に分かれてい る。確かに供給者が必ずしも外部から見て合理的な判 断に基づき , 一定の取引分野を定め , 違反行為を行っ Ⅲ 110 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497 たのかについては必ずしも言い切れない場合があり , また , 違反行為の対象がただちに一定の取引分野にな るというやり方を広げていけば , 不当な取引制限にお ける当然違法の原則導入と同様の結果をもたらす可能 性があるという指摘は一理あると思われる ( 白石忠志 = 多田敏明編著・論点体系独占禁止法 47 頁 ~ 48 頁 [ 渡邉恵理子 ] 参照 ) 。 しかし , 一般的には不当な取引制限を行っている事 業者は自らにとってもっとも効果の高い商品・役務と 地理的範囲をすでに設定していて , 公取委による不当 な取引制限における一定の取引分野の画定は事業者に よる設定後に行われることになる。したがって , 公取 委は改めて違反行為が対象としている商品・役務や当 該行為によって影響を受ける範囲を検討し , 画定する ことになるため , 決して自動的に不当な取引制限の対 象イコール一定の取引分野になるわけではない ( 菅久 修一編著・独占禁止法〔第 2 版〕 36 頁 ~ 40 頁 [ 品川 武 ] 参照 ) 。 実際に元詰種子力ルテル事件 ( 東京高判平成 20 ・ 4 ・ 4 審決集 55 巻 791 頁 ) においても「一定の取引分 野は , 不当な取引制限が対象とする取引及びこれによ り影響を受ける範囲を検討した上で , その競争が実質 的に制限される範囲を画定することをもって決定され るべきであ」るとされている。 本件において公取委は , 結果的に違反行為の対象が 一定の取引分野になるという見解を採ったが , そもそ も企業結合が競争に与える影響は , 将来のことであっ て , 直接的な場合だけでなく間接的な場合もあり , ま た競争が促進されることになる場合もあれば , 反競争 効果が大きい場合もある。そのため , 一定の取引分野 画定に際し , 需要や供給の代替性等について具体的・ 個別的に検討する必要がある。一方 , 不当な取引制限 は , すでにある範囲において反競争効果が起きている 場合が多く , 競争に与える影響も企業結合に比べると 直接的であることが多い。したがって , 不当な取引制 限における一定の取引分野画定は , 企業結合における それとは背景や性質が異なっており , 被審人が主張す るように , 主に製品の需要代替性の観点から検討する 必要性は相対的に低いと思われる。

8. ジュリスト 2016年9月号

244 頁は , 「・・・・・・近年の企業組織法制の大幅な 緩和に伴って組織再編成の形態や方法は相当に 多様となっており , 組織再編成を利用する複 雑 , かっ , 巧妙な租税回避行為が増加するおそ れがあります。 これらの組織再編成を利用 した租税回避行為は , ・・・その行為の形態や方 法が相当に多様なものとなることが考えられる ことから , これに適正な課税を行うことができ るように包括的な組織再編成に係る租税回避防 止規定が設けられました〔法 132 条の 2 〕。」と している。 本判決は , 上記のような立法当時の資料から うかがわれる同条の立法趣旨に照らし , 同条の 不当性要件の解釈につき , 制度濫用基準の考え 方を採用する旨を明確に示したものと考えられ る。 補足するに , 経済合理性基準においては , 「純経済人の行為として不合理・不自然である か否か」という基準が用いられるところ , 組織 再編成は売買契約や雇用契約などの典型契約と は異なるため , 必ずしも一般的な取引慣行や取 引相場があるわけではなく , 多数の企業が関与 して複雑かっ巧妙な租税回避行為が行われた場 合 , そもそも純経済人 ( 特殊な利害関係のない 一般的な経済人 ) の行為として自然かっ合理的 な組織再編成とは何かという議論の出発点から その審理判断に困難を来し , その不当性を適切 に判断し得ない場合もあり得ると考えられる。 そのような実務的な観点からも , 法 132 条の 2 の不当性要件の該当性の判断基準として経済合 理性基準をそのまま用いることは , 組織再編成 という事柄の性質上 , 必ずしも適切ではないと 考えられる。 ( イ ) この点に関し , ヤフーは , 法 132 条の 2 の不当性要件につき , 同条が法 132 条の枝番 であることや , その文言の共通性から , 同条 1 項で採用されている経済合理性基準を採用すべ き旨を主張し , さらに , 法 132 条の 2 を「租税 回避」の否認規定であると位置付けた上で , 金 子宏教授らが唱える通説的な「租税回避」の概 念に「制度の濫用」は含まれないとして , 同条 最高裁時の判例 は制度の濫用を対象とするものではないとも主 張していた。 しかし , 法 132 条の 2 が法 132 条の枝番と なっていることは , 法 133 条以下の条番号の変 更を避けるための立法技術上の措置というべき であり , 不当性要件の解釈に直ちに影響するも のとはいえないし , 立法趣旨が異なれば , 同一 の文言であってもその意義や内容に差異が生じ ることはあり得るというべきであり , 法 132 条 1 項との文言の同一性もその解釈の決め手とな るものではないと考えられる。また , 「租税回 避」の概念についても , その意味内容は多義的 であり , 不当性要件の解釈の決め手となるよう なものではなく , ヤフーの上記主張はいずれも 採用し難いものと考えられる。 ②濫用の有無の判断に係る考慮事情 ( ア ) 本判決は , 上記 ( 1) の不当性要件の意 義に続けて , 「その濫用の有無の判断に当たっ ては , ①当該法人の行為又は計算が , 通常は想 定されない組織再編成の手順や方法に基づいた り , 実態とは乖離した形式を作出したりするな ど , 不自然なものであるかどうか , ②税負担の 減少以外にそのような行為又は計算を行うこと の合理的な理由となる事業目的その他の事由が 存在するかどうか等の事情を考慮した上で」と している。 この部分は , 端的にいうと , 濫用の有無の判 断に当たっては , ①行為・計算の不自然性と , ②そのような行為・計算を行うことの合理的な 理由となる事業目的等の有無との 2 点を特に重 視して考慮すべきである旨をいうものと解され る。そして , これらの考慮事情は , 経済合理性 基準の具体的な内容に係る通説的見解とされて いる「〔行為・計算が〕異常ないし変則的で租 税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在 しないと認められる場合」 ( 金子・前掲〔第 20 版〕 471 頁 ) に含まれている 2 つの要素を , 組 織再編成の場面に即して表現を修正し , 特に重 要な考慮事情として位置付けたものであるとい えよう。このような本判決の判断方法は , 制度 濫用基準の考え方を基礎としつつも , その実質 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497 85

9. ジュリスト 2016年9月号

上記未処理欠損金額のうち約 100 億円を IDCF の資産調整勘定の金額に転化させて以後 60 か 月にわたり償却し得るものとするべく , ごく短 期間に計画的に実行されたものであること。 ②本件計画 ( 本件譲渡 1 を行う計画 ) の 意図等 上記 ( 1 ) のとおり IDCS の未処理欠損金額を IDCF の資産調整勘定の金額に転化させるため には , 本件分割が非適格分割である必要があっ たところ , 適格分割の要件である完全支配継続 見込み要件を満たさないこととなるように , 本 件分割と本件譲渡 2 との間に本件譲渡 1 を行う 本件計画が立てられ , 実行されたものとみられ ること。 上記 ( 1) 及び②の各事情は , 判文上 , 本件で 行われた一連の行為の動機や全体像を示すこと により , 事案の理解を容易にする意味を有する と同時に , 本件においては , 判旨 I の不当性要 件該当性の判断方法における考慮事情 ( ①行 為・計算の不自然性 , ②合理的な理由となる事 業目的等の有無 ) から強いて推認するまでもな く , 本件提案等により , 本件分割 , 本件譲渡 1 , 本件譲渡 2 及び本件合併という一連の行為 が , 組織再編成を利用した租税回避スキームと して計画された行為であり , 「組織再編成を利 用して税負担を減少させることを意図したも の」であることが明らかな事案であることが示 されているといえよう。 3 本判決は , 上記 2 ( 1 ) 及び②の各事情に 続けて , 本件分割の実質や本件計画 ( 本件譲渡 1 ) の事業目的等につき次の各点を指摘してい る。 ①本件分割の実質 : 本件譲渡 1 の 4 日後に 行われた本件譲渡 2 により , IDCS は IDCF と共にヤフーの完全子会社となり , その翌日 にヤフーと IDCS との間で合併契約が締結さ れ , その約 1 か月後に本件合併の効力が生じ ており , 本件の一連の組織再編成を全体とし てみれば , IDCS による移転資産等の支配は 本件分割後も継続しており , 本件分割は適格 分割としての実質を有すると評価し得ること 最高裁時の判例 ②本件計画の事業目的等の有無 : 仮に本件 分割後に本件譲渡 1 が行われなくとも , 本件 譲渡 2 と本件合併によりヤフーによる IDCS の吸収合併と IDCF の完全子会社化は実現さ れたことや , 本件譲渡 1 の対価である 115 億 円が本件譲渡 2 及び本件合併によりいずれヤ フーに戻ることが予定されていたことなどか らすると , 本件譲渡 1 を行うことにつき , 税 負担の減少以外に事業目的等があったとは考 え難いこと そして , 本判決は , 以上の①及び②の事情に 鑑み , 本件分割は , 本件計画を前提とする点に おいて , 通常は想定されない組織再編成の手順 や方法に基づくものであるのみならず , これに より実態とは乖離した非適格分割の形式を作出 するものであって , 明らかに不自然なものであ り , 税負担の減少以外にその合理的な理由とな る事業目的等を見いだすことはできないとした。 4 本判決は , 以上のような検討を経て , 本 件計画を前提とする本件分割は , 組織再編成を 利用して税負担を減少させることを意図したも のであって , 法 2 条 12 号の 11 イ及び施行令 4 条の 2 第 6 項 1 号 , 法 62 条の 3 並びに法 62 条 の 8 の本来の趣旨及び目的を逸脱する態様でそ の適用を受けるもの又は免れるものと認められ るというべきであるとして , 判旨Ⅱのとおり判 断したものであると考えられる。 Ⅲ . 法 132 条の 2 にいう 「その法人の行為又は計算」 の意義 ( 判旨Ⅲ ) について 本件において , IDCF は , 法 132 条の 2 にい う「その法人の行為又は計算」の「その法人」 とは , その文理上 , 更正又は決定を受ける法人 のみを意味すると解すべきであり , 本件計画を 前提とする本件分割は IDCS の行為であって IDCF の行為ではないから , 上記分割につき同 条の適用はないなどと主張したが , 本判決は , 判旨Ⅲのとおり判示した上で , 本件計画を前提 とする本件分割は IDCF の行為ではないが , こ れを同条により否認することは許される旨判断 [ Jurist ] September 2016 / Number 1497 97

10. ジュリスト 2016年9月号

経済法判例研究会 の諸事情を勘案して , 事業者の認識及び意思がどのよ されていたことをうかがわせる証拠はなく , 被審人も うなものであったかを検討し , 事業者相互間に共同の 純果糖について販売価格の引上げを申し入れたこと等 認識 , 認容があるかどうかを判断すべきである」とし をもって , 「特定異性化糖の当初合意及び修正合意の 対象には純果糖も含まれていたと認めるのが相当であ 、 0 そのうえで公取委は , まず , 被審人及び 9 社 る」とした。 Ⅱ は本件当初値上げに当たり , 本件各製品の販売 評釈 価格を引き上げる旨を合意したかについて , 相互に 本件各製品の販売価格を 1 キログラム当たり 10 円引 審決の理由に賛成である。 き上げることを認識ないし予測し , これと歩調をそろ 本件は , 複数事業者間で日経新聞という業界 える意思を有していたものであり , もって「意思の連 紙を利用した , 不当な取引制限における合意の 絡」に当たる合意 ( 以下「本件各当初合意」 ) が存在 存在が認められた事例として意義を持つ。また , 本件 したものと認められるとした。そして , 被審人の本件 は不当な取引制限における意思の連絡の認定において 違反行為 1 はすでに消滅しているものの , 被審人が 基本先例である , 東芝ケミカル株式会社審決取消請求 事件 ( 東京高判平成 7 ・ 9 ・ 25 ) の判断枠組みが再確 本件違反行為 1 を取りやめたのは , 被審人の自発的 な意思によるものではなく , 公取委の立入検査を契機 認された事例でもある。 本件における主な論点は , ( 1 ) 被審人及び 9 社は , としたものであること等の諸事情を総合的に勘案すれ ば , 特に排除措置命令を命ずる必要があるとして , 本 本件当初値上げ及び本件追加値上げ ( 以下 , 併せて 「本件各値上げ」 ) に当たり , 本件各製品の販売価格引 件排除措置命令 1 は相当であり , 本件違反行為 1 は 上げの合意をしたか , ②当該合意の対象に純果糖は 商品の対価に係るものであるとして本件課徴金納付命 令 1 も相当であるとした。 含まれるのかに集約できる。なお , 本件は課徴金の算 次に公取委は , 被審人及び 9 社は本件追加値 定期間等についても論点があると思われるが , 紙幅の 上げに当たり , 本件各製品の販売価格を引き上 制限により割愛する。以下 , 順に検討していく。 げる旨を合意したかについて , 相互に , 本件各製品の 論点 ( 1 ) について , 公取委は , まず , 審決要 Ⅱ 旨 I で挙げた東芝ケミカル株式会社審決取消請 販売価格を 1 キログラム当たり 15 円ないし 20 円引 求事件の判断枠組みに沿って , 本件各値上げの前後事 き上げることを認識ないし予測し , これと歩調をそろ 情を整理・検討し , 意思の連絡を認定した。 える意思を有していたものであり , もって「意思の連 絡」に当たる合意 ( 以下「本件各修正合意」 ) が存在 同整理・検討によると , 被審人及び 9 社は , かね したものと認められるとした。そして , 被審人の本件 てより , 糖化委員会の会合等において , 各社における 違反行為 2 はすでに消滅しているものの , 被審人が 糖化製品の販売価格 , 値上げ交渉の状況等について情 本件違反行為 2 を取りやめたのは , 被審人の自発的 報交換を行い , 日経対策を講じて記事にしてもらって いた。本件各値上げに関しても被審人及び 9 社は , な意思によるものではなく , 公取委の立入検査を契機 としたものであること等の諸事情を総合的に勘案すれ 情報交換や当該値上げのための日経対策に関する協議 ば , 特に排除措置命令を命ずる必要があるとして , 本 を行い , 実際日経新聞に 9 社の中の一部の事業者に 件排除措置命令 2 は相当であり , 本件違反行為 2 は よる値上げ記事が掲載された。これを受け , 被審人及 商品の対価に係るものであるとして本件課徴金納付命 び 9 社は本件各値上げに関する旨を決定し , それを 需要者や取引先の商社に申し入れ , 同交渉の進捗状況 令 2 も相当であるとした。 最後に , 本件各当初合意と本件各修正合意 について情報交換を行っただけでなく , その後も互い Ⅳ ( 以下 , 両者を併せて「本件各合意」 ) の対象に に連絡を取り合って足並みをそろえたとされた。さら に , 公取委により , 被審人における本件各値上げが 9 純果糖は含まれるかについて公取委は , 同合意がなさ 社の行動と無関係に独自の判断によって行われたこと れた背景にとうもろこしの相場の高騰があるが , これ をうかがわせる事情はないとされた。これは , 公取委 は純果糖にも該当するもので , 被審人及び 9 社によ る特定異性化糖の販売価格の引上げに関する情報交換 カ噫思の連絡の存在の立証について上記の東芝ケミカ ル株式会社審決取消請求事件以来採ってきた判断枠組 や日経対策に関する協議の際 , 純果糖が対象から除外 109 Ⅲ [ Jurist ] September 2016 / Number 1497