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1. 世界 2016年12月号

に亡くなった。死の床で彼女は「謝罪してほしい。罪を認め、 き事件であったと認められるべきである。 頭を下げて賠償をするべきです。私が死んでも鬼になって闘 中国と北朝鮮の被害者に謝罪と支払いを う。真理を手に入れる必要がある。日本で再度訴訟を起こし ます」と語っていた。日本の裁判所に提訴した他の原告たち だが慰安婦問題は韓国人被害者だけの問題ではない。一二 もほとんど全員がこの世を去っている。だとすれば、すくな 月二八日の合意においても、安倍総理は河野談話にならって くとも中国人慰安婦訴訟原告一一四人の遺族に対してだけでも、 「慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しが このたびの新基準で日本政府は謝罪と支払いの措置をとるべ たい傷を負われた全ての方々」に対して謝罪を表明した。こ きではないか。 こには当然韓国の被害者だけでなく、韓国以外の国の被害者 北朝鮮では、政府に登録した被害者は二〇〇人をこえてい も含まれているのである。だから、このたび韓国の慰安婦被 ることが知られている。その大多数も亡くなったといわれて 害者に対する謝罪と支払いの措置が進められ、被害者の名誉 いるが、なお生存しておられる被害者は一〇人はいるだろう。 と尊厳を回復し、心の傷を治癒する事業がおこなわれるなら 韓国の被害者に生存者一〇〇〇万円、死亡者遺族に一一〇〇万 ば、これがアジア女性基金に代わって日本政府のおこなう慰 円を支払うなら、北朝鮮の被害者には計五億円以上の支払い 安婦被害者に対するあらたな謝罪と支払いの措置の基準とな がなされるべきである。日本政府の立場としては、この国と って、新しい措置を他の国の被害者にもとることができるは は国交がないから慰安婦被害者に措置はとれないというもの ずである。 であった。しかし、日朝平壌宣言が出て、国交早期実現が約 中国では、政府間の協議がととのわず、アジア女性基金は 中国の被害者に対していかなる事業もなしえなかった。最後束されてからすでに一四年が経過した。韓国の被害者のため の追加的な措置がとられた現在の機会に、国交樹立のまえに、 かの瞬間に弁護士の方々があたえてくださったチャンスもアジ たア女性基金は活かすことができなかった。班忠義監督が製作被害者が幾人かでも存命のうちに、謝罪と支払いの措置を講 ずるべきではないか。 わしたドキュメンタリー映画『太陽がほしい』をみて、私は、 は もとより安倍内閣がこのような措置をとるだろうと簡単に あらためて、中国の被害者の痛切な声を聞き、自責の念を深 題 しかし、日本国家と国民にはなお くした。日本軍に占領された山西省孟県で特殊慰安所で暴力想像することはできない。 かかる問題がっきつけられたままであることは動かし難い事 安的に監禁されて被害を受けた万愛花さんは日本の裁判所に提 慰 訴した二四人の原告を代表する人である。彼女は二〇一三年実である。

2. 世界 2016年12月号

財政補助の提供によって民間保険プランを購入しやすくする 五年になっても二七〇〇万人の無保険者が残るとされる。 という仕組である。なぜこのような制度設計になったかとい 医療保険取引所の存続が危ぶまれている。最近、 うと、一言でいえば、オバマ大統領や議会のリーダーたちが保険大手のエトナやユナイテッド・ヘルスケアなどが来年度 この形でないと議会を通過させられないと考えたからである。 から医療保険取引所への参加を見合わせる可能性を示唆した アメリカでは前述したように一九三〇年代から民間保険が ことがメディアでも大きく取り上げられた。連邦政府の試算 大きく成長した。皆保険を目指す時に、民間保険提供者を廃よりも医療保険取引所に参加する人びとの中で健康リスクが 業に追いやるような制度設計は、不可能であった。オバマケ 高い人の割合が高かった ( 若年層が少なかった ) という事実が、 アが成立したのは、それができるだけ民間保険を利用し、民 参加見合わせに影響を与えている。民間保険提供者にとって 間では対応が困難な部分のみ政府権力が介入する、という形 は「儲からない」市場からの撤退をするという論理であり、 をとっているがゆえであった。 連邦政府は民間保険会社に参加を強制することはできないと いうジレンマに直面している。 無保険者は減ったものの : 低保険者問題の解決となっていない。オバマケア 無保険者が減少したという点ではオバマケアは成功を収め は、まずは保険加入者を増やすことを優先したため、高い免 たと言ってよい。その結果、無保険者は二〇一五年には九・ 責額や自己負担額が設定してある保険プランは減っていない。 一 % という歴史的な水準にまで低下した。またその他にも、 なぜならば免責額や自己負担額について抑制しようとすると、 前述したような既往症のある者の加入拒否に関する規制など、 保険料が高騰してしまうからである。 様々な新たな制度を設けている。 医療費や保険料の上昇を抑制するための強力な仕 しかし、オバマケアは民間保険を中心とした医療保険シス組を備えていない。オバマケアの主眼は無保険者の削減にあ テムに大きな変化をもたらしたわけではない。そしてその制 り、そもそも ( 特に短期的には ) 医療費全体の抑制は極めて困難 度設計によって主に以下のような四つの問題に直面している。 ア である。また健康リスクが高い人を引き受ける民間保険提供 ケ マ 無保険者はいなくならない。オバマケアには多く 者に対して、強制的に保険料を下げさせることはできない。 れの免除規定が存在する。財政補助後の保険料が世帯収入の八 このように、オバマケアは無保険者の削減という目的はあ す % 以上であった者、不法移民、財政的に困難と申告する者な る程度達成しているものの、民間保険を中心とする制度設計 苦どである。議会予算局の二〇一五年時点の予測では、二〇二 であるがゆえに様々な問題を抱えているのが現状なのである。

3. 世界 2016年12月号

果、他国と比べると経済・社会保障分野では相対的に民間ア険に加入できない者への公的制度の整備である。一九六五年 クターの影響力が強くなるのである。 に成立したメデイケアとメデイケイドが代表的な例である。 こうして、多くの人びとが民間保険に加入し、加入できな オハマケア前史 い者は公的制度の適用を受けるという構造が生まれた。しか ドイツやイギリスに倣ってアメリカでも公的医療保険を導し、この民間保険を中心としたシステムは一九八〇年代に入 入し、将来的には皆保険を目指そうとする動きは一一〇世紀初 ると綻びを見せ始める。 頭に現れた。しかし、アメリカの自由を重んじる建国の理念、 第一に、無保険者問題が深刻化したことである。公的制度 分権化された政治システム、そして影響力の大きい民間アク の対象とはならない層で、民間保険に加入できない者がじわ ターという三つの要因が大きく影響を与え、皆保険が導入さ じわ増加し始めた。これには、医療技術の発展もあって医療 れないままアメリカは二一世紀を迎えた。 費が上昇したことに伴う保険料の高騰が大きく影響している。 皆保険が導入されなかったとはいえ、医療保険システム自 第二に、低保険者問題が表面化したことである。民間保険 体は発展を続けた。この発展を支えた一つの柱は民間保険の 提供者は、保険料を安く抑えるために利用できる医療機関や 拡大であった。 サービスを限定したり、高い免責額や窓口負担額を設定した 病院や医師などの医療サービス提供者は、元々営利の保険 りするなどの保険プランを提供し始め、その加入者 (unde 「、 提供者の医療保険プランに対しては反対の姿勢をとっていた。 insured ( 低保険者 ) ) も増加していった。その結果、保険に加入 しかし、一九三〇年代に、後にプルークロスとプルーシール していても十分な医療サービスが受けられない、最悪の場合 ドと呼ばれる、病院や医師自らが直接運営に加わることがで には自己破産するような人びとが生まれた。一一〇〇七年に上 きる非営利の保険提供者が誕生したことが転機となる。これ映されたマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「シ によって医療サービス提供者の多くは民間保険との共存を選 ッコ」はこの低保険者問題を描いたものである。 択することになる。これには、第二次世界大戦を挟んで強ま ア ケ 「普通」の人はあまり関係ないオバマケア った皆保険導入に向けての動きに反対するために、代替案を マ れ提示しなければならなかったという背景もある。こうして民 オバマケアは以上の二つの問題の中でも、主に無保険者問 す間保険は、一九三〇年代後半から急速に拡大した。 題に焦点を当てたものだった。二〇〇八年には無保険者が人 苦医療保険システムの発展を支えたもう一つの柱は、民間保 ロ比一五・四 % ( 一九八七年は一二・九 % ) となっており、無保険

4. 世界 2016年12月号

ここにいたって、和解・治癒財団は、安倍総理が これが翌日のハンギョレ新聞で報道された。二九日、韓国外までもない。 務部の報道官は、手紙問題が提起されていることに関連して、署名した謝罪文を獲得することを断念せざるをえなくなった。 「日本側が慰安婦被害者の方々の心の傷を治癒するような追 一〇月一一日、和解・治癒財団は韓国各紙に広告をだした。 加的かっ感性的な措置を取るように期待している」と述べた 「韓日間日本軍『慰安婦』被害者問題合意 ( 二〇一五年一一一月 界 ( 中央日報、三〇日 ) 。 二八日 ) により日本軍『慰安婦』被害者の方々の名誉と尊厳 日本政府がこの動きに反発した。一〇月三日の衆議院予算 の回復、及びこころの傷の治癒のために設立された『和解・ 委員会で民進党小川淳也議員が次のように質問した。「先ご 治癒財団』が個別被暑を対象とする事業を実施する計画で ろ、慰安婦問題に関する日韓合意に基づいて、ことし八月、 すから、対象者は申請期間内に申請してくださるように望み 元慰安婦を支援する財団に一〇億円の拠出をされています。 ます」 それに加えて、韓国政府からさらに安倍総理からのおわびの 申請期間は一〇月一一日から翌年六月三〇日までとされ、 手紙を求めるということがあるようでありますが、総理この 事業対象者は「政府に登録・認定を受けた日本軍『慰安婦』 件について現時点でどうお考えですか」。それに対して、ま 被害者」とし、事業内容は「日本軍『慰安婦』被害者の名誉 ず岸田外相が、日韓合意は、昨年一一一月の「共同発表の内容 と尊厳の回復、及びこころの傷の治癒のための現金支給」と に尽きております。その後、追加の合意がなされているとは 明記された。この部分に但し書きがあり、合意当日の死亡被 承知をしておりません」と問題をはぐらかすような回答をし、 害者に対して一一〇〇〇万ウオン規模、生存被害者に対して一 つづいて安倍総理が、「小川委員が指摘されたことはこの内 億ウオン規模で「財団が対象者の個別需要を把握し、これを 容の外でございまして、我々毛頭考えていないところでござ 土台にして支給する」と書かれていた。これによって申請書 います」と答弁したのである。 の受付がはじまったのである。 」川議員は、これに対して、「ひとまず受け止めさせてい この広告では、被害者に渡される現金がどこから来たもの ただきます」とわけのわからぬ反応を示しただけで、いかな か、なぜ提供されるものかが説明されていない。財団はその る批判も加えなかったが、安倍総理のこの尊大な態度は慰安 ことを説明しなければならない。安倍総理が署名した謝罪文 婦被害者にあらたに踏み込んで謝罪を表明した日本国総理大 が得られない以上、財団は、昨年末の合意を写して、韓国の 臣にふさわしくない態度である。「毛頭考えていない」とい 外務部長官が証明する説明文を作成するしかなくなった。 うこの答弁が韓国人の感情をあらためて傷つけたことは言う 岸田外相は昨年一二月二八日日韓外相会談での合意後、韓

5. 世界 2016年12月号

かれた。同懇談会は新聞、放送、出版で構成される国内最大 匿名発表は、被室暑と報道との分断を図り、警察に都合の のメディア関係団体である。この大会で、「犯罪被害者支援悪い情報を隠す恐れがあるため、メディア規制として政府を 弁護士フォーラム」の事務局長・高橋正人弁護士が「発生直批判するのは当然だが、それでは取材攻勢にさらされる人た 後は各地の犯罪被害者支援センターが被害者と報道機関の間 ちに報道界はこれまで、どう向き合ってきたのか。各都道府 に入る形での取材を提案した」ことを講演で話したことが、 県ごとに報道責任者による組織がメディア・スクラム発生に 朝日 ( 一〇月一日朝刊 ) に書かれていた。高橋弁護士が懸念し 対処することになったが、高橋弁護士は、こうした報道界の たのは、実名発表による過熱取材だという。長野県軽井沢町 対応がいまも十分でないという問題提起をしているのだろう。 で起きたバス事故で遺族の自宅に大勢の記者が集まったこと 繰り返すが、新聞週間なのだ。こうした疑問や不信に対す を指摘していた。 る答えを期待したのだが、それを見つけることはできなかっ 「メディア・スクラム」と呼ばれる「集団的過熱取材」の た。十年前に報道界が犯罪被害者等基本計画を批判したとき 問題は一九九〇年代半ばごろから社会問題化した。一社一社 とまるで同じ意見が繰り返し表明されているだけなのだ。極 の取材は正当な業務上の行為であっても、それを同じ時期、 めて残念である。それでも二紙は特集を組んだが、たとえば 地域、取材対象に集中的に行なうことを人権侵害として規制 読売は新聞週間にちなんだ社説 ( 一五日 ) の中で、「新聞は、 できる法案までもが国会に提出されてしまった過去が、メデ実名を割り出せなければ当事者の取材ができない。その結果、 ィアにはある ( 人権擁護法案は二〇〇三年に審議未了のまま廃案 ) 。 捜査当局や行政機関による情報操作や不適切な権力行使をチ 先に記した、実名匿名発表の判断権限を警察に委ねた一一〇〇 ェックできなくなる。実名発表は正確な報道の大前提であ 五年の閣議決定も、この延長線上にある。この決定は「警察 る」と指摘しただけだ。このように大上段に構えた主張に、 による被害者の実名発表、匿名発表については、犯罪被害者被害者が心を開くのだろうか。 等の匿名発表を望む意見と、マスコミによる報道の自由、国 信頼を取り戻せるかェイズや 0 型肝炎といった薬害問題 民の知る権利を理由とする実名発表に対する要望を踏まえ、 を解決するために国を動かす原動力となった世論は、被害者 プライバシーの保護、発表することの公益性等の事情を総合 や遺族らが実名を名乗ることなしには形成されなかったろう。 批的に勘案しつつ、個別具体的な案件ごとに適切な発表内容と そもそも検察の被害者等通知制度や犯罪被害者等基本法、裁 イなるよう配慮」していくとし、一見バランスをとった表現に 判での被害者参加制度の創設など一連の被室暑施策の発端と メ見えるが、現実の運用が匿名発表に傾いているのは明らかだ。 なった「片山隼君事件」 ( 一九九七年にダンプカーではねて死亡さ

6. 世界 2016年12月号

2 8 3 ーカシミールにおける文化的反撃 一うのは、国際社会にとって都合の良い考え方で、現実に 何が起こっているかよりも好まれる」 カシミ ルにおける武装反乱の歴史 一九九〇年代初頭以来、ジャンムーⅡカシミール州に おける武装反乱 ( 一九九六年に五〇〇〇名から一万人と見積も られている ) に関して、インドのメディアはカシミール人 を自分の都合の良いように勝手に扱っている。「タリバ ンの支持者、もしくはより最近では《イスラム国 ( — n) 》の支持者とみなして、報道している。例えば《歓 迎タリバン》などの悪戯書きを映したり、何千人という デモ参加者がいるのに、敢えて黒い旗を振り回す黒いマ 。スクをした四名のデモ参加者を集中して取り上げている。 毳私は、インド・カシミールには、他のイスラム教のグル ープは存在しているが、—のようなテロリストグルー プは存在しないと思っている」とアナンド教授は確信し ている。 「主要な内乱グループとして、パキスタンとの連携を 希望しているヒズプル・ムジャヒディンと、宗教色がな く独立を望んでいるジャンムー日カシミール解放戦線 が存在している。現在では、武力闘争は一九 九〇年代よりも大幅に注意を引くことがなくなってきて 一一いる。この問題でカシミールの住民は分裂しているが、 大多数は「アザディ (azadi) 【自由」を求めている。この 事実から、インドと対決するグループを支援することが 普通となっている」とアナンド教授は説明している。 二〇一六年四月、カリブ海の西インド諸島クリケッ ト・チームがインド・クリケットチームを打ち破った時、 多くのカシミール人は、喜んでスリナガールの街頭に繰 り出した。そこで衝突が起き、逮捕者が出た。二〇一六 年七月には、ヒズプル・ムジャヒディンの指導者の一人、 プルハン日ムザファール・ワリ ( 二一 l) がインド軍によ って殺害され、抗議のデモが多数の人々が参加して盛大 に行われた。デモは厳しい弾圧を受け、少なくとも五〇 人の市民が死亡し八〇〇〇人が負傷した。新聞は発禁処 分となり、社会的ネットワークは中断させられた。 モデイ首相が率いる民族政党の「インド人民党 ) 」にとって、カシミールはインドの反対者を抑圧す る格好の手段となっている」とアナンド教授は言う。 「インド軍の略奪を話す勇気のある人々は皆、『反民族』 のケースとして片づけられる。また、進歩主義者の話は、 自動的に信憑性がないものとして扱われる。公式統計で はインドの人口の一四・二 % がイスラム教徒とされてい るが、キリスト教徒とイスラム教徒の中で国会議員とな った者は一人もいない」 テジタル・メティアというもう一つの声 カシミール生まれのジャーナリスト、フアハード・シ

7. 世界 2016年12月号

という問題があることを見なければならないと思います。 尾松私は、日本版チェルノブイリ法といわれる「子 ども被災者支援法」の立法提案にシンクタンク職員とし て関わっていましたが、ご存知のように、あの法律に一 ミリシーベルト基準が書き込まれることはありませんで したし、自らの意思による「移住権」「居住権」「帰還 権」に関わる規定が盛り込まれていますが、それを踏ま えた運用がなされていない状況があります。本来は、国 が一ミリシーベルト基準を明確に法律で定めるべきなの だと思います。 こうしたなか、福島県が避難指示区域外からの避難者、 いわゆる自主避難者への応急仮設住宅の無償供与を打ち 切る二〇一七年三月末が近づいてきています。多くの自 別 主避難者を受け入れている新潟県では、民間住宅の家賃 特 補助を盛り込んだり、一月からの前倒しの引っ越しを認 のめるほか、就職先や生活に関する情報紹介を行なうなど、 か 独自の支援策を打ち出しています。山形県では県職員住 プ宅五〇戸の確保、あるいは埼玉県では条例を改正して公 営住宅への入居条件の変更、五〇一尸の県営住宅の確保な チ どを挙げています。今年八月には、泉田知事と、やはり 年 多くの自主避難者を受け入れている山形県の吉村知事が、 事福島県の内堀知事との三県知事会で、自主避難者への支 援を拡充するよう求めていますね。 知事は、自主避難者の方々は、本来チェルノブイリ法 の移住権に相当する支援を受けてよいはずだと県議会等 でも発言されています。こうした点を明確に指摘された 自治体トップは、私の知る限り泉田知事だけです。受入 自治体から、もう一歩避難継続を希望する方々の支援に 踏み込めないでしようか。 泉田自主避難者については、もちろん、自治体が率 先してということは重要だと思います。ただ、財政上の 仕組みとして、地方自治体はほかの県の住民を支援しづ らい状況があります。相当な金額をもちきれるかという 問題が生じるのです。 住宅政策に関して、東日本大震災と原発災害を受けて 知事会からも柔軟な運用を強くお願いしたのは、「みなし 仮設」の制度です。プレハプ等の仮設住宅を新たに建設 するのではなく、既存の民間賃貸住宅などを自治体が借 り上げて被災者に提供する仕組みで、中越沖地震、また 岩手・宮城内陸地震でも小規模な供与の例がありますが、 東日本大震災では初めて大規模な供与が行なわれました。 ご存知のように、人口減少社会に入って東京をはじめ大 都市圏への人口集中が起きていますので、地方に空き家 はあるのです。

8. 世界 2016年12月号

ところがそれ以後は、健康被害への補償 ( 手当 ) 以外は、 すべてチェルノブイリという特殊枠をはずれて、退役軍人や 生まれつきの障害者と同じカテゴリーになったのです。その 中で特にダメージが大きかったのが医療サービスでした」 ロシアにおける元事故処理作業者の全国組織「チェルノブ チェルノブイリ同盟は、法改定の度にデモやハンガースト ィリ同盟」のビチェフラフ・グリシン代表は、法改定の中で ライキ、法廷闘争などで反対の意思表示をしてきた。とりわ 最も重要だったのは二〇〇一年と二〇〇五年の改定だったと け二〇〇一年の改定前には、トウーラ支部の元炭鉱労働者た ち約一〇〇人がモスクワまで行進し、赤の広場の入り口にあ 「まず二〇〇一年の改定では、身体障害者の年金の算出基 準が変更されました。それまではチェルノブイリでの作業で る第一一次大戦の英雄ジューコフ元帥の銅像の足元に、チェル ノブイリの事故処理参加でもらった勲章を置いてきた。「中 受け取っていた、通常の四、五倍にあたる給料に対して喪失 身のない勲章なら返上する」という強烈な意思表一小だった。 した労働力の割合がかけられて計算されたため、最低でも五 万ループル ( 現在の一〇万ループル。日本円にして約一七万円 ) ほど ソ連邦崩壊の歴史の渦の中で生まれたチェルノブイリ法。 それは旧共産党勢力と対峙するエリツイン政権が選挙対策に ありました。しかし二〇〇一年以後は、一般の障害者のカテ ゴリーに準じた年金となりました。第二級で七五〇〇、寝た とった人気とりと揶揄されながらも、傷ついた事故処理作業 者とその家族の生活を守ってきた。しかしプーチンの時代と きりで動けない第一級でも一万七五〇〇ループルほどに減り ました」 なり次々と進められる福祉予算削減の中で、事故処理作業者 の権利を守る闘いは苦戦が続いている。 グリシンは二〇〇五年の改定はさらにドラスティックだっ たとい , つ。 「二〇〇五年まではチェルノブイリ法の根本は憲法で定め トウーラに滞在中、チェルノブイリの事故処理作業者が母 られたものだったので、『被災者の権利』が認められていま した。そこでは医療、保養などのサービス、無料で交通機関校に招かれ、講演するというイベントに立ち会った。 トウーラ市立第四教育センター。日本でいえば小学校と中 のを利用できるなどの特権、家賃や電気代などの補助金、補償 学校と高校が合体したような学校だ。この学校の卒業生のセ 永金、支援などは被害に対する賠償の中に入っていました。 打ちをかけている。 「英雄」母校に帰る

9. 世界 2016年12月号

者問題はマスメディアでも大きく取り上げられるようになっ ていた。 オバマケアには三つの柱がある。第一に、個人に対して保 険加入を義務づけることに加え、五〇人以上の従業員を持っ 界企業に対して保険の提供を義務づけることである。第二に 民間保険プランを個人で購入する人びとのための医療保険取 引所の設置と、タックス・クレジットという形での財政補助 の提供である。第三に、メデイケイドを拡大することである。 無保険者問題を考える際に注意しなければならないのは、 現在比較的大きな企業で働いている労働者は、そのほとんど が雇用主の提供する保険に加入している ( 二〇一四年は人口比 五五・四 % ) ということである。それも企業の規模が大きくな ればなるほど企業側の保険料に対する補助が増える。彼らは 無保険者に焦点を当てるオバマケアの恩恵をあまり感じない。 無保険者は雇用を通じて保険に加入できない人びとである。 彼らは、自営業をいとなんでいるか、または従業員に保険を 提供できるだけの財政的な余裕のない中小企業で働いており、 個人で保険に加入しなければならない。 こうした人たちは、雇用を通じて保険に加入している人と 比べると、二つの不利益を被っているといえる。一つは、保 険料の負担を軽減してくれる者が存在しないことである。こ れに対してオバマケアは、所得に応じてタックス・クレジッ トという形で補助金を提供した。 もう一つの不利益は、保険提供者による「サクランポ狩り」 特集 ( 気に入ったものだけつまみ食いすること ) の被害者になってしま うことである。民間の保険会社などはできるだけ健康リスク が高い人への保険の提供を回避するため、既往症のある人が 保険加入を申請しても拒否する場合が多かった。保険提供者 は利益を拡大するために若く健康な人びとだけを「狩る」の である。この問題に対してオバマケアは、各州に医療保険取 引所を設け、雇用主提供保険を持たない人を州ごとにまとめ、 医療保険取引所に提示された民間保険プランの中から個別に 選択させるようにした。その際、既往症があっても加入を拒 否することはできないという規制も設けた ( 州の決定によって は、連邦政府と州が協力して設立する医療保険取引所を選択することも 可能であるし、もし州が医療保険取引所の設立を拒否する場合には、連 邦政府が設ける医療保険取引所にその州民は参加することになる ) 。 さらに、財政補助を受けても保険に加入できない層を対象 に、メデイケイドの拡大も行なわれた。これまでは所得が連 邦貧困ラインを下回る、原則的には母子家庭にしかメデイケ イドが提供されなかった。それが、連邦貧困ライン ( 二〇一 六年は四人家族で年取三三四六五ドル ) の一三八 % にまで対象を拡 大し、さらには男性が世帯主の家庭もメデイケイドの対象と した ( メデイケイドの拡大を行なうかどうかは州政府の判断に委ねられ ている。二〇一六年一〇月一四日の時点では三一州とワシントン 0 で は実施、一九州では未実施となっている ) 。 このようにオバマケアの核となるのは、これまで医療保険 を購入できなかった人に対して、医療保険取引所の設立と、

10. 世界 2016年12月号

徴とは」、毎日の同欄「論点」は「生前退位有識者会議に望 む」。どちらも複数の論者を立てていたが、両方に登場した 河西秀哉神戸女学院大准教授の所論が参考になる。氏は三九 歳の若さだが、今年六月『明仁天皇と戦後日本』を上梓 ( 洋 泉社新書 ) 、天皇が「象徴天皇」を体現するためにみずからど のような思想を育て、それを実践してきたかを丹念にトレー スし、その存在自体がいかに戦後日本の重要な一部を成すこ とになったかを、解明している。今その意義をなおざりにし、 顧みなければ、ー戦後日本の歩みはここで終わり、国民全体が 新たな混迷に巻き込まれていくのではないか。今こそ、ジャ ーナリズムの出番である。ポプ・デイランでも河西准教授で もない。ましてやスウェーデン・アカデミーでもない。メデ ィア自身の真剣なジャーナリズムの言説が待たれているのだ。 「匿名・実名間題、のその先へ 問いは深められたのか新聞界が報道の意義を読者に対し て一斉にアピールする今年の秋の新聞週間 ( 一〇月一五日 5 二 一日 ) に前後して掲載された全国紙の関連特集では、朝日 ( 一日 ) 、毎日 ( 一八日 ) が取り上げた、警察による事件被害者 の匿名発表問題が目を引いた。これは、今年七月一一六日未明 に神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で起 批きた殺傷事件の犠牲者の氏名を、神奈川県警が実名ではなく、 ア 匿名で発表したことを発端として起きた議論だ。いまもって メ県警は実名を明らかにしていない。 これまで、事件や事故の 犠牲者の氏名については実名で発表してきたものを県警は今 回、「子さん」「男さん」といった年齢と合わせた匿名で の発表にしか応じなかった。県警は「障害者の支援施設であ り、遺族のプライバシー保護の必要性が極めて高く、遺族か らも強い要望」があったことをその理由としている。 警察による匿名発表をめぐっては、事件の被害者の名前を 実名で発表するか、匿名で発表するかの判断を警察に委ねる ことを盛り込んだ「犯罪被害者等基本計画」の閣議決定三 〇〇五年一二月 ) にあたり、被害者・遺族を交えた社会的な議 論となった経緯がある。今回犠牲となった一九人が重度の障 害者であったことから、健常者であれば実名であるところを 匿名で発表したことが差別的な取り扱いである、と受け止め る声もあり、匿名発表の議論に新たな論点を加えた。 朝日、毎日が掲載した特集は、この匿名発表問題について、 社外の有識者に意見を求めるという内容だ。朝日は「あすへ の報道審議会」の河野通和氏 ( 「考える人」編集長 ) 、小島慶子 氏 ( タレント、エッセイスト ) 、湯浅誠氏 ( 社会活動家、法政大教 授 ) の三人。毎日は「開かれた新聞委員会」の池上彰氏 ( ジ ャーナリスト、東京工業大学特命教授 ) 、荻上チキ氏 ( 評論家・ウェ プサイト「シノドス」編集長 ) 、鈴木秀美氏 ( 慶応大学メディア・コ ミュニケーション研究所教授 ) の三人だ。まず、どのような意見 か出されたのかを見てみようと思う。 主な発言を紹介する。「警察に実名発表を求めることは大 事だ。しかし、実名で報道するべきかどうかは別問題だ」 ( 小