主人公 - みる会図書館


検索対象: 本の雑誌 2016年12月号
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1. 本の雑誌 2016年12月号

司馬遼太郎が『峠』の主人公に抜擢する 司馬遼太郎『峠』は本当にこういう 話だったのか。いま複雑な気持ちであ ノみ。ィまで一般的にはあまり知られていなかっ たという。もっとも長岡生まれの大橋佐 る。この稿を書くために久々に再読し たのだが、主人公の河井継之助がそれ 平 ( のちに博文館を創設 ) の伝記を読む と、恭順派に属していたため、明治にな ほど魅力ある男には思えないのだ。こ 郎の っても地一兀に居づらく上京したというか れがいちばんのショックだった。デパ 太読 ートニュース社の人社試験を受けたの ら、地元では北越戦争に負けた河井継之 は昭和四十五年の一一月だが、提出した ・幀助のほうが人気があったということにな 遼再郎 ン装 る。では、若き私が「尊敬する人物」に ザ潮 履歴書 0 「尊敬する人物」と」う欄に馬上下上 私は「河井継之助」と書いた。面接の デ新河井継之助の名をあげたのはなぜか。遠 い昔のことなので、自分のことながらす ときにその理由を質問されたら、とい つかり忘れている。ここから先は想像の うことまで考えていたのにそういう質 問はなし。なんだよ聞いてこないのか昭和四十三年の秋に、母校の文化祭で域を出ないのだが、官軍にも幕軍にも属 よ、と思ったことを覚えている 高校の同級生である宮本君と再会してかさず、武装中立をめざすという継之助の 『峠』は、昭和四十一年十一月から四十ら、ほぼ一年半、毎日のように彼と会っ姿勢がカッコいいと思ったからではなか 三年五月まで毎日新聞に連載された小説ていた時期がある。そのころ彼の部屋でったか。実際には中立が許されず、官軍 である ( 刊行は同年十月 ) 。司馬遼太郎見つけたのが司馬遼太郎『竜馬がゆく』と戦うことになるのだが、その悲劇性も の新聞小説としては、『竜馬がゆく』がで、面白いぞおと彼にすすめられて手に若い私をしびれさせた。 そのままで終われば何の問題もないの 完成してからほば半年後に始まった作品取った。私の司馬遼太郎初体験である。 であり、『峠』完結とほば同時に、『坂のそうして次に読んだのが『峠』で、主人だが、いまから数年前、内田義雄『鉞子 上の雲』の連載が始まっていく。『竜馬公河井継之助の生き方に、若き私はしび世界を魅了した「武士の娘」の生涯』を がゆく』『峠』『坂の上の雲』の三作が切れた。河井継之助は越後長岡藩をひきい読んで驚く。これは、藩政をめぐって河 れ目なく書かれたのだから、すごい時代て官軍と戦った男で、新潮文庫版の解説井継之助と対立した越後長岡藩の家老稲 である ( アメリカ文学者の亀井俊介 ) によると、垣平助の娘杉本鉞子の生涯を描いたノン えっこ

2. 本の雑誌 2016年12月号

キムインスク あちゃんみたいに、日本語じよ金仁淑『アンニョン、エレナ』母親が再婚後に生んだ娘が書いいなり』など、現代日本で見え うずじゃない。。 こめんね。縁 ( 和田景子訳 / 書肆侃侃房一六た、母親の死を告げる手紙だつないことになっているものに着 〇〇円 ) に収録された短編を読た。ところどころに挟み込まれ目する作品を発表し続ける内澤 珠、ごめんね」。 日本統治時代に日本語で教育むと、現代韓国文学の想像力のる詩的な表現が、直接読者の心旬子の最新刊が『漂うままに島 に着き』 ( 朝日新聞出版一五〇 を受け、いつになっても中国語中には、常にこことは違う場所に刺さってくる が上手にならない祖母。日本でがあるとわかる。表題作「アン崩壊した家庭で惨めに暮らす〇円 ) だ。乳ガン治療で狭い場 苦しむ母と娘。誰もが日本と中ニョン、エレナ」で主人公の女人々と、海外に渡り、望郷の念所、薄暗い場所がだめになった 国、あるいは台湾の境界線上で性は、船乗りだった父親が世界に苦しみながら働く人々。こう彼女がものを捨てまくる経緯は 苦しんでいる。だからこそ麦生中の港で作ったかもしれない娘した離散の歴史は、強大な帝国、『捨てる女』にも出てきた。も の存在は貴重だ。日本人の彼は「エレナ」たちを思いながら暮元に朝鮮の貴族の女性が連れ去のを捨て、ついでに夫も捨てた 自分なりに中国語を覚え、縁珠らす。「息ーー悪夢、で主人公られていた昔から変わらない。彼女が次に捨てたのは東京であ と付き合い、彼女の母親の作っの双子の兄たちは、移住先のア「国外の者たちに踏みにじられ、る。「いつのまにか地方よりも 娘たちは外部から来た者たちに都会が、東京が、ディストピア たギョーザを美味そうに頬張メリカで韓国語を忘れていく。 る。「日本人のくせに、どうし「チョ・ドンオク、。ハピアンヌ」髪の毛をつかまれ、引きずられになってしまったのだと思う」 て中国語をしやべるの ? 」と縁の主人公の母親は離婚し、娘をるようにして連れていかれる」。という彼女は、希望の持てない 珠に問いかけられても、彼女と韓国に残してプラジルに渡る。そしてもちろんここには、一一〇都会を捨て、単身小豆島に移住 一ヶ月連絡が取れなくなってある日、主人公のもとに、ポル世紀前半の日本との不幸な関係する。そして地一兀の人々やャギ も、決して関係を絶とうとはしトガル語の手紙が届く。それはも含まれるだろう。「その日」に支えられた快適ライフを手に の主人公である総理は、人々を人れるのだ。島では季節と天気 ない。家族も含めた縁珠のすべ 思うあまり、自分の国を日本にと干潮時刻が何より大事、とい てを受けいれようとする麦生の 明け渡してしまう。こうした作うのがすごい今やインターネ 前に、縁珠も確実に変わってい 品が日本語で読めることの意義ットと»-200 があれば、日本中 麦生の不器用な優しさや、 どこにいても仕事ができること は大きい 縁珠の母親の明るさに、僕は微 『世界屠畜紀行』や『身体のいがよく分かる名著だ かだが確実な希望を感じた。 めったくたガイド 新 装、を 宮 紀

3. 本の雑誌 2016年12月号

が発見されるのである。ペティとして十年の懲役刑に服してお 文庫上下各九一一〇円 ) は、弱者テヘの攻撃手段がえげつなく、 たる子どもたちを襲う奇禍を劇サイコキラーを追うサスペンスンガーの受けるショックは多大り、盜んだ金の在処を一切吐い 的ストーリーで綴った作品だ。の枠を超えた、血と暴力と死とである。この衝撃は、警官殺していない。そんな彼が、刑期満 母親が殺され子が行方不明にが物語を覆い始める。そうなつが重なるたびに増大し、遂には了の出所前日に脱獄してしまっ た。刑務所仲間だったモスは何 なる事件がローマで起きた。失た中盤以降にこそ、本書の本領あんなことすら起きてしまう。 踪人捜索コンサルタントのダンがある。徐々に明かされる、イそれへの対抗手段もまた苛烈極者かにオーディを追えと命じら テは、以前ダンテ自身を誘拐しタリアという舞台に似合う ( 失まりない。波乱万丈な展開も含れて釈放される。一方、 長年監禁した《パ ードレ》の仕礼 ! ) 大規模な陰謀も、本書のめ、ダイナミズムが身上と思し捜査官デジレーは、状況に不審 なものを感じ、十年前の事件を い逸品である 業だと確信する。故あって彼と魅力の一つに数えておきたい。 最後にご紹介する、英国推理調べ直すことにしたが、その再 行動を共にする休職中の女性刑・クレイグ・ザラー『ノー 事コロンパは、当初彼を信じなス・ガンソン・ストリートの虐作家協会賞ゴールド・ダガー賞捜査には邪魔が人った。 かった。しかし状況証拠が次第殺』 ( 真崎義博訳 / ハヤカワ文受賞作の、マイケル・ロポサム権力者も関与する陰謀の存在 庫 Z> 一一一〇〇円 ) は、荒廃し『生か、死か』 ( 越前敏弥訳 / ハは最初から明らかである。しか に揃ってくる コロンパとダンテはいずれもた田舎町での連続警官殺人事件ャカワ・ミステリ一一〇〇〇円 ) しそれでもなお、釈放前日にオ 型破りであり、味方であるはずが、やがて主人公を中心としたもオススメだ。主人公オーディーディが脱獄した理由は、なか の警察や検察の組織力を当てに暴力の応酬に発展していく物語は、現金輸送車強盗殺人の共犯なか読めない。本書で暴力は、 時折かなり陰湿な行使のされ方 できない状況にある。孤立無援だ。ポイントは、主人公ペティ をする。ただ、暴力を積極的に ンガーが転勤したての刑事であ に陥ったコロン・ハとダンテは、 行使するのは悪役で、善玉はや 喧嘩しつつも協力し真相を追うることだ。当初の地一兀の同僚た むを得ず、といった区分がなさ と、ここまではよくある筋ちとの折り合いの悪さは、徐々 立てだ。よくないのは、犯人に解消に向かい、お互い仲間と 第れており、ある意味、安心して 読める。一一転三転する手に汗握 《。、ードレ》の悪逆非道ぶりで認め合いつつあった。その矢先 る追跡劇と意外な真相を、たっ ある。犯行や目的の凄惨さもさに、シリアルキラーものと見紛 ぶり味わってほしい。 ることながら、コロンパとダンうばかりの凄惨な、警官の死体 めったくたガイド 新 装丁・水戸部功

4. 本の雑誌 2016年12月号

やった剣士たちが次々に蘇って 『花宵道中』が人っていますが、青しかも後々のキャラクター これは風俗的なものも必要かなを決定してるんですよ。 と思って人れたんです。宮部み内そうそう。代表的なキャラ浜それ、歴史小説 ? ( 笑 ) 伝 ゆきの『孤宿の人』は唯一歴史クターを作っちゃってますから奇小説ですよね、完全に。 木下呂輝 ね。やつばり抜けた存在ですよ。青なんのために蘇ったかとい つぼいので入れてみました。 内そうですね。唯一歴史つば浜そして、ちょんまげの最後うと、明治政府を倒すため、日 本を江戸時代に戻すためなんで を飾るのが荒山徹 い加賀様だから。 青そう。これも歴史小説かと 言われると : 青『竜馬がゆく』も人れてな青はっきり言って『魔界転すよ。それを率いるのが山田一 風斎 ( 笑 ) 。しかも前編後編で、 内なんじゃこりやって感じだいんですけど、龍馬が主人公の生』の幕末版です。 話って人れづらいんですよね。内主人公の大半は幕末の剣士後編が十一一月刊だから、実はま から ( 笑 ) 。 たち だ前編しか読んでないんです 青荒山徹と張るくらい ( 笑 ) 。司馬遼太郎に負けちゃうから。 内天野純希も絶対人れたい。 浜やつばり司馬遼は強いです青登場人物がすごいんですよ。早く後編を読ませてくれつ いろいろなところを書ける人でよね。『燃えよ剣』『国盗り物語』よ。千葉周作、男谷精一郎、近て。とにかく電車の中で声だし 藤勇、伊庭、土方、沖田、大石て笑っちゃいましたから。 すよね。よくぞここに目をつけ『関ヶ原』・ たっていう地方のこととか 内司馬遼だけで年表埋まっち進、坂本龍馬、岡田以蔵、田中内電車で読むと危険な時代小 新兵衛。幕末の戦乱期に死んじ説 ( 笑 ) 。 青あと、幕末に宮木あや子のやいますもんね。 新聞社買収 & は 紙と〈ンの時ー 終わる ニ、ースの価値とは 装丁・関口信介 本城雅人 定価〕本体 1 、 600 円 ( 税別 ) ISBN 978 ー 466 ー 2203392 本は物人 第ス まと ロ ) よ 多に出会えない、 = 本城雅人 0 真骨頂た 子京 まさー 大火文 ⅱ都 同 0 「文字 0 印刷、」も他人事として講 = 、リ ) 一気読みでした 人間としてー . 熱い物い ~ ー》 0 、 0 店也香月・乙 読めないー ( 大垣書店イオンモー

5. 本の雑誌 2016年12月号

ことだ。愚直なまでに″青春〃を生き、 " 青 春〃のままに死んだ男たちである。あるい は " 青春。を追い続けた男たちであり、老 " 青春。を追い続けた男たち ミ、 いを拒否した男たちである。もしも歴史に 名を残さなければ、老成した男たちからは Ⅱ黒田信一 ・司馬遼太郎の浦冊 バカ者がと吐き捨てられ、女たちからはコ 培ってきた歴史観を縦横に語ってロングしかし司馬遼太郎作品の素晴しさは、地けっして美しくはない。美しくはない セラーとなっている歴史ェッセイ『この国の言葉で語られる、その歴史観にあるのでが、自由だ。自分を由とした男たちだ。青 のかたち』 ( 文春文庫 ) や『街道をゆく』 ( 朝はない ( それはそれで興味深くもあるのだ春である。そう。司馬遼太郎作品は、すべ 日文庫 ) などを読むと、司馬遼太郎というが ) 。歴史上の人物たちが織りなす波乱のてが男のための青春小説なのである。 作家がかって新聞記者であったということ人生模様を、飽かせることなく読み切らせたとえば新選組の土方歳三を主人公とし がよくわかる。とにかくこの国民的作家はてしまう抜群のエンターティンメント性にた傑作『燃えよ剣』 ( 新潮文庫他 ) には次 歴史観を語りたいヒトなのだ。いや。語りこそあるのだ。司馬遼太郎という作家の本のような一節が出てくる。新選組の先行き たいというよりも、解説したいヒトという領である。だからどの作品も悔しいほどにを不安視する沖田総司に向かって土方が諭 べきか 面白い飽きさせない。楽しませてくれす一節だ 数ある小説のなかでもその解説癖は止まる。さらに長編であればあるほど面白くな「どうなる、とは漢の思案ではない。婦女 らず、軽快に進んでいるはずの物語を突如るという日本人には稀有な作家でもある。子のいうことだ。おとことは、どうする、 中断して地の言葉を挟み込み、背景の時代もう一つの特徴がある。歴史小説家とい ということ以外に思案はないぞ」 分析や取材体験を語りだすのである。元新う肩書でだまされやすいが、また史観を語現代の婦女子のまえではけっして口にで 聞記者の癖である。司馬史観なるコトパがりたがる癖から勘違いされやすいのだが、 きない言葉だろう。女性蔑視だと叩かれる 生まれるワケである。そこに読者は踊らさ司馬遼太郎が作品で描き出しているのは歴だろう。では武士を主人公とした時代小説 れて、司馬遼太郎を作家というよりも歴史史でも事件でもなく、どの作品にあってもだから成り立つのかそうではあるまい 家とみなしてしまうのだ。 一貫して、男たちの " 青春。であるというこうありたいと思い続け貫き通した青春の 読み物作家ガイド おとこ 128

6. 本の雑誌 2016年12月号

装丁・片岡忠彦 館が事実上閉鎖され、慎がプル事があって会社を辞めて、横浜写は散見されて、その方面の筆 ガリアに異動になる辺りからはに引っ越してきたアラサー女子力も相当あると確信していたけ 一気呵成。全てをなげうつようの渡辺楓。そこで出会ったのはど、まさかここまでやるとは思 にして、大切な人と、その大切中学校の同級生なんだけど、たわなかった。『一〇一教室』 ( 河 出書房新社一六〇〇円 ) の舞台 な人の信頼を守り抜こうとするだの同級生ではなく、彼 彼らの命がけの姿に、何度も何月くんは、中学一一年の時に休みは、全寮制の中高一貫校。そこ 時間の教室で同級生の永森くんで生徒の体罰死が隠ぺいされた 度も目頭が熱くなる 物語が終盤に差し掛かる頃、を殺している : ・ : ・。少年院から e: その気配を嗅ぎ取った主人 思えば須賀しのぶは、何かを慎がふと漏らす。《国を愛する出た後、きっといろいろあった公が捜査のまねごとを開始する : といった滑り出しに、男 守るために闘う人々をこれまで心は、上から植えつけられるもんだろうけど、今は家具職人にが : 幾人も描いてきた。プライドだのでは断じてない。まして、他弟子人りして静かに黙々と修業子生徒と女子生徒の視点も挿人 ったり一途な気持ちだったり音国や他の民族への憎悪を糧に培をしている。そんな卯月くんにされて、例えば戸塚ョットスク 楽だったり信仰だったりと作品われるものであってはならな楓は、惹かれながらもあと一歩ールを彷彿とさせるような「し 彼女は悩む。つけと虐待のすり替え」が微に によって対象は様々なれど、実い》。この僅か百字足らずの文が踏み出せない。 / に多くの人物が大切なものを守章が、七十数年の時を越えて届殺したいと思っても殺さないの人り細に亘って描かれる。その るために懸命の闘争を繰り広げけられた重い重いメッセージでが普通だろう、と。今の卯月く怖いの怖くないのって、「身の てきた。そんな要素が集大成的あるように、僕には思えて仕方んは、やはり殺そうと思ったら毛もよだっ」という言葉そのま ま全身の毛が逆立つような体験 に結実したのが、『また、桜のがない。余談ながら、帚木蓬生殺せる人なんだろうか ? と。 の『ヒトラーの防具』を、久し終盤、彼ら一一人が真摯に考え抜を、読んだ誰もがするだろう。 国で』ではなかろうか 学園の狂気を暴き被害者の救 いて出す答えが胸を打つ。 序盤はヨーロツ。ハ近代史的な振りに読み返したくなった。 記述が多発して、僕のように予守ると言えば、こちらも大切最後は、似鳥鶏の意外な変助を目指すサスペンスとしてだ 備知識が無い人間は正直少々途なものを必死に守る物語。畑野身。終盤のぎりぎりまで、殆どけでなく、「その教育、本当に 惑うけれど、起承転結の転の部智美『罪のあとさき』 ( 双葉社イヤミス。『戦力外捜査官』の子供のためですか ? 」という憤 分、即ちワルシャワの日本大使一五〇〇円 ) の主人公は、揉め中にもかなりシリアスで重い描りの書としても圧巻である めったくたガイド 新 野饗災

7. 本の雑誌 2016年12月号

雄〇年前後からは浅田次郎、秋山香乃、木『夢の燈影』には「新選組無名録」という 潭内昇らが新しい新選組小説を次々と上サプタイトルが書かれているが、主人公に 泉 梓。大河ドラマの人気がそれを後押ししなるのは井上源三郎、蟻通勘吾、近藤 ( 谷 ) 周平、酒井兵庫、山崎丞、中島登と、ファ 装て一大ブームとなった。 そして池田屋事件から一五〇年後 ( 『血ンには馴染みのある名前ばかり。一方、 組 風録』から五〇年後と言ってもいい ) の『新選組颯爽録』は、安富才助、芹沢鴨、 一一〇一四年を機に、新選組小説には新た村山謙吉、土方歳三、尾形俊太郎、そして 情 な書き手たちが気炎を上げて参人してき沖田総司というラインナップである ガ新事子 た。司馬遼太郎以降に進んだ歴史研究やこの一一冊は『血風録』と併せ三冊での読 史料を踏まえた分析と、かっオリジナリみ比べをお勧めしたい。 : 新説博 ・鈴木久美ティに溢れた魅力的な作品群である。 たとえば『血風録』の「長州の間者」と『燈 史 ということでここでは、二〇一四年以影』の「夢告げ」、『颯爽録』の「密偵の天 降に出版された最新の新選組小説に絞っ才」はいずれも間者がモチーフとなってい て紹介しよう。 る。しかしその描き方はまったく異なる。 いつまでも司馬遼太郎じゃないのだ。 確かに『新選組血風録』と『燃えよ剣』まずは短編集から。注目は小松エメルあるいは『血風録』の「池田屋異聞」と が小説やドラマにおける新選組プームを作『夢の燈影』 ( 講談社文庫 ) と門井慶喜『新『燈影』の「家路」は、どちらも山崎丞の り出した金字塔なのは間違いない。だが、選組颯爽録』 ( 光文社 ) の二冊だ。どちら物語だ。けれど「池田屋異聞」は山崎の働 どちらも出版は一九六四年。池田屋事件かも一編ごとに特定の隊士を主人公にし、そきで池田屋事件が成功裏に終わったとされ らちょうど一〇〇年後というメモリアルイの隊士のエピソードや内面を描いている。ているのに対し、「家路」では事前に池田 ャーではあるが、今から見ればもう五十一一その背景には新選組がくぐってきた様々な屋を見つけ出せなかった山崎の焦燥が描か 年前、前回の東京五輪の年である。 歴史的事件が登場し、一冊を通読することれる。実際には、新選組が二手に分かれて なのにいまだに、新選組といえば血風録で新選組通史にもなっているという趣向茶屋を一軒一軒回り、その過程で近藤隊が が引き合いに出される。ちっちっちつ、とだ。これは司馬の『血風録』と同じゃり方池田屋に〈当たった〉のだから、司馬作品 んでもない、時は流れているのだ。二〇〇と言っていし は完全なフィクションであることは今読め 新 選 、新選爽録 小松エメル 組

8. 本の雑誌 2016年12月号

横溝賞受賞作家きっての実力目を惹いたのは、乳房に残されしいサイコパスーー安藤達也を夜の森を進む、対人恐怖症の 派である伊岡瞬が、渾身の捜査た奇妙な傷だった。その位置とも凌駕する恐ろしさ ! デビュフリーターである内山賢史と利 小説を完成させたぞ。 形は、まるで亡き妻にあった赤ー作『いっか、虹の向こうへ』発な妹の智。色鯉が泳ぐ大きな 十一月二十二日発売予定『痣』い痣を模したようではないか。 から、定番的なガジェットを駆屋敷の池に、いままさに電流を ( 徳間書店 ) の主人公は、南青妻を手にかけた犯人は死んだは使し、血の通った物語の創造を流そうとするホームレス便利屋 梅警察署奥多摩分署の刑事ーーずだ。では、いったい誰がこん得意としてきた著者。その本領の大洞。場末の屋内釣り堀「カ 真壁。身重の妻を喪い、ここ奥なことを・ : ・ : ? が充分に発揮された、読み応えープ・キャッチャー」でパイト 多摩に異動となったが、妻の命連続する冷凍死体遺棄事件、満点の作品である。 する大洞の娘と、そこで″神〃 日と同じ八月末日で職を辞すこ真壁を挑発するように被害者た十一月十八日発売予定、道尾と呼ばれる凄腕釣り師のヨネト とを決意。退職まで残り二週ちに刻まれた妻と同じ " 印気秀介の書き下ろし長編『サーモモ。四十五年前の少女時代、 署に足を運ぶのは今日で最ある事件の捜査中に行方をくらン・キャッチャー the Novel 』 " 一瞬の奇跡。を目撃した市子。 後ーーという日に、管内で女性ませた分署長の息子、三人の若 ( 光文社 ) は、ケラリーノ・サ一見、とくに強い結びつきのな の全裸遺体が発見される。現場者らが犯した過去の凶行。こうンドロヴィッチとともにコンセさそうな登場人物たちが、読み に向かうと、遺体は一度冷凍さした糸が一一重三重に絡み合う難プトを練り、それぞれが「 the 手の想像を易々と飛び越え、笑 れており、局部にシャワーヘッ事件に挑む真壁の前に、ついに Novel 」、「 the Movie 」として 驚き、仰け反るようなエピ ドが差し込まれた無惨なものだ姿を現す真犯人は、『代償』で創り上げるコラボ企画の小説版ソードを経て、みるみるクライ った。しかし、なにより真壁の主人公を苦しめ続けたあの憎々 ( 映画化企画は進行中 ) 。 マックスに向けて収斂していく 手並みは見事というしかない。 キャラクターたちを温かく祝倡 宇田川拓也 するような道尾作品屈指のきら びやかで美しい終盤のシーン、 伊岡瞬渾身の捜査小説 そして思わず顔がほころんでし まうラストが、ページを閉じた 『痣』がいいぞー あとも気持ちよく心に残る。 ミステリー 春夏冬中 ( あきないちゅう ) 伊岡 丁 多 田 和 博 笊 .1 Shun

9. 本の雑誌 2016年12月号

記者として勤めた江宮隆之氏の 著作『白磁の人』はベストセラ ーになり、映画化もされまし た。日韓関係のはかばかしくな い今、浅川巧の存在はもっと見 直されていいと思っています。 ( 田ヶ谷雅夫・週 1 時間だけの 大学非常勤講師歳・甲州市 ) 『高山盆地』 野口勇 原生林 昭和 6 年、朝鮮で歳で病没。棺を奪い合うように担ったそう☆飛騨地方の歴史を彩ってきた ばっか 『白磁の人』 短い生涯ながら、彼は朝鮮の国です。京城市郊外にある浅川の杣人・歩荷・真宗門人の三人が 江宮隆之 河出文庫 土と人々を心から愛し、朝鮮の墓碑は、韓国の皆さんの心づく主人公として登場する短編集で ☆日本銀行が今年実施した金融白磁の素朴な陶芸美を初めて発 す。①高山盆地②飛騨鰤③奔 郎流。 調査によると、わが山梨県は見・紹介し、また京城の林業試館 , 「 「期日に遅れずに支払いをする験場に勤務して朝鮮の禿げ山の 橋①は戦前の鉄道に敷く枕木を 人」の割合が全国最低だそうで緑化に大きく貢献した人でした。 切り出す杣人の話②は越中から す。情けないー 信州へ鰤を運んだ歩荷の話③は 浅川は日本人ながら朝鮮語を磁の しかし、人口わずか万人の上手に話し、いつも白い朝鮮服 戦国時代飛騨の統治をめざす大 当県には、実は武田信玄よりもを着て、当時の日本人の朝鮮人しで今も大切に保全され、本当名たちの白川郷をめぐる話。そ っとすごい人が結構いたので差別・軽蔑に無言の抗議を続けの日韓友好とは何かを無一言で物れぞれに方言が使われており今 す。例えば、浅川巧さん。明治ました。彼の葬式には沢山の朝語っているかのようです。 となっては地元でもめったに聞 年に現在の北杜市に生まれ、鮮人が参集し、泣きながら彼の地元の山梨日日新聞社に長くかれなくなった耳になっかしい ・読者アンケート わが地元の歴史本 ! 、 ☆続いては本誌読者がすすめる地元の歴史 本。日野のヒーロー小説からお接待の歴史本 まで、各地を代表する歴史本を見てくれい !

10. 本の雑誌 2016年12月号

日本とその外の境界はどこに いるお家に行かせてください」 いる中国語と台湾語と日本語がも奇妙なほど丁寧に明瞭に話 あるのか。日本とはそもそも自と訴える。しかも台湾人である混ざった言語は何語でもないのす。そして標準語である北京方 明な存在なのか。温又柔『来福主人公、縁珠の前で高らかに宣か、と。だが縁珠の心の動きに言のみを正しいと決め付け、中 の家』 ( 白水″ブックス一四〇言するのゼ。「最初のスティ先吉川は気づかない。 , 彼女の無神国語の他のあり方を許容せず、 〇円 ) を読むと、日本語話者での中国人たちの訛りときたら、経さは、日本人やアメリカ人が縁珠の反り舌音は弱すぎる、と ある我々はこの問いを喉元に突本当にひどかった : : : あんなそれぞれの言語を所有している指摘するのだ。日本人がネイテ きつけられる。二〇一一年に刊の、英語じゃない」。 のは当たり前、という信念からイヴの発音をためらいもなく正 行され、しばらくは人手困難に もちろん吉川の考え方は、日来るものだ。しかしながら移民す滑稽さよ。ここには相手から なっていた名作が、星野智幸の本では至って普通のものだ。おの国アメリカでは、むしろ様々学ぼうという謙虚さはない。ま 解説が付いた形で復刊されたのそらく彼女には、自分が人種差に訛った英語のほうが当たり前してや大林は、複数の言語の混 はめでたい。なにしろ本書の扱別をしている、なんて意識はなだし、普通のアメリカ人なんて在など受け人れるはずもない っている主題は現代日本を深くいだろう。けれどもその一一一一口葉をどこにもいない。 幼稚園時代に台湾から日本に えぐっているのだから。 聞いた縁珠は追い詰められてしそうした考え方を持つもう一移住し、初めて覚えた文字も日 収録された中編「好去好来歌」まう。自分は普通の存在ではな人が、大学の中国語の教師、大本語である縁珠は、知らず知ら で対立しているのは、日本や中いのか、そして家で親が話して林である。彼は日本語も中国語ずのうちにこうした日本人の思 国といった均一な存在を自明視 志考法を内面化してしまう。そし 来福の - 第 する思考法と、それらは様々に めったくた 第真て親を否定し、自分を切り刻む ガイド 人り交じるものだという思考法 片のだ。友達の前で親が話すのを 家 である。均一的な思考法を持っ 、光恥じ、ついには母親に「わたし 福 た人物とは、たとえばサンフラ と大事な話がしたいのなら、ち 来 中 都甲幸治 ンシスコにホームスティに行っ 田ゃんと日本語で話してよ ! 」と た吉川舞だ。彼女は最初、中国 まで叫んでしまう。だからこそ 鋭い問いを突きつける 人家庭にスティすることになる 母親の言葉は悲しい。「ママふ 品又柔『来福の家 のだが「ふつうのアメリカ人の、冫 つうじゃない、ごめんね。おば 新